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ユエ 323歳 女 レベル:75
天職:神子
筋力:120
体力:300
耐性:60
敏捷:120
魔力:6980
魔耐:7120
技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法
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シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40
天職:占術師
筋力:60[+最大6100]
体力:80[+最大6120]
耐性:60[+最大6100]
敏捷:85[+最大6125]
魔力:3020
魔耐:3180
技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法
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ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89
天職:守護者
筋力:770[+竜化状態4620]
体力:1100[+竜化状態6600]
耐性:1100[+竜化状態6600]
敏捷:580[+竜化状態3480]
魔力:4590
魔耐:4220
技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法
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フューレンで待つイルワの元へウィルを届けた俺達はこの任務の報酬を頂いていた。ついでに勝手に着いてきたティオの分のステータスプレートも仕方なしに発行してもらい、早速そこに表示された項目を眺める俺達。イルワには絶対に他言無用という条件ではあるが、俺たちの言葉の説得力の為に中身を見せてやったのだがその瞬間顎の骨が外れるんじゃないかと思うくらいにあんぐりと口を開けていた。……人間、あんなに口を開けるものなんだな。
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「あ?」
「どうしました?」
畑山先生を身を呈して救ったご褒美が欲しいというシアに付き合い、今俺達は2人でフューレンの観光区を歩いている。歩き食いに舌づつみを打つシアを眺めながら歩いていると、俺が常時展開している気配感知の固有魔法に妙な反応があった。雑踏の中で人の気配なんぞ腐るほどあるのだが、それがあった場所はなんと地下。それも小さく微弱で弱った子供のようだった。しかしどういう訳かそこそこの速さで移動している。フューレンは下水設備も整っていることから、もしかしたら下水道を流されているのかもしれない。そんなことをシアに伝えれば、どうするか聞くまでもなく彼女は即座に走り出したので俺もそれに追随する。
そして、まず俺達は下の気配を追い抜き、その進行方向上で錬成を使い、道に穴を開ける。そしての穴の側面から梯子を錬成していき、それを使い降りていく。
すると降りたのはやはり下水道だった。鼻につくアンモニア臭に顔をしかめながら元来た方向を睨めば直ぐにそれは流れてきた。錬成でスロープを作ってそれを下水道から掬い上げると、そこにいたのは3,4歳かそこらの海人族の子供だった。海人族も耳が特徴的だから見ればすぐに分かる。
「この子は……」
「……まだ息はある。けどここじゃ臭いも酷い。一旦出よう」
その子の呼吸を確認した俺は宝物庫から毛布を取り出し海人族の子供を包むと、街の構造を頭に浮かべながら臭いの激しい地下水路を駆け抜け、袋小路で人の気配も無い場所まで辿り着くとそこで錬成を発動。地上までの縦穴を開け、シアと共に下水道を脱出。数分振りとは言え、地上の綺麗な空気に感謝して深呼吸をする。
「さて……」
エメラルドグリーンの肩まである髪と幼い上に薄汚れた状態でも分かる程に整った可愛らしい顔。そもそもがこんな小さな……て言うか年齢とかサイズに限らず人が下水道を流れている時点でただ事ではない。
しかも、この子は海人族───海人族は亜人族にも関わらず彼らから輸出される海産物目当てで手厚く保護されているのだ。そうなると余計にきな臭さも増してくる。
保護と言ったが実際には人間族と同じ様に扱う、と言った方が正しいか。宗教上の理由で亜人族を差別していたと思ったら自分らに利があると見ればこれだ。とにかくこの世界の聖光教会の奴らは胡散臭いし信用ならない。
「この子……海人族、ですよね」
「だろうな……。それがこんな所を流されているってことは……」
正直犯罪臭しかしない。だがこれはあくまでもこの世界の問題だ。多少なりとも関わってしまった以上は最低限の責任は果たすつもりだが、それ以上関わるのは止めておきたい。
すると、海人族の子の鼻がヒクヒクと動き、閉じられていた瞼が開く。そしてそのまん丸で大きな瞳で俺の顔をジーッと見つめる。その眼力に俺も思わず目を離さず見つめ返してしまった。何となく止めるタイミングが掴めずにいたのだが、不意に海人族の子供の方が目を逸らし、シアの持っていた串焼き肉を視界に収めた。するとシアが「これ?」という風に串焼きを掲げるとフンフンと鼻をひくつかせながら頷く。そしてシアがそれを左右に振るとその子の顔も右へ左へ揺れ動く。どうにも相当に腹が減っているようだった。
「お前、名前は?」
「……ミュウ」
「そうか。ミュウ、あれが食いたいならまずは身体を綺麗にしてからだな。……シア、頼んだぞ」
「はいですぅ」
だが流石に下水道を流されていた奴にそのまま何かを食わせるのは不味い。なので錬成と生成魔法を使って作り出した温石で即席のお風呂を作りシアにはタオルや石鹸、薬等を渡しておいて自分はミュウが着るための服を取り揃えに向かう。流石に今纏っている布は不衛生極まりない。だからといって脱がせてバスタオルに包んで運ぶわけにもいかない。赤ん坊のお包みじゃないのだから。いくら何でもそんな年齢じゃ無さそうだしな。本当は俺と同じような髪色をしたティオ辺りがいれば下の妹へのプレゼント選んでますよ感が出せて不審者レベルを下げられたのだが、今ここにいない以上は仕方ない。最後にラッピングでもしてもらって帳尻を合わせよう。
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結局不審者レベルを下げられなかった俺が店員や客の目線に突き刺されながらもどうにかミュウ用の服を買い揃えて戻ると、ミュウはシアに身体を拭かれているところだった。どうやら身体の方は洗い終わったらしい。シアが服を着せている間に俺はドライヤーのアーティファクトを宝物庫から取り出してまだ湿っているミュウの髪を乾かしてやる。最初は緊張気味だったミュウだが、段々髪を撫でる温風の気持ちよさに目を細めていった。
「……で、だ」
「ミュウちゃんをどうするか、ですよね?」
串焼肉をもしゃもしゃと頬張るミュウを眺めながら俺達は今後の方針について話を始める。ミュウは一応は自分の話をしているのが分かっているのか、口に入った肉を噛みながらこちらを眺めている。
「とにかく事情を聞かなきゃ始まらんか……」
「ですね……」
と、まずはミュウがなぜなんな所を流される羽目になったのか、というところからだろう。その辺りをミュウに尋ねれば、思いの外分かりやすく話してくれた。辛い記憶だろうと思ったが、存外気丈に振舞っている。
それによれば、ある日海辺を母と歩いていたところを襲われ、ミュウだけが攫われたらしい。そして連れてこられた先には他にも人間族の子供が何人かいて、時折何人かずつどこかへ連れて行かれていた。その中ではやや年長者と思われる子ども曰く、そこにいる奴らは呼ばれると値段を付けられて売られるらしい。だがある時下水道へ続く穴が空いており、海人族であるミュウはそこへ飛び込んだのだとか。幼いとはいえ海人族の泳ぐ速さには人間族も適わずどうにか逃げ果せた辺りで気絶。気付いたら俺達に拾われていたということだ。
おおよそ予想通りの展開ではあるな……。
「……値段、ね」
この世界で戸籍の管理がどうなっているのかはよく知らないが、俺の世界のそれよりは穴だらけなのだろう。人攫いをしても場合によっては中々足が付かないだろうことは想像に難くない。
「保安署に預けるのがベターだな」
保安署、このトータスにおける警察署の様な役割を担っているところだ。海人族のミュウなら手厚く保護してくれるし親の元へも送り届けてくれるだろう。それに他の囚われた子供に関しても調査が始まるかもしれない。だがシアはどうにもミュウに強く情が沸いてしまったようで、ギュッと抱き締めて離そうとしない。ミュウもミュウでシアに抱かれるがまま、離れる気は無さそうだった。
「シア……」
「えぇ、分かってます。それが1番普通の選択です。大迷宮にミュウちゃんを連れて行く訳にはいかないことも分かっています……」
別に、シアの願望を100%叶える手段が無い訳では無い。まず保安署へ行き、事情を説明。イルワに貰った金ランク冒険者の後光でミュウを攫った組織の壊滅の依頼とミュウの親への引渡しの任務を受ければ良い。そして敵を潰した後は海人族の故郷である海の町、エリセンへとミュウを連れて行く。そうすればミュウの親もいるだろうから、そこで引き渡して依頼完了だ。ただしその代わり、グリューエン大火山の大迷宮攻略は後回し、もしくは誰か1人をミュウのお守りに残す為、戦力の欠けた状態で大火山の大迷宮に挑むことになるが。
シアもそれは分かっているからこその反応なのだろう。出来れば最後まで自分達で面倒を見たい。ただしそれには俺達の旅の最大の目的を一旦放ることになる。そして俺の提示した案はこのトータスにおいても社会通念上間違った選択ではないのだ。むしろ安牌と言える。だからシアも強く反対する事が出来ない。
「シア」
「うぅ……はい」
渋々、といった体でシアが頷く。そこで俺はミュウにも分かるように、ゆっくりと語りかける。
「ミュウ、これからお前をお家に返してくれる人達の所に連れて行く。そこの人達もお前に優しくしてくれるだろうから大丈夫だ。時間は掛かるだろうが、ちゃんとお家に帰れるぞ」
「……お姉ちゃんとお兄ちゃんは?」
「俺達とはそこでお別れだ」
「やっ!」
「いや、やっ、じゃなくてな……」
「やっ!お姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒がいいの!」
ミュウが駄々っ子のようにシアの膝の上でバタバタと暴れ始める。そんなことを言われたってどうにかできる訳でもない。ミュウは然るべき機関を通して故郷に帰すのだ。こうなった以上はもう強制的に連れて行くしかない。俺はシアを立たせるとそのまま保安署の方へと足を向ける。
途中、散々引っ掻かれたし義眼石が光ってしょうがないのを隠すための眼帯も剥ぎ取られたので片目は閉じっぱなしを強いられたがどうにか保安署まで辿り着いた。
保安署で状況説明をしている間も散々喚かれたし挙句「ミュウのことが嫌いなの……?」と目に涙を溜めて訴えられもしたが、保安署のお兄さんの協力もありどうにかミュウとは別れられた。シアは相変わらず落ち込んでいるが、もう諦めてもらうしかない。と思っていたのだが……。
───ドオォォォォォン!!
「これは……」
「保安署の方です!」
俺達が保安署から離れて直ぐにそちらの方から大きな爆発音が響いてきた。奴ら、どうやら思いの外ミュウにご執心のようだ。て言うか、気配感知も使ってんのに尾行に気付かないとか。鈍ってんのかな。こっちじゃ付けられることなんて無かったから。……悲しそうなシアに気を取られてただけっていうのは、癪だから認めてやんない。
そして俺達が保安署へ着くとそこはやはり大きな爆発があったようで、建物の崩壊は大丈夫そうだが、それでも中はめちゃくちゃだった。死者や急を要する怪我人こそいないものの、何人もの保安員が重傷な上、探してもミュウは居らず、代わりに壁には1文だけ短く刻まれていた。
──海人族のガキを死なせたくなかったら白髪の兎人族を連れて観光区3-6-1へ来い──
「天人さん、これ……」
「あぁ、言わなくても分かってるよ。奴らはもう俺の敵だ。敵は、潰す」
コイツらはシアの心を踏み躙ったのだ。シアが、自分の気持ちを押し殺して旅を優先した。あんなに悲しそうな顔をしたシアはフェアベルゲンを追放されてから初めて見た。その想いを奴らは踏みつけにし、そして今その身体すらも傷付けようとしている。そんな奴ら、その存在の1%足りとも残してはおけない。今すぐ完膚無きまでに叩き潰す。
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「……これは何?」
あの後、俺とシアで指定された場所へ向かうと、そこには暴力で飯を食ってる匂いがプンプンする奴らがうじゃうじゃと待ち構えていた。そいつらをその場で殲滅し、数人からミュウの居場所を吐かせようと思ったのだが、どうにも何奴も此奴も場所を知らないようだった。しかもシアとミュウだけでなく、ユエとティオまで標的にしようとしていたらしい。
なので俺は別のアジトの場所を喋ってもらい、そこから次の場所を、というようにわらしべ長者よろしくミュウの居場所を探ろうとしていた。その流れでとある建物の壁をぶっ壊しながらその組織の奴らを叩き潰していたら建物の外にちょうどユエとティオがいたのだった。2人でデートに出掛けたはずの奴らがいきなり壁を突き破ってチンピラを殴り飛ばしたのだ。そりゃあ訳も分からん顔になろう。なので大雑把な事情を話して協力してもらう。こういう捜索には手数は多い方が良いからな。ミュウの顔を知っている俺とシアは一旦別れ、俺はユエと、シアはティオとミュウの捜索を開始する。
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──天人さん達は今観光区ですよね?──
4人でミュウを探し始めてしばらくした頃、シアから念話石で通信が飛んでくる。どうやら俺達の担当エリアの近くにミュウはいるらしい。俺はシアから場所を聴き、ユエとそこへ急行する。ミュウは裏のオークションに出されるようだから命の危険は無いだろう。それでも幼子に掛かるストレスは想像も出来ないもののはずだ。1秒でも早く救出してやりたい。
そうして俺達が駆け込んだ場所にはかなりの数の檻があり、そこには何人もの子供達が囚われていた。
俺はその檻の1つに近付くと、中にいた男の子に海人族の女の子はいなかったか聞いてみる。すると、どうやらミュウは既に運び出された後だったらしい。このようなオークションで買われて持ち出されたら後を追うのは難しくなる。早いところ向かわなければならない俺は錬成でその檻の柵を破壊し、後はユエに任せることにした。その内イルワに頼まれた奴らも来るだろうから、子供達はそっちに預けてしまおう。その辺りをユエに伝えればユエはユエでギルド支部がある方に同情を込めた目線を送っていた。
イルワにはここに来る前に冒険者経由で事の次第を伝えてある。まぁただの言伝だと正確に伝わるか怪しいので念話石を届けさせ、ほぼ一方的な伝言として耳に届けさせているのだけれど。
「お兄ちゃん!助けてくれてありがとう!あの子も絶対に助けてやってよ!すげぇ震えてたんだ……けど俺、何も出来なくて……」
檻から出てきた少年が俺の袖を掴んでミュウの救出を懇願してくる。もちろん言われなくともそのつもりだが、まずはこの子の気持ちを汲んでやらねばなるまい。
「その悔しさを忘れるな。そしていつか、君がもっと強くなって誰かを助けてやれ。けどまぁ、今回は俺がやってやる」
「お兄ちゃん……」
その少年の輝く目を見て、俺は頭を撫でてやる。今はまだ子供だけど、いつか強くなって誰かを守れるようになればそれで良いのだ。守られた者が次に誰かを守る。そうやって繋がっていくのだ、気持ちってやつは。だから今は俺の番だ。俺も、自覚は無くともきっと色んな人に守られてきたからな。
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舞台袖から天井に回り、下の舞台の様子を確認すると、ちょうど今ミュウがオークションに掛けられているところだった。何奴も此奴も仮面を被って指で金額を指し示し、薄汚い金でミュウを買おうと必死だ。
ミュウは小さな水槽に入れられており、恐怖からかギュッとその身を縮こまらせている。しかしその様子に売り手はミュウの値段が吊り上がらない可能性を考えたのか、棒で水槽を小突いて脅しながら悪態をつく。
「まったく、辛気臭いガキですね。人様の手を煩わせるんじゃないよ、この能無しの半端者如きが!」
と、ミュウが動きを見せないことにイラついたのか、直接その棒でミュウを突こうとしたので俺は身を隠していた天井から空力で勢いをつけて飛び降りた。
「その言葉、熨斗つけて返すぞクソ野郎」
──グシャアッ!!
と、骨が折れ肉が潰れる音を響かせてミュウを小突こうとした男は乗っていた脚立ごと舞台に叩き付けられた。肩から床に叩き付けたから肩の骨は折れただろう。骨折の感触も伝わってきたし。
人が床に叩きつけられる音にミュウが驚き水槽越しにこちらを見る。俺も、よっ、という風に手を挙げて返す。そしてそのまま水槽を叩き割り、流れ出た水と一緒に外に落ちそうになるミュウを、硝子の破片で傷付けないようにタオルで包みながら掬い上げる。
「ミュウお前、会う度にズブ濡れだな」
「お兄ちゃん!」
するとミュウはぎゅうっと俺の首に手を回して抱き着き、嗚咽を漏らし始めた。そんなミュウの背中にポンポンと手をやり慰める。その内にドタドタと足音が響き、俺達を囲い込むようにしてお揃いの黒い服を着込んだ男達が殺気立った顔で立ち並ぶ。
「おいクソガキ、フリートホーフに手を出すたぁ余程頭が悪いようだな……。その商品を大人しく置けば苦しまずに殺してやる」
俺は黙ったままその男には目もくれずに、煩くなるから目を閉じて耳を塞いでいろと囁き、ミュウのまだ幼さ全開のプクプクとした手を耳に当ててやる。するとミュウは素直に両手で自分の見間を塞ぎ、目をギュッと閉じて俺の胸元に顔を押し当てる。
俺のその態度が余裕ぶっているようで気に入らないのか、男は殺せ!商品は傷付けるな!とダミ声が響いてくる。
俺は片手でミュウを抱き留めながらもう片手にアサルトライフルを宝物庫から召喚。セレクターをフルオートに入れ、先に声のした方へ向けてその弾丸を乱射する。引き金を引いたまま腕を払えばそれでそちらにいた人間は全滅だ。俺はそのまま銃を広げたままスルリと時計回りに回転。そうすれば俺を取り囲んでいた男達は俺が1周する間に頭や上半身を爆ぜさせている。さらにマガジンを差し替えて俺の殺意を逃れた奴らに向けて引き金を弾いていく。そうして取り囲んでいた奴らを皆殺しにすれば、残ったのは目の前で人間が爆ぜた恐怖から錯乱しこの場から逃げようとする買い物客達。だがコイツらも当然逃すつもりは無い。人身売買──それもこの世界じゃ奴隷として認められた亜人族だけでなく人間族や海人族まで扱う完全にアンダーグラウンド──のオークション会場にいる奴らが
ホールからの唯一の出入口には事前に飛ばしておいたビット兵器がその銃口を烏合の衆に向けている。
───ヒッ……
短い悲鳴が聞こえたような気がしたが、実は俺はコイツらは殺す気は無い。情けをかけるわけではなく、ここでフリートホーフやコイツらを殺したとしてもそれだけじゃこの事件がここだけで終わってしまうからな。こういう闇がフューレンだけの問題だとは思わない。他の大都市でも似たようなことがあるのかもしれない。幸いにも道中で顧客リストのようなものは手に入れているし、ここでコイツらを纏めてとっ捕まえてイルワに引き渡し、もっと根掘り葉掘りドブさらいをしてもらおう。
「手前ら、逃げられると思うなよ?全員ここでブタ箱送りだ」
俺はステージ上でそう宣言する。さっきの惨劇で、コイツらも見たことのないビット兵器が自分に何を成すことができるのかは想像できたのだろう。俺の「全員席に着け」という言葉に素直に従ったように見えたのだが……
「な、舐めるなよクソガキぃ!!」
最前列にいた1人が思いの外機敏な挙動でステージ上に上がり、フリートホーフの構成員の1人が俺に撃たれた時に落とした短剣を拾い、それを俺に向けながら駆けてきた。確かに俺は左手でミュウを抱え、アサルトライフルは右手に持っている。態々席に着かせたということは殺す気はなくこの場の全員を逮捕するという算段だろうと考えつくのは分かる。けど甘いんだよ。
俺は奴が駆け出した時点で宝物庫を使ってアサルトライフルをナイフと取り替えてある。そしてミュウを床に降ろしながら姿勢を低くした俺は向かってくるそいつの短剣を捌きながら右の肘鉄を鳩尾に叩き込む。
「ゴッ───!?」
さらに脚を掴んで逆さに吊り上げ、手にしたナイフでアキレス腱を斬り裂いた。
「ギッ───」
鳩尾を殴られて悲鳴を上げることすら叶わないそいつをステージ上から蹴り落とし俺はまた客席で震えている奴らを見渡す。
「怪我したくなけりゃ大人しくしてな。もうすぐ冒険者ギルドから手前らを捕まえる為に人が来る。そうすりゃ俺も帰るからよ」
俺の言葉に誰かが反応を示すことはなかった。ただ全員、突然現れた理不尽に屈するだけだった。けどお前らも理不尽にミュウや子供達を攫っては奴隷にしようとしてたんだ。文句は言わせねぇ。
『ユエ、手が空いたらこっち手伝ってくれ。オークションの客は全員逮捕する』
『……いいけど、殺さないの?』
『ここで殺したってコイツらの汚ぇ金の出処が分からん。ただの金持ちが悪い奴らとつるんでるだけならいいけど、もしかしたらコイツらも悪いことしてっかもしれねぇ。せっかくだからそういう奴らは一網打尽にしてやろう』
ちなみに、シアとティオにも組織の偉い奴らだと判断が付いた奴に限っては殺すなと伝えてある。捕まえてイルワに諸々吐かせるつもりだからだ。ま、あくまでも殺さないだけで怪我させるなとは言っていないし、そもそも喋れれば問題無いとも言ってあるけどな。
『……んっ、分かった』
と、そうしているうちにドタドタと何人かがここへ駆け込んでくる足音が響いてきた。そしてやって来たのはいかにも冒険者って風体の奴らだった。そいつらは裏のオークションの客達が全員大人しく席に着いて、ステージ上に1人いる俺と見比べて、イルワから聞かされた情報をようやく信じられたようだ。
「あぁ、見ての通り人数が多い。手錠かけるの手伝ってくれ」
と、俺が片手間で作った手錠を指先で回しながらそう言えば、冒険者達も揃って無言で頷いていた。そして仮面を被った客達にそれぞれ木や鋼鉄でできた手枷を嵌めていく。こうしてフューレンの裏で蔓延っていたドブネズミ達は壊滅の憂き目を見たのだった。
さてと、俺は念話石でシアとティオにもミュウは無事確保したこととまずは殲滅次第イルワの所へ集合とだけ伝えておく。そうして俺も手伝いながら全員の手に枷が嵌められたころ……
「ミュウ」
「みゅ?」
「良いもん見せてやる」
と、俺はステージ上の自分が入れられていた水槽を乗せた台の影にいたミュウを抱き上げながらそのプクプクした手を取り、もう一度耳を塞がせた。そして宝物庫から取り出したアサルトライフルを真上に向けて引き金を引く。
──ドパァッ!!──
と、何かを吐き出すような発砲音を置き去りにした超音速の弾丸がステージの天井を突き破り、この薄暗いオークション会場にオレンジ色の光を取り入れた。そして俺は空力も使ってその穴から外へと飛び出し、ミュウの耳を塞いでいた彼女の両手を外してやる。するとミュウは顔を上げ、俺の目線に釣られて目下に顔を向ける。すると、「わぁ」と声を漏らして目を輝かせ、こちらを見上げた。
「お兄ちゃん凄いの!お空を飛んでるの!」
正確には飛行ではなくただ跳躍の延長線上なのだが、夕陽が赤く照らす街並みを上から眺めて感動しているミュウにそれを言ってもそれはただ野暮なだけだろうから黙っておく。その頃にはユエが残ったフリートホーフのアジトに雷龍を叩き込みまくって阿鼻叫喚の通信がシアやティオから伝わってくるけどそれは無視。こっちもどんどん冒険者達がイルワから送られてくるからもう大丈夫だ。
「さて、それじゃあミュウ、行こうか」
「行くって、どこに……?」
ミュウが俺の顔を不安気に見上げる。それを払拭してやるようにミュウの頬を撫でて俺は告げる。
「んー?シアお姉ちゃん達のところだ。その後は皆でお母さんの所へ行こうな」
「……お兄ちゃんは一緒に来てくれるの?」
「あぁ、俺とシア、それから俺達の仲間と一緒にな」
「うん!一緒に行くの!」
俺の言葉に顔を綻ばせたミュウの笑顔の輝きはフューレンの街並みを赤く照らす夕焼けよりも煌めいて見えた。