セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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地獄とあの時の真相

 

 

羅針盤に従い見つけた階段を降り、この地獄の最下層に降り立つ。そこは切り立った崖の上で、眼下には廃墟のように見える大きな都市が広がっていた。そしてその奥にはまるで欧州の宮殿のような建物が。

 

「あれは……?」

 

と、俺は捕食者(いぶくろ)の中にいるアガレスに聞いてみる。一応この爺さんの怪我は治したが、面倒なので捕食者の胃袋に収めてしまったのだ。それと、あのワニも再生魔法と魂魄魔法のアーティファクトで半分蘇生して宝物庫に放り込んであった。

 

───七王の万魔殿です。この最下層にいる悪魔達の象徴に御座います。

 

「ふぅん」

 

と、俺達は眼下の都市に降り立つ。そして、またいつも通りくっ付いて廃都市の中を歩き回り、適当に写真を撮ったり時折キスを交わしたりして散策していく。

 

すると、また何やら俺達と戦ってた時のアガレスみたいに頭の中に直接響く声。

 

───ほう……人間か?小僧が現世への侵攻を呼びかけておったが、その弊害か?

 

───クククッ……大公爵が出し抜かれるとは面白い。

 

その大公爵さんは俺の腹の中にいるんですけどね。

 

───貴様らは手を出すな。あれは我のものとする。

 

あ、これは早速アガレスさんの出番みたいです。

 

と、俺は捕食者の胃袋の中からアガレスを召喚。目線で「早く説得しろ」と急がせる。

 

───うん?大公爵アガレスではないか。……もしや貴様、そこな人間風情に捕らえられたのか?

 

───クハハハハ!!これは傑作!あの大公爵ともあろう御方がまさか!

 

で、アガレスさんは出てきた途端嘲笑の的になっている。まぁそりゃあそうだよな。悪魔的には人間を下に見ているっぽいし、そんなのに捕まっていたんなら嗤われるか。

 

───これは警告だ。この御方達に手を出すでない。貴様らが何もしなければこの方達もこの都市を見て回るだけで帰るであろう。我の領地は既に居城ごと葬られた。貴様らもそこの万魔殿も、跡形もなく消滅させられたくなければ今は引くが良い。

 

と、アガレスさんの説得が始まる。だが……

 

───フハハハハハハハッ!!これはこれは!あのアガレス様がまさか人間風情の下僕に成り下がるとはな!ハハハッ!この退屈な地獄でまさかこれほどの娯楽があろうとは!!

 

───むしろ貴様をそれほどまでに情けない存在に成り下がらせたそこの人間に心底興味が湧いたぞ。

 

───しかり、その魂の味、髄まで味わいたいものだ

 

「交渉決裂じゃんね」

 

「申し訳ありません、我が魔王」

 

むしろ悪魔さん達のやる気ゲージがマックスですよ。ほらもう何か蜘蛛の下半身を持つオッサンとか炎を吐く巨大な狼とか色々な化け物達がワラワラと湧いて出てきた。

 

「じゃあもう1回入ってろ」

 

と、俺は左腕の神機の捕食でアガレスを再び腹の中へ収める。さてさて、また神代魔法クラスの超常が飛んでくるんだろうな。

 

「仕方ありませんね、天人さんと一緒にいるんですから、こういうのは避けようがないですぅ」

 

「人のこと喧嘩生成マシーンみたいに言わないでくれます?」

 

シアがドリュッケンを担ぎ、身体強化Ⅶを発動。俺も多重加速式拳銃を召喚し、両腕からは黒鱗のブレードを出現させる。

 

戦闘……開始だ───

 

 

 

───────────────

 

 

 

巨狼がその顎を開けて俺に迫る。それを円月輪のゲートで背後に通し、そこに多重加速による超々音速の弾丸を放つ。更にビット兵器を召喚し、化け物共に目掛けて魔力の衝撃変換を付与された炸裂弾を多数お見舞してやる。

 

その隙を突こうと言うのか向こうから飛ばされる魂を揺るがす不可視の衝撃や業火に雷撃、氷の槍等々……色々な魔法っぽいものが飛んでくる。勿論そんなものは俺に触れた瞬間に俺の力に変わるのだが、それで得られる力の量が異常だ。どれもこれもユエが放つ最上級魔法か神代魔法クラスの力に変わっていくのだ。

 

更に馬に乗った騎士のような悪魔が香織のよく使う再生魔法による時間加速──神速──で俺に急接近。その手に持った刃で俺を両断しようと迫る。

 

俺は左手に覇終を召喚。斬撃に弾丸をぶち当てて逸らし、奴の突進を躱しながら左手を振り抜いた。

 

──ゴウッ!!──

 

と、黒い斬撃が騎士を両断する。俺のこれには氷焔之皇が纏わせてもあるから当然奴には魔法的手段での防御は不可能。

 

シアも、自身に一息の間に接近してきた化け物にドリュッケンをぶつけて叩き潰した。

 

───よく足掻く。まこと素晴らしい魂の輝きよ。特に女の方は素晴らしい。

 

「……あぁ?」

 

───実に良き素材だ。才能は聖女を超えるか。

 

───しかり。ただ喰らうには実に惜しい

 

───丈夫な肉体だ。あれならば何度でも孕めよう。

 

「ふわっ!?」

 

シアがおぞましいものを見たかのように総毛立ちドリュッケンを構え直す。だが驚きに塗れた可愛らしい声はそれで発せられたものではない。俺から溢れ出た魔王覇気の冷気を僅かに感じたからだ。

 

「シア、悪いけどもう冒険デートも終わりだ。……アガレス、多分もう俺ん下に付くって奴ぁ出てこねぇぞ」

 

何せ、ここにいる奴らは全員俺が終わらせるからな。アガレスとの戦いで忘れていたけど、そう言えば悪魔は人の女を()()使うんだったな。ただ自分のテリトリーに侵入した者を殺すってだけならまだ良かった。けれどこれは……シアを……俺の女をそんな風にしようとする可能性が1%でもある奴らの存在を、その1%足りとも俺は残しておくことが出来ない。

 

俺は太陽光収束兵器を7機全て召喚。シアを抱き寄せ、悪魔達や万魔殿なる宮殿に向けてその光を放つ。第2炉も解放、万魔殿だけでなく逃げ惑う全ての悪魔を陽の光で消滅させんとさらに薙ぎ払う。第3炉、第4炉と次々に出力を高めていく陽の光。それだけではない、空には無数の巨大な魔方陣。そこから顔を覗かせるのは極太の氷の槍の切っ先。俺は羅針盤でこの階層にいる悪魔達の位置を全て補足。地の底の空から殺意と破壊の権化を解き放つ。

 

世界から音が消えた。

 

そう思えるほどの蹂躙。例え小さな悪魔であってもただの1匹すら存在を許さない陽光と氷の魔槍が、人にとっての地獄の底を、悪魔にとっての地獄へと変貌させたのだった。

 

「さて……上の階の奴らもシバいてから帰る。……シア、天井はよろしく」

 

「はいですぅ」

 

第9階層を更地にした俺はふぅと息を吐いてシアが天井の岩盤を撃ち砕くのを待つ。

 

シアのドリュッケンは今や神が宿っている。神様なんて胡散臭くて敵わないのだけど、コイツらは心底シアに心酔している奴らだからまぁいいか。それに、正確には神ではなく神霊。それもそいつらから捻り出された分御魂なのだから。

 

「───ドリュッケン・神装(ネーメジス・アドヴェント)!!」

 

ドリュッケンに7色の光が点る。その呼び声が起こすのはドリュッケンに眠る神霊達。彼らはドリュッケン外縁部に装備された宝物庫の中に自らの世界を構築していて、ドリュッケン内部の宝珠を中心にそれら全てが繋がっている。そしてシアの呼び声に応じ、彼女の願いを叶えるべくその権能を振るうのだ。

 

「アドヴェント───オロス!」

 

ちなみに起動の呼び声がドイツ語なのはシアの趣味。どうやら元々がドイツ語で名付けられたドリュッケンに合わせたらしい。あと別に声を上げなくても起動はする。シアがそう念じれば、あの神霊達は勝手に起き出すからな。

 

そして今、ご指名を受けたオロスがシアの振るうドリュッケンに合わせて権能を発動。コイツは大地の神霊だ。当然権能もそれに(ちな)んでいる。

 

そして、その権能によって明らかに膂力による粉砕とは違う砕け方をする岩盤。爆砕の波が真っ直ぐ上へ上へと続き、砕けた岩は周りとくっ付きその穴を塞ぐことなく通路となる。そうして連鎖する爆砕は遂に天井を穿ち、穴から僅かな光を齎した。どうやら地上に繋がったようだ。いちいち羅針盤で1つ上の階層を指定して越境鍵で渡るのは面倒臭い。どうせ悪魔共は叩き潰すのだからこの神装モードの使い勝手も試しておきたい。

 

そうして俺達は1つ上の階層へと戻る。すると、ここの主を倒されたことを察知してか俺達の周りに続々と異形の怪物達が集まってくる。

 

「───シア」

 

「勿論ですぅ!───アドヴェント、ソアレ!!」

 

次にシアが呼ぶのは炎輪のソアレ。それが持つ権能は光熱と炎。どうやら陽の光が苦手らしい悪魔達に爆炎と陽光が暴力的に叩きつけられる。さらにシアがドリュッケンを振るえば炎が津波のように悪魔達に襲い掛かる。

 

俺もダメ押しとばかりに太陽光収束兵器を再び召喚し、本来なら上空から狙い撃ちにするためのそれを水平に照射。炎の津波と太陽光の水平撃ちに悪魔達はその数をみるみるうちに減らしていく。

 

それで大体片付いたのでまたシアがオロスの権能で地盤をぶち抜いて次の階へ。しかし下の様子を把握していたのか俺達が上へと出た瞬間に凄まじい数の悪魔に囲まれる。だが───

 

「アドヴェント───ウダル!!」

 

その声と共にシアがドリュッケンを眼前の悪魔に叩き付ければそこから幾千幾万もの雷撃が飛び出す。それは悪魔の肉体を焼き貫き雷が雨のように……しかし物理法則を無視して下から降り上がる。

 

そしてまたシアは天蓋をぶち破って反転。さらにドリュッケンを振り被りながらまた別の神霊の名前を呼ぶ。

 

「アドヴェント、バラフ&エンティ!」

 

バラフが司るのは氷雪と冷気。エンティが司るのは風。彼女らの権能が合わさり顕現するのは絶対零度のダウンバースト。

 

「───アドヴェント!メーレス!!」

 

しかもそこに水流を司る神霊メーレスの権能を叩き付ければ一瞬で液体は個体に変わり、シアの空けた穴に蓋をする。それでもこの地獄の悪魔達は時折何らかの手段で突破してくるのだが───

 

「アドヴェント、ライラ!」

 

黒い槍がドリュッケンから放たれる。それは狂乱を齎す霊素の槍。それに貫かれた悪魔達は雲散霧消といった風に消えていく。俺達は時に霊素で、時に魔素や魔力でもって悪魔達を蹂躙しながら上へ上へと登っていくのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「───ブモォォォォォ!!」

 

と、牛の顔と人間の身体をした化け物をシアがグーパンでぶん殴り、その勢いで岩盤もぶち抜く。すると少し空気が変わった。どうやら地上が近いようだ。それともう1つ大きな変化が。

 

この地獄で結局見ることが出来なかった人間が、遂に現れたのだ。いや、地獄なんだから人間なんて見られなくていいのだけれど、ともかくいたのだ。

 

1人は見覚えのある日本人男性。それと欧州人と思われる、修道服を身に纏った男女が何人か。不思議な組み合わせの集団だと思うが、日本人男性が遠藤浩介だったからまぁさもありなん。

 

「神代!?なんで神代!?」

 

で、遠藤の方はどうやら俺と鉢合わせる可能性は考えていなかったらしく、目を見開いて驚いている。

 

「あぁ……色々あってシアと地獄巡りツアーついでにこの悪魔達殲滅してた」

 

「何があればそうなるんだよっ!?」

 

しかし、どうしてこの遠藤は出会い頭からテンションがマックスなんだろうか。正直ちょっと付いていけない。

 

「あ、遠藤さん、髪切りました?」

 

「切ってねぇよ!」

 

と、シアがさっきの怪物を地平の彼方までぶっ飛ばしてこちらに戻ってきた。それ見て遠藤は「早う状況説明しろや」みたいな目で俺を睨む。

 

「シアとイギリス北部をデートしてたら変なのに絡まれて地獄の下の方に飛ばされた。んで、悪魔達が汚らわしい目でシアを見てきたから殲滅しながら登ってきた」

 

「岩盤ぶち抜いてきたのはただ単に面倒臭かったからですぅ。なのでそっちも殺っちゃいますね」

 

と、なんかやたらめったら湧いている悪魔に向けてシアがドリュッケンを構える……のだが俺はそれを一旦制止。もうここまで来たら強い悪魔もいないし、態々神霊達の力を借りるまでもない。

 

俺は絶対零度を放ち、氷の槍を悪魔達の足元から真上に向けて射出。それで大半の悪魔を消滅させて終わらせる。

 

「後はこれを……」

 

と、俺は神話大戦の時に余っていた太陽光の爆弾を穴に放り投げる。階下で起爆したそれはまとめて地獄を焦土にしてくれる。

 

「おし。……んで、遠藤達はどーしてこんなとこに?」

 

俺が念の為氷で大穴を塞いで振り向けば遠藤は何やら俯いていて落ち込んでいるかのようだ。ま、見れば遠藤達は皆一様に着ている衣類はボロボロで、全員が銃火器や刀剣類のような分かりやすい武器を持っているわけではないが、どうやら武装もしているようだ。きっとこの地獄に戦いに来たんだろう。

 

「あぁ……はい。……この人達はエクソシストで、この地獄にはクレア……あぁ、こっちの金髪の女の子ね。んで、このクレアの両親の仇でクレアのことを母体として狙ってたり現世への侵略を目論んでたりしたアンノウンって悪魔を倒しに来たんだよ。それで、さっきどうにか倒して帰ろうとしたら、アンノウンが最期の足掻きで下の方の悪魔達を現世に解放しちゃったんだ」

 

「……んっ、じゃあ越境鍵で出よう。アイツら、下手するとお前らじゃ荷が重い」

 

確かユエも今はこっちに来ていたはずだがいたのは日本だったはず。ハウリアの拠点探しと言うことで飛び回っていたのは俺とシアだけだからな。あの子達は皆日本でそれぞれ修行したり旧交を暖めていたりしていたハズ。

 

それにクレア達はどう見ても日本の方ではないし、そうなると戦場は欧米のどこかになるだろう。ユエを呼ぶにしろ、さっさと地上に戻った方が良さそうだ。

 

「あ、あぁ。頼む」

 

俺は遠藤にうむと頷き越境鍵で遠藤ご指定のバチカン市国はサン・ピエトロ広場へ繋がる扉を開いた。そうして俺と合流したことで遠藤と、そして俺のことを少しは遠藤から聞いているらしいクレアさん達は安堵の表情を浮かべている。

 

そして、クレアが遠藤を見る瞳の色に、淡い色が滲んでいるのを俺とシアは見逃さなかった。

 

「あれ、大丈夫ですかね?」

 

「ま、ラナがどうにかするんでしょ。アイツ、遠藤にもハーレム作れみたいなこと言ってたし」

 

あと、ラナがリサやユエ、シア辺りにそこら辺の心構えを聞いて回っているのを俺は知っている。だからどうこうって訳でもないが、きっと遠藤にもこの先色んな苦労が待っているんだろうなぁと、俺は少しだけ彼に思いを馳せた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

───王よ、何故そのような小娘に……っ!お答え下さい!

 

「貴様らぁ!やはり悪魔の手先だったか!!」

 

「ち、ちがうのー!悪魔とかミュウは知らないのっ!これはホントーなのぉ〜!」

 

デモンレンジャー──と、ミュウが総称しているミュウのペット代わりの生体ゴーレム達。そんな機能付けてないのに喋るし予想外にコミュニケーションが取れるらしい──に乗ったミュウとそれに迫るガタイが良くて顔が怖い爺さん。更にその後ろには殺気立っているエクソシストと思われる集団。それとどうやら地獄から出てきたらしい悪魔達がデモンレンジャー達に何か、敵意とは別に疑問があるかのように迫っている。

 

そしてそれを呆れ半分理解不能が半分で見ているユエや召喚組。

 

マジで状況に頭が追いつかない。何がどうなればこんな不可思議な三つ巴状態が生まれるのか。しかもユエ達はともかくミュウまでこっちに来てしかもゴーレム使って戦いに参加していたとは……。

 

あと地面に死屍累々と転がっている人間達はどなたですか?誰か俺にこの世界(じょうきょう)真理(じじつ)を教えてくれ。

 

「あっ!パパぁぁぁぁぁぁ!」

 

すると、俺が来たことを察知したミュウがデモンレンジャーから降りたミュウが俺にダッシュで寄ってきてジャンプ。それを受け止めながら見渡せば、今度は顔の怖い爺さんが俺を睨む。

 

「んー……」

 

と、俺は少し思案する。さてさて、地獄の悪魔共が王と呼ぶあのデモンレンジャー。身体は俺の作ったゴーレムだから、明らかにその中に()()いるんだろう。ていうかあんなコミュニケーション機能付けてねぇし。……1番手っ取り早いのは、これだな。

 

「カモン、アガレス」

 

俺は捕食者の胃袋からアガレスを召喚。どうしてかアガレスもガタガタ震えているけど大丈夫かしら。

 

「ア……アガレスだとぅっ!?」

 

と、また顔の怖い爺さんが怒髪天を衝く勢いで俺に詰め寄って来たので……両手両足を氷で拘束。この人が暴れると話が進まなさそうだ。

 

「さてアガレスさんや、あの中にいるのはアンタの知り合いかな?」

 

俺は氷の拘束を砕こうとバタバタ───しようとしても氷の拘束は全く壊れる気配がないので口だけ暴れる爺さんは無視してアガレスに話を振る。するとアガレスはデモンレンジャーを少し見て、ふむと頷いた。

 

「肯定します、我が魔王。あれの中にいるのはベルフェゴール、サタン、アスモデウス、ルシファー、マモン、レヴィアタン、バアルゼブブに御座います」

 

なるほど、ルシファー以外の名前にはとんと心当たりがないけれど、取り敢えず悪魔らしい。しかもアガレスが知っているということはあの地獄の悪魔だ。そいつらがどうやってトータスに来てあれに乗り移ったのかは知らない……いや、可能性として考えられるのは───

 

「───おい」

 

俺は魔王覇気を発動。更に視覚効果も狙って限界突破と固有魔法の威圧も同じく発動させる。ただし魔王覇気は変に当てると面倒なので奴らの周りに這わせるように留める。それでもデモンレンジャー達は身体が鉱石でできているとは思えない程にガクガクと震えている。あとアガレスさんも思い出しカタカタしている。

 

「テメェら……魂の1片も残さずに消えるか?」

 

更に俺は銀の腕を発動。その白焔が何をもたらすか、どうやらコイツらは分かっているらしい。土下座をしながらそれはもう必死に首を横に振っている。下手したら首が千切れ飛びそうだ。

 

で、後ろで事の成り行きを大人しく見守っていた悪魔達も狼狽。というか、コイツらはコイツらで俺の魔王覇気にビビって手を出せなかった雰囲気だ。けれど、まさか自分らの王が俺に傅き、あまつさえ土下座なんてするとは思わなかったのだろう。そんな姿を取るなとデモンレンジャーに迫る。

 

「───お前らも、消えたくなけりゃ黙ってろ」

 

と、俺は魔王覇気を悪魔達にも向ける。別にコイツらは消滅しても構わないので割と当てるつもりで。それに完全にビビり散らかした悪魔達は後退る。けれど俺はそんな逃げは許さない。氷の槍をそこら中から突き出して悪魔達を逃がさない。空にいようが地面にいようが構わず槍で囲んだ。更にビット兵器も召喚、その銃口は悪魔達の集団に向けられていた。

 

さて、悪魔は基本的に女と見るやそいつを孕ませたがるクソ迷惑な野郎共だ。そんな奴らの筆頭達がミュウの傍にいるってことは……そういう目的だと考えられるわけだ。そうであるなら俺はコイツらの存在の1%足りとも残さずに消し飛ばす必要性があるわけで……。

 

「パパ、パパ」

 

ゴーレムごと太陽光収束兵器で消し飛ばしてやろうかと思った直後、ミュウが俺を呼ぶ。

 

「……んー?」

 

「べるちゃんたちね、悪い子じゃないの」

 

「んー?」

 

「うんとね、べるちゃんたち言ってたの。べるちゃんはただ退屈で、支配とか争いとか……そういうのばっかりなお友達も嫌で……それである日に自分達と似た気配?力?を感じて来てみたら、ミュウたちがいたんだって」

 

「似た力……」

 

それは神代魔法のことだろうか。確かにあの時トータスは戦争に備える真っ只中で、俺も神代魔法その他色んな力を使っていたし、そうでなくともあの時は魔法的に様々な力が溢れていただろう。しかもエヒトが無理矢理神域とトータスを繋いだから世界の間の境界が揺らいでいてもおかしくはない。それに、世界は俺が腕を1振りするだけで数十の世界をすれ違えるほどに近いのだから。ただ、普段はそれを俺や向こうの誰かだって感じることが出来ないほどに隔てられているだけで。

 

その境界が揺らいだ隙にあの地獄とトータスの間を抜けてこのゴーレムに取り憑いた……まぁ有り得なくはない。コイツらの上位陣は神代魔法レベルの……それもその本領に近い権能が振るえるのだからな。

 

「それにね、ミュウには力がないから母体?っていうのにはなれないんだって。それに、姫にそんなことするわけないって必死で言ってるの。なんでかは分からないけど、ミュウといると安らぐしすっごい楽しいって言ってるの」

 

「ふぅん」

 

もしミュウを使って謀ろうとしているのなら、容赦せずにその存在を丸ごと消し飛ばすぞ?という目線をくれてやればデモンレンジャー達はこれまで俺が見てきた誰かの頷きよりも10倍は早い超高速の頷きを見せてきた。

 

さて、そうなると……

 

俺がつい、と顕現した悪魔達を見やれば、デモンレンジャー達は俺が何を言うでもなく壮絶なプレッシャーを放つ。それは流石地獄で王と崇められている存在だと言う他ない。それほどまでに尋常ではない圧が、悪魔達を平伏させるに至る。

 

俺が氷の槍を引っ込めると有象無象の悪魔達も一斉に俺に傅く。そしてデモンレンジャーの誘導に従って悪魔達は元来た道を帰っていった。

 

「パパ、ミュウはべるちゃん達のこと好きなの」

 

「おう……」

 

ミュウがそう言うのなら今はこれで良しとしよう。けれどもし何か不穏な動きを見せるようなら……

 

スルりと撫でた俺の魔王覇気で言いたいとこは伝わったらしく、デモンレンジャー達は見事な敬礼を披露。そしてその間ずっと、アガレスは思い出しカタカタをしていた……。貴方よくそれであの時の魔王覇気を生き残れましたね……。

 

 

 

───────────────

 

 

 

あの後の後片付けは全てマグダネス局長他、バチカン市国の偉い人やジャンヌといった組織犯罪&証拠隠滅に慣れた頭の良い人達の指示に従ってアーティファクトを振るった。

 

そして、その後は何故だかローマ教皇含めたオムニブスと言うらしいあのエクソシスト集団、それとイギリスの保安局と召喚組に俺達武偵組を合わせた4集団での対談が行われた。

 

対談って言っても別に大したことはない。基本的にそっちからこっちに変に干渉してこないでね、俺達悪い子じゃないよってのと、召喚組が──これには俺達武偵組を含む──イギリスや欧州で活動する場合は向こうに連絡を入れること。場合によっては協力体制が築けるし、そのほうが効率的なこともままあるからな。

 

で、こちらからも要求。とは言ってもハウリア達の活動拠点が欲しいってだけだ。俺達の世界とこっちの世界を繋げる拠点は香織達のいる日本に欲しいし。カムもラナの近くにも置いておきたいから欧州支部って感じだけどね。とは言え召喚組……最近は帰還者とか呼ばれているらしいけど、ともかくコイツらの神秘の力を狙っているのは世界中にいる。そいつらの情報を集めては遠藤が気合いで頑張る、もしくは俺達が出張る、その判断は基本こっちでやることになった。欧州と日本を行き来する扉程度であれば既にあるアーティファクトを使えば十分だしな。

 

メヌ曰く、こっちのイギリスはもうすぐEUを抜けそうだからイタリアにも拠点があるのは良いことでしょうとのことで、それに従ったのだ。俺達との連絡係として遠藤を指名しておくこと、イタリアにも防弾防刃布を提供することでこれもお互い合意となった。

 

後はハウリアも連絡係になるのだけれど、そっちはそもそも誰がこっちで俺達の方には誰が来るのか──誰も来ないのかも含めて──何も決まっていないので保留。そもそも拠点も決まっていないしな。この辺は面倒だからもうカムにでも任せるかな。

 

さて、俺達はそんな風に世界と世界の間を行き来しつつ繋がりを深めていた。そして、俺はふと思い付いたイタズラを決行すべく、遠藤とクラウディア──クレアさんはクラウディア・バレンバーグさんと言うらしい──を尾行していた。

 

正確に言えば、遠藤とクラウディアの関係の進展を覗きにきた馬鹿共……具体的にはイギリス保安局の特殊部隊隊員とオムニブスの奴ら、帰還者組にユエを二重尾行しているのだ。ちなみに帰還者に香織はいるが雫や天之河はいない。と言うか天之河は今はトータスで神域から逃げ出した魔物を狩りに出掛けている。アイツもそのうち回収せねばならない。

 

そして、ユエと香織の2人掛りの魂魄魔法によって両親の魂と対面したクラウディア、それとそれに寄り添う遠藤の雰囲気が中々良い感じだったのだが、保安局の奴らもその他の奴らも……ユエと香織以外の尾行が死ぬほど下手くそだったから割と序盤から遠藤にはバレていて、何かもうエミリーまでクラウディアに突撃しているしで、まるで告白しようとしている奴を野次馬しているだけの集団のようになっていた。

 

いや、まるでも何もクラウディアはそんな雰囲気だったのだが……何かもう滅茶苦茶だ。ま、どうせこうなることは分かっていての俺の準備。何かもうウダウダを極め過ぎてもうカオスになっているその場に、俺はさっきからずっとウズウズしていて抑えるのが大変だったとある奴をそこに解放した。つまり───

 

「こうく〜ん!!」

 

遠藤浩介の恋人、ラナ・ハウリアがその人だ。で、そのラナは、遠藤に自分含めて7人の伴侶が欲しいとか言い出す大バカ野郎なのでせっかくの4人目誕生のチャンスを逃すわけが無い。クラウディアを言葉巧みに誘導し、4人目に仕立てあげようというところで───

 

「よう、遠藤。ハーレムも楽じゃねぇだろ?」

 

と、俺はさも、覗き組にいたけど助け舟を出しに来た感を装って遠藤に寄る。

 

「か、神代?」

 

で、ラナには俺が出てくることは伝えていなかったから「あれ?」って顔をしている。ふふふ、ラナも上手いこと俺の罠にハマってくれたな。

 

「ま、慣れれば大丈夫だよね。浩介()()()()()()?」

 

「!!?!?!!!?!?!?」

 

と、俺の下の名前プラスお義兄ちゃん呼びに遠藤の顔が凄いことになっている。驚きと気色悪さと恐ろしさとその他色々な感情が綯い交ぜになって混沌としているのだろう。

 

「何驚いてんだよ浩介お義兄ちゃん。ラナ()()()()()()と夫婦になるんだから遠藤だって俺のお義兄ちゃんだろ?」

 

「カヒュッ!!??!!!???!?!?」

 

で、窒息でもするかのような小さな声がラナから聞こえる。もちろんこのサプライズお義兄ちゃんお義姉ちゃん呼びのターゲットにはラナも含まれている。そして俺の目論見はとても上手にハマっているようで、2人とも今まで俺が見てきた人類がしたことのないような顔をしていた。

 

「まったく……シアは俺の嫁。ラナはシアより年上の同じくハウリア。ならラナは俺のお義姉ちゃんでありそれと夫婦(めおと)になる遠藤はお義兄ちゃんだろ?……ねぇ、エミリーお義姉ちゃん?」

 

「ヒョオッ!!??!!!???!?!?」

 

ついでにエミリーにも話を振ってみたらエミリーまで形容し難い混沌を形成してしまった。なんでこうどいつもこいつも俺が普段とちょっと違う呼び方をするとこうなるかね。

 

すると、俺の肩をツンツンと叩く奴が1人。まぁ気配感知で分かっていたけど振り向けばそこには何やらもの凄く物欲しそうかつ期待した輝く瞳で俺を見るヴァネッサさんがいた。コイツはコイツで遠藤の3番目のお嫁さんを名乗り、またラナもそれを認証しているのだ。ただ、残念なことにこのお姉さんは日本文化……特にアキバ系サブカルチャーにどっぷりで言動がまぁ残念だった。だから───

 

「どうしたの?駄目なヴァネッサ姉ちゃん(ダねーちゃん)

 

───ガクゥン

 

と、音が聞こえてきそうなほど分かりやすく項垂れる……どころか地面に四つん這いになって沈むイギリス保安局が誇る凄腕捜査官ことヴァネッサさん。これはもう放っておこう。

 

「というわけで、宜しくね。クレア義姉さん」

 

と、俺は今のこのカオスに目をクリクリさせているクラウディアに握手を求める。この人は本当にお人好しのようで「あ、はい」なんて言いながら普通に握手してくれたよ。しかしエクソシストだのシスターだのから存在が邪魔だとか1周回っていないもの扱いされるとか、そういうのがないってのはいいね。

 

と、俺は向こうの世界の酒豪シスターを思い返しながら、むしろこっちの方が過ごし易い世界なのではなかろうかという疑問を浮かべていた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「さて……」

 

俺はユエとティオを連れてリムルの世界にやってきていた。と言ってもここは荒野で周りには何も無いし誰もいない。別にリムルに挨拶するのが目的ではなく、この世界の仕組みを利用しに来ただけだからな。それが終わればさっさと帰るつもりだ。その頃には多少()()()()も冷めているだろう。

 

まったく遠藤の奴め、あんなのはお茶目なイタズラの範疇だろうに、まさか深淵卿を全力全開で使って追いかけてくるとは思わなんだ。

 

俺はお義兄ちゃんお義姉ちゃん騒動でキレ散らかした遠藤から逃げるついでにやるべきことを済ませておこうとこっちに来たわけだ。

 

「面従腹背の悪魔さんや」

 

と、俺に掛けられた言葉にアガレスがビクリと肩を震わせる。跪いて項垂れるその顔はよく見えないけれど、身体中から恐怖の感情が溢れ出ている。

 

「アンタ、確かに嘘は言っていなかったけど───」

 

「───そこから先は、我から申し上げます」

 

と、俺の言葉を遮り顔を上げたアガレスが口を開いた。

 

「確かに、我はあの時包み隠さず正直に話すことで信用を得、別の機会に復讐するつもりでいました」

 

アガレスの話す真実に、ユエとティオが殺気立つ。既にユエの手には蒼い焔が現れていて、ティオの手のひらにも漆黒の魔力が集まっている。

 

「───けれど、我が魔王の体内にてその思考は全て消え去りました。エクソシスト共がその名を聞いただけで震え上がるほどの悪魔達をこともなげに鏖殺する圧倒的な戦闘能力、体内にいたからこそ感じられた奔流する力と、世界の起源へと繋がる孔、巨大な竜の影、それと……星───」

 

竜の影は多分ヘルムートの化身かな。あれ取り込んだまま特に使ってなかったからな。入れっぱなしのそのままだ。それと、星……永遠に廻る天星(アンフィニ・リュミエール)のことだろう。アガレスはどうやら俺の捕食者の中で俺の中を駆け巡る力の一端を見たようだ。そして、それに心を完全に折られた。

 

「我を照らすその遥かな輝きと圧倒的な力の奔流に、我は貴方に下ると決めたのです。我が魔王……我が一等星。どうか……」

 

「───アガレス、大公爵アガレス」

 

俺は、この世界に来て初めてアガレスの名前を呼ぶ。魂魄魔法による鑑定じゃあアガレスは嘘を付いていない。それは俺のアーティファクトだけでなくユエとティオも認めたことだ。

 

あの時は俺のアーティファクトでコイツは俺に服従していないと直ぐに分かった。情報そのものには嘘は見当たらなかったが、俺を我が魔王と呼ぶ……その()()だけは嘘だったのだ。だからコイツは俺を信用させて後ろから刺すつもりなのだろうと思っていた。それ故に氷焔之皇で空間魔法は封じていたし、面倒だから基本的に捕食者の胃袋の中に収めていた。それが結果的にコイツの心を折り、今こうして俺に心から傅く状況を生み出すとは思わなかったけど。

 

「これはっ───!?」

 

そして、俺に名前を呼ばれたアガレスに大きな反応がある。勿論俺の中からも魔力や魔素が凄まじい量抜けていく。もっとも、今は聖痕をも開いているからそれほど問題は無いのだけれど。

 

前にユエ達でやったことがあるが、この世界ではただ名前の無い魔物に名前を付けるだけでなく、既にある名前をもう一度呼ぶことで上書きができるのだ。そして、名前を付けた奴と付けられた奴はその魂が回廊で繋がる。

 

その繋がりは強固で、そう簡単に途切れるようなものではない。同時にこれはアガレスに対する枷でもある。()()()()()()()()()()()()()()()というな。

 

「さて……もう1つ───っと」

 

俺は宝物庫から覇終を召喚、それを地面に突き刺し右手で柄を握る。それで魔素を注ぎつつそこに左腕をかざし……魔素を解放した。

 

「───天人っ!?」

 

宙を舞う俺の左腕を見てユエが驚きの声を上げる。そう言えば何をするのか本当のところを言うのを忘れていたな……。けど大丈夫だよ、腕くらい再生魔法で幾らでも戻るから。と、ティオを見やるまでもなくティオが再生魔法で俺の左腕の欠損を戻す。

 

そして空を舞う自分の左腕を掴んでそれをアガレスに押し付ける。

 

「我が魔王っ!?」

 

その意図が読めなかったらしいアガレスも驚いている。

 

「……俺ん腕とお前の身体、その境界に干渉するんだ。大丈夫、今のお前なら出来るはずだ」

 

と、俺も変成魔法でアガレスの身体と切り飛ばした自分の左腕を繋げていく。アガレスも自分の魔法の真髄はそれなりに分かっているらしく、瞑目して意識を研ぎ澄ませていく。そして俺達から魔力光が吹き上がる。アガレスの藍色に俺の真紅が混ざる。それらは二重の螺旋を描いて空を昇っていく。そうして段々と俺の左腕がアガレスの身体の中へと溶けるように消えていった。

 

「……んっ、終わったかな」

 

これはもう1つの縛り。俺は事前に俺自身の左腕に鉱石を仕込んでいて、そこには魂魄魔法が付与されていた。それによりコイツはもう俺の下から逃れられない。そして俺の意に反する行動は起こせなくなった。仕込まれた魂魄魔法がアガレスの魂に干渉し、それを拒否するのだ。地獄の悪魔を従えようってんだからこれくらいのセーフティネットはあってしかるべきだろうよ。

 

「あぁ……我が魔王と我の肉体が1つに……」

 

更に、アガレスの身体に変化が起こる。きっと名付けや俺の左腕を取り込んで大量の魔力や魔素を得たからだろう。今までは爺さんの身体だったアガレスは……今や若返りどころか男に見ようと思えば男に見え、女に見ようと思えば女に見えるという、中性的を通り越してどこか神秘的とすら言えるほどの造形を手に入れていた。ただし、声はしわがれたお爺ちゃんのままだからギャップが凄い。

 

「あとこれ。あげる」

 

と、俺は宝物庫から大鉾(おおほこ)を放り出した。特徴的なのは巨大な両刃で、その刀身の長さは1メートル程あり、幅は覇終を2本並べたくらい。重量だって大の大人が4,5人で抱えようって言ったってそうはいかない。だがそんな巨大な鉾を、それでもアガレスは片手で持ち上げ、振り回す。

 

「おぉ……我が魔王……我が一等星……力だけでなくこれ程までの武器まで賜われるとは……」

 

ちなみにあれには纏雷と魔力の衝撃変換が付与されていて、更に使い手自身の魔力を受けてその魔法を発動させる……つまりはあれから空間激震や切断を放つことも出来るのだ。

 

「あぁあと……」

 

と、俺は宝物庫からもう1つ取り出す。1つというか1匹……あのワニだ。入れたのが宝物庫だったからアガレスとは久々の対面になるな。

 

「おぉ……おぉっ!我が従僕よ……」

 

「ま、俺ん世界はそんな大きなワニを泳がせてらんねぇからこっちに入ってもらうけど」

 

と、俺が取り出したのはそこのワニと大鉾用の宝物庫。このワニは当然夜エサも要らない。なので取り敢えず普段はこの中に入っていてもらうだろう。それに、そのうちソアレ達の力を借りて世界の1つでも構築してやろうと思う。

 

「そのワニ、名前あるの?」

 

「いいえ……これまではありませんでした。しかし……では今からお前は"オネスト"だ」

 

オネスト……正直とか誠実という意味を持つイタリア語。てっきり地獄の言葉で名付けるかと思っていたから意外だな。

 

そして、アガレスから魔素や魔力といった力がゴッソリと抜けていくのが分かる。俺は無限に湧くそれに任せていられるがアガレスはそうもいかないだろう。急に襲い掛かる倦怠感にフラフラと、しかし絶対に倒れることはしないという維持を見せた。

 

「……イタリア語か」

 

「はい。我が魔王と共に人の世界で生きていくという証です。この言語を選んだのはあのエクソシスト達の使っていた言語だから……という程度ですが」

 

「ふぅん。……その大鉾も、名前欲しいなら自分で付けな」

 

俺は基本的に自分の作ったアーティファクトに名前を付ける気が無い。リムルのいる世界にいた時は何となく武器に名前を付けていたけどトータスに来て、アーティファクトが唯一無二になってからは必要も興味も無くなったのだ。ドリュッケンは頼まれて仕方なくだし越境鍵は他の空間転移アーティファクトとの区別が必要だったから態々考えたものだ。

 

「では……ザンナ・ディ・ディアボロと」

 

悪魔の牙(ザンナ・ディ・ディアボロ)……魔王に仕える悪魔の武器としちゃあ上等な名前だな。さて、これでこの世界での用事は全部終わったんだけど……

 

「……どうした?」

 

俺が虚空に声を掛けると、フワり……突如として人影が1つ現れる。どうやらユエやティオ、アガレスはそれの存在に気付いていなかったようで驚きに目を見開いている。

 

現れたのは燕尾服のような黒い服を着た黒髪金瞳の美青年。しかし人間であれば白目であるはずの眼球の色は黒で、それが明らかに人ではない存在であると知らしめている。

 

「おや、バレていましたか」

 

「ま、俺ぁお前の気配はよく知ってるからな」

 

あとコイツ、俺達がここに転移してきてかなり早い段階で俺達を見張っていた。別にこの世界やリムルにとって悪いことしてるわけじゃないから放っておかれてたし、俺も無視してたけども。

 

「それで、リムル様に挨拶でもされますか?」

 

「そうね。ま、折角こっち来たんだしな」

 

ちなみに、俺がリムルの世界を出てからはまだ時間が追い付いていないからさっきこっちに来る時には越境鍵では時間も超える羽目になった。だから多分、コイツらの認識だと俺が最後に来てからまだ数日しか経っていないことになっているのだ。

 

「ふむ……今なら大丈夫とのことです」

 

と、ディアブロが念話でリムルに確認を取る。

 

「じゃ、俺達は先行くわ」

 

そこで俺は越境鍵を取り出し、リムルの元までの扉を開く。それにディアブロもうむと頷き、その気配は何処かへ消えていった。

 

「おーす、リムル」

 

「おう、早く入れよ」

 

そして俺はリムルと1年振りくらいの、リムルにとっては数日程度振りの対面を果たすのであった。

 

 

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