セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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注意です。この話では原作キャラの死亡があります。基本的に原作で死亡してないキャラの死亡はここだけになるはずですので……。


それは突然の再会と別離

 

IS学園の夏合宿も2日目となれば本格的にISに触れることになる。

そんなわけで俺達は全員ISスーツを着させられて浜辺に集まっていた。珍しくラウラが遅刻してきたがまぁそれ以外は特に何かあるわけでもなく、ようやく"らしく"なってきたかなというところだ。いや、だった、と言うべきか。何せ───

 

「じゃっじゃじゃーん!これが箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製のISだよー!」

 

完全に貸切で関係者以外立ち入り禁止となっている浜辺に突如乱入した篠ノ之束が妹である篠ノ之箒へ新たなISを手渡したからだ。

しかも、全スペックが現行ISを上回る、か。本当、なんて物を作ってくれてんだろうね、このお姉ちゃんは。

そして、その場にいたほとんどの人間が呆気に取られている間に、篠ノ之束は紅椿を篠ノ之箒用にセッティングしいていく。

さらに、ついでとばかりに一夏の白式にも触れていく。

 

「あ、そうそう、天人も鎧牙見せてね。あとリサも」

 

「ん、はい」

 

「はい。分かりました」

 

と、一夏とアホな会話を繰り広げていたと思ったらここで俺達にも声が掛けられたので大人しく各々のISを展開していく。それを見た篠ノ之束がいきなりパチンと指を鳴らした。すると───

 

「あ?」

 

───ズドォォォォンン!!

 

と、空から何かが降ってきた。舞い上がった砂煙が晴れればそこにあったのはグレーのコンテナ。それが篠ノ之束の指の動きに従って展開されていく。

 

「ん?」

 

そして中からは2挺の大きなライフルが現れた。しかし形状がどこかおかしい。何せ普通の銃火器にあるような弾倉が無く、オルコットのビームライフルみたいな形状をしているのにリボルバー式なのだ。

 

「超大出力ビームキャノン『星墜』、限界までエネルギーを圧縮した弾丸をリボルバー式で放つ火力全振りの武装だよ」

 

なるほど。基本的に俺の鎧牙は継戦能力の高さと引替えに黒覇の特殊機能に頼らなければ火力のあるISではない。しかも、継戦能力を最重視した期待にも関わらずその機能を使う莫大なエネルギーを消費してしまうという設計思想の矛盾。その隙間を埋める武装というわけだ。

 

「桜木研に予備弾薬送ってあるから後で受け取ってね」

 

新たに渡された武装をISにインストールしながらその声を聞く。

桜木研、俺とリサのISの管理や調整を任されている日本のIS企業だ。メールやなんかでやり取りはしているが、俺はまだ顔を出したことはない。

 

「あ、はい」

 

「あ、それとほい」

 

「え?」

 

と、武装のインストールが終わるや否や、篠ノ之束が俺とリサのISをコードで繋いだ。そして何やらコンソールを指で叩いくと───

 

「っ!?」

 

急にリサのIS──星狼──の姿が掻き消えた。

 

「リサ!」

 

いきなりISを失ったリサが地面に落ちる。俺がリサが落ち切る前にその身体を支えることで事なきを得たが、どうしていきなり星狼が消えたんだ……。

 

「ぐっ……何だ、これ……」

 

いきなり俺の頭に情報が流れ込んでくる。これは、鎧牙からか……?

 

「リサの、というか私のなんだけどね〜。星狼は回収して天人の鎧牙と混ぜ合わせまーす。こねこね」

 

「……は?」

 

「こねこねー」

 

と、篠ノ之束は俺の視線も何処吹く風。全く気にする素振りもなく、コンソールを叩き続けている。すると今度は俺のISまで光の粒子となって消えてしまった。

 

「これは……」

 

「鎧牙と星狼はコア同士を完璧に近い形で同調させて拡張領域すら共有したISだからね。今度の実験は"そんなISを融合させたらどうなるのか"だよ」

 

ま、リサからはISを取り上げる形にはなるけどね、と篠ノ之束は続けた。

 

まぁ、実験はともかく、リサからISが無くなるというのは俺としては願ってもない。ISが無ければリサがこれ以上面倒な戦いに巻き込まれることはなくなるだろう。何せ、リサはISへの適性もそんなに高くはないし、操縦技術だって3流だ。リサの価値は篠ノ之束お手製のISを持っていることの1点限りなのだから、それが無くなれば誰もリサに興味は示さない。

 

「デュアルコアシステムってやってみたかったんだよねー」

 

待機形態として俺の右足首のミサンガになっていた筈の鎧牙が今度はパーソナライズ前の甲冑染みた置物のような形で現れた。

 

「はいじゃあ天人はこっちね」

 

と、篠ノ之束の言葉に従い鎧牙に乗せられた俺はもうなすがままにISのセッティングをさせられていた。

その間にパーソナライズの終わった篠ノ之箒と紅椿は武装の確認へと移っていた。どうやら俺の黒覇を元に作ったように思える武装もあったが、そもそも俺のISは根本的に篠ノ之束の実験の為に作られたISである以上、今後篠ノ之束が作るISには俺の機体のデータが参考にされるのだろう。

そんなことを、うねうねと形を変えていく鎧牙の中で考えながら紅椿の浮いている空を眺めていると、さっきまでどこかへ行っていた山田先生がタブレット片手にドタドタと走ってくる。

その顔には焦燥が浮かんでいて、どうやら何かトラブルがあったのだと察せられた。

まぁ、あの人は大概慌てているから、そのトラブルの程度がどれ程のものなのかまでは分からないけれど。

 

「た、大変です織斑先生!!」

 

「どうした?」

 

「こっこれを……」

 

しかし、渡された端末の液晶画面を見た織斑先生の顔が曇ることで、何かろくでもない事態が起きたのだろうということが分かる。まったくこの学園はトラブルに見舞われすぎだろう。

そろそろお祓いでもしてもらった方が良いんじゃないか?

 

そして何やら最初はこちらには届かないくらいの小声で喋っていた織斑先生達だったが、近くの生徒の視線に気付いて今度は手話で会話を始めた。それも、普通のやつじゃないな。何か暗号の様な手話だ。流石に俺にも内容が掴めん。

 

「───了解した。……全員注目!!」

 

と、話し終えたのか山田先生がどこかえ走り去った瞬間、今度は織斑先生が手を叩いて皆の意識をそちらに向けさせる。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動に移る。今日のテスト稼働は中止だ。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。その後は連絡あるまで各自自室内で待機すること。以上だ!」

 

だが、殆どの生徒にとってこんな異常事態は初体験なわけで。これまで謎の機体がアリーナに侵入したりラウラのISが暴走したり、目の前で起きた分かりやすい危機にはそれなりに対処もできたようだが、まるで何が起きたか分からない今の状況に、生徒達はザワつくばかりで誰も動けない。

それも織斑先生の2度目の怒号でどうにか動き始めたが、皆一様に、声の大きさに怯えているようだった。

 

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、神代、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、凰!それと……篠ノ之も来い」

 

今しがたISを失ったばかりのリサは当然除外されていた。だがこれこそ俺の望んでいた状況でもある。とにかく戦いからリサを遠ざけること、それが1つ叶ったわけだ。

 

「はい!」

 

しかし、その篠ノ之箒の妙に気合いの入った声に俺は一抹の不安を覚える。無人機がアリーナに侵入した時に、ただの声援のためにISも纏わずに敵機体に姿を晒したことが俺の頭をよぎる。

 

「あ、天人はまだここから動かないでね。フィッティング終わってないから」

 

「え……」

 

その声は誰のものか。多分俺は言った。けれど他にも何人か同じように声を漏らしただろう。

数字上はこの学年のトップは俺とラウラだった。その一角が欠けるのだから。

 

「───なら他の専用機持ちだけでいい。早く集まれ!神代も終わり次第すぐに来い!」

 

「はい」

 

返事はしたものの、俺は篠ノ之束の笑顔の下に隠された何か得体の知れないものに、背中から冷たい汗が流れるのを感じていた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

何故か途中で篠ノ之束までどこかへ行ってしまい、俺は1人砂浜に取り残されていた。

いや待て待ってくれ。なんで俺はISの中に仕舞われたまま放置されているんだ。

しかも、フィッティングとか言って中々終わる気配ないし、その間にもISの情報は俺の中に流れ込んでくるし。

 

「ん……」

 

だがそれもようやく一区切り付きそうだ。

サクサクと、砂浜を踏み締めて現れたのは篠ノ之束。

 

「あっちはいいのか?」

 

「箒ちゃんの紅椿の調整は終わったよん。後は他の準備が整えば出るよ」

 

「結局何だったんだ?」

 

「なんかねー、どっかの軍用ISが暴走したんだって。で、その進行方向がこっちだからIS学園で対処してねって話」

 

「それは……」

 

非常事態、なんてものじゃあない。そんな大事件を学生に対処させようと言うのか。

 

「まぁ箒ちゃんだけじゃなくていっくんも行くから平気でしょ」

 

一夏と篠ノ之箒が……?2人だけってことか?むしろ、かなり不安な人選なんだが……。

 

「不安だって顔をしているねー。大丈夫だよ。箒ちゃんがいっくんを運んで、いっくんが零落白夜を使って一撃で沈める。そういう作戦だから」

 

「一夏が行くより、訓練機でも織斑先生と山田先生が出た方がいいんじゃないのか?」

 

篠ノ之箒に任せた役割が例え輸送役だけなのだとしても、機体性能で劣っていようと元世界最強と元日本代表候補生。しかも山田先生だって凰とオルコット2人を相手にして尚歯牙にもかけない実力を誇っている。それなら素人の一夏よりも確実ではなかろうか。

 

「ノンノン。これは箒ちゃんのデビュー戦であり紅椿のお披露目なんだよ。だから例えちーちゃんでも邪魔しちゃだーめ」

 

「……変わんねぇな、そういうとこ」

 

「君が私の何を知っているって言うんだい?」

 

篠ノ之束は、しかしその手を止めることなく俺に問う。冷たい、絶対零度の声色で。

 

「"白騎士事件"だって、アンタのマッチポンプなんだろ」

 

 

──白騎士事件──

 

 

これを知らない奴は恐らくこの世界にはいないだろうと言われるほどの大事件。

篠ノ之束がISを世に発表してから1ヶ月、それは起こった。

当時日本を攻撃可能な各国のミサイル2341発が全て一斉にハッキングされ、そして日本に向けて発射されたのだ。

世界中が直後に訪れる地獄絵図を想像して絶望したその時、()()は現れた。

顔は初期型のフルフェイスのヘルメットタイプのハイパーセンサーに覆われて分からなかった。けれどそれは確実にISで。

そしてそれは飛んできたミサイルの約半数を斬り捨て、残りの半数近くを空中に召喚した荷電粒子砲で撃ち落としたのだ。

さらに、その謎の兵器を調査ないしは捕獲、撃墜するために世界各国からやってきた戦闘機や船や衛星の尽くを無力化、しかも一切の人命を奪うことなく行われたその蹂躙は、世界を敗北の底へ叩き落とすには充分だったらしい。

 

しかし、ミサイルがいきなり全てハッキングされて日本に放たれるなんてことが有り得るわけがない。その上それを突如現れたISが全て打ち落とすなど……。

 

そんなこと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

まぁ、ISを認められなかった篠ノ之束が癇癪でミサイルを放ち、それを事前に知っていた誰か、これも多分篠ノ之束と旧知の中である織斑千冬以外には考えられないが……、ともかくコイツらの共謀ないしは篠ノ之束の尻拭いを織斑千冬がやったと考えるべきだろう。と言うか、他に出来そうな奴はいない。

 

「知ってて言わないんだから共犯だよね?」

 

「アホ言え。物理的な証拠も無いし誰も信じねぇだろ」

 

「……まぁね。ほら、だいたい終わったよ。後は待機形態でも大丈夫」

 

スッと、普段のおちゃらけた雰囲気に戻った篠ノ之束が鎧牙を指先でコツコツと叩く。俺は鎧牙に命じて足首のミサンガというコイツの待機形態に戻しておく。

 

「ま、あと2時間は使えないから。ここで大人しく見ててなよ」

 

「……そうさせてもらうよ」

 

俺は篠ノ之束にも、今回の作戦の内容と人選にも不安を覚えながら作戦会議室となっている旅館へと駆け足で戻っていく。背中に感じたのはただの視線か殺気か、今の俺には区別が着かなかった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

結局のところ、一夏達は作戦に失敗した。

篠ノ之箒がぽつりぽつりと報告したところによれば、どうやら最後の零落白夜をアメリカ・イスラエル共同製作のIS──シルバリオ・ゴスペル──を粉砕するためではなく、ソイツの広範囲攻撃に巻き込まれそうになった密漁船を庇うために使ったそうだ。そして一夏の白式と同時に紅椿のエネルギーの切れた篠ノ之箒を守るために飛び出した一夏はシルバリオ・ゴスペルの一撃を受けて今は意識を失っている。その身体はどうにか回収出来たが全身に包帯を巻かれて旅館の一室で寝かされている。

 

 

 

時刻は17時を回る少し前、俺は旅館の目の前に立っていた。そして、俺の前には1年の専用機持ち5人が並んで立っていた。

 

「ま、当然アンタも行くわよね」

 

両肩を竦める凰は、俺がここにいる理由を少し誤解しているようだった。

 

「いいや、俺は行かない」

 

「……何ですって?」

 

「俺はお前らと銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の相手をする気はねぇよ」

 

「アンタ……友達がやられたっていうのに何怖気付いてんのよ!!」

 

「怖気……?アホか。俺なら1人で勝てる。ISも、いけるようになってるしな。俺がここにいる理由は違うよ。……お前らを、止めるためにここにいるんだ」

 

そう言って俺は脇のホルスターから拳銃(SIG)を抜く。篠ノ之箒には伝わらなかったが、他の専用機持ち、特にラウラはこれが実銃だと直ぐに気付き、その反応で他の奴らも俺の持つこれが玩具なんかじゃないと把握したようだ。

 

「……何の真似よ」

 

「そ、そうだよ天人。何で銃なんて……」

 

「俺は、織斑先生からお前らを止めろと命令を受けている。……例え、()()()()()ってな」

 

だから俺はコイツらに発砲してでも止めるつもりだ。既にセーフティーは外されていて撃鉄も落ちている。後は引き金に掛けられたこの人差し指を数センチ動かせばそれで、音速の弾丸がコイツらの肉を穿つ。

 

「この距離だ。狙いは外さないし、お前らのISの展開より弾丸の方が速い。そして、誰か1人でも撃たれりゃお前らの作戦は使えない」

 

俺は当然、コイツらの作戦を盗聴している。先回りするために最後までは聞いていないが、そして仮に盗聴がバレていて、聞いていた作戦と違っていたとしても、コイツらの実力と織斑先生から渡されたシルバリオ・ゴスペルのスペックからして5人が揃っていても勝てる可能性は100%じゃあない。

そうなればどんな形であれ5人がそれぞれ重要な役回りを果たすフォーメーションで挑むのは確実だ。そして俺の銃口は、この中で1番ISの展開が遅く、そして最も近接戦闘で火力のある紅椿を持つ、篠ノ之箒を向いていた。

……その隣にオルコットがいるのは運が良いな。残る4人じゃ1番時間のかかるやつがオルコットだ。場合によっちゃ即座にオルコットを潰してしまってもいい。

いや、リサのことを考えれば真っ先に潰すべきは篠ノ之箒ではなくオルコットか。

 

俺はそのまま銃口をズラし、オルコットへとその矢印を向ける。

 

「1人でも欠けりゃお前らに勝機は無い。そして銃創を抱えてまともに戦える相手でもない。分かったら全員ISを俺に渡して部屋に帰れ。……特別に、一夏の部屋で待機できるように織斑先生に掛け合ってやる」

 

「いや、僕それはいいかな……」

 

「私もだ。むしろ天人と同じ部屋が良いぞ」

 

……シャルロットとラウラにはこの交渉は通じないようだった。まぁ、こっちは別にどうだっていいのだ。とにかく、コイツらを向かわせなければそれで済む。

 

「はっ、例え撃たれようが私は行くわよ。一夏をあんなにした奴を許せるもんですか」

 

「そうですわ。わたくし達の覚悟を甘く見ないでくださいまし」

 

「……ラウラ、お前はそうまでして行く理由があるのか?」

 

「私だって変わるさ。確かに私には箒達ほどに一夏に対して強い想いがあるわけではない。だが同じクラスの仲間を傷付けられてそれで黙っていられる程大人ではない」

 

あぁ……コイツはもう一夏を恨んでなんかいないのか。ラウラにとっちゃ、一夏はもうクラスの仲間として見られるくらいの存在になったというわけか。

 

「……たく」

 

コイツらの覚悟は硬い。俺が言葉でどうこうできるような柔らかいものではなさそうだ。ならば俺のやることは1つ───。

 

 

──ダンッ!!──

 

 

夕方の海辺に、似つかわない銃声が響く。

チリンと、石の上に空の薬莢が落ちる音が鳴る。

 

俺は、()()()()()()()()()()()()溜息を付く。

 

「拳銃を使っても止められないのなら、俺は何をしてもお前らを止められないよ。まったく……武偵憲章2条、依頼人との約束は絶対守れ、か。約束を反故にさせた分の結果は出せよ?」

 

「そうね」

 

「ありがとう」

 

「気にするな嫁よ。受けた任務は()()()だろう?お前は充分に止めた。ただ私達が留まらなかったというだけだ」

 

「そういうの、屁理屈って言うんだぜ?」

 

「物は言いよう、とも言うのだろう?」

 

俺の両脇を5人の女子達が駆け抜けていく。好きな男のため、友達のため、それぞれが胸に覚悟を秘めて走り抜けていく。俺はそれを止める術をついぞ持たなかった。それだけだ。

 

「……どうにも止められませんでした」

 

「ふん……まぁいい。帰ってきたら問答無用で懲罰だ」

 

旅館の玄関から現れたのは織斑先生。どうやら俺の話を聞いていたようだ。俺は砂利の上に落ちた空の薬莢を拾い上げるとそれを制服のポッケに仕舞い込んだ。

 

「お前は行かないのか?」

 

「今の話を聞いて行く気になると思います?……俺はここに残りますよ。慣れない連携よりも、()()()使()()()1人の方が楽でいいですし」

 

「そうか。なら戻れ。……嫌な仕事をさせて悪かったな」

 

「いえ。武偵は金さえ貰えればなんでもやる便利屋ですから」

 

 

 

───────────────

 

 

 

「いきなり別の世界に飛ばされて少しは焦ってるかと思いましたが、中々どうして馴染んでますね」

 

作戦会議室に戻った直後、背後から聞き馴染みのない男の声が聞こえてくる。それも随分と流暢な英語だった。しかもその英語はアメリカのそれではなくイギリスのもの。俺に英語を叩き込んだシャーロックの使う英語によく似ていた。

 

「……お前、誰だ?」

 

俺もそいつに合わせて英語で返す。

振り向けばそこにいたのはブロンドの髪をした爽やかな風体の男。背はやや低いがシャルロット程ではなく、喉仏も完全に出ているから多分本当に男なのだろう。"別の世界"という言葉が出た瞬間には俺は携帯でリサを呼び出してある。そのうち来るだろう。

 

「名乗る程の者じゃあないですよ。ただ、あの時あなた達を飛ばしたのは私ですとだけ言っておきましょうか」

 

俺は予測はしていたその言葉に、しかし即座に拳銃を抜いてその銃口を奴に向ける。

同室にいた織斑先生からも殺気が立ち込め、山田先生もいつものオロオロは身を潜め、突然の侵入者を睨みつけている。

 

「……何しに来た」

 

「様子見ですよ。あの時は取り敢えず1番近い世界に放り出しましたが、その後どうなったのか、個人的に気になりまして」

 

「律儀な奴だな」

 

「いえ……。それにもう1つありまして。本題はこっちなんですよ」

 

「……なんだ?」

 

「いえ、用があるのは私ではないのですが、彼だけではあそことは別世界であるコチラには来れませんからね」

 

「……誰だよそれ」

 

「あなたもよくご存知のはずです。何せ彼は───」

 

目の前の男がそこまで喋った瞬間───

 

 

───ドオォォォォォォンンン!!!!!

 

 

と、海の方から爆発音が響く。

 

「随分と苛立っているようだ。早く行ってあげてください。……彼の名は───」

 

 

 

───────────────

 

 

 

「かぁみぃぃぃしぃぃろぉぉぉぉ!!」

 

浜辺にいたのは左半身を()()()()()で構築した背の高い男だった。そう、俺の世界で俺と殺し合った男。その末に俺が打ち倒し、しかし止めを刺し損ねた男。その名を龍司光哉。

今奴は空中に浮いている。その背中には片翼の光の翼が生えていた。

 

「龍司……。生きて……」

 

あの傷じゃそう長くはないと思っていたのだが、まさかまだ生きて、しかも戦えるまでに戻っていたとはな。まぁ、飛ばされてからもう5ヶ月近くは経っているけど、それでも怪我の具合からして復活が早すぎる。その証拠に、吹き飛ばされた身体がまだ戻りきっていない。

 

「ご主人様……これは……」

 

「リサ、下がってろ。アイツ、生きていやがった」

 

駆け付けてきたリサを下がらせる。アイツとの戦闘に巻き込むわけにはいかない。いくら1度は勝った相手とはいえ、俺達をこの世界に飛ばした野郎もいるから油断ならねぇしな。

 

「生きて?当たり前だろう!この俺をこんなにした貴様を殺すまで俺は死ねるものか!!」

 

「はっ!強がんなよ半死人風情が!!お前の聖痕じゃ俺の聖痕には勝てねぇのが分かんねぇのか!?」

 

「舐めるなよ?俺があの時のままだと思うな!!」

 

その瞬間、奴の周りに光球が5つ発生した。俺はそれに合わせて銀の腕を顕現、その銀色に変わった腕から白い焔を龍司に叩き付ける。

また粒子で出来た半身を燃やして終わりだと確信した俺はしかし、その光景に圧倒される。

 

「はっ!」

 

1つ叫んだ龍司の足元の砂や海水が一瞬にして1部消滅したのだ。そして───

 

───ゴッッッ!!

 

と、俺の白焔を阻むようにして壁が現れた。それは物理現象ではありえない光景の筈なのに、俺の白焔を完全に防ぎきったのだ。

ならばと俺は銀の腕・天墜を発動。両腕を銀色の腕として奴の生み出したであろうその壁に超音速の拳を叩き付ける。

俺の体重と超音速駆動の速力を余すことなく乗せたその拳は確かに壁を打ち砕いた。だがそれだけ。奴の身体には傷1つ付いてはいない。

 

今の感触……。岩石の塊を叩いたような感覚だった。

しかし次の瞬間龍司の姿が掻き消えた。

 

そして───

 

「ッ!?」

 

俺は背中のスラスターを吹かせて上空へ飛び退る。その刹那の後には俺のいた場所を一条の閃光が貫いた。しかし俺を穿つことはなかったその閃光は旅館前の道路を穿ち、コンクリートを溶かした。

くそ……ここで戦うのは駄目だ。リサもいるし、一夏も今は動けない。他の生徒達だって、ISの数には限りがある。

 

「どうした!?お得意の白焔はもう品切れか?」

 

相変わらず戦闘中にも関わらずうるさい奴だ。

しかし、上手くすればあの岩壁の秘密を引き出せるか……?

 

「あぁ?手前も新商品入荷したみたいじゃねぇか」

 

「はっ!こんなもの、我が聖痕の力の延長線上でしかないわ」

 

つまり、ISや他の世界の力を持ってきたのではなく、粒子の聖痕の応用ってことか。

どういう理屈かは知らないが、聖痕の粒子で周囲の物質を作り替えているのか。なら俺の白焔じゃ打ち破れない。だけどまだ手はある。俺の拳で砕けたのだから、ISの火力なら撃ち砕ける。

 

「逃がすか!!」

 

まず俺はIS学園の奴らを巻き込まないようにここから離脱する。そして当然の如く龍司は俺を追いかける。その背に生やした身体に悪そうな青い翼から加速用の粒子でも噴出しているのだろう。やはり俺を殺すことにばかり意識が向いていてリサのことなんて完全に頭から抜けているようだ。

 

それもあってか俺は追いつかれることなく1キロほど海上に飛び出した。

そして反転、両腕に白焔を纏いながら急加速で奴の眼前に接近。白い焔の拳を叩きつける。

 

しかし奴は全身を粒子化させることで躱す。そして俺の真上に現れた龍司は健康に悪そうな青白い爪を振るう。

俺はその爪を銀の腕で掻き消し、そのまま白焔を噴出する。だが奴の眼前にまたもや分厚い岩盤が現れ白焔を阻む。

 

「……暴れろ、エクスシア」

 

俺の鎧牙とリサの星狼のコアが1つのISに搭載され、全く別の機体と生まれ変わったIS──エクスシア──。篠ノ之束はこの機体のことを神威と呼んでいたがコイツはその名前は気に入らなかったようだ。全てのISの産みの母のはずが名付け親(ゴッドファーザー)になるのは断られたみたいだった。

 

そして、俺の呼び掛けに応じて現れたのは鎧牙と同じ斑な灰色をした鎧───ではない。

俺はただエクスシアを起動しただけ。PICの浮遊機能とIS用の武装を使いたかっただけなのだ。なので展開は最小限に抑えた。展開された部分は頭のハイパーセンサーだけだ。

 

俺は左手にアサルトライフルを召喚し、目の前の壁を撃ち砕く。そして右手には白焔の剣。それで龍司を両断せんと刃を振り上げる。だが───

 

「甘い!!」

 

俺の白刃は新たに現れた岩石に防がれる。さらに奴の頭上には粒子の光球ではなく、幾つかのつぶてが浮かんでいた。そして───

 

「ぐっ……」

 

そしてそれは放たれた。装甲は出てないとは言えISを展開していたおかげでシールドエネルギーがその弾丸を相殺してくれた。

 

「……鬱陶しいな」

 

しかし龍司はさらに海水を弾丸に変換するとマシンガンの様に礫を放ってくる。白焔で相殺できないところを見るに、やはり壁と同じく物質で構成されているのだろう。だが、その推進力は粒子の聖痕を使っているようだ。弾丸の背中から青白い光が見える。

 

俺はその礫を躱しながら白焔をぶつけていく。だがそれは奴の生み出す壁に阻まれて届くことはない。その上奴の礫はISのシールドエネルギーを削るには十分な威力を秘めているらしく、掠める度に徐々にではあるが、数値が減っていっている。

 

このままじゃ埒が明かない。

 

そう思った俺は一息にあの壁を破壊すべく、アサルトライフルを頂いたばかりのビームキャノンへと取り替える。そして左手に構えたそれの引き金を引く。

 

──バシュウッ!!──

 

という音と共に閃光が龍司へと迫る。それは奴の生み出した壁を瞬時に溶解させ、奴の肉体を滅ぼすべく直進する。だが───

 

「甘いと言っている!!」

 

俺の左手に現れた龍司の振るう粒子の熱爪でビームキャノンが切り裂かれる。

爆発する前にそれを投げ捨てた俺はそのまま白焔をぶつける。一瞬、粒子で構成された半身を消し飛ばすことは出来たが即座に再生。致命的なダメージを与えるには至らなかった。

 

俺は奴のその動きに何となく違和感を覚える。

 

確かコイツは粒子の聖痕の力で身体の一部を己が生み出す粒子に変換することで膂力や反応速度を爆発的に向上できたはずだ。それによって、強化の聖痕で強化された俺の駆動にも着いて来れていた。そして、前は俺が白焔を撒き散らすことで無効化していたが、アイツは戦闘領域に粒子を撒くことで相手の思考を読み取ることも可能だと言っていた。……確かにこの戦いで俺はあまり白焔を撒き散らしてはいない。やはり、動きを読まれているようだ。

 

「今頃気付いたか!!」

 

だから、それ言ったらお前が俺の思考を読んでいるのが丸分かりじゃねぇか。

 

「バレたところで!」

 

まぁ本人が良いならいいか。

 

「何やらバリアの様な物を張っているようだが……これは受け切れるかな?」

 

一旦俺から距離を取った龍司がさらに海面を別の物質へと変換していく。そして現れたのは"槍"だった。

巨大な槍が3本、奴の頭上に現れる。それは俺の目線からでも分かるくらいに多量の粒子を柄に蓄えていて───

 

──それが一斉に俺の顔面目掛けて飛翔してきた──

 

「ッ!?」

 

俺は槍が現れた瞬間には左手に黒覇を構えていた。そして既にエネルギー充填は完了。篠ノ之束が手を加えたのか、いつもより早い。

俺は黒いエネルギーを纏ったその黒刀を超音速で飛んでくる槍と斬撃の軌跡が重なるように振り抜いた。

 

しかし、俺の黒い斬撃を突き抜けて粒子のレーザーがエクスシアのシールドエネルギーを削る。

どうやらあの槍の後ろから放たれたようだ。

 

「ッ!?」

 

俺がシールドエネルギーの減りを確認しようとした瞬間、眼前に龍司が現れる。しかもその掌にはあの光球が構えられていた。

 

あれは、不味い───!!

 

俺の直感が告げている。あれはこれまで放たれたどのレーザーよりも出力のある決め技だ。感じる力が今までとは段違いなのだ。恐らく極限まで圧縮した粒子の塊。あんなものを喰らったらシールドエネルギーや絶対防御なんて容易く貫通して身体に風穴を空けられる。しかもこのタイミング、白焔の噴射は間に合わない───!!

 

死んだ?

 

───いや違う。

 

───俺は、こんな所で……死ぬ訳にはいかないんだよ!!

 

「何っ!?」

 

龍司の手にあった光球が消え去る。しかしそれは白焔によって焼失させられたのではない。

 

銀の腕、銀の腕・天墜とその力の解放に段階のあった俺の白焔の聖痕。その最後の姿が今ここに花開く!!

 

 

──銀の腕・煌星(アガートラーム・セイリオス)──

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

───ゴウッ!!

 

と、音を立てて白焔が撒き散らされる。それを受けて龍司が俺との距離を空ける。そしてその目が驚愕に見開かれる。

 

「何だそれは……何だその姿は!!」

 

「……言う義理はねぇよ」

 

これを発動する時に俺の周りの粒子も()()()()()()()()。俺の思考は読まれていない。

 

背中に円盤状のスラスター、腰周りにもまるでISの様なスラスターが。胸部の銀の装甲は無くなったが両手脚には天墜よりもややスッキリとした銀の装甲がある。これが俺の白焔の聖痕の最後の姿。

 

──銀の腕・煌星──

 

取り込んだ聖痕の力を俺の力として変換し、発現させる姿。アイツが粒子の聖痕の新たな使い方を模索したように、俺だって自分の力の研鑽くらいする。

 

───それがこれだ。

 

発動させるだけで莫大な力を要求されるが効果は絶大。俺は自分が取り込んだ力の程を確認する。

円盤状のスラスターには白い焔の翼が3本、か。

最大で3対6本の白焔の翼が現れるこの姿において、しかし一撃で3本もの翼を発現させた今の一撃は、防御力に優れたISであっても絶対防御を貫き操縦者を重傷に至らしめる火力であっただろう。

 

俺は翼の1本を完全に速力に変換、空気の壁を突き破り、音より速く、白焔の剣ですれ違い様に奴の胴体を切り裂く。

さらにもう1本の翼を消費、巨大な白焔の球を作り出し、それを龍司に叩き付ける。

 

「あっ───!?」

 

──ゴウッ!!──

 

と、龍司は周囲の粒子ごと白焔に包まれた。

浮遊する力も全て燃やされたのか、直ぐに白い焔ごと海中へと落下を始めた。そこで俺は即座にビームキャノンを取り出し、海面へ落ちる白焔目掛けて引き金を引く。

 

極太の閃光が白焔を穿ち、海面をその熱量で蒸発させる。粒子も肉体も完全に消し去られた龍司は、死体すら残さずこの世から消え去ったのだった。終わってみれば呆気ない最期。

俺は白焔の聖痕を閉じ、代わりにエクスシアを完全に展開。名前も姿も変わったが唯一灰色は変わらないその鎧を身に纏い、俺は浜辺へとスラスターを吹かした。

 

 

 

───────────────

 

 

 

何故俺まで……、と思ったけどよく考えたら無断で出ていった挙句にIS使ったからこの仕打ちは当たり前だった。

 

現在俺達専用機持ちは全員織斑先生の御前で正座させられてお説教を頂いている。

一夏も、俺が戦っている間にこっそり抜け出して銀の福音の相手をしに行ったらしい。

 

結局、学園に帰ったら反省文の提出ということになった。……悪い事をした自覚はあるが悪いとは思っていないのでどんな文章を書くか今から迷うな。

 

そして俺達はようやく解放され、痺れた足を引き摺りながら各々解散した。俺の戦った相手はボカして伝えたが一応この場では追求無し。ただし後で深掘りされるらしいが、それで許された。

 

「ご主人様……」

 

「んー?」

 

今回は身体に風穴空けられる事態は避けられたがそれでもダメージはある。そもそも白焔の聖痕の使用がまず身体に悪いのだからそれを全力全開で使えば尚のことだ。

俺は織斑先生の部屋に素直に戻って気を張るよりもまずは落ち着きたいと、リサとエントランスに向かったのだが、そこでリサが俺の制服の裾を引っ張った。

 

「あの、この世界を出る条件が、分かったかもしれません……」

 

 

 

───────────────

 

 

 

どうやらリサは俺が粒子の聖痕の野郎と戦っている間に、異世界への扉を開く聖痕持ちに接触されたらしい。

そして、そいつから俺に伝えろと言われたのだとか。それは世界を渡る条件、俺が欲して止まない情報。何でそんなに話をするのかとも思ったが、奴としては俺を消せとの要求を受けているのにこの世界じゃ俺を殺すには力が足りないんだとか。

だから態々"現状俺と戦える人間で最も強い"聖痕持ちであるあの男をけしかけたのに、その頼みの綱すら俺は退けそうだった。

だから聖痕持ちですら殺されかねない世界へ俺を飛ばすためにリサに世界を飛ぶ方法を教えたらしい。

不意打ちで飛ばせよとも思ったが、どうにもあの野郎、色んな可能性をリサに話しているらしい。

曰く、不意打ちでやった最初の転移は、それでも尚あの相方がいなければ成功しなかった。

リサを人質に取るやり方では、戦闘力の無い自分では強化の聖痕まで持っている俺相手にはやや分が悪い。先にリサを別の世界に飛ばして、俺自ら扉をくぐるように命じたとしても、自身が殺されてしまえば意味が無いから却下なんだとか。

 

なので戦闘力が無く、脅迫されないリサ経由で俺に情報を与え、ランダムではあるが世界の数を考えれば俺達が武偵校のあるあの世界に帰るよりも俺すらも殺し得る世界に飛ぶ可能性に賭けたということらしい。

まぁ、確かに合理的ではある。

 

「なるほどな……。しかも当の本人は言うだけ言って自分の能力でトンズラか……」

 

「はい。しかし、その条件というのが───」

 

リサが語る。別世界への扉を開けることなく世界を渡るための条件を───。

 

1つ、異世界への転移はランダムに起こり得る。つまり、俺達も待っていれば勝手に飛ぶ可能性がある。しかし、そうそうあることでもない。だが、異世界転移を繰り返す程に起こりやすくなる。関節の捻り癖のようなものらしい。

 

2つ、世界には運命と言うべきものが定められており、基本的にそれに逆らう手段は無い。しかし、別の世界から来た者だけはそれに囚われることがない。異世界人はその世界にとっては気道に入った水、身体の中の細菌のようなもので、悪さをすれば世界の防衛機能が働き吐き出される。つまり世界の運命を捻じ曲げて、その世界から強制排出されることで別の世界に飛ぶことができる。

 

しかし、世界の運命を捻じ曲げるための決まった方法は無い。その世界に最も強い影響を与える人間を殺すか、もしくは死ぬべきところで死なせなければそうなる可能性は高くなるとのこと。

ただ、世界の運命とやらは結構大雑把らしく、極端な話、世界にさして影響を与えない人類ばかりであれば、世界人口の過半数を殺しても世界の運命は変わらない場合があるのだそうだ。

 

そもそも世界の運命と個人の運命は全くの別物。

決定的な1人の行く末を捻じ曲げなければ世界は変わらない。多少の変化はあったとしても、その歪みが世界にとって許容範囲内であれば何も起こらないのだそうだ。

 

「世界を歪める決定的な1人……」

 

「はい、そしてそれはおそらく……」

 

 

──篠ノ之束──

 

 

この世界は今やISを中心に回っている。そして篠ノ之束はそれを唯一生み出すことの出来る人間だ。他にも織斑一夏、織斑千冬、それから篠ノ之束に大きく影響を与えられるであろう篠ノ之箒。

 

この辺りの奴らをどうにかすれば確かにこの世界は大きく歪むかもしれない。

 

「篠ノ之束を、殺す……?」

 

しかし果たしてそれだけで足りるか?もう世界はIS中心に動いている。なら篠ノ之束1人を殺しても大きくは変わらないかもしれない。なら専用機持ち……いや、ISそのものを破壊していくべきか?

 

「……あれは」

 

さてどうするかと頭を悩ませていた俺の視界に入ったのは織斑先生。

裏から回ってきたのだろうか、でなければ俺に気付かれずに旅館の正面入口に立てるわけもない。

 

しかし、厳格なあの人がこの時間に外を出歩くというのも気になる。そう言えばこっちには篠ノ之束も来ていたし、もしかしたら旧友に会うのかもしれない。……どっちにしたって、篠ノ之束は殺らなければならないだろう。

あの神出鬼没な女と確実に会えるのなら織斑先生を付けるというのも手だ。

 

「……行ってくる」

 

「ご主人様……」

 

しかし立ち上がった俺の裾をリサが指先で掴む。

 

「リサは……」

 

「大丈夫だよリサ。俺が、リサを武偵校に帰してやるから」

 

リサの目に浮かんでいたのは不安の色。篠ノ之束と俺が戦闘になった場合の心配でもしているのだろうか。それとも、自分の利益のために人を殺すことで俺が決定的に歪んでしまうのを気にしてくれているのか。

けどな、リサ。俺にとってお前以上の奴はいないんだよ。この世界の人間がどうなろうと、お前1人の方が優先なんだ、俺にとってはな。

 

「せめて、リサも行きます。目を背けることは、したくないから……」

 

「……分かった」

 

尾行の素人であるリサを連れて行くのはリスクがあるが、覚悟を持ったリサの目に負けてしまった。まぁ、たかが人間1人、リサを抱えてでも問題あるまい。

 

 

 

───────────────

 

 

 

その夜、この世界から1人の天才にして天災が消えた。完全な失踪、しかしそれは世間の多くの人間にとっては当たり前のことで、気にする人間はほとんどいなかった。

 

しかしもう1人、とある海辺の旅館近くの林の奥、崖の傍で肉体が縦に泣き別れしている人間が見つかった。

それはあまりにショッキングなニュースとなって世界中を駆け巡った。

その人物がかつて、ISの世界大会モンド・グロッソの初代王者でありIS学園の教師だったからだ。

 

そして、世界で2番目のISを動かせる男と、篠ノ之束からISを頂戴した女もこの世界からその姿を消した。

一切の痕跡を残すことなく、しかし防犯カメラの捉えた映像や、ISのネットワークの履歴から、彼らこそが初代ブリュンヒルデ殺害の最重要参考人であることは確かだった。

 

 

 

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