セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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交流、交渉、国交

 

結局ミリムに武器を作ってあげたり(ただし武器と言っても加減がやりやすくなるような攻撃力減退の物。それでいいのか……)フォビオが今度はやらた丁寧な物腰で使者としてやってきたり、色々あるにはあるが魔国連邦は数日で落ち着きを取り戻した。

 

その日は俺とリムルがミリムと共に戦闘訓練を行っていた。ミリムは最近貰ったお気に入りの武具を身に着け、俺は聖痕は開けずに、リムルは流石に「暴食者」等は使わずに主に魔法と剣で戦う。そういう訓練。が、基本的に皆さん実践重視の超脳筋達なので流石に立ち回りでは俺が優勢でミリムは持ち前のパワーでゴリ押す……かと思いきやミリムは案外そこら辺もしっかりしていて、結局はリムルの1人負けっていうパターンが続いていた。

 

そしてミリムはことある事に俺らを魔王へと勧誘してくるのだが、確か魔王って勇者と同じで変な因果が着いて回るとか言ってませんでした?あんまりなりたくはないなぁ……。

 

で、話はミリムが何故魔王になったのか。なのだが本人曰く何かムシャクシャしたことがあった気はするが覚えていないと言う。最古の魔王とか何とか言われてたミリムの事だ。俺達が想像もつかないくらい永い時の中を生きてきたんだろう。

 

そんな風に模擬戦したり昔話に花を咲かせたり時折見せるミリムの貌に少し胸が高鳴ったり、リサと連れ立って街を歩いたりと過ごす日々が数日続いた。

 

いまだに元の世界へ帰る目処は立たない。というか、俺もここでの生活に慣れすぎている気がする。帰る、という最初の目的を忘れかけるほどに。だがそんな折、ミリムが魔王の仕事だとか言って唐突に帰ることになった。どうやら他の魔王に会いに行くらしい。他の奴らにもここには手出しするなと言ってくれるのだとか。

 

「随分いきなりだな」

 

「うむ。まぁどうせすぐに帰ってくるのだ」

 

「それより───」

 

「ん?」

 

「いや、なんでもないのだ。タカト、ちょっと……」

 

「ん?」

 

つつっとミリムが顔を寄せてくるので俺も視線を合わせようとする。

 

「んっ」

 

と、俺の唇にミリムの柔らかなそれが触れる。

だがそれも一瞬のこと。すぐにミリムは俺から顔を離す。

 

「タカト、ワタシはお前を愛している」

 

「あぁ」

 

「では行ってくる」

 

そのまますぐにミリムは空へと飛んでいく。瞬く間に視界からミリムがいなくなる。結局俺はついぞミリムに「愛している」の一言が言えなかったな。あの瞬間のミリムの顔が残像のようにチラつく。俺はそれを振り払うように頭を振って幻影を追い出す。

 

来た時も唐突だったが帰る時も唐突だったな。すぐに帰ってくるとは言っていたが、ふと胸に寂しさが去来するのを感じる。

 

「俺も意外と───」

 

「ん?どうした?」

 

「なんでもねぇよ」

 

そっか、とリムルも俺の答えを流す。そう、なんでもないのだ。これは俺の問題。俺が抱えて俺が答えを出さなきゃいけない問題だからな。

 

 

 

────────────

 

 

 

魔国連邦はユーラザニアへと使節団を送ることになった。もちろん向こうからも送られてくるので交換というやつだ。で、こっちから送るのは幹部候補のゴブリン数名とその取りまとめ役がリグル、また使節団長には紅丸が指名された。俺は人間だし性格があまりにバトル向き過ぎるので駄目らしい。ま、頼まれても行かないけど。そういう場には俺は似合わんだろ。得意でもないしな。なのでこの選出には比較的好意的である。

 

そして出立の日、リムルのなんか微妙に締まらない挨拶でも魔物達のテンションは結構上がる。何だかんだで信頼されてる王様なのがこのスライムなのだ。

 

で、残った俺達は街の掃除やら出迎えの支度やらでてんやわんや。俺は主に体力仕事。リサは食事や給仕関連に携わっている。スーパーメイドの本領発揮と息巻いていた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

数日後、街の入口で待つ俺らの前にユーラザニアの使節団が到着した。

馬車を引くのは馬ではなく大きな虎。まぁウチらも牙狼族が引いていたからおあいこかな。

 

「お初にお目にかかります。ジュラの大森林の盟主殿」

 

馬車ならぬ虎車から降りてきたのは槍を携えた長身の美女。胸元ぱっくりの大胆衣装に身を包んだそいつは「黄蛇角のアルビス」と名乗った。そしてもう1人、「スライムとかいう雑魚が盟主とかふざけんな」的なことを言いながら現れたのは何となく虎っぽい雰囲気で気の強そうな女。アルビスからはスフィアと呼ばれていた。ちなみにスフィア基準では人間は矮小で小賢しくて卑怯らしい。随分な物言いだ。イキってた時のフォビオかよ。

 

が、どうにもコイツらいちいち雰囲気が演技臭い。何となく言葉の節々や顔から茶番の雰囲気を感じているとリムルも向こうに合わせてやや喧嘩腰。こっちは分かってんのか分かってないのかよく分からん。スライムだから表情よく見えないし。

 

だがここで真に受けちゃうのが我らが脳筋短気の権化たる紫苑。

そして何故かヨウムまで巻き込まれてそれぞれ紫苑がスフィアと、ヨウムは虎車を操っていたグルージスとかいう名前らしい男と戦う羽目になる。

 

「ふわぁ……」

 

もうなんかスフィアとアルビスから茶番の匂いがプンプン漂ってきた俺は欠伸を1つ。

結局白熱してきたスフィアと紫苑の戦いにアルビスが割って入り仲裁。グルージスもそれを見てちゃっちゃと矛を収めた。

ちなみにガチギレしてた紫苑さんはガチの魔力弾を放とうとしていたのが中断されたのはいいんだが、それを収めることが出来ずに結局リムルの「暴食者」で辺り一面が更地になるのを防ぐ羽目になった。

 

で、ノリなのかそうでないのか分からなかったリムルは本人曰く、乗っただけらしい。それも含めてリムルの印象ははわりと良いものになったみたいだな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

また新たに建て直し、「平安貴族のお家かな?」となりそうな豪奢なリムル邸にてユーラザニアの使節団を迎える宴をしているのだが、やたらとお酒のウケが良い。特に蛇の姉ちゃんは樽ごと抱え込んでガブ飲みしている。……蛇にお酒って縁起悪くない?大丈夫?首切り落とされない?

だがここは日本神話なんて無い異世界。蛇にお酒も大丈夫なようだ。虎の化身らしいスフィアも虎モードでぺろぺろ酒を飲んでいる。人前でそれはどうなのとも思うが特に見せてはいけない姿ではないらしい。なお、油断しすぎで恥ずかしいとは配下の弁。

 

俺は基本的に酒を飲まない……というか未成年です。多分。いや、違うかも。まぁどっちにしろ"武偵は常在戦場"。酔拳の使い手でもないし、俺は隅っこで食い物だけつつきながらその宴会を眺めていることにしていた。とは言っても、体裁上最初少し飲んだ"フリ"はした。俺の持つ「捕食者」というスキル、これ別に神機の捕食形態じゃなくても使えるのだ。別になんてことはない、ただ普通に飲み食いしても「捕食者」の機能は使えるのでそれで酒を飲んだフリをして実際は「捕食者」の方へアルコールを丸投げしたというわけだ。

 

「くわぁ……」

 

つまらん話ばかりだが食べ物で腹は脹れた。だんだん眠くなってきたところで、気付いたらコボルド族とかいう二足歩行の犬みたいな見た目の種族の魔物さんが呼ばれていた。確かコビーという名前の奴だ。彼は商人の代表らしく、リムルが名付けた訳ではないがこの街の商人の詰所で働いている。リサも会話に加わらせて、サポートをさせることにした。何やら商談に入るらしいからな。中身は多分こっちで作れる蒸留酒とその素材の果物関連だろう。魔国連邦は森はあるが果実は恵みに頼っているだけで栽培もしていないしな。リムルだけじゃなく、リサも流石に果物の栽培の仕方は詳しくないし。

 

「寝よ」

 

今ここで俺に出来ることは無い。魔国連邦が国としてある程度独り立ちした今、この国がやるべきは他国との関係性の強化である以上、戦うしか脳のない俺のような奴の出番はそうそうないだろう。足掛かりは出来た。あとはあの世界に戻る道筋を探す方に力を入れたい。

俺はリムル達に気取られないように寝床へと向かい、頭から布団を被るのであった。

 

 

 

────────────

 

 

 

「ツッコミ不足だ」

 

「どうしました?ご主人様」

 

とある日の昼下がり。

ユーラザニアの連中が帰った後、今度はリムルが朱菜と紫苑を連れてガゼル王の収めるドワルゴンへと向かっていった。随分と国らしくなってきた魔国連邦ではあるが、おかげで俺のような奴の出番も自ずと減ってきた。

が、それはそれとして、基本的に俺のツッコミ担当だったリムル(含む大賢者)に紫苑、朱菜がまとめてお出掛け中の今、俺は深刻なツッコミ不足に陥っていた。リサはツッコミ向かないし、ミリムもいない。蒼影はそこら辺微妙に冷たいし紅丸と白老もツッコミは得意ではないのだ。

 

「暇」

 

「平和で素晴らしいですね、モーイです」

 

うだぁ……とリサの膝の上で悶える。イ・ウーや武偵高にいた時はジャンヌとキンジ、アリア辺りがツッコミ担当だったなぁ、と昔を思い出す。キンジはあれで意外とツッコミにキレがあって面白いし、アリアはボケさえ間違えなければそこそこの切れ味あるツッコミをくれる。ただし地雷を踏むとハリセンどころかガバメント(大口径拳銃)が火を噴くので要注意。まぁキンジじゃないので俺がやらかすことはほぼ無かったが。ちなみにジャンヌは自分がかなりの天然さんというのを把握しておらず、ツッコんだつもりが実は盛大にボケを重ねている時がまぁまぁある。あれはあれで面白いので結構好きなのだが、どちらにせよ今は会えない人間達だ。

 

「……リサがいてくれて良かった」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

「いなかったら今頃俺は死んでいる」

 

「そんなことはないと思いますよ?」

 

「いいか?ウサギは寂しいと死んでしまうんだぞ」

 

「ご主人様はウサギだったのですか?」

 

「もうそれでいい……」

 

「甘えん坊なウサギさんですねー」

 

もはや脈絡も何もあったもんじゃない気の抜けまくった会話。常在戦場はどこへ行ったんだ?と自分に問いかけないでもないが、俺の頭を撫でるリサの手の心地良さにそんなものはどこかへ吹っ飛んでいった。そしてこういう時にやってくるのは眠気と相場が決まっているのだろう。

俺の元にも例に漏れずそいつはやって来た。そしてもちろん俺は眠気に身を任せ意識を彼方へ放り投げるのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「───という訳で」

 

どういう訳か知らんがリムルがドワルゴンから帰ってきて数日後、魔国連邦の主だった連中が会議室に集められた。で、リムルさん今度は何を仰るのですか?え?人間の国へ行く?俺も行きます。ちなみにランガと蒼影の分身体がこっそり護衛に着くとのこと。あとリサ。リサを連れて行くのは俺の使命だ。急に元の世界へ帰ることになってもリサがいないんじゃ話にならないからな。

それに、リムルは案内役もとある奴らに頼んでいるらしい。今はゴブタが迎えに行っているとか。まぁこいつの人脈からすると案内役の人間はあの3人なわけだが。

と、そんな風に思案を巡らせていると影からゴブタがニュっと現れた。「大船に乗ったつもりで任せてほしい」とのこと。ちなみに紫苑は話を聞いていないので「何なら私が着いて行きます」とか言い出した。……さっき朱菜が言ってたでしょ、人間の国へ魔物が大勢で押しかけたら警戒されるって。だから人間の案内役に人間の姿になったリムルと一応人間の俺とリサだけが行くって。蒼影とランガだって人前に姿を現すわけじゃないからな。

 

「あ、天人」

 

「あん?」

 

「行く前にちょっとリサを借りるぞ」

 

「どうした?」

 

「今回の旅で商談もしようと思ってるからな。得意なんだろ?」

 

「あぁ、そっちの戦いならリサは人類最強だ」

 

「じゃあよろしくな、リサ」

 

「はい。承知致しました」

 

実際のところ、リサの得意技は値切りではあるのだが、その根底は相手の足元を見ることにある。こういうと意地が悪いように取られるが、要は頭が良くて洞察力や観察力に優れ、話術も得意なのだ。ちなみに核弾頭を7割引で買ってきた時は物を売れたはずの商人の方が泣いていた。それを見ていた俺は笑い泣きした。もちろん経理の分野にも秀でているからリムルが売りたい物を高値で売るのもそう問題ないはずだ。

 

「じゃあ俺は旅支度してくるから」

 

「おう、多分明日の朝には出られると思う」

 

「あいよ」

 

 

 

────────────

 

 

 

カバル、ギド、エレンの3人と合流し、人間の国、ブルムンドへと向かう俺達。最終的にはイングラシアという所へ向かうらしいが、そこへ行くにはまずブルムンドを経由する必要があるのだとか。

だが歩き出して数時間も経たないうちに俺の中にある違和感が。リサもそれを感じたようだ。

 

「なぁ」

 

「ん?なんでやす?」

 

「ここさっきも通ったぞ?」

 

「えっ!?」

 

「……迷ったのか?」

 

「そ、そんな……」

 

この辺には何度も来ているはずの冒険者パーティであるコイツらが迷うとは思えないんだが、さっきと同じところを通っているのもまた事実。何せ俺は時折森の木々に印を付けて歩いているのだ。そして同じ印を見つけてしまった以上、見過ごす理由はないわけで。

 

「まあいーよ。少し行けば道路の工事作業員のための施設があるから、そこで休もう」

 

と、リムルの案内でゲルド達のいる宿舎に立ち寄ることになった。しかしギドはかなりのショックを受けているな。道に関してはプロとのことで、そんな自分が地図を持っているのに道に迷いかけたのが堪えたのだろう。

 

「ふむ、迷ったのはこれが原因ではないか?」

 

 

と、宿舎に立ち寄った俺達へゲルドが持ってきたのは幻妖花というらしい植物。どうやら周囲に幻覚作用をもたらす植物で、それのせいでゲルド達の工期にも遅れが出たらしい。エレン曰く薬の原料にもなる貴重な植物らしいが生憎俺達にとっては無用の長物というかあっても邪魔なだけ。大量に刈り取ったらしく、欲しがったエレン達に適当に分けてやった。

で、結局一晩そこへ泊り翌朝。

リムルはもう迷わされるのが面倒とのことで、道中の森は喰らっていくとのこと。なお適当に伐採するので後始末はゲルドに丸投げする。喰うというのはもちろん「暴食者」を使うということ。で、リムルはそれを使い道中を真っさらにして直線的にブルムンドへ向かうことになった。オーラで捕食できる「暴食者」は一々捕食器官を必要とする「捕食者」より雑に便利だ。

で、何故か奴らが魔物の巣をつついて魔物に襲われたり野宿したりしながら歩みを進めていく。

 

ようやくブルムンドが見えてきたようだ。

そう言えば俺がこの世界に来てからもう1年半か2年近くか、そのくらいにはなったはずだが人間の国へ入るのはこれが初めてだ。知り合いも人間なんて数える程でこの世界で出会った奴らはほぼほぼ魔物なんだよな……。

 

 

 

────────────

 

 

 

ブルムンドへ入国した昼下がり、レストラン的な店で飯を食っているとやはり話のタネは何故リムルが人間の国へ行こうとするのか、というところへ飛ぶ。リムルは夢で見たシズさんの忘れ形見を探しに行くつもりらしい。そして、シズさんは「イングラシア」という言葉も遺したとのこと。「大賢者」に聞いた分だとイングラシアとはこの世界の国の名前らしい。

 

それを聞いたエレンはフューズに紹介状を書いてもらうことをオススメしてきた。イングラシアにはギルドの総本山があり、そこのトップはシズさんの弟子だという話だ。その名も「ユウキ・カグラザカ」。カグラザカ、神楽坂。もろに日本人な訳だが、そいつも異世界転移者なのだろう。

 

午後にはフューズの元へと案内してもらうとして、どうやらここで冒険者としての登録をしておくことをオススメされた。どうにもこの冒険者とやらは公的な身分証明になるらしい。なるほど、リムルも俺もリサも異世界から流れ着いてきた奴なわけで戸籍すら無いのだ。フューズに口利きしてもらえば簡単に貰えそうな身分証明書だ。もらっておくことに損は無いだろう。

 

「それ、どうやって登録するんだ?」

 

「基本は実地試験よ。それぞれ採取か戦闘か、どっちかをこなしてその点数でランク分けされるの」

 

「ふぅん、じゃあリサはフューズに口利いてもらえ。俺らは適当に終わらせる」

 

「裏口もいいところじゃない……」

 

良いんだよ、使えるコネは使うもんだ。幸いフューズはリムルを信用しているからな。リサ1人ならどうとでもなるだろ。別に高ランクである必要もないだろうし。そっちは俺とリムルが担当すれば良いのだ。

 

で、そう言っている間にギルドとやらの窓口に辿り着く。だがここで軽く問題発生。リムルはここまで身バレ防止と漏れでる魔物のオーラを隠すためにシズさんの使っていた仮面を被っているのだが、それを見た受付の姉ちゃんに「英雄に憧れるのは分かるがまだ子供でしょ」みたいな捉えられ方をしてしまった。俺の予想では多分あと何度か同じ流れが起きるだろうな……。

 

その場はどうにかカバル達の信用で乗り切ったが、ここでさらに発覚したのはカバル達の不正。いや、不正って言うか、正確にはアイツらが俺達の街に来る度に何かしらお土産と称して持って帰っていた魔物から剥ぎ取った余りや植物等をここで自分らの冒険の戦果として計上していたことが判明。まぁ、そんなだからあながち嘘でもないというのがミソなのだが……。

 

そして、俺達が申請した試験は当然討伐部門。採取だと無駄に時間がかかるし討伐なら秒で終わるからだ。で、出てきた試験官は片脚が義足で無精髭を生やした不機嫌そうな男。ジーギスという名前らしいそいつはカバル達のこともあんまり好いていないようである。まぁ、あの不正ギリギリの行為を何となく見抜いているんだろうな……。

アイツらが持って帰ってきた物品の出処が目の前のちんまい仮面野郎だとは夢にも思うまいが。

 

 

 

────────────

 

 

 

で、冒険者になるための討伐部門試験というのは魔法陣の中でジーギスの呼び出した魔物と戦うというものだった。もちろんリムルにとってそんなものは朝飯前で、即座に連続して2体の魔物を瞬殺。飛び級でBランクの魔物と戦うことになった。だがこれも結局はリムルがエクストラスキル「魔法闘気」を獲得して終わり。ジーギスは精神力の限界だわフューズはやってきてブチ切れるわで結局俺は試験を受けられなかった。

 

まぁ、結局はフューズの権限で俺とリサにもBランクの冒険者としての資格を得ることが出来たわけだが。

 

で、そこでフューズからでは話では、ブルムンドの国王とやらがリムルの入国を知り、ぜひ極秘に会談したいとのこと。けど俺は───

 

「リサを同席させろ」

 

と、条件を出した。ここで国王なんてもんがが出てくるということは十中八九ただ仲良くしましょうでは済まない。確実に金が絡む。ならばここはリムルではなくリサの出番だ。人間相手の交渉事でリサの右に出るものはいない。少なくとも、俺ら側の面子ではリサがトップだ。

 

「分かってるよ」

 

「リムルに言ってるんじゃない。フューズ、あんただ。国王とリムルの1対1の対談は認められない。そちらも代理を立てることは構わんがこちらはリサを同席……いや、むしろリムルには後ろで黙って座っててもらう」

 

「え"?」

 

「……なるほど了解した。こちらもまずは大臣が出てくる予定らしいからな。3日後、まずはこちらの大臣との対談だ」

 

「それでいい」

 

そう、それでいい。ドワルゴンの時は俺達がまだ国として未熟も良いとこな上にガゼル王は樹妖精や白老を前にしていたこともあって正直にならざるを得なかった。またユーラザニアとはまず不可侵条約程度であったし、酒と果実の貿易に関しても彼女らは万全の用意をしておらず、そもそもアイツらは美味い酒がそこそこの値段で飲めればそれで良かったのだ。しかしそれでさえもリサを控えさせて余り変な偏りが無いようにしたのだ。これが人間、それもこのような申し出の仕方であればこちらは警戒するのが当然。しかもリムルから聞いた彼の生前の話では正直コイツが人間相手の国交を上手くこなせるとは思えないのだ。多分騙されてカモられるだけ。

 

だがリサなら一方的に有利とまではいかなくても不平等ではない程度で終えられるだろう。というか、現在の魔国連邦においてリサで無理なら誰がやっても無理だ。残される手段は侵略戦争くらい。だがそれは人間をまとめて敵に回すということで、これまでフューズ達に築いてきた信用を一気に投げ捨てることにもなる。

 

そのために時々リムルを呼び出しては「大賢者」モードに切り替えさせてリサにこの世界のことを学ばせていたのだ。呼び出された挙句「お前じゃない「大賢者」出せ」と言われたリムルは不機嫌そうになるが、仕方ない。コイツが人間とも仲良くしようとするならリサの力は必須になってくるだろうからな。

 

「しかし、リサ様は給仕が仕事だと思っていたのだが」

 

「本当よぅ。リサちゃんにそんな大変そうなことやらせていいのぉ?」

 

と、フューズとエレンが疑問を投げてくる。そういやコイツらにはリサのことほとんど説明してないな。

 

「あぁ。リサはイ・ウーにいた時に核弾……もとい、戦略へ……じゃないな……。あぁ、なんだ……。あれだ。普段は俺のメイドだったり彼女だったりだけど魔国連邦の外交官でもある」

 

多分この世界に核弾頭無いよね?だからって戦略兵器は不味い。戦略兵器っていう名前というか役割はこの世界にもあるらしく、前にミリムがカリュブディスを吹き飛ばした時にガゼル王の親衛隊に魔法でのそれを疑われたとリムルは言っていたからな。

 

「ふむ。そうだったのか」

 

『お前リサに何やらせてたんだ……?』

 

『前にいたところじゃ会計係だったんだよ』

 

『武偵怖い』

 

ま、核弾頭買ってたのは武偵の時じゃないけど、それは言わなくていいな。こっちの世界じゃどうだっていいことだ。

 

 

 

───────────────

 

 

 

──3日後──

 

「ブルムンドの大臣を努めさせて頂いているベルヤードです。以後お見知りおきを」

 

差し出されたの手をリムルも握り返す。

身なりの整ったその壮年の男性がブルムンドの大臣の1人らしい。ちなみに俺も魔国連邦の重要な大臣の1人、ということになっている。実際はリムルの近衛部隊兼遊撃手で時々食料調達役という区分らしいのだから、まぁ嘘ではないかなというところだ。ただ、そのうち俺だけ完全独立部隊の傭兵みたいな形にするかも、とは言われている。俺もその方が気楽で助かる。

 

その後、リムルに続いてリサと俺も名乗ってから握手。魔国連邦は魔物の国だというのが基本的な周りからの認識であり、それはこの人も変わらなかったらしく、もろに人間の俺とリサを見てベルヤードはやや困惑していた。

 

「魔物の国に人間がいることは驚きですか?」

 

と、会談のために用意された部屋へ通される途中、リサがベルヤードに話を振る。

 

「失礼ながら、まぁ。魔国連邦殿は魔物の国と聞いておりましたので」

 

「えぇ、基本的にはそうです。けれど、人間とも共生していきたいというのがリムル様の目指す国でもあります」

 

ちなみにこっちの世界、敬語と言っても俺やリムルの世界程の厳格さは無いようだ。また、向こうでは外向けには身内は呼び捨てにするが、こちらは特にそのような決まりもないらしい。

リムルが討伐部門の試験で大立ち回りした話などもしている間に部屋に着く。

 

「では早速」

 

お互いが席に着き、何やら書かれた紙が配られる。俺はまだこの世界の文字を読むのは得意ではないが、「大賢者」のあるリムルと勉強したリサは読めるようなので、俺は後ろに立ち「大臣とは言えメインはこの会談の護衛ですよ」感を振りまいて誤魔化す。後は任せたぜ、リサ。

 

 

 

────────────

 

 

 

魔国連邦とブルムンドの開国に際して向こうから提示された条件は2つ。相互安全保障と相互通行許可だ。ちなみにリムルが気を利かせてくれ、「大賢者」と「思念伝達」を応用して書かれた文書の要約した内容を送ってくれた。アホには有難いぜこれ。

 

で、まず話は相互安全保障から。

これはギルドから保証された冒険者達の補給を魔国連邦で認めてほしいというもの。要は魔国連邦を拠点にして冒険活動を行わせろというものだ。というのも、ブルムンドの国防はギルドと連携して行っているらしく、ジュラの大森林に拠点ができれば活動範囲が大きく広がるのだ。これはリサも快諾。彼らが拠点として魔国連邦を使えばそれなりに経済も回っていくだろうし、ヨウムの件も含め、俺達のスタンスは人間に力を貸す魔物という立ち位置。簡易宿や武具の整備ができる施設を整えるという条件で合意。だが、相互安全保障に含まれる"可能な限り"お互いの国家の危機に対して協力するという部分。これにはリサが反対した。当たり前といえば当たり前だ。そもそも魔国連邦は俺とリムル抜きでもブルムンド位なら今すぐ潰せる軍事力を持つ。その俺らが力を借りたい時なんて、それこそミリムの力を借りるくらいの事態になるわけだ。そこにブルムンドなんぞの出る幕はない。だがブルムンドは違う。リサ曰く、彼らは東の大国とも火種を抱えているらしい。つまり人間VS人間の戦い。確かに俺らが出張って行けば簡単に勝てる戦いだ。だが軍事費というのは莫大だ。

 

むしろベルヤードの方がこの判断に驚いているようだ。彼からしたら後に控えた相互通行許可で魔国連邦が得られる関税を餌にこちらを通そうとしたのだろうが、俺ですら気付ける釣り針にリサが気付かないわけがない。ここが主題らしいベルヤードは「ここは一旦後にしましょう」と、相互通行許可の方へ話を移そうとするが───

 

「いえ、まずはこちらを決めてしまいましょう」

 

と、リサは離さない。

 

そして、ここから会談は3時間にも及んだ。時折休憩も挟みつつ丁々発止の舌戦を繰り広げるリサとベルヤード。わざわざブルムンドに戦力を派遣したくない魔国連邦と魔物以外にも人間との争いにも備えなければならないブルムンド側の思惑がぶつかり合う。

 

結局、関税の額を安くする代わりに魔国連邦がブルムンドと人間の争いに戦力の派遣をすることは無いという決着になった。魔物が押し寄せてきた場合であっても災害級であればこちらは戦力の派遣をしない。ただし、それより上の区分だと認められる場合には魔国連邦から相応の戦力の派遣をする、という形になった。もちろん、向こうからの派遣は一切無いが、俺達としては特に問題は無い。むしろ、カリュブディスとかオークロードとかが出てきたら人間の冒険者なぞいたところで死人が増えるだけだからな。

 

とは言え、ブルムンドとしては安全保障が最重要であり、相互通行許可なぞオマケに近いつもりだったらしく、やや不満そうではあったのだが……。

 

 

───────────────

 

 

 

そして更に2日後。

馬車にて連れて行かれた先はまさしく王宮。ここにブルムンドの国王がおり、俺達はここにて一昨日にベルヤードと確約したお互いの開国の条件に正式に調印することになるらしい。

 

そこにいたのはブルムンドの国王と思われる王冠を被った小太りの男とこれまた王妃と思われるドレスを見に纏った美人で寡黙そうな女性。もっと国のお偉いさんとかが大挙して待ち構えているのかと思ったが、存外に大仰ではないらしい。

 

結局、そこでは前にベルヤードと話し合ったことの繰り返しであった。ベルヤードがあそこで決めた盟約を読み上げ、俺達や国王側が頷く。それだけ。リサや「大賢者」も特に反応しないということは、流石にここで2日前の約束を勝手に書き換えるという暴挙には出ていないらしい。まぁそこまでやったら国の信用に関わるからな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「交渉は奴の得意分野だったのですがね……」

 

「リサは交渉事じゃ敵無しだったからな」

 

盟約の締結が終わり、王宮を出るとフューズが意外そうに呟く。その気になればもっと有利に進められただろうが、今回は人間の国にも俺達が悪い魔物じゃないと認めさせなきゃいけないからな。やりすぎても今後警戒されてしまう。結果としては五分五分ってところだろうか。向こうの思惑を考えるとこっち寄りになったと言えなくもないが、まぁ周りから見てそう不平等な形ではないだろう。

 

だがそれはそれとして───

 

 

「やぁ男爵。ちょっと話があって来たんだ」

 

と、召使いに連れられ俺達はベルヤードの邸宅にやってきた。面子は俺とリムルにフューズと、そして冒険者ギルドの討伐部門担当者のジーギス。彼には俺達の実演販売に協力してもらうために同行してもらった。

 

「実演販売?協力?」

 

「あぁ。ジーギスさん、これを飲んでくれ」

 

と、頭にはてなマークを浮かべるフューズとベルヤードを尻目にリムルはジーギスに、ガラスの瓶に入れたとある液体を飲ませる。

 

「彼に何を飲ませたのですか?」

 

「フルポーションだよ」

 

「フル……?からかっているのですか?完全回復薬など、ドワルゴンですら……」

 

リムルの言葉が信じられないといった風のベルヤードをリムルが制していると、カランと、金属が転がる音。

それにベルヤードが視線を移すとそこには驚きのあまり両足を踏ん張って硬直しているジーギスの姿。その足元には先程まで彼が脚代わりにしていた金属の義足が転がっていた。

 

「あ、あああああ脚が……は、生えた……」

 

──えええええええっ!?──

 

と、おっさん2人の絶叫が邸宅内に木霊する。

リムルの腹に貯めてある回復薬はこの世界の基準ではフルポーションというらしく、飲ませるか被せるかすると欠損した部位さえも再生させる回復力を持つ。そしてそれを1/20に薄めるとハイポーションというものになり、欠損した部位の回復は望めないが大概の重傷は即座に回復する。で、フルポーションを1/100だか1/200だか忘れたが、そんくらいに薄めたのがポーションという物で、一般的に回復薬というとこれを指すらしい。

 

フルポーションは妥当な値段を付けるとまともな冒険者では手が出ず、ハイポーションだと金持ちの上級冒険者が御守りで持つらしい。これらは全部道中でリムルに聞いた。そう考えるとリムルはぽんぽこ回復薬(フルポーション)を使っていたが、分かる奴が見たら卒倒しかねない光景だったんだろうな……。

 

で、このフルポーション、リムルの腹のは文字通り別腹として、魔国連邦ではある程度の供給を果たせる目処があるのだ。これは技術大国のドワルゴンですら成しえていないもので、リムルはこれとハイポーションを、特に人間に対して魔国連邦の特産品として売り出そうという腹らしい。

そして今回はそれのためにブルムンドへやってきたと言っても過言ではない。

しかしあれだな、オッサンが2人して真剣な顔でオッサンの脚を観察している姿は非常にシュールだ。

 

そしてこれは政治や戦争の概念を覆しかねないとベイルヤードやフューズは驚愕している。そらそうだ。戦闘において殺すより重症で止めておいた方が相手の戦力を削ぐことが出来る場合が多い。なぜなら重傷者の他にそいつを運ぶ者、それを護衛する者と1人に対して複数人の人間を戦線から離脱させられるのだ。まぁ、場合によっちゃ見捨てられる時もあるから一概には言えないけど。

 

で、それはともかく、これは商談である以上はこちらも相応の準備をして交渉に臨むわけで、具体的には交渉の席にはリサが着く。ベルヤードはリサの顔を見て苦虫を噛み潰したような顔をしたが、ハイポーションは中々に魅力的な商品らしく、渋々といった体ではあるが彼も席に着いたのだった。

 

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