セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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退部の理由

 

 

「……で?」

 

インドはムンバイから越境鍵で日本に帰ってきた直後。今私はフローリングの床に正座させられています。最近は何だかお決まりになりそうなこの光景。つまりはまぁ、ユエ達から詰められています。何を?決まっている。何の相談も無しにカーバンクルを仲間に引き入れたこと……と言うより明らかにカーバンクルから好意を寄せられている状況を作ったことをだ。

 

ちなみに当の本人はルシフェリアとエンディミラ、ジャンヌに連れられて洋服を買いに行った。そこにテテティとレテティもくっ付いている様子。しかもどうやらルシフェリアもお洒落というのに興味があるらしい。最初の頃はあの黒い衣装に拘ってたのにね。まぁいいけど。

 

「……シャーロックからの依頼はカーバンクルの無効化だったんだよ。だけどアイツは俺との戦闘を警戒して大人の身体に戻ってた。だからそのままだとシャーロックからの依頼を完遂できずに報酬を全部貰えない可能性があった」

 

「はぁ……。それで、カーバンクルを味方につけてシャーロックからの依頼を完璧以上の成果にして報酬を全て引き出した、というわけじゃな?」

 

俺の言葉を聞いて最後まで察してくれたのはティオ。俺はその言葉に「うんうん」と頷く。まったくもってその通り。俺には下心なんて微塵もないんだよ、という意思を示すのだった。

 

「ま、天人さんの女癖の悪さは今に始まったことじゃないですぅ。そもそも、ここにいる私達皆それで引っ掛かったようなものですからね」

 

「うぅ……」

 

俺はそんなシアの言葉に対して唸ることしかできない。リサ、ユエ、シア、ティオ、レミアの視線が俺の丸まった背中に集まっている。幸いなことにミュウはまだ幼稚園から帰ってきていない。

 

「……天人」

 

「はい……」

 

「……天人が女の子にモテるのはもう仕方がない。けど、私達の知らないところで新しい女と仲良くなるのは……ちょっと辛い」

 

「ゴメン……」

 

俺はユエ達にそうやって謝ることしかできない。俺の本心や狙いが何だろうと、事実として俺はカーバンクル──彼女達の知らない女の子──に彼女達の与り知らぬところで、好意を寄せられたのだから。しかもちょっとした偶然を大きく解釈されてとか、仕事で助けた子から一方的に、とかではない。

 

確かに、カーバンクルをもっと完膚無きまでに叩き潰して屈服させるやり方も出来ないではなかったのだから。

 

だけど俺はそれを選ばなかった。その方法が趣味ではなかったというのもあるし、そうしなくても解決できる可能性が高かったというのもある。もっとも、全ては言い訳でしかないのだけれど。

 

「……それで、どうするの?」

 

と、ユエが俺の前に腰を下ろしてそう尋ねる。俺は「んー」と1つ頭を捻ってから

 

「……取り敢えず、香織達の方をアイツが手伝うかは知らんけど、あっちが終わったらネモ達に預かってもらおうかなぁ」

 

ウチに置いておいたら大変なことになりそうだ。あの子、もう俺と番うだの何だのと言っているし、ホントどーしよ……。

 

「それであの子が素直に行くとは思えないですぅ」

 

「妾もそう思うぞ、シアよ」

 

「……んっ」

 

と、ユエ達からは否定的な声が。リサとレミアも「うんうん」と2人して頷いているし。とは言えこの家にはもう部屋は無いのである。カーバンクルがどう考えているにしろ、こっちの部屋に住んでもらうのは難しいし、レミア達の部屋だってもう空きは無いはずだ。レクテイアの神だったのならノーチラスでも歓迎されるだろうし、どうにか言いくるめないと……。

 

「……でも、天人だって分かってるでしょ?」

 

何を、というのをユエは言わなかったが俺にはそれで充分に伝わった。だから俺は「うん」と頷き、ユエの頭を撫でる。俺の手が触れるだけでユエの髪の毛からフワリと漂う甘い香りに俺は何故だか涙が出そうになった。だけどそれをグッと堪えてユエの額にキスを1つ落として立ち上がる。

 

「それでは夕ご飯の支度を始めますね」

 

「私も、そろそろミュウを迎えに行ってきます」

 

すると、それを合図にリサとレミアがそれぞれ立ち上がったので

 

「んっ、俺も行くよ」

 

と、外の空気を吸いに出るのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

市民体育館での騒動から数日後の放課後。俺は香織達の学校の武道場に来ていた。そう、雫と不動明──あの背の高い剣道少女の名前らしい──の決闘を見届けなくてはならないからだ。

 

で、俺は雫の他に数名残っていた剣道部員達と駄弁りながら不動を待っていた。他の子達は香織達と遊びに行ってる。どうやら誰も決闘に興味が無いらしい。

 

それを知った雫はちょっと落ち込んでいたけれど、今は黙って正座して精神を集中させている。そんな奴の後ろで無駄話もどうかと思うが俺も正直この時間は暇なので仕方ない。

 

「マジで!?そんな先生ありなの?」

 

「俺んとこじゃ結構普通だよ。前にプールの授業やった時なんて───」

 

みたいな、武偵高の話を少しオブラートに包んで話してやると割とこれがウケた。流石に社会の先生(綴梅子)が年中違法っぽい葉巻咥えてラリってるとかはまだ言えないけど。

 

と、そんな風に雑談に花を咲かせていると、武道場の入口に人の気配。どうやら不動明が来たようだ。

 

ガラリと横開きの扉を丁寧に開けて入ってきたのは上背が日本の女子高生の平均を優に越える180センチオーバーの超高身長に、武偵高の男子にも中々いないくらいに隆起した筋肉。あの歳でこれだけの筋肉をつけるには、当然血の滲む様な努力と、それなり以上に体質という才能にも恵まれていないとあぁはならないだろう。文字通りのフィジカルエリートでもある不動は、その瞳に強い敵意を漲らせながら俺達の前に現れた。

 

「……あぁ、この決闘、周りには言うなよ?」

 

と、俺は一応この戦いを見物に来ている他の部員に伝えておく。

 

「言いふらす気はないけど……なんで?」

 

んー、やっぱ決闘罪なんて知らないよね……。

 

「決闘ってのは本当は犯罪なんだよ。ドロボーとかと同じで、バレたら逮捕される。ちなみに見てるだけの俺達も同罪だからな。自分のためにも黙ってた方がいいぞ」

 

武偵高は教師も生徒も全員頭のネジか外れているから、身内で決闘しようがそんな話にはならないけれど、コイツらはそうもいかないだろう。だから念の為釘を刺しておこうと思ったのだが、それで正解だったみたいだ。

 

そんな俺の言葉で他の奴らはシンと静まり返った。その間にも2人の準備は進み、もう雫と不動は道場の真ん中で向かい合っている。そして、審判を務める生徒の「始め」の声と共に、この……何を決めるのかよく分からない決闘が始まった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

竹刀のぶつかり合う音が道場に響いている。だがいくら不動の実力が高校生の範疇に収まらないものだったとしても、雫の体力はもはや人の領域を越えている。おそらく単純な技術だけでも雫がやや優勢。その上膂力やスタミナはトータスに飛ばされた際に身に余る程のそれを与えられた。しかも反射神経、動体視力なんかも命の取り合いの中で磨かれたのだ。ただの人間(不動)相手に遅れを取ることなんて有り得ない。

 

そして実際に、数合打ち合った後に、不動にできた一瞬の隙を突いて雫は一本を獲得。そして始まった2本目も、同じように面取り一本で終わり。圧倒的なまでに、そして当たり前のように雫の勝ちだった。

 

けれど───

 

「はぁ……」

 

けれどそれには何の意味も無い。何やら雫は不動に声を掛けている。自分が剣道部を辞めたのはあまりに隔絶した実力差からで、自分の剣とあなた達の剣はもう方向性が違うのだと。だが不動はそんなことでは納得しない。当たり前だ、ただ実力が隔絶したところを見せつけられた程度では、自分らでは相手にならないから辞めたのだとしか思われないだろう。

 

前に大会会場で絡まれた時に俺は雫の彼氏じゃないと説明し、それには納得してもらえたが、どうやらまだ不動は雫が剣道を辞めたのは男絡みだという疑いを捨てきれていないらしい。

 

その上、美人でスタイルも良くて剣道も強くて俺ではないにしても彼氏もいるっぽい──と、勘違いしている──雫に自分の何が分かるのかと、ほぼ癇癪のような嫉妬をぶつけられている。

 

まぁ、ここまできて今だに誤解を拗らせているのは雫の対応が中途半端に優しいからなのだが、いい加減面倒だな。ここで変な方向に走られて後々雫に面倒がいき、そしてその責任を香織から俺におっ被せられてもダルい。ここは俺が全部分からせてやるか……。

 

 

───バシィィィィン!!

 

 

と、俺はそこら辺にあった竹刀で床を叩き、全員の意識をこちらに向かせた。

 

「天人……?」

 

その音に驚いた雫がこちらを見やる。だが俺はそれを無視して竹刀で不動を指す。

 

「雫、お前が半端するからこうなるんだ。……そこの……不動だっけ?雫が剣道部を辞めた理由は俺が分からせてやる。防具付けて構えろ」

 

俺は雫の制止の声を振り払って男子部員から防具を借り、それを着る。そうして不動の前に立ち───

 

「来いよ、俺だって剣道は触ったことあるからな。気にせず打ち込め」

 

チョイチョイ、と、左手で不動を挑発。不動も、俺の雰囲気で多少はやる気になったのか、相変わらず地声とギャップのある叫び声と共に俺に向かって竹刀を打ち込んできた。

 

だがそんなものが俺に避けられない筈もなく、俺は打ち込まれる竹刀をヒラリヒラリと躱していく。そうしていくうちに焦れて不動が大振りになった瞬間、俺は竹刀を振り上げて不動の竹刀を弾き飛ばす。そして身体を右に捻り、1歩踏み込んでただ力任せに突きを繰り出した。

 

何の技術も魔法も無いただの突き。けれど魔物を喰らって人の領域から外れた俺の膂力で突かれた不動は、叫び声を上げる間もなく真後ろに吹っ飛び、5メートルは空を飛んでから床をゴロゴロと転がった。

 

シーンと静まり返る道場にペタペタと不動へ歩み寄る俺の足音だけが嫌に響いている。そして倒れたまま呻いている不動の面を剥ぐようにして取り上げた俺は、自分も面を脱ぎ捨て不動の胴の防具を掴み、無理矢理に視線を合わせた。

 

「これくらいのことは雫にも出来るけどな。お前ん指摘通りだよ不動。雫が剣道部を辞めた理由は強すぎるからだ。……こんな、技術も何もなくてもたったの1振りで防具を着た人間が空を舞うんだ。まともな試合になるわきゃねぇよ」

 

「うっ……」

 

痛みか俺の言葉に対してなのか、呻く不動に俺は更に言葉を重ねる。

 

「お前もニュースくらいは見てんだろ?雫達が一時期消えた話は知ってるだろうが、ありゃあ真実だぜ。実際にアイツらは異世界に飛ばされて、そして戦争の手伝いなんてもんをやらされた。しかもそこで手に入れた力は今後一生、他の奴らと混ざってスポーツなんてやっちゃあ駄目なくらいの力だ」

 

後ろを振り返れば雫が近くに寄ってきて、ただ申し訳なさそうに頷く。その背中の向こうでは他の剣道部員達がバツの悪そうな顔をしてこちらを見ていたり俯いていたり。きっと彼らも雫の剣道部への復帰を大なり小なり望んでいたのだろう。

 

言葉の上では雫の言い分を聞いて納得をしたのかもしれないが、個人の部はともかく団体戦では確実に1勝を持って帰れる雫の力は欲しかったはずだからな。さもありなんってやつだ。

 

「だから雫は剣道部を辞めたんだ。お前らただの人間程度じゃ試合にならねぇからな。けどコイツは今でもお前や他の選手、それに剣道そのものもちゃんと大好きだし尊敬もしてるよ。だからこそ、望んで身に付けた訳でもないけど力でお前らや剣道を汚さねぇように部活を離れたんだ」

 

そこまで語った俺は「あぁそれと」と呟くと不動の耳元に口を寄せて───

 

「……雫にゃ彼氏はいねぇぜ。何せ前に俺に振られたからな。今アイツぁ失恋真っ只中の傷心中だよ」

 

「余計なことは言わなくていいのよ!」

 

と、こっそりと雫の秘密を教えてやったのだが、それは聞こえていたらしい雫にバチンと竹刀で頭を叩かれた。だがそれがより一層俺の言葉に真実味を与えたようだ。不動は雫を見てフッと笑うと

 

「貴女にも手に入らないものがあったのね」

 

なんて宣うのだった。それに雫が何かを言う前に

 

「あぁそうだ。不動お前、ちょっと制服持って来い」

 

俺はふと思い付いたそれを形にすべく不動に制服を持ってこさせた。その間に俺は羅針盤で座標を特定しつつ越境鍵を取り出し、体内の星の力も動員して魔力を注ぐ。扉を開いた先には羅針盤の導き通りにリサがいて、こちらをキョトンと可愛らしく見つめていた。

 

「リサ、エンディミラいる?」

 

「はい。いますよ」

 

「んじゃあちょっとコイツをお洒落にしてやってくれ」

 

と、俺は不動を引っ掴んでリサの方へと引き渡す。不動は唐突に、かつ自然に行われる異世界転移にもはや戸惑うことすら忘れている。

 

「はい。ご主人様のご命令とあらば」

 

で、リサはリサでまるで"ちょっと荷物預かって"とでも言われたかのような気安さでそれを受け入れている。それが余計に周りからの声を奪っていた。

 

「じゃあここ開けっ放しにしておくから出来たらそいつこっちに渡らせて」

 

「はい。分かりました」

 

お行儀良く一礼したリサが不動を連れて去り、道場には静寂だけが残された。そして、それを破ることが出来たのは雫だけだった。

 

「えと、今のがリサさんなのね?」

 

「おう」

 

「それで、エンディミラさん?というのは……?」

 

「俺ん嫁」

 

「……何人目の?」

 

「7人目。エンディミラが1番最後に家族になった」

 

テテティとレテティも同時に家族になったけどあの2人は嫁ではなく義理の妹か娘って感じだ。

 

「つまり、天人は私とリリィを振った後に2,3人も手篭めにしたということ……」

 

「手篭めって人聞きの悪い……。あ、レミアも当然いるよ」

 

「あっそう……」

 

何やら雫の雰囲気が重い。まぁ、自分を振ったハーレム男が後で更にそのハーレムを増やしているのだと知ったのだから仕方ないのかもだ。バカ正直に答えた俺が悪いんだろうし。

 

そして、それっきり雫が黙り込んでしまい、他の奴らも何かを喋る雰囲気ではないのでただ静寂がこの場を支配していた。とは言えリサ達が戻ってくるまであと30分はあるだろうし、それまで黙りってのも暇なので、俺はまた武偵高の先生達の話をしてやることにした。

 

そうして少しすると今度は道場の入口からとある人物達が現れた。

 

「あ、いましたいました。天人さん、雫さん」

 

「……んっ、大丈夫?」

 

「天人くんは何も問題起こしてないよね?」

 

シアと、それからユエだ。それに加え、ユエの頭の上から香織も顔を出してきた。どうやら遊びから帰ってきたらしい。あと香織は俺のことを何だと思っているのだろうか。人を問題製造マシーンの様に言うのは止めていただきたい。

 

急に現れた学年のマドンナと見たこともないような美少女2人、それも金髪紅瞳の女の子と青みがかった白髪の、明らかに日本人ではない2人を見てユエ達を知らない奴らがざわめく。しかし雫はそれを無視して

 

「ユエ、シア、香織も。えぇ、私は大丈夫よ。て言うか、誰も怪我なんてしていないわ」

 

そう告げた。しかし雫さんや、俺も何も問題は起こしてないですよ?そこもちゃんと否定しておいてくださいな。

 

という俺の儚き想いは言わないと届かないので

 

「待て香織。俺ぁ何もやらかしてねぇぞ」

 

と、キチンと言葉にして伝えておく。やはり言わなくても伝わるなんてことは世の中にはほとんどなくて、こうやってしっかりと口にして言葉を交わさなければな。

 

「へぇ。……その扉は?」

 

が、俺が異世界への扉を開いているのを目敏く───いや、ここまで大々的に開いていれば嫌でも目に入るのだが、それを見て「おら、正直に言えや」という雰囲気で俺を問い詰めてくる。

 

「んー?いやちょっと向こうでお洒落教室が開かれてる」

 

と、正直に白状することにした。

 

「何の話……?」

 

が、香織さんは俺の言うことを信用してくれていないので雫に確認がいく。すると雫は1つ溜息を付いて

 

「天人は私を振ったクセに向こうでまた女の子を誑かしていたって話よ」

 

「はぁ!?───ちょっと天人くん!!ルシフェリアとカーバンクルだけじゃなくて他にも女の子誑かしてたの!?」

 

おや?雫が随分な濡れ衣……いや、言い方が悪いだけで嘘ではない爆弾を香織にぶん投げたのだが、香織が微妙に変な誤解をしている。……しかし思い返してみると香織はジャンヌとは面識がなかったかもしれない。

 

「いや待て香織。6人目の嫁はルシフェリアじゃねぇしルシフェリアがもし「我は主様の花嫁じゃ!」とか言ってたとしても、それはアイツが勝手に言っているだけであってそんな事実はない。カーバンクルも同じく、だ」

 

て言うかルシフェリアとカーバンクルだけじゃなくてユエ達も香織の家にいたんだから、ルシフェリアの話くらいはしていると思ったんだけどな。

 

「その話は知ってるけど、天人くんがうんと言ってないだけでルシフェリアを誑かしたのは事実だよね?」

 

「誑かしてねぇわ!……て言うか、ルシフェリアはどうした?」

 

まさかあの子をこの別世界の日本に1人で放り出してはないだろうな……?ちなみにカーバンクルは今は俺達の世界の方にいるはずだ。こっちの文明を見て回りたいとかで、香織と顔合わせだけした後は時折エンディミラと一緒に出掛けている。

 

「なんか優花ちゃんの家に興味あるみたいだから送ってきたよ?」

 

一瞬恐怖で背筋が凍ったが今度は疑問符が浮かぶ。

 

「優……誰だっけ」

 

「あ、ひっどーい。園部優花ちゃんだよ?愛ちゃん先生と一緒にウルの町でも再開したんじゃないの?」

 

「あぁ……園部か。……んで、アイツの家って何かあんの?」

 

正直全員のフルネームまでは覚え切れていないかった。オルクス大迷宮の底に落ちてからはそこまでの興味も無くしていたからな。

 

しかしまさか園部さん家も忍者屋敷なのだろうか。いや、でもルシフェリアは忍者とかそんなに興味無さそうだけどな。て言うかルシフェリアってばもう他の帰還者達とも知り合いになってるのか。しかも家に行く程に仲が良いって……俺より余程コミュ力あるな。悪魔なのに。

 

「優花ちゃん家ってレストランって言うか喫茶店?みたいなのやってるんだよ。ルシフェリアはそれ聞いて「花嫁修業じゃ!主様の胃袋を掴むんじゃあ!」とか言ってた」

 

なるほど、後が面倒くさそうだけど一応それなりに普通の理由だったな。ま、ルシフェリアは一応料理の基礎は出来ているし、園部の家に迷惑でさえなければいいだろうか。

 

「ユエー?自分のメイドはちゃんと自分で迎えに行ってやれよー?」

 

「……んっ、仕方ない」

 

ユエもルシフェリアを自分のメイドとして取り立てた責任は感じているらしく、渋々といった体ではあるが迎えも頷いた。

 

するとユエは俺を座らせると、胡座をかいた俺の脚の間にお決まりのように座り込む。俺も座布団を宝物庫から取り出して尻に敷き直す。それを見てシアと香織もそれぞれ自分の宝物庫から座布団やクッションを取り出して武道場の硬い床の上に座り込んだ。

 

それを合図に俺達は決闘前の勝手気ままなお喋りを再開するのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「……終わったか」

 

気配感知で扉の向こうから人の気配。リサとエンディミラ、それから不動のものだ。どうやらお化粧は終わったらしい。

 

すると、扉の向こうから人影が現れた。不動のものと、その後ろからリサとエンディミラがやって来たのだ。俺は後ろの2人に「終わったー?」と声を掛ける。するとリサからは「はい」と、エンディミラからは「えぇ」と返事が返ってくる。

 

「……おぉ」

 

そして扉からこちらへ渡ってきたのはセーラー服を来た女の子。いやまぁ不動なんだけど。相変わらず筋肉質だがさっきまでと違って脚には黒いタイツを纏っている。首元にはマフラーを巻いていて、微妙に季節感を外しているようにも思えるが、ただ何となくリサ達の意図は分かった。

 

不動のアゴは割れていたのだが、それをまず隠そうということだろう。同時に少し伏し目がちにさせることで厚ぼったかった唇もうまく隠せている。タイツも、筋肉質な下半身を覆うためのもので、スカートの丈も長く調節されている。

 

あまり手入れされていなかった眉毛も剃られてほっそりしており、そんなに長くはなかった髪の毛も短いなりに手を入れてもらったみたいだ。

 

そもそもこういう格好に不慣れらしい不動が恥ずかしげにしていて、ここに乗り込んできた時や試合中のような気迫が見られないこともあってか今の彼女を見ても誰もビビったりはしていない。

 

「女は正しく見繕えば誰でも美しくなる、だっけ」

 

「はい。それに、明は元々肌も綺麗でしたから化粧乗りも良かったです。あとは手入れの行き届いていなかった箇所を整えてやればいいのです」

 

「それから不動様、これを」

 

と、リサから不動へ、何やらメモ帳が1冊手渡された。

 

「化粧用具や使い方、お化粧のやり方などを簡単に記しておきました。宜しければご参考にしてください」

 

「えぇ、ありがとう」

 

リサからそれを受け取った不動がこちらを向く。そして座ったままの俺を高い位置から見下ろした不動が口を開いた。

 

「神代くん、ありがとう。こんな風にお洒落したのは生まれて初めてだわ。けど、思ってたより気分の良いものね」

 

その時の不動の笑顔は俺がこれまで見た彼女の表情のどれよりも輝いていて、やはり女の子は笑った顔が1番だなぁと思わせられる。

 

「そうけ。そりゃ良かった。……じゃあ雫、俺ぁまた坂上の家か南雲くん家にお世話になるよ」

 

俺はユエを抱き上げながら立ち上がり、座布団を宝物庫に仕舞い込む。

 

「あ、そういや不動。そのアゴ、割れてんのどうにかしたけりゃやってやるぞ?今ならサービスで1回無料だ」

 

俺の変成魔法なら割れたアゴの形をどうにかするくらいは朝飯前だ。メヌエットの脚と違ってコチラは神経に対してもそれほど手を加える必要は無いからな。

 

不動も、俺達が物理法則を越えた何らかの力を持っているのはこの異世界転移や何の気なしに消えた座布団を見て理解させられているのだろう。ここにきて「どうやって?」なんて疑問は浮かんでいないようだった。

 

「そうね……。折角だけど大丈夫よ。私は私らしくあるだけでもこれだけ変われるのだと分かったから」

 

「そうけ。ま、知り合い記念にそれをどうにかするだけだったらいつでも無料(ロハ)でやってやるから、気になったらそこの雫にでも言ってくれ」

 

つい、と雫を指せば雫は雫でびっくり仰天している。だけどまさか不動だって知り合いですらない香織には伝え辛いだろうし、適任なのは雫だろう。

 

「あら、気前が良いのね。ありがとう。その時は頼ませてもらうわ」

 

と、相変わらずの可愛らしい声で不動はそうお礼とお辞儀をするのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「それで?保安局はミステリーツアー専門の旅行代理店ではないのだけれど」

 

ある日、俺はイギリスの保安局局長の部屋を訪れていた。もちろん1人ではない、横にはシアがいて、興味深そうに辺りを見渡している。

 

しかしちょっとテンション高そうなシアと違って目の前のマグダネス局長は具合が悪そうだ。こめかみに指を当て、片肘を付いて俺をジト目で睨んでいる。

 

「えぇ〜?この国にだって諜報機関の1つや2つあるでしょう?」

 

「勿論ありますとも。諜報機関も防諜機関も。もっとも?魔王様達の想像しているようなスパイ合戦なんてものはもうそんなに盛んではなくてよ?」

 

「いやいや、そんなの期待してませんて。民主主義の先進国を相手にするなら敵対より仲良くした方が商売になるでしょうから」

 

俺達は今、この人に「どっかの国で人里隠れてウサミミが生活するのにちょうど良さげな隠れ里みたいなのはありませんか?」と聞きに来ていたのだ。ついでに「出来れば即日内見がしたいです」とも伝えている。しかしその質問はどうやらこの鉄の女のお気に召さなかったようだ。

 

「……1箇所、"魔女の森"と呼ばれている森ならこの国にありますが、あまり住み心地の良い所とは聞いていませんね」

 

魔女の森……ねぇ。俺としては本当の魔女を知っているし大して怖くもないのだが、何か曰くでもあるのだろうか。

 

という俺の視線を察してかマグダネス局長は更に言葉を紡いでいく。

 

「その森では年間に何人もの人間が行方不明になっているのよ。しかも誰一人として……骨すら見つかっていない。それどころか行方不明者の捜索や森の調査に向かった人間まで消えることもありました。そんなことが続いてから、あそこに近付く者は殆どいなくなりました。そしていつの間にかあの森は魔女の森と呼ばれ───今は親の言うことを聞かない子供達への脅しに使われている程度です」

 

ふぅん。ま、炭酸飲料を飲むと骨が溶けるとか、そういうのは科学的根拠に基づいたものじゃなくて、子供の行動を諌めるための方便だしな。魔女の森も、行方不明者は本当にいたし実際不気味で近付こうってのは馬鹿しかいないんだろうが、今はもう「良い子にしていないとあの森から魔女が攫いに来る」とかそんな程度の扱いなんだろうよ。

 

「オカルトは置いておいても実際、霧も濃くて視界は悪いし、これは最近空撮で確認したのだけれど、森の北の方には草木が1本も生えない広い空間があったり……気味の悪い場所だと聞いているわね。行方不明者が続出したこともあってシアさんの家族の隠れ家とするには不向きだと思うわ」

 

ちなみにこのマグダネス局長の前ではシアはウサミミを誤魔化していない。帰還者や俺の力を知らしめるにあたって彼女達も態々誤魔化すこともないだろうということだ。どっちにしろシアはこの世界にいつもいるわけじゃないしな。ラナはいるけど、むしろこの人とは正体を共有しておく方が後々何かあった際に楽だろうという判断。

 

実際今もこういう話がスムーズだしな。勿論この世界であってもシア達の本当の姿を見せる人間というのは選ばなければならないが、この人は見せても大丈夫だろうよ。そして、マグダネス局長に対しても「俺達の信頼を自分は得ている」というアピールは国にしてもらって構わないと言ってある。

 

そうすれば多少俺らが何かをやらかしても、むしろだからこそ、俺達の信頼を得ている彼女を俺達との窓口からは外されないだろうという打算だ。そんなことはこの人も分かってはいるが、この国に対する強い想いとか責任感とか諸々あって溜息をつきながらも承諾してくれている。

 

「そうすか。じゃまぁ、魔女の森ってやつは後回しにします」

 

仕方ない、一旦香織達の元に戻ってから、最近こっちに来てもらってネットで秘境とか探してもらっているメヌエットからの進捗を聞いてこよう。もし良さげな所があればシアと2人でまた出向いて内見だな。

 

俺はシアを抱き寄せるとそのまま越境鍵で日本への扉を開いた。向こうとは時差があるけれどまぁ俺はちょっと長く起きている程度は気にならないしな。シアは寝てもらってて大丈夫だし。

 

と、俺は光り輝く扉をヒョイとくぐりながらそんなことを思うのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

異国のとある小さな川沿いの町。亜熱帯気候のこの国に俺はシアと2人、異国旅行デート───ではなくハウリアの拠点探しに来ていたのだ。

 

結局マグダネス局長からはイギリスに伝わる魔女の森の話しか聞けなかったからな。こちらに来てもらっていたメヌがネットで探した情報と羅針盤で雑な検索をかけた結果、まずはこの国で探そうという話になったのだ。

 

そうして訪れた異国。この世界で通用するパスポートまでは持っていなかった俺とシアは当然越境鍵による不法密入国である。だがまぁそれほど問題もあるまい。

 

何せ、俺達が訪れたプーハンクという町は、どうやら観光客にとってはこの国を見て回る際のハブになっているらしく、そこかしこに外国人と思わしき奴らの姿があるのだ。その中にはアジア系の顔もあるようで"外国から来た観光客"と言うだけではそれほど耳目を集める存在にはならないだろう。

 

そうしてシアが現地民から聞き出した味の良い食事処へと向かう。しかし外国人そのものは目立たなくてもやはりシアそのものは目立つな。

 

何せ青みがかった白髪なんていう珍しい髪色に165センチ程はある上背だけでなくスラリと伸びる手足は大抵の服を着こなすだろう。引き締まった肢体はしかし女性的な柔らかさを充分以上に主張していて、どうしたって老若男女問わず人の視線を吸い寄せる。

 

そして吸い寄せられた視線はシアの愛らしい顔とそこに咲く満開の向日葵のような笑顔に捕らえられるのだ。

 

「おっと……」

 

とは言え、シアの笑顔に見蕩れている男はここにも1人いる。だが俺はシアの笑顔はいつも見ているし、おかげで随分なスピードで車道を駆け抜けようとする車にも気付いた。

 

俺が気付くような音にはシアだって気付く。シアも一息に俺の元へと飛び込むと後ろを振り返った。

 

「随分と急いでいますね〜。どうしたんでしょうか?」

 

すると、シアの背後を車にはそれほど明るくない俺にだって一目でハイグレードと分かるSUV──それもどいつもこいつも全く同じ車種とカスタムだ──が何台も駆け抜けて行った。

 

「んー?……そうだな」

 

「どうかしました?」

 

すると、歯切れの悪い俺の回答にシアが首を傾げる。その仕草がとても可愛らしく映った俺はシアの後頭部を撫でながら

 

「いや、ちょっとあの車の団体さんからは良くない臭いがしてな」

 

「臭いですか?私は感じませんでしたけど……」

 

「んー?物理的な臭いってよりはもっと……暴力の臭いだ。あの車、フロントガラス以外は全部スモーク貼ってたんだよ。態々お揃いの高そうなSUVを揃えて……なーんか怪しくない?」

 

ま、怪しかろうが何だろうが今は放っておくのだが。ここは日本じゃないし、今は観光客で賑わっているここも、夜の治安がどうだかまでは分からない以上、ギャングやマフィアくらいいても不思議じゃあない。

 

そしてそれはこの世界の問題であり俺達や帰還者達に直接何らかの干渉をしてくるわけでないのであれば俺達が首を突っ込む必要のないことだしな。

 

「ですね〜。それで、どうするんですか?」

 

「別に。目の前で暴れるんならともかく、ただ運転が荒いだけの奴らにいちいち構うのも面倒臭ぇ」

 

という俺の言葉にシアも「そうですね」と頷き俺の手を取った。そのままお互いに指を絡めると川沿いの遊歩道を通って白い建物のレストランへと向かう。

 

すると、レストラン側の川には木製の手漕ぎボートからエンジンの付いたものまで様々なボートが係留してあった。しかもどれも一様に古めかしく使い込まれた様子であるから、ここではボートを用いて水路を使うのが主要な移動手段ないしは物資輸送の方法なのだろう。

 

今なら人目にも付かないしと俺は宝物庫からボートのアーティファクトを川に放出。ロープで係留しておく。

 

「もう出すんですか?」

 

「うん。今なら誰も見てないし」

 

このボートも当然魔力操作でしか動かせないから持ち逃げされることも中々ないだろう。精々が自前のオールで頑張って漕ぐくらいだが、当たり前のように俺は監視用のクモを1匹置いておく。

 

ロープも中にタウル鉱石を錬成で繊維のようにして混ぜてあるから並のワイヤーよりも高強度だしな。デカいワイヤーカッターでもそう簡単には切断されないし、そんなことをすればやはりクモで気付く。

 

「じゃあ行こうか」

 

俺は再びシアの手を取ると白い壁のレストランへと歩き始めた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

ここのオススメは川魚の蒸し料理らしい。それを頼んだシアはさっきから入念に味を確かめるように料理を噛み締めている。どうやらここの味を盗み、家に帰ってからもレパートリーに加えようとしているらしい。

 

川に迫り出したテラス席でパスタを口に運びながらも俺はそんな料理に貪欲なシアを眺めていた。

 

「ふむふむ……。何となく分かりましたけど、日本だと調味料が手に入れられるかが不安ですね〜」

 

「別に……無理して再現しなくてもいいんじゃないの?」

 

こっちもあっちもどちらも日本だから売っている調味料には大した差は無いだろうが、このレストランとここで使われている調味料が俺達の地球にもあるかどうかは定かではない。と言うか、無い可能性も充分に考えられるしな。

 

「むぅ。しかし私としては是非ともこの味は再現したいですぅ」

 

「んー、俺ぁそこまでしなくてもいいと思うけど……」

 

「むっ、何でですか?……あ、あんまり好みじゃなかったですか?」

 

ここの味の再現にあまり乗り気ではない俺を見てシアが不安げにそんなことを聞いてきた。

 

「んー?いやいや、ここの料理は美味いよ。じゃなくて、この味は俺とシアだけの思い出にしても良いかなぁってさ」

 

シアとしては自分が聞いてきた店で俺があまり満足いっていないのかもと思ったのだろうが、そんなことはない。ただ、折角2人で食べた異国の料理の味だ。ここは2人だけの秘密にしておくのも良かろうと思っただけなのだ。

 

そしてそれをシアには素直に伝える。すると───

 

「えへへ。そういうことですかぁ。それならしょうがないですねぇ〜」

 

なんて、照れたように頬を染めながら笑顔を咲かせている。そして、傍からは認識阻害のアーティファクトで確認できないだろうが、シアのウサミミが俺に向けて差し出されてふよふよとアピールしてくる。

 

俺はちょっと手を伸ばしてその先端を指で弄ぶ。周りから見れば甘ったるくて胸焼けがするような光景なのだろうが、俺達はそんなものを気にする風もなくただ穏やかな昼時を過ごすのであった。

 

 

 

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