セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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終わりと始まりの銃声

 

 

「それで、そいつらがこっちに着くにはどれくらい掛かるのさ」

 

態々あの金属ヒトデを使うってことは、マザーはこの世界の親類を全て抹殺する気なのだろう。もしくは、多少は残しておいて記憶の改竄でも行うのか。最悪は予備の人類なんてものが眠らされていて、今いる人間とそっくり取り替える可能性もある。

 

念の為助っ人を呼んでいて良かったな。流石にこの数を相手に俺と天之河、遠藤だけでの防衛戦は難しい。俺達が生き残って敵を殲滅するだけなら不可能でもないのだろうが、その時に俺達の背後は屍の山なんてことになったら意味が無い。

 

「およそ6時間かと……」

 

6時間……長いようで短いな。10万のヒトデを相手にするとして、人類側に準備をする時間なんて無いに等しいだろう。

 

「……シア、ティオ、アガレス。お前ら3人と天之河でコイツら迎え撃ってくれ。俺とユエ、遠藤でマザーの本体を潰す」

 

これだけ魔力や魔素が雲散霧消する世界で10万の大軍を一息に全て叩き潰す手段はさすがに無い。あのヒトデが量産可能である以上、俺達全員で迎え撃っても次々に兵士を生産されてたらキリが無いんでな。防衛と強襲の2本同時進行でいかせてもらう。

 

「……で、いいよな、遠藤」

 

何の躊躇いもなく頷く3人はともかく、遠藤は完全に巻き込まれただけだ。魔法がろくに使えないこの世界でコイツにあまり負担を掛けてやるのも酷な話だからな。これ以上が厳しいなら一旦トータスに帰してやるつもりだ。

 

「いや、俺もやるよ。ここまで来てそれじゃあお疲れ様、あとは頑張ってね、なんて言えるかよ」

 

俺の気遣いなんか知らんとばかりに遠藤は強くそう頷いた。さて、そうなるとこっちも多少の余裕はできるかな。

 

「なぁ神代、俺はそっちに行かなくていいのか?」

 

と、天之河がふと訊ねる。

 

「いや、いいよ。防衛になるべく戦力割いて、強襲は最小限の人数でやりたい。それに、お前は俺1人を守るより知らねぇ大勢を守ってやる方が力ぁ出るんじゃねぇの?」

 

場合によっては俺がマザーと直接やり合えない可能性があるからユエと遠藤は連れて行くけど、逆に言えばユエと遠藤がいる以上はこっちにはこれ以上の戦力は必要ない。遠藤が分身できないってんでトータスの時みたいにだだっ広い戦場での大勢を守るような防衛戦は難しい。だったら閉じた戦場で俺1人を守るための配置の方がコイツも活きるはずだ。

 

「分かった。ありがとう」

 

「気にすんな」

 

「では、ユエさんと私は逆の方が良さげなんですが」

 

と、今度はシアが手を挙げる。

 

「んー?……まぁそうだけどほら、最近シアとは一緒に戦ったりしたからさ。そろそろユエの番」

 

ティオとも竜の世界に行ったしな。だからユエはこっち。配置の理由は完全に私情だけどシアほどの戦闘力ならそれほど問題はあるまいて。それに、場合によってはユエの力が必要になるかもしれないのだ。シアは戦闘能力は高いが基本的に魔法の適性が低いからな。色んなことが出来るユエの方が万が一の時に話が早いかも、という理由もあったりする。

 

という思考は表には出さずに俺はユエを抱き寄せてそれだけ告げる。するとユエが嬉しそうに喉を鳴らしながら俺の胸板に頭を擦りつけてきた。

 

「むぅ……それなら仕方ありません。でもでも、何かあったら絶対直ぐ呼んでくださいよ?」

 

呼んだって後ろの無辜の民を犠牲にしてまでは来れないくせに。という言葉は言わずに俺は"はいはい"とだけ返す。

 

「取り敢えず大まかな作戦はこんなもんだ。6時間じゃここの人類全員をどっか別の世界に避難させるのは流石に難しい。防衛側は任せた」

 

という俺の言葉に全員頷き、素早くグループに分かれる。防衛戦は俺の得意とするところじゃあないし、あっちは任せてしまおう。ティオもいるし、大丈夫だろうよ。

 

「神代様、これを……」

 

と、G10が空中に映像を投影する。どうやらここの施設が破壊される折、G10はいくつかのデータをぶん()ったようだ。そして、G10が映す映像にはマザーの本気の戦力があった。まるであの竜の世界かのように空に浮かぶ無数の戦艦。それは巨大な鉄の建造物を中心に展開されていて、それを更に覆うように幾重にも張り巡らされた防壁や、破壊力なんて想像すらできないほどの……1目見てそうだと分かる巨大な兵器。それもまたマンハッタンの摩天楼のように膨大な数が配備されていた。

 

「全部問題ない。俺なら即座に内側に入り込める。……つっても、一般人を守りながらコイツらを相手にするのはシア達でも大変だろうから、なるべく時間はかけねぇでやるぞ」

 

「……んっ」

 

「おう」

 

「心は……折れないのですか?」

 

と、特に気にする風でもなく話を進める俺達が疑問なのか、G10はピカピカと光ながらそう呟く。

 

「折りたかったのか?」

 

「いいえ……ですが、いくら内側に即座に転移できる手段があったとして、マザーがそれを予想していない訳がありません。きっと内側にもそれなりの戦力を備えているでしょう。場合によっては、この見えている戦力すらも投入してくるかも……。それは神代様も分かっているのでしょう?」

 

「んー?……まぁな。だけど、それがどうしたのって感じ。そもそも、マザーがまだ戦力を残してたみたいに、俺達だってまだ全力を出しちゃあいないんだよ。本気を出してないのが手前だけだと思ってる馬鹿に、目に物見せてやるよ」

 

絶対零度は使ってしまったがまだユエ達の全力は見せていないし、俺だってまだ力の底は見せていない。だから何も問題は無い。

 

「神代様……」

 

「だから取り敢えずお前はパクってきたデータん整理頼むよ。俺ぁ休む」

 

幾ら魔力量が無限になってもこれほどまでに魔力が霧散してしまう環境だといつも通りにアーティファクトのパワーを発揮させるだけでも尋常ではない量の魔力を消費する。そして、それだけの魔力を発するのはそれはそれで疲れるのだ。

 

俺はソファーを宝物庫から取り出し、それに横になる。するとユエが俺の頭を軽く持ち上げ、そこに座る。すると当然、俺の頭はG10の隠れ家の時のようにユエの太ももの上に乗っかった。

 

そうして少しの間、俺とユエの間には静かな時間が流れる。何やらジャスパー達が盛り上がっていたが、そっちには放っておく。

 

すると、G10が驚いたような声を上げ、俺を呼んだ。

 

「んー?……どした」

 

「これは……大変です───っ!まさかこんなことが───っ!?」

 

「……どうしたの?」

 

その尋常ではない様子に、俺の髪を梳いていたユエも顔を上げた。

 

「これは……マザーの最大の強みに関するものです……あぁ、まさか……これでは……」

 

「いいからはよ話せ」

 

何がそんなに衝撃的なのか知らんがG10がこの調子では進む話も進みやしないのだ。

 

「エネルギーです。かつてストール・ハーデンが手にした莫大なエネルギー。その正体と管理や制御に関する情報です」

 

そう言えばそんな話もあったな。もっとも、そのハーデンさんはマザーに消されてしまったのだが。

 

「エネルギーって……この星にちょっとだけある()()か?」

 

ちなみに、多分そうだろうというものは俺にはこの世界に来て直ぐに感じ取れていた。と言うか、氷焔之皇に引っ掛かったのだ。だがそんなものがある世界の割にはその量は極めて少なかった。それこそ、ルトリアの世界の霊素よりも少ない。

 

「え……何故それを……」

 

「んー?いやまぁそれこそ俺の本領だし……。まぁいいや、早く続き」

 

「あ、はい」

 

そしてG10が語ったそれはやはりこの星に流れているエネルギー──星精力──に関してだった。どうやら本当はこの世界には星精力が溢れていたらしい。そしてハーデン───マザーは()()という星精力が最も湧き出すスポットを手中に収めたらしい。

 

「聖樹……?G10、それのデータとかあるか?……て言うか、さっきのマザーの本拠地の画像。あれのド真ん中のドデカい建物がそれか……?」

 

「はい。あれは聖樹を囲っているものです。そして、マザーは素子配列相互変換システムというものすら作り上げ、この星の力を完全に手中に収めたのです」

 

それはつまり、マザーと戦うということはこの星そのものと戦うということ。そんなもの、人間の手に収まる戦いではない。けど───

 

「問題無ねぇよ。俺ん力だってほとんど星1つとやってるこたぁ変わらねぇ。ユエ達に渡してあるそれも、(おんな)じ仕組みだからな。……マザーがこの星を丸ごと手にしたって?こちとら星4個分の戦力なんだよ、戦いは数だって言うならそれこそ1VS4。俺達の方が数的優位持ってんだぜ」

 

永遠に廻る天星(アンフィニ・リュミエール)はあの竜の世界と同じ仕組みで出来ている。それが生み出す莫大なエネルギーを氷焔之皇で俺の好きなように変換して魔力や魔素を無限量にしているのだ。しかも最近は色々やれることも増えてきたからな。俺としてはマザーに対してまだまだ手札を伏せている状態なのだ。

 

「神代様……貴方は一体どこまで……」

 

「それはそれとして……」

 

と、俺は羅針盤を取り出す。この世界には僅かに残った星精力が漂っているだけ。しかし今の話だと本当はこの星のエネルギーはもっと莫大ということになる。ただ、それだとこの世界の魔力の霧散現象に説明がつかない。試してみたが、魔素は魔力程は霧散しない。ただし、霊素や竜の世界の力は正も負もどちらも魔力と同じくらいに霧散するのだ。

 

それともう1つ。これはこの世界には関係の無いのとなのだけれど、氷焔之皇によるそれぞれの力の変換効率は魔力と霊素、正の力と負の力はほぼ同等。どれをどれに変換しようともその効率は同じ。ただし魔素だけはどれにしようが、どれを魔素にしようとも同じくらい効率がおちるのだ。

 

まるで、魔力と霊素、竜の世界の力は全て元が同じ力かのようだ。いや、正確にはどれも元を辿れば最後は同じなのだけれど、それよりももう一つ手前で魔力その他と魔素は枝分かれしているような気がする。

 

「……んー、んー?」

 

俺は羅針盤で探し物をしながら空気中に僅かに漂っていた星精力を氷焔之皇にてそれぞれの力に変換。だが、元の量が少なかったからか、魔素にはほとんど変換できなかった。ただし、魔力その他には同じだけ換えられた。なるほどね……。

 

「G10、聖樹の画像ちょうだい」

 

「はい。……これがその聖樹です」

 

G10が空中に画像を映し出す。そして、それを見た遠藤が目ん玉をひん剥いて驚いている。ユエも、俺の様子から多少は察せられていたようで、遠藤程は驚いていないけれど、やはりその大きな瞳を見開いていた。

 

「せ、聖樹ウーア・アルトぉ!?」

 

ウーア・アルト。それはトータスにあるあの大樹だ。樹海の中に鎮座していて、ハルツィナ大迷宮の舞台となったあの大きさも分からないくらいに大きな大樹。この世界にある聖樹とあの大樹は、まるで同じ存在かのように見てくれがよく似ていた。

 

そして、俺の羅針盤による検索も終わった。これでこの世界の謎はある程度は解けた。そしてやはり、俺はマザー討伐にはあんまり参加出来なさそうだ。そこら辺は、ユエに全部任せよう。

 

「G10、作戦会議だ」

 

と、俺はユエの太ももから頭を離さずにG10を呼ぶ。俺は宝物庫から椅子と座布団を取りだし、そこにG10を安定させる。そして再生魔法のアーティファクトを使ってG10のボディの時間を戻しながら彼女にいくつかの質問を飛ばしていく。

 

そして得られた結論は───

 

「───G10、この星の全部、俺が取り返してやるよ」

 

 

 

───────────────

 

 

 

「───っと」

 

「……おぉ」

 

「ここが……」

 

越境鍵にて切り開いたのは世界の隔たりではなくただの物理的な障害と距離だけ。そして俺達がいるのは聖樹の中というか根本と言うか……。ともかくそんな感じのところ。

 

すると、やはり俺達の強襲を予測していたらしいマザーはここにも機兵を配置していた。機器の類は戦闘の余波で破壊されても再度作り直せば良いということなのだろう。どこまでいっても機械的な奴だな。

 

だが、こちらも機兵如きに(かかず)らっていられない。俺は即座に絶対零度を発動。周囲にいた機兵を全て消し去る。

 

「時間もねぇ。やっちまうか」

 

「はい」

 

今俺達が付けているアーティファクトは存在の解像度を極限まで下げるもの。これなら機械のレーダーであっても欺ける。だが機兵は俺達が現れた瞬間には銃口を向けていたのだ。どうやら、何であれ登録外の存在が現れた瞬間にそこへ銃撃をするようにプログラミングされていたらしい。だが俺の前では超音速の銃弾であってもその速度も質量も破壊力も、全てゼロにされてしまう。この理不尽さこそが魔王様の本領なのだよ。

 

外での戦闘音すら聞こえてこないほどの奥底。きっと外ではユエが大暴れしているのだろう。と言うか、ユエの大暴れを隠れ蓑にして俺達は越境鍵でここに転移したのだから。本当なら一緒に出ていって暴れ回りたかったのだが、こっちもやっておかないとならないからな。ユエにはマザーを生かさず殺さず、とにかくマザーが本気でユエを狙うように加減してほしいとは言ってある。

 

普通なら難しい注文かもしれないが、ユエなら大丈夫だろう。今じゃエヒトに出来たことはだいたい出来るからな。しかも魔力量すら限りが無いとなれば、かつてトータスにて最強に君臨していた吸血姫の本領発揮というわけだ。そして、マザーがこちらに戦力を回す余裕が無い間にこちらのやるべき事を済ませてしまおうか。

 

「素子配列相互変換システムの破壊……でよろしいですね?」

 

と、G10が最後の確認を求めてくる。本当なら奪い取ってこちらが使いたいほどの代物ではあるが、正直マザーを相手に型遅れのコチラじゃ勝負にならないからそれは諦める。俺も別にこの星の力なんて必要ないしな。

 

「うん。システム的にも物理的にもぶっ壊してくれ。この聖樹には俺から言っておくよ」

 

ことここにきて"言うってどうやって?"等とG10は問わない。それは黙って見ている遠藤も同じこと。向こうで多少の説明はしたし、どうせ実際に見てみなきゃ分からないからな。

 

「じゃ、後はよろしく」

 

俺は2人にそれだけ告げて、聖樹の根に触れる。そして宝物庫から取り出したのはルトリアの宝珠。俺とユエ、シアとティオの宝物庫は全部繋がっている。流石に世界を隔ててしまうもその繋がりも途切れるけれど、今は皆同じ世界に来ているからな。シアのドリュッケンに収められているルトリアの宝珠を取り出すくらいはワケないさ。

 

───スキル・変質者発動

 

字面の悪い統合と分離を司るこのスキル。リムルの世界に召喚される際に手に入れたこれで俺は自分の身体の一部を聖樹と統合する。

 

 

───ドクンッ!

 

 

聖樹が1つ脈打つ。左手に抱えたルトリアの宝珠が輝き出した。すると、俺から聖樹への繋がりだけでなく、聖樹から俺へも繋がる。それで分かる、全部流れ込んでくるのだ。聖樹が何を求めているのか、俺が何をすれば良いのか───

 

──持っていきな──

 

永遠に廻る天星(アンフィニ・リュミエール)が回る。星が巡り、星精力が聖樹へと流れ込む。無限の力を生み出す永久機関からの力の流入だ。今までは死んではいないが殆ど枯れているような状態だった聖樹ですら、一息の間に根に瑞々しさが現れた。

 

「───素子配列相互変換システムのアンインストール完了。……アビスゲート様」

 

再生魔法で全盛期のボディを取り戻し、更に雲上界に打ち捨てられていた新しいパーツを付け加えたG10の性能は、マザーには届かないだろうがそれでもただ用意されただけのファイアウォールを突破するくらいは造作もないらしい。しかも元々のCPUの計算速度も相俟って瞬く間に素子配列相互変換システムは消去された。

 

「あぁうん……結局そうなるのね……」

 

中のプログラムなんて幾らでも複製を用意しておけるだろうから、今入っているプログラムを破壊したのなら、次は機械の物理的な破壊だ。聖樹の根本に這い蹲っている機械の群れに、遠藤が闇色の短刀を突き刺す。更にそれをやっためたらに引き抜き揺すり動かし、不規則にコードや機器類をぶち壊していく。

 

───ドクンッ!

 

更にもう1つ、一際大きく聖樹が脈打つ。俺は植物と会話する術なんて持っていないが、それでも聖樹からの意思が伝わる。俺はそれに応えるようにどんどんと星精力を聖樹に注いでいく。

 

すると、機兵は全てぶっ壊したハズのこの空間にガシャガシャと金属とぶつかり合う音が響く。どうやらマザーが追加の護衛をコチラに寄越したようだ。

 

「げっ……神代、まだかよ!?」

 

「アビスゲート様!」

 

遠藤も無茶を言うようになったな。今の俺は聖樹からの情報を処理するだけで脳みそが精一杯だ。並列思考と思考加速でもってどうにかなっているが、マザーの機兵を相手にG10と遠藤を守るってのは美味くない戦いだ。だがまぁ、ここで遠藤達を見殺しにするワケにもいくまいて。

 

「───っ!!」

 

取り敢えず俺は何も見ずに俺達の周りを包むように氷の壁を何枚か張る。マジで状況を把握する余裕すらない。

 

どうやら床まで光っているようだが、それがどうかしたのだろうか。いや、魔素の霧散が無くなっている気がする。それに───これは聖痕も開いたな。

 

「───おっし!魔力復活!!」

 

と、遠藤が叫んでいる。どうやら魔力の霧散現象も無くなったらしい。聖樹によれば、この世界で魔力やその他色々が雲散霧消するのも、この聖樹からエネルギーが殆ど失われていたからのようだ。それが今は俺の永遠に廻る天星(アンフィニ・リュミエール)から莫大な量の星精力を得て活性化、それがその世界の歪さを解消しているようだ。

 

───もういいか?

 

俺の問いかけに聖樹は何も言わない。ただ無抵抗に変質者の分離を受け入れた。それだけではない、お土産のつもりか、聖樹から切り離された俺の右手にはルトリアの宝珠のような宝玉が置かれていた。さしずめ、聖樹の宝珠ってやつなのだろう。

 

「んー?」

 

見れば、真っ黒な衣装を身に纏った遠藤が爆裂に分身しながら機兵をボコボコにしていた。さっき魔力が復活していたとか何とか言っていたから、これまでの鬱憤も含めて全部ぶつけているのだろう。なんか一人称が我輩になって無駄に難しい言葉で何かを叫んでいた。

 

「んー?」

 

俺が言語理解ですら何を言っているのか分からない遠藤の小難しい言動を眺めていると、聖樹の根が蠢き、何やら奥底の方から出てきた。それは、鞘に収められた一振の刀剣……のように思えた。

 

「……これ」

 

まるで天之河の持つ聖剣のような黄金の輝きを湛えた美しい鞘。早く受け取れとでも言いたげにこちらに押し出されたそれを手に取り、鞘から刀身を晒す。露わになったその剣は両刃の大剣。刀身すらも黄金色のそれは刃の先端が俺の目にすら見えないほどに薄く、金属のはずなのに向こう側が透けて見えそうだった。

 

 

───ドクンッ!

 

 

俺の顔が映るくらいに磨き抜かれた刀身が脈打つ。その鼓動は、俺に早く振れと催促でもしているかのようだった。

 

 

───ドクンッ!

 

 

「……分かったよ」

 

 

聖樹が道を開いた。木の根の底……地底から地上への道。1本続くそれを聖樹は開いたのだ。取り敢えず俺は遠藤がぶっ壊したコンピュータやら何やらを更に絶対零度でどうしようもないくらい念入りに破壊しておく。

 

「遠藤ぉ、行くぞ!」

 

「我輩を呼ぶか、魔王よ」

 

この遠藤マジでうるせぇ。俺は無言で光の指す向こうを顎でしゃくる。遠藤はそれを見てまた何やら喚いているが俺はそれを無視して歩を進める。と言うか、もうこの遠藤は相手にしたくないし早くユエに会いたいから遠藤は放り捨てて走り出した。あぁ……俺を早く癒してくれ、ユエ様……。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「おーらら」

 

光の先に出ればそこは聖樹の外。しかし辺り一面機兵だったものが転がっており下界のガラクタ街と大差ない有様になっていた。空には6匹の龍が我が物顔で泳いでいる。そしてその中心には背が伸び、黒いドレスを着たユエ様が鎮座していた。それも、態々風属性魔法か重力魔法で空中に固定した椅子に腰掛けて、だ。貴女様はどれだけマザーを煽りなさるの……?

 

それはそれとして、いい加減聖樹から渡された大剣がピカピカ煩い。鞘ごと光るんじゃないよ、手元が眩しいんだよ。

 

「クハハッ!流石は魔王の奥方か。あのマザーがこうも一方的に!」

 

追い付いてきた遠藤がまた何やら大仰な口調でベラベラ喋っている。ホントこの副作用はどうにかならんかね。いや、キンジも近い感じになるからこういうものと諦めるしかないのかな……。力に代償は付き物ってワケか。

 

俺は仕草もセリフも小煩い遠藤を放って大気を空力で踏み締める。そしてトントンと階段を駆け上がるかのように空中を昇り、ユエ様の隣に立つ。

 

「……天人!」

 

「おう、お疲れ、ユエ」

 

「……んっ」

 

するとユエは座ったまま俺に頭を差し出した。頑張ったから撫でて、ということらしい。姿形だけ大人びてもこういうところはいつものユエで、それがどうしても愛おしい俺はマザーの存在なんて忘れたかのようにユエの金色の髪を梳く。

 

だがまだマザーはぶち壊されたわけではない。まだ少なくない数の機兵と、あの聖樹を覆っていた莫大な量の流体金属を侍らせて俺達の前に現れる。

 

「───何をしたっ!?一体何をっ!こんなエネルギー、この200年観測されたことなんて───っ!」

 

青々とした葉を広げ、その全身で瑞々しさを表現している聖樹を見てマザーが喚いている。それで俺はふとマザーを見やる。そしてマザーの疑問に何かを言うでもなく黄金の大剣を振るった。

 

切っ先から放たれた圧縮星精力が壮絶なまでの熱量を持ってマザーを襲う。

 

「ぐぅぅぅぅっっ!!」

 

けれどそれは流体金属の物量によって抑え込まれる。それでも俺の一振を防ぐために消費された流体金属の量は少なくはない。赤熱化してドロドロに溶けた金属はもうマザーにも操りようがないのかコアでもぶっ壊れたのか。ボタボタと、マグマの汗のように地表に零れ落ちた。

 

さてさて……本当ならこういう相手にこそ有効な手札が俺にはある。それは今まで魔力の霧散現象という枷によって封じられていたが、もうそれも解き放たれた俺は、宝物庫に大量の魔力を注ぐ。

 

宝物庫からの召喚の余波だけでマザーも機兵も吹き飛ばされた。そして現れたのはコチラも機械仕掛けの兵隊達。ただし、その姿は伝説上の生き物や実在の生き物を模していたり、もしくはそれらを掛け合わせた化け物のような姿ではある。そして、コイツらがただの機械仕掛けと違うところは、明確に()()()がいることだ。

 

「悪魔共、ようやく出番だぜ。手前らの力ぁ見せてみろ」

 

悪魔が取り憑いた生体ゴーレム約5000機。随分と就職希望の悪魔が多かった。地獄でだいぶ数を減らしてやった筈なのだが、復活でもしたのだろうか。それとも悪魔ってそうそう簡単には消滅しないのかな。

 

さらに呼び出すのは聖樹を守り覆うような無数の氷の壁。そして砲台代わりのビット兵器……これも1000機ほど。瞬光による知覚拡大でもって莫大な数の兵器を俺は1人でも操れる。

 

だがまだ足りない。宝物庫には兵器がまだまだ眠っている。

 

俺はさらに太陽光収束兵器を7機全て召喚。マザーが流体金属で作り出した金属の巨人……それの肉体に風穴を開ける。それを合図に悪魔共も戦闘を開始した。……いや、果たしてこれは戦闘と呼べるものなのだろうか。プログラムよりも臨機応変に対応や連携の取れる異世界製の生体ゴーレムが持つのは魔法によって別の次元へと昇華された機械仕掛けの近代兵器なのだ。

 

マザーの作り出した機兵達の持つ武装も、もちろん俺達の地球にある兵器と比べたら破格の性能を持つが、根本的にそれを操る側の性能に差がある。

 

マザーはさらにこの世界中にばら撒いた流体金属を集め始めるが、それが形を成した側から黄金の大剣による熱量斬撃と太陽光収束兵器による熱線により体積を吹き飛ばされ赤熱化した金属はマザーのコントロールを離れて重力落下するのみ。

 

機兵達もみるみるうちにその数を減らしていく。悪魔憑きの生体ゴーレムだって撃墜される奴はいるのだが、それだって中の人が機兵のどれかに適当に乗り移ってその制御を手中に収めてしまう。

 

「有り得ないっ!有り得ないっ!!」

 

神気取りの奴は追い込まれると似たような反応になるようで、マザーもエヒトと同じような言葉を叫んでいる。しかし聖樹も凄まじくお腹が空いていたようで、変質者で同化していた数分の間に俺の身体から聖痕を通してとんでもない量のエネルギーを吸い上げていった。その結果がこの世界での魔力霧散現象の解消とほぼ枯れているに等しかった聖樹の復活。オマケに一飯のお礼なのか知らんけど、聖剣に似た大剣と聖樹の宝珠まで寄越してきた。そしてこの黄金の大剣、どうやら星精力を莫大な熱量の斬撃として切っ先から放つ以外にも色々出来るようだ。

 

黄金の大剣の刀身からバチバチと電気の爆ぜる音が響く。そんな俺をぶち殺そうと機兵の1機からレールガンが放たれる。だが俺はその砲弾が放たれる銃口の()()()()()()()()()()()()()知覚し、身体を流すことで躱した。

 

人体の神経系の情報伝達速度では、普通の拳銃から放たれる9パラですら近距離からでは放たれた後に知覚してそれを避けることは出来ない。銃弾にカウンターを合わせたり避けたり出来るのはただ単にそれらが放たれる前から行動しているっていうだけ。だが、それはあくまで人体の速度の場合。

 

この黄金の大剣、どうやら星精力を電気に変換し、更にそれを俺の体内に流して情報伝達速度すら上昇させてくれるらしい。勿論それに応えられる肉体強度と情報処理能力が必要なのだが、俺の身体は既に人間のそれではなく、処理能力も瞬光を使っていたおかげで普段から常人のそれではない。

 

しかも、ただ星精力を電気に変えるだけでなく、それを超高圧に圧縮した上で指向性を持たせて標的にぶつけられるらしいな。それだけじゃあない───

 

 

───バリバリバリッッ!!

 

 

と、大気を切り裂くような音を立ててマザーが放つ空からの雷撃を大剣で受け止めれば、まるで魔力が纏雷になるように、自然の(いかづち)を星精力に変換、それをもう一度高圧電流に変換して刀身に貯める。

 

俺が刀身を真横に振り抜けば、両手に構えた高熱ブレードで俺を両断せんと迫っていた機兵を白雷が貫いた。

 

全身からスパークと黒煙を溢れさせて沈んでいく機兵。空力で空を踏み締めて飛び出せば目の前にはバルカン砲を構えた機兵。だが、6門ある砲身に大剣を這わせれば──キン──と甲高い音を立ててそれらは真ん中から切り落とされる。

 

今度は超低温の刃だ。しかも機兵のドテっ腹に刀身を差し込めば内部から全身を凍結させられ、機兵は爆発することすら出来ずにその動きを止める。

 

動かなくなった機兵を放り捨てるように振るえばその切れ味故に微動だにせず腹を裂かれた機兵はただ地表に落ちて砕けるのみ。

 

それだけでこの大剣は終わらない。大気を刀身に集中させれば空気の圧縮によって光の屈折し、捻じ曲がりって刀身そのものが不可視になる。そして集めた空気を解き放つように薙ぎ払えば暴風が吹き荒れて俺を狙ったバルカン砲の弾丸は逸れて明後日の方向へと撒き散らされた。

 

そしてもう一度振るえば今度は真空の刃が無数に放たれて、俺に迫ろうとする機兵を数機まとめて切り刻んだ。

 

纏雷、氷の元素魔法、風爪……どうやら聖樹は俺と混ざった間に俺の攻撃手段を読み込み、この大剣に搭載したらしい。しかも俺の持つ固有魔法のそれ以上に応用パターンが豊富だ。

 

その圧倒的な性能に俺が思わず大剣を見やれば、まるで人間がドヤ顔でもするかのように刀身がピカピカを光る。もしかしたら、褒めて褒めてと言っているのかもな。

 

「いや凄いよお前は」

 

素直にそう言ってやれば大剣には意思があるかのように再び光り輝く。今度は嬉しいんだか照れてるんだが、そんな感じに思えた。

 

「───何を……したのですかっ!!」

 

どうやらまだマザーは生きているらしい。G10のような球体が流体金属を侍らせながら俺の前に現れる。とは言えそれに答えてやる言葉を俺は持たない。戦闘中に敵と会話してやる優しさなんて持ち合わせてはいないのだから。

 

俺の無言をどう受け取ったのか、マザーは流体金属を槍のように射出。俺はそれを大剣で切り捨てることすらせずに宝物庫を起動。放たれたそれを宝物庫の中に収めてしまう。実はコルトランで戦った後にも流体金属を回収しているのだが、取り敢えず集めるだけ集めておこうと思う。使うかは知らないけど宝物庫の中の空間は広大だからな。

 

そうしてから俺は黄金の大剣を一振。放たれた熱量はマザーの金属の身体を焼き貫き、ドロドロのマグマに変えて地面へと落下させた。

 

だが俺は羅針盤を取り出して魔力を注ぐ。それで得られた情報を元に指を指せば、そこには1機だけあらぬ方向に逃げていく機兵。あれが今はマザーの肉体のようだ。

 

「───G10」

 

「ありがとうございます、神代様」

 

G10が操るのは放棄された砲台のレールガン。それがマザーに狙いを定める。

 

「止めなさいG10!私がいなければ楽園は───っ!!」

 

当然マザーだって生存を諦めない。命乞いをしながらも建物の間に紛れ、G10からの射線を切ろうとする。けれどもう遅い。全てがマザーにとっては手遅れなのだ。

 

「往生しやがれ!ですぅ!!」

 

魔力の霧散現象から解放され、神霊の力も完全に使えるようになったシアが現れた。空にはアガレスの姿もあるから空間を跳躍したのだろう。でなければいくらなんでもこの短時間でこんな所までは来られまい。……いや、シアさんは分からないな。あの子なら来れてしまう可能性を捨てきれない……。

 

「───なっ!?」

 

シアの美脚から放たれた回し蹴りによって遮蔽物の無いだだっ広い空間に投げ出されたマザー。そしてその瞬間を虎視眈々と狙う銃口が1つ───

 

「───任務完了……です!」

 

壁から放たれた超音速の砲弾が機兵を撃ち砕く。轟音と共に炎に包まれるそれが夕焼けの中、地に落ちた。それがこの理想郷(ディストピア)の終わりであり、人が人として生きる世界の始まりだった。

 

 

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