宴に参加する現魔王は9名。それに加えて俺とリムルの2人を合わせた11人が今のところの魔王ということだ。
もっとも、彼らにとって俺達はまだ魔王と認められていないらしいが。
会場に着き、用意された席に座った俺達は円卓を囲みながらその時が来るのを待つ。すると、開始時間直前になって今回の宴の発起人である3名の魔王が部屋へと通された。魔王クレイマン、魔王フレイ、そして魔王ミリム。だが、そこで驚くべきことが起きた。
「さっさと歩けウスノロ!」
と、クレイマンがミリムを殴りつけたのだ。本来ならその場でぶっ殺されても文句は言えない所業。だがミリムは何を言うでもなく、ただ黙って自分の席に座ったのだ。
操られでもしているのか、弱味でも握られているのか。多分弱味でも握られているのだろう。操られているのなら、氷焔之皇を使って解除しようと思ったのだが、どうにもミリムにはそんな能力は掛けられていないようだったからな。
だが、あのミリムがこんなに従順になる程の弱味ってなんだ?
しかし兎も角、不用意な手出しは出来なくなったと考えるべきだろう。……と思ったのだが、もう訳が分からん。何せ、魔王フレイの従者として連れて来られた魔人、顔は鷹の仮面で隠しているがあれカリオンじゃん。普通に生きている。
今はクレイマンが得意気に、俺達がいかに悪辣で品の無い方法でカリオンを貶め殺したのかを語っている。んー、でも本人死んでねぇんだよなぁ。それとも、「ですから私が復活させました凄いでしょう!!」とやりたいのだろうか?
いい加減こいつの話にも飽きてきたし、乗ってやるか。
「……魔王フレイ。アンタの従者として連れて来たそこの鷹の仮面の男、魔王カリオンと見受けるけどどうだ?」
と、俺が問えば───
「……そうねぇ、まぁいいかしら。ね?」
と、魔王フレイは何やらミリムと後ろに控えていたその鷹の面を着けていた男に目配せをする。すると、その男は「あぁもう、滅茶苦茶だな」と仮面を捨て去る。そこから現れたのは───
「な……馬鹿な!?何故お前が生きている!?」
瞬時に服装までも入れ替わり、カリュブディスの騒乱の時に俺達の前に現れた時と同じ格好をした魔王カリオンその人だった。
……ていうか、なんでクレイマンはそんなに驚いているのよ。しかも、生きていることが信じられない上に自分にさも不都合な雰囲気醸し出してるし……。俺達に殺されたからっつって魔王を集めたのお前だろうが。
「さては……裏切ったな、フレイ!!」
「あら?いつ私が貴方の味方をするなんて言ったの?」
と、クレイマンの怒号を気にするでもなく、柳に風といった風に受け流している。
「……ミリムも、お前がどんな弱味を握られてんのか知らねぇが、らしくねぇな。お前ならこんな奴、それでも瞬殺して人質でもなんでも、取り返しそうなもんだけどな」
と、黙って俯いたままのミリムにも問い掛ける。……よく見りゃ、肩が震えているのだが、それ程の脅迫をされているのか?だとしたら、このクレイマンとかいう奴にはキツめにやっちまわなきゃいけないかもな。
「はっ、人間風情が何を言うかっ!魔王ミリムは今や私の能力で完全なる操り人形なのだ!弱味を握るなんていう下劣な手段なぞ使わんさ!」
人間風情、ねぇ。そういや前にコイツの手下にも似たようなこと言われたなぁ。ゲルミュッド、だったっけか。
「あぁ?だから、操られたまんまじゃ可哀想だから解除してやろーとしたんじゃねぇか。そしたら、何にも能力掛けられてねぇし、じゃあ脅されてるくらいしか思い付かねぇだろ」
「何を言っている?魔王ミリムは既に私の
コイツ、そんなに手段に拘りたいのだろうか。それとも、本当にミリムを能力で支配していると思っているのか?じゃあミリムが素直に従っている理由は?……分からん、何か思惑があるのだろうか。もうこうなりゃミリムにでも聞くか。本人に聞くのが1番早そうだ。
「……ミリム、お前、何を種に脅されてんだ?言っとくが、俺やリムルはこんな奴には負けねぇぞ?」
もしや俺達を盾に脅されているのだろうか。だとしたら少し心外だ。俺達は、こんなのに負けるとでも思われているのだから。リムルから念話で伝えられた情報によれば、クレイマンの魔素量は今の紫苑以下。そんな奴に俺達が負けようはずがないのだ。
さっきから肩を震わせているだけのミリムの方へツカツカと歩いていくと、クレイマンが何やら切れたように叫び出す。
「ミリム!ここにいる者を全て皆殺しにしろ!!」
……いやいや、それは焦りすぎだろう。それに、いくらミリムでも他の魔王全てを屠るなんてことができるのだろうか。いやまぁ、コイツなら出来たとしてもおかしくはないのだけれど。俺は他の魔王の実力なんて知らないし。
だが当のミリムは───
「……ふっ、クックックッ……くふ……あはははははははは!!」
と、肩を震わせているだけだったのだが、遂に堪えきれなくなったかのように大声で笑いだした。クレイマンだけじゃない、俺も俺で何事かと目を点にしていたのだが、ひとしきり笑いきったらしいミリムがこちらに笑顔でピースサイン。どうやら元気は元気なようだった。
「天人よ、確かに私は操られてはいない。それに、脅されてもいないのだぞ?ただ、操られていた振りをしていただけだ」
と、目に浮かんだ生理的な涙を拭いながら笑顔で飛び付いてきた。それを受け止めるとミリムは俺の首にぶら下がったままクレイマンを見据えた。
「本当ならクレイマンの精神をもっと弱体化させて、その裏の黒幕を吐かせたかったのだがな。……天人の深読みで折角立てた計画が全部パァなのだ。だがまぁいい、フレイ、ちゃんとアレ、大切に持ってきているんだろうな?」
と、俺から離れたミリムはフレイの元へと向かう。すると、フレイが投げて寄こしたのはリムルが作らせたドラゴンナックル。どうやら、手加減しつつクレイマンを痛ぶる腹積もりらしい。だがその流れに待ったを掛けようとする人物が現れた。魔王カリオンだ。
「ちょい待てぇ!え、ミリム、お前操られてなかったの?ってことは俺をノリノリで痛ぶったのも、俺達の霊峰を吹き飛ばしたのも全部お前の意思だったわけ!?」
あぁ、ぶっ飛ばされたのも国を吹き飛ばされたのも本当は本当なのね。と、俺が真に可哀想なカリオンに心の中で両手を合わせていると、ミリムはミリムで「そんな細かいことはどうでもいいだろう」と無理矢理にカリオンを押し切っていた。
「馬鹿な……。操魔王支配は完璧に成功していた……。何故支配を受けていない!?そんなことは有り得んだろうが!」
「うむ、だからこそ苦労したのだぞ。私はそういうのは簡単に弾いてしまうからな」
と、まずは結界の類を解除し、素の抵抗を無理矢理に押さえつけ……そして一旦掛けられてから解除したのだと言い出すミリム。もう本当コイツ、何でもありだな。ミリムがそんな手の込んだことをして、殴られるのを耐えてまで操られていた振りをした理由、それは俺達にあったようだ。どうやら、魔国連邦を人の敵に仕立て上げ、魔物と人間の戦争を起こさせようとしたらしい。
そしてミリム的にそれはつまらないので邪魔をしようとしたのだとか。
なるほどな、俺達のために、か。俺はリムルと目配せする。当然、考えていることは同じだ。
「ええと、お集まりの魔王の皆さん、俺とリムルはこれからこのクレイマンなる卑怯者を処刑しようと思いますが、反対の奴はいますか?」
と、一応は会議なので確認を取る。だが、誰も反対意見の者はいない。それを見た赤髪の魔王、ギィとか言う奴が「好きにしていいよ」と、お許しをくれる。俺はそれを受けて、じゃあ遠慮なく、とクレイマンに向き合う。
「くっ……だが、たかが人間風情がこの私に何ができると?喰らえ、操魔王支配!!」
と、クレイマンは最後の抵抗と俺に能力をぶつけてくる。だが───
「……な、何故効いていない!?」
そんなもの、俺の究極能力である氷焔之皇の前には何の役にも立たない。ただ俺の魔素に変わるだけ。しかし、それしかできることがないのか何度も俺に同じ技をぶつけてきている。……ふむ、流石は腐っても魔王を名乗れるだけはあるな。一撃一撃がそれなりの魔素量だ。
「なら、これで───」
と、クレイマンは懐から何やら玉を取り出した。そして、それに魔素を注ぐと一気に輝きだし、閃光がこの場を包み込んだ。
「……あ、あれ」
だがそれだけ。むしろ、あの閃光はリムルが放ったもので、どうやらあの玉をリムルが回収したようだ。クレイマンの方も一瞬意識を飛ばしていたようだし、アイツが何かしたのだろう。
「さて、さっきのミリムへの1発……けどお前、操ってると思ってた間、何発か殴ってそうだし、リムル、3秒くれ」
「分かった」
リムルはそれだけで俺の意図を察してくれたようだ。俺は氷焔之皇でクレイマンの能力を全て凍結。それが本人も感じ取れたのだろう。顔色が真っ青だ。だが当然、俺は止める気は無い。そのまま氷でクレイマンの両手足を拘束。動けないクレイマンに向けて拳を振り上げた。
「……あとは好きにしろ」
きっかり3秒、俺はクレイマンの顔面を殴り続けた。しかしその間、リムルがコイツに思考加速100万倍を掛けたから、奴にはとんでもなく長い間殴られ続けたようにも感じられただろう。俺が氷の拘束を解けば、立つ力も無いのかクレイマンは蹲ったままだ。しかし、俺が殴っていた間、紫苑も随分とやりたそうにしていた。というか、今も俺とリムルを交互に見て、「同じことしたいです」って顔に書いてある。はぁ……。
俺とリムルは再び顔を見合わせ、俺は蹲っているクレイマンを無理矢理に引き上げる。
「おらウスノロ、早く立て。お前のせいで魔国連邦の奴らは何人も死んだんだぞ。その落とし前、この程度で付けられると思うなよ?」
と、さっきミリムに言っていたような言葉をぶつけ返す。能力を封じられ、精神的にも肉体的にもボコボコにされたクレイマンは、随分と干からびたような顔をしていた。まぁとは言え、全く同情心は起きないのだけれど。
「シオン、30秒いいぞ」
と、紫苑には俺の10倍程の時間がリムルから与えられた。まぁこいつのせいで1度殺されたのだからむべなるかな。
そして訪れるのは紫苑の拳の雨あられ。俺は再びクレイマンを氷で拘束してクレイマンをサンドバックのようにしておく。
それが終われば、今度はリムルの番だ。
───────────────
クレイマンは結局、リムルにその存在を丸ごと喰われてこの世界から消え去った。
クレイマンの後ろにいる黒幕、
そして、俺達2人も無事魔王として承認された。しかし、ここでフレイとカリオンが魔王を降りると言い出したのだ。どうやらフレイは今の戦いで自分の実力不足を感じ取り、カリオンはミリムに負けたのにいつまでも魔王なんて名乗っていられないとのこと。これで10人いた魔王から3人消え、2人増え、都合9人となった当代の魔王。
これまでは人間が勝手に呼び出した"十大魔王"を名乗っていたらしいのだが、どうやらそれも使えないらしい。……呼び方とかどうでも良くね?と思ったが威厳の問題らしい。魔王とやらも案外大変な世界のようだ。
で、早速名前を考えろ、その仕事は魔王の数を変動させたリムルに任せる、という流れになった。ネーミングセンスに自信の無い俺は誰に気付かれることもなくホッと一息吐いたのだった。
「分かったよ……、そうだな……
と言うリムルの言葉に、魔王達は大喜び。どうやらお気に召したようだ。しかも、前回の十大魔王はそれだけで3か月掛かったらしい。しかも、その間に人間に付けられたのを仕方なく呼称していたのだというのだから、コイツら暇なのだろうか。そして与えられる2つ名。その後の行動次第で別のものになったりもするらしいが、取り敢えずリムルは
2つ名とか、止めてほしいんだけどな。武偵の時もそんな文化あったけど……。正直小っ恥ずかしいだけだと思う。そんな風に呼ばれても。
その後は支配領域の確認。今回変更があったのはミリムの支配領域にカリオンとフレイの元支配していた領域が加わったくらい。ジュラの大森林はそのまま全域をリムルの支配領域として認めるのだとか。で、俺は当然領域無し。これまでも実質支配していた領域なんて無かったからな。
そして
……ここに来るまでに、俺達はラミリスの先導の元、最終的には他の魔王を迎えに来た奴に相乗りさせてここに来たのだが、これがあるならあの手間は要らなかったのではなかろうか。まぁ、ラミリスの一挙手一投足に対して一々突っ込んでいたらキリが無い。疲れるだけなので俺は忘れることにした。
これで宴は終わりだ。だが俺の胸の中に去来したのは安堵ではなく焦り。
ここ2年くらい、ずっとリムルと一緒に魔国連邦の発展やら何やらを手伝ってきたけれど、俺の目的はそれじゃあない。あそこが快適で忘れそうになるが、俺とリサは自分達のいた世界へと帰るのが目的なのだ。魔国連邦はそのための拠点に過ぎなかったはずで、俺もそろそろ動き出した方が良いのかもしれないな。
もっとも、どうすればいいのか検討も付かないのだ。リムルも異世界から来た人間な以上、リムルを殺してもきっと俺とリサはこの世界から弾き出されない。じゃあ誰だ?ミリムか?他の魔王か?それとも、人間だろうか。
俺は胸の中に凝りを抱えたまま、魔王達の宴の席を後にするのだった。
───────────────
切っ掛けは些細な一言だった。
「ところでリムルさん。リムルさん以外で、この国で最強なのは誰なんですか?」
アルノーとかいう聖騎士が発したこの一言が、この国どころかこの世界を大きく動かす一言になってしまったのだ。
アルノー、坂口日向に次ぐ実力者。何故そんな奴が魔国連邦にとも思うが、ヒナタが聖騎士100名を連れて魔国連邦へ進軍。それをリムル達が迎撃し、仲直りの印にと魔国連邦へと招待。そこで酒を酌み交わしている時のことだったのだ。
俺はその戦いには直接は参加していない。最後の守りの要として後ろに控えていたからだ。結局、俺の"魔王が2人もいる国に喧嘩ふっかける奴はいないだろう作戦"は完全に無駄足に終わっている気がする。まぁ、全軍を率いてやってこなかっただけマシなのかもしれないが……。
だがまぁ、そんな中に含まれていた彼の一言で宴の席は紛糾。どうやら先の戦いでも序列決定戦なんてやっていたみたいで、じゃあいっちょお互いに戦ってみるかという話の流れになってしまった。
俺はそれを眺めていただけなのだが、ヴェルドラの野郎が「ついでに魔王の実力も見てみたい」なんてことまで言い出したのだ。それに加え、他の幹部連中までもが俺とは本気で戦ったことないな、などと言い出す始末。紅丸辺りは俺とミリムの戦いを間近で見ただろうと言い返してはみたものの、あの時からどれだけ力を付けられたのか試したいんだとか。
「アホか、俺の力は腕試しにはこれっぽっちも向かないだろう」
白焔の聖痕も、究極能力も、どちらもこういう真っ向勝負や力試しには向かないのだが───
「能力が使えなくても白兵戦での実力も試したいんだよ」
と返されてしまった。
「……そう言えば、カミシロさんは人間なんですよね?」
と、年齢だけなら俺より歳上のはずのアルノーは、しかし俺にも敬語だ。一応、リムルが最初に俺のことも魔王だと紹介したからだ。
「あぁ、はい」
「それなのに何故?魔物の国にいて、しかも魔王にまでなるなんて」
と、ヒナタも俺の素性が気になるようでその切れ長の瞳でこちらを見据える。
「大したことじゃない。……ただこっちに来て初めて会った奴がリムルで、俺はここの発展を手伝う代わりに元の世界へ帰る方法を探してる」
「……名前で何となく分かってたけど、貴方もなのね」
「あぁそうだ、坂口日向。俺はタカト・カミシロじゃあない。神代天人だ」
この世界でも異世界人は珍しいが、いないこともない。ヒナタはその本人だし、他の聖騎士だってそういう存在を知っている奴は知っているのだろう。そこまで驚きの反応は出なかった。
「まだ、諦めていないのね」
「当たり前だ。石に齧り付こうが泥水を啜ろうが、俺はリサと一緒に元の世界へ帰る。絶対に」
俺の決意を聞いて、この場にいた皆が押し黙ってしまう。ただヒナタだけが「そう……」と呟くのみ。
「ま、それだけだからさ。俺は俺とリサ、それからこの国に危害を加える気の無い奴まで一々相手をする気もねぇ。手を取り合いたいと思うなら俺達も手を差し伸べるよ」
これは、リムルの方針だ。相手の鏡のように接する。拳を振り上げる奴には拳を、握手を求める奴には同じく握手を。離れる奴を追うことも無い。それだけだ。
俺の言葉に少し安心したのか気が抜けたのか、俺達の宴はまた元の騒がしさを取り戻した。
───────────────
どうせなら6万人くらい収容できる大きさのスタジアムが良い。という俺の提案はあっさり却下された。そんなものを作っている時間もノウハウも無いのだとか。いやいや、だからって1万人程度の収容じゃ少ねぇだろと言ったのだが、増築もできるようにするから今はお試しで1万人だとリムルに押し切られたのだった。
何の話か、俺が今いるのは魔国連邦に作られた
そして明日に予定されているのはこの大会の優勝者と俺とのエキシビジョンマッチ。魔国連邦にいる幹部連中の実力を見れるとあって、この大会は大盛況。しかも明日にはこの国に居を構える魔王が1柱の戦いも見れるとあって会場は既に大盛り上がりだ。
だが、そんな観客の思いは全く斜め上に裏切られることになる。
「魔王ミリムが魔王タカト・カミシロにこの場で決闘を申し込む!!」
と、この大会の最後の方で実況を務めていたミリムがいきなりマイクを通してそんな言葉を叫んだのだ。しかも───
「よもや魔王ともあろう男がこの挑戦から逃げるなんてことがあるまいな?体調不良なんて許さん、リムルに回復させてもらうのだ」
と、逃げ場を塞がれてしまった。そんなことをされては俺も前に出るしかない。このスタジアム、観客席の周りには様々な結界が張られており、安全性は世界一だ。多分核ミサイルを落とされても問題ないだろうってレベルで。
当然、俺とミリムが暴れても多分平気。……白焔の聖痕を使うと結界が問答無用に壊れてしまうから使えないけれど、どっちにしろ魔素による攻撃は全部氷焔之皇で凍結、燃焼できるから問題はあるまい。
そしてこの大会、魔国連邦の示威行為でもあるのだ。幹部連中の強さを各国のお偉いさん方に見せつけ、喧嘩を売りたくなくなるように仕向ける。それがリムルの計画だった。
俺は、前はともかく現状においては魔国連邦の軍へ組み込まれているわけではない。元の世界へ帰るための手段を探す拠点としてここに住まわせてもらう代わりにこの国に(主に軍事的に)貢献する。というのが俺とリムルの本来の関係性。まぁ、なので実際のところはほぼ魔国連邦の1戦力として数えられているし俺もそれに思うところは無い。
そんなわけで、俺だって仮にも魔王を名乗るのだからいくら相手がミリムとは言え、この場で引くことは許されないのだ。
「分かってるよ。相手してやる」
と、俺もスタジアムへ降りてミリムと向かい合う。ミリムは「それでこそ」と口角を上げて拳を構えた。
本当はこのエキシビジョンマッチは予定には無かったのだがちょうど良いだろう。この国の最大戦力である"魔王"の力を誇示してやろう。
「リムルも、いいか?」
一応、リムルにお伺いは立てておく。実はこの後は魔国連邦周辺の地下にリムルとラミリスが作ったアトラクションのような大迷宮をお披露目する予定なのだ。
そっちの方は俺はそんなに関わっていないから詳しくは知らないけどな。時間的にどうなのだろうか。
「あぁ、いいぞ。天人、お前の力を見せてやれ」
「……じゃ、許可も降りたし───」
「あぁ、やろう」
俺達が拳を構える。すると、さっきまでミリムと一緒に実況をやっていたソーカが再びマイクを構えた。
「突然決まったエキシビジョンマッチ!!しかし!方や最古の魔王が1人、
ソーカの声と同時にミリムが俺に突貫してくる。俺も既に聖痕は全開だ。思考加速も併せて解放し、振るわれた拳を後ろに受け流す。
───ドォォォォォンン!!
と、スタジアム壁面へとぶつかるミリム。その音だけで空気が大きく揺れた。初手から超音速の一撃に、観客も凍り付いたように静まり返っている。だが俺達の戦闘は始まったばかり。ミリムは即座に俺の懐に入り込み、インファイトを仕掛けてくる。前に1度戦った時の経験から、魔素を用いた大技では俺を倒せないと分かっているのだろう。常に氷焔之皇で探っているが、そういう能力を使おうとする反応は見られない。
ミリムの、姿勢を落として俺の足首を刈り取ろうとする蹴りを、その蹴り足を踏みつけることで押さえ込む。しかしミリムはその踏まれた足を振り上げて俺を空中に放り出す。そして俺の目線の高さまで飛び上がったミリムは裏拳で俺の頭を打ち砕こうとする。
俺はそれを同じく裏拳で迎え撃つ。バチィッ!!とお互いの拳がぶつかり合い、そして2人共反対側の壁面へと吹き飛ばされた。
だが次の瞬間には俺達はスタジアムの中央で再び拳をぶつけ合う。その衝撃波がこの空間に伝播するがそんなものはリムルが抑え込むべきもので、俺達はそれを意識すらしない。
俺はミリムの振るった右腕を左手で掴み、右腕で肘打ちを放つ。それはミリムの左手で受け止められるが俺は掴んだ右腕を投げながらその腹に蹴りを叩き込む。
当然ながら俺達の打撃はその全てが音速を遥かに超えている。空気の壁を切り裂き、大気がソニックブームを発生させる形で悲鳴を上げ、ウェイバーコーンが涙のように散る。
俺の蹴りを受け吹き飛んだミリム。しかし次の瞬間には紅色の角が頭から生え、漆黒の鎧に身を包んだミリムが現れる。
それは、あの時の戦いで見せようとした姿。あの時はリムルが間に割って入ったからその力を見ることは無かったが、今日はそれも無い。少なくとも、何合かは打ち合えるだろう。
俺はミリムの拳を受け流すとそのまま返す力で頭に肘打ちを叩き込む。しかしミリムはそれを角の根元で受け止め、力技で押し返す。
俺は前蹴りを入れてミリムを押し返そうとするがそれはミリムも読んでいたのか、脚で腹への一撃を防がれる。
左のフックも腕でガードされ、ミリムの、俺の顎を狙った蹴り上げは身体を逸らして躱す。しかしミリムはその蹴り上げた脚で今度はカカト落としを狙ってきた。それを後ろに跳び退り躱すがミリムの追撃の拳が眼前に迫る。
俺はそれを後ろに仰け反りながらも空振りさせると、そのままの勢いでサマーソルトキックを放つ。それがミリムの顎をカチ上げた。さらに俺は両手を床に付いた体勢から重力操作のスキルで無理矢理に体勢を動かし、ジャンピングボレーのような形でミリムの頭を横から蹴り抜く。
壁面に叩き付けられたミリムはそれでも俺の眼前へと瞬間移動みたいな速さで迫る。しかし、振るわれる拳を避けながら俺は、その顔面に掌底を入れて地面に叩き落とす。
リムルの結界により崩壊を免れた床の石はミリムの身体を跳ね上げる。俺は浮いたミリムを蹴り上げると自分も急上昇、裏拳でミリムを地面へと再び叩き返す。その一撃は腕をクロスすることで防がれたが地面へと激突するミリム。
俺は自由落下に任せて地上へと降りるが、着地した瞬間に、姿勢を落としたミリムが再び俺の足首を刈り取ろうと脚を振るう。それを軽く飛びながら避け、そのまま頭にもう一度蹴りを叩き込む。
それでもミリムはその闘志を萎えさせることなく俺へと向かって来ようとするが───
───バリバリバリバリバリ!!
と、俺とミリムの間に黒い雷が落ちる。どうやらリムルの合図のようだ。それを受けたソーカも───
「け、決着です!!勝者は……タカト・カミシロ!!」
ミリムが俺に一撃も当てられなくなってきたことで、決着ということにするらしい。それはミリムも分かっていてるのか、ソーカの声を無視することなく角と鎧を引っ込める。
「……大丈夫か?」
と、仮にも女の子の顔を殴ったり蹴ったりしてしまったので声を掛ける。殴り合いなんてしたけれども、俺は一応はコイツの恋人ってことになっているからな。
だが、当のミリムはと言えば───
「むぅ……」
決着に、というより俺に心配の声を掛けられたことが納得いかないようだった。ただ「大丈夫だ」とだけ返してスタジアムの中へと消えていった。戦闘の時間は実際のところ、数分と経過していないらしい。それでも肉弾戦だけで人知を超えた戦いを披露した俺達には観客席から惜しげも無く拍手が贈られてきた。
こうして、幹部連中の自己アピールから端を発した魔国連邦の戦力お披露目会は幕を閉じることになった。観客達はこの国の脅威と興奮を、俺とミリムの間にはちょっとした亀裂を生んだ武闘会はしかし対外的には大成功に終わったのだった。
その裏で、ひっそりと紅丸と俺の試合がお流れになったことは、多分紅丸本人も気付いていない。