セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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ハウリア×強襲科

 

 

「お前達……なぜ人間族といる!種族と族名を名乗れ!!」

 

現れる魔物を蹴散らし進んでいると、目の前に現れたのはガタイの良い虎柄の亜人族。

 

その姿にカムやシアを初め、ハウリアは全員怯えている。そしてカムが何かを弁明でもしようとしたのか口を開きかけるが、何かを言う前に虎柄がシアの髪色に気付いた。

 

「白髪の兎人族……。貴様らハウリアだな!忌み子を隠し続けただけでなく樹海に人間族まで招き入れるとは!!反逆罪だ!弁明の余地なぞない!!全員この場で処刑する!総員、掛か───」

 

ダンッ───!

 

と虎柄亜人族部隊のリーダっぽい奴の足元へ俺は銃弾を放つ。その音と、地面に1センチに満たない穴が空けられたことを視認し、その音の発生源へと視線が動く。当然その先には俺と、銃口から白煙を上げる拳銃があるわけだが。

 

そして俺は奈落の底で手に入れた固有魔法"威圧"を使う。魔力で圧力を掛けて相手を脅すだけの魔法で、魔王覇気程の威力は無いのだがコイツらには効果は抜群のようで、虎柄の亜人族の目線が一気にこちらに集まる。そして宝物庫から電磁加速式拳銃を召喚。リーダーっぽい奴の顔の傍に加速させた銃弾を放つ。虚空を切り裂く一条の閃光。その弾丸の速度に空気が引き裂かれ、発生したソニックブームだけでそいつの頬が浅く切られ、風圧にたたらを踏む。そして通常の威力の拳銃を引っ込め、宝物庫から取り出したもう1挺の電磁加速式拳銃も構える。

 

「お前らの位置は全部把握している。これには魔法みたいな詠唱も無い。死にたくないなら今すぐ帰れ。背中からは撃たないでやる」

 

つい、と左手の拳銃を霧の向こうに隠れている奴に向ける。それに動揺する気配が伝わる。

 

「コイツらの命は俺が保障した。ハウリアに手を出すっつうことは俺と戦うということだ」

 

「……1つ聞きたい」

 

虎の男が分かりやすく冷や汗をかきながら尋ねる。

 

「あん?」

 

「この樹海へ来た目的を教えろ」

 

「この樹海の奥にある大樹、その元に大迷宮があると聞いた。俺達の目的地はそこだ」

 

簡潔に俺たちの目的地を伝える。態々コイツらとことを構える必要も無いからな。

 

「……大迷宮、だと?」

 

「あぁ。俺達は七大迷宮を攻略するために旅をしている。その中でハルツィナ樹海の深部、そこにある大樹の下に本当の大迷宮が存在すると聞いた。そこまでの案内にハウリアを雇っただけだ」

 

「……何を言っている。大迷宮とはこのハルツィナ樹海そのものだ!亜人族以外が足を踏み入れたが最期、決して出てこれない!」

 

なるほど、だがな……。

 

「いや、それはおかしい。大迷宮は"解放者"……叛逆者とかいう奴らが作った試練だ。亜人族なら簡単に行けます、じゃあ試練にならないんだよ」

 

虎の亜人族は何が何だか分からないといった風だ。人間族とは隔絶された生活を送っているからか、人間族にはそれなりに伝わっている程度の話でもこっちには届いていないのかもしれない。

だがここで俺が嘘をつく必要も無いというのは奴にも分かるはずだ。こちらには最悪でも無理矢理に押し通る力があるというのは見せつけているからだ。

 

「……お前が同胞や国に危害を加えないと言うのなら、大樹の下へ行くくらいは許しても良いと思っている。部下の命を無駄に散らさせる訳にもいかないからな」

 

虎男のその判断にハウリアだけでなく周りに潜んでいる亜人族も驚いている気配が伝わってくる。

 

「……だが一警備部隊の隊長程度である私が軽々しく下して良い判断でもない。本国へ指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている者がいるかもしれない。お前に本当に含むところが無いと言うのなら伝令を見逃し、ここで俺達と待機しろ」

 

ふむ……待つ必要性も無いが、大樹が外れた時にこのハルツィナ樹海を、コイツら亜人族を丸々敵に回したままハウリアを守りつつ探索するのも面倒だ。

 

「あぁ。それで良い。こちらの意思を正確に伝えてくれるならここで待つよ」

 

すると、この場から立ち去る気配が1つ。恐らくその伝令役だろう。俺はそれを確認すると両手の拳銃をトリガーガードに指を掛けてぶら下げ……ここじゃあその動作の意味が伝わらないことを思い出して威圧を解きながら両脇のホルスターに仕舞う。それを見た亜人族の誰かがこれを好機と見たか殺気立つ気配がする。

 

「……そこからここまで何秒かかる?」

 

と、俺が問えば虎の隊長も───

 

「……止めろ。我々では勝てん。だがお前も下手な動きはするなよ?」

 

と味方を止めつつこちらにも釘を刺してくる。

 

「分かってるよ」

 

なのでこちらも肩を竦めて何もしませんよのアピール。ついでにユエを抱き寄せその柔らかい髪を弄ぶ。するとユエも俺の胸に頭を擦りつけてくるのでそのまま2人で腰を下ろして時間を潰していく。何だか呆れたような視線が飛んでくるがまぁ放っておくのが楽だ。

 

1時間ほどだろうか。シアも俺の方へちょっかいを掛けてきたので適当に相手をしていたら、あんまり調子に乗るのでユエに関節を極められ、それを周りの亜人族はただ眺めていた。

そうしているうちに何者かがこちらへやって来る。この場に緊張が走る。シアの関節には痛みが走ったままだ。

 

「ふむ。お前が件の人間族か。名は何という?」

 

綺麗な金髪に碧眼。何より尖った耳が特徴の男だった。顔に刻まれた皺がその年齢を想起させるがその顔に"年老いた"という言葉は似合わない。威厳、という言葉が似合うそいつは、きっと長老とかいう存在なのだろう。

 

「天人。神代天人。あんたは?」

 

俺の物言いに周りの亜人族からは非難どころか殺意すら混ざった視線が向けられる。確かにコイツは俺より圧倒的に歳上なのだろう。だが俺はここで誰かの下に自分を置いてはならないと思った。だから俺はそれが当然だとでも言うように堂々と胸を張る。

 

「ふん。……私はアルフレリック・ハイピスト。このフェアベルゲンの長老の座の1つを預からせてもらっている。さて、話は聞かせてもらっている。解放者とはどこで知った?」

 

「俗に言うオルクス大迷宮の更に深層。本当のオルクス大迷宮の1番底、オスカー・オルクスの根城だ」

 

「ふむ……。更に深層、か。証明できるか?」

 

「……天人、奈落の底の魔石とかオルクスの遺品は?」

 

「あぁ、それなら……」

 

奈落の底の証明なんぞどうするかと思ったがユエのアドバイスに従う。確かに奈落の魔物の魔石やオスカー・オルクスの遺品なら証明になるだろう。俺は宝物庫から奈落の魔物の魔石とオスカーのしていた指輪を見せる。

 

「この紋章は……。なるほど、確かにお前さんは確かにオスカー・オルクスの隠れ家に辿り着いたようだ。……よかろう。私の名前でフェアベルゲンへの滞在を許す。もちろん、そこなハウリアも一緒にな」

 

と、アルフレリックの言葉にハウリア達が驚きザワつく。処刑か追放しかないと思っていたのにまさかまた故郷に招かれるとは思ってなかったのだろう。

だが亜人族のハウリアはともかく、人間族である俺や(奴等からはそう見えているであろう)ユエを招き入れるというのには虎の亜人族を筆頭に抗議の声が上がる。それもむべなるかな。今まで人間族がフェアベルゲンに足を踏み入れたことなぞ無かったのだろうな。だが───

 

「待て待て。何で俺達の予定が勝手に決まってんだ。俺達は大樹の下の大迷宮を攻略しに来たんだ。問題無いんなら態々フェアベルゲンにまで行く気は無い」

 

「いやお前さん、それは無理だ」

 

無理?無理ときたか。駄目ではなく。つまりコイツらにもどうしようもない理由があるのか?

 

「大樹の周りは特に霧が濃くてな。たとえ亜人族でも方向を見失う。一定の周期で霧が少し収まるからその時でないといかん。次に行けるようになるのは10日後なのだが……亜人族なら誰でも知っているはずだが?」

 

お前ら今から行ってどうするんだ?というアルフレリックの顔。それが俺からカムへと移っていく。それに合わせて俺とユエもカムへと目線を向ける。で、問題のカムはと言えば……。

 

「あっ」

 

今思い出しましたっていう顔をしている。てか今「あっ」って言ったな。この野郎、マジで忘れていたらしい。

 

「おい」

 

低くカムへ問う。するとカムはしどろもどろとなり目線もあっちこっちへ……。

 

「あっ、いやぁその……なんと言いますか……。色々あって抜けてたと言いますか……。私も小さい頃1度行ったっきりで周期のことは頭に無かったと言いますか……」

 

マジでただのウッカリらしいカムは周りのハウリア達を見渡すと───

 

「ええい!シア!それにお前たちも!なぜ途中で教えてくれなかったのだ!お前たちも周期については把握していただろう!?」

 

遂に逆ギレした……。いやお前……それは……。

いくら何でも雑なキレ方をしたカムに呆れていると、シア含めハウリア中からカムへ非難の嵐。

全員が全員責任の擦り付けあい。強い絆は何処へ……。

 

「……ユエ、任せた」

 

「……ん」

 

あまりに面倒になってハウリアはユエに一任。ユエはユエで面倒くさそうだが、いまだに誰が俺の折檻を受けるべきかで白熱の議論を交わしているハウリア達を冷たい目で一瞥。風属性の魔法でまとめて全員吹き飛ばした。

 

叫びながら落ちてくるハウリアを、他の亜人族も冷めた目で見ている辺り、ハウリアの亜人族内での元々の評価を示しているようだ……。

 

 

 

───────────────

 

 

 

フェアベルゲンとハルツィナ樹海を隔てる門。荘厳なそれを潜ると向こうにあったのは別世界だった。

 

「ふふ、どうやら我らが故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

俺とユエがポカンとしているのを見てアルフレリックが嬉しそうに呟く。実際、ここまで人工と自然の調和した街並みは初めて見た。

イングラシアは完全に人工の街並みだったし、魔国連邦もリムルの政策により、文明を現代に向けて駆け上がっていったからな。異世界とは言え、ここまでの光景は中々お目にかかれない。

 

しかも、年中濃霧に覆われているハルツィナ樹海において、ここフェアベルゲンだけは霧が薄かった。10日程過ごす場所が霧に覆われていなくてよかった。

 

その理由やその他フェアベルゲンについて様々レクチャーを受けつつ周りからの視線にも晒されながら、俺達はアルフレリックが用意した場所へ通された。そこで俺達がオスカー・オルクスの隠れ家で得た情報、俺が異世界から無理矢理召喚されたことなどを掻い摘んで話していく。いくら魔法というものが存在する世界でも滑稽無糖が過ぎる展開だと思っていたのだが、意外にもアルフレリックはすんなりと信用した。特に、狂った神の話はエヒトが絶対的に神聖視されているこの世界の住人には信じ難い話だと思っていたのだが……。それについてアルフレリックは……

 

「神がどのような存在であろうとこの世界は亜人族には優しくない。神への信仰なんぞ元から無い。あるのは自然への感謝のみだ」

 

とのことだった。ま、神の教えとやらで被差別の立場にやられているんだからそれもそうか。

 

そして、フェアベルゲンの長老にのみ代々伝わる口伝の掟によれば、大迷宮の紋章を持つ者が現れたら、それがどのような者であろうと敵対せず、また自分たちが気に入ればそいつらが望む場所へと案内するように取り決められているとのこと。

そしてその紋章とはつまり、俺たちの持ってきたオスカー・オルクスの指輪に刻まれたそれだったというわけだ。

 

だがそれが伝わっているのはあくまでも長老衆のみ。他の者にも説明する必要はある、ということだった。さて早速細部を詰めようかという所で階下に控えていたハウリアたちの部屋がにわかに騒がしくなる。どうにも誰かと言い争いをしているようだった。

 

何事かと俺達が下に降りると、そこにはクマやキツネ、その他様々な種族の亜人族が集まっていた。そして彼らの目線の先にはハウリア達。カムとシアの頬が赤く腫れていることから、誰かに打たれたようだ。

 

向こうも俺達が降りてきたことに気付いたようで、皆一様に鋭い視線を投げかけてくる。

 

「……アルフレリック、どういうことだ?何故人間を招き入れた。それにコイツらもだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……。返答次第では貴様も長老会議にて処分を下すことになるぞ」

 

クマのように大柄な亜人族がアルフレリックに詰め寄る。それでも激情を抑え込んでいるようで、クマ耳と握り締められた拳がブルブルと震えている。だがアルフレリックはどこ吹く風といった体で───

 

「なに、口伝に従ったまでよ。お前たちも長老衆の座にあるのだ。事情は知っているはずだが?」

 

「口伝だと!?あんなもの、眉唾物ではないか!このフェアベルゲンが建国されて以来1度も起きたことがない!」

 

「だから今回が最初になるのだろう?お前たちも長老衆なら口伝に従え。それが掟だ。我々が掟を蔑ろにしてどうする」

 

「ほう?こんな人間の小僧が資格者だとでも言うのか!?」

 

「そうだ」

 

どうやら一口に口伝や長老衆と言っても一枚岩でもなければその考えや浸透の仕方については様々なようだ。雰囲気からして、長生きな奴ほど口伝を素直に信用しているみたいだが。

 

「なら俺が試してやる。資格者たる実力があるのかどうかをな!」

 

クマの亜人族が血走った目でこちらを睨みつけたと思ったら今度は俺に詰め寄り、その拳を振りかぶる。そして───

 

「───っ!?」

 

振りかぶった岩みたいな拳を俺目掛けて振り下ろしたのだ。だがその拳が俺の顔面を打ち砕くことはない。その程度の拳なら今の俺でも簡単に受け止められるからな。

 

それなりに全力だったのだろう。自分の拳を受け止められたクマの亜人族の顔が驚愕に染まる。

 

俺はお返しとばかりにそのクマの腹に掌底による発勁を放つ。オルクス深層の魔物の固有魔法"豪腕"を込めたその一撃に込められた衝撃が内臓をシェイクし、クマの亜人の巨躯を彼方へ吹き飛ばした。

 

そして周りに集った亜人族を見渡し───

 

「次は誰が試す?」

 

と聞けば、答えを返す者は誰もいなかった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

俺とユエ、カムとシアが並び、その後ろにハウリア達が、長老衆とやらは俺達と向かい合うように座っている。

 

「結局、お前らは俺を潰したいのか大樹まで案内したいのかどっちなんだ。悪いが亜人族でそこら辺きっちりまとめておいてもらわないと、流石に(たま)ん取り合いになった時まで区別してる余裕はないぞ」

 

「……貴様、こちらの同胞を再起不能にしておいてその言い草……。それで仲良くなれるとでも……?」

 

虎の亜人族が震える声を絞り出す。どうやらさっきの熊の亜人族は一命は取り留めたもののもう2度と戦闘へは復帰できないらしい。

 

「先に殴りかかってきたのは向こうで、俺ぁあくまでも正当防衛だと思うけどね」

 

「きっ……貴様……っ!」

 

「止めろグゼ。彼の言い分は正当だ」

 

アルフレリックの言葉にグゼは怒りに震えながらも上げかけた腰を下ろした。それでもその目には誤魔化す気のない殺気が込められていた。

 

「僕は彼を口伝の資格者として認めるよ。紋章も、実力的にも、ね」

 

そう発したのは狐の亜人族だった。まるで糸のように細いその目で周りを見渡す。お前らはどうだ?という風だ。

 

「神代天人。我ら長老衆はお前を口伝の資格者と認める。故にお前さんとは敵対する気は無い。だが……」

 

「若いのがどう出るのかが不安か?」

 

「あぁ……」

 

「あっそ……。死なせたくないのならお前らが死ぬ気で止めろよ?さっきの野郎は随分と頑丈だったみたいだが、他の奴らが全員あぁじゃねぇだろ?」

 

俺とユエだけなら亜人族が何人で来ようと殺さないように加減することは可能だろう。だがハウリアをこの数抱えて亜人族に数で攻められたらいくら何でも誰も殺さないように収めるのは無理がある。今の俺にそこまでの戦力的余裕はおそらく無い。

 

「ならば我々は貴様を大樹の下へと案内することを拒否させてもらおう。口伝でも、気に入らない相手を案内する必要は無いとあるからな」

 

だから何なのだろうか。別に俺はフェアベルゲンの長老衆に案内してもらう気なぞ更々無い。元々はハウリア達に案内してもらう予定だったのだ。

 

この分だと霧が薄くなるまでフェアベルゲンに滞在、というのは無理だろうがそれでも樹海の中で待っていればいいだけだ。だが、虎の亜人族であるゼルとかいう奴がそう啖呵を切った理由はすぐに明らかになった。

 

「ハウリアに案内してもらえると思うなよ?奴らは罪人。フェアベルゲンの掟に従って処刑する。はっ、どうする?それとも偶然にも辿り着ける可能性に賭けるか?」

 

ゼルの言葉にシアは涙を堪えて震え、カム達も一様に俯いている。まるで生存を諦めてしまったかのようだ。それでもシアは土下座をしてでも一族の助命を懇願する。だが勿論そんなもの、他の亜人族は取り合わない。処刑は決定事項。シアの存在そのものよりも、それをフェアベルゲンに隠し通そうとしたことの方が重いようだ。だけどな───

 

「アホかお前ら」

 

「何だと!?」

 

俺は溜息1つで立ち上がる。ユエもだ。

 

「それは結局、俺と喧嘩することに変わりねぇだろうが」

 

「なに……?」

 

「俺は大樹へ行きたい。けどお前らはその道標を奪う。これが敵対じゃなけりゃ何なんだよ?」

 

ただそれだけ。コイツらは結局口伝には従わないと言っているようなものだ。もちろん、俺が彼らに従うのならコイツらは俺を大樹までは連れて行ってくれるのだろうが……。大迷宮攻略後にどこに出るか分からない以上、俺と仲の拗れかけているコイツらよりはハウリア達に連れて行ってもらった方がその後も含めて確実だ。

 

「ハウリアをこの場で処刑するというなら、俺はお前らを潰す。それだけだ」

 

「天人さん……」

 

シアが俺を見上げる。俺はその頭に手を置き安心しろと伝える。その時のシアの瞳には、熱が込められていた気がした。

 

「本気かね?」

 

アルフレリックが俺に問う。その目には強い殺気が込められている。

 

「当然」

 

俺も左脇のホルスターに分かりやすく右手を伸ばしつつ短く答える。宝物庫はあっても不可視の弾丸を放つなら最初なら出しておかなければならないからな。こういう時は宝物庫には仕舞わずにホルスターに入れてある。

 

「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」

 

先のゼルの発言はまだ会議で決まったものではない。故にこのタイミングなら覆せる。だがハウリアの処刑は決定事項のようだ。

 

「武偵憲章2条、依頼人との約束は絶対守れ。俺とハウリアの取り交わした契約は、大樹の元までの案内をハウリアが行う、その報酬として俺はコイツらのそこまでの命を保証する。いいか?シアを含めたハウリアの命、そしてコイツらによる大樹までの案内。これが約束なんだ」

 

「……大樹に行きたいのなら案内は誰でもよかろう」

 

「お前は人の話をきちんと聞いていないな?武偵は交わした約束は反故にしない。それにな───」

 

俺は一旦言葉を切り、ユエを見る。ユエもいつもの無表情を少し崩し俺に微笑みを見せる。俺もそれに口角を上げることで応え、またアルフレリックに向かい合う。

 

「───それに、ここで面倒を避けてコイツらを見殺しにするなんざ、格好悪りぃじゃねぇか」

 

武偵憲章なんてただの心得だ。別に決まりでも法律でも何でもない。だからこそ俺は、この異世界で武偵憲章だけは守ろうと決めた。それはユエの前で格好付けたいというのもあるし、何より俺が胸を張ってリサの元へと帰るためだ。命の酷く軽いこの世界、武偵法の無いここでそんなものを遵守する気は無い。だからこその一線。ここで俺がハウリア達を見捨ててリサの元へと帰ったところで俺はアイツに2度と顔向け出来ないだろう。そのためにも俺はハウリアを守る。それだけだ。

 

「はぁ……。ならばハウリアはお前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、奴隷となったものは死んだこととみなす。深追いしても樹海の外では我らは魔法を使う人間族には太刀打ちできないからだ」

 

しばしの静寂の後、アルフレリックから告げられた言葉に他の長老衆は騒然とする。それは明らかに詭弁とでも言うべきものだったからだ。

 

「アルフレリック!それは!!」

 

「ゼル、分かっているだろう。彼の力の大きさも、絶対に引かないという意思も。なればハウリアを処刑しようとすることは我らの滅びを意味する。長老衆の1人として、そんな決断は下せん」

 

「だが!それでは我ら長老衆が力に屈したということになる!それこそ示しがつかん!!」

 

忌み子と呼ばれる者を隠した罪。既に下された決断を覆すという悪しき前例の成立、長老衆達の威厳の失墜。しかしそれに抗えば待つのは最悪の惨劇。様々な思惑が重なりこの場が騒然となる。

 

「……どっちの掟を選んだところで何かの掟に背く。ならお前らが守りたいものは何だ?手前らの格好か?それともフェアベルゲンやここの民か?」

 

俺の問いかけに押し黙る長老衆達。だがそれも一瞬のことで、すぐさま頭を突合せて何やら話し込む。そうし数分後、アルフレリックがこちらに向き、口を開く。

 

「……フェアベルゲンは忌み子、シア・ハウリアを筆頭にハウリア族を神代天人の奴隷と見なす。掟に従い奴隷となったものは死んだものと扱う。また、神代天人の今後一切のフェアベルゲンと周辺集落への侵入を認めず、また本日中にフェアベルゲンを出ることを命ずる。そして今後神代天人一行への手出しは完全な自己責任とする」

 

俺とユエ、そしてハウリア達はこの時を持ってフェアベルゲンからの永久追放となった。この美しい国をじっくり見て回れないのは残念だが仕方ない。態々自分でぶっ壊してしまうよりはマシだと思う他ない。

 

「懸命な判断だと思うよ。……ほら行くぞ?俺達は今すぐ出てけってよ」

 

惚けているシアやハウリア達に声を掛けると彼女らはいまだに現状を理解出来ていない様子。

 

「……祖国から死んだ者扱いされたんだ。もう少し死体らしい顔でもしたらどうだ?」

 

ぼうっとしたままのシアの頬をペチペチ叩くとようやく認識が追いついてきたらしい。え、だとかあの、だとか口を開きかける。面倒なのでシアの手を取って引っ張るようにして立たせると、そこまでしてようやくハッとした顔になった。

 

「あの、私達……死ななくていいんですか……?」

 

「話聞いてなかったのか?」

 

「いえ、あの、トントン拍子に進んでいって、何が何だか……。実感が湧かないと言いますか、信じられないと言いますか……」

 

「……素直に喜べば良い」

 

「ユエさん?」

 

「……天人に命を救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

 

ユエの言葉にシアはこちらを上目遣いで見やる。俺はそれに応えるように肩を竦めて───

 

「それが約束だ」

 

とだけ答えた。するとシアが肩を震わせて俯く。涙を堪えているようだが今は感動している暇はない。何せ後ろから「早く出ていけ今すぐに」という視線が突き刺さっているのだ。

 

「ほら、さっさと行くぞ。一応お前らは死んだことになってんだから、死人らしく静かにな」

 

シアの肩を掴んで反転させる。そのまま背中を押して無理矢理歩き出させれば、他のハウリア達も惚けたまま着いてきた。すると───

 

「天人ざぁん!!ありがとうございまずぅ!!」

 

と、シアが泣きながら俺の腕に飛びついてきた。そのまま俺の肩にグリグリと顔を押し当ててくる。それを見たユエが不満そうに唸るが、シアに触発されて喜びを爆発させたハウリア達を見て、俺の空いてる右手を握るだけで落ち着いた。

 

背中から色んな感情が綯い交ぜになった視線を受け取りながら、俺はこの後の道程に思いを馳せるのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「で、お前らこれからどうするんだ?」

 

俺達はフェアベルゲンから追い出され、樹海の中の少し開けた広場に(たむろ)していた。そこで俺から吐き出された言葉にキョトン顔のハウリア達。それを見たユエが溜息を1つ。

 

「……10日後、案内が終わればお前たちは天人の庇護から外れる。その後は考えてるの?」

 

ユエの言葉にハッとするでもなくただ項垂れるハウリア達。結局のところ、延命こそ達成したもののこいつらを取り巻く状況はあまり変わっていないのだ。

 

「フェアベルゲンっていう拠り所を無くした以上は常に魔物や人間族共の脅威に晒される。誰も守ってくれない以上はこのままならお前らは一族郎党全滅だぞ」

 

戦う力の無いコイツらではこの森の魔物達から逃げながら生き延びることは難しいだろうし、外に出れば当然人間──というか帝国──に捕まるのは火を見るより明らかだ。

 

「……でも、どうすれば」

 

カムが呟く。だが答えは1つしかない。

 

「戦うしかない。戦えるようなるしかない。でなきゃせっかく拾った命、すぐに放り捨てる他なくなるぞ。……聞くが、お前らはそれでいいのか?」

 

俺はハウリア達を見渡す。ユエは肩を竦めるだけだが、言いたいことは分かる。甘いって?許してくれよ。

 

「……良いわけがない」

 

誰かが呟く。それをウサミミにしたシアも決然とした表情を浮かべる。

 

「そうです!良いわけがない!私達は戦わなくちゃいけないんです!」

 

「……ですが、私達は兎人族です。強靭な肉体も、誇れる武器技能も無い。どうやって……」

 

1人の兎人族が呟く。

 

「兎人族は戦えないって?……シアを見ていなかったのか?コイツは兎人族だが戦ったぞ。だから俺達がここにいる」

 

「ですがシアには───」

 

「魔力があり、未来が視えていたって?……はっ、魔力なんざあったって魔法が使えなきゃ意味が無い。未来が視れる?だからなんだ。足を踏み出したのはシアが戦う意志を持っていたからだ。コイツとお前らの違いはただ一つ。未来視によって自分の戦い方を知っていたに過ぎない。肉体(フィジカル)はお前らと同じように兎人族のそれなんだ。お前らにその意志があるのなら、戦い方は俺が教えてやる。武器も寄越そう。死にたくねぇなら、理不尽を叩き潰して生きる気概があるのなら、これを手に取れ!」

 

 

そう言って俺は宝物庫から大量の武器を放り出す。どれも俺が錬成の訓練で作成した刃物だ。素材はオルクス大迷宮の深層のそれ。強度はそこら辺の刀鍛冶の作ったそれを軽く凌駕するだろう。

 

「やります!私に戦い方を教えてください!」

 

手近にあった寸詰まりのポン刀を拾ったのはシアだ。それを見たハウリア達も続々と武器を手に取る。温厚で平和的。戦いを嫌う兎人族のハウリア達だったが、遂にこの時、自分たちの殻を破る決意をしたのだ。そしてカムが1歩前に、俺の前へ出てくる。

 

「天人殿、宜しくお願いします」

 

「あぁ。だが10日しかない。厳しくいくからな」

 

 

 

───────────────

 

 

 

魔力のあるシアだけがユエと1対1の指導を受けている間、俺は他のハウリア達を受け持っていた。

まずコイツらに必要なのは戦う度胸。とにかく敵を傷付けることにある程度慣れなければならない。だが……

 

「あぁ!罪深い私を許してぇ!」

 

だとか───

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい───」

 

だのと一々魔物を倒す度に寸劇が繰り広げられている。向こうから反撃を食らっても同じ。三文芝居が喧しい。

 

「……いい加減にしろ」

 

ダンッ!

 

と俺は上に向けて拳銃を放つ。その音に驚いたハウリア達は一斉にこちらを見る。

 

「お前ら魔物くらい黙って倒せねぇのか!!一々一々三文芝居がうるせぇんだよ!!」

 

と俺が遂に叫べばでもだのだってだの、魔物でも可哀想だのと言い張る。コイツら……。

 

俺がなおも言い募ろうとするとハウリアの少年がこちらに歩いて来る。だが途中で一瞬足を引っ込め、後ろに飛び退く。

 

「……あ?何してんの?」

 

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって。こんなに綺麗に咲いているのに、潰しちゃったら可哀想だもんね」

 

「……お花、さん……?」

 

思わず頬がピクついた。

 

「うん、天人兄ちゃん。ここら辺はお花さんが多くて訓練中も踏みそうになって大変なんだ」

 

と、ニコニコ顔で少年が驚愕の真実を話す。やたら魔物との戦闘中に不自然な動きが多いと思っていたのだが……。

 

「まさか、戦闘中に不自然に飛び退いたりさてたのはそのお花さんが原因か?」

 

「まさかぁ。お花さんだけじゃなくて虫さんも気を付けてるよ」

 

とのこと……。しかもこの場の全員がそうだと言うのだから遂に俺の堪忍袋の緒がブチ切れた。

 

「あぁ!?天人兄ちゃん!なんてことするの!?」

 

なので俺は先程パルというハウリアの少年が避けたお花さんを踏み躙る。

 

「お花さぁぁぁぁん!?」

 

俺が足を上げた後に現れた潰されたお花さんを見てパル少年が悲痛な叫び声を上げる。それを無視して俺は宝物庫から拳銃を取り出す。その弾倉に入っている弾を確認してから、パルに駆け寄ってきたカムに向けて引き金を引く。

 

ダンッ!

 

と音が響きカムが後ろに倒れる。白目を向いて気絶するがその腹に向けてもう1発放つ。

この弾倉に入っているのは魔物の皮で弾丸を作り、炸薬量を調整した非殺傷のゴム弾だ。本来は街中で絡まれた時の為に作ったのだが、まさかこんな風に使うとはな……。

 

ゴフウッと叩き起されたカムにハウリア達が駆け寄る。そして、「なんで!?」みたいな顔で見てくるハウリア達に───

 

ダンッ!

 

と俺は真上に掲げた拳銃による威嚇射撃で返答。

再び弾倉を入れ替えたので数瞬後にはチリン……と鈴の音のような音が静まりかえったハルツィナ樹海に響く。

 

「……次お花"さん"だの虫"さん"だのに意識を取られて変な動きをするようなら実弾でお前らを撃つ。……分かったらさっさと魔物を狩ってこいこのカス共が!!」

 

ダンッ!ダンッ!ダンッ!───

 

俺はハウリアの足元へ目掛けて銃を乱射。ハウリア達は蜘蛛の子を散らすように各々の訓練に戻っていった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

10日後、切り株に腰掛けていると向こうからユエとシアが並んでこちらに歩いて来るのが見えた。何やら纏う雰囲気が正反対なのが気になるが取り敢えず手を挙げて声を掛ける。

 

「よぅ。勝負とやらは終わったのか?」

 

どうにも彼女らはこの10日間で勝負なるものをしていたようだ。何がどうしてそうなったのかは知らないが、雰囲気からしてユエが負けたのだろうか。確かにシアが今引き摺っている戦鎚を用意したのは俺だ。だがまさか武器1つでシアがユエを凌駕するとは思わなかった。

 

「天人さん!天人さん!私、やりましたよ!!遂にユエさんに大勝利しました!!いやぁ、天人さんにも見せたかったですねぇ。私の華麗な戦いぶり!!ふっ、負けたと分かった時のユエさんの悔し───ぶべらっ!?」

 

身振り手振り交えて大騒ぎのシアの頬にユエのジャンピングビンタが炸裂した。随分な威力で叩き込まれたらしく、錐揉み回転しながら地面に頭からめり込んだシア。それを見てユエは不機嫌そうに鼻を1つ鳴らしてそっぽを向く。

 

「……んで、どうだった?」

 

むしろデカいトンカチ1つでどうやったらユエに勝てるのか。確かにシアに武器をやったのは俺だが、だからこそ知っている。あれには特にギミックなどは仕込んでいないのだ。それで魔法の使えないシアがどのようにしてユエに勝ったというのだろう。

 

「……魔法の才能は天人と同じくらい」

 

やはり、シアには魔法は無い。

 

「けど、それだけじゃあないんだろ?」

 

俺が渡した戦鎚の大きさはシアが希望したものだ。そしてその大きさに俺は驚いたのだった。

 

「……ん。身体強化に特化してる。正直、化物レベル」

 

「……具体的には?」

 

「……天人の6割くらい」

 

「なるほど……。全力でか?」

 

「……ん。けど訓練すればもっと上がるかも」

 

「なるほどねぇ……」

 

今もユエに打たれた所を抑えながらメソメソと泣きべそをかいている姿からは想像もできないレベルだ。その数値なら奈落の魔物すら圧殺する膂力を誇っていることになるわけだ。確かにユエに土をつけることも可能かもしれない。

すると、俺がシアを眺めていたことに気付いたのか、シアがいそいそと立ち上がり、何かを決意した瞳をしながらこちらへ向かってくる。そして目線を合わせ、その胸に秘めた想いを口にする───

 

「天人さん、私をあなた達の旅に連れて行ってください!お願いします!」

 

「嫌だ」

 

「即答!?」

 

いやそんな驚かれても……。しかもその話、前にも断ったろ……。

 

「酷いですよ天人さん……。こんなに必死に頼み込んでるのに……」

 

「いやいや、その話は前にも拒否ったろ。だいたい、カム達はどうするんだ?まさかカム達も連れてけって言うんじゃないだろうな?」

 

「違いますよ。これは私だけの話です。父様達にはこの修行が始まる前に話しました。……私自身が本当に着いて行きたいのなら良いって」

 

「……なんでそんなに俺達に着いて来たがる?今のお前ならもう迷惑にはならないだろう?」

 

前のシアは家族の迷惑になりたくないという気持ちがあって俺達に同行したがった。だが今は違う。フェアベルゲンとは決別したが、おかげで奴らからは追われることも無くなった。その上今のシアの力ならこの辺の魔物に遅れを取る事も無い。帝国兵だって樹海の奥までは来れないだろうし、来ても殲滅できるだけの力がある。

つまり、もうシアには俺達に着いてくる理由が薄いのだ。

 

「ですからぁ……それは、そのぉ……」

 

俺が問い詰めるとシアは急にモジモジし始めた。まるで、本当の理由を話すことが恥ずかしいみたいに……。だが意を決したように俺を見上げる。その頬は赤く染まっていた。

 

「天人さんの傍に居たいからです!しゅきなのでぇ!!」

 

「は?」

 

……何となく、察せていなかったわけではない。フェアベルゲンから俺達と一緒に追放された時、シアの瞳に熱が灯っていたようにも見えたし、その後も何となく態度がこれまでと違っていた。俺はキンジや一夏みたいな鈍感朴念仁野郎ではない……と思う。だけども、だ。俺には今ユエがいる。それはシアも承知している筈だし、コイツがミリム程ゴリ押ししてくる性格だとも思っていなかった。だからその理由で着いてくるなんてことは無いと思っていたのだ。故に、俺は今物凄く驚いている。おかげで間の抜けた返事しか出てこなかった。

 

「……シア、俺にはな───」

 

「リサさん、ですよね?」

 

……話したのはユエ、か。俺はシアから出てきた名前に思わずユエを見るが、ユエは珍しく目を逸らすだけ。リサのことは、誰かに話すなとは言っていない。隠すことでもないしな。だからユエが目を逸らしたのは勝手にリサのことを話したこと以外に何か後ろめたいことがあるのだろう。例えば、ユエとしてはリサの名前を出してライバルを減らそうとしたとか。

 

「……そうだ。それに今はユエもいる。正直、俺ぁ自分が誠実な人間だとは思えない。元の世界に女1人で残して、手前は異世界で他に女作ってって。……自分で言っててよくユエも一緒にいてくれるな……」

 

こんな俺を好きになっても、気持ちに応えてやれるのか、そもそも応えて良いのかすらよく分かっていない人間なんだぞ。そんな奴に今好きだからと、危険しかないような旅路に着いてこようとして良いのか?そもそも連れて行って良いのか?

 

「……前にも言った。私の居場所は天人の傍だけ。天人に他に好きな人がいても関係無い」

 

「いや、ユエのことはちゃんと好きだよ。けどさ、それでも俺は今でもリサが好きで、そんな奴なんだぞ?シアも、そりゃあ劇的だったかもしれないけどよく考えてくれ」

 

「……はぁ。天人さんって、意外とこういうのは臆病なんですねぇ。私もユエさんと同じです。私の居場所は天人さんのお側だけ。それに、リサさんがどれだけ魅力的な方でも、ユエさんがいたとしても、絶対に私のことを好きにさせてみせます!」

 

「……ユエ、お前からも何か言ってやってくれ」

 

堂々のライバル宣言。もう俺は誠実さなんて欠片も無い以上はユエがいるから、という理由は使えないし多分他の理由も何を言っても押し切られる。だからこそもう"ユエが駄目って言ったから"しか残されていないのだが───

 

「……」

 

プイ、とユエが顔を逸らす。そして───

 

「………………………………………………………………連れて行こう」

 

「いやいやいやいや!?待て待て待てなんだその間は!滅茶苦茶嫌そうじゃねぇか───はっ!?まさか勝負の賭けって……」

 

 

「……無念」

 

なるほど、つまり俺は最初から詰んでいたというわけだ。リサの話を出された時点で俺には誠実さという武器が無くなり、シアの家族の事情という理由も俺が自ら消してしまった。そして最後の頼みのユエもシアに陥落させられた。つまり俺はもうシアを断る理由が無くて……。

 

「……私を連れて行ってください」

 

項垂れる俺にシアがもう一度、強い意志の篭った瞳で向かい合ってくる。それに俺は───

 

「分かったよ、俺の負けだ。……好きにしろ」

 

敗北宣言をする他ないのであった……。

 

 

 

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