セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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アル=カタVSラピット・スイッチ

 

1年生の部、Aブロック1回戦初戦。つまりは、6月最終週の月曜日から始まる学年別トーナメントの1番手の試合ということだ。そしてそこに割り振られたペア、それは───

 

 

──神代天人/リサ・アヴェ・デュ・アンクVS織斑一夏/シャルル・デュノア──

 

つまり俺達と一夏達の試合ということだ。そして今日の第2試合はラウラ・ボーデヴィッヒ・篠ノ之箒ペアが割り振られていた。

また、セシリア・オルコットと凰鈴音は2人ともあの戦いで自身のISに蓄積されたダメージが規定値を越えたため不参加が確定。

それはとりもなおさず、1年生の中で最も注目度の高い日が今日と明日だということを示していた。この2試合を勝ち上がったペアが確実に優勝する。この学年に、他の専用機持ちはいないからだ。

 

俺と一夏とシャルロットしか使わないだだっ広い更衣室を1人後にし、俺はリサの待つピットへと向かった。

自動のスライドドアが軽快な音を鳴らしてその顎を開けば、その口腔内にいたのはリサ1人。

リサも、俺の姿を認めると、トテトテと駆け寄ってくる。その時に揺れた双丘に思わず目線が吸い込まれそうになるが、それは息を1つ吐いて振り切る。

 

「ご主人様」

 

「あぁ。大丈夫だ。リサは俺が守るよ」

 

何度も繰り返したこの言葉。ルールに縛られ、ISなんて重りを付けさせられてはいるけれど、そしてこれは別に負けても命が取られるようなものでもない。言ってしまえば"安全に痛い"だけなのだ。それでも俺はリサが痛い思いをすることを是とすることはできない。リサだってそれを望んでいない。それならば俺のすることはただ1つ。目の前の敵を、全て叩き潰す。それだけだ。

 

「始まったら直ぐにシールドを展開して引き篭っててくれ。後は全部俺がやる」

 

この試合、いや、全ての試合を俺は1人で戦うつもりだ。まぁ、俺とリサのISは篠ノ之束の実験機でもあるから、それなりの()()()()はあるから、問題はあるまい。俺とリサは触れるだけの軽い口付けを交わし、お互いのISを呼び出す。

 

「……来い、鎧牙」

 

「お願いします、星狼(せいろう)

 

色気なんて気にせず実用性ばかりを押し出した都市迷彩の俺のISと、白銀色が美しいリサのIS。色合いは近いハズなのにどこか正反対の印象を与える俺達のそれは、近接格闘戦を念頭に置いて全身がスリムなシルエットの鎧牙と、とにかく防御力重視でマッシブなシルエットの星狼。この世界における俺達の仮初の力。しかしそんなことはこの世界の人間には関係無い。ここの奴らは皆一様にISこそが比類無き最強の機動兵器だと信じて疑わない。それが俺の心をザワつかせるのだ。けれど、ことここに至ってはそんなことすら些事だ。俺はただリサを守る。その為に刃を振るい、引き金を引く。いつでもどこでも、それは同じこと。

 

「じゃあ行こうか」

 

「はい!」

 

飛び出した先の、シールドエネルギーに遮断された、届くことのない蒼穹と大観衆に囲まれたアリーナでは、織斑一夏とシャルロットがデュノアが、白と橙を纏って待ち構えていた。

 

「ボーデヴィッヒじゃなくて悪いな」

 

まだ戦いの始まりを告げるブザーは鳴っていない。俺達はそれに甘えて前哨戦を繰り広げ始める。

 

「別に、ここでお前達を倒せば一緒だ」

 

「分かってねぇな。お前らが戦うのは俺だけだよ。リサは一切手出ししないし、万が一にも俺がやられたらその時点で即降参する」

 

「……リサさんは戦わないの?」

 

シャルロットも俺達の舌戦に加わってくる。

 

「たりめーだ。リサは戦わない。戦えない。だから俺が守るんだ」

 

それこそが俺の誓いなのだから。

 

「守る、か。俺も、千冬姉や、関わる皆を守りたい。だから天人、お前に負けてなんてられねぇんだ!!」

 

その叫びと共に一夏が己の唯一の得物──雪片弐型──を正眼に構えた瞬間、戦いの始まりを告げるブザーが鳴り響く。その瞬間───

 

「おおおおおお!!」

 

一夏が雄叫びと共に突っ込んでくる。リサは既に下がっていて、浮遊シールドを8基全て展開済み。こうなったリサの星狼の防御力は並のISでは傷1つ付けられやしない程の堅牢を誇る。

 

俺は下から雪片で逆袈裟に斬り上げようとする一夏に向けて十文字の刃の付いたメイスを突き出してその突撃を押し留める。

そして俺の左手側から回り込んで射撃体勢に入ったシャルロットとの間に一夏を放り捨てる。それで射線を一瞬切り、俺は瞬時加速でシャルロットへ接近。

シャルロットは火薬兵器での射撃戦闘が本領───という訳ではない。訓練中の挙動を観察したり色々と開示されているデータを漁ってみたところ、どうやら近接格闘戦も高いレベルでこなせるようだった。むしろ相手に合わせて間合いを調節しながら常に自分が有利な立ち位置で振る舞う戦い方こそが本領という奴だ。

 

そして、俺のISの情報がどこまで開示されているのかも当然確認している。それは、俺の情報がどこまで伝わっているのかということだ。

 

どうやら、基本的なカタログスペックと載せられている武装についてはほぼ網羅。だが鎧牙と星狼のギミックや黒覇の本領については未記載だった。それから俺がシャルロット達との訓練や唯一公にしたオルコットとの試合で使った技能を鑑みると、シャルロットから見た俺の印象は"全距離対応可能な兵装だが操縦者の好みにより近接格闘が多い"という所だろうか。

 

だがボーデヴィッヒが一夏を襲った日に凰は、俺が拳銃で近接格闘戦を行うようなことを口走っていた。それをシャルロットがどれ程記憶しているかは知らないが、俺が()()する可能性を、シャルロットが把握していると考えておく必要はある。

 

だがそれでも、アル=カタに初見で対応するのは相当に難しいだろう。何せアル=カタは、お互いが防弾服を着ていることを前提として、拳銃を一撃必殺の刺突武器ではなく打撃武器として扱う戦い方だ。そんな戦闘スタイルはこの世界には無いようだ。

 

しかし奇しくも、アル=カタの戦い方はシールドエネルギーで守られているIS同士の戦いに符合していた。

 

だが、それでもこの世界でのISの戦闘ではアル=カタのような戦い方をする奴はいなかったのだ。ISの戦闘が基本的に3次元的に行われることでアル=カタの戦闘距離から離脱しやすいからだろう。

 

けれど俺はシャルロットを逃がさない。むしろ、ダメージを与えるよりも離されずに食い付き続ける方を念頭に置いた立ち回りを心掛ける。

この距離でやり合っている限り一夏は零落白夜を下手には使えない。

そもそも、ゼロ距離での格闘戦においては数の利はやや小さい。特に一夏みたいな大きな得物を振り回す奴は格闘戦において複数側であるメリットが小さいのだ。

理由は単純、味方を巻き込みやすいから。

 

もちろん訓練で克服できるが一朝一夕にできるものでもない。

そして一夏は思惑通りに俺とシャルロットの戦闘から追い出される。なるべく一夏を俺の右手側、つまりシャルロットの専用機、ラファール・リバイブの左腕に付けられた大盾を俺も一夏からの斬撃の盾代わりにしているのだ。

シャルロットのそれは、大きさ故にこの距離での取り回しには難があり、格闘戦の役には立たない。右手に構えた近接ブレードで俺の拳銃とやり合おうとするが剣よりも更に内側、ほぼ素手で殴るような距離での格闘戦にかなり困惑しているみたいだった。

 

「こんな……」

 

徐々に削られていくシールドエネルギーにシャルロットが顔を顰める。

 

「くっ……うぅ……」

 

このまま押し切ってまずはシャルロットを落としてしまおう。

当初の作戦通り俺は攻勢を緩めない。弾倉の弾が切れては即座に呼び出して入れ替える。そして左右の拳銃が同時に弾切れを起こさないようにすることで1番隙のできる弾切れの瞬間をなるべく少なくする。注意すべきはとにかく距離を開けないこと。人数じゃこっちが不利な以上は一夏をなるべく戦闘に参加させないことが重要だからだ。

 

そうしてシャルロットのシールドエネルギーを半分程削った時───

 

「うっ!おおぉぉぉぉぉ!!」

 

「っ!?」

 

一夏が瞬時加速で俺達へと突っ込んできた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「あのデュノアさんが距離を離せないなんて……」

 

千冬に呼ばれ、鈴と共に管制室で試合を見ていたセシリアが思わず呟く。その目には、超接近戦で天人とやり合うシャルルと、蚊帳の外に追い出された一夏が映っていた。

 

「ていうか、何であのリサって子は戦いに参加しないのよ」

 

1人で戦えてる神代も神代だけど、と鈴がボヤく。

 

「ふん、どうやらこの大会がタッグマッチにならなければアヴェ・デュ・アンクは即座に棄権するつもりだったらしいからな。それが出来なくなった以上、戦わない選択肢を取ればこうなる」

 

それを耳にした千冬は不機嫌そうに鼻を鳴らして答えた。最初からリサは戦わないというのは聞いてはいたが、まさかこれほどまでとは思わなかったのだ。しかし、これならISの訓練においてもISや武装の展開は早い割に操縦でモタつくことには納得がいく。リサは本当に戦う気がないのだ。

 

だが身を守るためにISや武装の展開だけは練習していたのだろう。

 

「それで、神代さんはリサさんを庇って……」

 

「そうだろうな。相手からすれば、手を出さずに守りを固めるだけのアヴェ・デュ・アンクよりも明らかに手強い神代を先に崩したいと考えるのが普通だ。アイツはそれを逆手にとっているんだろう」

 

「だからってそれを……」

 

「あぁ。織斑はともかく、デュノアを相手にああも自分の距離で戦えるとはな……だが───」

 

(一夏はそんな簡単に置いていける相手ではないぞ、神代)

 

そして、千冬のその想いはアリーナの中で現れる。一夏の、文字通りの特攻によって。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「うっ!おおぉぉぉぉぉ!!」

 

「っ!?」

 

シャルロットのシールドエネルギーを半分程削ったところで遂に痺れを切らしたらしい一夏が瞬時加速で突っ込んできた。零落白夜こそ使っていないが最悪シャルロットすら巻き込みかねない、本当に後先考えていない特攻。しかし一夏とシャルロットの積み上げてきた訓練が、信頼となり、そして俺とシャルロットの間を切り裂くという形でその成果を示した。

 

「まっ!だだぁぁ!!」

 

更に2度目の瞬時加速。真っ直ぐに突っ込みながら振り上げられた雪片を俺は左手に拳銃と取り替えるように召喚したトンファーで受け止める。更に顔面に向けて右手で拳銃を連射。口径こそ大きくはないものの、ゼロ距離で浴びれば衝撃だってそれなりのもの。弾倉に残っていた5発の弾丸をモロに喰らって仰け反った一夏をスラスターの加速を込めた蹴りで吹き飛ばし、その場を離脱。その瞬間に、俺と一夏のいた場所に火線が貫いた。シャルロットがアサルトライフルで俺を撃ち抜こうとしたのだ。俺は左手のトンファーを仕舞いつつ入れ違いで複合型可動ブレードを展開。大型故に取り回しは悪いがバックラーと一体になっており、こういう突貫時には役に立つ。

 

俺は左手に装備したそれを掲げ、瞬時加速を敢行。背部スラスターだけでなく、脚部のスラスターでも瞬時加速を行うことで2段階の加速を得た俺はバックラーでシャルロットの放つ弾丸を弾きながら接近。展開したブレードでシャルロットを真っ二つにするように刃を振るう。

 

「っのぉ!!」

 

だがそれはシャルロットの左腕に装備された大型のシールドで防がれる。……予定通りだ。

 

俺はISの出力差を利用してシャルロットを押し込みつつ、ブレードとシャルロットのシールドを起点にしてシャルロットの周りを旋回するようにして回り込む。更にその一瞬で超長距離狙撃銃──要は対物ライフルだ──を展開、至近距離からフルオートでぶっ放つ。

 

「あぁっ!?」

 

俺の放った6発の弾丸はシャルロットのラファールの背部スラスターを撃ち抜き、機動力を奪うと共にシールドエネルギーを大きく削る。俺は更に左腕のブレードをシャルロットの肩口に叩き付ける。ISの防御機構が肉体の切断をこそ防ぐが絶対防御が発動。アリーナ地表に叩き付けられたシャルロットのシールドエネルギーはゼロになった。

 

そしてそのシャルロットと入れ替わるように飛んできたのは一夏だ。破壊されたラファールのスラスターから出た炎と黒煙を逆にくらましに利用したしたつもりなのかは知らないが、ISのハイパーセンサーはそんなもので敵を見失うことはない。

 

その上、普通に真っ直ぐ突っ込んできたので振り抜かれた雪片もブレードで受け止めるのは容易いことだ。

 

だが雪片を止められた一夏はその場を即座に離脱。恐らく俺の右手の武装が長大なライフルから取り回しの良さそうなサブマシンガンに切り替わったからだろう。うん、さっきのカウンターを受けて学習したみたいだな。だからって、一夏の攻撃手段が雪片しかなく、俺に一撃を入れるには近付かなければならないことに変わりはないのだけれど。

 

俺は複合型可動ブレードを収納し、両腕にトンファーを呼び出す。これを見た一夏はどう思うだろうか。誘ってる?あぁそうだな。けどどっちみち俺に近寄らなきゃ攻撃できないんだから難しいこと考えなくていいだろう?あぁけど……

 

「なぁ一夏」

 

俺は、プライベートチャンネルで一夏に語り掛ける。

 

「……なんだよ」

 

戦闘中の質問に、一夏は胡乱げな表情を浮かべながらも応えてきた。

 

「お前、降参はしないのか?」

 

「なんでだよ」

 

「シャルロットはもういない。お前のシールドエネルギーも結構減ってるだろ。けど俺のシールドエネルギーはほとんど残ってる」

 

この状況でどこに勝機があるんだ?と問いかける。俺としては、これ以上手の内をボーデヴィッヒに明かしたくはないし、ここいらで諦めてくれると非常に助かるのだ。まぁ、何となく答えは分かっているけれど。

 

「お前なら諦めるのかよ……?」

 

「……まさか」

 

ほらな。そして俺の答えも決まりきっている。武偵憲章10条、諦めるな、武偵は決して諦めるな、だからな。

俺の言葉を聞いた一夏は、会話は終わりだと言わんばかりにスラスターを吹かして俺へと突っ込んで来る。馬鹿の一つ覚え……でもないようだ。

 

俺とぶつかり合う直前で一夏は真上に急上昇。俺の真上を取った一夏がそこから瞬時加速で急降下。零落白夜の放つ輝きと共に俺に迫ってくる。けれど───

 

「───なっ!?」

 

その程度のフェイントが読めないわけはない。上からの攻撃に対して身体を開き、トンファーで刃を受け流して無傷で凌ぐ。そしてシールドエネルギーの限界を迎えたのか、一夏の雪片の輝きが薄れ、手にあったのはただの近接ブレード。

 

俺は上空から一夏を強襲。

振り向いた一夏の横っ面にスラスターの勢いを乗せた蹴りを叩き込み、更に吹っ飛んだ一夏に追い付いて左のトンファーで雪片を弾き、一層深く懐に潜り込んだ。

もうこの距離は俺の独壇場だ。剣より更に内側のレンジで腹や頭など、ISの装甲の無い部分を重点的にトンファーで打撃すれば零落白夜で残り少なくなっていた一夏のシールドエネルギーは直ぐに底を突く。

 

「ぐっ……くっ……そぉ……!」

 

そして俺がトドメにと一夏の鳩尾にトンファーを叩き込んだ瞬間、俺達の勝利を告げるブザーがアリーナに鳴り響く。

学年別トーナメント1回戦第1試合は俺こと神代天人とリサ・アヴェ・デュ・アンクペアの勝利で幕引きとなった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「だぁぁぁ……負けたぁ〜」

 

ドサリと、一夏は崩れるように更衣室のベンチに腰を下ろした。ISスーツを上半身だけ脱いだ中途半端な状態で脱力したその姿を見て、シャルロットは頬を染めながら目線を逸らした。

 

「まさか、ほとんど2対1なのに負けるなんてね」

 

当のシャルロットは先にピットへと戻っていたせいか、既に制服に着替えていた。もちろん、男用のそれだ。汗も拭き、制汗スプレーも使用したシャルロットからは汗の匂いなんてものを漂わせることなく、爽やかな香りがその身を包んでいた。

 

「なんかごめんな。俺、ほとんど割って入れなかった」

 

「ううん。仕方ないよ。天人がそうなるように立ち回ってたんだし。相手が悪かったよ」

 

そもそも、一夏とシャルロットは今回の訓練の時間をほとんど連携の確認とラウラのAICへの対策に注ぎ込んでいた。2人の認識では、武装の相性を考えなければ天人とラウラの戦闘力はほぼ同じ。であるならハッキリとした特徴のあるAIC対策に時間を使いたかったのだ。もちろんそこには明確な神代天人対策が思い付かなかったというのもあるし、ラウラと天人では近接格闘においては天人の方が厄介であるにしても、AICのような特殊兵器が無い分、一夏とシャルロットのISであればやや天人の方が与しやすいという判断もあった。

 

だが実際には、一夏からもたらされた天人の"拳銃を近接格闘戦に盛り込んだ特殊な立ち回り"の想定以上の完成度の高さと機動力やパワーといったISの基本性能の図抜けた高さ、更に数的不利を覆すための立ち回りなどに翻弄され続けた。これはもう、場数が違うのだと認識せざるを得なかった。だがそれに関しては2人の間で大きな認識の差があった。一夏は千冬から、天人は過去にISとは関係の無い戦闘経験がありそうだという話を聞いていたが、シャルロットはそれを知らない。故に、シャルロットは疑問に思ったのだ。

 

(ISに触れてからまだ天人は数ヶ月のはず。篠ノ之束の元で訓練を積んでいたのだとしても、あんな立ち回りができるのかな……)

 

そもそも、天人の言動には不可思議な部分が多い。あの時は聞き流してしまったが、自分の性別を見破られた時にも、前に誰か別の人が同じようなことをしていたという節の台詞を言っていた。だがシャルロットは表向き3人目の男性操縦者で、後の2人は一夏と天人だ。つまり天人はIS学園に入学する前の時点で所属していた組織があるはずだ。普通に考えれば中学校なのだろうが、普通の中学校にそんなことをして入る必要は無い。

そうなると特殊な学校ということになるのだが……。

 

(日本には男の子しか入れない制度の男子校っていうのがあったらしいけど……けどそんな、潜入する必要のありそうな学校って、そもそもあるのかな……)

 

シャルロットが思案顔で悩んでいるのを一夏はただ漫然と、今日の試合の反省でもしているのだろうと思い、深くは気にしていない。するとそこへ、天人も更衣室へと戻ってきた。

 

「おう、お疲れ様」

 

「ん、おつかれ」

 

よっ、と手を挙げた一夏に合わせて軽く挨拶を返した天人はそのままISスーツを上半身だけ肌蹴させ、軽く汗を拭いていく。

 

「なぁ天人」

 

「んー?」

 

そこへ、一夏が声を掛ける。あまり興味の無さそうな天人とは対照的に、何やら神妙な顔付きだ。

 

「お前のさっきの、あの拳銃で格闘戦するやつ、どういう技術なんだ?」

 

どうやらこの試合で見せた天人の近接拳銃格闘戦に興味を引かれたらしい。一夏としては、前にも1度見ているため、より興味が湧いているのだろう。

 

「どういう……?どういう……」

 

しかし一夏の漠然とした問いに天人もどう答えたものかと考え込んでしまった。顎に指を当てて上を向いてしまっている。

 

「あぁ、例えば、柔術とか、ボクシングとか、そういう名前的な?」

 

と、自分の質問の意図があまり伝わっていないことを察した一夏が欲しい答えを指し示す。それによってようやく答え方を見つけたのか天人は「あぁ」と頷いた。

 

「アル=カタだよ」

 

「アルカタ?」

 

「そう。イタリア語で武器って意味のアルマと日本語の(カタ)を組み合わせた造語、らしい」

 

「それは、どんな技術なの?拳銃とゼロ距離での近接格闘戦なんて普通組み合わせないと思うけど……」

 

それは、アル=カタを正面から浴びたシャルロットならではの感想。どうやらISとは関係の無い技術を持ち込んでいるようだが、そもそも拳銃なんて生身の身体では1発喰らえばほぼ終わりだ。それに、拳銃の平均交戦距離は約7メートル。なのにそれをあんな距離で扱う理由が分からない。それも、仕方なくそうしたのではなく明らかに意図を持ってそうしているのだ。代表候補生として軍人のような訓練も積んだシャルロットにとってへ当然の疑問だった。

 

その疑問に対し、天人は一瞬、答えを迷ったように見えたが1つ息を吐いて答えはじめた。それは、シャルロットや一夏の想像とは違う回答だった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「それは、どんな技術なの?拳銃とゼロ距離での近接格闘戦なんて普通組み合わせないと思うけど……」

 

更衣室へと戻り、汗を拭いて、さぁボーデヴィッヒの試合でも見るかと思っていたところ、一夏からあのシャルロットとの格闘戦は何だったのか聞かれたので、まぁ別にいいかとアル=カタだよと返したら、今度はシャルロットからそれはどんなものかと聞かれる。シャルロットにとっては余程物珍しかったらしい。まぁ、拳銃の平均交戦距離を考えたらあんなゼロ距離で、それも殴り合うようにして弾丸を放つような戦い方はそうそう見ないのかもしれない。

教えて、それで何がどうなる訳でもないかと俺はアル=カタについて軽く教えることにした。

 

「お互いに防刃防弾服を着ていることを前提に、ナイフと拳銃で戦う近接格闘技術だよ。防弾服を着ていれば、拳銃の弾丸は一撃必殺の刺突武器じゃなくて打撃武器になるからな」

 

「そんな状況ある?」

 

「俺のいた所はよくあったんだよ。そこら辺はまぁ、織斑先生に聞いてくれ。俺は説明が面倒臭い」

 

織斑先生には武偵に関しては話してあるし、何より今はボーデヴィッヒの試合を見ておきたい。相手は専用機持ちでもなければ代表候補生でもないから、果たしてまともな勝負になるのかどうか、怪しいけどな。

次の試合までは多少時間もあったはずだが、ここでくっちゃべってたおかげであんまり余裕もなくなってしまった。

俺はそそくさと、それこそ逃げるように更衣室を後にした。

 

学年別トーナメント1年生の部、第2試合、ラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之箒ペアは、試合開始から1分程で勝利を収めていた。

 

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