セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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地獄の底まで

 

 

「それで?お前らはどこの誰なのよ?」

 

ウィルフィードを俺達のボートに引き込むと他の奴らも慌ててボートの縁にしがみついてきた。あれだけ吹っ飛ばされて平気な当たり中々どうして体力と根性のある奴らのようだ。しかも明らかにインドア派と思っていたブランドンまで乗り込んできたからな。気合い入りすぎだろ。

 

「言っただろう?私達はレリテンス社の者だ。会社としては主に貿易業を───」

 

グリッと、俺はシグの銃口をウィルフィードの太ももに押し当てる。

 

「……と言うのは表の商売で、裏では『力のある遺物』の捜索や研究、活用を行っている」

 

研究、活用ねぇ。どうせ兵器転用なのだろうし、この男は今の言葉で俺がそこに行き着くことは分かっているんだろうな。

 

しかし思いの外あっさりとゲロったウィルフィードに頭を抱えたブランドンが甲高い声で喚き立てる。

 

「君ちょっとブチ五月蝿い」

 

コン、とブランドンの顎を打てば脳震盪を起こした彼はカクンと無抵抗に倒れ込んだ。それをウィルフィードはキョトンとした顔で眺めている。

 

「意外だね。殺さないとは」

 

「んー?……今んとこコイツに殺す価値も意味も見い出せねぇんだよ。それだけさ。……それで?力のある遺物ってのは何だ?」

 

するとウィルフィードから語られたのはこの世界には思っていた以上の不思議が隠されていて、ともすれば俺達の地球よりも余程こっちの方がファンタジー染みているという事実だった。

 

「なるほどな。……それで?この箱の中身だって知ってんだろ?言え、これは何だ?」

 

「態々話を聞こうとする辺りもしやとは思ったが。本当に青年達はこれについて詳しくは知らないか。ならここからはビジネ───」

 

グリッと、先程よりも強くシグの銃口を押し当てる。今度はウィルフィードのこめかみに。

 

「───っ!……悪いけど、これでも命は惜しくてね。話した瞬間に頭蓋を砕かれたくはない。どうだろう?まずは私達を解放して、それから───」

 

面倒になった俺はウィルフィードのこめかみから銃口を逸らす。それを見て俺が交渉に乗ったと喜色を浮かべた彼だったが、俺はウィルフィードの後ろの空を指さす。それに合わせてウィルフィード達も振り返る。すると───

 

天を覆うは無数の魔法陣。魔国連邦の奴らでなくとも()()が暴力の権化であることは理解できたようだ。そしてそこから覗くは無数の氷の槍の穂先。その内の1発が超音速で地上───俺達の下るこの川目掛けて迫る。そして数秒後にそれは着水する。

 

大質量の物体が莫大な速度で落下するエネルギーは絶大。目視できる範囲ではあるがかなり遠くに着水させたにも関わらず空気を切り裂いて飛んできたその槍は水の柱を作り、それらは津波となって俺達を追い立てる───わけでもない。

 

このボートは空間魔法である程度の結界も張れるからな。大荒れの川の中にあって大した揺れもなく衝撃波も届かない。大破壊に似つかわしくない穏やかさにウィルフィード達は唖然としている。

 

「おー、もうすぐ槍の雨が降るかもなぁ」

 

「OKボス。犬と呼んでくれ」

 

「やだよ」

 

他はともかくウィルフィードはちょっと()()聞いたくらいじゃこれ以上は喋らなさそうと思ったが意外と簡単に口を割るみたいだな。あと他の奴らも俺に付き従うことに異論が無さそうな顔をするんじゃあないよ。

 

「いやいや、どうせこの仕事が失敗すれば会社での立場を失いますし、そもそも入ったのだってトレジャーハンターとしてやっていくための資金稼ぎでしかありませんでしたから。……私達は役に立ちますよ?」

 

「ここぞとばかりに売り込ん───いや、ちょうどいいや。従うってんなら助けてやる」

 

本当はそもそも殺す気もなかったのだけれど、コイツらがそんなに俺に売り込んでくるのなら使ってやろうか。

 

「ありがとうございます!ボス!」

 

……このボス呼びだけはどうにかしたいけどな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

ウィルフィードから語られたこの箱の中身。言ってしまえば大昔に作られた生物兵器。人の肉を食い破って内側から殺す。なるほど、だから箱を開けた未来じゃあ俺の多重結界を破れずシアだけを殺したのか。

 

「さてボス。私は知ってることを全て話しましたが1つ。ボスはバチカンの人間ではないようですが、どうしてあんなところに?」

 

「んー?俺達があの遺跡に行ったのは本当にたまたまだが……バチカン、ねぇ?」

 

ドロリと魔王覇気を纏わせればウィルフィードの口はまるでメリーゴーランドのように回る回る。バチカンについても知っていることを洗いざらい語り出した。そして───

 

「───まぁある意味、帰還者を相手にする方が余っ程割に合わないだろうけどね」

 

そう告げたウィルフィードの喉元にスルりと氷の刃が突き付けられる。

 

「あぁちくしょう……やっぱりか。最初から最悪のカードを引いていたんじゃないか。これだから人生の斜め上具合と言ったら……」

 

「言ったろ、従うなら助けてやる。さて、お前とレリテンス社はどこまで帰還者について知ってる?最初から最後まで全て話せ」

 

「……日本の白昼に起きた2週間の集団失踪事件。ハイスクールの1クラス分に近い人数……生徒30名と教師1人が突如として失踪。警察その他あらゆる手段で調査が行われたが何の痕跡もなし。文字通りの神隠し」

 

そこまでは誰だって知っている話だ。俺はその先をさらに促す。

 

「行方不明になっていた生徒のうち、3人の生徒を除いて全員が帰還。ただし1人はPTSDと思われる精神的ダメージを受けている。しかも話のできる全員が全く同じかつ荒唐無稽なこと───異世界で魔物や神様と戦っていた、なんて御伽噺をする」

 

そう、そこもまだ誰でも知っていること。

 

「しかも尋常ではない情報統制が行われ、騒ぎは直ぐに鎮火。明らかに公権力以外の"何か"が働いていると推測」

 

「それで?帰還者達の個人情報はどこまで?」

 

問題はそこだ。コイツらが俺達のことをどこまで調べ、そしてどのような位置付けをしているのか、目下それが1番重要なのだ。

 

「家族構成、友人関係、習い事。とは言えその程度で、本当のところ知りたいのは彼らが()()()()()()()なのかというところなんですがね」

 

なるほどな。調査機関を使えばその程度を調べる程度ならワケないか。

 

「それともう1つ未確認情報。帰還者達の言葉を信じるなら彼らと()()()で同じように神隠しに巻き込まれた別世界の誰か、もしくは向こうから1人以上がコチラへ来ている、と言う話ですが……」

 

「……よく調べてんじゃねぇか。俺ぁその()()()()()()()()1()()で、こっちは()()()()()()()1()()だよ」

 

俺はシアを示しながらそう告げてやる。どうせならコイツはとことん利用してやろう。そして、そのためには多少の情報共有も止むを得まい。

 

「なるほど。まさか本当にそんなことが……」

 

するとそこでウィルフィードは「あっ」と声を上げる。とは言え続きは言われなくとも分かっている。それを聞いて自分は生きて帰れるのか、という疑問がありありと顔に出ているからな。

 

「従うなら生かす。そのための情報共有だよ」

 

それと、と俺は言葉を続ける。

 

「会社の居心地は知らねぇが、やりたいならトレジャーハンターはやってもいい。勿論レリテンス社に残って俺達のことを調べようって言う奴らのことを探って報告してくれるんならそれもいい。ちょっとした()()()もくれてやる」

 

俺はそう言うと宝物庫から拳大のタウル鉱石を取り出してウィルフィードに渡してやる。

 

「これは……?」

 

「頑丈さが取り柄の鉱石だよ。ただし、お前らの言うトータス(向こう)の、だ」

 

「───っ!?」

 

それだけ言えばウィルフィードにはこれの価値が分かったようだ。タウル鉱石なんて別にトータスじゃそれほど貴重な鉱石ではない。オルクス大迷宮を潜れば幾らでも手に入るし、それほど特殊な性質を持つわけでもない。だがいくら向こうでありふれていてもそれは異世界の物質。この地球上には似た物質はあっても同じ物質は存在しない。

 

この箱の中身と違って生物兵器への転用は難しいだろうが、研究対象としてはこれ以上ないものだろう。

 

「あぁ後、これもやる」

 

と、俺はウィルフィードの首にネックレスを1本掛けてやる。それは帝国でハウリアに渡した物をより使いやすくした物。あの時のはお互いに言霊を口にして制約を課したが、これは"俺の意思に反する"行動を取った時に自動で発動するもの。穴だらけの契約ではなくもっと幅広く、そして相手の恐怖そのもので行動を縛るのだ。

 

「そりゃあ無理に外そうとしたり俺の意思に外れる行動をした奴を気狂いにさせちまう道具だ。俺んことをボスと呼んで手前を犬と自称するなら首輪は必要だろ?」

 

俺のその言葉でウィルフィードの顔が一瞬で青ざめる。とは言え裏の顔を持つような企業に属している奴を手駒にするというのなら多少の枷は必要だろう。そして同じものを他の部下の奴らにも手渡す。

 

全員が怖々それを着けたのを確認し1つ頷く。

 

「そりゃあ俺達や帰還者、その家族に危害を加えないなら働きやしないよ」

 

これに込められたのはその程度の束縛。コイツらが例え人を殺そうともあの枷が発動することはない。ただしその矛先が帰還者やその家族でないなら、の話だけどな。

 

「あ、それとこれから先の連絡だけど、俺じゃなくて俺ん知り合いに頼むわ。どうせ分かるだろうから言っとくけど、そいつも帰還者だ。良かったな、お前らぁ割に合わねぇと思ってた帰還者達との接点が持てるんだから」

 

という俺の実質的な監視宣言にウィルフィードは

 

「あ、ありがき幸せ……」

 

と、力無く頷くのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

視界が開けるとそこはアメリカは西海岸───ロサンゼルス。そこにある高層ビルの1部屋であった。

 

だが俺達の目の前に広がるのは死屍累々の光景。どうやらこのオフィスは何者かによって既に襲撃されていたらしい。

 

「アメリカ怖すぎじゃんね」

 

「こっちと私達の地球ってどっちが治安悪いんでしょうか?」

 

武偵なんてものがないと治安を維持できない俺達の世界の方が治安が悪い……と言いたいところだけれど、この世界もこの世界で中々に暴力の跋扈する世界のようだった。

 

「さぁな。……さてさて」

 

本当だったらアーティファクトでこのオフィスの人間を全員まとめて洗脳することで帰還者達の情報を奪おうと思ったのだが、制圧する手間が省けたな。

 

「天人さんってクラッキング?ハッキング?とかそういうの出来ましたっけ?」

 

「いやまったく。まぁでもこれなら……」

 

俺は宝物庫からアーティファクトを1つ取り出す。パスワードの扉が破れないなら、パスワードを盗み見れば良いじゃない。そんな発想の元生まれたこれはただ単に過去を再生してその映像から俺がパスワードを覗き見るという超アナログなもの。形は良いのが思い付かなかったからグラサン。

 

シアのもあるよ?と宝物庫から渡したもう1つをやればシアもふむふむとか言いながらそれを顔に掛ける。

 

「んー、無骨すぎてシアの可愛い顔が隠れるだけだな……」

 

女性陣用はちゃんとデザインを考えるべきだなと俺は1人頷く。シアは「もう!早く情報貰いますよ!」なんて言っているけれど頬の赤みが隠し切れていない。いつも沢山可愛い可愛い言っているのに今だにこうやって初々しく照れてくれるのは嬉しいやらコチラが気恥しいな。

 

しかし実際ウダウダダラダライチャイチャしている暇も無いので俺は早速サングラスに魔力を流す。流石に再生魔法と魔力消費は尋常じゃないが今の俺にとっては些末な問題である。けれども、流れてきた光景は些末ではなかった。

 

身体に張り付くようなコートを着て顔には面を被った1人の襲撃者。そいつはたったり1人で職員達を昏倒させる。そうして残された1人にサバイバルナイフを突き付けるとパソコンを操作させ、あの遺跡の情報や帰還者達のプロフィールをUSBメモリにコピーし持ち去る。その際に脅した職員も気絶させてようやくやって来た警備員共も纏めて昏倒させるとまるで解けるように巻き込まれた闇の中へと消えて行った。

 

しかしあの身のこなし。喧嘩慣れしてるだけの素人じゃあないな。明らかに訓練と実践を積んだプロだ。ただ、アイツの主な目的はあの遺跡についてで、帰還者達の情報はたまたま見つけたボーナスのような雰囲気だった。

 

「凄かったですねぇ。明らかにプロですよプロ。何者なんですかね?」

 

まだ学生の身とはいえ、武偵の、それも強襲科のシアさんだって似たようなものですわよ?なんて言葉が喉まで出かかったけどどうにか飲み込んだ俺はシアの質問に口を開く。

 

「んー?……まぁ多分バチカンなんじゃねぇの?」

 

ウィルフィード達も言っていたからな。バチカンも力のある遺物の収集をしていると。その目的までは知らなかったようだけど。ま、そんなことは羅針盤で調べれば直ぐに分かるのだけどな。

 

「……ほらな」

 

件の襲撃者の本拠地───その座標を羅針盤に探させれば直ぐにそれは指し示す。奴の居場所を。イタリアはローマ。その中にあるバチカン市国の座標を。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「んー?」

 

「どうしたんですか?」

 

イギリスの北にあるとある森。マグダネス局長からは『魔女の森』なんて仰々しく呼ばれていたそこに俺とシアは2人で来ていた。レリテンス社で奴らの握っていた情報を確認した後2人でイギリスに転移した俺達は分身体の遠藤とエミリー・グランド──ノーチラスにいる時に急にこっちの世界に飛ばされた先にいた女の子。どうやら遠藤に気があるようだ──にあの箱の中身と入手の経緯を伝えてあった。それと、ウィルフィードも既に紹介済みである。

 

そして、遠藤達にはバチカンを探るように言っておいてやって来たこの森なのだが、足を踏み入れてしばらくすると俺の氷焔之皇に反応があったのだ。

 

「……氷焔之皇が反応した」

 

「マジですか……。と言うことは───」

 

「あぁ……」

 

この森、絶対にオカルトチックな何かが蔓延っている。

 

「今んとこそんなに強い力じゃあない。……意識の誘導っぽいな」

 

氷焔之皇で探ってみれば、どうやらこの森を北に向かうように意識が誘導される類の力のようだ。なるほど、魔女の森は伊達じゃないってことか。

 

「どうします?天人さん」

 

「どうします?って顔してないじゃんね」

 

シアさん超絶ワクワクモードの顔してるよ?絶対にこの森の神秘を解き明かしたい!冒険がしたい!って顔に書いてあるようだ。まぁ、人攫いの森が御伽噺や特殊な自然環境による遭難の頻発ではなく超常の力によるものなのだとしたら、その最奥を覗きに行くのも悪くはないか。あの遺跡もキープだけど、イギリス支部ってのがあっても良いかもだし。

 

「いやぁ、やっぱりこういうのってワクワクしますよね〜!」

 

と、絡み付くような空気の中シアは楽しそうにスキップなんかしながら森の中を進んでいく。敢えて意識の誘導に逆らわずに北へ北へ。

 

道中一気に霧が濃くなり、何かのテリトリーが近いのだと感じる。そうして更に誘導されるがままに歩みを進めていくと───

 

「こーゆーの、ミステリーサークルって言うんだっけ?」

 

現れたのは鬱蒼とした森の中にあって異様を感じさせる空間。直径にして60メートルほどの円状の空間に全く草木が生えていないのだ。しかも森の中と違って土が乾いている。すると───

 

「んー?」

 

意識の誘導の他にも氷焔之皇に反応があった。どうやら何か言葉を俺達にくれているようだったので、仕方なしに俺は氷焔之皇の守備範囲を少しだけ落とした。

 

───ニエ……ヲ

 

「天人さん!」

 

「あぁ」

 

シアがドリュッケンを構え、俺はトータス製のアーティファクト拳銃を構える。

 

───ニエ……ササ……

 

「煮えた笹ぁ?」

 

「贄を捧げよ、じゃないですか?」

 

俺の適当な解釈にシアがキチンとした解説を添えてくれた。なるほど、贄……生贄か。だが俺の理解を放って森に潜む殺意が牙を剥く。

 

周囲の木々は蠢き枝が有り得ない速度で伸びて俺とシアの身体を貫こうと迫る。もっとも、その程度でやられてあげる俺達ではない。電磁加速───だけでなく銃身内部に付与した重力魔法による重力加速をも加えた多重加速式拳銃から放たれる超々音速の弾丸と戦鎚(ドリュッケン)の一凪でそれらを撃ち砕く。

 

たったそれだけの動作で齎された破壊は尋常のそれではなかった。俺の放った弾丸の通った下の地面は、触れてもいないのに直径で1メートルほど抉れていた。

 

「うひ〜。やっぱり天人さんの()()、威力がおかしいですぅ」

 

槍のように放たれた木の枝を、1本どころかその奥にある木の幹まで貫き衝撃波で太い幹をへし折り大地を削った多重加速式拳銃の破壊力を見てシアが冷や汗を流した。

 

「んー?……って言ってもまだ縮地の加速は込めてないからもうちょい上がるぞ」

 

ここまでの速度を出すとなると銃弾の方もかなりの圧縮錬成が必要になる。速度もだけど銃弾1発毎の重さもかなりのものになっているおかげで破壊力が尋常ではないから、正直トータスであっても自由には撃てないだろう。こんなのを適当に放っていたら視界や感知系の固有魔法の外にいた誰かを巻き込みかねないのだ。

 

だが幸いにしてここは人のいない森の奥深く。誰かを巻き添えにする心配はない。この状況でこの火力を縛る必要性は無い。

 

すると、今度は足元から木の根が槍衾のように迫る。それを俺とシアは左右に飛び退いて避けると特に加速はさせずに銃弾を放つ。ただし今度の弾頭は空間爆砕を付与したそれだ。

 

まるで空爆でもされたかのように捲れ上がる大地。

 

───その力……バチカンの人間かしら……?

 

喋り方といい頭の中に響く声色といい、どうやらコイツは女のようだ。なるほど魔女の森ね。言い得て妙じゃないの。

 

さてさて、本当は戦闘中に喋ってやる趣味は無いんだけどな。どうにも頻出ワードみたいだな、バチカンってのはよ。

 

「違うね。俺ぁバチカンとは何の関係もない」

 

───馬鹿な。あの女の耳は……本物?まさかこの時代にも生き残りが……?

 

すると、今度はシアのウサミミに興味を持つ魔女様。ふむ……シアはこの森に入ってからは認識阻害のアーティファクトを外していたからな。さてさて、これが裏目に出たか吉となるか。

 

───バチカンに属さずに力を持つ男に神代の生き残り……いや、先祖返りか

 

しかしこのお姉さんも勝手に話を進める系統の人っぽいですね。俺の周りはそんなのばっかりかよ。

 

───面白い。あなた達面白いわよ。このまま簡単に贄にするなんて勿体ない

 

「んー?」

 

すると、森の奥からズルズルベチャベチャと嫌な音が響いてくる。まるで血濡れた肉をずた袋に入れて引き摺るような音だ。しかし、俺のそんな例えもあながち間違いではなかったと直ぐに証明される。

 

「天人さん、そりゃあ最初から分かっていましたけど、この声の持ち主さんは悪意が半端じゃないですよ」

 

「みたいだねぇ……」

 

森の奥から現れたのは肉塊だった。大小様々な大きさの手足がそこら中から生えており、眼球も無数に開いていてそれがギョロギョロと辺りを見渡している。

 

───イイイイヤァァァァァァッ!!

 

すると人の神経を逆撫でする甲高い叫び声。それと共に無数の手足が瞬間的にこちらに伸びてくる。けれど、そんな程度じゃあ俺達は殺れないよ。

 

「───っ!」

 

シアが俺の前に躍り出る。そしてドリュッケンを振り抜いた。それは空間爆砕でも魔力の衝撃変換でもないただの膂力による反撃(カウンター)。だがそれもシアの膂力で行えば空気の壁を突き破り肉塊なんてものはその衝撃波で粉々に砕け散るのみだった。

 

そして俺はシアのウサミミの間から───シアのウサミミを大気の断末魔(ソニックブーム)で傷付けないように敢えて重力魔法で減速をかけた亜音速の弾丸を放つ。しかし弾速が遅かろうともその弾頭に付与された魔法は重力魔法───黒天窮。速度こそガバメント程度ではあったが、弾頭が触れた肉の中心で発生した黒い闇がその肉を圧縮し消滅させる。

 

だが───

 

───イイイイヤァァァァァァッ!!

───イイイイヤァァァァァァッ!!

───イイイイヤァァァァァァッ!!

 

今度は全方位から同じような肉の塊が現れる。そしてそれらは俺達を取り囲むように立ち上がり、視界を肉で覆った。

 

───ようこそ、不死の魔女の森へ

 

まるで嘲笑うかのような声が響く。

 

───安心なさい?贄にはしない。我が魔道の虜にしてあげる

 

「……ふん。悪りぃけど俺ぁとっくにコイツの虜なんでね。今更アンタには靡かないよ」

 

と、俺は敢えてそんな軽口を叩く。そして、それにつまらなさそうに鼻を鳴らす魔女だったが、その間に俺の精査は終わった。

 

「……シア、どうもこいつ、この森と一体化してるみたいだな。魔物みたいな核はここには無い。だが中心地はここだ」

 

───ッ!?

 

「おおよそ半径500メートル。最低でもそこまでは奴のテリトリーだ」

 

───な、何故……

 

俺の右眼は魔力や力の流れを追える。それに羅針盤を組み合わせればこの程度を見抜くなんて造作もない。シアもそれは分かっているから彼女の顔に驚きはない。

 

「じゃあ……焼くよ」

 

俺は宝物庫を光らせる。その瞬間に俺の四肢は灰色の鎧で覆われる。さらに背中側には2門のガトリング砲と4門のサークル状の円盤。胸部や腰周りにも関節の動きを阻害しない程度の同色の鎧が纏わる。

 

それはさながらIS(インフィニット・ストラトス)のようであり、確かにこれは俺が錬成と神代魔法で作り上げたISと言ってもいいだろう。シールドエネルギーの代わりに多重結界で守り、PICの代わりに重力操作と重力魔法で自在に空を駆ける。

 

銃火器は多重加速式で統一され、俺の体内に眠るティオの因子を利用した擬似的なビーム兵器すら搭載している。それが俺のこれ───局地殲滅特化型外装である。名前はまだ無い。

 

「遂に実戦投入ですか?」

 

「馬鹿言え。まだ試験段階だよ」

 

聖痕持ちに正面から抗える火力。シャーロックからの宿題への回答の1つとして多重加速式の銃火器と共に用意したものだ。もっともこれがどこまで奴らに通用するかは分からないけどな。

 

「それで?この森を焼かれたくなければちょっとお聞かせ願えませんかね」

 

両手に構えるは多重加速式突撃銃。背面からはサークル状のビーム砲台が展開され、背中から脇の下を通すように銃口を向けるのはガトリング砲。

 

更にミサイル迎撃システム(PAC3)が如くミサイルポッドを召喚。多重加速式のビット兵器をも呼び出し、それらが俺達の周囲を囲い銃口の死角を潰していく。

 

───野蛮ね。私の内包する神秘とは比べるまでもない

 

───私の研究にお前達は不要

 

なるほど、銃火器はお気に召さなかったようだ。

 

───遠慮することはないわ。私のもてなしを存分に受けなさい?

 

そうかよ、それなら俺もこの森を焼くしかねぇな。本体を探せば捕まえて拷問もできるのだろうが、そもそもバチカンには遠藤を向かわせたばかりだ。情報源はコイツだけじゃあない。それにただ濃霧と人の恐怖が生み出しただけの魔女であれば良かったが、こんな風に悪意に塗れた魔女がいたのであれば仕方ない。コイツがまた人を喰らう前に根絶やしにするのも良いだろう。

 

「シア!」

 

「はいですぅ!」

 

シアは敢えて俺の傍に寄る。これを纏った俺に対して、こここそが1番の安全地帯と知っているからだ。そしてその瞬間に放たれるは無数の火線。

 

超々音速の弾丸が光の槍となって肉を穿ち、炸裂弾が壁を撃ち砕く。そうして開けた視界で黒い閃光が森を貫き、飛び出したミサイル群が木々を焼き森を炎で染め上げる。

 

───おまっ……お前ぇぇぇぇぇっっ!

 

「1人で戦艦みたいな火力出してますねっ!」

 

「艦載機の代わりに氷の槍もあるぜ」

 

だがこの相手にはそこまでは必要なさそうだ。不死の魔女の森と言う割には直ぐに肉壁も現れなくなったため俺は外装を宝物庫に仕舞う。それに合わせてふわりと俺は地面へと降り立った。

 

───絶対に許さない!地獄へ落ちるといいわ!

 

「んー?」

 

「え?」

 

今更そんな定番の捨て台詞……と思ったが違うらしい。俺達の足元の空間がいきなり光り出したのだ。

 

───朽ちたる世界樹の残滓よ、重なる界へと扉を開きたまえ!

 

その言葉の直後、視界で光が爆ぜる。だがフラッシュグレネードならともかくこんな超常の力、俺の氷焔之皇で凍り尽くして───

 

「なっ───」

 

「天人さん!?」

 

氷焔之皇が弾かれる。こんなの聖痕の力か、そうでなければ───

 

だが俺の思考はそこで途切れる。完全に視界が光に潰され、一瞬巨大な樹を幻視したような気がして、白に包まれた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「……ここどこよ?」

 

「分かりませんけど……ろくなとこじゃないですぅ」

 

ハウリアの拠点探しで訪れたイギリスの北部に位置する森林で、何やら変な奴に襲われたと思ったらまさかの異世界転移。開けた視界に映るのは乾いた血の様に赤黒く染った景色。

 

赤黒さの理由はまるで突風吹き荒れる砂漠のように舞う赤い砂のような何かだ。俺はそれを捕食者に仕舞い、解析を試みた。すると───

 

「……うえぇ……こりゃあ身体に悪いわ」

 

出てきた結果はろくなもんじゃあない。取り敢えず俺は再生魔法が付与されたバレッタのアーティファクトをシアに渡す。どうにも俺は多重結界のおかげでそれほど影響は無いのだけれど、シアはそうもいかない。

 

「ヤバそうなら神水も飲んでな。……ったく、まるで地獄みたいだな」

 

「ですねぇ。……しかもなんか───」

 

バレッタで髪を留めたシアがドリュッケンを宝物庫から取り出しつつ辺りを見渡す。俺達を見下ろす幾つもの異形。それは俺達を物珍しげに、そして舐め回すように眺めている。特に───シアの肢体には熱い視線が向けられていた。

 

「……………………」

 

特に言葉は無い。いや、俺に無くとも奴らからは発せられていた。何故ここに人間が、とか、女がいるぞ、とか。ただそれらの言葉と視線が不快だった俺は奴らの脳天に氷焔之皇を纏わせた氷の槍を突き刺した。

 

断末魔の悲鳴すら上げることなくそいつらは絶命した。俺の右眼に映された奴らの魂は、奴らが人間とは掛け離れた存在であり、その上その魂の色は酷く穢れていた。それ故に俺は彼らに対して武偵法の縛りを設けることが出来なかったのだ。

 

「どうする?」

 

俺達を囲っていた奴らが絶命し、倒れ伏した死体の後ろから更に俺達を睨めつける異形達。

 

「どうするって……こうなったらもう殺るしかないですぅ」

 

「だよねぇ……」

 

360度全方位に向けて俺は氷の槍を放つ。それを避けた何匹かの異形が上から俺達を殺そうと殺意を滾らせ降り注いできた。

 

しかしそれらはシアのドリュッケン───それから放たれる魔力の衝撃変換により肉片となり打ち払われた。だが仲間が殺られたというのに奴らの騒ぎ様は、喜びに満ちていた。どうやら力のある女というのは随分と奴らにとっては待ち望んだ存在らしい。その騒ぎに聞き耳を立てれば、コイツらは力のある女に自身を孕ませ、受肉することで現世───恐らく香織達の地球へと現れることができるらしい。なるほど、だからさっきあんなにシアのことを睨め回していたのか。

 

そして、それならやはり俺の先制攻撃は正解だったな。……そんな薄汚い目でシアを見る奴の存在を、俺が許しておけるわけがないのだから。

 

「………………」

 

俺は無言のまま魔王覇気を発動。それはただ人心を狂乱に陥れるのではない。昇華魔法によりその存在強度を増したこれは、一定以上の恐怖を感じた者の生命活動を、自身によって停止させるのだ。

 

例えそいつが心臓の鼓動によって生きていないのだとしても関係無い。恐怖に陥った者が、自身で生きるという行為そのものを諦めるのだから。

 

そうして周りの怪物共を全て黙らせ(ぶち殺し)た。さて───

 

「静かになったし探検でもするか?」

 

「はいですぅ!ちょっと行き先は変わっちゃいましたけど、冒険デートしましょう!」

 

随分と殺風景だし現地の皆様方はもはや人間ではないし友好的でもないけれど、シアと歩けばそこは花畑。俺達はマグダネス局長から渡された最新スマホであちこち写真を撮ったりしながら歩いて回ることにした。

 

ちなみにこのスマホ、俺達の世界では使えない。俺達の世界の科学技術はその殆どが香織達の世界の物の後追いで、スマホ1つ取っても同じようなのだが、回線の仕組みというか電波が微妙に異なっていて通信が出来ないらしい。

 

とは言え所詮はスマートフォン。西暦にして数年ほど進んでいる香織達の地球のスマホは当然こちらと比べて技術的にも進歩していようとも、根本的な使い勝手は変わらない。

 

通信は出来なくともこっちでは完全にオフラインで、向こうにいる時だけオンラインになるこのスマホはこういう時のカメラとしてはまぁまぁ便利。武偵は写真にはなるべく写らないようにするのが基本なのだが、このスマホで自撮りとかする分にはそう問題もないのだ。しかも、香織達の世界ではこっちより自撮り文化が進んでおり、自撮り棒なる便利道具まで市販されていた。

 

で、俺とシアは早速それを使って赤黒い廃墟を背景に写真をパシャリパシャリ。何やら自撮りの際にはアプリで自動加工して見栄えを()()のが当然であると香織から教えられたのだが、シアはスマホのアプリで盛らなくてもビックリするくらい可愛いからむしろあっち基準の盛りアプリは不要。というか、元が良すぎて加工すると逆に違和感がある。

 

っていう話を前に香織にしたらキレ散らかしていた。……でも貴女も下手に盛るより普通にしてた方が多分可愛いよ?とは言わないでおいた。そういうこと言うのは南雲くんの役目だからね。

 

で、時折襲ってくる化け物共をぶちのめしながら色々見て回っていたのだが、そろそろ腹も減ったということで適当な建屋に入ることにした。

 

錬成で補強しつつ空間遮断結界を張って、かつ有害物質は全部絶対零度で消し飛ばした綺麗な空気の中で俺とシアは昼飯を頬張っていく。

 

そしてダラダラと食後のお茶を啜りながらさてどんな写真が撮れたかと2人寄り添いながら確認していく。ただ、飯を食って落ち着いたのかシアがだんだん眠そうだ。トロンとした目で「この後どうします?」なんて俺を見上げてくるからその桜色の花弁にキスを1つ落としてやる。

 

そうしてさてどうするかと思案したその時───

 

「───ッ!天人さん!!」

 

「おう!」

 

シアの叫び声と共に俺も凄まじい殺気を感じて更にビット兵器の空間遮断結界を何重にも張る。

 

そしてそれは正解だったようで、一瞬にして建屋が吹き飛ばされ、俺の張った結界も2層が破壊され、3層目にヒビが入ってようやく破壊が止まった。

 

そして、何やら俺の究極能力に反応あり。シアのウサミミがピクリと反応していたから、何か言葉を掛けられたらしいが俺には伝わらず。だが急に周りの空間が歪むと、その瞬間に景色が切り替わる。どうやら空間ごと転移させられたらしい。

 

そして目の前に現れたのは豪奢な法衣のようなものを身に纏った、巨大なワニのような怪物に騎乗した老人。

 

そしてまた俺の氷焔之皇に反応がある。どうにもコイツは思念のような何かでコミュニケーションを取るようで、その全てが俺の能力に掻き消されて届かない。

 

「……何言ってるか分からないんで口で喋ってもらえます?」

 

普通は口で喋る方が伝わらないのだけど、俺に限って言えば逆なのだ。変に念話みたいな能力を使われても届かない以上、空気の振動に乗せて音を発してもらわないと解ける誤解も解けやしない。いや、ここら一帯の化け物共をぶち殺しまくったのは誤解ではなく事実ではあるのですが……。

 

一応、氷焔之皇の効果範囲を少しだけ狭めてコミュニケーションだけは取れるようにしておく。

 

───人でも魔でもない混ざり者よ……我が領地を血で汚したその罪、魂で償え!

 

あぁ、やっぱりあの殲滅戦のことを仰っていますね。まぁしょうがない。お互い相容れない存在だというならば、どちらかが死ぬまで戦いは終わらない。

 

「天人さん!」

 

シアには死の未来が見えたのだろう。今のシアをして即死に追い込むこの爺さんはまぁもうどう見ても尋常な存在ではない。しかもさっきの衝撃と言い転移と言い……きっと空間魔法のような技を使えるのだろう。俺は越境鍵でシアと共に爺さんの背後に転移。だが───

 

「───っ!」

 

上から影が差したと思いきやあの巨大なワニが顎を開いて俺達を噛み砕かんと迫る。シアが魔力を噴き上げて身体能力を増強。その上下に閉じるアイアンメイデンを両手両足で突っ張る。

 

その瞬間に俺はワニの上顎と下顎に内側から氷の槍を突き刺す。そして口腔内に対物ライフルを発射。超々音速の弾丸が衝撃波と共にワニの体内を蹂躙する。

 

───ギィィアァァァァァッッ!!

 

───ぬぅ!!

 

ワニが暴れ俺達は放り出される。更に視界の端からは異形の化け物達がワラワラとこちらへ向かっている。しかもこの距離でも分かるくらいに殺気立っているようだ。

 

シアが衝撃波をドリュッケンで弾き返している間に俺は羅針盤で自分達がどこにいるのかを調べる。するとどうやらここは別世界である地底世界のような場所らしい。

 

「シア、この爺さん叩き潰してまだこの世界見て回るか?」

 

別にこの爺さんを倒すこと自体はそれほど面倒ではない。確かに強いが、氷焔之皇で空間魔法のような力を全部潰してしまえばそれで終わる戦いだ。迫る有象無象共も魔王覇気で全員終わらせられる。だからシアがさっさと終わらせて帰ろうと言うのなら俺はそれに従うのみ。

 

「そうですね、せっかく全力を出せるみたいですから、久々に……いいですか?」

 

シアの甘える様な可愛らしい声。もうホント、この子は俺を操るのが上手ですね。

 

「OK、なら俺も合わせるよ」

 

というわけで氷焔之皇で爺さんの能力全部纏めて潰すのは無しの方向でいきましょう。ま、最悪の場合は使うけどね。

 

さてさて、コイツらは俺の世界やレクテイアでも中々お目にかかれないくらいには強そうだ。モリアーティの軍勢と戦うために新たに強化したアーティファクトの性能を試すには丁度良さげだな。

 

俺は多重加速式ガトリング砲を召喚。その暴威を撒き散らす。それで俺達に迫る異形の集団をぶち抜いていく。さらにシアも身体強化をレベルVIまで上げ、それこそ瞬間移動染みた踏み込みで爺さんに接近。ドリュッケンの一撃で粉砕しようと戦鎚を振り抜いた。

 

だが爺さんは瞬間移動でそれを回避。さらにシアに大規模な空間爆砕の衝撃波が襲い掛かる。

 

だからってシアの方を追い掛けてはいられない。この爺さんに背を向けたら次の瞬間に何が飛んでくるか分かったものじゃないから。

 

俺は背後にミサイルポッドを召喚。それを一息に解き放つ。そこから放たれた火線で異形の集団を叩き潰しつつ爺さんには氷の槍を上下から牙のように叩き込む。

 

───むうっ!

 

それは寸でのところで躱されて致命にはならなかったがようやく1つ攻撃が掠めた。

 

そして、どうせ転移して逃げられるか、こちらが逃げても空間ごと転移させられるのならと俺はガトリング砲ではなくトンファーを召喚。こちらも空間魔法が付与された武装で挑む……なんてね。

 

念話で届いたシアの声。シアはドリュッケンに外付けの巨大な槌を装備。それにも当然空間魔法が付与されていて、それが奴の居城と思われるこの建物に張られた空間遮断結界に触れ……そしてそれを同じく空間振動による破砕で城ごと叩き潰した。

 

───おのれぇぇぇ!!大公爵アガレスの居城と知っての狼藉かぁ!!

 

いや、知りませんてそんなの。アンタの城だってことはともかく、アンタの地位も名前も、今初めて耳にしましたよ、とは口に出さないでおく。

 

そして、シアの放った衝撃と挟むようにして俺も新たにトンファーに付与した空間爆砕を放つ。

 

───ゴッッ!!

 

更に踏み込み、爺さんの腹に空間爆砕込みのトンファーを叩き込む。

 

──ドウッッッッ!!──

 

という鈍い音と共に衝撃波が背後に抜けていくのが分かる。人間なら……例え神域突入組の奴らであってもバラバラに出来る程の衝撃を受けて尚コイツは原形を保てていた。それならばと、俺は爺さんの後ろに氷の壁を召喚しつつそこに叩きつけるようにトンファーを振るう。

 

───ガッッ!

 

そして畳み掛けるように爺さんの手足を氷の槍で貫き串刺しに固定。トドメとばかりにもう一度爺さんのドテっ腹に空間爆砕の打撃を叩き付けた。

 

虚空に固定された氷の壁は衝撃を逃がさずに爺さんの身体を蹂躙する。そして血反吐を吐いて爺さんの動きが止まる。俺の義眼に映る魂は消えていないから、まだ死んではいないようだが、もう指先1つ動かすことが出来ないくらいには痛めつけられたようだ。

 

さらに、シアに蹂躙されている異形の集団達にも魔王覇気を叩き付け、完全に制圧。血色の風が吹き抜ける音だけを残して、この地下世界は静寂に包まれた。

 

「そのお爺さん、死にました?」

 

お年寄りになんて口を利くんだと思わなくはないけど、まぁお互い殺し合ったんだからそんなもんかと、俺はただ首を横に振る。

 

「どうせなら色々聞きたいからな」

 

と、俺は再生魔法を付与したアーティファクトを使って彼の身体の時間をほんの少しだけ戻す。すると項垂れていてピクリとも動かなかった爺さんが顔を上げた。

 

───貴様ら……

 

もちろん、この時点でもうこの爺さんの能力は封印してあるから逃げられる心配はない。だがそれを分かっているであろうこの爺さんは、それでも戦意を失ってはいないようだった。

 

「さてさて、ここはどこなんだ?」

 

が、そんな事情はお構い無しに俺はそう問い掛ける。

 

───どこだと……?はっ……何の嫌味だ?

 

「知らねぇよ、俺達ゃ変な奴に無理矢理ここに飛ばされたんだ。だから聞いてんだぜ、ここはどこで、なんて地名かってな」

 

───人間からすればここは地獄だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「あっそ、ここの下にまだ繋がってるみたいだけど、一体全部で何階層あってここは何階層目だ?」

 

ドロリと、魔王覇気を少しだけ纏わせながら俺はそう問うた。俺の魔王覇気に気圧されたのか捕らえられた以上は喋るつもりなのか、アガレスと名乗っていたコイツは口を回す。

 

───ここは下から2層目、全部で9の世界があり、その上が地上だ。

 

「ふぅん。んで、お前やアイツらを、人間は何て呼ぶ?お前らはどんな存在だ?」

 

───我らは地獄の悪魔。人間の魂を喰らう者。

 

なるほど、ここは文字通りの地獄。コイツらは悪魔ってことか。しかもルシフェリアみたいな可愛らしさの欠片もない。ちなみに、魂魄魔法のアーティファクトでコイツが嘘を言っていればすぐに分かる。だが今のところは嘘は吐いていないようだった。

 

「ふぅん。ま、聞きたいのはこんなところか」

 

帰ろうと思えば越境鍵で帰れるので俺にはそれほど聞きたいことはない。ただここがどんな世界なのか把握したかっただけだ。

 

俺は爺さんに掛けていた氷の拘束を解く。すると、ドサリと力なく落ちた爺さんは、意外そうな顔で俺を見上げている。

 

───殺さぬのか?

 

「もういいよ、聞きたいことは聞けたし、アンタじゃ俺には勝てない」

 

───時間をかければ力なぞ回復する。そうすれば我は貴様を殺しに───っ!?

 

俺は爺さんにその先を言わせなかった。魔王覇気を叩き付け、爺さんの息の根を止め───

 

───カッ……はぁっ……!

 

殺しにくる気概があるのなら、後腐れないようこの場で息の根を止めてやろうとしたのだが、この爺さんはなんと昇華魔法で強化された魔王覇気にすら耐えてみせた。しかも、神の使徒のように根本の精神構造が魔物と比べても希薄だから効果が無かったとかではない。本当に、コイツには効いているのにも関わらず耐え抜いたのだ。

 

「へぇ……」

 

それでもう少し魔王覇気を当ててみたのだが、それでもこの爺さんは耐えた。本当ならもう身体が、魂が「死んでしまいたい」として自ら死に至るのに、コイツはそれを耐え抜いたのだ。

 

───ま、魔王様……

 

しかも、先程までは殺意に濡れた瞳だった筈だが、何やら俺を崇めるような眼差しに移り変わっている。

 

「んー?」

 

───我が魔王よ……もし下へ行くのならどうか我と共に

 

「は……?なんで」

 

あと、最近魔王とか言われ慣れてきて普通に魔王様に返事しちゃったよ。おかげでなんかコイツの魔王様になること了解しちゃった雰囲気がある。

 

て言うか、地獄の悪魔に魔王覇気当てたら()()られて配下になるとか言い出されるの、本当に魔王みたいで嫌だな……。

 

───先程、我が魔王はまるで人間がピクニックをするかのようにここを歩いておられた。もしまた下でも同じように過ごすなら、我がいれば戦いになることもないかと

 

「……もし下の奴らがお前ん話を聞かなかったら?」

 

───その時は……戦闘も殺戮も致し方ありますまい

 

「いいのか?そいつらも悪魔なんだろ?お前の友達とかじゃないの?」

 

いや、悪魔に友達概念があるのかどうかは知らないけど、コイツはここを領土だと言っていたから他の奴らはコイツの領民ってことでこの爺さんの庇護下にあったと考えていい。もっとも、強い奴の言うことが絶対、みたいな価値観を持っている奴は割といるから、この地獄の悪魔達も同じように考えているかもしれないが。

 

───友達……ではないでしょう。見知った仲ではありますが……。しかしもし、その中で我が魔王の元に下りたいものがいれば、そ奴も我と同じように取り立ててやってほしいのです。

 

もちろん可能であるなら、とは付け足された。いや、アンタも含めて別に悪魔の配下とか要らないんだけどね。でもなぁ……コイツここに置いて帰ってもそのうち下から湧いて出てきそうだ。そうなると面倒臭そうだな……。

 

ていうかこの問答、エンディミラの時もやらなかった?俺ってそういう星の元に産まれちゃったんかな。

 

 

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