セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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機械仕掛けのディストピア

 

 

寿命処理、禁忌……聞かされた話はどれもこれも胸のすくような話ではなかった。そして、それを聞いて確証こそないものの俺の中で1つの仮説が確信に変わる。

 

つまり、この世界を守護しているマザーこそこの世界の危機を作り出した張本人であると。そして、あのヒトデの外敵はマザーがこの完全支配の王国を作り上げるために用意した虚仮の侵略者。要は全てがマッチポンプ、本当に救いようのない結末なのだろう。まるでトータスのようだ。

 

けれどそんなことは俺には関係が無い。どうせこの世界を変えなきゃこの世界から出られないのだ。ならば敵が誰だろうと関係無い。むしろ、どこにいるのか分かりやすくて助かるよ。

 

そして、俺の確信が確証を伴う。

 

いきなり声が聞こえたのだ。そこから逃げろと、敵が来ていると。それはジャスパー曰く楽園の主───つまり俺達をこの世界に呼び出した黒幕。しかも面割れしているのは俺と天之河だけでなくジャスパーもと言うのだ。だがジャスパーは機兵との戦いの時にはガラクタの山の中にいて、顔なんて分からなったはずだ。アイツの顔が晒されたのはあの流体金属のヒトデとの戦いの時だけ。その時の映像データをマザー率いる機兵が持ち合わせているってことは、アイツらは裏で繋がっているってわけだ。

 

さて……仕方なく俺達は2手に別れる。俺と天之河、それからジャスパーとその家族だ。ジャスパー達の誘導は楽園の主とやらに任せる。と言うか、ジャスパー達を巻き込んだのはアイツなのだから、アイツが責任持って最後まで助けろってんだよ。その代わり、俺達は陽動。機兵達の注意を一手に引き付けジャスパー達が逃げる時間を稼ぐ。

 

さて、陽動と言うのなら派手にいかなけりゃならないよな。俺は逃げながら召喚しておいた電磁加速式重機関銃を腰だめに構える。そしてそこに思いっ切り纏雷のための魔力を注ぎ込みながら引き金を引いた。

 

異世界の魔法と鉱石、それと現代技術の相の子(ミックス)である銃火器がマズルフラッシュを閃かせる。それは無数の紅い閃光を伴って空に浮く機兵を蹂躙していく。聞き慣れない銃声と機械の破壊される音に下界の人間達がゾロゾロを出てきては俺を見上げている。ついでだ、もう1つ派手に()()()()やろう。

 

「あぁ?何見てんだよ、見せもんじゃねぇんだ!さっさと失せねぇとぶっ殺すぞ!!」

 

なんて、思ってもない殺意を撒き散らせばそれを真に受けた奴らはこぞって悲鳴を上げながら逃げ惑う。化け物だの侵略者だの散々な言われようだがこれでいい。これでコイツらは俺達とは繋がりのないただの一般市民になったのだ。

 

「おし」

 

「これで満足気な顔をするお前は本当に魔王だよ」

 

なんて、天之河から嫌味を言われるけどコイツだって俺のこれがただのポーズであることは分かっているから、ちょっとジト目を食らわせるだけでそれ以上何かを言うことはなかった。

 

俺は機関銃を左腕に抱えたまま右手には電磁加速式拳銃もホルスターから抜いておく。

 

そうして天之河を引き連れながらその場を離れ、そして時折襲ってくる機兵を斬り捨て撃ち抜いていく。

 

「神代……ジャスパー達は大丈夫だよな?」

 

「さぁな。楽園の主さんは少なくとも全力で助けようとはするだろうけど……有能かどうかは別の話だよ」

 

アイツはきっとこの世界をマザーの支配下から逃れさせたくて俺達を呼ぼうとした。だからきっとジャスパー達を見捨てることはないだろう。けれど、その意志と結果が釣り合うかどうかは……全く別の話なのだから。

 

「そんな……」

 

そんな話をしている間にも機兵は続々と飛んでくる。俺達はそれを打ち砕き、斬り裂いて進む足を止めない。まだ越境鍵は使えない。時折ジャケットの内ポケットに収めた鍵に魔力を注いでいるのだが、全く反応が無い。まだ世界は俺を認めていない。

 

「……安心しろ、一旦逃げ切ったらアイツらの安全は保障する。それまでジャスパー達が死ななけりゃあな」

 

「それって……」

 

───どういうことだ?

 

とでも言いたかったのだろう。天之河は頭に疑問符を浮かべていた。だがその疑問が口を出ることは無かった。何故なら───

 

「助けてくださいっ!異界の戦士様!!」

 

「…………」

 

「え?」

 

楽園の主とやらからSOSが発せられたからだ。遠見の固有魔法で見れば、500メートル先でジャスパー達が機兵に襲われている。どうやら楽園の主の用意したコードやルートを読み取られたようだ。そしてジャスパーが機兵に撃たれた。だがまだ助かる。俺ならその手札がある。

 

俺は電磁加速式拳銃をホルスターに仕舞い、対物ライフルを召喚。電磁加速をもってして超々音速に至った弾丸でジャスパー達を襲撃している機兵を撃ち抜く。更に天之河が一気に駆け出し、ジャスパー達と機兵の間に割って入る。そして3体の機兵を一息に両断。俺も対物ライフルで機兵共を打ち砕いていく。

 

しかも、空から襲い掛かってきた機兵に対し、天之河は聖剣を50メートルも伸ばして両断したのだ。え、それそんなに伸びるの……?こわ……何それ知らん。

 

だが惚けている暇はない。続々と機兵は集まってくるのだ。俺もライフルと機関銃を仕舞いながらその場を飛び出してガトリング砲を構えた機兵を拳で殴り潰す。そしてミンディに神水の入った試験管を投げ渡す。

 

「ジャスパーに飲ませろ。助かる」

 

何やら慌てふためきながらもジャスパーの元へと向かったミンディは放って、俺は両手に拳銃を構える。久々の二丁拳銃(ダブラ)だな。機兵の数は100以上。けど問題は無い。ここにいるのは異世界の勇者と魔王。負ける道理なんて存在しない、そんな理不尽は全て捩じ伏せる。

 

戦いの狼煙は、俺の両手から放たれた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

───G10(ジー・テン)

 

別に、地球の中でも大きな国───先進主要10ヶ国のことではない。これは楽園の主の名前……もっと言えばコードネームとか開発番号とか型番とか、そんな味気無いものだ。

 

機兵共を叩き潰して逃げ仰せた俺達を再び地下に導いたのがコイツ。バスケットボール大の大きなの金属の玉。ただし自力で浮遊可能。しかも喋る。そしてその正体は高度なAI(人工知能)

 

で、コイツの隠れ家へ向かう道すがらに話を聞く限り、やはりマザーはマッチポンプでこの世界を理想郷(ディストピア)として支配している張本人のようだ。俺の推測──あの流体金属とマザーは同一の側にいる──も正解とのこと。

 

「そこまで分かってたなら教えてくれてもいいだろう?」

 

と、天之河に睨まれる。ジャスパーは自分達を守ってきてくれていたはずのマザーが実は敵で……しかも侵略者までマッチポンプだと聞いて取り乱していたが、今は落ち着きを取り戻しているみたいで、俺達の話を黙って聞いている。

 

「G10からジャスパーまで面割れしてるって言われるまでは物証無かったからな。それに、色々込み入った話もしたかったし……」

 

本当はジャスパー達のいないところで話したかったのだがもうこうなっては仕方ない。天之河とも共有すべき情報だし、この楽園の主(G10)からももっと情報を引き出したいからな。全てぶっちゃけるか。

 

「さて……取り敢えず天之河よ……俺ぁ実は魔力の制限が無いんだ」

 

まず天之河がずっと疑問を抱えていたであろうことに答える。俺が宝物庫からアーティファクトを出し入れする度にコイツは疑いの目を俺に向けていたからな。

 

「色々あって俺ぁ無限に魔力を生み出すことが出来る。越境鍵が使えないのは本当だけどそれは別の問題。宝物庫も固有魔法の制限も無いんだよ」

 

どちらにしろ効率は滅茶苦茶に悪いけど、と付け足す。それを聞いて天之河は「それでももっと色々出来ただろう」と言いたげな顔をしている。

 

「ま、言いたいことは分かるよ。必要なら力も使うけどね。ただ、敵の正体が分からないうちはある程度手札は隠しておきたかった」

 

現状、俺を魔王たらしめている究極能力である氷焔之皇は使い物にならない。科学技術に全振りで超常の力の働いていない敵ばかりなのだ。多重結界はあるが魔素の働きも阻害されていてどれだけ上手く働くのか分からないし。敵の姿形も力も分からない以上、ギリギリまでこっちの全力も伏せておきたかった。

 

「それで……鍵が使えない理由だけど、この召喚には世界の意思が含まれてるからだと思う」

 

「世界の、意思……?」

 

「世界にはおおよそ決まった運命がある。しかしそれには個人の命運は含まれていない。これがまず前提。……んで、この世界はきっと最後には人間が支配する世界になる。それがこの世界の運命……だと思う。けど多分、この暗黒郷(ディストピア)もまた運命の一部だ。これを経ることがきっとこの世界のルートなんだろうな」

 

でなければこの世界はこんな風にはならないはずだ。この世界の人間には世界の運命は変えられないのだから。もしくは、今のこの世界は何らかのバグが起きているのか……。

 

「そして、外から呼ばれた奴がこれを解決する……きっとここまでが決まった運命」

 

「と言うことは……俺達は絶対にマザーに勝つってことか?」

 

「いいや……世界の運命に個人の命は関係無い。しかも世界は気が長いからな。現状こん世界は直ぐに壊れるほどに歪んじゃあいない。奇しくもマザーとやらが果てのないディストピアを作ってくれたからな。だから俺達が死んでもまたそのうち世界は新しい異分子(イレギュラー)を見繕ってくるんだろうよ」

 

だからこそ油断ならないのだ。この世界にとって俺達は使い捨て……どころかここで失敗しても次の機会にまた誰か別の奴を連れてくればいいという程度にしか思われていない。お前の代わりなんていくらでもいるんだからなってやつだ。

 

「で、G10よ。マザーの正体とやらはお前と同じAIでいいのか?」

 

「はい、神代様。マザーの正体は───」

 

 

 

───────────────

 

 

 

G10から聞かされたマザーの正体、そしてこの世界が歩んできた歴史……。ジャスパーを選んだ理由。それらを聞いて天之河がG10に問う。

 

「……G10、君は肉体の機械化が出来ると言った。……教えてくれ……寿命処理って言っても30歳は若すぎる。……マザーが行う、寿命処理ってなんだい?」

 

そう、それは俺もずっと気になっていた。最初にジャスパーの町に入った時、明らかに年寄りがいないから疑問だったのだ。だが子供はいた。それもそれなりの数だ。決して衛生的な環境ではなかったが、小さな子供がそれなりの数いるってことは疫病が流行っているわけでないだろうと俺はあの場で結論付けたのだった。そしてジャスパーから寿命処理の話を聞かされ、景色には納得した。だが30はいくら何でも早すぎる。これも俺がマザーのマッチポンプを疑う1つの要因ではあったのだ。だが、G10から語られた寿命処理の本当の理由は───

 

──全ての機兵の頭脳には人間の脳みそが使われている。寿命処理とは、彼らの脳みそを機兵に移植すること──

 

「ゔ……おぇぇぇぇぇ」

 

それを聞いて天之河は嘔吐した。自分が人間を沢山殺したのだと思ってしまったのだ。俺は天之河の吐瀉物を絶対零度で消し去りつつペットボトルに入った水をやる。

 

「……殺されて機兵にされて、そいつは納得するのか?」

 

「いいえ、神代様。そういう問題ではありません。寿命処理を施される段階で肉体だけでなくエピソード記憶も完全に破壊されるのです。人は……記憶なくして個人ではいられません。光輝様の行いは、一種の救いなのです」

 

なるほど、人間の脳みその処理能力だけを使いたいってわけか。そして、それをある程度発揮させるために30年間生かして発達させる。気持ちの良い話じゃあねぇな。

 

「天之河、人間の脳みそだって所詮は電気信号のやり取りだ。コンピューターとさしたる違いはねぇ。たかだかピンク色の半導体を叩き斬ったくらいで気に病むこたぁねぇよ」

 

「神代は……気付いていたのか?」

 

「まさか。寿命処理にゃ何か秘密はあるだろうとは思ってたけど、俺の予想の100倍は気分の悪い話だったよ」

 

30歳じゃさすがにそうそう孫までは作れない。しかも念のいった思想教育や敢えて学問から遠ざけて教養を奪っているのだ。頭の足りない奴らばかりにしてかつ若いうちに回収してしまえばこの世界の有り様に疑問を持つ奴は少なくなる。管理のためにそのサイクルを早くしているのだろうと俺は思っていたのだ。だがマザーのやり方は、俺の想像よりももっと質の悪いものだったようだ。

 

「ま、今の話聞いてそうやって自分のしてきたことを疑えるのは良いことだぜ。自分の正しさを疑うのは……結構難しいからな」

 

昔の天之河にはできなかったことだ。きっとトータスに来たばっかりのコイツなら何らか自分に都合の良い設定を勝手に付け加えて自己正当化を図っていただろう。けれど今のコイツは自分のしてきたことを疑える。それはとても難しいことだ。俺のように、それでも敵なら砕くと一切合切振り返ることなく進む奴よりも余程上等だ。

 

「さてと……じゃあジャスパー達は一旦ユエ達の方に送るか」

 

ここだっていつまで安全なのか分かったものじゃない。下手に回収されて人質にされても面倒だ。さっさと安全な世界に飛ばしてしまおう。

 

「鍵は使えないんじゃないのか……?」

 

「んー?だからこれから使えるようにするんだよ」

 

どうやって?という疑問が隠せていない顔の天之河は放って、俺はジャスパー達とG10に向き合う。

 

「俺は……俺達は必ずこの世界をマザーから人の手に取り戻す。この場でお前達にそれを誓うよ」

 

「神代様……」

 

「神代さん……」

 

これは宣誓だ。ジャスパー達にではない、この世界そのものへの宣誓。だからここからは逃げないよと、世界の隔たりを繋ぐ扉を開けさせろという世界への要求。そしてそれは……どうやら承認されたらしい

 

「……いける」

 

俺は羅針盤で特定したあの砂漠の世界……ユエ達のいる場所に繋がるように越境鍵を回す。俺の中の永遠に廻る天星(アンフィニ・リュミエール)が凄まじい勢いで回転する。確かにこの世界はあの砂漠の世界からも遠いが、それに輪をかけて莫大な量の魔力が消費されていく。これを全部衝撃変換で衝撃波に変えたらきっとここの下界くらいは更地に出来るだろうというほどの魔力を注ぎ、そして鍵は回る、世界は繋がる。

 

開かれる扉、まるで光の膜のようなそれの向こうにユエ達はいた。どうやら皆でゆっくりお茶会を開いていたようで、皆目を見開いている。特にモアナとクーネなんかはこれの経験が無いからか腰を抜かしないか心配になるな。

 

「ユエ、シア、ティオ、アガレス、ちょっと手伝ってくれ」

 

俺がそう4人に願えば彼女達は直ぐ様こちらへ渡ってきた。

 

「なんじゃ、我のことは呼ばないのか?」

 

「カーバンクルも戦える」

 

「んー?あぁいや、ルシフェリアとカーバンクルは待っててくれ。……香織達も、そっちで待っててくれ」

 

するとルシフェリアは何かごちゃごちゃ言っていたが、取り敢えずカーバンクルと香織は分かったと頷いた。そして───

 

「ジャスパー……お前らは向こうに行っててくれ。向こうならマザーの手も届かねぇだろ」

 

俺は扉を開けたままジャスパー達にそう告げる。G10の異世界召喚システムは独自のものらしいから別の世界に逃げてしまえば追っ手は来ないだろう。だが、数秒俯き……そして顔を上げたジャスパーは

 

「悪い、神代さん。俺達もこっちに残ってもいいか?」

 

そう、強い意志の篭った瞳をして告げた。

 

「……なんで」

 

「神代さんの言いたいことは分かるよ。ここがマザーに突き止められて、人質にされる可能性があるんなら、一旦安全な世界に逃げて、そして全部終わったら帰ってくるって。けど、さっきG10も言ってただろう?……俺は抗う者だ。もしかしたら何も出来ないかもしれねぇ、ただ足を引っ張るだけになるかもしれねぇ。それでも、この世界の……俺達の世界の行く末を、自分だけ安全な場所で眺めてるなんてできねぇよ」

 

そう語るジャスパーの瞳はまるで燃えているように輝いていて、俺は思わず頷きそうになる。

 

「兄さんだけを残したりはしないわ」

 

しかも、ミンディまでもがそう強く頷いたのだ。その上子供達までここに残ると、何も出来なくても、せめて安全地帯にただ逃げるだけのことはしたくないと言うのだ。

 

「……それで、どうするの?」

 

と、ユエが俺に問いかける。その瞳はどこか悪戯心を孕んでいるようで、まるで俺を試しているかのような声色だった。

 

「……分かったよ、ならお前らもここに残れ」

 

仕方なしに俺はそのまま扉を閉じる。再び世界と世界の隔たりが横たわる。

 

「……あ、忘れてた」

 

だが俺は1つ向こうの世界に忘れ物をしていたことを思い出した。そしてまた馬鹿みたいな量の魔力を注いで扉を開く。全員から「コイツは何をしているんだ……」という目線を頂戴するがそれは放って俺は扉から顔を覗かせる。

 

「あ、モアナいる?……いたいた、あのさぁ、さっき天之河が初対面のお姉さんのことナンパしてたー。んじゃ」

 

「えっ───!?」

 

俺は言うだけ言うとそのまま扉を閉じる。向こうからモアナの黒い雰囲気が漂ってきたけどそれも世界の隔たりを越えることなく途切れた。

 

「よし」

 

「何も良くない!!なんてこと言ってくれたんだ!?根も葉もないデマじゃないかっ!!早くもう一度扉を開け神代っ!モアナの誤解を解かなきゃ!」

 

振り向けば天之河がキレ散らかして俺の肩を掴んで揺さぶってくる。その顔はもう必死の形相だ。

 

「えぇ……だってお前、ミンディが……」

 

と、俺は一部始終を録画していたスマホを取り出し、天之河に証拠動画を見せてやる。ジャスパーの家に着いた時、天之河がミンディに優しく声をかけてミンディが"ポッ"とした時の動画だ。

 

「おまっ……いつの間に!?」

 

「帰ったらちゃんとモアナとクーネに見せてやらなきゃな。もちろん音は消して」

 

会話の内容はそれほど変なものでもないけど、逆に音が無ければ天之河がそのイケメン面を使って初対面の年上お姉さんをナンパしているように見えるからな。情報とは、こうやって使うんだよ。

 

「くっ……今すぐ消せっ!!」

 

「やだねー」

 

と、俺はそのスマホを宝物庫へ放り込む。そうすればもう天之河はこれに手出しは出来ない。

 

「ぐぅ……なら仕方ない、この戦いが終わったら神代を暗殺するしか……っ!」

 

物騒だなおい。けど天之河よ、言葉には気を付けろよ?お前の後ろでユエ達が色々構えてるから。

 

「……神代だって、ミュウちゃんと娘がいながらリスティを新しい我が子にしてたじゃないかっ!」

 

で、それを察知した天之河は物理的に俺を排除するのは無理と見てかユエ達に俺の処断をさせる方向にシフトしたようだ。急に名前を出されたリスティはリスティで凄い勢いでこっちを向いているし。目がランランと輝いている。ユエ達がリスティを見てから俺を見る。アガレス以外がドン引きだ。

 

「我が子にしたんじゃない!我が子のように面倒を見ただけだ!あとどうせそのうちユエ達ともちゃんと子供作るんだからセーフ!!」

 

なにをー!なんだとー!と、ドッタンバッタン大騒ぎ。取っ組み合い掴み合い……そんな最底辺の争いが結局俺がシアにジャーマンスープレックスを喰らい、天之河がアガレスに押さえつけられるまで続いたのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「……それで、どうするの?」

 

大型のソファーを召喚し、そこに寝転がった俺の頭を自分のフトモモに乗せたユエがそう問う。ユエの細い指が俺の髪を梳く感覚がこの上なく気持ち良い。この世界の情報共有は既に終わらせた。目的も伝えた。だから、後はそれをどうやって行うのか、という部分だ。

 

「……その前に1つ聞いていいかな」

 

「んー?」

 

だが、そこに天之河が割り込んでくる。ユエは俺との会話を切られて少し不機嫌そう。天之河もユエのそのジト目にちょっと怯むがそれでも直ぐに取り直して言葉を続けた。

 

「この世界は魔力が霧散するのに、ユエさん達は大丈夫なのか?」

 

「んー?……あぁ、そういや天之河知らなかったっけか」

 

永遠に廻る天星(アンフィニ・リュミエール)と同時に作成されたあの小さな星。あれは一旦鍵のアーティファクトに収まったのだが、まだアーティファクト以外の面で、実際に世界を繋ぐ運用の調整が出来ていない。だから鍵に収められていた星々を取り出して、取り敢えずユエとシアとティオの魔力炉として使うことにしたのだ。それぞれペンダント型のアーティファクトに収められて3人の胸元で輝いている。ただ、普通に填めるとあまりにも大きすぎるのでそこは空間魔法を使って先っちょだけ出るようにしていた。

 

それらを総称して守護天星(システム・ソレール)と言う……らしい。名付け親は俺ではない。しかも太陽系(システム・ソレール)って言ってる割に現状使っているのは3つだけだし。

 

「何をだ?」

 

「いやな、俺ぁ今魔力が無限に出せるって言ったろ?あれ、まぁアーティファクトでやってんだけどさ、それの少し小さくて、でも魔力は無限のやつ、ユエとシアとティオにも渡してあるんだよ」

 

確かに初級魔法ですら最上級魔法レベルの魔力を要求される厳しい世界ではあるが、魔法が完全に無効化されるわけではないのだ。だから無限に湧く魔力にものを言わせて強引に強力な魔法を使うことも、今の俺達なら可能だったりする。ま、身体強化のような魔力が体内で完結する魔法であれば普段通りに使えるから、シアにとってはこの世界は他の奴らよりは比較的戦いやすいんだろうけど。

 

「アガレスは俺からの魔力供給があるからこっちも実質制限無しってわけよ」

 

「とんでもないものがとんでもない人達に渡っている!?」

 

天之河が戦慄に震えている。まぁトータスでユエと少しは一緒の戦場にいたんだ。ユエに無限の魔力っていうのがどれほど恐ろしいか、少しは想像も付くだろう。とは言え、きっと天之河の想像以上にヤバいのが魔力制限無しのユエ様なんだが。

 

「ちなみに、アガレス……さん?はどれくらい戦えるんだ?そこらの暗き者くらいなら全く寄せつけないくらいには強いんだろうけど」

 

天之河がアガレスの戦闘を見たのはあの砂漠の世界での一瞬だけだ。あれだけでもそれなりに強さの程は分かるだろうが、それでもまだまだあの程度はアガレスの本気とは程遠い。

 

「んー?アーティファクト無しでシアとやり合える」

 

しかも肉体強度はあの地獄で出会った時よりも増しているからな。魔力の霧散現象が無ければこいつ1人でも機兵の100や200なら余裕で蹴散らせる。

 

「化け物じゃないか!?……え、神域にでも乗り込むのか!?」

 

アガレスは天之河にはそれほど興味が無いのか丸っと無視しているが、こっそり化け物呼ばわりされたシアがイラッとした顔で拳を握り締めた。敵に言われる分には気にしないどころか嬉しい言葉らしいが、どうやら天之河に言われるのだけは大層嫌らしい。マズイな、シアから天之河の後頭部をぶん殴る予兆が出ている。

 

ここで天之河の頭部が消し飛んでも面倒なので俺はシアをチョイチョイと呼び、しなだれかかってきたシアの髪を梳く。するとシアは幸せそうに顔を擦り寄せてきた。どうやら天之河の頭の無事は守られたらしい。

 

「あ、あのぉ……」

 

と、そこで今度はジャスパーがおずおずと手を挙げる。別にここでの発言は挙手制ではないのだが。

 

「んー?」

 

「そちらの方達は……神代さんの家族?助っ人?」

 

「どっちでもあるよ。家族で、助っ人」

 

「その、光輝さんの感じだと滅茶苦茶に強そうですけど……」

 

するとG10も「説明を求めます」とピカピカ光ながらジャスパーに同意している。

 

「あぁうん……何かもう、全部解決しちゃった気がする……」

 

と、天之河はそんな感じで項垂れている。確かにこれだけのメンツがいれば別に天之河もいらないからな。多分いなくても勝てる。この4人はそれだけの奴らだ。

 

「そ、そんなに……」

 

「うん、誰か1人でも俺より何十倍も強い人ばかりさ」

 

一応は俺達の戦いを傍で見ていたジャスパー達が驚きに表情を固定され、G10はピカピカと、ビックリ仰天!!みたいな意思表示なのか無意味に輝いている。

 

「……むぅ。それで天人、どう攻めるの?」

 

お話を中断されたユエ様が無理矢理話の軌道を戻してきた。

 

「どうって……取り敢えず1晩休んだら皆で正面突破。そんで普通にボコす」

 

別にそんなに複雑なことをする気は無いし、そうしようと思ったら最低でもジャンヌは呼んでこなければ作戦が立てられない。我らがチーム・コンステラシオンの参謀は俺ではなくジャンヌさんなのだから。ちなみにリーダーも兼任させている。俺?俺はサブリーダー兼特攻役。他に出来ることも無いしな。

 

そんな作戦もへったくれも無い至極単純な行動指針に天之河は溜息。とは言え俺達の魔力に制限が無い以上はこれくらいシンプルな方が良いというのも分かっているから特に文句を言うつもりもないようだ。

 

「じゃ、そういうことで」

 

と、俺は隠れ家のテーブルに宝物庫から適当に食べ物と飲み物を召喚する。何をするにしろ、まずは食べて飲んで、そして寝る。この世界に飛ばされてきてからこっち、気を使う戦闘が多かったからもう俺は疲れたよ。

 

という俺のボヤキを知ってか知らずか、それぞれが席に着き、これから始まる戦いへ向けたそして束の間の休息の時間が始まったのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

俺達は天門とやらの内側に来ていた。G10が言うにはこの先にマザーはいるとのこと。ジャスパー達は上界と下界の狭間にあるG10の隠れ家に隠れてもらっている。いくらこの戦力とは言え、G10曰くマザーは空間に干渉する技術や局所的な天候操作の技術まで持っているらしく、それらの全てが物理的攻撃であるが故に俺の絶対防御(ルフス・クラウディウス)の天敵。流石に戦場にまでは連れて行けない。覚悟だけではどうにもならないものだってあるのだ。

 

て言うか、魔力の霧散現象は魔素にもそれなりの効果を発揮していて、多重結界や熱変動無効が上手いこと働いていないのだ。あまりオラクル細胞にも頼りたくないから実は俺の防御力はいつもと比べると非常に心許ない。この、天之河から見たら過剰戦力とも思える助っ人達はそういう側面もある。

 

しかし妙だ。一応俺達は足で隠れ家から出て、そのまま門の前を警備している機兵達を叩き潰して侵入したのだ。けれど門の内側には機兵すら全くおらず、まるでもぬけの殻。まぁ、マザーとすれば俺達が攻めてくるであろうことは想像に難くない。人間と違ってAIだと言うのなら時間の感覚も俺達とは違うだろうし、何日でも気にせず戦力を集めて罠を張っていられるんだろうな。

 

俺としてもいきなりマザーの真ん前に出るのは何が出てくるか分からないから嫌だ。マザーの正体がAIである以上はバックアップがいくらあっても不思議じゃない。しかも、それで逃がすと今度は俺達には場所を特定する能力と瞬間移動出来て、しかもそれは何らかのゲートを通過する方法であるとバラしてしまう。それを知ったマザーにどんな手段を取られるかも知れたものじゃない。だから俺は羅針盤で特定してマザーを扉の向こうから銃殺する作戦は採っていないのである。

 

そしてG10を真ん中に据え、正面をシアとアガレスが、両翼をティオと天之河、後衛に俺とユエが並び順路を進んでいく。だがいくら進んでも機兵どころか銃弾の1発すら飛んでこない。しかしこの建物のどこかで爆発音が聞こえるのだ。だが山1つ丸ごとがマザーの居城であるここを、9合目くらいまで登ったところでその音も止んだ。

 

「……音が止んだ」

 

「ワケは分かんねぇけど、取り敢えず進むしかねぇよな」

 

俺も既に電磁加速式拳銃を抜いて構えている。天門までは俺の火器や機兵から奪った銃火器、それからG10が掻き集めた兵器をメインに使って突破してきた。まだユエ達の魔法はほとんど晒していない。だからそれほど極端な対策は取られない筈だが……。

 

色々な疑問はありつつもとにかく進むしかない俺達は足を止めない。G10がハックして目の前の重い扉を開く。するとだだっ広い空間に出た。用途不明な機械の類が散らばっている体育館程度の広さの空間。機兵はおろか、セントリーガン等の罠も無さそうだ。

 

奥には円形の台座があり、取り敢えずそこを目指して歩き出した俺達だが───

 

「まったく……ようやく大人しくなりましたね」

 

不意に、女の声が聞こえる。声の主はこの部屋に備え付けられているらしいスピーカーからと思われる。その声にG10が激しく反応しているから、きっとこれがマザーの声なのだろう。まぁ、機械なんだから声なんて好きに変えられるんだろうが。

 

「いったいどういう原理なのか……。感知システムをフル稼働しても見失いかけるとは……。そもそも、目の前を通っているのに機兵が反応すらしないなんて理解不能です」

 

だが言葉の内容がおかしい。俺達は大人しくも何もずっと歩いてきているだけだし、機兵なんて天門に入ってからこっち、1度も見ていない。そもそも、この声は俺達に話しかけているのではない。

 

「ククッ。我が深淵を理解するなど……元より不可能」

 

なんか聞き覚えのある声で()()()()セリフが聞こえてきた。もう耳を塞ぎたい。

 

「何故なら……深淵とは人知の及ばぬ常闇の世界である。そして我こそが深淵そのものなのだから!」

 

「意味が分かりません」

 

俺も分かりません。て言うか、この場にいる全員がそれを理解できない。当たり前だ。だって全員、()()()()()とは縁遠かったんですもの。

 

「覚えておくがいい、姿なきお嬢さん。深淵を覗く時、深淵もまた汝を覗いているのだということを!我が汝の悪意に気付いていないとでも?クハハッ!甘い、甘いわ!世界を救ってほしい?侵入者を倒してほしい?その虚飾に塗れた言葉……この深き常闇の化身に通じるとでも思うたか!」

 

「いい加減黙りなさい!」

 

あぁ、ホント、そろそろそいつ黙らせてほしい。しかし、どれだけ見たくない、視界に入れたくないと思っていても台座はエレベーターになっているらしく、ゴウンゴウンと音を立てて下に降りてくる。ああ、もう黒い後ろ姿が見えてきた。

 

そうしてなんだかんだと言いながら黒ずくめの人間が降りてくる。背格好からして男。声からすればまだ若い。10代後半と言ったところか。身に纏っている黒い装束はところどころボロボロになっていて、さっきまでコイツが戦闘をしていたのだろうと予想させる。

 

何故か後ろを向いているが、それも直ぐに振り向いた。エレベーターが着床したのだ。右手を胸に、左手を背中に回してお辞儀をするその黒ずくめの若い男。

 

「君達に恨みはない。だが我輩にも譲れないものがあるのでね。なぁに、命までは取りはしないさ」

 

あまりにあんまりなその光景に、俺は動けなかった。というか、もう色々面倒臭くなって動きたくなくなったのだ。

 

「いざ、尋常に勝───」

 

そして、その男は不敵な笑みを浮かべつつ顔を上げて───そして固まった。

 

「何をしているのです?機械の目すら欺く異界の力を持ってその侵入者共を蹴散らすのです!」

 

「出来るわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そんな魂からの叫びを上げた遠藤浩介……否、コウスケ・E・アビスゲートが俺達の目の前に敵として立ちはだかった。

 

 

 

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