昇華魔法が俺に与えたものは
そして俺は次なる目標へ向けて昇華魔法を完全に自分のものにするためのトレーニングとして、色々構想を巡らせていたものを1つ形にすることにしたのだ。
そしてターゲットに選ばれたのは八重樫の持つ黒刀。元々これには風爪と纏雷を付与していたのだが昇華魔法により1つの鉱石に2つの魔法を付与できるようになったため、色々と付け足してみようと思ったのだ。そこで俺は風爪と纏雷に加え、重力魔法、空間魔法、魂魄魔法、さらに衝撃変換も追加した。さらに俺はステータスプレートの血に反応する機能を解析、それを付与することで1度登録してしまえば後は一言の詠唱でそれぞれの機能を使えるようにしておいた。おかげで今の八重樫の黒刀は七つ道具並に色々できる便利アイテムと化していた。なんかもう色々付け足しすぎて逆に混乱せずに扱えるのか疑問だけどそれはまぁ八重樫なら大丈夫だろう。付与した魔法の1つ1つは独立しているし、最悪訳分かんなくなったら普通に切れる剣として使えば問題無い。
そんなことよりも今の俺には重要な問題がある。
分かってはいたことだけれど、もうこれを誤魔化したり隠したりなんてできはしないのだ。ならばただぶつかるしかあるまい。
そう思い立った俺は夕方、シアと共にフェアベルゲンのとある公園に来ていた。そして、その敷地内に置いてあるテーブル席に座っている。
お友達、と言うにはちょっとシゲキテキな関係性をご所望のアルテラナに追い回されてお疲れのシアはそのウサミミをペタリと萎えさせて机に突っ伏していた。そのモフモフのウサミミを弄びながらシアの隣の椅子に腰掛けた俺はチョイチョイと肩をつついて顔を上げさせる。
「なんですか?」
「んー、大事な話?」
「……なんで疑問形なんですか?」
シアが呆れ顔だ。……よく考えたら、俺からこういう話をするのは実はほとんど無かったと思う。リサの時は何だか勢いだった気がするしユエの時もミリムの時も向こうからだった。つまり、普段偉ぶってる割にこういう経験はあんまり無いわけで……。
「天人さん、なんか変ですよ?」
「うるさいなぁ……分かってるよ……」
ふぅと息を吐き、改めてシアの顔を見る。するとこれまでの旅では感じたことのない……いや、もうずっと前から分かっていた。ただ俺は自分を誤魔化していただけだ。けれどあの時から明確に、誤魔化しきれる量を遥かに超えて感じるようになったある思いが胸の中に去来する。
すなわち───
「好きだ」
「ふぇ?」
「シア、俺はお前のことが好きだ」
「……え?……あ?……え?」
突然のことに頭がついていっていない様子のシアだったがそれに合わせられる程俺にも余裕は無い。明確に言葉にして、その想いが自分の胸の内から溢れ出るのを止められないのだ。
「リサを残していて、ユエもいるのに本当はこんなの間違ってるって思うけどさ。でも俺はシアのことも本当に好きなんだよ」
「ちょ……ちょっと待ってください天人さん」
と、そこまで言ったあたりでシアに肩を掴まれて制止させられる。シアも顔は伏せているけれど顔が真っ赤に染まっているのを隠しきれていない。
「あの……、え、本当に、ですか?」
「冗談でこんなこと言うわけないだろ……」
「ですよね……。あの、天人さん」
「なんだ?」
「私も天人さんのことが大好きです。だから、その……」
「シア」
「はい……」
「愛してる」
俺は言葉のままにシアを抱きしめる。シアもそれに応えてくれて、俺の背中に腕を回す。シアの身体の柔らかさと、熱変動無効はこういう熱には効きやしないのだろうか。内に秘めた熱さが心臓の鼓動を通して伝わってきた。きっと俺のそれもシアに伝わっているのだろう。
俺達は同時に抱擁を解きあうとお互いの瞳を見つめ合う。そして俺達を隔てていた距離はもう一度完全にゼロになる。
……熱い。シアの唇から俺のそれにダイレクトに伝わる熱は抱き合った時にぶつけ合った心臓の鼓動を通して送りあった熱よりも遥かに高温で俺の脳みそを焼いていく。シアの息遣いが、鼓動が、体温が、シアを構成する全てが俺を昂らせていくのが分かる。1度俺達はお互いの唇を離し、銀糸の橋をプツリと途切れさせながらオーバーヒートしそうな熱を放出する。そうして一呼吸置いてからシアの「もっと」という視線に応えるようにシアの柔らかな花弁に指を這わせたところで───
「ふひゃっ……あの2人こんなお外でまた……」
「ちょっと鈴声が大きい!聞こえちゃうでしょ」
「そういう雫ちゃんも大きいよ!天人くんにバレちゃう」
「……全員うるさい。シアの邪魔するな」
と、何やら聞き覚えのある声がいっぱい聞こえてきた。真っ赤に染ったシアの顔を自分の身体で隠しながら俺が後ろを振り向くと、ドサドサッと音を立てて谷口、八重樫、香織、ユエが崩れ落ちてきた。そしてその奥からは天之河と坂上、ティオも現れた。……全員集合してるじゃねぇか。
「で、どうだったんじゃ?主からの情熱的なキッスの味はどうだったんじゃ?先抜けしたシアちゃんの嬉し恥ずかし体験談を妾にちょっと語ってぶへっ───」
「……自重しろ」
なんかウザい感じでシアの肩を組みつつ絡みに行ったティオだったが後頭部にユエの氷が叩き落とされていた。潰されたカエルのように倒れ伏すティオだが指で地面に「犯人はユエ」と書いているあたり実は余裕そうだ。
「ユエさん……」
「……シア……おいで」
ティオを見つめる絶対零度の視線から一変、シアには聖母のような微笑みを見せて両腕を広げる。
「ユエさぁ〜ん!」
と、それにシアが抱きつけばユエもシアをしっかり抱き留める。そしてそのまま優しい笑みを浮かべたままシアの紙を撫でてやっていた。
「ユエざんわだじ……わだじぃ……」
「ん、よく頑張りました……いい子いい子」
「ふぇぇぇぇん!ユエさん大好きですぅ!ずっと一緒ですぅ!!」
なんかもう君俺の時より喜んでない?ってくらいにシアは大号泣。ユエにとってもシアは大切な親友で妹で弟子で、ユエ以外のこの世界の全てに興味をなくしていた俺の心を解した存在であり、それは俺だけでなくユエの世界も広げたということだ。だからそんな大切な人であるシアを抱きしめその頭を撫でる手つきは何よりも優しく見つめる顔は慈愛に溢れていた。
だがこの弛緩した空気の中で1人だけ、張り詰めた様子で俺に話しかけてくる奴がいた。谷口だ。
「あの、神代くん……」
「ん、どした?」
「神代くん達は、神代魔法を全部手に入れて、帰る手段を見つけたら自分の世界に戻るんだよね?」
「そりゃあ当たり前だ。……あぁ、もしそれが色んな世界を何度も行き来できるような代物なら、お前らを先に送り届けてからでもいいぞ」
「───っ!?本当に!?」
「回数制限とか無ければな。当然、1度きりなら俺はそれを俺たちのためだけに使うけど」
その代わりに大迷宮の在処くらいは教えてやっても構わないけどな、と付け足す。それだけなら特に不都合は無いし。
「それでも、ありがとうございます!」
ペコり、と勢い良く谷口が頭を下げる。まぁ、無条件に連れて帰ってくれると信じているよりは余程良いか。
「あの、それでですね……お願いばかりであれなんですけど……」
と、頭を下げたまま首だけでこちらを見て何やら言い辛そうにしている谷口。まぁ、こいつが言いたいことは何となく想像がつくけどな。次の大迷宮は魔人族の領地の真隣にあるから、その時に一緒に行きたいとかそんなだろう。
「次の大迷宮にも私を連れて行ってください!お願いします!!」
と、やはり予想通りのお願いが飛び出してきた。
「……中村、か?」
谷口は中村の裏切りにかなりのショックを受けていたからな。シュネー雪原での大迷宮攻略に挑んで、それから中村の元へ向かいたいのだろう。何せ俺は態々中村のことまで手助けしてやる気は無いしそれは谷口も重々承知だろうしな。どっちかと言うと、強くなりたいと言うよりは自分に自信を持ちたいのだろう。強くなるだけなら俺がアーティファクトでも何でも作れば良いのだから。
「……神代くんは何でも分かるんだね」
「お前らが単純なんだよ」
「そうかな……そうかも。鈴は、強くなりたいっていうのもあるけど、自信を付けたいんだ。大迷宮なら多少神代くん達に助けられても自分の力で試練を乗り越えなきゃ神代魔法は手に入らない。なら神代魔法を手に出来ればそれはそれだけ鈴自身が強くなったってことだと思うから」
だからお願いしますと、谷口は俺に願う。天之河や八重樫は谷口が単身でも魔人族の領地に乗り込む計画を聞いて引き留めようとしたが、それは谷口自身に払い退けられる。
「それでね、もし神代くん達の前に恵里が現れても殺さないでほしいんだ」
「……お前が説得でもするのか?」
蘇生できたとはいえ香織を殺した主犯を目の前にして俺も引き金を引かない自信は、正直に言えば無い。
「うん、それでもし恵里を説得できたら、恵里も一緒に連れて帰ってほしいんだ……」
「……中村が本当に抵抗の意思がないのなら帰してやる。けど形だけの恭順なら即殺す。アイツの力は俺にとっても油断できるものじゃあない。……説得が無理そうなら両手足縛って口も塞いで魔法陣も全て引っペがしてから連れて来い。そしたらお前らの日本に中村も帰してやる」
「ありがとう、それでも充分だよ」
俺とコイツらの世界は違う。一旦別れてしまえば中村が何をしようが俺達に影響が出ることは無いからな。もっとも、ターゲットにされているらしい天之河がどうなるかは知ったことじゃないけど、それは香織や八重樫がどうにかするだろう。
「神代、俺も行かせてくれ。恵里の狙いは俺なんだ。俺こそ恵里と話をしなくちゃいけないんだ」
そして、天之河が同じく同行を願えば坂上や八重樫も行くと言い出す。結局全員じゃないか……。
「それに、このままじゃ終われないんだ。雫だって神代魔法を手に入れられたのに……。俺だってあんな精神攻撃ばかりの卑劣な試練じゃなきゃ……。それに次の大迷宮はあの魔人族も攻略できた所なんだろ?なら俺だって必ず……」
「……必ず、何だ?必ず攻略出来るって?」
天之河の言葉に思わず俺の返す言葉も冷たくなってしまう。だがオルクス大迷宮で何度も死にそうな目にあった俺からすれば、天之河の言葉はあまりにも甘いと言わざるを得なかった。
「神代……?」
「甘ぇんだよ、お前は。お前がそのままで変わらないなら、例え次の大迷宮に挑んだって神代魔法は手に入らねぇ」
「なんで……なんでそんなことがお前に分かるんだ!?」
「そりゃ俺がこれまで6つの大迷宮を攻略してきたからだ」
「だからって……じゃあ俺はどうすれば良かったんだよ!!」
「迷うな」
「───っ!?」
「お前は一々自分と他人を比較し過ぎなんだよ。八重樫だって手に入れられた?あの魔人族でも攻略できた?だからなんだ、お前はお前だ、天之川。大迷宮を攻略したいならそんなことに拘るな。いいか天之河、お前はお前が思ってる以上に強いよ。だからやるべきこと、やりたいことを決めたならそれに向けて迷わずに力を振るえ」
言うことは言ったと、俺はシア達を連れて立ち去る。その時に香織に声を掛けてやってもらうことがあるからと香織も連れて行く。そう、俺も色々と昇華魔法を使いながら武装を整えていったので遂にあれを試そうと思ったのだ。
───────────────
結論から言って、聖痕の力は完全には戻らなかった。俺の昇華魔法を使ってユエ達の魂魄魔法を1段階上へと昇華させ、それによって前は破れなかった封印を引き剥がそうと思ったのだが、相当に頑丈に作り込まれているらしく、多少緩ませることはできたようだが、完全復活とはいかなかった。ユエ達が習熟した魂魄魔法と昇華魔法を使っても、いまだ完全には破れない封印を施したのはさすがと言う他ないな。おかげでスキル群の方の封印は破ることができたのだけど。
しかし、確かに完全には戻らなかったのだが、確実に封印は緩み、そこから溢れ出る力は前よりも大きい。おかげで「白焔」の力はまだ全くと言っていいほどに使えないけれど、魔素はさらに戻り、「強化」の聖痕の力は少しだけ使えるようになっていた。
そして今、俺達はシュネー雪原にある大迷宮へと挑み、その迷路の真っ只中にいた。
「ん?上が空いてんじゃねぇか」
と、坂上が上を見遣れば確かに迷路を仕切る壁は天井には程遠く、俺達であれば余裕で飛び越えられそうだ。それに今は全員に空力を仕込んだ靴やブーツを支給しているから、それが可能であれば壁の上を超えていくことも可能だろう。
「おっしゃ、こんな所でちまちましてるより上を超えればい───」
「いいわけあるかアホ」
ブヘェッ!と無警戒に上へと飛び上がろうとしたところを俺が脚を掴んで引き摺り落とし、顔面から硬い氷に落下した為に坂上は無様な声を上げて沈んだ。
「試すならこうしろ」
と、俺は魔法陣を展開、そこから人型の氷を生み出し、宝物庫から取り出したタオルを頭に巻いてやる。
「いいか坂上、この氷の像はお前だ。そうだよく見ろ、これは何にも警戒せずに大迷宮の中に飛び出した阿呆だ」
俺は坂上の顔を掴んで氷像に目線を向けさせる。そして作りかけの氷像を完成させ、そのまま上へと射出。だが坂上(氷)が数メートルも飛んだところで急に上の空間がたわみ、氷像が消え去った。俺はその瞬間に発生した魔力反応を目線で追いかけて、少し先に先程俺が巻いたタオルを発見した。どうやら氷の壁の中に埋もれているようだ。そして、その上にさらに氷柱が出現。氷の坂上を串刺しにせんとしているようだった。
「……香織、分解で氷の坂上を取り出してみてくれ」
「ん、分かったよ」
と、香織がその氷柱を分解し始めたところで上に控えていた氷柱が凄まじい速度で落下。香織の分解の羽にぶつかっては消滅していった。つまり、下手なショートカットをしようものなら氷の壁の中に封じ込められ、挙句に取り出そうと力技で壁を壊せば中に閉じ込められた奴は脳天に風穴を開けることになるという仕組みだ。
「……氷の柱に閉じ込められた挙句に氷柱で串刺しにされた坂上、何か言うことは?」
「……全面的に俺が悪かった」
「分かれば良し。……さて、あと試したいのはこっちだな」
と、俺は宝物庫から対物ライフルを取り出す。昇華魔法の入手により作り直されたそれはこれまでの同型品とは一線を画す火力を誇っている。赤雷を纏い、銃口を向けた先にあるもの全てを貫かんと放たれた超音速の弾丸は迷路を仕切っていた壁を纏めてぶち破る。だが砕かれた壁は即座に修復されてしまった。どうやら迷路をキチンと進まなければならないらしい。
「……さて、羅針盤はどうにか機能するみたいだな」
おかげで左手の法則とかやらずに済んだのは幸いだ。あんな方法でやっていたら何日かかるか分かったもんじゃないからな。
───────────────
鏡のようになった氷が俺達の虚像を映し出している迷路を随分と歩いた。その間には壁の中から魔物や罠やらがわんさかと飛び出してきたがそれは俺の感知系の固有魔法とシアのウサミミで事前に察知することで即座に対応していた。
すると、開けた場所に出たかと思えば目の前には荘厳で巨大な扉が現れた。そしてそこには4つの窪み。そう言えば似たような仕掛けをユエの封印された部屋でも見たことがあったな。
恐らくこれに対応する何かを嵌め込めば扉が開く仕掛けなのだろう。だがそれらを探し出すには羅針盤があるとは言っても、この罠だらけの迷路を再び歩き通さなければならないわけで、それは正直今の精神状況では御免蒙りたいのも事実だった。
「……真ん中に寄れ。端は何が出てくるか分からん。とりあえず休憩だ」
勇者組は歩き疲れたと顔に書いてあるし、俺も代わり映えのしない景色にいい加減飽き飽きしている。オルクスでも階層を下ればもう少し風景に変化があったな……。
俺は宝物庫から野宿用に作ったアーティファクトを召喚。それは外界の冷気や熱気等をカットし、地面にはモフモフの絨毯と日本が生んだ人類殲滅兵器たる炬燵を備えたものだ。しかも、外での活動を前提としているために、絨毯の毛などはその裏地に再生魔法等を付与した鉱石によって汚れても即座に綺麗に戻す効果があり、その効能はその上にいる人間にも及ぶ優れものだ。大迷宮の攻略は長丁場になることもあるしと、せっせと拵えておいて正解だったな。
足を伸ばしたかったというのもあり、元々大きめに作ってあるおかげで全員が炬燵に入ることが叶い、特に勇者組の顔が完全に寝落ちしそうだ。
俺の両隣にはユエとシアがそれぞれ陣取っていたのだが、ウサミミをしなだらせて、テーブルに上半身を倒れこませながらも顔だけでこちらを見ていたシアがふと何かを思い出したかのような顔となる。
「そう言えば天人さん」
「んー?」
シアの間の抜けた声で掛けられた声に俺も同じように抜けた声で返す。流石にそろそろ眠い。
「リサさんってどんな人なんですかー?」
「んー?」
……何だか勇者組の空気が嫌に冷たい気がする。特に天之河と坂上、谷口辺りは誰それって感じの顔をしている。香織と八重樫は一瞬考える素振りをしたが、直ぐに思い至ったようだ。
「……えと、神代。その、リサさんって人は誰なんだ?」
堪らずに天之河が俺に質問する。シアに聞き返す勇気は無かったようだ。そう言えばコイツらには話してなかったっけな。
「……俺がお前らともまた別の世界から来たことは話したと思うけど、その世界での俺の恋人だよ」
「……?……っ!?───待て待て待て!!あれ?何か?神代は元々付き合ってる人がいるのにこっちでも恋人を作ったのか!?」
「え?うん」
「悪びれもせず!?」
思わずといった様子で天之河は炬燵から起き上がっていた。んー、そこら辺をコイツらに説明すんの面倒臭い……。ユエやシア達ならともかく、天之河にまでするのかよ……。
「……そこら辺後ででもいいよな」
天之河には全く関係無いし。これに関しては何か言われる筋合いは無いからな。俺には説明する気が無いというのは何となく察せたらしい天之河は形だけは「それなら」と納得したう風に元の場所へと戻った。で、どんな人か、だっけか。
「……意外と説明が難しい。もうちょい絞って」
「んと、では性格的にはこの中の方達だと誰に近いですか?」
ふむ。この中からリサに近い人、か……。
まずユエと谷口、それから八重樫ではないなと、俺は残されたシア、ティオ、香織の顔を順番に見ていく。その時に何やらユエが俺の服の裾を引っ張ってこっちを見ろと催促してくるが、残念なことにユエとリサは性格の面で言えば似ているところはあんまりない。なので頭を撫でてやりつつやはり視線は向けない。
「んー、性格、だと香織、かなぁ……」
そう言えばユエからのこっちを見ろ攻撃が止む。ユエが今どんな顔をしているのかは見なくても分かるので置いておく。
「え、私?」
「最近は特に俺への弄り方がよく似てきてる」
「そっち!?」
リサ、一応メイドなのにな。ひどいもんだ。
「なるほど、物腰が丁寧で優しくて気を遣えるけど時々天人さんに毒を吐く、と」
「だいたいそんな感じだ」
「あ、フォローありがと……」
シアのフォローが優しい。……優しいか?
「それは置いておいて、あれだな、大人しいシアと言ってもいいかもな」
「じゃあ見た目の雰囲気は誰なの?」
と、八重樫からの質問。けどこれの答えは決まっているよな。
「シアだな」
「即答なんですね。えへへ……でも嬉しいですぅ。天人さんがこうまで惚れている人と似ていると言われるの」
シアのごく一部に目が行ってしまったのは誰にも気付かれていないはずだ。そう、例えユエが凄まじく冷たい目で俺を見ていても誰も気付いていないのだ。
「具体的にはどんな所が似てるの?」
と、これは香織から。
「む……耳と尻尾」
香織の質問にガバりとこっちを向いた時に揺れた山脈からは決死の覚悟で目を逸らしましたよ。なので皆さん俺をそんなジトッとした目で見ないで……。
「……天人」
ユエの声がヤバい。具体的にはその絶対零度の声色に俺の全身の細胞が凍りつきそうなくらいにはヤバい。
「……なんざましょ」
「……天人は言った。大きさよりも誰の物かが重要だと」
「……言いました」
「……こっちを見て」
「……はい」
無理矢理ユエの方を向かせられる。そこにいたのは何だか悲しげな顔をしたユエで、その瞳が少し潤んでいるようにも見えて……。
「……んっ」
だから俺はユエのその華奢な、ちょっと力を込めれば直ぐに折れてしまいそうな嫋やかな身体を抱きしめる。
「ユエはユエで、シアはシア。リサはリサだよ。皆それぞれに良い所があるんだから、誰も誰の代わりにもなりゃしないんだ。ユエだってそのままでもこれ以上無いくらいに魅力的だよ」
「……んっ、許す」
「ありがとな……」
「……あのぉ、私のウサミミとウサ尻尾が似てる所って言うのは?」
「ん?あぁ、リサはまぁ、こっちで言えば亜人族?みたいな感じでな。だから普段は普通の人間の身体だけどその気になれば狼の耳と尻尾も生やせるんだ」
リサの血の力の、本当のところは言わないでおく。リサがあれを嫌うのなら俺もそれを嫌おうと決めているからだ。もちろん、あれを使わせる気も更々無いし。
「……神代の世界はほとんど俺達の世界と一緒って聞いてたけど、結構ファンタジーなんだな。てことはその、リサさん?もトータスで言う亜人族、みたいな呼ばれ方をするのか?」
「あ?……んー、特にそういうのは無いな。基本秘密にしてるし。一般人はやっぱりお前らのとこと変わらないよ。むしろ、今まで天之河達が気付いてないだけでそっちにも結構いるかもよ?」
「……私達の地球のことは置いておいて、リサさんってフルネームだとなんていうのかな?」
再び香織の質問。
「リサ・アヴェ・デュ・アンク。オランダ人だよ」
「オランダ!?神代くんオランダ語とか話せるの?」
グローバルなところに反応したのは谷口だった。
「まぁな。両親は日本人だけど産まれはオランダで小さい頃はそっちに住んでたからオランダ語と日本語がネイティブで、その後に住んでた所がドイツ語と日本語が公用語だったからドイツ語、あとそこで俺に色々叩き込んだ奴がイギリス人だったから英語も少し。ついでに知り合いにフランスに縁のある奴が何人かいるからフランス語も少し聞き取れる」
よくよく考えたら4ヶ国語話せるのは結構頑張ったと思う。ドイツ語はリサが勉強してたからってだけで俺も覚えたけど。
「よ、4ヶ国語……。実は神代くんって頭良いキャラだったのか……」
「おい待て谷口、それは俺んこと頭悪い奴だと思ってたのか?」
確かに偏差値40位の武偵校でも偏差値40位だったから勉強はできないと言っていいけれども。英語とドイツ語の勉強以外はあんまりやる気なかったのをシャーロックも察してて、俺に無理強いしなかったというのもある。そして俺はそれに胡座をかいてろくすっぽお勉強をしてこなかったのだ。
「え……いやそんなことは……あっ!じゃあ特技!リサさんの特技とかは?」
明らかに谷口は誤魔化そうとしているがまぁいい。俺が学校の勉強はろくに出来ないのは事実だしな。
「んー、家事と呼ばれること全般。それから値切り」
「値切り?」
「うん。金額交渉ができる所ならだいたいは7割引位で買ってこれる」
「な、7割!?」
「前に核弾頭を7割引で買い叩いてた時は笑ったな。売った側が泣いて帰っていった」
「核弾頭!?」
俺以外の奴らの声が揃う。とは言えその顔に浮かぶ表情はそれぞれだ。トータス組は「核弾頭とはなんぞや」という顔、召喚組は「核弾頭って売り買いできんの?」みたいな顔になっている。
「え、神代くんは世界征服でもするつもりだったの?」
「するか馬鹿。リサは俺らのいた組織の調達とか経理とか担当してたからな。使うのは俺じゃねぇ」
「待て待て待て待ってくれ!核を買う!?武偵って治安維持を生業にしてるって聞いたぞ!?」
「……核弾頭って何?」
ちょいちょい、と俺の袖を引っ張る感触。振り向けばユエが疑問顔だ。シアとティオも。そりゃそうだ。こっちの世界に核ミサイルなんて無いからな。その上異世界組は聞いた途端に目の色変えてるし。
「んー、まず核弾頭ってのは核と弾頭に別れててな。俺が時々使うミサイルあるだろ?ウルの時にシアに貸したやつ。まずあれの先っぽの、要は爆発する所が弾頭って言うんだよ。で、核弾頭ってのはその弾頭に核を仕込んだやつって意味だ」
相当簡単に言えばな、と付け足す。
「で、その核ってのはまぁ、超ヤバイやつで、俺達の世界ではエネルギー源としても使われてるんだけど……」
そこら辺は置いておこう。
「それを兵器として使うと、まぁ多分帝国くらいなら1発で更地になる」
トータス組の顔がポカンとなる。そりゃそうか。あの帝国を一撃で滅ぼす兵器なんてこの世界には無いはずだからな。
「俺の持つアーティファクトのどれよりも、というかユエの神罰之焔よりも破壊力があるな」
「……そんなに?」
「あぁ。あれはそれだけの力がある。ま、おかげで持ってる国はあっても使えやしないんだけどな」
それによる報復攻撃が怖すぎる故に。
「……むしろ、そんなのを買ったりすることってできるんですか?」
「あぁ、オランダを諸事情で出た後に俺とリサがいたのはイ・ウーっていう組織でな。まぁ言ってしまえば秘密結社みたいなとこだ。……ていうか、これほとんど俺の話になるな。リサの話はどこいった」
だが、ユエ達はリサのことそのものよりも、俺とリサの馴れ初めやイ・ウーについて聞きたそうだった。トータス組と香織は馴れ初めを、勇者組は俺の過去やイ・ウーについて、というふうに別れている。
「はぁ……」
俺は宝物庫から2機のビット兵器を召喚。導越の羅針盤を使って目の前の荘厳な扉を開く鍵の在処を検索した。
「とりあえず鍵を探しながらだな」
瞬光を習得してからこっち、俺の知覚能力はこれを使っていなくても普段よりも高いものになっていた。今の俺の知覚能力は2機を探索に出す程度なら瞬光を使うまでもないところまで到達していた。
「で、リサとの馴れ初めとイ・ウーってなんぞや、だっけか……」
うんうん、と全員が同じ様に頷いている。そんなに気になりますかね……。
「まぁそうだな。イ・ウーってのは第二次世界大戦、ユエ達に分かりやすく言うならまぁ……ハイリヒと帝国が戦争するようなもんかな。俺達の世界には表向きはこっちで言う魔人族とか亜人族はいなくて、人間族しかいないからな」
この説明はさっきのリサの話でも少ししたけどな。
「で、伊・Uのイはイタリア……あぁ、俺達の世界はトータスよりもっと色んな国とそれぞれに言語があってな。で、そのイタリアって国の名前を日本語……ってか漢字で書いたあの伊だ。で、ウーってはアルファベットでU、こっちはドイツ語なんだよ」
そして勇者組の顔を見渡せばだいたい察した顔をしていた。まぁ、コイツらの世界と俺の世界の歴史はかなり近いみたいだからな。同じような戦争が同じように起きているんだろう。
「ふむ、そこら辺の主達の世界の常識というのは今は妾達にまで解説しなくてもよいのじゃ。話が進まなさそうじゃからな」
と、ティオが言えばユエやシアもそれに頷く。
「あぁ、そりゃ助かる。……えと、伊・Uってのは元々その三国が作った潜水艦の名前でそれをそのまま組織名としててな。ま、その潜水艦もゴタゴタに乗じて盗んだやつなんだけどな」
と言えば異世界組は全員が再びのポカン顔だ。まぁ、普通に枢軸国から潜水艦パクったとか言われたらそうなるよな。俺も後でこんな顔になったし。
「で、そのイ・ウーって組織は色んな方面から才能のある奴を集めててな。俺とリサはオランダにいた頃からの幼馴染みなんだけど、そこで色々あって2人ともイ・ウーに入ったんだ」
「その、色々、というのは……?」
「強盗に襲われて、俺達のもう1人の幼馴染みと俺の両親が死んだ」
「え、……あ……あの……すみません……」
「気にすんな、シア。その強盗も俺が始末したから」
と、選んじゃ駄目な話題だったかもという顔をしたシアの頭を撫でてやる。大丈夫だよ、これはもう終わった話だから。
「……でだ、その時リサを勧誘しに来ていたイ・ウーのボス、俺達は"教授"って呼んでたが、そいつに俺も連れて行ってもらったわけだ。身寄りも無かったしな」
「……始末って、殺したのか……?」
絞り出すような天之河の声。こっちの世界での殺し合いならともかく、法治国家である向こうの世界の国での個人的な報復による殺人まではそう看過できるものではないのだろう。
「その場で殺らなきゃこっちが殺られていた。向こうも超常の力を使ってたからな。逃げて警察へ、なんて暇はなかったんだよ」
「そんな……」
「……今そんな話をする気は無いし、聞きたいのはイ・ウーだろ?言っておくが、イ・ウーもろくな所じゃない。俺だけじゃなくて、戦闘力の無いリサまでそういう手合いと戦わせようとしてたからな。だから俺は鍛えたんだよ。リサが戦わなくてもその分俺が戦えるように。戦闘なんて出来なくて、そんなのが大嫌いなリサを守りたかった。あの時の俺はリサまでいなくなっちまったらどうにかなってしまいそうだったからな」
ふぅ、と一呼吸置く。まさか勇者組にまでこんな話をすることになるとはな……。
「その中でお互い惹かれあって、ということですね」
「そんな感じだ」
「そんな裏組織なのに、核弾頭なんて派手な物を買うのね」
「まぁICBM持ってるしな。潜水艦で移動するから居場所も掴めず、どこから核を放つのかも分からない、そんな組織相手にどこの誰が事を構えようってんだって話よ。ま、そこももう潰れたけどな」
「え……?」
「ボスが倒されたんだよ。で、そこは腕っ節が正義みたいなところがあったから、トップが倒されりゃそりゃ皆散り散りだ。元々そんな結束力のある組織じゃない。ただそれぞれの目的の為にお互いの力を高め合う場所だったからな」
「……そのボスは神代が?」
「いや、倒したのは俺じゃない。まぁ倒したっていっても、逮捕直前で教授はそのICBMに乗ってどっか消えたみたいだし、実は生きてそうな気もするけどな」
「なんていうか……」
「聞けば聞くほどに分からなくなるわね……」
「俺もよく分からんしな。ま、そういう訳で、俺は10歳くらいから戦闘訓練も経験も積んできた訳で、そりゃスポーツとしての武道しかやってこなかった奴らにはそうそう負けんよ、ということだ」
「ふむ……しかし妾としてはもう1つ気になることがあるんじゃが……」
今まであまり声を出していなかったティオがゆったりと炬燵から抜け出して、しゅるりと俺を背中から抱きしめる。
「ん?」
「なに、主がシアに想いを告げた時のことじゃ。リサやユエとそれなりの経験を積んでるはずなのに随分と初々しい告白だと思ったのじゃ」
「……あぁ、そりゃあぁやって普通に告るのとか初めてだったからな」
「ほぉ?」
「リサとは成り行きだったし、後は全員向こうからだったからなぁ」
「ん?」
「あ?」
「いえ、リサさんとユエだけの割には"全員"って変な言い回しだと思っただけよ」
「あっ……」
あぁ、これは不味い。今の八重樫の発言にユエとシアが凄まじい勢いでこちらを振り向き睨んでくる。しかもその目がとんでもなく怖い。
「……どういうこと?」
「天人さん!?私、聞いてませんよ!?」
「いや待て違う!大丈夫だから!」
「何が大丈夫なんですか!?」
「ミリムには振られたしもう別れたから!今俺が付き合ってるのはリサとユエとシアだけだから!」
「……その子だけ?」
「告……られたのはあと3人いるけどそれだけで何も無いよ」
元の世界はともかく他の世界の話はノーカンにさせてもらった俺の弁明──と言っても本当のことだけど──を一応2人は聞き入れてくれたみたいで、直ぐに引き下がってくれる。
「……信じる」
「天人さんがそう言うなら……」
が、それはそれとして何やら天之河と坂上の顔がニヤついている。
「……そこの男2人、何ニヤついてんだ」
「いやぁ、あの神代も振られることがあるだなぁって」
「意外と人間味があるじゃないか」
「お前ら俺のこと何だと思ってんだ……」
俺の呟きは2人の小憎たらしい笑みに押し潰されてしまっていた。