セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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空から男の子と女の子が降ってきた

 

取り敢えず、涼宮3姉妹はジャンヌに預けることになった。俺が3人を連れて頭下げに行った時のジャンヌのジト目は多分一生忘れられないだろう。人間って、あんなに昔馴染みを見下せる顔を出来るんだなぁ……。でもなんであんな顔をされたんだろうか。命狙ってきた相手なのに助けたからかな……、多分そうかな。

まぁ、そのうち理子も帰ってくるし、そうすりゃ3人を武偵校──彼方は中等部(インターン)だけど──に入れられるだろう。ジャンヌや俺達と違って裏社会の人間じゃないのも好材料だ。

 

で、今日から武偵校も夏服だ。武偵校では夏服の期間がかなり短い。何せ半袖じゃ防弾制服の守備範囲が狭くなるからな。武偵的にはどうなの?というわけだ。ちなみに男子はネクタイせず、ジャケットも着ないだけだったりワイシャツが半袖になったりという程度で大差ないが、女子は普段の赤セーラーから夏の空模様のような水色の半袖のセーラー服に変わる。これはこれで中々に可愛らしいのだ。リサも例にならって半袖の水色セーラー、当然いつも通りスカートは長め。うーん、今日もリサが可愛い。

 

そんなリサと、いい加減に頭を垂れたくなる暑さの中登校すると、掲示板の前に人だかりができていた。そして、その中で一際目立つ銀髪が夏の陽射しに輝いている。ジャンヌだ。

向こうも俺達に気付いたのかちょいちょいと手招きしてきた。

 

「……どうした?」

 

「見てみろ」

 

つい、とジャンヌがその細長い指で指し示したそれは、単位の足りない奴らのリストだった。

 

「あ?……キンジじゃん」

 

そのリストに書かれてた名前には心当たりのある人間がいた。そう、キンジだ。ちなみに不足単位は1.9。この単位が2学期までに不足すると留年となってしまうのだ。武偵校は封建的で上下関係に厳しい。だがそれはただ闇雲に下に厳しいというものではない。上は上で、下から尊敬される行動が求められる。まぁそんな学校での留年はそこいらの学校と比べてどんな扱いになるのか……想像するのも恐ろしいな。

ていうかジャンヌ、脚を痛めたみたいでギプスを着けた上に松葉杖付いてるな。

 

「遠山様、大丈夫でしょうか……。それに、ジャンヌ様も脚の具合が……」

 

「あぁ、それどうした?」

 

「……虫がな」

 

「虫?」

 

「あぁ、コガネムシの様な虫が膝に張り付いたのだ。それに驚いた拍子で側溝に脚がハマってしまったのだ。そこにバスが来て、な……」

 

全治2週間だ……と、遠い目をするジャンヌ。いや、それで2週間で済むってお前も大概丈夫だなぁ……。

それにキンジも、アイツ、ここ最近は金にも単位にもならない仕事ばっかりだったからなぁ。探偵科のEランク武偵にゃそんなに割の良い仕事も回ってこないだろうし。

と、友人の危機に俺も頭を抱えているとまたもやジャンヌが誰かに向かって手招きをした。そちらを見れば今一緒に登校してきたらしいキンジとアリアがやって来た。アリアも青セーラーを着ている。

 

「アンタが武偵校の預りになったのは知ってるけど、制服も似合うじゃない」

 

両腰に手を当てて上から目線のアリアにジャンヌもイラッとしたように言葉を返した。

 

「私は遠山を呼んだのだ。お前は呼んでいない」

 

「そっちには用はなくても私にはあるの。……ママの裁判、アンタもちゃんと出るのよ」

 

「……分かっている」

 

「ま、怪我してるみたいだし、苛めるのは今度にしてあげる」

 

あくまでもアリアは上から目線。

だが怪我をしていてもジャンヌはジャンヌ。その気の強さは変わりはしない。

 

「私は今すぐにでも構わないぞ。脚の1本くらいはちょうど良いハンデだ」

 

いや構えよ。ていうかいくらお前でもここで片脚はアリア相手じゃ分が悪いだろ。

 

「いや構えや。……ていうかキンジ、お前ここに名前出てるぞ?」

 

「えっ!?」

 

俺の言葉に凄まじい勢いでキンジが掲示板に張り付く。

 

「なにキンジ、アンタ留年するの?馬鹿なの?」

 

ちなみにこの武偵校は授業以外でも教務科から斡旋された仕事でも単位を補填できる。俺も授業の成績は人のことを言えたものではないけれど、こっちで単位を獲得して今のところ既に卒業できるだけの単位は揃えている。

 

緊急任務(クエスト・ブースト)には何かねぇのか?」

 

緊急任務、武偵校は大概キンジみたいなのが出るので──というか今日の時点でキンジの1.9単位不足は多い方だが、それ以外にも結構単位不足者は出ている──そいつらの救済のために教務科が任務を持ってきてくれるのだ。

 

「……お?」

 

キンジの後ろから俺も緊急任務を覗けば、1番上に記載されていたのはカジノ"ピラミディオン台場"での警備、報酬の単位はちょうどキンジの不足単位と同じ1.9。しかし、帯剣もしくは帯銃と必要生徒数4人はともかく、女子推奨とは一体……。それに被服支給有り、か。……てかこのピラミディオン台場って最近お台場に出来たカジノ施設か。何でも創設者が海から流れてきた三角錐だか何だかにインスピレーションを受けて建てたのがこのカジノだとか。

だいたいこの手の建物には武偵が用心棒として雇われているのだが、大概事件なんぞ起きないから武偵の間じゃ腕の鈍る仕事としてバカにされがちだが……まぁ普段のキンジにならちょうど良い仕事かもしれんな。

 

「……アリア、お前もやれよこの仕事」

 

と、珍しくキンジからアリアへの誘い。だがキンジに誘われたアリアは随分と嬉しそうだ。パートナー同士困った時はお互い様だとか言ってるけど上機嫌でその誘いに乗っていった。

そしてそのまま校舎に歩いて行く2人をボケっと見送る。女子推奨の任務(クエスト)だからか、キンジは俺に声を掛けることはなかった。

 

「……俺達も行こうか」

 

「はい。それではジャンヌ様、ごきげんよう」

 

「あぁ、私ももう行こうか」

 

この3人でいると、何となくイ・ウー時代を思い起こさせるな。俺はそんな感慨を抱きながら校舎へと歩き出した。

 

 

 

───────────────

 

 

 

"他の武偵校から来たカナとかいう超絶美人な女子生徒が、神崎アリアと強襲科のコロシアムで戦ってるなう"

 

"あの神崎アリアが押されてる"

 

武偵校の裏ネットに書かれている書き込みだ。投稿者は誰だか知らんけどこの場にいる大勢の中の誰かだろう。

今俺は強襲科のコロシアムに来ている。カナから「今日アリアと強襲科で闘るから」とだけ連絡が来たのだ。なので来てみたらちょうど戦い始めるところだったので最前列で観戦させてもらっている。

しっかし、カナはものの見事にアリアを手玉に取っているな。強襲科のSランク武偵であるアリアが手も足も出ない、まるで子供と大人だ。

……実際、カナは19なので武偵校の赤セーラーはコスプレになってしまうんだけどな。

 

と、余計なことを考えていたら一瞬カナがこっち見たぞ。こっわ……この模擬戦終わったら即逃げよう。

 

あのアリアが聖痕持ちでもないカナに手も足も出ない理由。それがカナの得意技、不可視の銃弾(インヴィジビレ)だ。

原理はただの超絶早撃ちなのだが、銃を抜くところも、射撃の瞬間も、銃を仕舞ったところも何も見えないからそう呼ばれている。そうでなくともカナはHSSの状態なのだ。そう、HSS(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)。カナはキンジと同じく遠山家に連なる人間、というよりキンジの兄である。キンジの兄、遠山キンイチが女装するとカナになり、それがヒステリアモードの発動に繋がるというよく分からん人物だ。だがとてつもなく強い。俺なら強化の聖痕を使えば勝てるには勝てるが、それはただ体力でゴリ押すだけ。それ無しでの戦闘技術じゃ俺はカナには遠く及ばない。

しかしカナとアリアの戦いと呼べるのかも微妙な一方的な蹂躙は終わりを迎えた。

どこかで噂を聞きつけたらしいキンジがコロシアムに乱入してきたのだ。元々カナにはアリアに対して殺気が欠片も無かったから、多分もう終わりだろう。カナの折檻も怖いし、ここら辺で俺は退散させてもらおう。

 

 

 

「そうですか、カナ様が……」

 

その日の夜、俺とリサは寮のリビングで2人で夕飯を食いながら午後の強襲科での話をしていた。

 

「うん、まぁ途中でキンジが割り込んだし、どうにかなったぽいけどな」

 

武偵校の裏ネットにはあの後、婦人警官が1人突撃してきてギャラリーを追っ払ったらしいという書き込みがなされていた。だからそれ以上のことは俺も分からない。キンジに聞いてもいないしな。

 

「そういやリサ、7月7日って空いてるか?」

 

「えと……はい。その日は予定はありません」

 

「お、ならさ、上野で夏祭りやるんだってさ。行こうぜ」

 

ここんところ、2人でいられることが少なかったからな。久しぶりのデートだ。

 

「はい!喜んで!」

 

ん、リサも嬉しそうだ。俺にはそれが1番嬉しいよ。

 

 

 

───────────────

 

 

 

7月7日夕方の上野駅。

人で、と言うよりそのほとんどがカップルか家族連れか、独り身で今日この時間にここにいる奴はそういない。いたとしてもそれはその瞬間に連れがいないだけで待ち合わせの雰囲気を漂わせている人間ばかりだ。かくいう俺もその1人。念の為武偵手帳(チョウメン)と手錠、拳銃に雪月花は持ってきているが防弾制服は着ていない。普通の服だ。

 

待ち合わせの時間まであと15分。待たせる訳にもいかんだろうと早目には来たがリサはまだ到着していないようだった。

なんでも、雰囲気のためにもそれぞれバラバラに出ましょうとのことだった。同じ家に住んでるのに面倒とも思わないでもないけれど、武偵になってリサと一緒に暮らし始めてからこっち、こういう時はだいたいそう言われるのでもう慣れた。

アドシアードの前、葛西臨海公園で花火大会があった時もそんな風に言っていたしと思い出しながらボケっと突っ立っていると、何やら駅の方がザワつき始めた。もっとも、何か事件があった風ではない。どちらかと言えばお忍びで来ていた有名人が見つかったかのような騒ぎ方だが……。

 

「…………」

 

はたして、人垣を分けて、と言うよりモーゼの海割りよろしく勝手に別れたそれから出てきたのは浴衣を着たリサだった。いつもは下ろしている金髪を後ろで纏めているが、その金糸は駅の明かりを反射して眩いくらいに輝いている。

着ているものもいつものクラシカル防弾制服ではなく白地に赤や青の朝顔が咲き乱れている浴衣だ。帯は白に近いピンク色で、それらの色合いがリサの透明感をより際立たせている。

なるほど、リサのあまりの可愛さに皆驚いているんだな。分かるよ、俺も毎回その可愛さに驚かされてるからな。しかし、当のリサ本人はキョトンとした顔でこちらへ向かってくる。そして、俺の姿を認めたらしく、パァっと満開の桜よりも可憐な笑顔を咲かせた。

その瞬間に、俺は自分の胸の中から何度目とも知れぬ恋に落ちる音を聞いた。

 

しかし、普段は防弾制服が武偵であることを殊更に強調しているから不躾な声を掛けられることはあんまりなかったが、今のリサはその鎧を纏っていない。その上今この瞬間は俺も傍にはいないのだ。そんなリサには当然───

 

「ねぇねぇ、今から俺達と遊び行かない?」

 

とまぁ、街灯に誘い込まれた蛾の如き悪い虫が着くわけで……。

これが他の武偵女子なら話は違ったのだろうが、リサは星伽と並んで武偵校でもトップクラスに控え目な性格だ。まぁ、星伽の場合は半分猫被ってるのもあるが……。

ともかくこれがアリアや理子、ジャンヌであればどうにでもなったのだろうが、リサにそれは無理だ。改札を出る前に変なのに捕まってしまった為にオロオロとするばかり。ま、こんな時のために駅員のいる改札を選んだわけで、俺は武偵手帳を駅員に見せて改札の中に入れてもらう。そのまま今にも無理矢理連れて行かれそうなリサの方へ向かい───

 

「悪いんだけどさ、この子は俺と約束があんのよ」

 

リサに絡んでいた男2人の間に割って入りリサと肩を組む。

 

「あ?誰だお前……?」

 

急に現れた俺を柄の悪そうな大学生くらいの男2人が睨みつける。けどまぁ、蘭豹くらいじゃないと全く怖くないのよ。そんなんじゃ強襲科なら1年でもビビらねぇよ。

 

「こういう者なんだけど、あんまり強引だと"お話"聞かなきゃいけなくなるんだよね」

 

と、俺は武偵手帳をコイツらの目の前にかざす。それを見た2人はサッと血の気の引いた顔をして何も言わずに去っていった。

 

「ありがとうございます、天人様!」

 

ギュッと、リサが俺の腕に抱き着く。浴衣越しでも分かるその身体の柔らかさに俺も胸が高鳴るがイ・ウーと強襲科で鍛えたポーカーフェイスでやり過ごす。あぁここが天国か。

ちなみにリサには「事情を知らん人がいる所ではご主人様と呼ぶな」と言ってある。流石にそれ聞いたら変な目で見られるからな。

 

「いいって。当然だろ?……ほら、結構見られてるしもう行こう」

 

「はい!」

 

花のような笑顔とはこういうのを言うんだろうなと思いを馳せながら俺はリサの手を引いて改札を出る。一応もう1回手帳を見せながら改札を出たのだが、その時の駅員の顔には嫉妬の色が隠せていなかった。もっとも、それも俺にとっては優越感でしかないのだけれど。

 

「しかしあれだな。制服着ないで外出る時は待ち合わせは考えた方がいいな」

 

「申し訳ございません……」

 

「気にすんなよ。あぁけど、リサはもう少し自分が可愛いことを自覚した方がいいな」

 

「そんな、リサなんて」

 

顔を伏せているが耳まで赤くなっているから隠しきれていない。そんなところも可愛いのだから本当にリサはずるいと思う。

 

「じゃなきゃ声掛けらんねぇだろ」

 

ま、このレベルに声を掛けるんだからアイツらも中々に勇者だったとは思うけどな。実際、葛西の時もあっちの最寄り駅で待ち合わせしたけど誰にも絡まれなかったみたいだし。

 

「そうでしょうか……?」

 

つい、とこちらを上目遣いで見てくるリサはもう本当に可愛くて、見られてるこっちが恥ずかしくて目を逸らしてしまいそうになるくらいだ。惚れた弱みと周りは言うのだろうけど、贔屓目なしに見てもリサにこんな風に見つめられたら大概の奴はどうにかなるだろ。

当然それは俺も例外ではなく───

 

「あぁ」

 

とだけ返すのが精一杯。返答に詰まらなかっただけでも褒めてもらいたいもんだ。

それでも恥ずかしさを誤魔化したくて、繋いでいた手を一旦離してリサの腰に回す。そしてリサの右手の甲を指で撫でればリサも手に持っていた小さい巾着みたいな物を左手に持ち替える。それを横目に確認して俺はリサの右手に自分の右手を重ね、腰から抱き寄せる。

 

「……浴衣、似合ってるよ。可愛い」

 

「ありがとうございます」

 

リサの顔が赤くなりっぱなしなのは分かっている。けれど俺もきっとリサに負けないくらいに真っ赤な顔をしているのだろう。夏の風が涼しく感じるのだから。きっとお互いに林檎みたいな顔になっていそうだ。

 

 

 

───────────────

 

 

 

──アリアが連れて行かれた──

 

その知らせが届いたのは7月24日の夜中、時計の日付じゃもう25日になった頃だった。

 

ピラミディオン台場でのカジノ警備中に砂で出来たゴーレムだか傀儡だか、とにかく超能力(ステルス)で動く操り人形に襲撃されたキンジ達はこれを迎撃。しかし外に逃げた1匹をアリアと追い掛けたところでイ・ウー所属の魔女・パトラに襲われたらしい。そしてアリアは彼女に拉致され、キンジも彼の兄である遠山キンイチと交戦、勝利を収めるも水に落ちて武偵病院に運び込まれた。

 

また、その任務の際に星伽が脳震盪による負傷で気絶、無傷だったのはレキだけで、そこで彼女から聞いてようやく俺達は事情を知ることとなった。

そこで、アリアが敵組織に拉致されたことだけ話して車輌科の武藤と強襲科の優等生である不知火にもとある作業を手伝ってもらった。

 

とある、なんてボカシていても大したことではない。脳震盪から快復した星伽がアリアの場所を占い、そこへ到着できるだけの乗り物を作ろうというのだ。もっとも、武偵校にはジャンヌがこっちに乗り付けてきた魚雷みてぇな潜水艇がある。その部品を一部取り外してとにかく燃料を積み込めるようにしただけだ。設計、製作指揮を武藤が、力仕事や組み立てを俺と不知火、ジャンヌで手分けしてようやく完成だ。

 

そこへ、理子に連れられたキンジがやって来た。

 

「おうキンジ、やっと起きたか」

 

「天人……皆……。武藤に不知火まで、お前ら……」

 

「別に細かい事情は聞いちゃいねぇよ。武偵の書いた本にも載ってたろ。好奇心武偵を殺すって」

 

「遠山くんが最近危ない橋を渡っていたことは皆薄々勘づいてはいたんだけどね。ほら、武偵憲章には要請無き手出しは無用のことってあるし。だから仲間を信じ仲間を助けよ、やっと遠山くんの手助けが出来て嬉しいよ」

 

……不知火、お前顔だけじゃなくて心もイケメンだよな。俺は絶対そんな風には言えねぇわ。

 

「とりあえずこの潜水艇は太平洋のド真ん中まで走れるようにはした。後で迎えには行くけど、燃料は流石に往復分には足りねぇ。自力じゃ帰って来れねぇぞ」

 

「……ありがとう」

 

「ま、お前が巻き込まれたのも───」

 

「ん?」

 

「……いや、それよりお前は行くの確定として、乗れるのは全部で2人だが、どうする?俺が行きゃあ確実にあの魔女はぶっ飛ばせるが……」

 

俺が去年の3学期にアリアの誘いを断らなければキンジは巻き込まれなかった。だが今のこいつらにそれを言うのは違うだろう。

野暮なんてもんじゃあないから、これは俺が墓場まで持って行ってやらなきゃならないことだ。

 

「私に行かせて、神代くん」

 

そして、俺の言葉に強い意志を感じさせる声色で返したのは星伽だった。

 

「……仲間を信じ、仲間を助けよ。お前がその気なら俺はお前を信じる。それだけだ」

 

俺がその気にならば銀の腕で太平洋上を飛んで行って1人で制圧も可能かもしれない。もっとも、アリアという人質がいる以上は連れて行ける最大人数ほしいというのもまた本音だが。

 

「それに、ゴメンね。こんなこと言うのは間違ってると思う。けど言わせて」

 

「……あぁ」

 

「神代くんはこの戦いにこれ以上手を出さないでほしい。これは、私達の問題だから」

 

その言葉に、この場に緊張が走る。俺の力を知っているジャンヌと理子、キンジ、それから知らないはずの武藤と不知火では緊張の意味合いは違うみたいだが。

 

「……あぁ。けどな、そう言い切った以上は絶対戻って来い。んで、1発その頭にゲンコツ落とさせろ」

 

「ふふっ、頭洗って待ってるね」

 

「はっ、言うねぇ」

 

星伽のその笑みに俺も口の端を釣り上げて返す。それは自嘲染みたものでも諦観のそれでもなかった。ただ本気で俺をおちょくっただけの笑み。けれどこの場でそれが出せるだけの気概があるってことなんだから、結構なことだ。

 

「さ、ほら準備しろ」

 

俺はキンジに軽装ではあるが強襲用のB装備をくれてやる。そしてジャンヌも乗り込んだ2人、というか星伽に自分の魔剣(デュランダル)を渡していた。その時に本当は良い人だよね、的な事を言われて赤くなるジャンヌだったが、星伽はよく分かってるな。ジャンヌはなんか刺々しく振舞ってるけど実はめっちゃ良い奴だ。なんでこいつがあんな性格の悪い作戦を立てられるのか不思議なくらいにな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

空から女の子が降ってくると思うか?

物語の中じゃありふれた展開だけど、実際そんな子、普通なわけがない。普通じゃない出来事に巻き込まれて、普通じゃない世界に連れて行かれるんだ。俺はどうせなら平和が良いね。リサが空から降ってこなくて心底良かったと思うぜ。

 

それはともかく、もし仮に、その女の子が男の子と一緒に降ってきたら?きっとそいつらは普通じゃない出来事に巻き込まれて、普通じゃない世界を戦ってきたんだろうな。だからもし空から知らない男女が降ってきても俺は無視するかもな。巻き込まれたくないし。

 

だけどそれがもし、俺の知っている奴らだったら?

 

───そうだな

 

武偵憲章1条、仲間を信じ、仲間を助けよ。

これに従って受け止めてやらんこともないかな。

 

だけどさ───

 

その長いツインテールを翼みたいにして減速しながら降ってくるのはどうなんだ?お約束的にさ。

 

あぁホント、普通じゃないよ。この学校は。

 

理子はこういうお約束をテンプレとか言ってたけど、そのテンプレですらウンザリするくらいに普通じゃない。

 

そして、そんな奴らを受け止めに太平洋のド真ん中まで船を飛ばしてきた俺もきっと普通じゃない。

これからも普通じゃない出来事に巻き込まれて、普通じゃない世界で戦っていくんだろうな。

 

けどきっと、俺の横にリサがいてくれれば、その温もりさえあれば俺は絶対、どんな出来事にも立ち向かっていける。どんな世界だって乗り越えていける。そう思うよ。

 

だからさ、リサ。この手は離さないでくれ。俺も離さないからさ。約束だ。

 

 


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