辿り着いた先の世界
あれから様々な世界を渡り歩いた。どこの世界にも、世界を渡る手段なんて無くて、結局は誰かを殺して飛んで、まぁ、たまには助けることで飛ぶ時もあったけど。それでも俺はいったい何人もの人間を殺したのか、数人だった気もするし、数10人だった気もする。もうそんな感覚すら無くなるほどに俺は屍を築き上げていたのだ。
そんな生活を繰り返していたある時、新たな世界に渡ってから3日程でその世界を飛んだ。あの時はまだ誰も手に掛けていなかったから、あれが偶然による異世界転移なのだろう。
これまで繰り返してきた血生臭い繰り返しの中で拳銃を無くし、ISも破壊され、ネックレスの待機モードからその灰色の鎧を現すことはなくなってしまった。
修理なんて出来ないし、聖痕と雪月花があれば戦闘にはそう苦労しなかったから、気にするようなことでもないけど。
あれからどれ程の月日が流れたのだろうか。1ヶ月程度のような気もするし、数年のようにも思える。元の世界で使っていた携帯も、ISのある世界で使っていた携帯も、もうどこかへいってしまった。
今俺の手にあるのは雪月花と、リサの温もりだけ。けれどこれがあれば俺は大丈夫だ。武器も、戦う理由も、全てここに揃っているから。きっと、大丈夫な、ハズだ───
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「……しかし、多分ここが1番荒れてるな」
「はい……。ほとんど廃墟……文明の跡はありますが」
俺達が今いる世界は見渡す限りの荒野。
ただ、あちらこちらに建物の残骸はあるから、元々は俺達の世界と同じくらいの文明レベルにはあったはずだ。それに、まだ完全には崩れていない建物に入ると、日本語が書かれてることが分かる物もあり、ここが俺達の知る日本に近い土地だったということだけは把握出来た。
ただ、まだ生き物とは出会えていない。精々細かい虫が飛んでいたりいなかったり。人間を含め、掌サイズ以上の大きさの動物は、カラスすら見当たらなかった。
まぁまだ転移から1時間も経っていない。そんなに焦ることもないか……。
と、俺とリサは何か情報がないかとその建物の中を物色していく。
どうやらここはマンションの名残りだったようで、所々にここで誰かが生活をしていたであろう痕跡が見て取れた。だがそれも随分と前、それも、忍び込んでのものではなく、恐らく正式な形でここに居住していたと思われるものだけだった。
こんな廃墟じゃまずは水や食べ物の確保もしておきたかったからそれも探しているのだが、どうやら全く残されていなかった。この状態では当然蛇口を捻っても水は1滴も滴ることもない。
「ご主人様、これを……」
「ん?」
それは新聞だった。日付は俺からしたら未来の数字だったけれど、どうやらこの世界ではそれなりに古いようで、窓ガラスの砕けたここじゃあ風通しが良くなり過ぎで少し風化していたが、辛うじて文字は読めた。
「オラクル細胞?」
そこには"オラクル細胞"なる存在がいかにこの世界にとって危険であるかが書かれていた。
若干、陰謀論や思い込みが強く出ているようにも思えたが、他にもリサが持ってきた写真週刊誌のような雑誌によればオラクル細胞は動物の姿をとり有機物無機物問わず捕食しているんだとか、その証拠がこれだとか書かれていた。
さらに日付が新しい新聞には、オラクル細胞からなる新たな生態を持つ生物が完全に世間に認知され、そして荒ぶる神──アラガミ──なんて呼ばれていると書かれていた。
「アラガミ……」
「これが、この世界の中心でしょうか?」
「多分、な」
最近ロクな生活をさせてあげられていないからか、パサついているリサの髪を指で梳く。
だがいくつもの新聞や週刊誌を読むに、この世界にはアラガミなる新たな生態系に立ち向かう人間の集団がいるらしい。その組織の名を"フェンリル"そしてそこに属し神機と呼ばれる武器を振るう奴らの名をゴッドイーター。
──神を喰らう者──
どうやら今アラガミは、銃火器やミサイルすら受け付けない程の肉体強度を誇っているが、オラクル細胞で作られた神機と呼ばれる武器であれば殺せるらしい。
まるでISのあった世界みたいだが、この世界の人間の生活圏はかなり狭まっており、見ての通り文明も崩壊に近い状態だった。
しかもまたオカルティックな要素の無い世界。1度だけ魔法だか超能力だかのある世界にも飛ばされたことがあったが、魔力だなんだと呼ばれている力は、その全てが聖痕の力が劣化ないしは変質したものなのだ。全ての根源たる聖痕の力が長い時の中で枝分かれし、その有り様を変えていった力。それが魔力だのなんだのと呼ばれている力の正体。それらであれば俺の白焔の聖痕で燃やせるし、銀の腕・煌星の燃料にすることも出来る。
だがこの世界にはそんなものは存在しないようだった。
そうなれば頼りになるのは強化の聖痕。だがアラガミには物理攻撃も効かないという。そうすると今度は神機を手に入れるしかない。そして、神機を手に入れるには───
「フェンリル、か」
「ご主人様……」
「大丈夫だリサ。絶対、何をしても俺は神機を手に入れる。誰を殺すことになっても、俺はお前をあの世界に帰すから」
俺はただリサを抱き締める。リサは恐れているのだ。俺がまたこの旅で何人もの人間を葬り、屍の山を築き上げ、手を血に汚して、変わっていってしまうのが。だから大丈夫だと、俺は何があっても大きくは変わらない。少なくともお前の前だけでは、リサの知っている神代天人のままでいるよと、伝わるように抱き締める。
「行こう。フェンリルは、南だ」
「はい。リサも、何があってもご主人様のお傍に」
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ゴッドイーター達の基地であるフェンリル極東支部があるのは地図の上で神奈川県は藤沢市の辺りだった。
俺はともかくリサが歩くには少し遠すぎる距離だと思ったが、どうやらゴッドイーターになりたい奴らの一団が車で一緒に乗っけて行ってくれるらしいので今は便乗している。強化の聖痕を使って手早く進んでも良かったのだが、この世界のことをもう少し聞きたかったのだ。
そして、聞く限りではこのゴッドイーターなるもの、誰でもなれるわけではなく、神機への適性検査を受けてそれに合格しなければならないらしい。一応、ゴッドイーターの適性がある奴の親族はフェンリルの防護区域の中に住まわせてもらえるらしく、そこならある程度安定した配給や防壁など、最低限もいいとこではあるらしいが衣食住は保証されるのだとか。まぁ、こんな荒野で、いつアラガミなんてものが現れるか分からない外よりはマシなのだろう。
「あれは……?」
俺たちの進行方向、その前方から何やら軽自動車くらいの大きさの影が3つ、こちらに向かってやって来ている。
「あれは……アラガミだ!!」
それは二足歩行の恐竜のような化け物だった。灰色の肌に鋭い牙、長いしっぽは先端が太く、鋭くなっていてこれも大きな武器なのだろう。
大きさこそそれほどではないが、ティラノサウルスみたいな骨格をしたそれは確かにただの人間では手に負えないだろう。
しかも運の悪いことに周りを瓦礫に囲まれたここはほぼ一本道。左右に逃げ場は無い。
「なぁ、アラガミってのに兵器は効かないけど、例えばこの自動車で横っ腹に思いっ切りぶつかれば吹き飛ばせたりはするのか?」
俺は運転席で顔を真っ青にしているオッサンに話しかける。物理攻撃が効かない。それは銃弾が貫通しないという程度なのか、衝撃すら完全に無効化してしまうのか。
ただ銃弾やミサイルで傷が付かないという程度なら、とりあえずここを凌ぐくらいなら何とかなるのだが……。
「あ、あぁ……そんな都合の良いことができればな!!」
「OKだ。なら殺せはしないけどアイツら退かしてやるからこのまま進め!!」
「は、はぁ!?アンタ何言って───っ!?」
もうこの際だ、聖痕の力を見せたっていいさ。そうでもしなけりゃあのアラガミなんて奴らには敵わない。
俺は強化の聖痕を開きながら乗せてもらっている車の荷台から飛び降りる。
そしてそのまま地面を砕くように踏み込み、一気にアラガミの集団へと突っ込んでいく。
そして右手側のアラガミを下から思いっ切り蹴り上げる。蹴りの速度が音速を上回り、大気が悲鳴を上げている。
俺はさらに真ん中のアラガミの尻尾を掴み、回転しながら投げ捨てる。砲弾のように吹っ飛んだそいつは直ぐに視界から消えていった。
次の1匹、コイツには顎を打ち上げるように蹴りをくれてやる。そして浮いた身体の、その尻尾を掴み、2匹目と同じように思いっ切り遥か彼方へ向けて投げ捨てる。
そしてドン!と、さっき蹴り上げた1匹目が上から落ちてきたのでそれもハンマー投げのように放り捨てる。
すると、俺達の乗っていた車もようやく追いついてきた。
「アンタ……一体?ゴッドイーターじゃないみたいだが……」
「俺のことはいいんだよ。とにかくフェンリルまで行こう」
明らかに人間業ではない剛力を見せつけられて訝しまれたようだが、俺の有無を言わさぬ態度に「とりあえずアラガミに邪魔されることなくフェンリルに着けそうだ」という判断を下したらしいその人達は俺達との間にさっきよりも広めに心の距離を取りながらも再び乗っけてくれる。
そうしてしばらく進んでいくとフェンリル極東支部の外壁が見えてきた。その間にも時折さっきの小さめの恐竜みたいなアラガミが散発的に襲いかかってきたがその度に俺がブン投げて道を作る。
「……アンタのおかげで誰も怪我せずに辿り着けたよ」
「乗せてくれたお礼だよ。本当は息の根を止められたら良かったんだが……。何せゴッドイーターじゃないと神機は貰えないからな」
「アンタならなれるだろうさ。それより、そっちの嬢ちゃんの方に適性があるかどうか……」
「最悪俺にあれば配偶者くらい入れてくれねぇのか?」
「どうだろうな。親族ってのが直接血の繋がりのある奴だけなのかどうなのか。細かいことは俺達も知らんからな」
「へぇ。まぁ、どうにかするさ」
駄目っぽくても、俺が戦力として特例を認める程の価値があると思わせれば良い。どんな手を使ってでもリサはあの中に入れなくてはならないのだ。外じゃ絶対に生きてはいけないだろうからな。
そうこうしているうちに壁が目の前に迫ってきた。勇壮な狼の顔の紋章の描かれた壁にある門の前にはアサルトライフルと思われる銃火器を携えた門番がいる。どうやらアイツらが検査を行うらしい。
「そこの車、止まれ」
態々銃口を向ける必要も無いと思うが、とにかく奴らは俺達の乗っている車に銃口を向けて止まらせる。
どうにも緊張しているらしい彼らの代わりに俺が前に出ていく。
「ゴッドイーターに志願しに来た。ここで検査を受けられるんだろう?」
「あぁ。まずはパッチテストを受けてもらう。……そっちもか?」
「そうだ」
すると、門番達はいそいそと何やら道具を取り出し始めた。そして俺達に腕を出せと命じてきたので大人しくそれに従う。
何やらアルコールテストのように腕にシールを貼られ、少しするとそれを剥がされる。
俺とリサの腕には、何やらシールの形に丸い跡が付いていた。だが俺達と一緒にいた奴らには───
「お前達2人は合格だ。中に入れ。他の奴らは駄目だ。適性が無い。許可出来ない」
俺だけでなくリサまで適性があるのには驚いたが、おかげで中に入るのに揉めなくて済みそうだ。だけど彼らは───
「ご主……天人様……」
「あぁ……。けど、どうしようもない」
彼らは適性が無いからとこの、荒ぶる神が闊歩する地獄のような荒野に再び放り出されるのだ。
俺だってここまで乗せてきてもらって、言葉を交わして、彼らに対して何も思うところがないわけではない。できるなら、戦えなくとも壁の中の居住区には入れてやりたい。しかしそれは叶わないのだ。例えここで俺が暴れたところでそれは許されないだろう。
ここの門番の2人だって好き好んで放り出すわけでもないだろう。それは、この世界では仕方のないことなのだ。恐らくここで俺がこの門番達を殺害したところでこの世界からは出られない。彼らは世界の命運なんてものは握っていないのだから。
だから俺がやるべきはそう、例えそれが嘘に塗り固められた言葉だったとしても───
「ここまで乗せてもらって、俺らだけ入るのは心苦しいけど、俺が、アンタらがアラガミに怯えなくて済むような世界にしてやる。だからそれまで生きてくれ。そして、変わった世界でまた会おう」
「……あぁ。悔しいが仕方あるまい。元々、俺達ゃアンタがいなきゃここまで来ることすらできなかったんだ。じゃあな、また会おう」
きっと、変わった世界に俺達はいない。そうなったらきっと俺達は別の世界に飛ぶだろうから。
だからこれはどこまでも嘘。きっと彼らと会うことはもう2度とあるまい。それでも、彼らにはこう言ってやらなければならない気がしたのだ。例えこの手が血に汚れていようとも、それを彼らに隠していようとも、だ。
「……ではこっちへ」
彼らが去ったのを確認した門番に連れられ、俺達はフェンリル極東支部の門をくぐる。さぁ、まずは第1関門突破だ。後は神機を手に入れ、この世界から出ていく方法を探すのだ。この、荒ぶる神に食い散らかされた世界から───
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「そんなことは許されない」
「許す許さねぇじゃねぇんだよ。どーせ無駄になるんだからやらねぇ方がいいっつってんだ」
パッチテストに合格した俺達は次は神機の適合テストらしい。どうやら今は新型と旧型の2種類の神機があるらしく、俺は新型の適性アリ。
で、次はリサが試す番らしいが、そもそもリサに戦闘なんてこれっぽっちも出来やしない。
それは、幾多の異世界転移を経験してきた今でも同じだし、俺もやらせる気は無い。それも、アラガミ討伐なんていう危険極まりない仕事に就かせるなんて真っ平だ。神機は貴重なものらしいから、それをリサに任せたところでただ無駄に資源を使うだけだと俺が主張しているのだが……。
「フェンリルからの配給を受ける以上、ゴッドイーターの適性がある人間はこれを拒むことは出来ない」
危険な仕事故に常に人手不足のゴッドイーターは、適性のある奴に対しては結構強引にならせるらしいな。
「あぁ?んなもん、俺が2人分働きゃいいんだよ。ここだって救護室とか飯炊く所くらいあんだろ?リサはそっちの方が向いてんだ」
「2人分だと……?新人未満が一端の口をきくな」
「あぁ?なら試そうぜ?俺に神機を寄越せば2人分なんてケチなこと言わねぇ……。3,4人分はアラガミをぶっ殺してやんよ」
「貴様……いいだろう。まずはお前にハーネスの装着を行ってもらう。……そのマシンに腕を置け」
俺のいる部屋の上、ガラスの向こうで雨宮ツバキとか言う気の強そうな女が俺と言い争っている人間の1人だ。後は眼鏡をかけた糸目の男、ペイラー・榊とか言う奴も俺を睥睨していた。
俺はフンと鼻を1つ鳴らし、示された機械の上に左腕を置いた。右利きの俺が態々左手を置いた理由。単に銀の腕を使うためだ。どうにもここで取り付ける腕輪とやらは神機を扱うのに必須らしく、また付けたら死ぬまで外せないんだとか。
俺は最低限銀の腕を使えるように右腕は残しておくことにしたのだ。どうせ両腕で振るうのだから腕輪くらい逆手に着けていても問題あるまい。
「その前に1つ」
と、ペイラー・榊が俺を見下ろしながら質問をしてくる。
「君は、何のためにゴッドイーターになる?」
「そんなの、生きるためだ。俺は俺とリサが生きるためなら神だって殺す。リサを傷付けようとする奴も戦わせようとする奴も、全員潰す。俺はそのためにゴッドイーターになる」
「……いいだろう。守るべきものがある人間は強くなれるものだからね。では、始めようか」
すると、上から何やらプレス機みたいなのが降りてきて、俺が左腕を置いている窪みとちょうど合うように凹んだ場所が重なる。そして───
「───っ!?」
腕に激痛が走る。神機を扱うための腕輪とやらが俺の腕に癒着されていくのだろう。そして、オラクル細胞なるものが俺の体内に流し込まれていく感覚。異物が侵入する感触に思わず眉根を顰めるが、それだけだ。けどなぁ、腹にビームで風穴開けられた時よりゃあマシな痛みだぜ。
暫くすればその痛みも収まり、機械の上半分が巻取られて上がっていく。
「……成功だ。ようこそフェンリルへ。君のこれからに幸あらん事を祈っているよ」
祈るって、誰にだよ。とは言わなかった。神が地上を食い散らかす世界で何に縋れっていうんだか知らないけどな。
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「ではまずはオウガテイルを討伐してみろ」
訓練場なる場所に連れてこられた俺は若干ハリボテ感のある神機を渡された。その部屋は訓練場と言うにはやや殺風景で、ただだだっ広いだけの部屋だった。
しかし、そう思ったのも束の間、いきなり部屋の風景が変わり、俺達がさっきまで渡ってきた荒野と廃墟のような景色になった。そして、俺を取り囲むように3匹のアラガミ──これがオウガテイルと言うらしい。俺が投げ飛ばしたアラガミと同じアラガミだった──が現れた。
これは映像か何か何だろうが、すげぇリアルだな。だがまぁ、デカい口をきいた分はやらなきゃな。
俺は、右手にいたオウガテイル目掛けて神機を振り上げる。その刃がアラガミの喉を搔き切る。
さらに俺目掛けて飛び込んできたもう1匹の頭に神機を叩きつけて頭をかち割る。
所詮頭は良くないのか、3匹目も飛び掛ってきたのでその腹に神機を突き刺して薙ぎ払う。
終わった、そう思った俺の頭上に影が差す。
俺は咄嗟にその場を飛び退ったが、さっきまで俺がいた場所に何やら巨体が飛び降りてきた。
それもアラガミなのだろう。超巨大な獅子のような姿をした、赤黒い獣だった。ジェヴォーダンの獣よりも大きいそいつは俺のことを殺意の篭った目で睥睨している。
どうにも、さっきまでの奴らとは1つ2つは格の違うアラガミのようだった。
「グルルル……」
獅子のようなアラガミがその喉を震わせて唸るような声を上げる。……そんな威嚇までリアルに作り込まんでも、とも思うが訓練なんだし現実に忠実な方がいいのかな。
俺はさっきまで片手で振るっていた神機を両手に構え、聖痕を少しずつ開いていく。
すると、アラガミの背中から生えていたマントのようなものから紫電が湧き上がった。そして、それは爆ぜる───
───バチバチバチッッ!!
俺はその雷撃をバックステップで躱す。……イ・ウーにいたころにあった、ヒルダとの喧嘩の経験が役に立ったな。もしあいつと戦ってなけりゃ今の攻撃は喰らっていたかもだ。
そして、そいつは雷撃を終えた途端に俺に飛び掛ってくる。それを俺は奴の身体の下を潜るようにして転がり避ける。そして起き上がり様に奴の後ろ脚に刃を振るう。
鮮血が舞い、そいつはバランスを崩した。俺はさらにもう片方の後ろ脚にも神機を振るい両足の腱をぶった切る。さらに脇腹に刃を突き立て、そのまま顔の方向へ走り抜ける。俺の進行方向に合わせてその巨躯から血が吹き上がる。俺は神機を振り抜き、さらに振り返るように反転して刃を顔面に叩きつけた。頭をかち割られたそいつは地面に倒れ付し、その動きを停止させた。
すると、そいつも、廃墟の景色も消え、現れたのはさっきまでの殺風景なコンクリート打ちっ放しの広い部屋。
「なるほど、その神機でヴァジュラ種を1人で討伐できるのか。言うだけはあるようだな」
上の部屋から雨宮ツバキが納得したような声を飛ばしてくる。
「たりめーだ。いいか?リサには戦闘力も無けりゃ戦う覚悟も無い。外に出したって足引っ張るだけだからな。だったら俺を憂いなく使った方が余程人類の為になるぜ」
「……どうにもそのようだな。まったく……。リサ・アヴェ・デュ・アンクのパッチテストの結果は見なかったことにしよう。ゴッドイーターの配偶者であればフェンリルの中へも受け入れが可能だ」
「あぁ。そうだな」
俺がその殺風景な部屋を出ると、そこにはリサがいた。その顔は緊張が強く浮かんでいて、もしかしたら自分も神機を扱うための腕輪を付けられて戦いに駆り出されるのではないかという不安に塗れていた。
「大丈夫だよリサ。お前は外で戦わなくていい。そういうのは全部、俺がやるから」
俺の言葉にホッとしたのか、リサがポスりと胸に飛び込んでくる。それを抱き留め、頭を撫でてやれば「ありがとうございます」と小さな声で返ってきた。
「あぁ。リサは俺が守るから。絶対に」
「はい。信じております、愛しのご主人様」
そうしてしばらく頭を撫でてやり、落ち着いた頃に俺はリサの腰を抱きながら指定された部屋へと歩き出す。途中、何やら緊張した面持ちの男とすれ違ったが向こうはコチラに気付いてもいない風で訓練室の方へ歩いて行った。ハリボテっぽい神機を持っていたから、彼も新しくゴッドイーターになったのだろう。
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俺がフェンリル極東支部に着任して数日が経った。あの時にすれ違った男の子は藤木コウタという名前らしく、俺の同期になるんだとか。ノリは少し軽いが人格的にはそれなりに信用の置けそうな人物ではあった。
そんな彼と何度か訓練をし、今日も訓練を一通り終えて部屋にでも戻ろうかというところでいつも受付にいる赤毛の女の子が随分と急いだ様子で廊下を走っていた。
「っと……」
ぶつかりそうになった俺は思わず避けるが、その子はこっちに目もくれずに走っていった。
確かそっちには司令室があったはずだ。気になった俺はその子の後を付け、司令室に入る。すると───
「A地点より小型のアラガミが多数居住区に侵入!!防御壁を破られたようです!!」
「防衛班を回せ!!」
「あっ……!?B地点の隔壁も破られました!!」
B地点……A地点のちょうど反対側じゃないか。そして、そこで繰り広げられていたのはただ地獄のような現実だった。どうやらアラガミを避ける構造になっていた防御壁が破られ、一般市民の住む区域に侵入されたようだった。
「雨宮三佐」
「神代……。竹田、神代天人の神機は?」
「整備終わっています!出せます!」
「神代、命令だ。B地点に赴き住民の保護及び侵入したアラガミを殲滅しろ!」
「はい!」
この世界の人間に情が移ったわけじゃない。だが、リサを守るためだけの理由とは言え自らの意思で神機を手にした以上、俺は彼らを守らなければならない。それに、放っておけばアラガミ共がここに来るやもしれん。そうなったらリサにも危険が及ぶ。だからこれは、必要な戦いなんだ。
俺は雨宮さんの命令を受けた瞬間には身を翻して神機の収められている部屋へと走り出した。
そして、部屋の手前でリサの姿を視界に収める。
「ご主人様」
「リサ」
「……出られるのですね」
「あぁ。初任務だ。……行ってくる」
「はい。お気を付けて」
こういう時のルーティンでもあるキスを交わすと俺は神機の保管されている部屋に入り、認証デバイスに腕輪を嵌める。
すると、コンピューターが俺の情報を読み取り、俺の神機を箱から取り出した。
これが俺の神機……。新型神機は
まぁ取り敢えずはブレードモードが使えるのだから問題はあるまい。
俺はケースから出されたエメラルドグリーンの神機を手に取り、雨の打ち付ける外へと飛び出した。
───────────────
ゴッドイーターは身体にオラクル細胞を取り込んでいる。そのため、ゴッドイーターの身体能力は普通の人間のそれを遥かに凌駕する。
だから機関銃みたいな重さの神機を抱えていてもオリンピック選手より速く走れるし、ただの跳躍でも棒高跳びの世界記録みたいな高さまで届く。
俺はコンクリートを踏み割る勢いで走り抜け、建物の壁を使ってフェンリルの壁を飛び越える。
そうして住居区画へと入った俺の視界には想像通りのクソッタレな光景が映っていた。
住民は逃げ惑い、俺を見ることもなくすれ違っていく。きっと彼らは早くに逃げ出せたのだろう。まだアラガミはこちらには来ていない。
だがさらに200メートルも先にはきっとろくな景色にはなっていないだろう。飛行型のアラガミの姿も見える。幸い、降り注ぐ雨のおかげで大きな火事にはなっていない。煙や炎で逃げ場が失われないのは僥倖だった。
俺はオラクル細胞だけでなく強化の聖痕をも開いて身体能力を強化。数秒で1匹目のアラガミ──ゴリラみたいな姿をしたコンゴウという奴だ──と接敵、神機の1振りでそいつを切って捨てる。
そうして騒ぎの中心地に行くまでに数えるのも面倒なくらいの数のアラガミを切り捨て、ようやく区画の中心に辿り着くと、そこには既に1人のゴッドイーターがいた。
「一般兵は下がっていろ!!」
旧式と呼ばれる、剣型と銃型のどちらか一方のみの形態しか持たない神機の、その銃型神機を手にしたゴッドイーターだ。その神機から放たれる砲撃で何匹かのアラガミを戦闘不能に追い込むが───
「あっ……ガァッッ!!」
背後から現れたコンゴウに思いっ切り殴り飛ばされ、瓦礫の中へと勢いよく突っ込んだ。
「チッ……」
ただでさえ少ない人手だ。守んなきゃいけない市民は多いしアラガミはやたらと多い。神機使いは生きていてもらわなくちゃ現状こっちが困る。
ぶっ飛ばされた彼の周りにはもう既に何匹ものアラガミが集まりつつある。俺は跳躍し、その内の1匹の背中に神機を突き刺し、さらにそいつを足場に再び飛び上がり、飛ばされたゴッドイーターとアラガミの間に割って入る。
「生きてるか?」
「あ、あぁ……。済まない」
「コイツら片したら、1人で逃げられるか?」
「悪いが、難しそうだ……」
「そうか……」
にじり寄ってくるアラガミ共に神機の刃を向け牽制しつつ俺は思考を巡らせる。
今ここに集っているアラガミはオウガテイルが3匹、コンゴウが2匹。1匹単位であればそう強いアラガミじゃあないが、動けない負傷者を庇いつつこの距離でやり合うには面倒な数だ。
だがやるしかないだろう。こいつらも一応生物だ。それも、交戦意識高めの、な。なら俺が暴れることで一旦後ろの奴から意識を逸らさせるしかないだろう。
俺は左手にいたオウガテイルの首筋に神機の白刃を振るう。アラガミの鮮血が飛び散るが恐らく致命傷には至らないだろう。だが取り敢えずはそれでいい。一瞬動きの止まったオウガテイルの脇にいたコンゴウにも神機を叩きつける。それは奴の両腕をクロスすることで頭をかち割られるのを防がれるが、叩きつけた刃を起点にして俺は真上に飛び上がる。
そして一番端、さっき首筋を裂いたオウガテイルの背中に神機を突き立てる。そしてこいつの背中を踏み台にして右端から2番目にいたコンゴウの所まで跳躍。上から叩きつけるように、顔面に向けて神機を振るった。
顔面を割られながら吹っ飛んだコンゴウには目もくれず、真ん中と右端のオウガテイルを斬り殺す。そして残ったコンゴウも袈裟斬りに神機を振るい、俺達を囲んでいた5匹のアラガミを殺し尽くした。しかしその瞬間───
──キャァァァァァ!!──
つんざくような悲鳴が響き渡る。声の方を見れば、別のコンゴウに追い立てられ、瓦礫まで追い詰められた女性の姿があった。
俺は急いでそちらへと走り出す。だがさすがにここで聖痕を全開にするわけにもいかない。……脚じゃ間に合わない。なら───
「っせい!!」
俺はコンゴウに向けて神機を思いっ切り投げつける。白刃を煌めかせ、回転しながら向かっていったそれは、狙い違わずにアラガミの脇腹に突き刺さる。その重さにアラガミが体勢を崩した隙に俺は一気に駆け寄り、ドロップキックを喰らわせてやりながら神機を引き抜く。そして地面に転がったコンゴウの土手っ腹に神機を突き刺し、動けなくしてやる。
「大丈夫ですか?早く逃げて」
「は、はい!ありがとうございます!」
神機を肩に担ぎ上げた俺は、もう1人のゴッドイーターをまずは安全な場所に運ぼうと再び戻ろうとする。するとそこに今度は小型の飛行能力のあるアラガミが襲い掛かったきた。鳥の卵と女の上半身を足したような不気味な風体。大口を開けて突っ込んで来たそいつの顎門をしゃがんで躱し、続けて突っ込んできた2匹目の顎をすれ違い様に切り裂く。振り返り、そいつの背中を神機で切り裂くとそいつの影から1匹目が飛び出してきた。だが───
───グシャアッ!!
と、
パーカーのフードを被った浅黒い肌のそいつは俺のより2回りは大きい神機を携えた男だった。
「……クソッタレな職場にようこそ」
「全てに満足出来る仕事なんてないさ」
「言ってろ」
アラガミの死体から神機を引っ張り上げたその男はそれをそのまま肩に担ぎ、後ろを振り返る。
集い始めたアラガミの真上からサーチライトが人工の光を照らす。
すると、上空を旋回するヘリコプターの中から、1人の人間が飛び降りてきた。
そいつはパラシュートも持たずに降下すると銃型の神機で飛行するアラガミと着地点にいたアラガミを瞬く間に蹴散らした。
「エリック!生きてる!?」
降りてきたのは女のゴッドイーターらしい。
そして、1人目のゴッドイーターはエリックと言うらしい。
呼ばれたエリックは「あぁ」とだけ返す。すると、ヘリからはもう1人、今度は黒い肌のゴッドイーターと同じように大きな大刀の神機を構えた男が降りてきた。
「おーおー、新入りの割に派手にやったなぁ」
降りてきたのはタバコを咥えた、緩そうな雰囲気の優男だった。だがそいつの纏う空気で分かる。コイツがこの中で1番強い。
「まったく、任務帰りだってのに人使いが荒いぜ」
その男はそんな風にゴチると、周りに集まってきたオウガテイルやコンゴウを1匹1振りで殺していく。それはまるで、庭に伸びてきた雑草を狩るかのようだった。それほどにアラガミとコイツの力は隔絶しているのだろう。荒ぶる神がまるで障害にもなりはしない。
「……アンタは?」
「ん、俺か?俺はリンドウ。雨宮リンドウだ。こっちは橘サクヤ、さっきお前さんを助けたのはソーマだ」
「あぁ。さっきはありがとう」
「礼を言われるほどでもない。それに、お前なら別に助けなくても平気だっただろう?」
「あら、よくご存知で」
「ふん」
と、ソーマとやらはプイと顔を背ける。別に照れているわけでもなさそうだ。多分単純に、俺に興味が無い。
しかし、戦力的に余裕が出来たと思ったのも束の間……。
──グルルルル……──
腹の底に響く唸り声と共にオウガテイルやコンゴウを踏み潰しながら現れたのは獅子のようなアラガミ、俺の実力を図るために雨宮ツバキが使い、後にフェンリルのデータベースで見た大型種。その名を───
「ヴァジュラ……」
───雷を纏う獅子の神が現れた───