セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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「───っ!?」

 

一瞬……むしろそれよりもさらに速くモリアーティは俺の眼前に現れた。どうやって空間魔法も使わずに空間断絶結界の中から出てきたのかは分からない。ただ、何も分からなくても俺の目の前にはモリアーティがいる。それだけが俺に理解出来る事実だった。

 

そして俺の視界が一瞬で切り替わる。モリアーティの後ろに俺が回り込むようにアガレスが俺を転移させたのだ。そして、そのまま俺は絶対零度を発動。物質の運動の全てを一瞬も待たずに停止させて銀氷に散らせる俺のこの魔法は、理論上は光速の砲弾ですらその領域に踏み入れた途端に消滅を免れない。質量も速度も、その全てがゼロになる───それがこの魔法の本領だった。筈だった───

 

「もう分かっていると思う。私に対してその手の攻撃は意味が無い」

 

粒子を自身の喪った身体に変換しているのだろう。いつの間にかまた海上に浮いているモリアーティはただ無表情にそう口を動かした。物理的な攻撃は意味が無い。魔力や魔素による攻撃もまた然り。モリアーティを捕まえるためにはまずはあの粒子の聖痕をどうにかしなければならない。でなければ手錠なんて掛ける間も無くすり抜けられる。

 

けれど、モリアーティの聖痕は閉じないと言う。それではどう足掻いてもモリアーティを逮捕することはできない。白焔を使えばモリアーティを殺すことは可能だろうが、武偵法9条を遵守するならばそれは出来ない。殺せず、逮捕も出来ない。そんな相手にどうやって勝てば良いのだろうか。普通であればここで()()だ。俺達の勝利条件は全て封じられてしまったのだから。

 

なんて───

 

『……天人』

 

『天人さん』

 

───ユエとシアからの念話だ。

 

『……こっちは終わった』

 

『全部、ぶっ壊したですぅ!』

 

それは吉報にして福音。ユエとシアから届いたその報せが示す意味は───

 

「シャーロック!!」

 

『分かっているとも』

 

ユエとシアからの報せが届く寸前、俺の身体にあったのはあの独特な()()()()()()()()()。それは即ち、この海域においてずっと閉じっぱなしだった聖痕が、再び開いたということで───

 

───銀の腕(アガートラーム)煌星(セイリオス)

 

俺の中の星を回し、体内に魔力を大量に溢れさせる。そしてそれを燃料に俺の中の白い焔が燃え盛る。溢れた焔は白銀に輝く腕となり脚となる。そして背中には同色の円環と、そこから噴き出す3対6枚の白焔の翼。

 

俺の聖痕の力の1つ、白焔。物理的な破壊力はそれ程でもないが、超能力(ステルス)や魔法といった超常の力に対しては絶対的な優位性を誇る力。

 

異能力も超能力もその全てを燃やし尽くし己の燃料としてしまうこの力であれば例え粒子の聖痕だとしてもその一切を灰も残さず消し去れる。

 

シャーロックがモリアーティの持つ装置を壊し、ユエ達がノアとナヴィガトリアの装置を破壊したことでこちらの条件は整った。どうやらモリアーティの聖痕そのものは封じられないようだがそれでも構わない。俺の白焔と強化が戻ってくるのなら、それくらいは俺がどうにかする番だからだ。

 

───ゴウッ!!

 

俺の背中から白い炎が噴き出す。それは俺の中の星から溢れ出す魔力を糧として燃え盛る焔。それが広がって俺とモリアーティの周りをドームのように包み込む。

 

この焔の燃焼に酸素は必要としない。だから酸欠は無い。代わりにモリアーティにも逃げ場は無い。そんなものは与えない。

 

『見えるか、透華』

 

『うん。視界良好』

 

ならば良し。透華には見てもらわなければならない。この戦いを、モリアーティを。そのための時間を今ここで稼ぐ。

 

『大丈夫、そんなに待たせないから』

 

『頼んだぜ』

 

俺と透華の念話の間にモリアーティはグルリと辺りを見渡していた。とは言え、それで分かるのはきっとこの白い焔のリングからは逃げられないということだけ。

 

そして俺は自分の身体も白焔で包む。燃え盛る白い焔に包まれた俺は、背後の白焔の翼を吹かして馬鹿正直にモリアーティへと突っ込む。

 

触れれば粒子化した身体ごと燃焼させられるが、当然モリアーティは俺の拳が触れる前に身体を粒子にしてしまい、その場を逃れる。

 

「逃げ場の無い白焔のドームでの決闘……。戦闘領域を狭めれば勝機があると……いや、君達の狙いは別にあるのだろう?」

 

もっとも、俺達の狙いなんてものはモリアーティからすれば簡単に見通せるものなのだろう。

 

「涼宮透華くん、樹里くん、彼方くん。透過と切断の聖痕、その力によって私の聖痕を封印することが君達の狙いだね」

 

その通り。俺達の狙いはモリアーティの言った通りそのままだ。それ以上に何かを付け足す必要は無い。だからこそ、俺達はそれを通さなければならない。仮にモリアーティに読まれているのだとしても、それを押し退けてでもやらねば勝ち目は無いのだ。

 

だから俺は星を廻す。体内で溢れる力はそのまま白焔の燃料になる。燃え盛る白い焔はドーム状のリングから触手のように飛び出してモリアーティへと襲い掛かる。

 

だが勿論、亜音速にも満たない速度で放たれる槍なんてものがモリアーティに当たるわけもなく。それらは難無く躱され、虚空を貫くだけに終わった。

 

モリアーティの表情は変わらない。その顔には呆れも嘲りも浮かんではいない。相も変わらず何も無いのだった。それをどうこう思うことはない。俺だって戦闘中はほとんど喋らないからな。人のことなんて言えようものか。

 

一瞬、俺の視界が真っ黒に染まる。俺の周りに張り巡らされた白焔の網の目を縫ってモリアーティの超光速の粒子レーザーが眼球から頭を貫いたらしい。とは言え今の俺も当たり前のように致命傷から蘇生される。その速度は白焔が消えるより早く、直ぐに網の目は形を変える。

 

ゴウッ!と今度はモリアーティの背後から白焔の槍が迫る。だがモリアーティは背中に目ん玉でも付いているかのようにそれを躱す。そして今の一撃を躱されたことで、逆にモリアーティの位置からは俺の急所には直進するレーザーは届かない。

 

今度はモリアーティの左手側と背中側から白焔の槍が噴き出す。その白い十字砲火をモリアーティはしかし難無く躱す。瞬間移動の如く俺の正面に現れたモリアーティだが、俺はそこにも白い槍を突き出した。

 

真上と左右から飛び出した白い槍。だがモリアーティはどうやって察知しているのか、それすらもまた何度目とも知れぬ瞬間移動で躱していく。

 

『……()()()()()()、天人くん』

 

すると、透華から念話が届く。なるほど、ではあちらの準備は完了ってことか。あとはモリアーティに攻撃を加えればいいわけだ。

 

だからって、そう簡単に当てられればこんな苦労はしていない。しかも1発入れるのは俺でもユエでもシアでもティオでもなく、透華と樹里と彼方なのだ。

 

だからまずはこっちでモリアーティに攻撃を当てるための準備を整えなければならない。

 

俺は白焔の槍をさらに2本放つ。それらは当然避けられるが、更に2本、3本、4本と俺は躊躇うことなく白い槍を放ち続ける。それらはドームにぶち当たっても消すことはなくその場に白焔として留まる。俺の中の星が廻る。白焔の維持する燃料として莫大な量の正のエネルギー、その活性の力が消費されていく。

 

魔力や何かへの変換なんて待っていられない。そんな手間すら惜しんで無限に生み出されるエネルギーをただひたすらに燃やし尽くしていく。そうして───

 

「…………」

 

無言のままモリアーティは白焔の檻に囲まれる。もっとも、全身を粒子に変換して瞬間移動のできるモリアーティにとってはさしたる障害ではないだろう。それでも一瞬、確かにコイツは動きを止めた。

 

「───っ!!」

 

その瞬間に俺の傍に現れたのはアガレスりそしてモリアーティの背後には透華が刀身の見えない何か──握る柄から恐らくは刀──を振るい、そしてモリアーティ目掛けて振り降ろした!

 

だがモリアーティはそれすらも身体を粒子にして逃れる。俺の白焔の檻の隙間を縫って瞬間移動したモリアーティは透華を見やり、そして透華への攻撃は無駄だと悟ったらしい。

 

「───まだだ」

 

そうアガレスが呟き、大鉾を振るう。それはモリアーティの存在する空間座標を切断し、モリアーティの身体が斜めにズレた。そしてズレた虚空に大気が流れ込む。モリアーティも自身の身体を粒子化させて逃れようとするが、虚空に開いた闇色の傷口はその隙間を埋めようとあらゆる存在を引き寄せる。

 

「行くよ!」

 

さらに透華はその虚空からの引力に従うようにモリアーティの元へと飛び込む。恐らくは樹里による切断の聖痕の力を付与された刀身を振るい、モリアーティへ決定的な一撃を与えるつもりなのだ。だが───

 

「ごぼっ……」

 

超光速の粒子で強引に吸引から抜け出したモリアーティが透華の腹に拳を叩き込む。しかも粒子の攻撃は透過さてしまうと分かっているから攻撃の瞬間は己の肉体を使った打撃だ。

 

「ちっ」

 

すると、舌打ちしたアガレスは自身の空間魔法でズレた空間を閉じ、透華も瞬間移動でこちらに引き寄せた。もっとも、当然そうなればモリアーティの超光速レーザーがアガレスを襲い───

 

「ふん」

 

そしてアガレスの身体が掻き消される、ということにはならなかった。

 

俺達の目の前に現れたのは黒い球体。それはモリアーティのレーザー攻撃よりも一瞬早く現われ、キャンセルの間に合わなかったモリアーティのレーザーを漆黒の中に呑み込んだのだ。

 

「妾も多少神代魔法には覚えがあるのじゃ」

 

そしてこの白焔のドームに現れたのはティオだった。どうやらこちらもアガレスの空間魔法で飛び込んだらしい。

 

今のもティオが発動させた黒天穹をアガレスが空間魔法で空間ごと呼び寄せたのだろう。そしてティオの黒天穹がズルりと動き出す。ティオの注いだ魔力に従ってモリアーティをその闇の中に呑み込まんと迫っているのだ。

 

モリアーティの粒子化による瞬間移動とティオの神代魔法の引き合いが始まる。光すら呑み込む超重力がモリアーティの粒子化した身体ごと呑み込もうとすればモリアーティは超光速の粒子でその束縛から逃れようとする。そしてやはり、出力では聖痕の方が上。身体の一部を千切られながらもモリアーティの身体が段々と粒子となり黒天穹の影響範囲外から逃れようとした時───

 

───ズンッ!!

 

と、ティオの黒天穹ごと超巨大な重力場がモリアーティを呑み込んだ。

 

「……絶禍」

 

天在にて現れたのは大人の姿になったユエと彼女に抱えられたシア。そしてこの重力魔法は絶禍。擬似的なブラックホールは重力魔法の極致たる黒天穹すら呑み込み全てを叩き潰したのだ。

 

「まさか妾の黒天穹ごと呑み込むとは。ユエの魔法は滅茶苦茶じゃ」

 

「……んっ。重力魔法の扱いなら負けない」

 

絶禍をまるで棺のような形にしていることもそうだが、そもそも威力がおかしいだろ。と言うのはこの場の誰もが思ったがそれは口に出さない。こと魔法にかけてユエ様を上回る存在は当代どころか将来に渡っても存在し得るか怪しいもんだからな。もっとも───

 

「なるほど」

 

ユエもこれでモリアーティが死ぬとは思っていないからこその全力重力魔法。

 

ユエの絶禍が解ければ超重力の闇の中からモリアーティが現れる。とは言え今は身体の7割程が粒子の光で構成されている。これが粒子の聖痕を持つモリアーティじゃなけりゃ全身跡形もなく消え去って、終いには死んだ痕跡すら残らなかっただろうな。

 

もっとも、そのモリアーティの真後ろにはアガレスの空間魔法で転移した透華がいる。完全に背後を取った透華による切断の一撃が振り下ろされ───

 

───ヒュボッ!

 

と、透華の上半身が消し飛んだ。

 

「透華っ!!」

 

直ぐ様輝くのはユエの魂魄・再生魔法の合わせ技の光。それにより透華は即死からの即時蘇生を果たす。そしてモリアーティにはティオがブレスを放ち、シアのドリュッケンから白雷が迫る。それらをモリアーティは身体を粒子にすることで躱すが、今度はユエによる禍天が幾つも降り注ぐ。

 

重力球の雨あられをモリアーティはその身体を粒子化させて躱す。ユエからの暴威を退けたモリアーティが一瞬その姿を現した。そこにシアのドリュッケンから精神の狂乱を齎す黒い槍が放たれる。

 

それとすれ違う様に超光速駆動でシアを両断しようとしたモリアーティだが、その進路をアガレスが空間断絶で塞ぐ。

 

ガチィン!!という音を響かせその場に姿を現したモリアーティにティオの空間魔法、千断が襲い掛かる。

 

空間ごと引き裂く一撃をしかしモリアーティは瞬間移動で逃れる。もっとも、その逃げ先には俺が白焔の槍を置くように放っている。

 

モリアーティの腕が消滅する。もっとも、その程度であれば直ぐに粒子が補ってしまうのだけれど。

 

まったく、これじゃあキリが無い。さっきから何度も何度も同じようなことの焼き直し。まずは透華の一撃を当てさせる。それさえ出来れば───

 

「───ッ!?」

 

俺の気配遮断アーティファクトによる効果は、他の奴が使っても俺に対してはそれほど効果が無い。一応、俺の右眼の義眼アーティファクトで薄れた存在も感知できるからだ。

 

だがそこに透華の聖痕の力を乗せられた場合は別だ。そうなるともはや俺にもその存在を感知できなくなる。それほどまでにその存在の解像度が薄くなるのだ。

 

おかげでその一撃を俺すらも察知できなかった。と言うか、この場の誰もそれを察知できなかっただろう。何せそれこそが俺達の作戦。シャーロックは俺にアーティファクトを幾つか用意させたのだが、その基準は()()()()()()()()()を相手にすることを考えろとのことだった。そして俺の中の最強と言えば粒子の聖痕に他ならない。浮島で、ISのある世界で、俺は2度この聖痕と相見え、そしてそのどれもが薄氷の勝利だと言っても過言ではない。

 

俺の白焔は粒子の聖痕に対して最高の相性を誇る。それでも尚、強化の聖痕が無ければ俺はアイツには勝てなかった。2度目はISの補助もあった。それでようやくなのだ。だから俺は万全を期すために、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

俺のアーティファクトと透華の聖痕による存在解像度の完全消失により俺はもちろん、ユエもシアもティオもアガレスも、その誰もこの一撃のタイミングは読めなかった。

 

当然、色金の光が舞うアリアやネモの視界外瞬間移動は発動までのラグが酷すぎてこの高速戦闘での不意打ちには使えない。ユエとアガレスによる瞬間移動も、そもそもユエ達も樹里と彼方の存在を掴めないから無理。

 

そうなるともう樹里達には直接瞬間移動をしてもらう必要がある。だから俺は魔力タンクと羅針盤、越境鍵を彼女達に渡している。

 

越境鍵の光も俺の気配遮断アーティファクトの効果を受けて目立たず、本人達は気配や姿をも完全に消した透明人間になる。

 

だから俺は今もあの子達を感知出来ていない。理解出来ているのは、モリアーティがどこからか一撃を受けたことと、それを成せるのはこの作戦を持っている樹里と彼方だけということだけだった。

 

──次元切断──

 

それが樹里と彼方の持つ切断の聖痕の最奥。

 

立体を切った断面が平面であるように、平面を切った断面が点であるように、3次元を切れば2次元が現れ、2次元を切れば1次元が現れる。樹里と彼方の切断の力は概念や次元をすら切断する。それによって実際の孔ではない聖痕の力を、その噴出口を3次元に表出させる。

 

「ぐっ……う……」

 

そして、今モリアーティに入った次元切断は2回。つまりは───

 

「……これが」

 

アガレスが呟いた。一撃目で3次元に表出した聖痕の穴を今度はモリアーティから切断して切り出したのだ。そして直ぐ様に透華が次元切断の付与された不可視の太刀を振るう。それにより1度はこの世に視認できるように現出した聖痕の孔は2次元に落ち、俺の角度からは視認できなくなる。そしてその直後には樹里と彼方が───

 

「消えた、ですぅ」

 

それぞれ一撃を加えたのだろう。2次元から1次元へ、そして遂には0次元へと聖痕の存在次元が落ちていく。立体から面、線から点。そして───

 

「これで、終わり!」

 

透華と、そしてアーティファクトを外した樹里と彼方が最後の一刀を振るう。

 

「「「次元封印!!」」」

 

最後の一太刀は3人で三角を描くように。点となった粒子の聖痕はこの世の次元から切断されて消え去った。

 

「これ……」

 

「疲れますね……」

 

聖痕の力が付与されただけの刀を振るった透華と違い、樹里と彼方は自分の中から溢れる力を使ったからか、額に脂汗をかきながら、当に疲労困憊の顔をしている。そしてふと2人の意識が遠のき───

 

「……んっ、お疲れ様」

 

アーティファクトによる浮遊も途切れて海に落ちそうになったところを天在で瞬間移動をしたユエに拾われていた。

 

「まさか、最後の最後で作戦のタイミングを知らずにいるとはね」

 

そして肝心のモリアーティはアガレスの空間魔法により俺達の目の前で十字架に磔にされたかのように拘束されていた。

 

俺はふぅと1つ息を吐くと、銀の腕と白焔の檻を仕舞い、ユエとアガレスに目配せする。すると俺達の視界が切り替わり、伊・Uの甲板に居た。

 

「やぁ、まさか君のこんな姿を見られるとは思わなかったよ」

 

コツコツとわざとらしく足音を立てて現れたのはニヤニヤと維持の悪そうな笑みを浮かべたシャーロック。その後ろからはワトソン1世がそんな子供染みたシャーロックに少し呆れたような、でもどこか「仕方の無い奴だ」とでも思っていそうな、柔らかな苦笑いを湛えて付いて来ていた。

 

「しかし君に負けたという気はしないな」

 

「負け惜しみかい?」

 

シャーロックもモリアーティもお互いが嫌いだっていう雰囲気を隠し切れていない……と言うか、隠す気が更々無いようで、思わず溜息をつきたくなる。

 

このまま大の大人が揃って睨み合っている絵面を眺めている気にもなれなかった俺は空間転移用のゲートのアーティファクトを転がすと念話のアーティファクトでジャンヌ達とキンジ達に付けていた悪魔達を呼び出す。

 

すると直ぐに空間魔法によるゲートが現れ、ジャンヌ達とキンジ達がゾロゾロと伊・Uの甲板に集まってくる。それを見てアガレスもリサやメヌとネモ達をノーチラスから呼び出してきた。さて、これで全員集合かな。

 

「終わったのか?」

 

と、磔にされているモリアーティを見てキンジが呟く。この雰囲気は、どうやらまだHSSが続いているようだ。

 

「んー?……いや、これからだよ」

 

そう、全てはこれから始まるのだ。これはあくまで序章でしかない。モリアーティが始めようとしたこの地球とレクテイアを巻き込んだ巨大な混沌渦巻く戦争の時代は始まらない。ただ、この種火はそれでももう燻っているし、この世界の戦争に対する意識は既に前時代へと少しずつ傾いているのだから。

 

俺は……俺達はこれからそういうのと戦っていかなければならない。それはもう武偵なんて枠組みから外れたことなのかもしれない。けれど、元々武偵なんてものは悪化の一途を辿る治安に対して産み出されたものなのだ。ならば世界中の治安の悪化に対して動くのだって、別に間違ってはいないだろう。

 

「君にできるのかい?」

 

モリアーティがふと俺を見ながらそう問い掛ける。それに対して、俺の答えなんてものは決まっている。

 

「やるんだよ。それに、俺ぁ1人じゃねぇ」

 

周りを見ればリサがいた。ユエがいた。シアがいた。ティオがいた。ジャンヌが、レミアが、ミュウが、エンディミラが、テテティとレテティもいて、メヌとネモ、ルシフェリアにカーバンクル、透華達もいる。

 

俺には愛する女達や友達がいる。だから大丈夫、俺はまだ戦える。コイツらのいる世界が少しでも良くなるように、戦争なんてものが少しでも減るように、俺は戦っていくさ。

 

「なるほど。私の描いた台本とは外れるが、では私は1人の観客になるとしよう。……楽しみにしているよ」

 

そんなモリアーティの言葉に俺は何を言うでもなく、ただモリアーティの両手首に手錠を嵌めることで返した。

 

これにて一件落着───なんてことにはならないだろう。それでもいいさ。覚悟は決めている。上を見上げればそこにあったのは海上でさっきまで繰り広げられていた戦闘なんてなかったかのように澄んだ雲1つない青空。誰も足を踏み入れていない新雪のように傷の無いそれを、俺はただ、両目に写していた。

 

 

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