セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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武偵VS黒ウサギ

 

1回戦が全て終わった次の日、勝ち進んだ1年生は2回戦を戦うことになっていた。

トーナメント表の順番からしてまた俺達は今日の第1試合を務める。

 

「今日は()()()()()()()()()()()()()()から、気を付けてくれ」

 

「はい。ご主人様こそ、お気を付けて」

 

かもしれないとは言ったが、恐らく俺は今日の試合で俺とリサのISの()()()を晒すことになる。まぁ、オルコットと凰は参加出来ていないし、一夏とシャルロットのペアも倒しているから、ボーデヴィッヒ相手に使う分には問題無いとは思うけどな。

 

俺とリサは1つキスを交わすとお互いのISを展開。アリーナへと飛び立つ。

そして、そこに待ち構えていたのは漆黒のIS──シュヴァルツェア・レーゲン(黒い雨)──に身を包んだラウラ・ボーデヴィッヒと打金という日本製で防御重視の近接戦闘向け汎用ISをその身に纏った篠ノ之箒。

 

「悪いな、一夏じゃなくて」

 

「貴様に負ける、その程度だったということだ」

 

「そうかい」

 

一瞬、静寂がアリーナを包む。しかし静か空間というのは穏やかという意味ではない。むしろ重苦しいくらいの圧力がこの場を支配していると言ってもいい。それはボーデヴィッヒが放つものであり、俺が放っているものでもある。

 

そしてその間に割って入ったのは試合開始を告げるブザーの音。

それが鳴った瞬間、俺は背中のスラスターで瞬時加速を発動。更に右手に十文字刃の付いたメイスを召喚、目の前の篠ノ之箒へと叩き付ける。

アリーナ外壁まで吹っ飛ばされる篠ノ之に脚部スラスターでの2段階目の瞬時加速で追い付き更にメイスを突き刺す。開幕直後で集中しきれていなかったのか、篠ノ之は2撃目もノーガードで喰らいそのまま外壁へと叩き付けられた。

 

「ぐっ……」

 

そして俺は左手に対物ライフルを召喚。その銃身の長大さをメイスで篠ノ之を挟むことでカバーし、青ざめた顔の篠ノ之へ向かってゼロ距離で引き金を引き続ける。

2秒ほどで6発全ての弾丸を吐き出し終えたその時、俺のISが背後からの砲撃を感知した。

俺は直ぐさまその場を飛び退る。するとその刹那の後にボーデヴィッヒのレールカノンが火を吹いた。放たれた砲弾はしかし俺を破壊することなく篠ノ之へとぶつかった。

超大口径の弾丸、それも普通の弾頭ではなくISの装甲やシールドを貫くための徹甲弾(ピアス)らしい。味方からの一撃(フレンドリーファイア)で残り僅かのシールドエネルギーを散らされた篠ノ之はそのまま墜落するようにして地面へと降りていく。

 

やはり、ボーデヴィッヒは篠ノ之を数として数えてすらいないようだ。味方を攻撃してしまったのにも関わらず、表情一つ変えることはない。

 

さて、戦いはここからだぞ。今のはボーデヴィッヒを完全に置いてけぼりにして篠ノ之へ不意打ちを入れたから俺への攻撃も緩かった。けどここからは完全な1対1。一応AICへの対策も用意はしてあるけれど、それがどこまで通じるのかは分からない。あれを操縦しているのが一夏とかならいくらでも付け入る隙はあるんだけどなぁ。ボーデヴィッヒは他の代表候補生とも違って本職の軍人で、当然ISを扱う訓練だってかなり集中して行わされているだろう。それに加え、ISがどうこう以前に戦い慣れている。それは前にオルコットや凰をボコっているのを見た時に分かった。これまでみたいに機体の性能に本人の能力が追い付いていなかったり慣れない戦い方を強要して追い詰めるみたいなやり方は出来やしないだろう。

さて、どうやって崩すか……。

 

「来ないなら、こちらから行くぞ」

 

「っ!?」

 

ボーデヴィッヒがプラズマ手刀を展開しつつ一気に俺の目の前へと迫る。俺はプラズマ手刀の距離に入られる寸前にメイスでそれを弾く。そして両手にトンファーを召喚。ゼロ距離での格闘戦へと雪崩込む。だが───

 

「手数ではこちらが上だ」

 

ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンにはワイヤーとその先端に刃の付いた兵器がある。そのワイヤーブレードをこの距離での戦いで使われると厄介なことこの上ない。

この高速戦闘で動員できるワイヤーは2本までらしいが、それでも単純に倍だ。蹴りまで混ぜられなくて良かったと思うしかない。俺は脚まで使ってワイヤーブレードを捌き、トンファーでプラズマ手刀とやり合う。

 

「はっ!」

 

そして、プラズマ手刀と俺のトンファーが鍔迫り合った直後、ボーデヴィッヒが力む様な仕草をした。その瞬間、俺は本能のままにその場を飛び退る。別に何かが飛んでくるわけではなかったが、ボーデヴィッヒは狙いを外したかのように眉を顰めた。恐らくAICを使ったのだろう。危うく絡め取られるところだったわけだ。

そして距離が空いたボーデヴィッヒは、その左眼に着けていた眼帯を取り払った。そこから現れたのは、燃えるような右の紅とは違う、絵に書いた財宝のように輝くような黄金の瞳。その美しさに俺は思わず引き込まれそうになる。そして、戦闘中にも関わらず、美しいと、思ってしまったのだった。

だがその瞳の美しさとは関係無く、ボーデヴィッヒの攻撃は苛烈を極める。距離が開いたことでワイヤーブレードが6本全て射出され、更に右肩のレールカノンも火を吹く。

その強烈な連携に俺は思ったように距離を詰めることが出来ない。兎にも角にも、レールカノンとワイヤーブレードの組み合わせが厄介なのだ。AIC対策をこの局面で披露してしまう訳にもいかないし、まずはワイヤーブレードとレールカノンの分断から考えるべきか……。

 

 

 

───────────────

 

 

 

シャルロットの隣でこの試合を観戦していた一夏の表情はコロコロ変わっていた。

最初に箒が天人に狙われた時には心配そうな顔をしていて、ラウラのフレンドリーファイアで落とされた時には随分と憤って抑えるのが大変だった。しかし天人とラウラのハイレベルな近接格闘を間近で見ている時は憧れるような顔をしていた。

 

「相変わらず、近接格闘は圧倒的ね」

 

ボソリと、一夏達と一緒に観覧していた鈴が呟いた。天人と同じように、近接格闘戦を強みにしていた鈴にとって、あの2人の戦いがどれほどのものなのかよく分かるのだろう。

 

「それもそうですが、神代さんのISは随分と馬力がありますのね」

 

それは箒の駆るIS、打金が手も足も出ずに押し切られたこと、そして実際に鎧牙に殴り飛ばされた経験からくる言葉だった。

 

「鎧牙は、第三世代型なのにブルー・ティアーズとか衝撃砲みたいな特殊装備に使う分のエネルギーを全部スラスターとパワーアシストに回してるって、天人が言ってたよ」

 

それは訓練の中でその出力の高さが気になっていたシャルロットの言葉。その言葉を聞いて、無人機討伐戦に参加していた一夏と鈴、セシリアは疑問に思うところもあったが、一応箝口令も敷かれているために、誰も口にすることはなかった。

 

「……それはただの高性能な第二世代型なのでは?」

 

セシリアがあまりにもっともな疑問を口にする。第三世代型ISは操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊兵器の実装を目標にしたISなのだ。例に挙げればセシリアのISに積まれているビーム兵器やビット兵器、鈴の衝撃砲等がこれに該当する。だが天人の鎧牙にはそんな兵器は積まれていないという。一応、セシリアは黒覇のエネルギー圧縮斬撃を見ているのでそれが第三世代型相当の兵器だと認識しているが、それを知らないシャルロットはセシリアの言う通りだと思った。

 

「ホントにね」

 

しかも、ISの情報は基本的に開示されている。それは、どの国にも帰属していなくともコアの登録だけは終わった鎧牙も同じだ。

故に、表に出されていない黒覇の機能を知らないシャルロットには鎧牙は"ただの高性能な第二世代型"にしか思えなかったのだ。

 

「……天人の弱点って、なんだろうな?」

 

一夏がポツリと呟く。その横顔を見ていたセシリアは、自分との戦いや、最近開示された鎧牙のデータを頭に思い起こしながら言葉を繋いでいく。

 

「武装としては全距離に対応できるようですが、神代さんが中・長距離に応えているところは見たことありませんわね」

 

唯一あったのは自分と戦った時。しかしセシリアが一方的に展開したその狙撃戦で、尽く攻撃を避けられ、懐に入られたセシリアとしてはそれが弱点だとは思えなかったが、精々言えるとしたらその程度だった。

 

「……距離、空いたわよ」

 

そんな会話を聞きながらも試合の方へ意識を向けていた鈴が一夏達に声を掛ける。

先程までの近接格闘戦から局面は変わり、ラウラはワイヤーブレードとレールカノンでの中距離戦闘を展開した。セシリアの雨あられと降り注ぐビーム射撃を潜り抜けた天人はしかし、中距離でのシュヴァルツェア・レーゲンの制圧力に押され始めていた。

 

「天人……」

 

その呟きは誰のものだったか、その場にいる誰にも判別されることなく戦いの轟音の中へと消えていった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

キリが無い……。

レールカノンによる強烈な砲撃と縦横無尽のワイヤーブレードによる斬撃。これを躱しながら懐へ飛び込み、至近距離から黒覇によるエネルギー圧縮斬撃での決着。というのが俺の描いているプランではあるのだが、この状況ではそれも難しい。

だがアサルトライフルとナイフでこの状況を打開するというのもどうやら現実的ではなさそうだ。

まだ見せたくはないのだけれど、やるしかなさそうだ。

俺はナイフを格納し、代わりに黒覇を召喚。武装の切り替えの一瞬のタイミングで間近に迫ってきたワイヤーブレードに、エネルギーを纏わせた黒覇で斬撃を浴びせる。

圧縮エネルギーによる斬撃はまだお見せできないが、刃に纏わせることで斬れ味を補強する機能であれば大丈夫だろう。

そして、エネルギーを纏わせた黒刀でまずは1本、ワイヤーブレードを切断する。さらに左手から俺を斬り裂こうと迫ってくるワイヤーブレードにも黒覇を振り上げることでそのワイヤーを切り落とす。俺はできるだけレールカノンの射線軸上に立たないように衛星的にボーデヴィッヒの周りを回るように飛行する。時折アサルトライフルの弾をばら撒きなるべくボーデヴィッヒをその場に足止めする。それでも残り4本のワイヤーブレードは鎧牙の装甲を切り裂かんと迫りくる。俺はその内の1本をまた切り落とした。これでようやくワイヤーブレードの数は半分になった。

 

「……ふん」

 

だがそこでボーデヴィッヒはワイヤーブレードを収納しつつレールカノンを連射することで牽制。そして一気にゼロ距離まで接近してこようとする。

俺もアサルトライフルの弾丸を吐き出してそれを止めようとするも、ボーデヴィッヒはバレルロールでそれを躱し、結局至近距離まで接近。展開したプラズマ手刀で斬りかかってくる。

 

俺は左右から迫る連撃を黒覇で凌ぎつつアサルトライフルを収納。左手にトンファーを呼び出してプラズマ手刀に対処出来る手数を確保する。

だが───

 

「ふん」

 

しかし数合ほど打ち合うと、ボーデヴィッヒは不敵な笑みと共にレールカノンを構える。しかも───

 

「ご主人様!?」

 

「リサっ!?」

 

俺の真後ろにはリサが。いくら星狼の物理シールドを全部展開しているとはいえ、この距離であの火力だ。俺はレールカノンを避けるわけにはいかない。リサに衝撃が無いとも限らないし、もしかしたらシールドごとぶち抜かれるかもしれないからだ。野郎……ここまで計算して俺の位置を誘導しやがったな。そして、当然ボーデヴィッヒの攻撃はそれだけでは済まされない。

 

「……っ!?」

 

強引に黒覇を振り上げてレールカノンを逸らそうとした俺の右手と身体が急に何かに固定されたかのように動かなくなる。これは……AICかっ!!

 

「所詮貴様も有象無象の1つだったようだな。……消えろ」

 

この距離であのレールカノンの直撃を喰らえば俺のISのシールドエネルギーはほとんど持っていかれるだろう。だけどな、鎧牙にはまだ奥の手が残ってんだよ!

 

「───なっ!?」

 

俺は背中に展開したマイクロミサイルポットから急激な放物線を描くような軌道で小型のミサイルを発射する。その数は8。

 

「ちっ」

 

それを見たボーデヴィッヒはAICを解除しながらその場を離脱。目の前で粉塵が巻き上がるが、レールカノンの徹甲弾が俺を貫くことはなかった。

ボーデヴィッヒが驚いた理由は1つ。今のミサイルは()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。俺のISに積まれている火器は黒覇とナイフ、メイスを除けば全て手持ちで扱う銃火器に分類されるようなもの。そしてあのミサイルポットはリサのISである星狼の武装なのだ。

ボーデヴィッヒのことだ、俺達のISの情報くらいアクセスしているだろう。そして俺のISには銃火器しか積まれていないと判断した。リサの星狼にはミサイルやバルカン砲を備えているが、そのリサは一切戦闘に参加する気は無い。だからAICの弱点である多方向からの同時攻撃は無いと踏んだのだろう。だが、篠ノ之束お手製のISが、ただ基本性能が高いだけのISなわけがない。黒覇の特殊機能以外にも、俺の鎧牙には本命と言える機能があるのだ。

それが、リサのISである星狼と拡張領域(パスロット)を共有していること。

これにより、俺達のISは通常のISを遥かに大きく上回る数の武装を装備でき、なおかつお互いの装備を一切の承認無しに自由に使えるのだ。

これは、ISの当初の思想であった宇宙開発に必要な能力でもある。

これがあれば、子機が採取した宇宙空間の物質や別の惑星の物質等を一切の往復無しで親機のある地球や、衛星軌道上の研究機関本部に即座に転送できることになるのだ。輸送費やその時間を大幅に短縮できるこの機能は、完成すれば、宇宙開発や研究に相当に大きな貢献を果たせる……らしい。篠ノ之束がそう言っていた。

一応篠ノ之束は、これや黒覇の機能は伏せておくとは言っていた。だが別にそんなことを気にする必要はなく、好きに使っても良いとも言っていた。なんなら、ばかばか使ってデータ集めをしてこいくらいのことは言われている。まぁ結局、大っぴらに使うのはこれが初めてになるのだけれど。

追尾や弾道制御機能のあるミサイルポットを更にもう1基召喚し、ボーデヴィッヒへ向けて一斉に発射。16発の弾頭がボーデヴィッヒの左手側から迫る。更に俺はミサイルの発射と同時にトンファーとアサルトライフルを入れ替える。それを掃射することでボーデヴィッヒの回避先を先に潰しておく。俺の弾丸に牽制され、避けることもままならなくなったボーデヴィッヒはミサイル群へ向けてレールカノンを発射、これらを打ち落とそうとする。しかし俺は次弾を装填したミサイルポットから更にマイクロミサイルを発射。それと同時に瞬時加速で一気にボーデヴィッヒへと接近。また急角度で迫るミサイル群と黒覇を振り被った俺と、どちらにAICをぶつけるのか一瞬、迷った。そして───

 

 

──エネルギー圧縮率200%──

 

──臨界点到達、待機可能時間残り5秒──

 

 

鎧牙のハイパーセンサーに、この距離で瞬時加速をすればどのタイミングでボーデヴィッヒとぶつかるのかは算出させていた。

俺はその寸前に、しかしこの速度だ。言ってしまえば1度目の瞬時加速の次の瞬間にはスラスターを吹かせて進行の軌道を少しだけズラした。

そして俺はボーデヴィッヒの真上から───

 

 

──最大までエネルギーを圧縮した黒覇を振り抜いた──

 

 

 

───その瞬間、俺の世界から音が消えた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

(私は、負けたのか……?)

 

天人の一撃を受け、沈む機体と意識の中で、ラウラは思う。

 

(こんなところで、あんな奴に……)

 

織斑千冬の弟である織斑一夏でもなく、他の国の代表候補性でもないあの男に。あんなISに乗りたての初心者に。

確かに機体性能は高い水準だった。篠ノ之束のお手製と言うだけあってパワー、機動力、速力共にシュヴァルツェア・レーゲンを上回る性能だった。

本人の身のこなしもそこらの一般生徒どころか代表候補性達とも一線を画す、まさに戦闘慣れした動きだった。

けれども自分は正規の軍人だ。

織斑教官の指導を受けた、ドイツ軍のIS部隊トップの成績を叩き出したエースなのだ。

それが一般人に負けるなど。

 

(またか。また私は落伍者の烙印を……)

 

ラウラに親は存在しない。人工的に合成された遺伝子から産み出された、デザインベイビー。遺伝子強化試験体C-0037───それがラウラ・ボーデヴィッヒという少女の出生だった。

 

そしてラウラの輝く左目。

 

『ヴォーダン・オージェ』

 

擬似的なハイパーセンサーと呼ばれるそれは脳への信号伝達速度の爆発的な上昇や戦闘中の動体視力強化を目的とした眼球へのナノマシン移植処理のことだった。

理論上危険はなく、不適合なぞ起こりえない───筈だった。

 

結果としてラウラ・ボーデヴィッヒに移植されたそれは暴走、機能のカットができなくなり常時稼動状態で固定。

軍のトップランカーだった彼女は瞬く間に失敗作の烙印を押されるのだった。

 

けれどそこを織斑千冬は救った。いや、正確には手を差し伸べ訓練の指示を出しただけで、ラウラ・ボーデヴィッヒが勝手に登り詰めたのだが、当の本人としては織斑千冬にこそ自分は救われたのだ、引き上げられたのだという意識が強い。そして憧れた。焦がれた。その強さに、凛々しさに。一言で言えば、ラウラ・ボーデヴィッヒは織斑千冬に心酔していた。

彼女を信仰していたのだ。だからそこ彼女の2連覇を阻んだ力なきあの男が許せなかった。

知った様な口をきくあの上から目線の男が鬱陶しかった。

 

『力が欲しいか』

 

(誰だ……?)

 

闇の中から、声が響く。それはラウラの意識を、深い深淵へと引き摺り込むようだった。

 

『全てを破壊する力が欲しいか』

 

(あぁ欲しいさ。織斑一夏を、神代天人を破壊する力が)

 

『奴らが憎いか?』

 

(憎いとも!教官の夢を阻んだ力なき男が!知った様な口をきくアイツが!!)

 

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!

 

『ならばくれてやる。憎きものを、その尽くを討ち滅ぼす力を!!』

 

 

 

Damage Level……D.

 

Mind Condition……Uplift

 

Certification……Clear

 

 

 

 

《Valkyrei Trace System》……boot.

 

 

 

 

──ヴァルキリー・トレース・システム──

 

 

それは禁断のシステムだった。

この世界におけるヴァルキリーとはつまりモンド・グロッソ、ISの世界大会での部門別優勝者のことだ。そしてそれをトレースするシステム。そしてこれに積まれたデータこそは初代モンド・グロッソの覇者織斑千冬の戦闘データ。それが指し示す事象はただ一つ。

 

 

 

 

 

 

──最強の具現化──

 

 

 

 

 

 

例え模造品でも、機械的なコピーであっても、技術は技術。世界最強は世界最強のままその業をもって敵を蹂躙する。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「なんだ!?」

 

「きゃあ!?」

 

爆煙を潜り抜けて地上に降り立った俺の目の前で、ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンが突如として紫電を放つ。

 

「ちっ……」

 

その紫電が俺の鎧牙の装甲を砕き、ボーデヴィッヒに近付くことを許さない。

そしてボーデヴィッヒの絶叫が止まらないうちにドロドロと、どこから現れたのか知らないが何か黒いヘドロのようなものがボーデヴィッヒとシュヴァルツェア・レーゲンを包んでいく。

それに伴いボーデヴィッヒの叫び声は収束していく。

そして全身が黒い泥に包まれた。

 

そこに居たのは身の丈にしてちょうど、織斑先生程の体格をしたナニカだった。全身が漆黒で顔と思わしき部分には目が無く、鼻と口が辛うじて形状としては確認出来る。体型からして女のようだがそもそもコレに性別があるのかは不明。そして右手にはこれまた全身と同じ漆黒の長刀。その形状から恐らく雪片弍型か、それに類するものだと思われる。

 

そしてソイツは俺を──正確には俺の右手の黒覇を──見て、刀を振りかぶって襲い掛かってきた。

 

「ぐっ……!」

 

その振り下ろされた刀を黒覇で受け止める。

黒覇の最大出力を放ったせいで俺の鎧牙のエネルギーはほとんど残っていなかった。その上さっきの紫電のダメージで、鎧牙からのエネルギー切れを予告するアラームが鳴り響いた。俺は目の前の漆黒から振り下ろされた刀を振り払って距離を置く。向こうも正眼に構えてタイミングを測ってきたのでその隙にISを全身展開では無く右腕部と黒覇を残すだけの部分展開に切り替える。ISからのPICの補助が無くなった俺の着地際を見計らって奴が斬りかかってきた。それをいなし、こちらからも打ち込む。向こうもそれを受け止め、鍔迫り合う。

 

『リサ、エネルギーこっちに回せるか?』

 

俺はプライベート・チャンネルでリサへと声を掛ける。

 

『はい。直ぐに送ります』

 

通常、IS間でのエネルギーの譲渡は中々難しい接続をしなければ行えない。しかし、俺とリサのISは、お互いにだけ限れば即座にエネルギーの受け渡しが可能なのだ。その上、本来は有線でやるところを無線でも行える。当然有線よりも時間や転送効率は落ちるが、この程度なら問題無い。それに、リサのISには俺用のエネルギータンクが積まれている。そこからエネルギーを配れば黒覇の最大出力も使えるようになろう。

 

そして、エネルギーの供給を受けながら俺は、力任せにソイツを押しのけ、黒覇を振り下ろす。それは後ろに下がって躱されたがまぁいい。末端なら多少切り落としてもボーデヴィッヒには届かないだろうからな、ちょっとずつ刻んで取り出してやるよ───。

 

 

 

そうして何合と切りあっていくうちに、ソイツの動きに何か見覚えがあることに気付く。似ているのだ、一夏に、敵対した時の対策にと見たビデオの織斑千冬に。

 

そして奴の武器。1本のロングブレード。形状は雪片弍型に酷似。

織斑千冬の世界大会での使用ISは雪片弍型の基礎となった雪片1本だけ。

ボーデヴィッヒはドイツの軍人で織斑千冬は過去にドイツ軍に指導教官として従事経験アリ。そしてその期間はボーデヴィッヒがドイツ軍にいた時期と被る。

言動からしてボーデヴィッヒにとって織斑千冬は最も敬愛する教官であり最も強さの象徴であること。そしてこのタイミングで発動した謎のシステムと織斑姉弟に酷似した動き。

繋がる。俺の頭の中でこの黒いやつの正体が。

 

ったく、ボーデヴィッヒが望んだのか、それとも他の誰かがこっそり積んだのかは知らねぇが、本当につまんねぇもんを乗っけてくれたもんだな。

 

きっとこの黒いのは操縦者が"世界で1番強いと思っている奴"の動きを再現させるものなんだろう。そしてボーデヴィッヒの中でのそれは織斑千冬。だから武器が雪片っぽい刀1本で、動きがあの2人そっくりなんだ。あぁけど流石世界最強だ。刀振り回す技術なら俺より上だよ。本当に。時々掠める刃に皮膚が裂かれる。どれも深く肉を斬る程ではないがこのまま続けば出血で動きが鈍るだろうし、コレ相手にそれは致命的だ。確実に致死の一撃が叩き込まれる。聖痕で身体を強化すりゃこんな奴速攻で片付けられるのだが、何となくそれは、コイツと同じになったみたいで気が進まない。力に呑まれて暴走するその姿は、かつての俺と酷く重なった見えた。

しかし、ここにきて更に場を混沌とさせる出来事が起きた。それは───

 

「お前が、その技を使うんじゃねぇぇぇ!!」

 

一夏だ。アリーナのシールドエネルギーを零落白夜で斬り裂いて瞬時加速で突っ込んで来たのだ。織斑千冬は一夏にとっても相当に大きな存在だ。その業を、このような形で模倣されることはアイツにとっては許し難いことなのだろう。

俺は一夏の姿を認めると───

 

「がぁ!?」

 

黒覇の圧縮エネルギー斬撃を叩き付けた。

こちらのエネルギー残量も心許無いから圧縮率自体はそう高くはない。けれど相対速度が一夏の軌道を捻じ曲げて地面へと叩き落とした。

 

「天人!!何しやがる!?」

 

「……うるせぇな。お前こそ邪魔だ。隅っこで大人しく見てろ」

 

この隙を突いてこない黒いのを疑問に思いながらも俺は一夏に向き合う。

 

「そんなことできるかよ!あれは千冬姉の技だ。それを……それをあんな奴に使わせられ───」

 

俺はもう1度黒覇を振り抜く。今度は先程よりも威力のある斬撃が一夏に襲い掛かる。しかし今度は雪片で受け切れた一夏は刃を振り上げることで俺の飛ばした黒い斬撃を真上に打ち上げる。

 

「これは俺の戦いだ。一夏、お前はそこで見てろって言ってんだよ」

 

「いいや違うね。これはもう俺の戦いだ。お前こそもうろくにエネルギー残ってねぇんだから向こうで大人しくしてろ!」

 

「そうかよ……。ならまずはお前から潰すぜ」

 

リサの星狼から送られているエネルギー量は既に鎧牙を全開で動かすには十分な量に到達している。俺は全身に鎧牙を展開。シールドエネルギーの残量はそう残ってはいないけれど、一撃も喰らうことなく決め切るから問題無し。

 

俺のISの展開を見て一夏も雪片を正眼に構える。そして俺達は同時に飛び出した。

光の粒子を放出させながら煌めくその刀身は、まさしく雪片の真骨頂である零落白夜の輝き。それに相対するのは夜の闇のように深く刃に映る全てを呑み込まんとする黒。相反する2色が相克するように接近する。そして───

 

───一夏は俺と切り結ぶ瞬間、雪片を下から上へと振り上げた。それとは真逆に俺は真上から唐竹割りに黒覇を振り下ろす───

 

フリをしてそのまま両手を黒覇の柄から離した。

 

 

───カン!

 

 

と、音を立てて真上へと跳ね飛んだ黒覇を見ることもなく俺は更に深く、一夏の懐に潜り込む。

そして一夏の腹に両手による掌底を突き出し───

 

 

 

──瞬時爆発(イグニッション・バースト)──

 

 

 

「ガッ───!?」

 

瞬時爆発は、俺のIS──鎧牙──に搭載されている機能で、瞬時加速の技術を応用した近接格闘戦向けの機能だ。

瞬時加速は一旦放出したエネルギーを再び取り込むことで圧縮し、爆発的な加速力を得る技だがこれは少し違う。同じように取り込んだエネルギーを圧縮し、そしてそれを外向きに爆発させることで目標を攻撃するのだ。鎧牙はこれを、掌底と足の裏から放つことができる。もっとも、プラズマ手刀を使うボーデヴィッヒとはあまり相性が良くないし、1回戦での一夏やシャルロット相手には使うタイミングも必要もなかった。

故に一夏は初めて見る攻撃であり、完全な奇襲となってモロにその爆発を喰らうこととなった。

更に俺はリサの星狼に積まれているバルカン砲を召喚。腰から前方へと回し、重戦車すら瞬きする間に細切れにできる弾丸の暴威を至近距離から一夏の白式に叩き付ける。

 

──ッドドドドドドドドド!!──

 

と俺の腰のバルカン砲がその銃身から、降り注ぐ豪雨のように弾丸を吐き出す。

そしてそれは白式の眩く美しい白の装甲を引き裂き、その汚れ無き白を機械油の黒で穢していく。やがて大きくて正面から見てもはみ出して見えることが災いした白式のウイングスラスターが弾丸に引き裂かれ爆発、炎上。それと共に零落白夜を2度も使った白式のシールドエネルギーが尽きる。

 

「くっ……そぉ!!」

 

崩れ落ちる一夏をしかし俺はもう視界に入れることなく振り返る。

ISのハイパーセンサーで分かってはいたが、やはりボーデヴィッヒとシュヴァルツェア・レーゲンだったものは、何故か俺達の戦いをただ眺めているだけだった。

 

しかし、一夏に打ち上げられ、アリーナの砂地に突き刺さっていた黒覇を俺が引き抜くと、奴は即座に刀を構え、俺に飛び掛ってくる。けれどいい加減俺もコイツの動きには慣れてきた。前の無人機と違ってコイツの動きにはパターンがある。それは、俺の動きに合わせて最適な動きをする、というようなものなのだが、その種類はあまり多くはなく、慣れれば次の動きを誘導できるのだ。きっと、これを積み込んだ奴は束程の力は無いのだろう。だから動きが単純で、使う技術こそ織斑千冬のものだけあって最初は手こずったが、慣れれば簡単に攻略できる。

俺はそこから数合も打ち合うと、もう鍔迫り合うこともなく簡単に刀を握った両手首ごと斬り飛ばす。そして半身に体を引きながら奴の正中線に沿って切っ先で奴の胴体を切り開く。

するとその裂け目から気を失ったボーデヴィッヒが零れ落ちてきた。

 

「本当、手のかかる奴だな……」

 

思わずそう呟きながらその華奢な身体を抱き留めると急に鎧牙が光り出す。そしてボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンも同じく共鳴でもするかのように輝き、それに俺たちはそのどこか暖かな光に包まれた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

『ここは……?』

 

『さぁな。強いて言うなら、俺の記憶ってところか』

 

気が付くと俺達は、どこか別の空間にいた。いや、ここはきっと現実の空間ではないのだろう。何せ、お互いさっきまで纏っていたISが無いし、何故か光で包まれていてシルエットが分かりづらいけれど、多分2人とも服すら着ていない。

そして俺達の周囲には記憶が……俺の戦いの記録が、俺達を囲うように浮かんでいるのだ。

 

『負けたのか、私は……』

 

『いくら織斑先生の真似をしようが、あんな魂の入ってないパチモンじゃ、俺には勝てねぇよ』

 

『そうか……。これがお前の記憶……。まさか、そんなことが……』

 

 

『知ってるのは山田先生と織斑先生、あとは篠ノ之束くらいだ。他には言ってないし多分言っても信じねぇだろ』

 

『だろうな……。あぁ、強いわけだ。……この力、使ったのか?』

 

『誰が使うかよ。あれは守るために使うんだ。お前みたいに暴力でただ蹂躙すれば良いなんて使い方、ゴメンだぜ』

 

『強いな……。どうしたらそんなに強くなれる。戦闘力だけじゃない、どうしてそんなに強く在れるんだ……?』

 

『強くなんてないさ。本当に強かったら俺はこんな所にはいない。けどま、俺が強く見えるんだとしたら簡単だ。俺には本気で、この命に代えてでも守りたい奴がいる。そしてそのために戦ってるからな。やっぱさ、他に守るものがある奴ってのは強くなれるんだよ』

 

だからきっと、アイツも強くなれる。今は弱くても、努力さえ怠らなきゃ、な。

 

『守りたいもの、か。私は自分を守るだけで精一杯だったんだな。他の誰かのことなんて考えたこともなかった』

 

『俺だってそうさ。今だって、精々他にはリサのことしか考えられない。だからさ、これから見つけてけばいいんだよ。時間はたっぷりあるだろ』

 

『あぁけど、私にはもう分からないんだ。自分が一体何なのかさえ。力が私の全てだった。けどそれを否定されたら私は……』

 

『お前はお前だ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。けどそっか、ならそれも探そうぜ。お前はもっと外を見ろ。世界はほらこんなに広いんだ』

 

『外、か。これでも私は、自分の視野は比較的広い方だと思っていた。ドイツ軍の軍人として、ISの国家代表候補性として、この学園に通っている奴らよりも色んなものが見えていると、そう思っていた』

 

『まだまだ狭いな。世界はお前が思ってるよりずっと広い。そして何より世界は1つですらない。お前は……、俺もだけど、この世界だけですらほんの一部しか見てねぇんだ』

 

『みたいだな。あぁけど本当のことを言うと、やはりお前の言う通り、怖いんだ……』

 

『怖い?』

 

『あぁ、私は本当の意味ではまだ外に出てないんだと気付いてから、外に出るのが怖くなってしまった。……笑うか?』

 

『笑わねぇよ。俺だって外に出るのは怖かった。今でも怖いさ。知らねぇ世界で、ISなんて物が飛んでて。リサを守り抜けるのかってな』

 

『そうか……、そうだな』

 

『だからさ、ここからだよ。ここから、お前はお前を、ラウラ・ボーデヴィッヒを始めるんだ』

 

『あぁ。それはいいな……』

 

『俺も、まぁ少しなら手伝ってやるよ』

 

『ふふっ……よろしく頼むぞ』

 

そしてラウラは微笑んだ。その顔は、俺がこれまで見てきたこいつの顔の中で1番輝いていた。

 

 

 

──これから、お前はお前自身を見つけるんだ。そうすりゃきっとあんな黒いのに惑わされることもないだろうからさ──

 

 

 

 

 

 

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