セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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幕間の物語:オルクス大迷宮にて/射撃の才能

幕間1:オルクス大迷宮にて

 

俺はオルクス大迷宮の地獄の底で出逢ったユエと行動を共にしている。俺達はこの縦に続く大迷宮を下へ下へ向かって進んでいた。この地獄のような大迷宮の底には反逆者と呼ばれていた奴らの寝ぐらがあり、そこから地上へ出られるかもしれないからだ。

 

そしてあの閉じられた部屋での出逢いからいくつかの階段を降りて、何故か今、頭から花を咲かせたテイラノサウルスみたいな魔物の群れに追い回されていた。

 

「何なんだコイツら……」

 

「……何かに操られてる?」

 

と、俺の背負った、魔物の骨と毛皮で作ったランドセルの上に乗ったユエがそんな予想を呟く。

 

そう言えば、さっき1匹だけ頭に似たような花を咲かせたティラノサウルスがいたのだが、ふよふよと揺れるそれを何の気なしに撃ち落としたところ、何やら腹いせのようにその花をゲシゲシと踏み潰してその魔物はどっかに行ってしまったのだ。

 

もしかしたらあの花はどこかへ別の所にいる魔物の物で、あれを生やされた奴はそいつに操られてしまうのかもしれない。

 

そして俺ははたと気付く。このティラノサウルスの魔物、さっきからある一定の場所から俺達を引き離すような追い回し方をしているのだ。つまり、コイツらには行ってほしくない場所があるのだろう。そうと決まれば……。

 

「ユエ、コイツらの包囲の1番厚い所を抜ける。援護頼んだ」

 

「……んっ、任せて」

 

俺が右手に電磁加速式の拳銃を構えればユエも左手に魔法を展開。真紅と緋色の槍が魔物の頭を撃ち砕く。更に俺は空力で上へと跳躍。魔物の頭上に躍り出た瞬間に空力と縮地で包囲網を突破しつつ空中で反転。追いかけてくる文字通りの頭お花畑の魔物共の顔面を俺とユエの放つ超音速の弾丸と緋色の炎槍で次々に貫く。

 

そうして大迷宮を走り回っていると、何やら大木の根と岩陰の間に人が入れそうな隙間を見つけた。そこへ寄れば隙間からは空気が漏れてきていて、奥にまだ空間が続いていることが分かる。さらに分かりやすいことに、ティラノサウルスみたいな魔物がここ一番の勢いで俺達に迫ってくるのだ。この奥には確実に何かあると感じた俺はその隙間に入り込む。そして錬成で入口を塞ぎ、奴らが入って来れないようにしてしまう。

 

「ユエ、何かあるぞ」

 

「……んっ」

 

と、ユエを背中から降ろし、俺達は並んで奥へと歩みを進める。すると狭い通路から一転、急に広い空間へと出た。

 

そこは何やら緑色の、大きな埃の玉のようなものが沢山浮かんでいて、それが時々顔や身体に当たってうっとおしい。

 

「なんだここ……」

 

と、俺が呟くと───

 

「……天人、ごめん!!」

 

と、ユエが急に大きな声を出したかと思えばいきなり風属性の魔法を俺目掛けて放ってきた───!!

 

「───ッ!?」

 

俺は前方に転がることでそれを避ける。風の刃は周りの壁に当たり、大岩を容易く砕くユエの魔法の威力に冷や汗を流しつつも正面を向いてユエに相対する。

 

すると、ユエの美しい金髪の上から、何やらニョロニョロと植物の茎のようなものが生え、そしてそれは花を咲かせた。そう、あのティラノサウルス共の頭に咲いていたのと同じような、しかしユエの瞳の色に合わせたかのような紅の花弁を開かせたのだ。

 

「……そういうことか」

 

思わず呟いた直後、奥から緑色をした人型の魔物が姿を現した。そいつは人間の女に似た顔と身体付きをしていたが、その醜く薄汚れた性根が全て顔に出ているのかと思うくらいに醜悪な面構えをしていた。

 

さっきからバシバシ俺の顔に当たるこの緑色の埃も、本来は俺の頭にあの花を根付かせる為の種か何かなのだろう。だが、恐らく俺の毒への耐性がそれを拒んでいるのだ。……まったく、これが無ければ今頃俺もアイツの操り人形にされてたってわけだ。本当に、どこまでいっても油断ならねぇ場所だよ、ここは。

 

「……天人、ごめんなさい」

 

声だけはある程度好きに出せるらしいユエが今にも泣きそうな顔で俺を見ている。安心しろよユエ、俺はお前を見捨てたりはしねぇからよ。

 

身体が植物でできてるかのような見た目のその魔物はユエの身体を盾にするような位置取りを保ちつつユエの真後ろに立つ。そしてニタニタと気色の悪い笑みを浮かべ、まるで人質ごと撃ち抜いてみろとでも言わんばかりだ。

 

しかもユエを操り上下に動かすから小柄なユエの頭上を抜いて奥の魔物を撃ち砕くことは難しそうだ。下手にタイミングを外せばユエの端正な顔ごと吹き飛ばしかねない。

 

態々封印されてた辺り、頭を吹き飛ばしたり首を切り落とす程度じゃ問題はなさそうだが、操られている肉体にどこまで自動再生が発動するのかは分からない。何より幾らまた生えてくるからと言ってユエの頭を吹き飛ばすのはどうしても憚られた。

 

すると植物の魔物は再びユエを操り風の刃を飛ばしてきた。それを避ければ後ろの岩盤が綺麗な切り口で切り裂かれていた。寒気すら感じる斬れ味である。

 

オラクル細胞はこの世界の魔法とは極端に相性が悪いからこの手の攻撃への防御力は期待できない。しかも、俺がユエの魔法を避け続けていると今度はユエの右手をユエ自身の頭へ向けたのだ。

 

なるほど、避けるならユエを殺すと言いたいのか。しかもユエは自身の肉体を一瞬で塵にする程の火力を持ち合わせているし、その魔法だってほとんど溜め無しで放てるのだ。人質としても砲台としてもこれ以上の存在はあるまい。まぁ、それでも助け出す手段が無いわけではないのだが。

 

俺は構えていた拳銃のトリガーガードに指を掛けそのまま銃口を下向きにぶら下げる。そして、その意味がコイツらには伝わらないと思い至り、拳銃を地面に置く。そして左腕を大きく広げて、右手の指先でチョイチョイと挑発する。いつでも魔法をぶつけてこいという俺の合図が伝わったらしい魔物はユエの両手に風属性の魔法を展開。

 

「……逃げて、天人!!」

 

ユエのその悲痛極まりない声と共に無数の不可視の刃が放たれる。だがいくら姑息な手段を使おうと所詮は魔物。刃の動きは魔力感知で追えているし、何よりその刃は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

俺はユエの両手から魔法が放たれた瞬間に右足を起点に一回転、身体を1歩右手側に動かす。そして左半身が多少切り刻まれるのを無視して縮地を発動、瞬きする間もなくユエの眼前に接近し、抱きしめるようにしてその突き出された細い両腕を自分の両脇で挟む。

 

そして金剛の固有魔法を発動させながら、さっきから腕で隠しながらも左肩から生やしていた刃翼を最大展開、醜い面をした魔物の身体を逆袈裟に切り裂く。更にダメ押しとばかりに右腕から焔龍の右腕(デルトラ・フィアンマ)を展開。宙を舞う上半身と膝から崩れ落ちる下半身───その緑色の肉片をハンニバルの炎槍で焼き滅ぼした。

 

すると、ユエの頭に咲いていた紅の花が色を失い、直ぐに枯れてユエの頭から剥がれ落ちた。どうやら固有魔法の持ち主が死んだためにその魔法の効果も切れたらしい。

 

「ユエ、大丈夫か?」

 

刃翼を仕舞いつつユエを抱きしめた体勢のままそう話しかける。

 

「……ありがとう、天人」

 

「おう」

 

キュッと、ユエは俺の背中に腕を回す。そのままグリグリと俺の胸に顔を押し当ててきたのでその小さな頭を撫でてやる。

 

「……天人はズルい」

 

「んー?」

 

と、そこで動きの止まったユエが呟く。

 

「……こんな風に助けられたらもっと好きになる」

 

「……」

 

俺は、何も返せない。ストレートにそんなことを言われて恥ずかしいというのもあるし、何よりまだユエに対して"好き"だと、確実な言葉にして返せていない自分から何か言っていいものなのかも分からない。

 

「……行こう」

 

「……ん」

 

だから俺は、こうやって誤魔化して先延ばしにするしかなかった。答えなんてもう、自分自身の中じゃ出ているはずなのにな

 

 

 

───────────────

 

 

 

あれからまた幾つもの階段を降りた。その度に魔物を殺し、喰らい、固有魔法やステータスプレートの数字を増やしてきた。

 

そして、とある階層にて使った弾薬を補充するために一旦錬成で壁に穴を開けてその中に篭っている時だ。

 

束の間の安息が俺の思考に戦闘以外の回路を開かせたのだ。複製錬成により同じ形同じサイズの弾丸が次々に生み出されているのをぼうっと眺めているユエを見やる。今は俺のことを好いてくれているコイツが、もし他の誰かを好きになったら。俺に他に女がいることを知っているユエが、明確な答えを出せていない俺に幻滅し、他の誰かに気を取られたら……俺の頭に浮かぶのはキンジだった。多分、誰でも良かったのだろうが、こういう時頭に浮かぶのは何となくキンジのような気がしていた。

 

そして、ユエが俺の手を離し駆け足でキンジの横に並ぶ。キンジの腕を取り、一緒に歩き始め、向き合い笑い合い、唇が重なる───

 

「……天人?」

 

「っ!?」

 

ユエの声でハッと気付く。どうやら俺は無意識のうちにユエの肩を抱いていたようだ。ユエの紅に輝く宝玉のような瞳が「どうしたの?」と訊ねてくる。その瞳に促されるように、俺の口が言葉を紡ぐ。

 

「ユエ、俺を…ユエに惚れさせてくれ。ユエのこと、好きになりたいんだ」

 

思わず口から出た言葉はしかし違和感なく俺の中に落ちた。あぁそうだ。俺はユエを好きになりたい。俺のことを好きなこの美しい女に心の底から惚れ込みたい。そして、ずっと一緒にいたい、天国だろうと地獄の底だろうと変わらずに。そう、思えていたのだ。

 

そして、俺の言葉を聞いたユエは───

 

「……んっ、任せて。天人が私から離れられなくなるくらいに惚れさせてあげる」

 

と、妖艶な、なんて俺の持つ貧弱なボキャブラリーじゃそうとしか表現できない顔でそう告げた。そして、ユエの唇の端からチロりと出された赤い舌が、もう俺はとっくに絡め取られていて、既にその上に乗せられているのかもしれないと思わさせた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

幕間2:射撃の才能

 

オルクス大迷宮で魔人族に襲われた勇者一行を助け出し、白崎が旅の仲間に加わった。強くなりたいという本人の強い意志と()の話を一切聞かない強引さで無理矢理に加わったのだが、残念なことにそれを気にする奴はやはり俺だけなので女子連中とは仲良くやっている。ティオ曰く、同担じゃないから何のしがらみもないのだそうだが、同担なんて言葉どこで覚えたの……。

 

いや、別に俺も白崎のことが嫌いな訳ではないのだけれど、随分とまぁ無理矢理着いてきたもんだと思わざるを得ない。まぁ、無理矢理さならティオも似たようなものなのでもう今更なのかもしれないが。

 

そうして増えた面子と共に俺達は歩いていた。道幅が狭く魔物も出てくるから四輪が使い辛いのだ。そのおかげで俺は魔物が現れる度に拳銃のマズルフラッシュを瞬かせていた。

 

「相変わらず、その辺の魔物相手じゃ天人さんがアーティファクト使ったら私達の出番がないですぅ」

 

と、シアがボヤく。まぁ、ここら辺の魔物程度なら俺が拳銃で1発撃てば避けることすら叶わず脳漿を飛び散らせるからな。

 

「仕方あるまい。こと中・遠距離での戦いでは魔法すら大道芸に見えるほどの、主謹製の神代級のアーティファクトじゃからなぁ」

 

なんて、ティオも半分呆れ顔だ。神代級って言うか現代級なんだけどな、これ(拳銃)

 

「アーティファクトって言うか、ここまで来るともうSFだよね」

 

多少なりとも現代兵器(拳銃)の知識のある白崎の言葉に、ユエは「……エスエフ?」と聞き返している。

 

空想科学(サイエンス・フィクション)の略だよ。要は机上の空論ってやつだ。普通なら拳銃の弾丸を電磁加速なんてできやしないんだけど、それを魔法でどうにかしているから科学と言っていいかは知らん」

 

俺も出てきた魔物を全部屠り終えたので会話に参加する。

 

「けどま、そんなに良い物じゃねぇよ、拳銃なんてな。……所詮、人が人を如何に効率良く殺すかを考えて作った兵器だ」

 

そんな風に言って俺はふと自分の右手にある拳銃を見やる。デザート・イーグルよりも大きいそれは俺の手によく馴染んでいる。その事実に一瞬眉根を寄せてしまう。すると───

 

「ミュウもお兄ちゃんのそれつかいたいの」

 

と、俺に肩車されながらさっきまで魔物が頭を飛び散らせる様を眺めていたミュウ(推定3,4才)からまさかのご希望が。

 

「……え?」

 

俺は思わず聞き返す。

 

「ミュウもまものさんドパッ!ってやりたいの」

 

魔物"さん"と言うのならドパッ!ってするのは遠慮してあげてほしい。ていうか、こんな幼女に拳銃撃たせてやれるわけがない。多分反動だって制御できないし。

 

「実は私も1回使ってみたかったんですぅ」

 

と、ここでシアがまさかの参戦。それに合わせてユエやティオ、白崎まで撃ちたい撃ちたいの大合唱。まぁ、ユエとシアはこの世界から戻ったら武偵高に通うだろうし、1回くらい試しに撃つ分には構わないかと、俺は宝物庫から電磁加速式ではない方の拳銃を2挺取り出した。白崎に至ってはアメリカやなんかで拳銃撃つ体験をしたい日本人旅行客程度の雰囲気だし。

 

「今普通のやつはこれしかないから4人で回してくれ」

 

と、俺はユエとシアに拳銃を渡し、宝物庫からさらにいくつかの鉱石を取り出して錬成する。

 

作るのは武偵高にもあるマンシルエットターゲットの模造品。プラスチックなんてないから、跳弾を避けるために弾丸を貫通させる必要がある。そのため薄さ数ミリ程度のマンシルエットターゲットを錬成。さらに錬成で溝を掘り、右肩から同心円状に広がる模様を付けた。そしてそれを4枚錬成して7メートル先に並べる。そしてその奥には弾丸を受け止める壁としてまた鉱石を錬成して立て掛けておく。地面に杭を突き刺すようにして固定したから、こっちの火力ならそうそう倒れまい。

 

「ミュウのはどれなの?」

 

と、ミュウちゃんはお姉ちゃん達が拳銃を渡してもらえたのに自分のが無いと不満げ。ユエ達からも小さいの作ってやれば?みたいな目線が飛んでくる。

 

「あぁ……分かったよ。ミュウの手に収まるの作るからちょっと待っててな」

 

と、さらにタウル鉱石やらを宝物庫から取り出して錬成。口径小さいし弾丸も1マガジンにつき5発しか撃てないけど威力だけなら22口径拳銃程度はあるから一応ホントに人も殺せる拳銃を錬成した。……本当はデリンジャー辺りで誤魔化したかったのだが、ミュウの目が「ちゃんとしたのを作るの!!」って言っているみたいで、誤魔化しが許されなさそうで怖かったのだ。

 

「はいよ。その代わり、今から言うことを絶対に守るんだぞ?」

 

「はいなの!」

 

と、俺に拳銃を渡されたミュウは咲くような笑顔。んー、この歳で拳銃渡されてこの笑顔は先が思いやられる。

 

「お前らもだぞ。いいか、まず1つ目、絶対に何があっても銃口は覗くな。2つ目、撃つ時以外はトリガーに指を掛けるな。3つ目、人に銃口を向けるな。4つ目、拳銃を投げるな。渡す時は手渡しか地面を転がせ。いいな?」

 

と、俺が指折り注意事項を伝える。すると皆「はーい」なんて気の良い返事が返ってきた。

 

「ミュウも、もし撃った時にこれが跳ね上がっても、銃は投げちゃダメだぞ?」

 

「はいなの!」

 

下手に投げ捨てるとまた暴発の危険がある。どっちも危ないし手放さないのは怪我のリスクはあるが、弾丸が飛んでくるより銃身が跳ね上がって頭にぶつかる方がまだマシだからな。一応、銃身には衝撃をかなり吸収してくれる魔物の皮を巻いてクッション代わりにはしてあるが。

 

「んじゃあ、あのマンシルエットがターゲットだ。狙うのは肩だ。顔や胸は最悪だからな」

 

「……肩じゃ死なない」

 

と、俺の説明を聞いたユエがキョトンとした顔で恐ろしいことを呟く。なんと、シアもティオも同じ顔をしている。唯一拳銃のある世界から来た白崎だけはさすがに俺の言うことが分かっているようだが……。

 

「死なすな死なすな。普通、犯人を確保する時ゃ殺さねぇで肩とか腕とか……まぁ脚でもいいんだけど、そういう末端を狙うんだ」

 

武偵高でも顔や胸、首なんかに当てるくらいなら脚にでも当てた方がまだ評価は高い。実践じゃあよく動く脚を狙うのは難しいが、肩からは遠くても、死なせずに犯人を確保するなら顔や胸に当てちゃ駄目だからな。向こうは魔法とか基本的には無いから肩や手足潰せばだいたい抵抗できない。

 

「……ふむ」

 

と、納得したんだかしてないんだかよく分からん雰囲気を出しつつも取り敢えずユエがマンシルエットへ向けて銃を構える。この中じゃ俺の銃撃を1番見てきたユエだが、だからこそなのだろうか、いきなり片手で構えてしまったのは。

 

「ユエ、本来は両手で構えるんだ。……取り敢えずミュウに正しいフォーム教えるから見てろ」

 

と、俺はミュウの方を振り返る。ミュウも今まさに拳銃を撃てるんだ!!みたいな感じでお顔をキラッキラさせていた。マジで空恐ろしい。

 

「まず銃を前に向けて……トリガーにはまだ触るなよ?……そう、脇は閉めるんだ。右の肘は真っ直ぐな……左手はこっちから添えるように……んで、脚は───」

 

俺はミュウの身体を後ろから抱くようにして体勢を指導する。一応、拳銃を固定しやすいウィーバースタンスだ。そして、形だけならそれっぽいものが出来上がった。

 

「肩の力は抜いていいよ。……うん、それでトリガーを引いてみ?」

 

と、俺の言う通りそれまで一切引き金に指を掛けなかったミュウがトリガーに触れ、そしてその小さな人差し指でそれを引く。

 

──パンッ!──

 

という乾いた火薬の炸裂音と共にギギン!と音を立ててマンシルエットの肩の中心に穴が空き、その後ろの壁に弾丸がぶつかった。タウル鉱石の壁に当たって弾丸は跳ねるがこちらへ向かってくることはない。宙を舞い、鈴を転がしたような音色を立てて弾丸は地面を転がった。ていうか、1発目からド真ん中命中かよ。

 

「おぉ……」

 

と、ミュウはお目目をキラキラさせて穴の空いたマンシルエットを見つめている。すると───

 

「……天人天人」

 

と、ユエが俺の袖を引いて早くフォームを教えろと催促してくる。

 

「あぁ。……ミュウ、さっき教えた通りにやってみろ。弾はあと4発残ってる」

 

「はいなの!」

 

と、元気の良い返事が返ってきたところでユエの番。俺はさっきミュウにやったみたいにユエを後ろから抱くようにしてフォームを整える。

 

「───んで、こっちの手を……そう、そんな感じ」

 

ふむと頷いたユエから1歩下がる。そしてユエの目が細められ、その白くたおやかな指が拳銃の引き金を引く───

 

──ダンッ!──

 

──カンッ!──

 

マンシルエットには傷1つ付かず、奥の壁に弾丸がぶつかった。ユエさん再び引き金を引く。

 

──ダンッ!──

 

──ギギンッ!──

 

今度はマンシルエットに当たった。まぁ、肩ではなく胸に当たってしまったので褒められはしないけどな。それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()の胸だし。

 

「…………」

 

ユエが無言でこちらを見る。というか全員俺を見る。非常に居た堪れない。だがこれは心を鬼にしても言わなくてはならない。

 

「……ユエ」

 

「……狙いとは違うけど敵を1人倒した」

 

「もしこれが犯人と人質だったら?」

 

「…………」

 

ユエさん俺からスッと目を逸らす。他は全員ユエさんを見る。

 

「もしかしたらユエは、犯人じゃなくて被害者を射殺したかもしれなかったんだよな」

 

「……うっ」

 

言葉に詰まるユエ。まぁ、本人も重々分かってはいるだろうからこれ以上は言わないけどさ。

 

「そういう訳だ。銃を扱う奴にはそれ相応の重い責任がある。ちゃんとそれは理解してくれ」

 

はーい、と、全員揃って良い返事が返ってきた。……人の話分かってる?

 

俺は取り敢えずシアにも同じようにしてフォームを教え、ユエとシアが撃っている間にミュウ用のマガジンと弾丸、それともう2挺の拳銃を錬成していった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

結論から言えば、4人には驚く程に射撃の才能が無かった。まぁ一朝一夕で扱えるようになる代物でもないし、俺も使いこなせるまでにはそれなりに時間を要したが、ここまで下手ではなかったと思う。

 

どうにもこの4人、なまじ膂力だけはあるので力で反動を捻じ伏せようとしているっぽいのだ。本来反動は体重で抑え込むもの。そういう意味では同じ拳銃を使えばティオが1番楽なはずだがティオもやっぱりダメ。まぁ4人の中じゃ比較的マシだけども。

 

逆に、ミュウはそこら辺凄まじく上手だった。確かに小口径ではあるが亜音速の弾丸を放つ程度にはパワーのある拳銃のはずだが、力と体重の使い方が上手く、完璧に銃を制御している。これに関しては多分俺より余程上手だろうと思う。

 

ていうか、他の奴らは滅茶苦茶上手なミュウを見て焦って余計に変な力が入っている。ちなみにミュウ、当初置いた拳銃の平均交戦距離である7メートルから大きく逸脱して既に15メートル程の距離から撃っていて、それすら全弾マンシルエットの肩に命中。というかもう継ぎ矢みたいに最初に空けた穴にまた弾丸を通している。……レキじゃねぇんだぞ。

 

「………………」

 

それを見て全員無言になる。ミュウ以外の全員の目線が俺に集まり、その瞳は一様に同じ思いを語っていた。つまり───

 

『あれ、本当にお前の子供じゃないんだよな?』

 

と。俺は無言で首を横に振る。俺だって拳銃を握ったばかりの頃にはあんなことは出来なかったのだ。むしろレキの血を継いでんじゃねぇかな。俺以外の全員レキ知らねぇけど。

 

「みゅ?お兄ちゃん、お姉ちゃん達もどうしたの?なの」

 

と、皆に見られていることに気付いたミュウが頭に疑問符を浮かべている。俺達は皆、その純真さと唯一のトンネルとなっているマンシルエットの肩のド真ん中とのギャップに苦笑いをする他なかった。

 

 


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