セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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お待たせ致しました。書き溜め終わったので更新再開します。


邂逅と海溝

 

 

「ようこそ、君達の来訪を歓迎するよ」

 

なんて、仰々しく迎え入れられた俺達がやって来たのは教会のような場所。て言うか伊・Uの中だ。当然俺達を迎えたのはシャーロック・ホームズその人。だいたい、ようこそも何も俺達は越境鍵でこっちに飛んできているんだ。特別に歓迎したわけでもなしに、仰々しいことだ。

 

もうすぐノーチラスとノア、ナヴィガトリアの合流が西半球で行われる。場所も分かってはいるが、まぁ、場所がどこだろうと俺達にはさほど関係のない話ではある。どうせ海だし。

 

だから問題なのはもうすぐネモとモリアーティが相対するということで、それは即ちこの世界の行く末を決める戦いが行われることを意味する。

 

「それで、与えていた課題の進捗はいかがかな?」

 

相も変わらずウザったい喋り方をするやつだ。よくこんなのからあの直情娘(アリア)が産まれたもんだ。いや、間に何人か挟んでるからそのおかげかもしれないけど。そういう意味じゃ、メヌがこんな七面倒臭い奴になってしまわないように気を付けてやらなければなるまい。折角お友達ができそうになってもこんな奴と同じ性格じゃ皆逃げるだろ。

 

「……取り敢えず、アーティファクトは一通り強化してある」

 

ゴトンと、俺がテーブルに置いたのは多重加速式よ拳銃。見た目はこれまでの電磁加速式の物と差程変わりはない。大きさも変わっていないしな。

 

「具体的には?」

 

「……これまでは火薬の燃焼と電磁加速だけだったが、重力加速と魔力の爆発も同時に合わせた。火力はこれまでの10倍以上はある」

 

その上でほぼフルオート並の連射力もある。拳銃や対物ライフルだけでなく、突撃銃(アサルトライフル)やマシンガン、ガトリングガンも同じように多重加速式になっているのだ。

 

「あと、弾頭も通常弾と魔力の衝撃変換以外にも増やした。……空間爆砕と、取り込んだ物質を消滅させる神代魔法」

 

こうも俺がペラペラと手の内を晒す理由。単純に今がお互いの戦力把握の時間だからというのもあるが、俺を睨んでいる星伽が余計なちょっかいをかけてくる気を失せさせるためでもある。

 

まぁ似たようなことはトータスで他の奴らにやって、結局はエヒトと神の使徒のおかげで無為に終わったが、さて、この世界ではどれ程通用するだろうか。

 

「天人、俺は今だけでも数え切れないくらい質問が浮かぶんだが、答え合わせは逐一やってくれるのか?それともまとめて聞いた方がいいか?」

 

「……後で纏めて聞くよ。多分いちいち聞いてたら話の腰がバッキバキだ」

 

何せこっから先には太陽光収束兵器だの5000機もの生体アーティファクト・ゴーレムin地獄の悪魔達だの、果てには黄金に輝く聖剣やら夜色の魔剣やら、俺の武装だけでもそれはそれはキンジの想像を超えるであろうものを出す必要があるのだ。

 

まだまだユエやシアやティオやアガレスのお披露目があることを考えたらキンジには悪いけど、構っていたらいつまで経っても話が進まないだろう。

 

「さて、それでは天人くんの話の続きを聞かせてもらおうか」

 

「……んっ。後は……アガレスさんが加わりました」

 

俺のアーティファクトを除いてあの課題を与えられてから増えた戦力と言えば、俺がユエ達を侍らせて座っている長椅子の後ろで突っ立っているアガレスと後は地獄の悪魔共の取り憑いた生体兵器軍団くらいだ。もうユエ達の無限魔力や守護天星(システム・ソレール)、シアと共にいる神霊達の説明とか正直面倒臭い。

 

「具体的には……あぁ、俺とシアで2人がかりでもアガレスは戦えます。んで、基本は空間魔法を使います」

 

この説明で分かる奴はトータスにいた奴くらいなもんだろう。シャーロックも、俺が全員に再度お話することそのものが面倒になってきているのを察したのか、眉根がピクリと動いていた。

 

「……つか、バスカービルには基本雑兵の相手をやってもらって、レクテイアの神様とか聖痕持ちとかの大物は俺達でやるんじゃねぇの?」

 

今この場にいるのはシャーロックとワトソン1世、俺とリサとアガレス、透華達とユエ達にジャンヌにルシフェリアとカーバンクル、それからメヌにレミアとミュウも、戦うことはないだろうけど集まっている。他にはバスカービルの面々とキンジにワトソンくらいだ。そしてこれに加えてノーチラスの面々がノアとナヴィガトリア───モリアーティの軍勢と戦う俺達の最大戦力であった。鬼達も伊・Uにいるにはいるが、アイツらはこの艦の操縦をしなければならないから戦闘時の戦力としては期待できない。

 

シャーロックの推理やネモやルシフェリア、カーバンクルからの情報じゃあレクテイアで神と呼ばれるような奴らも数人、ノアにはいるようだ。他にも聖痕持ちも数人がモリアーティの元にいることは分かっている。

 

レクテイアの神と正面切ってのタイマンであればキンジ達にも勝ち筋はあろうが、こと聖痕持ちとの戦いとなるとキンジ達では相手にならない。だが、そんなことよりも、その他の奴らに俺達の戦いを邪魔されないようにキンジ達に雑魚共を抑えてもらう方が俺達としてもやりやすい。

 

「基本的にはそうなるだろう。しかし天人くん、私達は君達の戦い方をあまりに知らなさ過ぎると思わないかい?君達はこの世界の超能力でもレクテイアの魔術でもない特別な魔法を使う。情報の共有がキチンと為されていればキンジくん達も君達のサポートをやりやすいだろう」

 

「……ならジャンヌとエンディミラの2人と打ち合わせすれば?」

 

ボソッとユエが呟く。確かに、この戦いにおいてジャンヌとエンディミラは後方支援またはノアとナヴィガトリアに潜入し、面倒な潜水艦2隻の制圧を任せることになるだろう。上からの制圧にはティオに力を発揮してもらうつもりだし。

 

「あぁ。確かにな。乗組員全員追い出しちまえば後は俺が鹵獲できるし」

 

乗ってる奴を全員艦の外に放り出してしまえば後は俺の宝物庫の中に入れてしまえばカタがつく。そうなれば後は空戦だ。向こうの聖痕持ちやレクテイアの神様達がどんな力を持っているか知らないけれど、こっちの主力は全員空中での戦闘を意に介することはない。

 

「伊・Uからの支援は要らないと?」

 

「支援なんて、出来るもんならしてみろよ」

 

シン……と空気が静まり返る。それに比して星伽の視線が更に鋭くなったような気がする。すると、レミアの膝の上にいたミュウがトコトコと俺の元に寄ってきた。

 

「パパ……?」

 

ミュウはまだ小さな子供だけれど、この場でどんなことが話し合われていて、今の空気がどのようなものか分からないほど分別の無い子ではない。もっとも、この歳でそこまで分かっているのは分別が有りすぎると言ってもいいけど。

 

「んー?」

 

俺はミュウを抱え上げると膝の上に乗せてやる。それで少し安心したのかミュウは俺の胸板に後頭部を擦りつけてくる。

 

「ま、俺達は俺達でやらせてくれた方が連携も取りやすいんだよ。だからそっちはノアとナヴィガトリアを内側から攻めてくれ。外からは俺達がやるからさ」

 

「……外からって言うけど、アンタは空飛べるにしても、他の子は大丈夫なの?」

 

「んー?……ユエもシアもティオもアガレスも、空戦は問題無いよ」

 

「我もその気になれば浮けるぞ」

 

と、ルシフェリアも俺の前にやって来る。それで俺はふとカーバンクルの方を見やるが、カーバンクルは普段の無表情───ではなく少し不満げだ。どうやらカーバンクルは空戦には対応できないようだ。

 

「おー、じゃあ頼むぜ、ルシフェリア。カーバンクルも、ノアとかナヴィガトリアの制圧を任せたい」

 

「おう!主様の期待には応えるぞ」

 

「分かった」

 

ルシフェリアはいつも通りニコニコ、カーバンクルも表情が晴れて珍しい笑顔。しかし皆そんなに戦いたいのかね。まぁやる気があるのは良いけど。

 

それで場の空気も多少は和らいだだろうか。まぁ、ミュウにあんな風にされたんじゃ、俺も態度を変えねばなるまいて。

 

「向こうの戦力次第じゃティオとアガレスも伊・Uとノーチラスの守りに構ってる暇がなくなるかもしれねぇ。だったらノアとナヴィガトリアを制圧できた方が安全だろ?」

 

俺達の中で誰よりも空間魔法を扱えるのはアガレスだ。コイツなら1人で戦艦2隻を相手取っても防御を崩されることはない。それだけの絶対的な力がある。そして勿論、守護者の天職を持つティオだって防戦は得意だ。その鉄壁の黒竜燐は戦艦の砲撃だって余裕で受け切れるし、漆黒のブレスや魔法での反撃も激烈。

 

だがそれはあくまで向こうの主戦力が戦艦の砲撃に頼っていた場合に限っての話。アイツらの主力が聖痕持ちで、それが俺とユエとシア、透華達だけでは手に余る場合は当然この2人にも出てきてもらう必要がある。そうなればどうしたって伊・Uとノーチラスの防御が甘くなる。

 

「……そうだな。まずは向こうのノアとナヴィガトリアを制圧するのが先か」

 

「おう。それじゃあそっちは頼むぜ?いくら何でも聖痕持ちとやってる間にゃ俺ぁお前らの手助けは難しい」

 

「分かってるわ。こっちは任せなさい」

 

「あぁ。そっちはそっちに集中してくれ」

 

何だかお互いに会話がぎこちない気がする。何せ俺達の間にはどうしたって溝がある、出来てしまったのだ。それはもう受け入れなければならない。俺は異世界を旅して、きっとどこか変わってしまったのだろう。それが何なのか、俺にはよく分からない。だけどきっとキンジ達からすればそれは大きな変化で、それをアイツらが感じていることを、俺も感じていた。だから最近の俺達の会話はなんだかどこかチグハグで、心が通い合っていない。

 

それでも、今この場で必要なやり取りは行えた。機械的で、どこか欠けているように思えるけれど、必要事項の共有は済んだのだ。だから俺は席を立つ。この先の戦いのために必要な会話は、ユエ達とするべきだからだ。

 

「行こうか」

 

「んっ」

 

「はいですぅ」

 

「おう」

 

ユエとシアとティオが頷く。他のみんなも同じようにそうした。俺はミュウを抱き上げて肩の上に乗せてやる。俺に肩車されたミュウは俺の頭に手を置いて「レッツゴー、なの」と指差している。俺はその方向に歩みを進める。キンジ達はまだ残って何か話すことがあるようだ。

 

ただ、俺達はそれを聞くことなく、シャーロックに用意された船室へ向かう。戦いはもうすぐだ。その先のことはまだ何も分からない。今は目の前の戦いにだけ注力しなければならない。

 

そんな激しい争いの予感を、俺は感じていた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

シャーロックから俺達に与えられた居室は2部屋ある。何せ俺も入れて13人の大所帯だ。メヌはアリアと同室らしい。透華達3人で1部屋、残りの10人が同室とのこと。馬鹿なのかな……?

 

明らかに割合のおかしい部屋割りに文句は付けたがシャーロックには暖簾に腕押し、柳に風。「家族は1部屋だろう?」とか言われたのでじゃあルシフェリアとカーバンクルは別室にしろやと、まぁそんな要求はルシフェリア達に却下されましたが。

 

俺が前に使っていた船室よりは広いけど、だからって大人9人子供1人では狭いのは当たり前。これどうやって寝るんだよ。雑魚寝も難しいぞ。

 

「……まぁいいや。寝る時ゃ上に氷張って固定する」

 

「……落とさないでくださいよ?」

 

「当たり前だ。ちゃんと必要十分な魔素は込める」

 

それよりも、と俺は皆を適当に座らせる。各々宝物庫から座布団を出したりリサ達の分を出してやったりしながら全員が座ったのを見て、俺は口を開く。

 

「実際、ティオとアガレスが伊・Uとノーチラスの防衛。俺とユエとシア、透華達でモリアーティと聖痕持ち、ルシフェリアとカーバンクル、ジャンヌとエンディミラでレクテイア人、ないしはレクテイアの神共を相手にしてもらう。そんでキンジ達と協力してノアとナヴィガトリアの制圧……でいいかな?」

 

勿論、こっちの手が足りないようならティオとアガレスにも手伝ってもらう。それに、ノアとナヴィガトリアの制圧には他にも助っ人の用意がある。

 

すると、ユエ達が皆「んっ」と頷いている中、1人だけ手を挙げる者がいた。

 

「はいなの!」

 

……それは何故だか知らないけどミュウだった。

 

「んー?」

 

取り敢えず、無視するわけにもいかないので続きを促す。すると、ミュウは手を挙げたまま口を開いた。

 

「ミュウもたたかいます、なの」

 

「駄目」

 

「どうして!?」

 

ミュウは驚きに目を見開いているけど当たり前だ。態々こんな危険な戦いにミュウを表に出してやれるわけがない。どうしてもと言うからノーチラスには乗せてやるけれど、本当はリサとレミアと一緒に日本の家で……もっと言えばトータスででも待っていてほしいくらいなのだ。

 

「当たり前だろ……」

 

俺が項垂れていると、それでもミュウは諦めずに再び「はい!」と元気良く挙手。俺は「どうぞ」と取り敢えず先を促した。

 

「ミュウはまえのおうちでもたたかったの」

 

前のお家……トータスでの最後の戦争のことだろう。とは言え、あの時とは事情が全く違う。今更、ミュウを戦いに巻き込む気は更々無い。

 

「あの時は戦わなきゃ全員死ぬ戦いだったからな。だけど、今回は戦わなくたって俺達の誰かが死ぬわけじゃあない。ただ、世界の有り様が変わるだけだ」

 

これでミュウに伝わるだろうか。俺の頭じゃミュウにも分かるように、という言葉を選ぶのは難しい。本質を外さずに、言葉を変えられるほどの語彙力は持ち合わせてはいないのだ。

 

「それでも、ミュウはここでいきていくの。だから、ミュウもたたかわなきゃいけないとおもいます、なの」

 

なるほど、ミュウの言いたいことも分かる。これを言っているのがもっと大人───武偵高の誰かやあっちの日本の誰かなら、俺は頷いただろう。だけど今これを言っているのはまだ小学校にも上がっていない子供なのだ。だから───

 

「その志は立派だよ、ミュウ。だけど、俺ぁミュウが戦わなくていい世界を作るために戦うんだ。だからミュウが戦うのを、俺は許可できない」

 

「みゅ……でもパパ、ミュウはしょうらい、パパみたいなぶていさんになりたいの。だから、そのためにもにげたくないの」

 

武偵になりたいなんていうのが将来の夢と言われるとそこはかとなく心配になるな……。しかし、そう言えばミュウから将来の夢なんて聞いたことなかった気がする。

 

「どうして?」

 

俺は人に目標とされるようなご立派な人間じゃないし、武偵なんてならなくて済むならならない方が良いと思う。それは近くで見ているミュウが1番分かっていると思ったのだけれど。

 

「パパはミュウのもくひょうなの。パパはミュウとかママをまもってたたかってくれたの。ほかの人のためにもたたかったの。だからミュウもいろんな人をまもれる人になりたいの」

 

ミュウの言葉は、武偵の良い部分しか見れていない言葉でもある。確かに武偵は人を守る。元々が悪化の一途を辿る治安に対する防衛装置なのだから。

 

だけど武偵はそれだけじゃ済まない。同じ武偵同士でも戦うこともある、お互いの正義がぶつかり合う時だってある。それに、武偵法が許す限りはなんだってやるのだ。当然武偵で身綺麗な奴の方が珍しい。それに……

 

「ミュウ、身体ぁ張ってでも誰かのために戦いたい、守りたいってのは立派だよ。でもな、それなら警察官とか消防隊とか……他にも人の命を救う仕事はいっぱいある。医者だって体力的にも大変な仕事だ。この辺は考えてないのか?」

 

俺に憧れて、同じ職に就きたいと思ってくれるのは父親冥利に尽きるのだろう。だけどミュウはこの世界のことをあまり見れていないのだ。それは、この歳の子供なら当たり前のことだけど、だからこそ今すぐに将来を定めてしまうのは些か以上に勿体ないと思うのだ。ミュウにはまだ選択肢が無限にある。無限に、俺がするのだ。ミュウが医大に通いたいとか、海外に留学したいとか思った時に、家の経済事情を理由にその考えを諦めてしまわないように。

 

「んみゅう……」

 

俺の提示に、ミュウは困ったような声を漏らした。俺を見上げるその瞳は、「でもでも……」と、言いかけているような気がした。

 

「ミュウが俺に憧れて武偵を目指したいと思ってくれたのは嬉しい。だけど、世の中には色んな仕事がある。その中には人の命を救うものだってな。……ミュウは俺を見て武偵になろうって思ったけど、なら今度は、()()()()()()()()。世界は広いよ、色んなものがある。ミュウは、それを知ってるだろ?」

 

ミュウの肩に手を置き、なるべくミュウと視線を合わせるようにして俺はそう語り掛ける。

 

「……はい、なの!」

 

するとミュウは一瞬目を伏せ、そして直ぐに顔を上げると俺の目を真っ直ぐに見据えて元気良くそう返した。その瞳の色は輝いていて、俺の言葉をしっかりと考えてくれているんだなと感じさせてくれた。

 

「……さて、話が逸れたけど」

 

そう言えば元々はミュウも一緒に戦いたいという話だった。いつの間にかミュウの将来の夢の話になっていたけれど、近々で1番大事なことが何も解決されていない。

 

「武器を手にした奴が生きていける世界は極端に狭くなる。俺ぁそれを嫌っていう程に知ってる。いいか、ミュウ。戦えることは良いことだ。だけどな、戦うしかできないのは良くないことなんだぜ」

 

喧嘩が強くたって平和な世界じゃ何の役にも立たない。いつかは俺のような存在が必要の無い世界こそ俺の理想。

 

「特に、腕っ節ばっかり強いなんてのは、何の自慢にもなりゃしねぇんだ。そして、自分から戦いの中にばっか飛び込む奴は得てしてそうなりがちだ」

 

俺のようにな、とは言わないでおく。リサ達は俺が自分のことをそのように言うことを嫌がるからな。

 

「この戦いは世界を変える戦いのホンの最初だ。戦争なんてない、今よりもう少し平和な世界を作るためのな。それは俺達大人がやるべき戦いなんだ。俺達が作って、ミュウに繋げる。だからミュウ、ミュウにはその後……平和な世界を守るための戦いをしてほしい。俺達が残したものを、次の世代に繋いでくれ。そして、それは武力じゃないやり方で維持されてほしいと願うよ」

 

それから、と俺もミュウの瞳を見据えたまま続ける。

 

「ミュウには、俺達の帰る場所になってほしいんだ。ミュウが待っててくれるなら、俺達はどんな敵とだって戦える。それで、勝って帰って来れる。その目標になってくれ」

 

俺がこれまで戦ってこれられたのはリサがいたからだった。リサのいる元へ帰る。俺が戦い続けられた理由はそれだ。そして今はリサだけじゃなく、ユエ達もいる。勿論ミュウも。この子達の元へ帰ることが俺を奮い立たせる理由。どんなに血反吐を吐いても身体が千切れても、帰る場所があるのなら俺は戦える。生き残れる。

 

「わかったの。ミュウは、パパたちをまちます。だからパパもお姉ちゃんたちも、絶対に帰ってきてね……」

 

「おう」

 

「んっ!」

 

「あったり前ですぅ」

 

「分かっておるよ」

 

「あぁ」

 

「はい」

 

ユエ達がそれぞれ頷き、ルシフェリアやカーバンクル、透華達も口々に生きて帰ることを誓う。

 

「ほれ」

 

「わ、我もですか?」

 

ただ、アガレスだけは黙ってそれを見ていたので、何か言えと促してやる。するとアガレスは一瞬言葉に迷い、そして直ぐに口を開いた。

 

「ミュウ様、我は我が魔王をお護りするとここに誓います。そして勿論、我自身も再び我が魔王共々凱旋します」

 

アガレスはミュウの前に膝を着き、胸に手を当ててそう告げた。その姿はまるで姫を守ると誓う騎士様のよう。守られるのはミュウじゃなくて、俺なんだけどな。

 

「パパたちをよろしくおねがいします、なの」

 

けれどミュウはそれを笑うことなく受け止める。強い子だ。あの世界(トータス)での過酷な経験がこの子をそうさせてしまった。だから俺はこれ以上この子が強く在ろうとせずに済むような世界を作りたいんだ。

 

ここに誓いは立てた。俺は俺の誇りに懸けてこの戦いに勝ち残る。そして皆揃ってミュウの前に帰る。俺達はそれぞれを見合い、頷き合うのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「キンジ、お前らに助っ人だ」

 

1人で伊・Uの艦内を歩いていたキンジを見つけた俺はそう声をかけた。あと数十分で戦いが始まる。伊・Uはノーチラスから離れること1キロ程だが、ノーチラスには俺のアーティファクトで俺達は直ぐに移動できる。だから戦闘になる直前に直ぐに駆けつけることができるのだった。

 

「助っ人……?」

 

すると、キンジは訝しげな顔を浮かべた。まぁ、俺の周りには今誰もいないからな。助っ人と言われても意味が分からないだろう。

 

だから俺は宝物庫を光らせる。そしてそこから出てきたのは仮面のような顔をした人形が1体と、豹のような体躯の生体アーティファクトが1体現れた。

 

「人型がバルバトスくんで豹の方がシトリーさんだ。どっちも別の世界の地獄の悪魔……が俺のアーティファクトに取り憑いてる」

 

バルバトスが左胸に手を当て会釈をすればシトリーも頭を少し垂れる。まるで人間だ。君達はその動作をどこで学んだの……?

 

「何だそれ……。細かいことはもう聞かんが、大丈夫なのか?」

 

「おう。俺ん言うことは絶対に聞くし、この戦いじゃキンジ達を助けてやれって言ってある」

 

一応魂魄魔法のアーティファクトによる安全装置もあるしな。それはコイツらも分かっているし、随分と脅かされているからな。例えそんなものが無くたって俺の言うことを反故にすることはなかろう。

 

「……分かった。天人がそう言うんならそれでいい。……それで、コイツらは何が得意なんだ?」

 

「んー?……何って言うか、コイツらの身体にゃ俺ん魔法を積んでんだよ。……まぁ、魔法ってか普通に銃火器もあるけど」

 

バルバトスは両手の爪に空間魔法が、掌に重力魔法が付与されている。全身から纏雷も放てるからゼロ距離戦闘に不安は無い。トータスの魔力と地獄の世界の魔力はよく似ていて、ほぼ等価で扱えるのも大きい。

 

また、武装としては電磁加速式拳銃が2挺、重力魔法と纏雷、風爪の派生技能である飛爪が付与された短刀が2本。手足には空力と縮地が、肘や踵にも刃が仕込まれている全身武器人間だ。

 

膂力だって人間のそれではない。シアの身体強化レベル7程度の腕力があるから、コイツ1体でも強襲科の入学試験をSランク相当で突破することだって可能だ。

 

───という説明を掻い摘んでキンジにしてやると、キンジは何故だか俺にドン引きですって顔をして1歩後ずさった。

 

「……何故?」

 

「いや、お前……侵略戦争とかしないよな?」

 

「しねぇよ」

 

まったく心外だぜ。

 

「んで、こっちのシトリーさんだけど───」

 

シトリーの方にも空力、縮地、纏雷、爪と牙の空間魔法セットは標準装備。しかもコイツの瞳を見ればキンジはHSSを発動できるように魂魄魔法を仕込んである。当然口腔内には銃火器が仕込まれているし、折角獣の姿をとっているのだから尻尾だって刃になる。

 

更に背中に宝物庫を乗せてあるからバルバトスの武器を中に幾つか仕舞ってあるし、最悪何か拾ってもその中に入れておけばいい。

 

「よく分からんが、取り敢えず9条は守れよ?」

 

「分かってるよ。レクテイア人はなるべく怪我させんなって伝えてある」

 

いくら地獄では高位の悪魔達であっても、俺のアーティファクトに取り憑いた状態で、しかも聖痕持ちを相手に手加減なんてしている余裕は無いだろうが、逆に言えばそれ以外には大概圧倒できる能力を持っているのだ。レクテイア人達を余計に傷付けることなく彼女達を制圧することだって可能だろう。

 

「じゃあバルバトス、シトリー、お前らぁキンジ達に付いて行け。お前らが手早く敵を制圧してくれるとこっちも楽できるからな、任せたぞ」

 

コイツらに喋る機能は無い。地獄の底から肉体を持ってコチラに来ればそれも可能だろうが、俺の生体アーティファクトにはそんな機能はない。何せ無呼吸だしな。生体とは一体……。

 

そんな不思議生物未満無機物以上の彼らをキンジ達に預けて俺はその場を立ち去る。とは言え、行き先なんて決まっているのだけれど。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「ご主人様」

 

ノーチラスの食堂に飛べば、真っ先に俺を迎えてくれたのはリサだった。武偵高の赤いセーラー服を改造したセーラーメイド服を身に纏ったリサを軽くハグしてやればリサは心地良さそうにおデコを俺の肩口に押し付けてきた。

 

俺はリサの柔らかな白い頬にキスを1つ落としてもう1度、今度は深くリサを抱きしめる。リサの金糸のような髪の毛を梳くと俺の指は何に引っ掛かることなくその隙間を駆け抜けた。

 

「……んっ、次は私の番」

 

「私もですぅ」

 

「ほれ、妾も早く抱きしめてほしいのじゃ」

 

すると、ユエ達も続々と俺の周りに寄ってきた。ジャンヌも、エンディミラも、レミアもミュウも。

 

俺達は総じてノーチラス組として今回扱われる。キンジ達はイ・ウー組。バスカービルで実際に過去イ・ウーに居たのは理子だけで、こっちには俺とリサとジャンヌがいるのにその名称はおかしいだろとキンジは言っていたけれど、そうは言っても実際の派閥で別けたらこうなるのだから仕方ない。

 

「おう」

 

俺は皆を抱きしめる……とは言っても俺の腕の長さでコイツら全員を包むのは不可能なので1人ずつ順番に、だ。

 

すると、何やら強い非難の視線を感じる。まぁ、誰がそんなものを放っているのかなんて今更見なくても分かる。ネモに透華達、それからルシフェリア達だ。

 

「ほら、我のことも抱きしめて良いぞ、主様。むしろ抱きしめない理由なんてないじゃろ?何せ我は主様の花嫁なのじゃからな」

 

なんて言いながらトコトコ俺の元にルシフェリアが駆け寄って来るが、取り敢えずそれは遠慮させてもらいましょう。

 

「いやもう両手が」

 

なんて言って俺は手近にいたリサとジャンヌとレミアをまとめて抱きしめる。それを見せられてルシフェリアは「ぐぬぬっ」と態々声に出して唸っていた。

 

「それよりも───」

 

と、俺は一旦3人を離して1つ真面目な顔を挟む。

 

「───これ、レミアに渡しておくから。危なくなったら使え」

 

俺が渡したのはスイッチ式の空間魔法アーティファクト。ここと俺達の家を繋ぐそれは、ノーチラスが危うくなった場合の緊急脱出手段。ミュウの元にいる悪魔達の乗り移った生体ゴーレムのアーティファクト達はこの戦いには出さず、ミュウ達の護衛に付くけれど、いくらアイツらでもノーチラスが沈むようなことになればリサ達を怪我なく守り切るのは難しいかもしれない。

 

何せ外の戦いの規模が規模だ。アーティファクトの身体に縛られている彼らはその本領を発揮とはいかないのだから、まずはリサ達が即安全地帯に逃げられる用意を整えておくべきだろう。

 

「……分かりました」

 

「ま、まず使わせねぇようにするからさ。安心してな」

 

「守護者の天職を信じておれ」

 

「えぇ。皆様は我が守り抜きます」

 

俺と、基本的には防衛担当のティオとアガレスが力強く頷く。空の支配者たる守護者の天職を持つ竜人族の姫、そして空間魔法を操り地獄の下層に君臨していた悪魔。

 

トータスであればたった1人でも国1つを攻め滅ぼせるくらいの2人。そして守りに入れば帝国だって彼女らの守る国への侵略は諦めざるを得ない。そんなレベルの2人が俺達の元にはいるのだ。これ以上に心強い仲間はいないだろう。

 

それが分かっているから、リサだけでなく、レミアもミュウも安心した顔で頷ける。

 

「ルシフェリアとカーバンクルも、頼んだぞ。キンジ達はノアを攻めるから、お前らはナヴィガトリアだ」

 

ルシフェリアであればナヴィガトリアの内部構造にもそれなりに詳しいだろうという判断だ。こっちはルシフェリアとカーバンクルというレクテイアの神を中心にジャンヌとエンディミラが乗り込む。勿論俺の生体ゴーレムに取り憑いた地獄の悪魔も何匹かついて行く。

 

「任せておけ、主様。我がいるのじゃから何も問題は無いぞ」

 

まぁ君が1番トラブルメーカーだと思いますけどね。

 

「安心しろ、タカト。カーバンクルは強い。それに、タカトに貰った武器もある」

 

カーバンクルには俺のアーティファクトを渡してある。ナブラタン・ガダーも悪い武器じゃないが、海上じゃ使い用がない、と言うか棒だけあっても宝石の湧いてくる地面が無いから出しようがない。

 

それ故に俺はカーバンクル用のアーティファクトを作る必要性に駆られたのだった。だがそこで問題が1つ。カーバンクルはあまり頭の回転が早い方ではなかったから、アーティファクトにあまり複雑に機能を載せられなかった……と言うか載せても全部を理解することが難しかったのだ。その上魔力の直接操作も無いから様々な魔法を搭載してしまうと余計に操作がこんがらがるという難点が。

 

おかげで搭載した魔法は重力魔法のみ。スイングの際にスイッチを押し込むことでアーティファクトのスイングスピードを加速させるという単純明快なものしか付与していない。

 

まぁ元々の戦闘スタイルを考えたらそんなに色々は必要ないだろうが、あの宝石を飛ばす魔術と似たような、ないしは同じ役割が担える魔法が付与されていないから、中・長距離戦闘に持ち込まれた時の射程に不安が残る。まぁ、そこはエンディミラやルシフェリアにカバーしてもらう他ない。

 

「むー、主様よ、我にも武器を作れ」

 

「んー?……だってルシフェリアは武器とか使いたがらないじゃん」

 

「それはそうじゃが、それはそれとしてカーバンクルが主様から物を贈られて、我には何も無いのはおかしい」

 

えぇ……面倒臭……。だいたい、ルシフェリアの戦い方って武器なんて要らないんだよね。基本的には強力な念動力で敵を直接攻撃するか、物を動かして叩くか、自分の身体能力の補強に使うか、そんな感じ。

 

露出の多さに誇りを持っているから鎧の類のアーティファクトも好まないし。さて、どうするか……。

 

「……んー、じゃあ……」

 

無い頭を振り絞って、どうにか俺は1つ思い付く。もっとも、それは武器とは呼べないようなものではあるのだけれど、要は何か戦闘の役に立つものをルシフェリアに贈れば良いのだ。それならばこんなものでも文句は言うまいて。

 

と、俺は氷でテーブルを作るとそこに宝物庫から適当に鉱石を取り出して並べ、それらを錬成し始める。それに加えて生成魔法で手を加えていく。

 

真紅の魔力光が迸るその光景を皆ただ黙って眺めている。どうやらこの子達は俺が錬成で何かを作っている様子を眺めるのが好きらしい。何がそんなに面白いのかはよく分からないけど、まぁ邪魔にはならないし別にいいかと放っておいていた。

 

「さて……」

 

そのうち錬成も終わり、幾つかあった鉱石達は1つの形へ収束していく。それはネックレスのようなアーティファクトで、首に掛けて言葉1つで魔法を発動させることができる。

 

「ん」

 

「んーん」

 

俺はそれをルシフェリアに渡そうとする。だがルシフェリアは自分の頭を突き出してくるばかりで受け取ろうとしない。何だよそれ、俺に着けろってこと?

 

「……はいはい」

 

仕方なしに俺は作ったばかりのアーティファクトを、水着よりも露出の激しい栄えある衣装を身に纏ったルシフェリアの首にかけてやる。するとルシフェリアはニコニコと機嫌良さそうに微笑み……

 

「んー、むっ……」

 

背伸びして俺の顔に自分の顔を突っ込んできたので額に指を当てて押し戻す。だから、そういうのはする気ないんだってば。

 

「下手に武器持つより、多分それ使った方がルシフェリアは強いよ」

 

と、俺はアーティファクトを指差しつつ使い方を教えてやる。付与した魔法は瞬光。

 

「流石は主様じゃの。我のことをよく分かっておる」

 

武器ではないがどうやらルシフェリアのお気に召した様子。惜しげも無く晒された胸元で光るアーティファクトの輝きに負けず劣らずその笑顔は輝いていた。

 

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