セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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ライセン大迷宮

 

 

「殺ルですよぉ……絶対住処を見つけて滅茶苦茶に荒らして殺ルですよぉ……」

 

ライセン大迷宮。シアのたまたまファインプレーが炸裂しライセン大渓谷に隠されていたそれを発見、攻略を開始したは良いのだが、初手で罠に嵌められ、その後も性格の悪い物理的なトラップの数々が俺達を襲ってくる。しかもその度にミレディ・ライセンと思わしき人物からの置き手紙よろしく壁に掘られたウザさ爆発のメッセージが視界に入るのだ。そしてそれを1番受け取っているのがシアだった。

 

おかげで目が座っているし口調もおかしなことになっている。完全にマズイ方向にブチ切れてしまったシアなのだがこのライセン大迷宮、外の大渓谷よりも更に強い魔力の分解作用が働いており、ユエは上級魔法以上は完全に封じられ、中級であっても凄まじい魔力の消費と短い射程を強いられていて機能不全。

 

俺も体外に魔力を出す系統の技能は殆ど使えない。おかげで銃火器に纏雷が使えずにこちらも火力不足。加えて空力も縮地も使い物にならず機動力も半減以下。

 

辛うじてオラクル細胞は機能するため、既に外套はユエに預け、いつでも刃翼を展開出来るようにしている。

 

だがそれでもやはり身体強化に全振りのシアのパワーは頼もしいの一言なのと、嫌がらせ方向に振り切った罠とそれを置いた奴の性格の悪辣さに関してはよく分かるので声を掛けづらい。

 

が、しばらくそうして物理トラップを破壊しながら進んでいくと、ゴロゴロと、あまりにも嫌な予感を漂わせる音が通路の向こうから響いてくる。

 

「……これって」

 

「……だろうな」

 

俺は思わずユエと目を見合せた。そして───

 

 

───ゴロゴロゴロゴロ!!

 

 

やはりと言うべきか、向こうから転がってきたのは通路を埋め尽くす程の大きさの球体の岩だった。だけど───

 

「邪魔、だぁ!!」

 

オラクル細胞を持つ俺に物理トラップは効かない。やたら俺を避けてシアばかりに発動するものだから、あまり盾になれてやれていなかったが、本来ここは俺の独壇場の筈なのだ。いい加減に溜まった鬱憤を晴らすべく、俺は背中からハンニバルの逆鱗を、右腕からはその腕を顕現。炎の噴射で加速し、回転しながら遠心力も加えてその大岩拳を叩きつける。

 

「っらぁぁぁぁっ!!」

 

俺にしては珍しく気合一閃。拳を振り抜くと大岩もまた砕け散る。残心を解き振り返ればユエとシアがパチパチと拍手をしている。が───

 

ゴゴゴゴゴ───

 

ここでの罠はまだ終わっていなかったようだ。振り返れば向こうから更に転がってきたのは液体のような何かを吹き出しながら回転する鉄球。吹き出た液体が通路の壁を溶かしながら鉄球がこちらへとやってくる。

 

「ひぃっ!?」

 

「……溶けてる」

 

ユエとシアは既に逃げる体勢。だが俺は左肩からディアウス・ピターの刃翼を展開。迎え撃つ。

 

「……はっ!アラガミを舐めんなぁ!!」

 

ぶつかり合う拳と鉄球。炎の噴射による加速と豪腕の技能を乗せたそれでも鉄球を粉砕することは叶わなかったが受け止めることはできた。噴出する強酸が俺を溶かそうと降り注ぐが、オラクル細胞にそんなものは効果が無い。そのまま赤雷を放ち壁に大きな穴を開ける。そして熱で指を食い込ませたまま鉄球をその穴に嵌め込む。ここで爆炎を放ってこの強烈な酸が蒸発したらヤバいかもだからな。こうやって封じておこう。

 

「おし!」

 

ボヘェと眺めている2人を起こし、俺達は先へと進んでいった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「っ!?逃げてぇ!!」

 

シアの叫び声に合わせて俺達はその場から飛び退る。恐らく数日以上は経ったであろう大迷宮探索だったが、遂にそれも終わりが近付いてきたようだった。2度目の対面となった無限に再生しつつ変な駆動をもする50体ものゴーレム騎士の群れに追い立てられ、辿り着いたのは石のブロックが浮遊する部屋。そこへシアの叫び声の直後に俺達の頭上から落下してきたのはさらに巨大な、ゲーム的に言えば"ボス"と思わしき騎士のような風体のゴーレム。全長は20メートル近くあり、右手は赤熱化していて、左手にはフレイル型のモーニングスターまでも装備している。そんなゴツイ武装で身を固めた巨躯が───

 

「やっほー。初めましてぇー。みんな大好きミレディ・ライセンちゃんだよぉ!」

 

───アニメ声でやたらと軽い挨拶を発してきた。

 

「「「……は?」」」

 

3人の声が重なる。当たり前だ。空中に浮遊するクソデカゴーレムがゴリゴリのアニメ声で話しかけてきたのだ。一体なんの冗談だと言うのだ。だが、色々謎はあるが俺には関係が無い。こいつがミレディ・ライセンだと言うのならやることは1つだ。

 

バシュウゥゥゥゥ!

 

と、気の抜けるような音を立てて飛翔体が12発飛び出した。俺がオルクスの屋敷にいる間に作り出した12連装ロケットランチャーだ。それが1発残さずミレディ・ライセンを名乗るゴーレムに直撃する。

 

だが───

 

「……やっぱりか」

 

流石に一筋縄ではいかないようだ。確かに外装はかなり砕いたのだが、それでも周りの鉱石等を寄せ集めて瞬く間に身体を再構成してしまう。こうなると一息で塵も残さず消し飛ばすか、核となる部分を砕くしかない。

 

「まったく、最近の子は挨拶もまともに返せないの?」

 

やれやれだぜと、やたら癇に障る動きまでしてこちらを煽るゴーレム。しかしなるほどな……。

 

「……最初のはそういう設定かと思ったけど、なるほどな。どういう仕組みか知らねぇがキチンと本人の意識があるのか」

 

「最初からそう名乗ってるじゃん?」

 

「ふん……。神代天人だ。ミレディ・ライセン、お前が態々そんな姿になっている理由、どうせ神代魔法なんだろうけどよ。それはここで手に入るやつか?」

 

「そんな姿って、ミレディちゃんは元々───」

 

「オスカー・オルクスの手記にお前は人間の女として出てきていた。悪いがお前の無駄話に付き合っている暇はない」

 

両手に電磁加速式拳銃を構えそう言う俺に、珍しくミレディがまともな反応を示した。

 

「オスカー……。オーくんの迷宮を攻略したの?」

 

「あぁ。……さて、俺の目的は神代魔法だけ。話す気が無いなら再開といこうか」

 

俺が拳銃の照準をゴーレムの関節に向ける。だがミレディと名乗るゴーレムはまだ話し足りないようだった。

 

「神代魔法ねぇ……。ていうことはあのクソ野郎をぶっ殺してくれるのかな?オーくんの迷宮の攻略者なら事情は理解してるよね?」

 

「……ふん。エヒトとやらが生きるか死ぬかはあいつ次第だ。俺達の前に立ち塞がるなら潰す。そうでないならどうでもいい。それだけだ」

 

もっとも、アイツが俺達の前に出てこないなんてこと、ある訳がないと思ってもいるがな。

 

「んで、それで?ここの神代魔法はお前がゴーレムとして生きてる理由でいいのか?」

 

「んふふー。ミレディちゃんの神代魔法は別だよぉー。これはラーくんにやってもらったしー」

 

ラーくんがどなたかは存じ上げないがなるほど。それならそれで構わない。どっちにしろここまで来た以上はここの神代魔法は貰うのだ。樹海の大迷宮に挑む為の4つの証。残りの3つの内1つはここで手に入れさせてもらう、戦闘再開だ。

 

「……最後にこれだけ聞かせて」

 

「……なんだ」

 

「目的は何?何のために神代魔法を求める」

 

誤魔化しは許さないというような圧力のある声色。これまでとは違った雰囲気に俺は思わず引き金を弾くことを躊躇ってしまった。

 

「……世界を越え、故郷に……愛する女の元へ帰るため。それだけだ」

 

「へぇ。その後ろにいる子達は違うんだ」

 

あくまでもミレディを視界に収めたまま、半身になってユエとシアを見やる。そしてまたミレディへ振り返る。

 

「英雄色を好む……。リサがよく俺に言ってた言葉だ。ちょっと前まではあんまり良い気はしなかったけどな。案外俺はサイテーで気の多い男らしい」

 

俺はそこで言葉を切り、銃口をミレディへと向ける。

 

「ユエもシアも連れて帰る。リサは愛人OK……どころか自分が愛人になろうとするタイプだからな。問題ねぇよ」

 

「最近の子はよく分かんないなぁ」

 

「あぁ?そりゃお互い様だろ、オ・バ・サン?」

 

「殺す」

 

俺の煽りで感情の消えた声と共に横薙ぎに振るわれたモーニングスターをその場でバク宙を切って躱し、左の肘と肩の関節を狙い銃弾を放つ。それをミレディは投げつけたモーニングスターの遠心力で身体を振り回し、関節部ではなく硬い外装に当てさせることにより破壊を免れる。

 

さらに驚いたことに、俺の左手側に抜けていったはずのモーニングスターが一切の予備動作無しにこちらへと戻ってきたのだ。

 

「っ!?」

 

俺のいるブロックに叩きつけられるそれを別のブロックへ飛び移ることで躱す。今の動き、まるでさっきまで俺達を追い立てていた騎士のゴーレムのような……。

 

「───ユエ!シア!やるぞ!」

 

だが謎解きは戦いながらやればいい。まずはコイツを叩き潰す。

 

「んっ」

 

「はいですぅ!」

 

俺の声に合わせ、ユエとシアも散開する。そしてミレディの周りに控えていた騎士ゴーレム達も行動を開始する。ミレディのモーニングスターを俺が拳銃弾で弾き飛ばし、シアが巨大な戦鎚の一撃でミレディを押し込めば、その隙に俺が作ったボトル2本にたんまり蓄えた水を破断のウォーターカッターで放ち周りの騎士を切り裂いていく。その間に武装を換装した俺は6砲身ガトリングレールガンを2門、腰ダメに構え、その暴威を撒き散らす。

独特の回転音と発砲音を放ちながら凄まじい量の死を撒き散らす死神は、その鎌で瞬く間に騎士ゴーレム達を打ち砕き地の底へ落としていく。

 

「ちょっ!?何それ何それ何それぇ!?そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!?」

 

そりゃそうだ。トータスの人間がM61を模した手持ち兵器なんぞ知らんだろう。だがこれこそが近代兵器。誰が使おうと同じだけの結果をもたらす死と破壊の申し子。その火線がファンタジーとオカルトの結晶たる宙に浮くゴーレムの群れを破壊し尽くしていく。そして───

 

「奴の核は心臓と同じ位置だ!」

 

俺の義眼が奴の核の位置を捉える。

 

「!?何で分かるのぉ!?」

 

相当に驚いたようだが、ISか何かかと思う程に、この魔力の分解される大迷宮を縦横無尽に動き続けて決定的な被弾は回避しているミレディ。

 

……いや待て、そもそもなんでミレディを含め、コイツらは浮いているんだ?

 

この大迷宮は俺の空力を完全に発動不能にするほどの魔力の分解作用を誇っている。それなのにアイツらは一切の物理的な推進力も無しに浮いたり空中駆動をしているわけだ。だが外に放出される魔力はその尽くを分解されて効果を発揮することが叶わない。ユエ程の魔力と技量を持ってしても中級魔法を瞬間的に発動させるのが関の山なのだ。

 

仮に奴がユエと同じだけの、天賦の才と言えるレベルの技量を持っていたとしても、あれだけの数と質量のゴーレムを、空を飛ばすレベルで操ることなぞ不可能な筈だ。

 

ここに来る前に鉱物鑑定を行って、コイツらには感応石とかいう遠隔操作の為の鉱石が仕込まれていることまでは分かっている。だがそれだけではここでは空を飛ぶことは出来ない。何かカラクリがある筈だ。それを暴かせてもらおうか。

 

俺は粗方の騎士ゴーレムを撃墜した後、砲身が赤熱化したガトリング砲を仕舞い、マシンガンに切り替える。それを撃ちながらユエの破断と合わせてミレディを追い詰めようとするが、ミレディのゴーレムには重力や慣性の法則なんてものが存在しないかのような挙動で俺達の攻撃を掻い潜っていく。

 

その間にも俺は思考を回していく。挙動の秘密は物理的な力学では無いはずだ。この世界はなまじ魔法なんて便利なものがあるせいか科学技術の発展が遅い。そもそもあんな挙動ができる物理って何?って話だし。そしてこの世界にゃ火や雷は起こせても長時間の飛行に適した魔法は無い。しかも魔法無しで空を飛ぶにも飛行可能な魔物の存在がその技術の発展を邪魔をしているのだ。

 

つまりミレディの挙動の秘密は魔法。それも、シアが身体強化を十全に発揮できていることから体内に作用するタイプのもの。ここまでくれば少しは検討もつく。奴の魔法は自分の身体にかかる何らかの物理法則を捻じ曲げる類のもののはずだ。

 

そこまで考えが至った瞬間、とある光景が思い浮かんだ。

 

『重力さんが仕事してないですぅ!』

 

『……真横に落ちてるみたい』

 

騎士ゴーレムの軍団に追われている時のシアとユエの言葉だ。あの時は文字通りの上下左右から甲冑を纏ったゴーレムが襲いかかってきていたのだ。

 

更に浮かぶのは初撃を俺に躱された後の、あの不自然な軌道を描いたモーニングスター。あれも思い返せば"真横に落ちた"ように見えなかったか?そして俺のこれまでの異世界での記憶がフラッシュバックする……初めて飛ばされた別世界にあった機動兵器IS……魔法……重力操作……。

 

……なるほどな。読めたぜ、ミレディの神代魔法の正体。

 

「ユエ!シア!ミレディの使ってる神代魔法は重力を操る魔法だ!コイツの機動力と武装の不規則変化、それに取り巻きの変な動きも全部それだ!」

 

「なっ───んで……」

 

どうやらピンズドだったらしい俺の指摘によりミレディの動きが瞬間的に、けれど決定的に止まる。その隙を見逃すユエとシアではない。

 

「でっすうぅぅぅ!!」

 

「んっ」

 

シアの戦鎚がミレディをブロックに叩きつければユエが破断で比較的脆い関節部を狙って四肢を切断。俺もそれに合わせて左手側に呼び出した電磁加速式対物ライフルを1マガジン分撃ち続けゴーレムの核周りの外装を砕く。更に右腕に新たな兵器を召喚しながらダルマとなったミレディの胸に飛び乗ろうとするが……。

 

「操れるのはゴーレムだけとは言ってないよ?」

 

と、ミレディの眼が赤く輝いたかと思えば俺の足場にしていたブロックが急に落下。更にシアが頭を潰そうとするが切り裂かれたミレディの右腕が赤熱しながらシアを殴り飛ばす。シアは辛うじて戦鎚を盾代わりにして赤く染った拳の直撃は避けたものの膂力の差は圧倒的で、壁まで叩きつけられた。ユエも復活してきたゴーレム達の対処で手一杯だ。

 

俺は足場を落とされた瞬間に背中からハンニバルの逆鱗を顕現。落下を免れたが足止めは避けられない。

 

決定機を逸した俺達は示し合わせたわけではないが、近くにあった大きめのブロックへと集まる。

 

その間にミレディも切り飛ばされた四肢を取り戻し、元通りの姿へとなった。

 

「さて、第2ラウンドといこうか」

 

軽い調子でミレディが指を振れば俺達の立っている足場が急に回転する。唐突な足場の駆動に俺達は思わずバランスを崩す。さらに───

 

「───っ!?避けてください!降ってきますぅ!!」

 

シアの叫び声。それはシアの固有魔法である未来視、それが映すのは差し迫る死の気配───!!

 

けどなぁ……そんなもので!!

 

俺はすぐさま両手の武装を切り替える。貫通力重視のそれらから、より小回りの効くアサルトライフルとロングマガジンを差し込んだ拳銃。左肩からは刃翼を展開。ユエとシアを引き寄せ赤雷球も展開する。

 

「ユエ!シア!俺から離れるな!」

 

「んっ」

 

「はいですぅ!」

 

上からやってきたのは夥しい量の岩石。それらが明確な殺意を持って俺たちの元へと殺到する。

考えたくもない総重量の岩石を落下させようとしたために起きた、空間そのものが軋んでいるのではないかと思う程の振動を合図に俺は瞬光を発動させた。引き伸ばされ、色褪せる世界。その中で俺は引き金を弾く。弾丸が岩石を砕きその破片と衝撃がさらに別の岩を巻き込み、落下の軌道を逸らす。同時に撃ち出された赤雷球も遅れて俺たちの頭上の岩を砕いていく。だかミレディも俺達をここに足止めしている間に落下させる岩石を操縦下に置き始めたのか、明らかに落ちてくるそれらの密度が増す。これを切り抜けるには瞬光だけじゃあ足りない。もっとだ、もっと寄越せ!!

 

──限界突破──

 

俺の持つ固有魔法の1つ。膨大な魔力と引き換えに能力値を数倍に引き上げるそれは使用後のデメリットが大きい。さらにここでは体外に放出される魔力は分解されてしまうために身体能力は強化されない。だが瞬光で引き上げられた知覚をさらに爆発的に上昇させることなら可能だった。

 

俺は、俺以外の全てが静止しているのではないかと錯覚する程に遅延する世界の中で、3人が生き残るための空間を生み出すため、弾丸と赤雷球を配置していく。それでも莫大な質量の前では俺たちの周りが埋め立てられていくことを避けられない。もっとだ、もっと限界を超えた力を───!!

 

 

──ッッッドドドドドドドドッッ──

 

 

遂に焼き切れ色を取り戻した世界の中で俺達は再び視界を失う。降り注ぐ岩石と巻き上がる土埃が埋め尽くしたのだ。だが間に合った。完成したのだ。極少の空間と刹那の時間で俺達が生き残るための聖域が───

 

 

───ゴパァッ!!

 

 

俺が赤雷で周りの岩を吹き飛ばすとミレディは数瞬前と同じ様に佇んでいた。

 

「ど、どうやって……」

 

だがミレディの驚愕に答えをくれてやる気は無い。岩の飛散と同時に飛び出したユエの破断がミレディの両腕を切り裂く。

 

「───っ!?」

 

その隙間に俺は対物ライフルを取り出し、奴の心臓目掛けて超音速の弾丸を叩き付ける。

だがそれは外装を砕き奴の核へと刺さるがそこまで。これを防ぐというなら奴の核はこの世界最高硬度を誇るアザンチウム鉱石でできているのだろう。

 

「残念でしたー」

 

だが俺の狙いはそれを砕くことではない。

銃はそれを持たないものにとっては脅威だ。それはこれが存在しないこの世界の住人であるミレディにもこの戦いで身に染みただろう。魔法無しでも周りの兵隊を粉々にし、奴の外装を砕き一撃でその芯に迫る殺戮の為の武器。それは奴の注意をこの1点に引き付ける!

 

「うっらぁぁぁぁ!!ですぅぅぅ!!」

 

取って付けたようなですぅを響かせたシアがその戦鎚でミレディの巨躯をびしょ濡れのブロックへと叩き付ける。ユエの破断と俺の銃撃は奴の注意をこちらに引き付けるには充分以上の火力だ。

そして奴がこちらを注視している間にシアは兎人族特有の気配操作の技術も駆使して死角へと入り込んだのだ。

 

「ユエ!」

 

「凍柩!」

 

珍しく力の込められ叫ばれたユエの魔法名。

それが起こすのは上級魔法。ここで上級魔法を使うためにはそれなりの準備が必要だ。莫大な魔力、それのコントロール。そして物を凍らせるなら最初から水濡れの方が楽だ。

だからこその破断。水溜まりができるほど濡れたブロックと水滴が滴る身体。

本来なら俺から幾らでも炎を補給することで火属性魔法を使えたはずのユエが態々荷物を抱えてでも水属性魔法に拘った理由。周りの岩を操り不規則な駆動を可能にする奴を決定的に拘束する為の布石。

 

「上級魔法っ!?どうやって───!?」

 

「ナイスユエ!」

 

背中から凍りつき拘束されたミレディの声に驚愕の色が含まれる。俺の右腕に装備されたそれが、明らかに自分のアザンチウム製の核を貫く為の物だと把握できたからだろう。

 

俺はミレディの胸の上に立ち、それを構える。魔力操作により伸ばされたアームが照準を固定し、俺の背中から生える刃翼がミレディのゴーレムとなった身体に刃を突き立て俺自身をもそこに固定した。

 

──キイィィィィ──

 

俺がそれに魔力を注ぎ込むと独特の駆動音が響く。それは俺が最初に転移したISのある世界。そこで出会ったシャルロット・デュノアの駆るIS──ラファール・リバイブ──の持つ兵器、グレースケールを参考に錬成した兵器。

 

──電磁加速式パイルバンカー──

 

錬成の派生技能である圧縮錬成により4トン分の質量を直径20センチ、長さ1.2メートルまで閉じ込め、表面をアザンチウム鉱石でコーティングした杭を炸薬と纏雷の電磁加速により射出する。

 

 

──ドッッッッッッ──

 

 

射出された大杭は炸薬の破裂音すら引き裂きミレディのゴーレムの核を穿かんとする。しかしその進軍が止まってもなおミレディのゴーレムの目からは光が消えていなかった。魔力の分解作用によって纏雷が十全に発揮できなかった為にこれでも威力不足だったようだ。

 

「は、ははは……。残念だったねー。それでも───」

 

「釘は1発で打ち込む物じゃないだろ?───シア!終わらせろ!!」

 

「はいですぅぅぅぅぅ!!」

 

俺が宝物庫へと杭以外のパイルバンカーを収納すると同時に現れたのはウサミミをなびかせたシアだ。戦鎚を大きく振りかぶったその姿にミレディから何度目とも知れない驚愕の声が漏れる。ミレディは己が拘束されているブロックを操り高速で落下させようとするが俺も右腕を焔龍の右腕としてハンニバルの炎を逆噴射。その推進力で落下を食い止める。

 

そして遂に追い付いたシアが、例え相手がシアから距離を置いて戦おうとしても近付けるようにとその戦鎚に仕込まれたスラッグ弾の反動すら利用した一撃を杭の真上に叩き込む。

 

──ゴンッッッ!!

 

だがまだ足りない。さらにシアは戦鎚を振りかぶり───

 

──ゴンッッッ!!

 

──ゴンッッッ!!

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

──ゴンッッッ!!

 

──ゴンッッッ!!

 

──ゴンッッッ!!

 

全身全霊を賭けて、杭を打ち込んでいく。そのあまりの衝撃にブロックはヒビ割れ、高度を落としていく。

 

「しゃおらぁぁぁぁ!!ですぅぅ!!」

 

もうそれですぅ要らないんじゃない?とは思うが言わぬが花。シアの全力のカカト落としが寸でのところで貫通を果たせていなかった杭に叩きつけられた。

 

──ゴンッッッッ!!

 

しかしそれもこの一撃により果たされる。

遂にアザンチウム鉱石の硬度を上回ったパイルバンカーの杭がミレディの核を貫く。そしてミレディの目から光が消え、それを確認したシアが大きく息を吐く。

 

ライセン大迷宮が攻略された瞬間だった───

 

 

 

───────────────

 

 

 

「君達の望みを叶えたいなら全ての神代魔法を手に入れること」

 

「君が君である限り、君は必ず神殺しを為す」

 

「君の選択がこの世界にとっての最良だから……」

 

「君達のこれからが、自由な意思の下にあらんことを……」

 

今俺達はミレディが残りの大迷宮の場所と一緒に核の欠片に残った最後の力で振り絞って伝えてきた言葉を反芻しながら、動く浮遊ブロックに乗っている。そしてそれが紋章の描かれた壁の前まで辿り着くとそれが左右にスライドして先へと導く。それを数度繰り返して辿り着いた壁の向こうには───

 

「やっほー。さっきぶりー!ミレディ・ライセンちゃんだよぉ!」

 

手足の生えたてるてる坊主みたいな人形からミレディの声が発せられていた。

 

「……んなこったろうと思ったよ」

 

こっちから何かしたわけじゃないのに俺達をここまで運んだブロック。加えて既に肉体に囚われていないミレディならこの可能性もあろうとは思っていた。とりあえず殺意が溢れ出ている2人を抑え込み、まずはここの神代魔法を吐き出させる。そしてやはり、ここの神代魔法は重力魔法だった。

 

「……何で私の神代魔法が重力魔法だって分かったの?それに、さっきの戦いで君の身体は変質していたよね?まさかシュネー雪原の大迷宮も?」

 

ちみっこくなったミレディが真面目な声色で俺に尋ねる。

 

「……それか。まぁさっきは大迷宮の場所を教えてもらったからな。それの答えも色々含めて喋ってやるよ。それに、身体が無いとはいえ、意識のある解放者には1つ話しておきたいことがある」

 

「それは……?」

 

「お前らの言う狂った神のこと。俺ん考察で悪いけど、奴の正体についてだ」

 

「───っ!?それは……」

 

「ユエには少し話したっけな。……シアも聞け。神なんぞとは向こうが立ち塞がらない限りは事を構えるつもりは無いと言っているが、恐らく俺達ゃ奴とやり合うことになる」

 

「それは、神様とやらが私達の前に現れるってことですか?」

 

「あぁ。本人が出てくるかまでは分からんが、確実に何らかの干渉はしてくるはずだ」

 

「なんでそこまで分かるの?」

 

てるてる坊主みたいな姿のミレディもその短い足を折り畳んで傾聴の姿勢。

 

「……まず第1に、今この世界は人間族と魔人族で戦争をしている。……現状、とは言っても俺が奈落に落とされる前までのことだが、一応は小康状態って感じだった。だが実際のところ、俺達が呼ばれる少し前には数で上回ってた人間族の強みを魔人族が魔物を操る術を手に入れたとかで拮抗が崩れたらしい。そして追い詰められた人間族の祈りだか何だかで俺を含め3,40人程の人間をこことは違う世界から呼んだ。だが俺はそいつらとも別の世界にいたはずなんだ。……筈なんだけどな、俺の体質からか、どうにも俺まで巻き込まれたみたいでな。で、呼んだ張本人はエヒト様ってわけだ」

 

「……なるほどね、今外はそんな風になってるんだ」

 

いつからか分からないが長いことこの地下に潜っているミレディは久々の外の様子の情報だったわけだが、正直その時から根本的なところは何も変わっていないのだろう。声からも悔しさが滲み出ていた。

 

「前例の無い異世界召喚の表向きの理由は窮地に陥った人間族を救うためだ。ここより上位の世界から助っ人を呼んで、こっちに来た時に発現する大きな力で魔人族を倒す勇者になってほしいんだとよ。実際、そいつらは十代後半に差し掛かったばかりの男女で、戦争なんてしばらくやったことない平和な国に住んでいた子供達だ。だがそれでも与えられた巨大な力はそこらの魔物なんて歯牙にもかけない強さだった」

 

「……あの野郎がそんなに素直だとは思えないけどね」

 

ミレディが呟く。だがその通りだ。

 

「そうだ。……俺は奴らとも違う世界から来たと言ったろ?俺は持ち前の力とその他にも色々ある世界を彷徨っている間に手に入れた力でその日の内にでもこの戦争を終わらせようとした。実際、俺の力が全て振るえればそれも可能な筈だ。……魔人族の完全な根絶と言われれば1人1人探すのに時間が掛かるから難しいだろうが」

 

白焔の聖痕があれば魔法なんて全て燃やせるのだ。リムルの世界の能力(スキル)に効果のある氷焔之皇がどれ程通じるのかは分からないが、それでも氷の元素魔法もあるし、戦争を終わらせるだけならその日のうちにでも可能なのだ。

 

「だが俺の力は殆ど封じられた。この世界に来る時に俺という存在の一番深いところをまさぐられる感覚があった。恐らくエヒトの野郎が俺の力を恐れて対策したんだろう」

 

「……あの赤い雷とか炎は奈落の魔物のものです?」

 

シアが尋ねるとミレディもそれが気になるとばかりに首を縦に振っている。

 

「違う。赤い雷のうち、銃火器に使ってる纏雷は奈落の魔物の固有魔法だけどな。背中の刃とかそっから出してる雷の球とか炎の方は魔物の固有魔法とかじゃない。あれも異世界の力だ。他の世界にはアラガミっていう生物がいてな。そいつらの力を取り込んだんだ。この世界の魔法には相性が悪いが、物理的な力には強くてな。ここのトラップじゃ俺に傷を負わせることは不可能だ」

 

「……意味が分からないよ」

 

アラガミのオラクル細胞が秘める力にミレディは理解が追いつかないと言った風だった。

 

「……まぁ、ここら辺は神の考察には関係無いから一旦飛ばすぞ?ともかく、魔法や何かじゃなくて俺の身体的特徴みたいなのだから、エヒトも(さわ)れなかったんだろう。だがまぁこの時点で俺はエヒトが表向きの理由で呼んだわけじゃないと分かったわけだ。ここまでは大丈夫か?」

 

一応確認をとる。一度にかなりの量を話したからな。シアとか着いていけてるのだろうか。

そう思いシアを見るがまぁあんまり細かいところは理解していなさそうな顔だった。ま、亜人族のシアにとっちゃ神がどうだろうと元々関係無いんだろうな。一度大まかに話を聞いているユエも、どっちにしろエヒトを敵視しているミレディも大丈夫そうだった。それを確認して俺は話を続ける。

 

「第2にこの世界の名前だ。"トータス"と聞いたがこれを付けたのはエヒトだということだ。だがこれがおかしい。ミレディ、なぜだか分かるか?」

 

長くなりそうなので俺はそこら辺に腰を下ろし、ユエを自分の足の間に招いて後ろから抱き締めるような格好となる。それを見てシアが物欲しそうな顔をするが、ミレディは呆れた雰囲気を出しながらも俺の言葉に続いた。

 

「……考えたこともなかったよ。この世界はトータス、そういうものだと思ってたからね」

 

「……名前ってのはどうして付けると思う?シア」

 

「えっ?私ですか?……えぇと……示すため、でしょうか?例えば私がシア・ハウリアであると、周りに示すため」

 

「そうだ。もっと機械的に言えば区別するためだ。これやそれやあれ、だけじゃ不便極まりないからな。武器だの石だの魔法だのと、それぞれに名前があれば会話が円滑になる。だから俺の武器には特別名前が無い。拳銃だのアサルトライフルだのと機能や特徴を示してはいるが、固有の名前は無い。別に無くて困らなからな。他に同じような武器は無いわけだし」

 

「だから天人さんは私にくれたこの戦鎚にも名前付けてないんですね」

 

「あぁ、シアの戦鎚。これで俺には充分だからな。もちろん、欲しいなら考えてもやるし、シアが付けても良いぞ」

 

「……名前は大事」

 

ボソリとユエが呟く。俺の袖を掴む指に力が篭る。俺に名付けられた少女。いや、封印されてたとはいえそれを差し引いても20年以上は生きているのだ。少女と呼ぶのは相応しくないかもな。けれど、ユエが"ユエ"として生まれてからはまだ数ヶ月。そしてそんなユエだからこそ名前の重さはよく知っているのだろう。俺はユエをより強く抱き締める。もちろんユエの言うことも大事だと言外に伝えるために。

 

「あぁ、名前は区別以外にも意味や価値を与える時もあるしその存在を認める、もしくは規定したりもする。だがここで大事なのはこの世界に名前があるということだ」

 

"ユエ"も大事だが今回の本題はそこではない。

 

「世界には普通名前なんて必要無い。何故なら世界という概念が名前としてある以上、ここをこれ以上区別する必要は無いからだ。本来、世界は1つしかないとされているからな。これ以上区別する必要が無いんだよ。武器なら拳銃という括りがあってそこから自動拳銃だのリボルバー式だのあって、さらにそこからデザート・イーグルだのP250だのあるが、世界には"世界"しかないからな。ここで終わりだ」

 

実際に俺が幾つも彷徨った世界には名前なんてないしな。便宜上何これがあった世界とか言うことはあるけど。

 

「でもこの世界にはトータスという名前がある」

 

「あぁ。つまりこの世界に名前を付けた奴には区別する必要があったんだ。この世界を他の何か、いや、世界を区別するのは他の世界だけだ。だが世界が2つ以上あることを認識している奴なんてのは限られてくる。例えばここに呼ばれた召喚組みたいに、他の世界から来た奴とかな」

 

「……それって」

 

「あぁ。俺の予測ではエヒトは他の世界から来た存在だよ。神様でも何でもない。それが人間と規定できるような奴かどうかは知らないけどな」

 

1番最悪な可能性としては、エヒトなる奴が様々な世界を生み出してきた創造者であることだが、それにしてはオスカーの告げた内容の悪辣さが際立つ。まるで、人間の嫌がることを完璧に把握しているようで、逆に人間臭いのだ。本当に世界なんてものを作り出せるほどの力を持った奴なら態々人々の認識をどうこうせずとも、1度世界をリセットでもしてしまえばいいのにと思わずにはいられないのだ。

 

「……そんな、それじゃあ私達は───」

 

「あぁ。ただ強い力を持っただけの人間と争っていたかもしれないな。もっとも、自分を神だと認識させて他の奴らを弄ぶような奴は潰されて当然だと思うけどな」

 

これまで散々煮え湯を飲まされてきた相手が神ではないかもしれないと聞かされて、さしものミレディも混乱しているようだった。

 

「……ま、これはあくまで俺が得た情報から考えた推察に過ぎない。本当のところは本人に聞くしかねぇな」

 

さて、話しておきたいことも話し終えたし、シリアスな時間はここで終わりにしようか。

 

「というわけだ、ミレディ。俺がお前の魔法を看破したのは異世界での経験のおかげ。固有魔法に見えたのは魔法じゃなくてこことは違う世界の物理現象。……じゃあ、全部話したしさっさと攻略の証を出してもらおうか。それに、アーティファクトの類と感応石みたいな珍しい鉱石も全部だ」

 

こっから先は略奪のお時間です。ようやく大迷宮を攻略したんだ。コイツらが死んでも殺したい神とやらのお話もしてやったんだし、それくらい寄越してくれても良いだろう。

 

「……言ってることが強盗のそれだよね」

 

「武偵でそこら辺身綺麗な奴の方が珍しいけどな」

 

「……ブテイ?」

 

「気にすんな。それよりほら、攻略者の証だけ渡して終わりはないだろう?折角お前らの気になってる神とやらの話もしてやったんだ。お礼に色々寄越しやがれ」

 

「あぁもう!なんで最初の攻略者がこんなキワモノなのかな!?」

 

随分な物言いだが文句の割には素直にジャラジャラと鉱石やらをお出ししてくるミレディ。だがその量は明らかにゴーレムが纏っている布の量とは釣り合わない。恐らく宝物庫を隠し持っているのだろう。なのでそれごと渡せと迫ったのだが……。

 

「これは迷宮修復にしか使えない物なの!君達が持ってても意味が無いんだよ」

 

とのこと。だが散々大迷宮では物理的にも精神的にも苦痛を味合わされたユエとシアも宝物庫強奪戦へと参戦。ジリジリとミレディを追い詰めていく。

 

「あぁもう!強制排出!!」

 

と、ミレディが浮いて動くブロックに乗って天井際まで上昇すると、上から紐がぶら下がってきた。頭に疑問符を浮かべている俺達を見下ろしながらそれを引っ張り───

 

「嫌なものは水に流すに限るね」

 

語尾にハートマークが付きそうな甘ったるい口調と共に「ガゴンッ」というこの大迷宮では聞き慣れた嫌な音。すると俺達のいる床の真ん中から穴が開き、周りの壁や天井から水が一気に流れてくる。それは穴に向かって渦を作りながら流れ落ち───

 

「てめぇ!これは───」

 

俺が巫山戯んなと叫ぼうとし、ユエが魔法で脱出を試みようとしたところ、上から強く押し付けられるような力がかかり、3人とも水流の中へ押し込まれる。ミレディの野郎、これは───

 

「いつかぶっ飛ばす!!」

 

俺の捨て台詞はまるで水洗トイレに流されたトイレットペーパーのように掻き消えていくのであった……。

 

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