セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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修学旅行Ⅰ/宣戦会議

 

修学旅行Ⅰ(キャラバンワン)、武偵校の修学旅行はそんなふうに呼ばれている。東京武偵校の行き先は関西方面、そこで寺社仏閣のレポートを書いて提出すればOK。引率の先生はいないしルートも自由。あまりに放任が過ぎる気もするけど武偵校だしな……。

 

で、この修学旅行で一番重要なのがチーム決め。

武偵校の生徒はこの修学旅行Ⅰで国際武偵連盟(IADA)に登録するチームを決めるのだ。一応定員は2~8人と決まっている。いや、別にここまで待たずに先に決めてしまっても良いのだけれど、基本的にここで最後の確認になるのだ。このチームは武偵校を卒業後も残り続け、何よりも優先されるのだ。故に安易に仲良しだからと組むと後で厄介なことになる。

なので組む時は馬が合うだけでなく、武偵としての能力の噛み合わせも考えなければならないのだが……。

 

「取り敢えず俺、リサ、透華の3人は決定でいいか?」

 

「異議なーし」

 

「ご主人様のお好きなように」

 

俺達は特に何も考えずにチームを決めようとしていた。

ちなみに修学旅行Ⅰ前日のことである。いや、まだ決定はしないよ?ただ取り敢えずこの3人は確定でいいよねってことで。

それに、強襲科と諜報科の相性はそう悪くない。それに衛生科もだ。透華が情報を集め、俺がそれを元に強襲する、最悪怪我してもリサが治療する。そういう組み合わせなのだ。

 

「あとはま、ジャンヌがどうするかだな」

 

「む……」

 

できるなら俺達の事情を把握している奴が良いのだが、そうなると残りはジャンヌくらいになる。アリアや理子達はどうせそっちで組むだろうしな。だが透華はやや不満気なご様子。……そんなに仲悪かったっけ?

 

「……ジャンヌとなんかあったのか?」

 

何か蟠りがあるなら解決しておきたいし、根本的に馬が合わないとかならもう仕方ないのだが、一応解決できそうな問題かもしれないので聞いておく。

 

「……何も無いけど」

 

「何も無いって顔はしてねぇな」

 

「……ジャンヌは綺麗だし可愛いし優しいし面白いけどさ」

 

おおう、聞いた傍からベタ褒め。むしろこれで何が気に入らないのか。

 

「……いやホント、それで何が駄目なんだ?」

 

「……ホントに分からない?」

 

いや、そんな寂しげに聞かれましても。

 

「分からん」

 

「…………」

 

そんな頬膨らませて睨む奴リアルでいるんだな。初めて見たわ。

 

「はぁ……」

 

あれ、リサまで溜息付いてる。しかも頭抑えて……。え、そんなに?

 

「ていうか、天人くんには言ったよね!?その……す、好き……だって……」

 

そんなに恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。透華は顔を真っ赤にして俯きながら呟くようにそう言った。

 

「いやまぁ、そりゃ聞いたけど……」

 

夏休み前に俺は透華に、というより涼宮3姉妹全員にそう言われた。その時は感謝されることはあっても惚れられるようなことはしていないと返したのだが、どうやらまだ諦めていないようなのだ。

俺はリサ以外の女を好きになるつもりはない。例えリサがそれを勧めてきたとしても、だ。

それはコイツらにも言っていることだ。しかし、リサはむしろ俺がハーレムを作るのを推していることも、それこそ本人から聞いているらしい。おかげで彼女らも踏ん切りがつかないのだと思っている。

 

「……リサちゃん、この様子だと───」

 

「えぇ、ご主人様は───」

 

何やら透華とリサが顔を寄せ合って内緒話をしている。こっちに背を向けて、口元も手で隠しているから何の話をしているのか、その具体的な内容までは分からないけれど。

 

「「はぁ……」」

 

そして2人揃って大きな溜息。一体何なんだよ……。

 

「結局、それとジャンヌに一体どんな関係があるんだよ……」

 

「いや、もういいよ……。それよりジャンヌには明日の時間伝えてあるの?」

 

「あぁ。チームの方は保留にさせてくれとも言われてるけどな。……あ、それで思い出した。ジャンヌ、俺達と動くの1日だけだってよ」

 

「どうされたのでしょう?」

 

「んー?いや、もう1個考えてるチームがあるっぽくてな。どうしようか悩んでるらしいから両方と動くつもりっぽいな」

 

「ふーん」

 

「初日に俺達と動いて、その後はもう1個の方に合流するつもりらしい」

 

「では初日はいらっしゃるのですね」

 

「そのつもりらしいな。……じゃあ取り敢えず今日は解散だな。明日早いし」

 

「そうだね。……送ってってよ。夜道に女の子1人で歩かせるつもり?」

 

お前、武偵だろうが。その制服着てればそう変な奴は寄ってこないし何より聖痕で逃げれるだろうが。

 

という言葉が喉まで出かかったけど、こういうのは言わぬが吉というのを俺は最近学んだのだ。

しょーがないなと、俺も立ち上がる。

 

「えへへ、ホント、そういうとこだよ?」

 

どういうとこだよ?と言う俺の疑問は、結局声に出ることはなかった。きっとこれも、言わない方がいいんだろうな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

まず俺達が新幹線で降りたのは京都。

東京駅でジャンヌと透華と合流して、4人でまとめて向かったのだ。

 

「レポート、ネットで調べて適当に書いちゃ駄目かな……?」

 

「駄目でしょ。バレたら蘭豹先生と綴先生に殺されるよ?」

 

新幹線を降りた瞬間の俺の怠け発言は透華に潰される。そっか……あの2人に殺されるのか……楽には死ねないな……。ちゃんと見て書こう……。

 

「いざとなればリサがご主……天人様の分まで書きます!」

 

「リサちゃんは本当ダメ男製造機だねぇ……」

 

どうやら透華の中で俺はダメ男らしい。……自覚はあったけども。

 

「レポートなんてちゃっちゃと終わらせようぜ。3つだろ?金閣寺と銀閣寺と後なんか適当でいいだろ?」

 

「せっかくの旅行なのだから風情を楽しもうという気は無いのか……」

 

「ホントにね……」

 

観光地とか特に興味も無いし、さっさと終わらせてリサと関西デートと洒落込みたかったのだが、どうやらそれは無理らしい。

ジャンヌの言葉に合わせて透華も俺をジト目で睨んできている。

 

「分かったよもう……。見て周りゃいいんだろ?」

 

着替えと携帯の充電器や諸々の入ったリュックを担ぎ直し、その視線の圧力に負けた俺は歩き出す。

 

「あの、天人様……」

 

「ん?どした?」

 

「方向が、逆です……」

 

「………………」

 

どうやらそうらしい。リサの困った顔が心にクる。そんな、困った人を見る目で見ないでおくれよ……。

 

「「はぁ……」」

 

ジャンヌと透華の溜め息が揃う。

 

「……先導を、お願いします……」

 

俺は項垂れながら手を差し出すしかないのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「そう言えばさ、ここんところずっとレキと遠山くん一緒にいるよね」

 

1日歩き回って夕方頃に俺達は京都市内のホテルにチェックインをしていた。

そしてここは俺の1人部屋。俺とリサ、透華とジャンヌで部屋を分けようとしたのだが、何故か透華が断固拒否。それに乗っかってジャンヌも拒否側に手を挙げたのだ。なのでリサは女子3人と同部屋。何故か俺は1人にされる羽目になった。

しかも女の子のお部屋に男の子は入れられませーん、なんて透華が言い出すもんだから集まるのは俺の部屋。不祥神代天人、女の子が分かりません!!

 

「キンジからは狙撃拘禁されたってきてたな」

 

「助けなくてよろしいのですか?」

 

「あのレキからどうやって逃げ続けるんだって話よ。ま、取り敢えずレキの心を開いて解放してくれるように持ってけとは言ってあるけど」

 

レキの絶対半径(キリングレンジ)は2000メートルと少し。正確には2051メートルだったか。古いドラグノフ狙撃銃(SVD)で良くやるよ。俺なんて最近の事件じゃまともに発砲してねぇよ。

 

「そういや、この前アリアから愚痴の連絡が飛んできたんだけど、どうにもレキの野郎、勝手にキンジとのチーム申請してたみたいだな」

 

ちなみにそんなことしたら特大のルール違反だ。いや、明確な決まりは無かった気もするけど、マナー的なやつだ。暗黙の了解とも言う。キンジとアリアは元々組んでたからな。それを横取りするのはまぁ、アリア的には風穴もんだろう。

 

「それはまた、レキも強引な手を使ったものだな」

 

「それでアリアの奴、キレてレキに絶交だー!なんて言っちまったみたいだぞ。ま、キンジもちょっと強く言っちまったみたいだけど」

 

「……全く、神崎も中々素直になれないな。しかし、恋愛とは難しいものだな」

 

「本当にね……」

 

アリアがキンジを好きなことなど、傍から見れば一目瞭然なのだが、本人はあんなんだしアリアも中々そっち方面では素直になれない性格だしで進展しているとは言えない状況だ。

 

「いやまぁ、好きなもんは好きだってちゃんと言わないと伝わんないだろ」

 

俺とリサだってそうやって今の仲になったのだ。気持ちはキチンと伝えなきゃ伝わらない。それに人間、いつ何時いなくなるとも限らないのだ。好きだと言える時に言えるだけ言ってしまってもきっと後悔なんてしないと思う。

 

「……それが言えないから苦労してるんじゃん」

 

「全くその通りだな……」

 

いや待て透華、お前は割と正面から言ってきていただろうに。

 

「……その顔、私は正面から言ったじゃんって顔してる」

 

……何故分かる。

 

「そりゃあ分かるよ。天人くん、分かりやすいし」

 

武偵的にそれはどうなのだろうか。感情や思っていることが顔に出やすいのはあんまりよろしくないよな……。

 

「それより、やっぱり男の子的には正面から好きって言われないと分かんないものなの?」

 

ズイっと、透華が顔を寄せてくる。その時に揺れた髪からフワリと、シャンプーの良い香りが漂ってくる。ホテルのアメニティなんだから同じ物を使っているはずなのにどうしてこう女の子の髪から香るシャンプーの香りは良い匂いがするんだろうか。これは世の中の七不思議に数えてもいいと思うんだよな。

 

「いやまぁ、分かんないと言うか、外したら恥ずかしいなぁとか自意識過剰とか思われたら嫌だなぁとか、後はまぁ、俺なんかを好きになる奴なんていないだろ、とかそういうのは思うかな」

 

透華の顔が近い。俺は思わず身体を後ろに引きながらも辛うじてそれだけ答えた。透華もそれで気付いたのか顔を赤くしながら後ろに下がった。あははー、あっつーなんて言いながら顔を手で扇いでいるけれど、その頬の赤みは中々消えそうにない。それがまた俺の心をくすぐる。贔屓目に、いや、そもそも俺がコイツをそんな風に贔屓する理由もないのだけれど。ともかく、透華は可愛いのだ。顔も、仕草も。明るくて社交的で、キチンと自分の中に芯を1本持っている。そんな子が俺のことを、それもリサという恋人がいることを知っていてなお好きでいてくれている。それはきっと男としては誇るべきことなのだと思う。けれど、だからって俺がその想いに応えてやれるかどうかと言われればそれはまた別の問題なのだ。

 

チラリと、透華が顔を扇ぎながらジャンヌの方を見やる。その視線を受け取ったジャンヌはしかし、首を横に振る。それに釣られて俺もそっちを見てしまう。するとプイと視線を逸らされる。けれどもその耳が赤くなっていることは誤魔化せていなくて……。

 

透華の言いたいことは本心では分かっているつもりだ。けれど、さっき言ったこともまた俺的には本当のことで。結局俺には自信もなければリサという存在もあって、ジャンヌの気持ちが本当にそうなのか確信に届かないのだ。きっとそうだろう、けれど違ったら?違ったら俺が恥ずかしいだけで済むけれど、もしそうであっても俺はそれに応えてやれない。だから俺は暖簾に腕押しの態度を取り続けるしかない。それがジャンヌを酷く傷付けているのかもしれないとしても、だ。

 

 

 

───ピリリリリ!ピリリリリ!

 

その時、俺の携帯から電子音が鳴り響く。発信は……星伽白雪と出ていた。

 

「……星伽?……はい」

 

「もしもし、俺だ。遠山キンジだ。今白雪の携帯から電話してる」

 

「あ?キンジ?……何でこんな時間にお前が星伽の携帯使ってんだ?」

 

「いや、それはともかく一大事なんだ───」

 

そこからキンジが語ったのは旅館でレキと一緒に敵に襲われたこと。その敵の手口が武偵殺し(理子)にそっくりだったということ。そいつとの戦いでレキが負傷、ハイマキ──ブラドの部下だった銀狼をレキが手懐けた──も敵の子飼いの闘犬を引き付けていること。今は車で星伽の分社に向かっているということだった。

 

「……なるほどな」

 

「天人、イ・ウーにレキ並の狙撃手は居なかったか?格闘も拳銃も出来るバケモンみたいな奴だ。名前はココ」

 

「ココ……?いや、イ・ウーの中で、狙撃でレキとやり合える奴なんてシャーロックくらいだ。扱うだけならパトラとかも使えたが、その程度だ」

 

俺がそれを伝えるとキンジからは「そうか」とだけ返ってくる。

 

「はぁ……、そいつの戦闘力以外の特徴は?イ・ウーにゃ組織外の人間もたまに出入りしていたからな。当然そいつらも尋常じゃあない」

 

俺は一応携帯をスピーカーモードにして全員にキンジの声が聞こえるようにする。

 

「……見た目は小柄だ。アリアと同じくらいか。俺達より2つか3つは年下だと思う。髪型も、色は黒髪だけどアリアと同じツインテールだ。あとはそう、香港からの留学生ってことになってた」

 

「中国系……小柄……一応聞くが、ツインテってことは女か?」

 

「あ、あぁ」

 

「……リサ」

 

俺は、そのビジュアルの人物に心当たりがある。というか、イ・ウー所属の奴はだいたいあるだろう。何せ───

 

「はい。……遠山様、見た目だけなら遠山様とレキ様と戦闘を行なった方に心当たりはあります。藍幇(ランパン)という組織に属していました」

 

「そして、そいつはイ・ウーに物資を卸していたんだ。……まぁ、大概リサに値切られまくって泣いて帰ってたけど……」

 

だがそいつはあくまで営業マンだ。そりゃあイ・ウーにやってくるんだからそれなりに戦闘も出来た可能性はあるがだからって狙撃戦でレキとやり合えて格闘も拳銃戦も出来るなんてこと有り得るのか?

 

「取り敢えず、俺達もそっちに向かう。京都の星伽の分社ってどこにあるんだ?」

 

「あぁ、住所は───」

 

俺達は早速出る支度を始める。

武偵憲章1条、仲間を信じ、仲間を助けよ。レキはあれでも武偵校の仲間だからな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「城かよ……」

 

星伽の京都の分社に着いて1番初めに口を付いて出た言葉がそれだった。

一体何段あるんだか数える気にもならない階段を昇ったその先、鳥居の向こうに構えるのはまるで戦国時代にでもタイムスリップしたかのような、守ることに特化した巨城。これで神社だと言うのだから星伽家のぶっ飛び具合が分かるってもんだ。

そして、気の遠くなるような段数の階段を8割ほど登った辺りで門番らしき、和弓を背中に担いだ美人2人が薙刀を向けてきた。

 

「お話は伺っています。……そちらのお2人はどうぞ通って下さい。しかしそちらの2人は通すことが許されていません」

 

通って良いのはリサとジャンヌ。駄目なのは俺と透華。

 

「あ?」

 

「星伽は男子禁制故。ここでお待ちください」

 

「……透華───こっちは何故駄目なんだ」

 

背中にいた透華を親指で指す。ていうか男子禁制なのにキンジは良いのかよ。あれか?星伽が惚れ込んでるからか?

 

「男子禁制以外にも、()()()()()()()()は入れるなというのがしきたりです」

 

貴方方、ねぇ。要は聖痕持ちってことなんだろうが、まったく嫌になるね。今時生まれで差別されるなんてさ。もう時代は平成だぞ?

 

「……ま、俺はそれでいいよ。けどこっちはいいだろ?女の子なんだし、こんなとこで待たせるのは可哀想だとは思わないのか?」

 

「……ルールですので───」

 

「───ここで俺が駄々こねてもいいんだぜ?」

 

ビクリと、2人の肩が震える。分かっているのだろう。俺がここで暴れればどうなるのか。それなりに対策もしてあるんだろうが、果たしてそれがどこまで有効なのか、それを測りかねているのだろう。そして───

 

「……ま、もう行っちまったみたいだし?俺がここに残れば星伽……あぁ、キンジの手前、白雪も嫌とは言わねぇだろ」

 

俺の言葉に2人がバッと勢いよく振り返ればもう結構上まで駆け上がっている透華の姿が現れた。俺がコイツらを威嚇し注目を集めている間に背中の影で透明になり、スルスルっと脇を駆け抜けたのだ。で、ある程度逃げたので再び姿を現した。大した手品じゃあないけど、これが出来るのは透華だけだ。

 

「貴方達……」

 

憎々しげに俺を睨む2人の顔はよく似ていた。コイツらももしかしたらほとの姉妹なのかもしれない。もしくは親戚か。

 

「……よしとけよ、俺はお前らんとこの白雪さんと青春の汗を流した仲だぜ?身内と友達の喧嘩なんて見たかねぇだろうよ」

 

本当はキンジを挟んで少し話しただけだし青春の汗ってあれ任務でサッカーやっただけだけど。何も嘘は言っていないからいいよね。

 

「……まぁ、彼女からは邪なものは感じられませんでした。貴方がここに残るというのなら白雪様もお許しになるでしょう」

 

「そゆこと。門番の仕事手伝ってやるからそれで勘弁してくれ」

 

他に今できることもないしな。

俺はドッカリと階段に腰を下ろし、眼下を見下げる。もっとも、もう俺達を乗せていたタクシーも帰ったし、見えるのは緑とコンクリで舗装された道路だけなのだが。ふむ……。

 

「なぁ」

 

俺は首だけ仰け反らせて門番2人に話しかける。なんか向こうはそれだけでちょっと嫌そうな顔だ。……ショック。

 

「……なんですか?」

 

だが一応答えてはくれた。

 

「座布団くれない?ここにずっと座ってたら尻が割れそうだ」

 

「「はぁ……」」

 

俺の切実な要求は溜息となって返ってきた。いやホント、分厚めで頼みますよ?そうじゃないとただでさえ2つに割れてる尻が4つになっちまいそうなんだから。

 

 

 

───────────────

 

 

 

あれから何時間経ったのだろうか。

何だかんだで俺にも分厚い座布団や膝掛け、水に食い物まで持ってきてくれたので星伽家は案外優しいのかもしれない。いや、本当に優しかったら最初から入れてくれるか……。

 

だがとにかく、ここまでリサからの定期連絡以外に変化の無かった俺の門番生活に大きな動きがあった。

 

「……ん?」

 

長い石段の下から何やら獣のような奴がのそのそと登ってくる。強化した視覚でそいつの姿を捉えると───

 

「ハイマキっ!」

 

下からやって来たのはコーカサスハクギンオオカミのハイマキ。今はレキの武偵犬として登録されているらしい。犬……まぁ狼も犬の仲間だけども。

 

ハイマキも一応俺がレキの知り合いだというのは把握しているからか、俺の姿を認めた途端にその場に崩れ落ちた。

 

俺はその傷だらけの身体を抱き抱えると、そのまま門番2人の元へと飛び退る。

 

「コイツはハイマキ。レキの武偵犬だ。……俺が入れないならキンジを呼んでくれ。ハイマキが帰って来たと言えば伝わる」

 

「は、はい!」

 

それを聞いて2人は慌てて城のような建物へと急いだ。俺はそれを見送りつつ俺用にと渡されていた水をハイマキの口へと持っていってやる。

 

「水だ。飲めるか?」

 

言葉が伝わったのか匂いで水だと判断したのか知らないが、ハイマキが口を開けたのでそこへペットボトルの水を少しずつ注いでやる。

それを器用にゴクリゴクリとハイマキは飲んでいく。満足したのかハイマキが口を閉じたので俺も残りを一気に飲み干した。まぁ、ハイマキにあげたから大して残っちゃいなかったけど。

 

そのうちキンジがやって来て、ハイマキを上に上げて行った。男子禁制なことを伝え忘れていた分の謝罪を残して。ちなみに遠山家は昔から星伽の家と付き合いがあるらしく、その流れで遠山家男子だけはここに入れるのだとか。

……あれ?ハイマキもオスだったと思うんだけど、いいのかな。

 

で、さらに少しばかり門番を続けていると、リサ達が降りてきた。どうやらレキも一段落着いたらしい。

 

「悪いなジャンヌ。お前、今日はもう1つのチームと回る予定だったろ」

 

「なに、気にするな。仕方のないことだ」

 

「いやー、あそこ中も広かったよー。迷子になるかと思った」

 

透華は何か変な扱いをされるかもと思ったけれど、この様子なら何もなかったのだろう。まぁ、星伽の知り合いに対して粗相をするとも思えんけども。

 

「修学旅行Ⅰ、なんだか変な終わり方になっちまったが、さっさと帰るか」

 

「そうですね。レキ様も落ち着きましたし、ハイマキも戻って来ました。モーイです」

 

重傷らしいからモーイ(素晴らしい)かどうかは分からんけど、命に別状がないのなら喜ばしいことだ。キンジはまだレキの傍にいるみたいだから、俺達は一足先に武偵校へと戻ることになる。

 

一応昨日のうちに寺社仏閣は3箇所以上見て回っているし、俺もさっさと新幹線に乗って寝てしまいたい。

俺はふと上を見上げ、その城のような威容を誇る星伽の分社の、その中にいるはずのキンジとレキに心の中でまたなと告げる。

 

あの2人とは恐らくもうすぐ始まるであろう宣戦会議(バンディーレ)で相見えるはずだ。願わくば、お互い敵対しないことを祈ろう。

 

次の世界が俺達にとって良き場所であらんことを願って。

 

 

 

───────────────

 

 

 

チーム・コンステラシオン

 

それが俺達の登録したチーム名だ。意味はフランス語で星座、らしい。決めたのはジャンヌだ。バラバラの点だった俺達がイ・ウーという線で繋がったのだと考えればまぁまぁ良い名前だと思う。

で、肝心のメンバーはリーダーにジャンヌ、サブに俺。後はリサと透華がメンバーの4人パーティーだ。

 

強襲科と諜報科、それから情報科に衛生科というバランスの良いチームだとは思う。戦闘力もリサ以外は申し分無い。大体の戦い方は俺が正面で暴れてその裏を透華が突く、それだけだ。というか、聖痕の力と相性を考えたらそれが1番強い。

 

そして俺は今、あの粒子の聖痕の男と戦った人工浮島、その無人島側に来ていた。

 

「来たか」

 

そこで待っていたのは甲冑に魔剣(デュランダル)を携えたジャンヌ。他にも何人か来ているようだ。見た顔も、知らない顔もいるけれど。どいつもこいつも一筋縄ではいかなさそうな奴らばかりだ。ふと見上げれば、動きの止まっている風車の羽の上にはレキがドラグノフを抱えて座していた。

 

俺はフラリとその風車の根元に寄り、そのまま背中を預けた。

フワフワと、ゆっくりと聖痕を開き続けている時独特の高揚感が身を包む。こんな夜更けにこんな所に集まる奴らなんて、普通じゃあないからな。警戒も込めて、だ。

 

そうしてしばらくすると霧の向こうから不安げに辺りを見渡しながらキンジがやって来た。

 

「……天人、ジャンヌ」

 

「おっすキンジ。お前、新幹線じゃ大変だったみたいだな」

 

俺達が乗った数本後の便にキンジ達も乗っていたらしいのだが、その新幹線がココ──俺達にはツァオ・ツァオと名乗っていた──がジャック。乗客乗員全員を人質に莫大な身代金を要求したのだ。だがそれはその場に居合わせた武偵、つまりはキンジ達によって解決され、犯人は皆捕まって尋問科に送られたらしい。

 

「……なんだよこの集まりは。俺はイ・ウーの同窓じゃないぞ」

 

と、ジャンヌから手紙で呼び出されたにしては的外れなことを言っているキンジに俺は上を指差した。そこにいるのはレキ。それでキンジも遂に冗談を言う隙もなくなったようだ。

 

「……間も無く0時です」

 

そして、そのレキはただ無機質に時間を告げる。

 

「……では始めるか」

 

そのジャンヌの言葉に合わせて、どこから光源を持ってきているのか、カッ!と霧にまみれた浮島を人工の光が照らす。

その光が照らすのは世界中の超人魔人怪物化生の類達。当然、その中には俺も含まれている。

藍幇から来たらしい糸目の男や、夜なのに日傘を差している金髪で背中から蝙蝠みてぇな翼を生やした女──ブラドの娘、ヒルダだ──はキンジに因縁があるからか、それぞれご挨拶をし始めた。

他にもパトラやカナまで来ているし、キンジの足元には玉藻──狐の妖怪──が寄ってきていた。もっとも、コイツは比較的キンジに友好的っぽいが。

 

「……ジャンヌ、もういいだろ」

 

俺の言葉にジャンヌはふむと1つ頷き、言葉を発する。それは宣誓の言葉。キンジとアリアによってシャーロックは倒され、イ・ウーは実質解体された。原水の高い隠遁性能と戦略ミサイル搭載による圧倒的火力によって裏社会の均衡を強引に保ってきた組織が消えたのだ。そうなれば当然、再び胎動が始まる。

 

 

──宣戦会議(バンディーレ)──

 

 

これはその開戦の狼煙だ。

師団(ディーン)眷属(グレナダ)、もしくは無所属か。そのどれに付けば生き残れるのか、はたまた黙秘を貫くのか。全てはここから、いや、もう始まっているのだ。

 

何だか眠くなりそうな口上とルール説明を行った後、今回の司会進行役であるジャンヌを含めたイ・ウー研鑽派残党(ダイオ・ノマド)は師団、イ・ウー主戦派(イグナティス)は眷属への所属を表明した。というか、ここに来てる奴らのうち悪役っぽい奴らは大概が眷属、光属性な感じの奴らは師団を選んだ。そしてウルスの代表ことレキが師団を宣言したことで自動的にキンジも師団入り。後はなんか何言ってるか分からないロボットが黙秘、サングラスを掛けたガラの悪い男が無所属等々、各々の集団の所属を決めていく。

そして最後に残された俺は───

 

「俺は個人でここに来たわけだが、俺は無所属ってことで」

 

「……まぁ、お前はそうだろうな」

 

「それで、リサはどうするの?」

 

ヒルダが俺を睨みつつそう聞いてくる。コイツ、答えなんか分かってて聞いてるだろう。

 

「当然俺の身内として……っていうかそもそもリサは戦う資格なんてねぇよ。この……極東戦役(EFW)だっけか?さっきジャンヌが言ってたろ、代表者のみの戦いで雑兵の参戦を禁止するって。リサに戦闘力は無い、だから戦闘に参加させようなら───」

 

俺はそこでこの場にいた全員を見渡す。

そう、リサを変に巻き込もうものならソイツを叩き潰すという意志を込めて。

 

「……チッ」

 

しかし、そこで舌打ちを発する奴がいた。グラサン野郎、もとい、GⅢ(ジーサード)とかいったか。コイツも俺と同じく無所属を表明していたな。

 

「俺はここに戦いに来たんだ。なのにどいつもこいつも……」

 

ここに居るのはコイツや俺のような個人でなければ大体がただの使者だ。習わしでは、好戦的でない者かうら若き乙女と決まっている、らしい。

 

「……だったら俺とやるか?」

 

個人でここに来るということはコイツは1人でも相当な力を持っているということだ。だったら面倒になる前に潰しておくのも手だろう。

 

「はっ……てめぇとはやる気はねぇよウロボロス。お前らの自滅に巻き込むなよ」

 

「……へぇ、知ってんだ」

 

ウロボロス、自分の尾っぽを食う蛇。神話上の生き物だが、確かに俺達聖痕持ちを例えるには中々ちょうど良い例えだと思うぜ。

俺をジッと睨んだGIIIはしかし何を言うでもなく紫電を纏わせるとまるで透華のように周囲と色を同化させて消えてしまった。……気配も無くなっている。どうやら帰ったらしい。

 

 

「まぁいいや、宣戦会議は終わりみたいだし。俺は帰るよ。……じゃあまたな、キンジ」

 

ジャンヌも程々にしとけよ、とだけ忠告を置いて、今だ困惑の渦の中にいるキンジの肩を軽く叩き、俺は霧の中へと歩いて行く。正直、俺にはこの戦役の行く末に興味は無い。ただリサに何かしようって奴がいるなら叩き潰すだけだ。だから無所属を表明したのだし、余計なゴタゴタに巻き込まれる前に退散するのだ。

だからそう、対岸からモーターボートの音が聞こえてこようが俺には関係が無い。その問題はそっちで解決してくれればいいさ。

俺は浮島の端に停めた借り物のモーターボートに乗り、エンジンを入れる。そしてそのまま学園島まで海の上を走り抜けるのだった。

 

 

 

 

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