セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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最終決戦

 

ルミナスの城での戦いが一段落付き、俺は一先ず魔国連邦の本部である大迷宮へと戻った。

そこにはリムルやディアブロも姿を現しており、どうやらこれから最後の戦いへと赴く勢いのようだ。魔王の中の裏切り者の1人であった魔王ディーノも、どういう訳かここにいた。だが寛いでいる様子を見るに、もう1回こちら側に寝返ったようだ。

 

「天人、ダグリュールも倒したんだな」

 

「あぁ。一応、捕食者で捕らえてある。喰うか?」

 

「……そうだな、いや、やっぱいいや。ただ、気になることもあるから渡してくれ」

 

気になることが何なのか俺にはよく分からんが、まぁ裏切った理由とかそんなだろうと、深くは考えずに凍結されたダグリュールをリムルに渡す。それをリムルは手早く体内に取り込んだ。

 

「で、どうするんだ?もう乗り込むか?」

 

俺の消耗度合いは氷焔之皇で魔素に変えた分と戦闘で使用した分でトントンと言ったところだ。だが、聖痕でいくらでも補填は効くので実質的にはほぼ消耗無し。精々が、戦ったから精神的に多少の疲労が無きにしも非ず、と言った所か。

だがリムルの方はそれなりに消耗もあるようで、エネルギーを回復させてから向かいたいとのこと。そのためにここいらの天使の死体を取り込んで力に変換したかったらしい。らしいのだが、取り込もうと思った瞬間には天使のエネルギーが全部消えてしまったのだとか。おかげで、どうやってエネルギーを得ようかと思案中と言っていた。

 

そして、今迷宮の外で戦っている唯一の天使、というより人間に見える。それも、俺と同じ東洋系の顔立ち。しかもそいつは、帝国からこっちへ寝返った異世界人──シンジと言うらしい──の知り合いのようだった。

シンジからはアイツが敵対しないのなら助けてやってくれ、と頼まれているとのこと。

 

「……リムル、俺が行っていいか?」

 

俺ならアイツがどんな力を持っていようが生きたまま連れてくることもできる。異世界人だと言うのなら、天使の力も与えられたものだろう。リムルがそれを喰らえば多少はエネルギーの足しになる筈だ。

 

「……人間の相手は人間に任せるよ」

 

「あぁ、とりあえず連れてくるよ」

 

と、俺は大迷宮から再び外へ出て、天使の力を得た異世界人、古城舞衣(ふるきまい)と対峙するのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「……古城舞衣、だな」

 

「……その呼び方をするということは貴方も別の世界から?」

 

「あぁ」

 

古城舞衣、シンジ曰く帝国の兵士だったようだがここまでの力は無かったはずだとのこと。恐らく、天使の力でも授けられたのだろう。

 

「……ユウキはもういない。お前がそちらにいる理由は無いはずだ」

 

ユウキ・カグラザカはヴェルダの隠れ蓑だったのだ。帝国にいたということはユウキの信者なのだろうが、面はともかく肝心の中身という面では当の本人はもういない。コイツが天使の側に付く理由は無いはずなのだが……。

 

「それでも、魔王リムルを倒せば落ち着いて研究ができます。そして、私は元の世界に帰るのです」

 

「……なら余計にお前はそっちにいるべきじゃない。俺も帰る方法を探している。そして、恐らく今この世界でそれに1番近いのがリムルだ」

 

ここに来る前にリムル、というか奴の能力であるシエルが言っていた。旅行者(トラベラー)とかいう古城の能力、もしかしたらあれがあれば異世界へ渡る方法が手に入るかも、と。ならばその可能性は俺自身が掴みたいのだ。最後の扉を開くのはリムルに頼るのだとしても、その鍵を入手するのは自分でありたいのだ。

 

「……敵の言葉よ」

 

静かにそう呟いた古城は弓を引き、矢を放つ。だがそれは俺の氷焔之皇の前では何の効果も無い。ただ消え去り、俺の魔素となるだけ。そして俺は氷焔之皇を古城の能力にも使い、その力を全て封じる。そして、自分の能力が封じられたことに気付き驚いた古城に抵抗する隙も与えることなく捕食者でもって一旦格納。そのままリムルの元へと戻っていくのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

古城舞衣から得られたエネルギーは微々たるものだったらしい。そこで、俺を中に格納することで電池代わりにする案もあったのだが、シエル曰く、ヴェルドラとヴェルグリンドが大飯喰らいらしく、アイツらを収納してしまえばある程度は解決するだろうとのこと。だがどっちみち俺には転移の魔法が無いのでリムルの中に入って一緒に転移することになった。

 

そして、どうやらヴェルダの元へと辿り着いたらしいリムルの、その腹の中に広がる虚無空間から吐き出された俺はリムルと一緒にヴェルダに向かい合う。というか、リムルの奴、着いた瞬間に俺を吐き出すことを忘れていたらしく、明らかに転移してから状況が動いている風だった。

 

何より、いきなり虚無空間に莫大なエネルギーが流れ込んできた時には驚いた。どうやらヴェルダの攻撃をリムルが喰らったようなのだが、危うく俺にぶつかるところだったのだ。

リムルのエネルギーになるハズのそれを俺が氷焔之皇で吸収してしまっては具合が悪い。慌ててそれを避けた俺はシエル経由でさっさとここから出せと要求していたのだが、何分リムルも忙しいらしく、中々出られなかったのだ。

 

で、出たはいいがリムルからは控えていろとの御命令。この世界の命運は、この世界で生きる者達で着けたいのだとか。まぁ、俺も似たような理由で古城舞衣と対峙したわけで、人のことを言える立場でもない。

 

そして、配下の悪魔達や他の魔王、それにヴェルドラの姉2人からの声援を受けつつヴェルダとリムルの戦いが始まった。ヴェルドラはどうやら今はリムルの剣になって振るわれているらしい。

しかし、それは既に戦いと呼べるものではなかった。どうやら持っている武器の性能は互角らしいが単純にリムルの方が強いのだ。

 

だが、リムルの剣戟の勢いに吹き飛ばされたヴェルダが立ち上がる。その顔は……何やら憑き物が落ちたかのように笑顔だった。

 

「……お前、まさかユウキなのか?」

 

と、リムルが問う。すると、ヴェルダはさっきまでのプライドの高そうな雰囲気はどこへやら。今度は快活に、朗らかに笑い声を上げた。

 

そして───

 

「お久しぶりです。やはり思った通り、ヴェルダでは貴方に勝てなかったようですね。ですが問題はありません。充分に時間は稼げましたから。……さぁ、始めましょう。僕と貴方の、最後の戦いを」

 

ユウキ・カグラザカ、おそらくこの世界で唯一リムルと双璧を成す力を持ったその男が、悪意に塗れた笑顔で告げる。この世界中を巻き込んだ戦いの、終幕が始まる───。

 

 

 

───────────────

 

 

 

リムルが苦虫を噛み潰したような顔でヴェルドラの剣を振るえばユウキはドス黒い笑顔でヴェルダナーヴァの剣を振るう。

振るう武器にはややユウキに分があるか、だが振るう技術に差は無いし、武器の差は恐らく強度の差がある程度。そこまで勝負には影響を与えないだろう。だが、ユウキの言葉はリムルの精神を蝕む。何やら言葉に思念誘導とかいうのを乗せているようだが、それよりも何よりもその言葉の内容がリムルに響くのだ。そして、再び世界の時間が止まる───

 

 

「……今更」

 

俺は小さく呟く。リムルも同じ思いに辿り着いたらしい。だがユウキの目的は時間を止めることによりリムルの得意技を封じることにあるようだ。

 

リムルの能力は、その殆どを魔素を放出する系統に偏っていた。特に攻撃に使われる能力はそれが顕著だ。だが止まった時の中ではそれらの技は使えない。しかし、ユウキは何か種があるのかその限りではないようだ。

 

だがリムルにもシエルとかいう反則級の解析能力がある。それの権能でもってリムルは短時間で原理を解析、ユウキの使う炎の魔法に対して相克するように氷の魔法でもってそれを凍らせた。それは、ユウキと言うよりも俺に対する当て付けかのようだった。この戦いに勝てば俺はこの世界からいなくなるだろう。リムルは恐らく、既に世界を越える能力を持ち合わせている。もしくは、もう素材は揃っていて、後は生み出すだけ、そんな段階だろうから。だからもう、この世界に俺は要らないと、あの氷は俺にそう言っているかのようだった。これでこの戦いはリムルの勝ち、そう俺が確信した瞬間───

 

──ユウキが薄く笑った──

 

それは、繊月のように薄く引き伸ばした笑みだった。だがそこで起こされた事象は、まさしくこの世界を塗り替えるような衝撃───

 

 

──その瞬間、リムルの存在はどこかへ消え去った──

 

 

そして停止していた時は動き出す。凄まじい衝撃の後、そこに立っていたのはユウキだけだった。俺は刹那の時間で雪月花を抜き放ち、その黒い刀身を現した。ミリムとの2度に渡る戦い、この戦争で戦った巨人共や天使達、そいつらとの戦いが俺の聖痕の力をさらに引き出したのだろう。

できることは今までと変わらない。ただ俺の身体能力が強くなるだけ。けれど、その規模はこれまでの比ではない。

 

───音は無かった

 

いや、空気を切り裂くソニックブームの炸裂音が鳴る頃には既に俺の黒刀は別の軌道を通っているのだ。しかし、それすらもユウキは追い付いた。

 

「へぇ……今更貴方の究極能力が効くとは思わないけど、まさかこんな力まであるなんてね」

 

俺はそれに答えることはない。返事は剣速の増加で終わらせる。氷焔之皇が奴に効くかどうかは知らない。効くかもしれないし、アイツの言う通り効果が無いのかもしれない。けれど俺には関係が無い。どこへ消えたのか知らないが、リムルはここに帰ってくると、俺は信じるしかないのだから。

 

俺はそれまで剣を振るい続け、コイツをここに足止めする。リムルを消し飛ばしたあの魔法はリムルとユウキの魔法が発動した直後に起こされた。であるならば単純な物理エネルギーであればアレで俺が消されることはないだろう。もしかしたら普通に発動もできるのかもしれないが、その時は銀の腕で全部燃やしてやるよ。

 

だがどっちにしろ、リムルがいなきゃ俺はこの世界から出るのは難しいのだ。ならばリムルが帰るまで戦い続ける、というのが俺の出した結論。もちろん、コイツをこの場で殺っちまっても構わない。だが恐らくそれは叶わないだろうと、俺の直感が告げていた。だから俺は意地でもコイツに喰らいつき続けてコイツをこの場に留める。リムルが戻る、その瞬間まで───

 

 

───そして俺のこの意地が正しいかったのかどうかは直ぐに証明される。

 

後ろから莫大なエネルギーを感じた。操られた振りだったのか洗脳が解けたのか、とにかくこちら側に戻ったミリムや他の魔王にヴェルドラの姉2人等、ここにいる実力者達の力が1つになり超高密度のエネルギーが放たれたのだ。それを把握していた俺はそれが放たれる瞬間に雪月花をユウキに叩き付けその勢いのまま上空に退避。

 

特大のエネルギー弾がユウキに迫ったその瞬間───

 

「……リムル、なの?」

 

と、何故か髪の毛が虹色に輝いている大人サイズのラミリスが呟く。

放たれた巨大なエネルギーは全て消え去った。どうやら突然虚空から現れた、この美しい顔をした奴がその全てを取り込んだようだ。そして、この世界でそんなことが出来る奴は限られている。

 

「よう。またデカくなったな、リムル」

 

「ん?あぁ、みたいだな。……あれからどれくらいだ?」

 

「1分と経ってねぇよ」

 

「そっか」

 

魔王ギィ・クリムゾンやクロエも揃ってリムルに声を掛ける。そして、2人共剣を収めた。全てをリムルに託すという意思表示だ。

しかし、何やらユウキが喚いている。どうやら、時空の果て、なんて所に飛ばしたらしいが、そこからリムルが戻ってきたことが信じられないらしい。だが結局、リムルに蹴り飛ばされ、頼みの剣も落としてしまった。そして、俺達を包み込むのは眩くも暖かい光。それはリムルから発せられるものであり、同じくリムルから放射されるドス黒い闇色の妖気から俺達を守っていた。そして、それに守られていないユウキは当然───

 

「や、止めろ!来るな!やめろーーー!!!」

 

と、絶叫しながらその中へと飲み込まれていった。こうして、この世界全土を巻き込んだ天魔大戦はその傷跡を世界各地に残しながらも、最後は拍子抜けする程にあっさりと決着が着いたのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

世界を震撼させた魔物と天使達の戦いは終わりを告げた。そうなれば俺とリサは後は帰るだけ、なのだが1つ精算しておかなければならないことがある。

 

それは、ミリムのことだ。アイツはこっちとあっちを行き来できないのであれば俺達の世界に留まると行っていたが、今やアイツは天使達の世界すらも支配領域にする魔王だ。そう簡単に許されることでもなかろう。それに、やはり俺はミリムにはリサと同じような恋愛感情は抱けなかった。

 

こういうことは、ハッキリさせておいた方がいいと、俺とミリムは今、ルミナスが昔納めていた領土らしい荒野で向かい合っていた。

 

「タカト、私達の関係は、これで終わりにしないか?」

 

と、俺が告げようと思っていたことを、ミリムから伝えられた。俺はそれに驚きを持ちつつも「あぁ」とだけ返す。

 

「私は、自分と対等に殴り合いのできるお前が好きだった。けど、今のお前はもう私とは喧嘩もしてくれないのだろう?」

 

それはきっと、あの武闘会でのことだ。

あの時俺は手を抜いていた。いや、ミリムも本当の力は使っていなかったけれど、少なくとも徒手格闘の技術においては手を抜くなんてことはしていなかっただろう。

だが俺は、それでもミリムを本気では殴れなかった。それに、氷焔之皇がある限り俺はミリムに対して負けることはない。コイツがどんな究極能力を持っていようが、それは全て凍結できるからだ。

 

俺の能力のことはミリムがちょくちょく魔国連邦に遊びに来ていた時に話してあったから、それはコイツも知っているのだ。

 

「そうだな……俺はきっと、今のままならお前と本気では殴り合えない」

 

武闘会で俺は、自分の中の何かが開かれているのを感じた。それは、聖痕の力をより引き出せるということであり、俺はやろうと思えばあの場でミリムを殴り殺せただろう。仮に途中で止められたのだとしても、あんな半端な決着ではなく、完膚無きまで叩き潰すことはできた。

 

けれど、それをして何になると言うのだろうか。ミリムは敵ではない。そんな女の子を殴りいたぶって、それにどんな意味があるというのだ。

 

「それに、あの戦いの時、ヴェルダと私の前に現れたのはリムルだった。例えリムルの作戦で他の所へ向かうように言われていたのだとしても、私はお前に来てほしかった」

 

「そうだな、俺は……お前よりも作戦全体の確実性を優先したんだ」

 

ミリムを抑え込むのは俺でも出来ただろうし、ダグリュールもリムルであれば勝てた可能性は高い。だが、相手を"視て"しまうリムルは、もしかしたらダグリュールに隙を突かれてあそこを突破される可能性もあったのだ。

それに加え、リムル達がミリムと立てた作戦は、一旦ミリムが操られてリムルを消し飛ばしたフリをするというもの。そして、ヴェルダの位置をミリムが探り、そこへリムルが転移で強襲するというもの。俺の究極能力がどれくらいヴェルダ達に知られていたのかはあの時点では分からないが、俺は消し飛ばされたフリをして隠れ潜む能力は持ち合わせていないのだ。

俺が行けばあの作戦は成立どころか議論されることもなく、ヴェルダの元へと行くには随分と時間がかかったかもしれない。

 

つまりはまぁ、器用なリムルがミリムを担当し、正面切った戦闘能力以外が著しく劣る俺がダグリュールの方へ向かうのは理に適ってはいるのだ。

 

ただ1つ、ミリムの心情を無視すれば、だが。もっとも、ミリムはリムルのことも大親友だと思っているのでそれで何か支障が出る程でもないのではあるが……。

 

「あの時思ったのだ。あぁ、タカトが私に振り向いてくれることはないのだろう、とな」

 

だからここで終わりにしようと、ミリムは言った。俺もそれに頷く。一方通行の世界である以上、きっとこれが正解なのだ。

態々しなくてもいい辛い思いをしてまで初恋を叶える努力をする必要はないだろう。

 

「じゃあ、俺達はここでお別れだ」

 

「そうだな。……ありがとう、タカト。お前と過ごした日々は、それなりに楽しいものだった」

 

「あぁ、俺もだよ、ミリム」

 

別に、これで俺達の仲が険悪になるわけではない。嫌いあってしまったのではなく、ただそう、想いが繋がらなかっただけなのだ。だから俺達は握手を交わす。

 

「これからは、友達だな」

 

「そうだな、よろしく。そして───」

 

「「───さようなら」」

 

俺達は別々の方向へと飛び立った。俺は長らく過ごした魔国連邦へ向けて、ミリムは新たなる領地、天使の領域へ。

 

 

 

───────────────

 

 

 

リムルからは、戦後処理が一区切り着いたら元の世界へ連れて行くと言われていた。

そして、その間に俺も何人かに挨拶回りをしていたのだ。その最後がミリム。そしてそれも終え、俺は魔国連邦へと戻った。

 

「天人には世話になったな」

 

目の前のスライムは最初見た時よりもだいぶ大きくなっている。それに、色も違う。水色だった身体は今や光り輝いているのだ。

 

「そうかぁ?あんまり役に立った気はしねぇ。……というか、ここまで俺がこの世界にいるってことは、俺の行動はこの世界にゃ大した影響は無かったったとこだろ」

 

「そんなことないだろ」

 

「……そういや、世界を越える条件ってのはリムルには話したことなかったっけか」

 

「条件……?」

 

「あぁ。世界を渡るためには、その世界にある方法で渡る、そういう聖痕の力で渡る、偶然飛ぶ、そして、世界を変える。このうちどれかで世界を渡れるんだ」

 

「世界を、変える……?それなら俺だって結構変えちゃった気がするんだけどな」

 

「いいや、世界にはある程度決まった運命ってもんがあるらしいんだよ。けど、そこには個人の生き死には関係無い。そして、その世界に生きる人間には自分の運命は変えられても世界の運命は変えられないんだ。けど、別の世界から来た奴は違う。そいつらだけは、その世界の運命に流されずに行動できる」

 

俺が何だかんだでリムルの傍にいた理由も実はここにある。リムルは自分が異世界から来た人間だったと言っていた。ならば、もしかしたらコイツを手伝えばこの世界の運命を変えられるのではないかと思ったのだ。俺は、それを正直に告白した。

 

「なるほどな……。あれ?ってことはユウキは何をしても───」

 

「かもなぁ。ていうか、多分お前はこの世界の生物として確定されてるんだろうよ。よく考えたら転移じゃなくて転生だし。だから、俺が飛ぼうと思ったら、本当ならユウキじゃなくてお前を殺す必要があったんだ」

 

多分ユウキを殺しても何も変わらない。どっちにしろこの世界はリムルによって大幅な進化を遂げただろうから。

 

そして、俺の言葉に配下の魔物達がザワつくのをリムルが抑える。別に、俺に敵意があるわけじゃないからな。

それにこれは、今になって思えば、ということ。あの時はこんなことになるとは思わなかったし、そもそも異世界人であるリムルをどうこうしても意味が無いと思っていたのだ。

 

「この世界は滅びることなく魔王リムルの元繁栄する、って言うのが取り敢えずのこの世界の運命らしい。まぁ、もしかしたらリムルである必要はないのかもしれないが……」

 

だが、ユウキでは無理だろう。この世界は、リムルのような発想をする奴が、常軌を逸した行動力とカリスマで世界を栄えさせる必要があるのだろうから。

 

「ふぅん。まぁそれはどうでもいいや。俺は、俺のやりたいようにやるだけだよ」

 

それこそがまさしくこの世界の意思であろうが、俺はそれを言うことはなかった。その必要がないからだ。もうこの世界は、俺が介入する必要はない。だから俺は短く「あぁ」とだけ返すのだ。

 

「……覇終はいいのか?」

 

俺が天使共との戦いで使った剣──覇終──しかし俺はそれをこの世界に置いておこうと思っていた。こんなの、武偵法で殺人を禁止されている向こうじゃ火力が異常すぎて使えやしない。

 

リムルが世界だけじゃなく時間すら遡れるというので俺とリサは、俺達が飛ばされたあの日から何日か後ろに飛ぶことにしていた。直後に飛んで、またあの聖痕持ち2人に出くわしたら面倒だしな。

 

だから俺は戻っても武偵として活動できるだろう。武偵なんて、何日か音信不通になった程度じゃ誰も騒がねぇからな。ある意味便利な職業だよ。

 

「あぁ、それはあっちじゃ使い勝手が悪すぎるからな」

 

「そっか。ま、取っておくから、必要になったら取りに来いよ」

 

「それは俺に時間も世界も越えろと?」

 

「だってお前ならそのうちできそうだし」

 

リムルのそんな無茶な期待に俺は頭を抱えるしかない。けどまぁ、本当にそれができるようになったら、またここに遊びに来るのもいいかもな。なんせ、偶然の転移に頼らずに初めて円満に立ち去ることになる世界なのだし。

 

「分かったよ。そん時ゃ遊びに来てやる」

 

「おう、天人ならいつでも歓迎だ」

 

何だかいつまでもこうやってくだらない話を続けそうになっている。何だかんだでこの世界で過ごした時間は楽しいものだった。別世界から来た奴が俺達だけでないのも大きいのかもしれない。そのせいか、これまでの世界程俺は孤独を感じなかった。だから少しだけ、名残惜しさがあるのだろう。それでも、俺達は帰らなくてはいけない。そのために今までやってきたのだ。俺のやってきたことはきっと許されることではない。楽には死ねないだろうし、死んでも天国になんて行けやしない。俺は誰かを泣かせすぎたし傷付け過ぎた。そして、何よりも殺しすぎたのだ。最初に飛ばされたあの世界で篠ノ之束と織斑千冬を殺してから、いや、きっともっと前から俺はもう後戻り出来なくなっていた。だから俺は、この世界を去る。

 

リサはこの血に汚れた俺の手をも握ってくれる。俺はそれを頼りに、また戦い続けるのだろう。リサがいる限り、ずっと、引き金を引き、刃を振るうのだ。それが俺への罰なのだと、誰かへ(今まで殺してきた人達へ)言い訳するように……。

 

 

 

そして俺とリサは一旦リムルの中へと取り込まれる。世界を越えるにはリムルの中に入るしかないからだ。リムルの能力であるシエルによって、俺の記憶と望みをまさぐられる。そして気が付けば、俺達は武偵校の男子寮、俺達2人が暮らしていたあの部屋に戻っていた。

 

 

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