セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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粒子と白焔

結局のところ、武偵殺しはその正体をこそ神崎とキンジに露呈させたものの、逮捕されることなく見事に逃げ切ったらしい。最後はハイジャックでの直接対決だったみたいだが、理子(武偵殺し)はそこから逃げ失せ、乗っ取られた飛行機はキンジがどうにか一般の乗客を負傷者ゼロで不時着させたのだ。

そんなニュースを、いや、俺も武藤に駆り出されてキンジが飛行機を着陸させられるようにライトで滑走路を作ったのでテレビに言われなくとも知っている。

 

「……で、俺にどうしろと?」

 

「星伽白雪を()()()()へ連れて行く作戦に協力してもらいたいのだ」

 

理子がハイジャックした飛行機をキンジが着陸させたのは武偵校とレインボーブリッジを挟んで反対側に浮かぶ南北2キロ、東西500メートルほどの無人島。台場の開発だかで作ったのだが計画が頓挫して放置されたコンクリートの島だ。そこにある壊れた風車に呼び出されたと思えばコレだ。ちなみに風車が壊れた理由はキンジが飛行機を着陸させる時の制動距離を稼ぐ為に翼をこれにぶつけたから。強引な手を使ったものだと思うが、確かにこれしかなかったかもな。

 

「……ヤダよ面倒臭い」

 

「お前達武偵には仲間を信じ、仲間を助けよなんていう習わしがあるのだろう?たまには旧友のことも助けてほしいな」

 

「お前、武偵じゃないだろうが。それに、星伽も一応武偵の仲間なんだけどな」

 

「……まぁいい。天人、お前に頼んだのは駄目で元々だ。お前抜きでも作戦はあるからな」

 

……それあるんなら最初から俺は要らねぇじゃねぇかと思ったが、まぁどうせ万全を期すためとか逃げる時の殿とかそんな役割だったのだろう。後は()()に狙われているという諜報科からの情報があった星伽の護衛(キンジと神崎)を引き剥がす役割とか、多分そんなん。

 

「お前の邪魔をする気もねぇから安心しろ。あぁけど、キンジは気を付けろよ?アイツはあれで結構()()()らしいからな」

 

「……お前は」

 

「んー?」

 

「……いや、何でもない」

 

プイ、と魔剣ことジャンヌは急に不機嫌になってそっぽを向いた。後ろで束ねた美しい銀髪が夜の闇の中でも輝きながら揺れる。手伝いを断ったからって訳じゃなさそうだが、どうしたいきなり。

さて、前にリサから女子を不機嫌にさせた時にはサラリと相手のことを褒めると良いと聞いた。だが突然言い出しても効果は無く、会話の自然な流れの中で言う必要があるそうだ。……それどうしろと?

いや、だが今はむしろここで解散の流れだ。別れ際なら多少勢いで誤魔化せるかもしれない。

 

「あっそ。じゃあまぁ頑張れよ」

 

「ふん、お前に言われなくとも」

 

「そうかよ。ま、安心しろ、例えヘマこいて武偵校の預かりになってもその制服は似合ってるぞ」

 

このジャンヌ、武偵校に潜入する一環で今も武偵校の赤いセーラー服を纏っていたのだが、それが思いの外似合っていたのだ。なので皮肉混じりにはなってしまったが素直に褒めておいてご機嫌を取っておこうという作戦だ。

で、その成否と言えば……

 

「な、あ、お、お前……に、そんなこと……嘘じゃないだろうな……?」

 

その陶磁器みたいに白い肌を真っ赤に染めていた。この夜の中でも分かるってのは相当だな……。

 

「こんなことで嘘付かねぇよ」

 

「本当だな?嘘だったら氷柱にしてやるからな」

 

こっわ……。まぁ、機嫌は良くなってるみたいだから作戦は成功ということで。

 

「嘘じゃねぇから氷漬けは止めろ」

 

「ふん、それならば良い」

 

ジャンヌは自分の胸の前で腕を組み、そのままツカツカと歩いて行ってしまった。1人ポツンと残された俺は……

 

「あぁ、リサ?ちょっと聞きたいんだけど……」

 

取り敢えず対応はあれで良かったのか、リサ本人に電話越しで聞いてみることにした。

 

 

 

───────────────

 

 

 

あの後リサには電話越しにこってりと叱られた。確かに言った通りには実践できているが、相手によってはそれをすれば良いというものでもないのだそうだ。よく分からん。

 

そして今、武偵校は沸いている。アドシアードとかいうイベントがあるのだ。これは、外部から人を呼んで女子武偵がチアをやったりマーチングをやったり、男子はその後ろでバンドをやってたりする。他にも、長距離狙撃や射撃の記録会等を行ったりする。ここで良い記録を出せば武偵企業や武偵大への推薦が貰えたりするので案外気合いは入っている。

ま、基本的には世間的に乱暴者みたいな印象の強い武偵の、対外的な好感度稼ぎのイベントなのだが……。

で、俺は当然リサをそんな見世物にする気は更々無く、俺自身もバンドとか面倒なのでやる気は無い。なので実行委員からの抵抗を押し切りリサは1日受付。俺も午前中は見回りをやりつつこの日の午後には前々から仕事を入れてあった。あったりするのだが、ここで使われるチア衣装は黒字に赤いラインが入っていて、胸元が銃弾の形にくり抜かれているというもので、男子的には中々に宜しいデザインなのだ。去年はそれを知らずにフケてしまったのでこのチア衣装を着たリサを見ることが叶わなかったのだ。なので今年は割と大枚を叩いてこれを裏ルートで入手している。今度こっそり着てもらうつもりだ。

 

……リサは裁縫も出来るので作ってもらうというのも可能ではあるのだが、流石にそれはあんまりにも恥ずかしかった。いや、どっちにしろ着てもらう時に頼むのだからあんまり変わらない気もするけれど、縫ってるところを見るのも絶対恥ずいよなぁ……ということだ。

 

で、そんなことはさて置き、校内を見回りつつリサに変な虫が付かないか監視していたところ、俺の携帯がメールの着信を知らせる振動を発した。

見れば今日の仕事の依頼主で、落ち合う場所を変えてくれという指示だった。こんな直前で?と思う間もなく2通目の着信。また依頼主だ。頭に疑問符を浮かべつつメールを開けばそこには1枚の写真が添付されていた。

何かと思って開いた俺の携帯の画面に広がったのは───

 

 

──ロープで拘束されたリサが気絶して横たわってる姿だった──

 

 

「なっ───!?」

 

いや待て、落ち着け。まずは1通目だ。まだあれを確認し終えていない。

だがそのメールに記されていた新たな集合場所はレインボーブリッジを挟んで向かい側の無人島、つまりここに来いという誘いだ。

上等じゃねぇか。誰だか知らねぇけど、リサに手ぇ出したこと、死ぬ程後悔させてやるよ。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「来たな」

 

キンジが飛行機の翼でへし折った風車の根元にそいつは居た。今だ気を失ったままのリサを足元に置き、不敵な笑みを浮かべているそいつは20代半ばと思われる男だった。顔付きは日本人、その造形はまぁ、美形の部類に入ると言って差し支えあるまい。背もかなり高いな、俺より10センチ程は上だろう。体格もそれなりにしっかりしているように見える。だがそんな身体的特徴よりも何よりも、奴の纏う雰囲気が異常だ。1歩近付く度に後ろに押し出されそうな圧を感じるのだ。それも薄暗く、粘り着くような気配だ。だがそんなものに気圧されている暇はない。リサが今、誰とも知らない男の手に落ちているのだ。そこから救うのが俺の使命。

 

「先月俺に届いた現金輸送の護衛、あれもお前か?」

 

「あぁ。何、簡単な事だよ。イ・ウーとか言ったか……。彼らの計画で君は邪魔なんだとさ。だからこの私に君を消してくれと依頼があった。それが3月のこと」

 

3月……ジャンヌがこっちに来る前から俺を消す計画は始まってたってことか。だがそんな前から依頼があって、何故このタイミングなんだ。リサを餌に俺を誘き出すなら今じゃなくても何度も隙はあったはずだ。特に俺が任務に出ている間ならリサを攫うことは然程難しいことではないだろう。何せアドシアードをやっていて人目の多いこのタイミングで仕掛けられるのだ、何か理由でもあるのだろう。

 

「ふん、その割に手ぇ出すのがおせぇな。ビビったのか?」

 

「まさか。君のような未開放者(ノンアプリーレ)に負ける程私の力は甘くはない」

 

今、アイツは何と言った?()()()()と言ったのか?俺のことを。その言い方を知っているということはそうか、コイツも()()なんだな。だが、だからこそコイツには色々と喋ってもらわなくちゃいけなさそうだ。

 

「はっ、なら何で2ヶ月も大人しくしてたんだ?まさかリサを攫う作戦を練るのにそんなに掛かったとか言うんじゃねぇだろうな?」

 

俺は、この会話の間にも少しずつ力を開いていく。一気に開くのは身体に負担が掛かるからな。電気のスイッチのようにパチパチと開けたり閉じたりするわけにもいかないのだ。

 

「そんなもの、依頼主からのご指定だからだ。君、というより遠山キンジと神崎・H・アリアとか言ったか。彼らに何かあるようだったが……」

 

キンジと神崎?ということは依頼主はアイツか?本当、油断ならねぇ奴だ。

 

「さて、元々この女は君を呼ぶためだけにここに連れて来たわけだが……。よくよく見れば何とも見目麗しいではないか。それに2ヶ月もあれば人1人の情報くらいそれなりに集まる。随分と気立ても良い女みたいじゃあないか。この私の伴侶に相応しい」

 

……何だと?この野郎、言うに事欠いてリサを伴手前の侶にするだと?ただ俺を呼ぶ為だけに拉致ったのだったらまだこちらにも考えがあったけどな、そりゃあ悪手だぜ。そんなことを宣った奴を俺が無事に帰す訳がねぇだろうに。

 

「ふん、怒っているな。分かりやすい奴め」

 

「……当たり前だろうが。てめぇリサに手ぇ出しといて無事に帰れると思うなよ?」

 

俺は背中から刀の柄だけを取り出す。刀身の無いそれはしかし、俺が1振りすればそこには俺の身長くらいはある闇色の刀身が現れる。

 

──雪月花──

 

それは、1度は全てを失った俺に遺された僅かばかりの遺品だった。

それは俺や、そして恐らくコイツの様な聖痕持ち(スティグマホルダー)と呼ばれるような奴らの持つ膨大な力をコントロールする役割も果たす物だ。色んな形があるそうだが、俺の家に伝わっていたのは持ち主の力に反応して様々な刀身を現す刀の柄だった。そして柄だけにも関わらず存在する銘こそが雪月花である。

俺がレインボーブリッジで対物ライフルの弾丸を受け流したり爆走するワゴン車を蹴り上げた身体機能の秘密がこの聖痕だ。

 

聖痕──スティグマとかそのまま聖痕(せいこん)とか呼ばれているもの。別に身体に文字通りの痣があるわけではない。世界とはここだけを示すものではなく、他にもパラレルワールドとか平行世界とか、そんな風に物語られている世界が幾つもあるのだ。だがこの聖痕というのはそんな風に世界が無数に枝分かれする前の唯一の原初の世界、そこからただの無形無色の力を自身の身体に流し込む"扉"のことを聖痕と呼ぶのだ。そしてその扉を持つ者は自身の肉体をフィルターにしてそれぞれの形に力を発現させる。また、その顕現させる力そのものを聖痕と呼ぶこともある──

 

ジャンヌや星伽の使う超能力(ステルス)は言わばこの聖痕の力の超劣化版。原初の力が悠久の時を経てより扱い易い形に変質したのだ。

 

そして俺の持つ聖痕には"強化"という色が付くのだ。その力が現すのは性質の強化。俺は基本的に自分の身体能力か、精々着ている服の強度程度の範囲しか強化出来ないがそれでもソニックブームを気にすることなく超音速駆動が可能だし対物ライフルの弾丸を見てから弾くことだって可能なのだ。

 

「さて、お前を傷害及び未成年者略取の容疑で逮捕する」

 

「ふん、やってみろ」

 

まずはリサの救出(セーブ)だと俺が1歩踏み込んだ瞬間、奴の頭上に光の玉のようなものが出現、嫌な予感に俺が1歩後ずさると元々右脚のあった場所にレーザー光線の様なものが突き刺さった。

 

「っ!?」

 

これが奴の聖痕の力、か。俺が身体を半身にして引き絞るように雪月花の刀身を構えると───

 

──俺の身体の周りに無数の光球が現れた──

 

「っ!?」

 

俺は慌ててその場から飛び退いた。その瞬間に光球からレーザー光線が発射された。おそらくその場にいたら全身を穴だらけにされていただろう。俺と奴の距離は最初の時点で15メートル程あった。最悪の場合、視界の範囲内全てが奴の光球の射程と考えられるな。だが奴の攻撃には微妙に時差がある。光球を出してから、発射までだ。その間は1秒と無いようだが、俺なら動きながら的を絞らせなければ致命には至らない。

 

「流石にこの程度は躱すか」

 

体力に身を任せて反復横跳びのようにステップを踏みながらジグザグに近寄ることで奴の、座標に対するピンポイント攻撃の的を絞らせない。

 

日本の武偵には武偵法という法律が適用される。そして、その中の第9条では"武偵はいかなる場合であっても殺人を禁止する"というような条文があるのだ。そして武偵は法律を破れば一般人の3倍厳しい刑罰が待っている。

だがこの武偵法、裏を返せば"最悪殺さなければだいたい許される"ということでもある。犯人を負傷させるな、なんていう決まりは無いからな。

 

そして俺は遂に殺傷圏内(キルレンジ)に奴を捉えた。そして奴の膝目掛けて雪月花を振るう。だが───

 

ガッッ!!

 

雪月花の闇色の刀身が奴の膝を両断する直前、何やら光る粒子のような物が刀身と膝の間に現れた。そしてそれは俺の一撃を受け止め、奴の身体を切創から守ったのだ。

殺気を感じた俺は直ぐにその場から飛び退いた。

するとやはり俺の頭と心臓のあった場所に光の矢が降り注いだ。

だがなるほど、防いだ粒子からあのレーザー光線が出てこないということはガード用の物では反撃出来ないのか。

もちろん、それもブラフで実は出来る可能性はある。だがあの瞬間にあの盾になった粒子からカウンターを喰らえば俺は確実に重傷を負ったはずだ。そのチャンスを逃してまでブラフを張るだろうか。そう考えれば恐らく奴の光の玉とガード用の粒子は同じ役割を担えない筈だ。

 

「さて、準備運動は終わりだ……消えろ───」

 

凍りつくような冷たい声と切り裂くような殺気を感じて咄嗟にその場を飛び退くとコンクリートの地面に無数の穴が空く。真上からのレーザー攻撃だ。

 

見上げれば飛び退いた先の座標の上空10メートル程にも光球が浮いている。当然そこからもレーザー攻撃が降り注ぐ───

 

「づっ───」

 

直撃こそ避けたものの、数本の光矢が俺の身体を掠め、皮膚を抉ったのだ。

焼け付くような痛みに負傷箇所を見れば銃創とは違う、見たことの無い傷が出来ていた。

シャーペンのケツのキャップで消しゴムを抉ればこんな風な傷ができるだろうか。俺の腕と脚に刻まれた傷はそんな子供の悪戯を思い起こさせるものだった。

 

「そうら、まだまだいくぞ?」

 

上からだけでなく四方八方から降り注ぎ俺を穿たんとする熱量攻撃に、咄嗟に雪月花の刀身を()()()()()

 

雪月花は持ち主の聖痕に反応して刀身を変える。そして俺の聖痕は強化のそれ()()()()()()

 

 

──白焔──

 

 

俺の持つもう1つの聖痕はそう呼ばれているらしい。らしい、というのも俺はこの力をまともにコントロール出来たことは無い。使うとしても雪月花の刀身として現すだけだ。

そして今俺の手元に現れた刀身は白い炎のような、揺らめき不定形の刀身。長さはだいたい日本刀と同じ程度だが今は長さよりも取り回しと僅かでも幅が欲しい。

 

青龍刀程度はある幅と、この世界の物質とも異なるその性質故に聖痕の力による攻撃にも充分に耐えうる耐久力を盾に俺は奴のレーザー攻撃を躱し、弾き、潜り抜ける。

そして奴の手前まで駆け抜け、最後に1太刀浴びせるべく更に1歩踏み込む───

 

───と見せかけて俺は真横に跳ぶ。

 

更にコンクリートを踏み込みの威力で砕きながらリサの元へ飛び込む。

そのまま腕で抱え上げ、飛び出した速度を殺すことなく奴の真後ろを駆け抜けて離脱。雪月花の刀身を仕舞い、ジグザグに飛び退きながら距離を置いていく。

 

「リサ!起きろリサ!!」

 

片手で身体を抱え、頬を手のひらで軽く叩きながらリサの名前を呼びかける。

するとその長いまつ毛が震える。ゆっくりと瞼を上げたリサは、しかし直後に俺の周りに降り注いだ閃光と熱に再び強く瞼を閉じる。

 

「キャッ!」

 

普段なら可愛らしいその声も今は楽しんでいる余裕はない。こういう時、俺は俺の力が恨めしくなる。壊すばかりで守る能のないこの力。今この手にあるのが刀ではなく盾であればどれ程良かったことか。だが後悔している時間を、奴は与えてくれない。俺は手早くリサを拘束しているロープを切り裂くとリサを立たせる。その間もレーザー攻撃が雨あられのように降り注ぐが、そもそもアイツの目的は俺を殺すことと、リサを手に入れること。俺には当たるがリサには当たらないコースばかりをその閃光は駆け抜けている。

 

「リサ!とにかくここは危険だ。アイツは俺を殺すこととリサを手に入れることが狙いだ。俺が生きてる限りお前はそうそう狙われない。だから走ってとにかく遠くへ逃げろ!」

 

近くにリサがいるおかげか、レーザーが飛んでくる方向が限定されている。おかげで捌きやすくなったそれを雪月花の白い炎の刀身で弾きながらリサの背中を押す。

頭の良いリサはそれだけで状況をある程度把握したのだろう。直ぐに頷き、無人の浮遊島の端へ向けて走り出した。

 

「ふっ!!」

 

それを確認し、俺の眼前に迫っていた、これまでのどれよりも太いレーザーを、息を吐きながら弾く。

 

「…………?」

 

しかし、さっきから段々と俺の周り砂埃のような、無味無臭の粒子状のものが漂っているのだ。だが今は正体の分からないこれに構っている暇はない。俺はまた、的を絞らせないように奴の周りを円を描くように、しかし稲妻のような軌道で奴に近付いていく。だがおかしい。先程まではこんな風に動いている間の奴の攻撃には精度はあまりなかった。というか、俺の動きを追随する形で攻撃を仕掛けていたから、常に動き続けていれば当たることはなさそうだったのだが、段々と俺の動く先に目掛けてレーザーが飛んでくるようになったのだ。攻撃速度自体は光速には遠く及ばないとは言え、おかげで余計な回避行動や弾くこと(パリィ)で凌がざるを得なくなり、中々奴に近付けない。

あの球体、拳銃と違って銃口から射線を読むことが出来ないから中々に厄介だぞ。

 

「さぁ踊れ!無様に血を撒き散らしながらなぁ!」

 

ビッ!と1発のレーザーが俺の頬を掠める。強化の聖痕でその強度を増している俺の皮膚は今や対物ライフルですら弾く強度なのだが、その上から皮膚を焼き、肉を抉る奴の火力は確かに大口を叩くだけのことはあるのだろうな。

 

だけどなぁ、その程度で俺が殺られるわきゃねぇだろうが!!

 

俺は更に聖痕の出力を上げる。それによって激増した脚力でコンクリートの地面を踏み込む。蜘蛛の巣状に砕ける地面を見ることもなく、俺は駆け抜ける。

奴のレーザーの発射よりも速く、空気の壁を突き破って桜吹雪の様なウェイバーコーンを発生させながら。

聖痕持ちと言えど、俺のように身体機能を強化しなければ身体の耐久性は普通の人間と変わらない。故に俺がこの速度のままタックルを喰らわせるだけで奴の肉体は粉々に砕けるだろう。だがそれでは当然、9条破りになってしまう。

だから俺は奴の寸前で急停止、コンクリートと踏み砕きながらも超音速駆動が持つエネルギーを全て地面に押し付ける。そして雪月花を一閃。奴の右腕を肩から切り落とすように白刃を振るう。今度こそ俺の刃は奴に防がれることなくその肉体を切り裂いた───はずだった。

 

「なっ───ん」

 

切り裂いた筈の腕は重力に従って地面に落ちるはずだった。だが現実にそれは起こらなかった。肩から離れた腕が、まるでビデオの逆再生でも見ているかのように身体に戻ったのだ。それも奴が着ていた黒いスーツの袖ごと。

 

「っ!?」

 

そして俺の腹の目の前にフットサル用ボール位の大きさをした光球が現れる。俺はその瞬間に身体を後ろに捻りながら全力で横に飛び退いた。

その直後、俺の脇腹の上をレーザー攻撃が通過する。それを俺は完全に避けきることは出来ず、脇腹を少し抉られる。焼きゴテを当てられたかのような熱い痛みがそこに走る。思わず、喰らった右の脇腹を手で抑えるがさっき掠めた傷と同様に、出血は少ない。あまりの熱量に肉が焼かれて血が止まっているのだろう。これはこれである意味幸いだったな。

 

粒子化(クアンタイズ)。君ではこの私に触れることすら叶わんのだよ」

 

そして奴の頭上にはバスケットボール程度の大きさの光球が5つ現れた。そしてそれらの全てが俺にぶっといレーザー攻撃を浴びせてくる。

 

致命傷に至るものだけは雪月花で防ぎ、時折掠める程度のものは一旦無視。傷口が焼けるため出血で動けなくなるにはまだ猶予があるからな。兎に角、奴に一撃喰らわせる方法を考えなければ……。

 

「ふん、私にどうにかして一撃を……と考えているな?」

 

どうやら俺の考えが読まれていたらしい。まぁその程度は当然か。

 

「無駄だ。未解放者である君では私に触れることは叶わんよ」

 

うるせぇな。じゃあ手前はその解放者なのかよ?

 

「そもそも、君では私に届かんからこの依頼を受けたのだ。勝てもしない勝負など請けるものか」

 

なるほど、言動の割には臆病者らしいな。

 

「口に出さなければ考えを悟られないと思ったか?甘い、既に君は私の粒子に囲まれている。この粒子の中で私は君の思考が手に取るように分かるのだよ」

 

──粒子領域(クアンタム・ワールド)──

 

技名なんて知らねぇよ。そう心の中で毒突く。考えが読めるんなら口動かさなくても言いたいこと言えるから便利だな。

 

「減らず口を!」

 

俺の心の中の呟きに奴は的確に反応する。

そして遂に奴の砲撃が俺を完全に捉える。奴のサッカーボール程の直径を持つ極太レーザーを雪月花の刀身の腹で受ける。踏ん張って動きが止まれば直ぐ様蜂の巣にされてしまう。俺は敢えて踏ん張らずにレーザーの勢いそのまま後ろに飛ばされる。

しかしそれを完璧に読まれていたのだ。飛ばされた先の左右にも大きな光球、後ろにも同じく。四方を囲まれた十字砲火(クロスファイア)

全くの同時に放たれたそれに、正面から俺を貫こうとしているレーザーを逸らして左手側のそれにぶつけ、右手側のは雪月花で受ける。しかし真後ろから放たれたそれを避けきることは出来ず───

 

「ズッ───!?ぐっ……」

 

さっき抉られた脇腹をさらに大きく削られた。

堪らず地面に落ちた俺に更に追撃の矢が放たれる。

真上から降り注ぐ細いレーザーが檻のように俺をその場に縫い付ける。そしてその内の1本を弾かされた瞬間、2本目のレーザーが俺の腹を貫く。

 

「ぶっ……」

 

主要な内臓や太い血管こそ避けたものの、腹に1センチ程の風穴が開けられた。そして、顔を上げた俺の視線の先に、確かに数瞬前までそこに居たはずの奴の姿が消えていた。

 

「……無様だな」

 

「っ!?」

 

いきなり目の前に現れたそいつに俺は9条も忘れて刃を振るう。だがその白刃が目の前の敵を斬り裂くことはなく、刃はただ奴の掌で受け止められていた。

 

「驚いたか?だが私の力はこんなものではないぞ?」

 

奴は雪月花の刀身を掴み、そのまま右手を跳ね上げた。その右腕は、まるで理子にやらされたRPGゲームに出てくるドラゴンのような形をしていた。

 

「ガッ!?」

 

一瞬動きを止められた俺はそれを躱しきることが出来ず、真上に跳ね上げられたそれにより左肩を裂かれた。それでも傷口を焼かれて血は吹き出さない。

力ずくで拘束を振り払えばまたもや奴の姿が掻き消える。殺気を感じ、咄嗟に背後へ雪月花を振り抜けば確かにそこに奴はいた。だがまたもや刀身を受け止められる。そしてその左腕も、やはりゲームに出てくるドラゴンを思い起こさせる形になっていた。

掴まれる前にその場を離脱しようとするが、その瞬間に奴の姿が消え、勢いのままに飛び退いた俺の背後にまたもや気配が現れる。今度はしゃがみながら身体を回し、恐らくあるであろう膝辺りに向けて雪月花を振り抜いた。

 

だがそこにあったのはただの粒子の塊。奴の姿はそこには無かった。俺の本能がけたたましいアラートを鳴らす。それに従って再びその場を飛び退けば、俺のいた場所に無数のレーザーが突き刺さった。

 

「粒子、それが私の聖痕の力」

 

こんだけ見て喰らえば嫌でも分かるそれをやたらと仰々しく告げたそいつ。その両手は青く透き通るように光り輝いていた。

 

「ふむ……そう言えばまだ名乗っていなかったな。……刻め!我が存在を!我が真なる名を!我が名は龍司光哉!龍を司り光り輝く者(なり)

 

芝居掛かったどころか、驚く程に仰々しく自らを龍司光哉と名乗ったそいつは、自分のその自己紹介がお気に入りなのか、両腕を広げて恍惚の表情を浮かべている。それで上手いこと言ったつもりか?

いや、そういや前に理子に見させられた変身ヒーロー物に似たような自己紹介をする奴がいたな。天の道をどうのとか言ってた気がする。流行りなのか?

 

「神の依り代たる天の人よ」

 

神の……何だって?……あ、俺か。()の依り()たる()()で神代天人。

 

「そう、君だ。神代天人。強化と白焔、世にも珍しい二重聖痕に加えてその名に相応しい絶対的な強さのそれらをその身に宿す者よ。しかしだからこそ私は悲しい、虚しい。未解放者故に、その強さの万分の1も発揮出来ずにここで君は死に絶えるのだから」

 

……俺の聖痕を知っている?雪月花の刀身だけじゃ聖痕の性質は判然としない。そして、俺の聖痕の全てを知っているのは俺とリサ以外にはこの世にたった1人、教授(プロフェシオン)だけの筈だ。いや、そもそも奴はさっき伊・Uから依頼されたと言っていた。そしてキンジと神崎がどうのとも。そうなりゃ必然的に依頼主は教授なのだから俺の聖痕のことを伝えていても不思議ではない。

 

「冥土の土産だ。未解放者の君に、解放者たる私の真の力を見せてやろう」

 

雪月花を正眼に構える俺の前で奴はフワリと浮き上がった。俺はそれに合わせて右足を1歩引き、雪月花を肩まで上げる。奴が両腕を広げると周りに青白い粒子が集まる。俺は踏み込めない、踏み込んでも弾かれると本能が告げているからだ。

 

「これが!我が真なる力、銀河鎧武(ギャラクシア・アルマドゥラ)だ」

 

それこそRPGゲームに出てくるドラゴンの、その翼の骨格だけを模したような黒い装甲のようなものが龍司の背中から生え、翼膜のように青白い粒子が噴出する。そしてその黒い装甲は奴の頭部を鎧武者の兜のように、そして更に肩、胸、腕、腰、大腿部、スネとふくらはぎを覆うように現れた。

 

「さぁ、消滅の時間だ」

 

パッと、光が弾けた。俺は瞬間的に心臓の前に雪月花をかざしていた。

だが次の瞬間、俺の身体が真後ろに吹き飛ばされた。

 

「グッ……」

 

今までより更に太いレーザー攻撃が俺を襲ったのだ。そしてその火力はさっきまでの比ではない。強化の聖痕をしてなお踏ん張りの効かないパワーなのだ。だが俺はそれをまともに受けずに雪月花の刀身を傾けることで斜め上に逸らす。そして空中で後ろに1回転して地面に着地しようとした瞬間───

 

 

──龍司が目の前に現れた──

 

 

そしてその肉食恐竜のような腕で雪月花を弾かれる。それでも俺は地面を滑りながら着地し、1歩踏み出しながら雪月花で真上に切り上げた。

 

だがそれが両断したのはただの粒子が残した奴の残像。そして本体はいつの間にやら俺の真横に回り込み───

 

 

──俺の右腕を切り落とした──

 

 

「ガッッ───」

 

その場で絶叫しなかったことは褒めてもらいたいところだ。腕斬られた腕が熱い。焼けるよう……いや、実際奴の粒子の持つ熱量で焼かれているのか。

そして間髪入れず腹に蹴りを叩き込まれて地面と水平にカッ飛ぶ。これも粒子の聖痕の力なのか、尋常な脚力ではない。30メートル程飛ばされて地面に背中を強かに打ち付け、更に10メートルほどコンクリートの上を転がりながらようやく止まる。

 

「ご主人様!!」

 

「……あ?」

 

俺の真上にいたのはリサだった。どうやらそんな方まで飛ばされたらしい。

 

「に、げろ……」

 

「あぁ、あぁ……」

 

リサは俺の腕が視界に入ったのか、目に涙を貯めている。その白く細い指を持った手が上下に揺れているのが彼女の混乱を表していた。

泣くなよリサ、まだ死んだわけじゃない。終わってねぇんだ。俺は、絶対に諦めない。武偵憲章にもあるだろ?諦めるな、武偵は決して諦めるなって。

 

「見たか。これが解放者たる私と未解放者である君の差だ。歴然だろう?」

 

はっ、何勝った気でいるんだよ。まだ終わってねぇだろうが。

 

「リサ・アヴェ・デュ・アンクよ」

 

「え……」

 

「アヴェ・デュ・アンクの家は強い男に忠誠を誓うのだろう?なら君が仕えるべきは誰か、理解出来ない訳ではあるまい?」

 

ふ、ざけんな……。リサは渡さねぇ。てめぇなんぞには絶対に……っ!

 

「わ、私の家は二君には仕えません。私は、リサはもうご主人様に仕えると決めたのです。貴方に仕えることはありません」

 

「ふむ……。その男に仕えていたこと、私は不問にしよう。君はまだ誰にも仕えていない。私が最初で最後の主になる。それで良いだろう?」

 

「リ、リサはご主人様に、天人様に一生を捧げると誓ったのです。だから……」

 

「……会話では無理、か。では神代天人を殺してその身体に理解させよう。君の主人が誰なのかを、ね」

 

「ひっ……」

 

上から下へと、舐めるようなその視線と下心を隠そうともしない台詞に、リサが思わず尻もちを付く。

そしてその言葉に、俺の思考回路が怒りで焼け付き、視界が白く塗り潰される錯覚を起こす。

てめぇが、その薄汚ぇ目でリサを視界に入れるんじゃあねぇよ!!

 

「……ふ、ざけるな。リサは、はぁ……手前なんぞに渡さねぇ。お前は……ここでぇ……潰すっ!」

 

「ご主人様!!」

 

そして俺は再び立ち上がる。リサと龍司の間に。リサをその下卑た視線から守るように。

腕を切り落とされても傷口が焼き焦げて出血しないのは本当に助かるな。そうじゃなきゃ先ずは止血からしなきゃいけなくなるところだった。

 

「まだ立つか。まぁいい。……死ね」

 

あまりに冷たい死の宣告。そして俺の眼前に迫るのは致死の粒子。

 

───死ぬ

 

俺の身体に刻まれた戦闘回路は直ぐにそう直感した。雪月花は手元になく、今の俺にはあれを防ぐ手立てがない。

 

───死にたくない

 

だがそんな直感と脳ミソは別の次元で駆動しているのか、聖痕の力でその機能が天文学的数字に強化された俺の脳が走馬灯のように過去の惨劇を俺に思い起こさせた。

 

───失いたくない

 

あの時の景色を、あの時の感情を、そして今俺の胸の中に溢れかえっている感情の色は───

 

 

──噴き出したそれは、ひたすらに白かった──

 

 

俺の眼前に迫っていた青白い粒子は白く塗り潰されていた。半分程度になっていた俺の右腕から吹き出ていたのは白い焔。

それが奴の粒子を押し戻し、かき消したのだ。

 

「な───んだとっ!?」

 

龍司の驚く声が遠くに聞こえる。

白い焔の噴出が収まるとそこには片翼を捥がれ、不格好になった龍司光哉が突っ立っていた。直ぐにその瑕疵は再生された。だがその顔は黒い龍の仮面に隠れて見えないが、恐らく憤怒で染まっているのだろう。その程度、粒子の聖痕を使わなくても分かるさ。お前も案外、分かりやすいんだぜ?

 

「……ふっ、この土壇場で白焔の聖痕を完璧に発動させたか。……だがまだ解放者には到達していないようだな」

 

何やらブツブツと言っているようだ。だがそんなことは俺には関係無いね。俺はただ、お前を潰す。それだけだよ。

もう誰も、俺から奪わせない為に。

 

短くなった右腕を奴に向け、白焔を発射する。奴はそれを俺の左手側に躱しそして背後に瞬間移動する。けれど、俺にはそれが読めていた。だいたい、パターンが単純なんだよ、お前は。

 

俺は振り向き様に左手からも白焔を噴射する。

それは身を捻った奴の翼膜が再び消滅する。その瞬間に奴は再び瞬間移動、俺の正面、だが50メートルは後ろまで距離を開けていた。

 

俺もリサを巻き込みたくはなかったので強化の聖痕で爆発的に上がった脚力で一気に踏み込み、奴の眼前まで到達。右腕から噴き出した白焔で奴の胴体を縦にかち割らんと腕を跳ね上げた。

その瞬間にまた掻き消えた奴は今度は俺の真上に移動、そこから極太の粒子レーザーを叩き込んでくる。

今のところ、出し入れ程度はある程度自由にできているがそこから先のコントロールがまだ全く出来ていない俺は正面から白焔でそれを打ち砕く。

しかし奴はまたもや瞬間移動で逃れる。まだだ、まだ足りねぇ、もっと寄越しやがれ!!

 

俺の背後に回った龍司に、雪月花の刀身程の長さになった白焔を叩きつける。奴はそれを1歩下がって躱すが俺も更に1歩踏み込んで今度は右腕で白焔の刃を振るう。それを龍司は上半身を逸らして躱し、ゼロ距離から粒子砲を放つ。それを白焔の噴射で加速させた左腕と、そこから噴き出した白焔で受け止める。

白い焔に触れた傍から消えていく粒子。だが結局のところ、俺はまだ奴に一撃も入れられていない。まだ足りないのだ、まだ奴には1歩及んでいない。だからもっとだ、もっともっと寄越せ!!

 

「……未解放者の身でここまでやるとはな。だが私には届かん!!」

 

そう叫ぶと龍司は上空に飛び上がった。そして次の瞬間───

 

 

──空から星が堕ちてきた──

 

 

そう錯覚する程の大質量大数量の粒子レーザーの嵐だったのだ。人工浮島を呑み込まんとばかりに降り注ぐそれは、いくら白焔の聖痕と言えど今の俺であれば確実に島ごと押し潰される出力。

 

「……もっとだ!!もっと!もっと寄越しやがれぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

俺をその質量で押し潰さんと迫る粒子の爆撃に対して、それに抗うように向けられた俺の右腕から白焔が噴き出す。そして、()()()起こった。

 

「っ!?」

 

粒子の爆撃の、そのあまりの出力に()()()()()()()()であるはずの白焔ですら拮抗させられていた。その筈だった。だが僅かに振り返れば俺の背中から何やら120度程の角度の付いたパイプのようのものが生えていた。そして失われたはずの右腕の、肘から下にも感覚がある。そして白焔の勢いが伸びた───

 

───ゴッ!!

 

と、白焔が粒子を呑み込む。そして天まで突き抜けたそれが勢いを弱め、一旦その奔流が落ち着きを取り戻すと、そこには───

 

 

──俺の右腕が銀色となっていた──

 

 

「これは……」

 

「貴様……」

 

空から、聞こえたはずのその声は、まるで地面の下から聞こえてきたかのように俺の腹に響いた。

 

「これで俺も、解放者(アプリーレ)の仲間入りだな」

 

銀色の右腕。そして感覚で分かる、右肩から生えた3本のパイプ状のスラスター。

これが俺の持つ白焔の聖痕の力を真に引き出した姿。解放者とは、聖痕が持つ力を完璧に引き出せる者のことを指す。そして完璧に力を引き出させられた一部の聖痕はただ性質を持った力ではなく、質量を伴った武具や鎧のような形を取るのだ。例えばそれが奴の鎧であり、俺のこの腕と背中のパイプなのだ。

 

グッグッと、2度ほど俺は自分の右手を閉じたり開いたりして感覚を確かめた。少ししか離れていなかったのに、随分と久しぶりな気がするな。

さて、第2ラウンド開始といこうか。

 

「……舐めるなよ?解放者になったばかりの貴様では、私とは経験値の差に絶対の開きがあるのだ!!」

 

龍司は再び上空から流星群のように粒子砲を叩きつける。だが俺は今度は正面から迎え撃つことはせず、俺の周囲にとぐろをまくように白焔を噴射する。そうすればそれに触れた粒子から燃えて消えていく。そうやって周りの粒子を白焔に燃やし尽くせばもう何とかワールドを維持できず、コイツにはもう俺の心を読むことは出来ない。

砲撃が止み、俺が白焔のとぐろを解けば龍司は俺の左手側に瞬間移動しその鉤爪のように鋭い爪をした腕を振るう。だが俺はそれを左手で受け止める。そう───

 

──銀色に輝く左腕で──

 

「ガァッ!!」

 

俺の左腕に触れた瞬間に奴の右手が消え去る。直ぐに再生したものの、奴が飛び去る前に俺は奴の懐に踏み込み、その腹に拳を叩き込む。

 

「ゴッ───!?」

 

更に身体を浮かせた奴の横っ面に右手で裏拳を叩き込めば奴はその龍のような仮面を砕き散らせながらぶっ飛んだ。

俺は遂に両肩から出現したパイプ型スラスターを吹かせ、地面を転がった龍司に追いついた。

そして()()()()()()()龍司の脚を踏み砕いた。

 

「ゴアァァァァァァァ!!」

 

ボキボキという骨の碎ける音は、砕けたその感触だけは俺に伝えたものの、奴本人の絶叫にかき消されてた。

 

既に両手両足だけでなく胸にも銀色の鎧を纏った俺を見て、半分砕けた鎧の下の、鼻血で汚れた龍司の、それなりに整っていた顔が絶望に染まる。

 

「龍司光哉、お前を障害の現行犯及び未成年略取誘拐の容疑で逮捕する」

 

俺が取り出したのは聖痕持ち専用の手錠。これを嵌められた奴は聖痕の扉が閉じ、その力を封じられるのだ。今こいつの両手は粒子化しているし、取り敢えず両脚に掛けるか。

 

そうして俺が手錠を足首に掛けようとしたその時、奴が俺の顔面に向けて粒子砲を放った。

思わず俺がそれを両腕で防ぐことに意識を割かれた隙を狙って龍司は俺の足元から脱出していた。

 

「あぁぁぁぁ消ぃぃぃえぇぇ去ぁれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

最後の報復ということなのか、これまでで最大の砲撃が俺の頭上から解き放たれた。こんなもの、人工浮島に当てたら完全に沈む。故に避けるという選択肢は存在しない。俺は反射的に白焔を全力で放射。そして俺から解き放たれた白焔は粒子の砲撃を呑み込み、それを糧としてさらに勢いを増しながら龍司光哉を呑み込んだ。

 

───ゴウッ!!

 

という音と共に俺の視野から掻き消えた龍司は、しかし白焔が晴れた時にはまださっきと同じ場所に浮いていた。

 

ただその姿は五体満足とは言えず、主に左半身が完全に消し飛んでいた。

粒子化の恩恵か傷口が焼かれているだけなのか、出血はなく、しかし心臓も無いはずの龍司はどうしてかまだ息はあるようで、東京湾から太平洋の方へ向けてヨロヨロと飛んで行こうとした。俺は当然奴を逮捕すべく1歩踏み込んだのだが、俺の強化された動体視力が捉えた影。それは───

 

──龍司とすれ違うように東京湾の奥からミサイルが2発飛んで来たものだった──

 

「なっ───!?」

 

白焔の聖痕は聖痕や超能力(ステルス)には無類の強さを発揮するが物理的な手段に対してはそう火力のあるものではない。故に今俺に迫っているミサイルを掻き消すようなことは出来ない。だがぶち当てればミサイルはそこで爆発し、その爆炎を全力の白焔で囲んでしまえば、あれが核とかでさえなければ被害は抑えられる。

 

そして実際、ミサイル2基をそれで押さえ込んだ俺が見上げた空には龍司光哉の姿は見当たらなかった。

……逃がした、ということだろう。だがあれだけの重傷、そう簡単に治るとは思えん。ま、それは俺もかと思い至り、聖痕を閉じる。そうすると俺の全身が元の防弾制服姿に戻り、切り落とされたはずの右腕も制服こそ無くなっていたが綺麗に生えていた。

 

「あ……れ……?」

 

だがそこまで認識したところで、俺の視界が揺れた。色を無くし、モノクロになった世界にはノイズが入り、俺の意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

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