何日か掛けて幾つもの世界を渡り、思い出せる限りの話をして、俺達は寮の一室へと戻ってきた。だが、全ての世界を巡ったわけではない。俺は明確に、2つの世界には寄らなかった。
「あと2つ、俺とリサが行った世界があるんだけど……」
「1つの世界では誰も殺すことなく、もう1つの世界でも、手に掛けたのは私達の住んでいた国と戦争となった、もしくは宣戦布告も無く襲ってきた国の兵士だけでした。そして、その世界から出る時にはご主人様は、その世界を救うために尽力した1人としてそこを去ったのです」
戦争という状況下において俺が敵国の兵士を殺害したことまで攻める奴は向こうにもいなかった。別に、俺がやらんでも誰かがやっただろうことだからな。あれに関しては俺も特に思うことは無い。紅丸達には最初心配されたが、アイツらはまたリサに危害を加える可能性の高い奴らだったのだ。そもそもが先に仕掛けたのも向こうだし、誇ることでもないけれど悔やむことではないと思っている。
なので、リムル達の世界に行く時には普通に挨拶というか顔見せとして行くつもりだったのだ。そして、向こうを出る時には半分夢物語だと思っていた自由な異世界転移と時間移動の手段も手に入っていた。
アラガミのいた世界でも、俺達は不意の転移だったし、それまであそこでは悪いことはしていない。ただ、急にいなくなってしまったのは悪かったと思うからそういう意味での謝罪は必要だろうか。
「取り敢えず、残り2つはまた明日な。今日はもう、疲れた」
そうして俺達は明日以降の予定を確認して、風呂に入ったり歯を磨いたりしてから各々布団に潜り込む。今日俺と同じ布団に入るのはユエらしい。
ユエと同じ布団で眠るのはいつ以来だろうか。トータスでの旅の中でも、段々と人が増えてからはいつの間にか布団は分かれて寝ていた気がする。俺は布団の中で久々に腕に抱く、華奢なユエの身体にノスタルジーを感じながら眠りへと落ちていった。
───────────────
俺達は、俺が飛んでから何日か経った後のフェンリル極東支部へと渡った。そうしないと、顔見せする意味が無いからな。最近、異世界転移の度に聖痕を使っているが、強化の聖痕は使い慣れているからかあまり身体に負担がかかっている感じはしないな。
そうして俺の部屋へと飛んだのだが、そこは多少埃こそ被っているがそれ以外はほとんどそのままのように思えた。ここも、去ってから何年か経過しているので記憶が朧気なんだけどな。
ここに関しては本当にユエ達が来る必要は無かったのだが、本人達が来たがったのと、態々武偵高に戻って3人を拾ってからリムルの世界に行くのも面倒だったので皆連れて来た。
「……ここが?」
「うん。……さて、アイツらはいるかな」
来たはいいが第1部隊が任務に出てていない可能性もある。ていうか、リンドウに加えて俺まで抜けて第1部隊はどうなったのだろうか。まぁ、まだ飛んで数日のはずだし、何より4人も残ってるから解散なんてことにはなっていないだろうけど。
俺は俺がいなくなった後のこの世界のことに思いを馳せながらフラフラと支部の中を歩き回る。基地の中は俺の朧気な記憶とそう変わってはいなかった。まぁ、こっちの時間軸で言えば俺がいなくなってから数日だから、そんなに変わるわけもないのだが。
「……あ」
すると、廊下の先から見知った顔が歩いてくる。沈痛な面持ちで視線が下がっているが、あれはコウタだ。向こうも、俺の声に気付いたのかフッと顔を上げ、そして固まった。
「よう、コウタ」
久しぶり、と言いかけたがやめておく。俺からしたら何年かぶりだが彼からしたらまだ数日の話だからな。
「……え、嘘……だろ……?」
「嘘なもんかよ」
今俺は武偵高の制服を着ているけれど、コウタには俺だと直ぐに分かったようだ。もっとも、いきなり支部から姿を消した奴が唐突に戻っていたらあぁもなろうものだが。
「え……どうして……今まで、どこに……」
「あぁ……色々あったんだよ。……第1部隊の皆は?」
「あ、あぁ……今日は皆、いるよ……えと……」
「呼んできてくれるかな、俺ぁ……そうだな……作戦指令室にでもいるよ」
「あ、あぁ……分かった!」
コウタは俺の後ろにいる女子達に目線を向けるが、兎にも角にも振り返り走って第1部隊の皆を呼びに行った。
「……今のは?」
「こっちでの……仲間、かな」
その後リサがこの世界がどんなところだったのか、そしてここで俺が何をしていたのかを語る。ユエ達はそれを無言で聴きながら俺の後ろをついてきた。そして、いつも雨宮三佐のいる作戦指令室へと入る。そこには見知った面々がいて、俺の登場に全員目を丸くしていた。
「あぁ……お久しぶり?……です」
数日振りの相手に久し振りもないだろうとは思うがコウタの時と違って何も思いつかなかったのだ。まぁ別にいいだろう。
「……貴様……今までどこに、それに、リサ・アヴェ・デュ・アンクはともかく他の女達は誰だ?」
雨宮三佐が俺の後ろのユエ達を睨む。相変わらず眼光の鋭い人だ。
「あぁ、……そこら辺は説明するんで、えと、今コウタが第1部隊の皆を呼んで回ってると思います」
すると雨宮三佐は「そうか」とだけ呟き、直ぐに館内放送で第1部隊に召集をかけた。本当に仕事の早い人だよ。
そして、その声に従ってソーマを含めた現第1部隊が全員集まった。
───────────────
「それで?何から何まで説明してもらおうか、神代天人」
この場に全員が揃ったことを確認した雨宮三佐が睨み付けるように俺に説明を求める。
俺は、自分の出自のこと、色んな世界を回る中でここに辿り着いたこと、ここから急にいなくなった理由、そしてここにはもう居られないことを、包み隠さず言葉にした。そして、別の世界の証拠としてリムルの世界の魔法も見せた。それらの効果によって、俺の体内のオラクル細胞の心配もいらないことも話した。それでようやくこの場のほとんどの者が理解した。別の世界の存在と、俺がもうここにはいられないということを。
だが───
「……嘘、ですよね」
絞り出すように呟いたのはアリサだった。
「……見ただろ?俺ぁ……俺達はこの世界の人間じゃない。この世界の人間は、あんなことは出来やしないだろ?」
「……でも、いいじゃないですか、この世界にいても。天人さんにはまだ左腕の神機が残っているんでしょう?それにほら、他の皆さんだって何か魔法みたいなのがあって、それならアラガミとも戦え───」
「アリサ」
俺は、アリサに最後まで言わせることはなかった。この世界に、そう悪い印象は無い。特段悪いこともしてはいない。けれど俺はこの世界に居着くつもりは毛頭なかった。リサやユエ達だけじゃない。俺には、向こうに仲間や友人を残してきているのだ。それに、ミュウやレミアさんをまたこんな過酷な世界に置きたくはない。俺は、この世界では生きられないのだ。
「ここに来たのは、世話になった皆にお別れを言うためだ。……今までお世話になりました、ありがとうございます。そして、さようなら……」
「そんな……」
雨宮三佐や第1部隊の皆に俺は頭を下げる。
「それと、これを……」
俺は変質者の能力で左腕から神機を分離させた。体内に巡らせたオラクル細胞も神機に纏めて排出したから、これで俺の細胞からはオラクル細胞は消え去った。そして、最後まで諦めの悪かったアリサも、これで俺が完全にいなくなるのだということを理解したみたいだった。
「この神機はどう扱ってもらっても構いません。もう俺には必要の無いものだから……」
「分かった。扱いはペイラー博士に一任するとしよう」
「えぇ、それがいいと思います」
変成魔法の効果で、触れても暴走はしないと思うが念の為ペイラー博士に取り扱ってもらった方が良いだろう。俺は取り出した黒い神機を置くと、宝物庫から越境鍵を取り出す。
「これで、本当にお別れです。さようなら……」
鍵を空間に差し込む。虚空が脈打ち扉が現れる。俺が飛ぶのはここより先の未来。
「天人!!」
背中に、コウタの声が掛けられる。
「じゃあな!」
俺が振り向けば、コウタとサクヤさんが手を振っている。そしてソーマもこちらを見据えていた。アリサも、泣きそうな顔をしていたがそれでも俺から目を逸らすことはなかった。
「あぁ、じゃあな」
そうして俺は扉を潜る。その先の、リムルのいる世界へ向けて───
───────────────
「っと……」
俺が扉を開けたのは魔国連邦の中央都市リムルの、さらに中央にある広場。時間軸で言えば多分リムルが俺を抱えて飛んだ日から数日後くらい。急にゾロゾロと俺達が現れたもんだから周りのざわめきが凄い。
この世界にも異世界人は沢山いるからリムルと入れ違いくらいじゃないと来れないかと思ったが、どうやらこの世界に限ってはそうでもないようだ。もしかしたらこの世界は異世界人が来ることも含めての世界なのかもしれない。ようは、ここに来る異世界人はこの世界によってある程度選ばれているか、この世界の人間が呼ぶからこの世界の運命には深く干渉できないのかもしれないな。
だから、俺がいなくなってから先の時間であるこのタイミングに飛べたのだという推論が成り立つ。
「……なんと言うか、凄いですね」
シアがふと言葉を漏らす。まぁ、この国には魔物も人間も入り乱れて生活しているからな。トータスじゃ考えられない光景だろう。
「……んっ、魔物と人間が一緒に生活してる」
「ま、ここはそういう国なんだよ。……さて、蒼影、いるか?」
どうせどっかにいるだろう男を適当に呼び出す。すると、背後にヌルりとした気配が漂う。あぁ、出てきた出てきた。
「……大きな力を感じて来てみれば、まさかお前だとはな」
不意に現れた色黒のイケメンに俺とリサ以外がギョッとする。特に気配を探ることに長けたシアなんかは自分の探知を掻い潜って現れたそいつを敵かのように睨んでいる。
「よぉ、こっちだと何日か振りだよな?リムルいる?」
だがまぁ俺にとっちゃ想定内なので気にすることなく要件を告げる。シアも、俺の軽い調子を受けて滾らせかけていた殺気を収めたみたいだ。
「あぁ、取り次ごう」
そう言った蒼影が側頭部に手を当て何やら思案に耽るような雰囲気を出す。どうせ念話か何かでリムルにメッセージを送っているのだろう。少しすれば、着いてこいとこちらに背を向けて歩き出した。
俺達は黙ってその先導に着いていく。時々俺やリサの顔を知っている奴らが声を掛けてくるので適当にそれに応えながら歩いていけば、15分ほどでリムルの屋敷に辿り着いた。そのまま俺はリムルの執務室に通される。
そこには、相も変わらずやたらと輝いているスライムが1匹鎮座していた。
「おすリムル」
「天人、まさか来るとは思わなかったぞ」
スライムが喋ったことでユエ達に驚きが走る。と言うかお前さん、あんなこと言っておいて来るとは思っていなかったのかよ。
「……これ、念話?」
ユエがリムル特有の会話方法に疑問符を浮かべている。
「あぁ、そっか。リムル、人間体……っていうか喉で喋ってもらえるか?」
「ん?あぁそうだな」
(心で)頷いたリムルは10代後半くらいの人間体になる。それにもやはりジャンヌやトータス組は驚きっぱなしだ。
「では改めて、このスライム───あぁ、トータス的にはバチュラムだけど、兎も角コイツこそがここ魔国連邦の主でありこの世界の頂点に君臨する魔王が1柱、リムル・テンペストだ」
「宜しく。天人にはこの国の最高戦力として、リサにはこの国の会計や外交で助けられたよ」
軽い調子で手を挙げるリムル。そのまままぁ座れよとソファーを指したリムルに従い、俺達はふんわり柔らかで座り心地の良いそこに腰を下ろした。
「まさか本当に世界も時間も越える力を身に付けてくるとはな」
「あぁ。戻ってからまた別の世界に飛ばされてなぁ……。そこで世界と時間を越えられる道具を手に入れたんだよ」
お前も大変だな、というリムルの台詞には呆れも含まれていた気がしたがそこはまぁ許そう。俺もトータスに飛ばされた時はまたかよと思ったしな。
「ここに来た理由は……まぁ正直ただの顔見せなんだけど、取り敢えずコイツら紹介するよ」
リムルにとっちゃ、リサ以外は初見だからな。
「ええと、こっちの銀髪がジャンヌ、ジャンヌ・ダルク30世」
「……ジャンヌ・ダルク?」
あぁ、もしかしたらリムルの世界じゃジャンヌ・ダルクは史実の通り火刑で死んだのかな、と思いそこら辺の説明をしようとした時、コンコンと、ドアがノックされた。リムルは誰が来たのか分かっているようで、「どうぞー」と入室を促した。すると入ってきたのは───
「お茶が入りました」
お盆にお茶を乗せた朱菜だった。しかし、朱菜は部屋を見渡し、そして俺を見ると何やらゴミでも見るかのような冷徹な目付きになった。どうして……?
「え、朱菜、さん……?どうしたのその目付き……まるで溢れた生ゴミでも見るかのような……」
俺が恐る恐る聞くと、朱菜は不機嫌そうに鼻を鳴らす。本来ならリムルへの来客にこんな態度を取るような奴ではないのだが、まぁ俺が相手なら別に、ということだろう。
「いえ、ミリム様と別れたのに随分とまぁ……お楽しみのようで」
と、朱菜はリサ以外の女子面子に目線をやる。どうにも、俺がミリムと別れたのにも関わらずこんなハーレムを築いているのが気に食わなかったらしい。そういや、コイツはミリムとスイーツ同盟?みたいなのを結んでいたくらいには仲が良い。このあからさまな態度は多分そこから来ているのだろう。
「申し開きのしようもございません……」
結局あれだけ言っておいて一途を貫けなかったのは俺なのでここは平身低頭謝るしかない。それを見て多少は溜飲も降りたのか、朱菜はお盆に載せたお茶をそれぞれに配り始めた。俺のお茶だけ、置く時の力がちょっとばかし強かったのだけれど……。
「……あぁ、まぁあっちのリムルの世界と俺達の世界とじゃ色々違う部分があるんだよ」
と、朱菜が出ていき、微妙な空気になったこの部屋で話を続ける。とは言え、気勢が削がれてジャンヌの出自を細かく言ってやる気にもなれなかったけど。そして、次にユエを紹介しようとした時、それは起きた───
「んで、こっちの金髪の子は俺とリサ、ジャンヌとは違う世界から来たんだ。名前はユエ───っ!?」
ガクンっと、身体から力──というより魔素と魔力──がごっそり抜けていく。初めてのその感覚に俺は前のめりに倒れそうになる。それをシアが支えてくれたが、何なんだこれ……。
「……んっ、力が、沸いてくる……?」
そして、ユエからはさっきまでとは比べ物にならないくらいの力を感じる。見た目は変わっていないがその存在強度というのだろうか、とにかく、そういう概念的なものが強くなっているのだ。
「……名付け?」
と、リムルが呟く。俺もそれで思い出した。この世界には名付け制度が存在する。上位者が下位の者に名前を付けてやると、上位者の魔素を使って下位の奴がパワーアップするのだ。リムルはそれで魔国連邦を強く纏めあげたのだ。
そしてユエという名前は俺があの奈落の底で彼女に付けた名だ。それが、この名付け制度のある世界で改めて名前を呼んだことで適用されたのだろう。おかげでごっそりと魔素も魔力も持っていかれたが。まぁ俺なら聖痕もあるし問題はあるまいて。
「……あぁ、ユエってのはユエの世界で俺が彼女に付けた名前なんだよ。だから多分、この世界の名付けがここで働いたんだと思う……」
俺はこっそり聖痕を開きつつそんな話をしてやる。
「おおう……大丈夫か?初めてだろ、それ」
「あぁ、まぁどうにか。ビックリしただけだ」
魔素は抜けても俺の身体にはトータスの魔力も流れているからそう大事には至らなかった。それに、聖痕も開いたから直ぐに力は戻ったし。それよりユエの方は大丈夫なのか?
「それより、ユエは……?」
「……んっ、大丈夫、問題無い。……むしろ、天人に包まれてる安心感が凄い」
らしい。よく分からんがどうやらユエは大丈夫のようだ。
「……あれ?」
だが、リムルには何やら引っかかることがあるようだ。
「……どうした?」
「いや、昔ガビルの名前を呼んだ時、名付けの上書きがされたんだよ。けど、ジャンヌ……さん?は特に何も無いみたいなんだよな」
「あぁ……」
それは、ジャンヌが人間で、ユエが吸血鬼だからだろうか。
「ユエはまぁ、向こうの世界で言えば吸血鬼族ってやつでな、見た目通りの人間じゃないんだよ。この世界の基準で言えば……まぁ魔物に近い。……そうだ、それでも思い出した。2人とも、ここなら外していいぞ」
俺がそう言うと、「それもそうだ」とシアとティオがそれぞれのアーティファクトを外す。あれは魂魄魔法を利用した認識阻害のアーティファクトで、2人の人間とは形の違う耳を周りから隠すための物だ。
「おぉ!!」
ティオのトンガリ耳よりもシアのウサミミに興味津々と言った体のリムル。だが理子と違って、リムルは中身がガチで人間のオッサンだということは知っているので触らせたくはない。見た目はこんなでも実際はアラフォーの男だからな。
というのをシアには先に念話で伝えたのでシアも「興味あるなら触ります?」なんてことは言い出さない。むしろ、男だか女だか分からんはずの見た目と声の筈なのにシアがやや引き気味なことで、俺がシアにリムルの出自を軽く話してあることを察したのだろう。俺に「話したのか?」とこれも念話で伝えてくる。なので俺も「そりゃそうだ」とだけ返しておいた。
「で、こっちのウサミミが……」
シアだ、と言いかけて俺は言い淀む。シアも兎人族ということで純粋な人間族ではない。つまり、ここで俺がフルネームを発しようものなら名付けの上書きでまた魔素と魔力を持っていかれる可能性がある。別にシアが強くなる分には何も構いやしないのだが、あの感覚に俺はちょっと及び腰になっていた。
「……シア、シア・ハウリアだぁぁぁぁん……」
だがここで黙っててもどうにもならないと、意を決してシアの名前を呼んだ瞬間、また魔素と魔力を抜かれた。そして俺の中から抜けたそれらはシアへと還元される。シアも「おぉ!?」と何やら驚いている。
「……上書きされたんだな」
「……あぁ」
ていうか、よくこっちにいる間にリサに名付けの上書きされなかったな。あらか、ジェヴォーダンの獣の血は魔物認定されなかったんだろうな。獣人族は魔物枠に入れられたっぽいが、ジェヴォーダンは出すのに条件があるからだろうか。しかし、この分だとティオも魔物枠だろうなぁ……。
「……で、こっちで唯一洋服着てるのがティオ、ティオ・クラルスだぁぁぁぁ……」
そしてまた抜かれる俺の魔素と魔力。ティオもまた存在の根本からして強くなっているような気がする。何がどう変わったのかは……リムルの能力に任せよう……。
───────────────
──今ならエヒトもワンパンできる気がする──
というのは名付けでパワーアップしたっぽいユエ様の談。エヒトの能力を纏めて簒奪したユエ様が言うと何も洒落に聞こえないから怖い。
「それよりリムル、お前の能力の、えぇと、今名前なんだっけ?あの分析担当のやつ」
「シエル先生か?……あぁそうだ、シエル先生から天人がもしまたこっちに来るようなら伝えてくれって言われてたんだよ」
「何を?」
「んー、何かな、お前の究極能力のことで隠してたことがあるとかで、本当のところを話したいんだとさ」
「あ?何それ……まぁいいや、聞くよ。俺も、コイツらが今どんな状態なのかシエル先生に聞きたいし」
世界の声は聞こえなかった。ということは新たにこの世界基準の
「じゃあ、一旦入れるぞ」
「おう」
と、答えるが早いか俺達はリムルの能力によってコイツの中に広がる虚空へと取り込まれた。
「……相変わらずここは何もねぇな」
虚空の中は1度経験済みの俺は特に慌てることなく周りを見渡す。ちゃんとユエ達もいるようだ。キョロキョロと興味深気に辺りを見ている。
そして、しばらくすると俺達の視界が真っ黒な虚空から元の色彩を取り戻す。どうやらリムルの中から吐き出されたようだ。
「……おう、何だって?」
「あぁ、そっちの3人は、何か新しいことができるようになったと言うよりは全体的なパワーアップが成されたみたいだぞ。……で、天人なんだが……」
「あぁ。氷焔之皇がどうのってやつか?」
「あぁ。えっと、シエル先生曰く、あの時天人に伝えた氷焔之皇の権能ってのは真実じゃないらしい」
「あ?でも実際、言われた通りのことは出来てたぞ」
「それがなぁ……あぁ、よく分からんからシエル先生、お願いします」
あ、リムルが放り投げた。と俺が呆れた瞬間、リムルの雰囲気が変わる。多分身体の主導権をシエル先生に渡したのだろう。
「了。これより個体名:タカト・カミシロへの説明を行います」
「おう、頼む」
「告。魔王になった折に個体名:タカト・カミシロが習得した究極能力は氷焔之皇ではありません」
「……は?」
いやいや、お前が言ったんだろうが。それを獲得したって。
「解。正確には個体名:タカト・カミシロが獲得した能力の権能の一部が氷焔之皇となります。そして、個体名:タカト・カミシロの願いに最も強く応えられる能力が氷焔之皇ということです」
「……なんだそれ」
「解。個体名:タカト・カミシロが獲得した能力は破壊と再生を司る原初源流の力。個体名:ユウキ・カグラザカの発現させた
シエル先生より告げられたそれは、俺にとっては信じ難いことだった。そりゃそうだ。自分の中にそんな力が眠っているなんて誰が信じられるってんだよ。けれど、今更シエル先生が俺に嘘をつく必要は無いし、コイツが間違えるとも考えられない。だからそれはきっと事実なのだろう。
「……つまり、何でもかんでも思い通りってことか?」
「解。その通りです。例えば水を石にすることや土くれを黄金に変えることも可能です」
それは……まさしく神の如き力だ。だが、言われてみれば確かにそれは氷焔之皇のやることと似ている。そして、恐らくその元になったのは俺の聖痕の力。特に白焔は魔力や魔素みたいな力を自分の力に変換する力だ。究極的にはそういうことに繋がるのだろう。
「告。ですが能力は使う者の想像力に依ります。そのため、個体名:タカト・カミシロではその全てを扱い切れない、また、あの時点ではまだ
それはまぁ、多分そうだろう。リムルと戦ったかどうかは知らないが、言われた今だって氷焔之皇の権能以上の力は扱えそうにない。
「告。ですが、その能力の力は確実に個体名:タカト・カミシロの戦闘に現れています。例えば、時間の停止した中でも動けたこと、別の世界において鉱石や鉱物を加工する力を得たことがそれに当たります」
あの時間停止の中で動けたことも、俺がトータスで錬成師の天職を得たこともそれが原因だったって言うのか。
「……けど、あの時俺がここで獲得した力や聖痕の力は別の奴に封印されたんだぞ。錬成はそん時に得た力だ。……たまたまじゃないのか?」
「解。その問いを否定します。個体名:タカト・カミシロの獲得した原初の能力は本人の本質に拠るもの。例え能力を封印されてもそれは変わりません。そして、その萌芽はこの世界に来てから直ぐに現れていました。例として、元素魔法を詠唱破棄の能力なく無詠唱で発動していたことが挙げられます」
あれもこれも、全部繋がってたのか。そして得るべくして錬成師の天職と錬成の技能を得たというわけなのね。
「告。氷焔之皇の権能の内、能力の凍結と燃焼はこの原初の能力に拠るもので、本質ではありません」
そうだ、この能力の本質は
「それは知ってる。氷焔之皇はその守りの力を他の奴にも与えられるってのがキモだ」
「解。肯定します。告。しかし、それでも氷焔之皇の本来の力はそれだけではありません」
「あぁ?」
「告。前に告げた氷焔之皇の権能と、それに付随する能力として、個体名:タカト・カミシロが本来は獲得していた能力が幾つかあります」
「……何それ」
「解。常時発動型の多重結界と並列演算です。その他にも様々ありますが個体名:タカト・カミシロが扱えるのはこの2つになると思われます」
……この野郎、ただの能力のくせにちょいちょい俺のこと馬鹿にしている節がある。まぁ確かに色々言われても分からんし能力は想像力や認識によって働かせるものだから、俺の足りない頭じゃ大それたことは出来やしないのだろうが。それでもお前、結界とかなら教えてくれても……あぁ、コイツは俺とリムルが敵対する可能性も考えてたんだよな。それで俺の力をわざと制限して、最悪の場合に備えたんだ。
引っかかる部分はあったんだ。俺の氷焔之皇はリサを守りたいっていう意志が生み出したハズのもの。なのに
「多重結界ねぇ……。……これかぁ?」
空間魔法による空間断絶魔法を思い起こす。空間魔法には適性の無い俺だが、使い方だけは脳みそに無理矢理に刻まれているからな。すると、俺の周りを何かが包む気配。これが結界ってやつか?
「……これ、誰かと手ぇ……握手する時はどうすんの?」
多分これ、使ってる間は他人と触れ合うとか無理だろう。なんなら人混みの中でも使えるのか微妙だ。肩がぶつかっただけで相手の身体を破壊するなんて俺は嫌だぞ。
「解。常時発動型の結界ですが、使用者の意思で切り替えが可能です」
そりゃ良かった。けどもうちょい使い勝手の良いやつはないのかな……。こう、一定以上の力とかを弾くような……。
「告。また、氷焔之皇の他者へと加護を与える権能ですが、本来は個体名:タカト・カミシロの持つ能力全てに適応されます。加え、被加護者へ個体名:タカト・カミシロから魔素や魔力といったものを共有することも可能です」
「……それを先に言え」
それがあれば態々言語理解のアーティファクトなんて作らなくてよかったのに。だがまぁ、コイツに今更何を言ってももうどうしようもない。
「……こうか?」
俺はリサ、ジャンヌ、ユエにシア、ティオに氷焔之皇を掛ける。そして魔力を変換する守り以外にも多重結界と言語理解を渡す。
「あぁユエ、言語理解のアーティファクト外してリサとジャンヌに何か喋ってみてくれ」
「……んっ、リサ、ジャンヌ、聞こえる?……私が何を言ってるか分かる?」
「はい、分かりますよ、ユエ様」
「あぁ、分かるぞ」
どうやら無事に効果は現れているようだ。
「多重結界?とか言うのは分かるか?」
と聞けば皆、俺に包まれてる気がするとのこと。まぁ掛かってるならいいや。
「……いや待て、完全に遮断するなら声も聞こえないはずだ。シエル先生よぉ、これ、実は弾く条件とかあるだろ」
「解。本人に害を成すものと判断されるもの以外は結界を通過します。そのため、発声による会話などは可能です」
コイツ、本当に俺のことおちょくってるだろ。それさっきの質問で答えてもいいやつじゃないか。どうせ、俺の質問の意図は切り替え可能かどうかっていうところにあったから、それを汲み取ったんだろうが。
「……はぁ、もういいや。……あぁリムル、もう戻ってきていいぞ」
聞けたいことは聞けた。なんかよく分からんが、多分俺の本当の能力ってやつは俺には扱い切れないんだろう。そんな力、あったって危ないだけだから制限が掛かっているくらいで丁度良い。
「おう、ただいま」
「おかえり。んで、これお土産」
と、俺は宝物庫からトータスで採れる鉱石を適当に取り出し、それをテーブルの上に置いた。それを見てリムルは目を輝かせている。
「こりゃあ……」
「別の世界の鉱石や鉱物だよ。異世界の魔法はどうせ俺を腹ん中に収めた時にシエル先生が覗き見てそうだからな」
「うおぉぉぉ……。でも、いいのか……?」
「幾らでもあるからな。それくらい別にどってこたぁねぇよ」
オルクス大迷宮に潜れば幾らでもあるからな。俺が出したのはそれほど貴重でもないタウル鉱石とか緑光石だし。
「ありがとな。……あぁそうだ、覇終、取ってあるけどどうする?」
「あぁ……あれなぁ……向こうじゃ火力あり過ぎて武偵法に引っかかりそうで使い辛いんだけど……まぁ受け取っとくよ。究極能力以外にも、俺がこっちにいた印ってことで」
「ん」
と、リムルが胃袋の虚空の中から一振の大太刀、覇終を取り出した。それは俺がこの世界を出る前と何ら変わることのない輝きをその刀身から放っていた。
俺はそれを宝物庫へと仕舞う。多分これも、シエル先生が既に解析を終えて仕組みをリムルに伝えてるだろう。リムルも物の出し入れに驚いていないし。
「……さて、俺もそろそろお
「ん?もう帰るのか?皆に挨拶してけばいいのに」
「そりゃあリムルからよろしく言っておいてくれ。ま、ほっといても蒼影と朱菜が勝手に広めるだろ」
リムルもその気になれば俺の所へ遊びに来れるし、俺ももう好きに移動出来るからな。
「それもそうだな」
「今日はまぁ、俺も別の世界に行けるようになったっていう報せと久しぶりだなっていう挨拶だけだよ。……ていうか、異世界から3人……いや、今後あと2人増える予定だから5人なんだけど……ともかく、異世界人があっちで生活できるようにしなきゃだから俺も割としばらくは向こうで忙しいんだ」
この巡回は必要なことだと思うから時間を割いたが、割と俺はこれから忙しくなるはずだ。彼女達を養うための基盤を作ったりなんなりと、な。
「……大変そうだな」
「こっちと違ってあんまり好き勝手できねぇからな」
そういうわけだから、と俺は宝物庫から羅針盤と鍵を取り出し、鍵を空間に差し込む。魔力をごっそり持っていかれるがそれは聖痕の力で補い、俺は虚空に突き刺した鍵を回す。そして現れた扉を潜り───
「また時間が出来たら遊びに来るよ」
「おう、待ってるぞ」
と、旧友への挨拶もそこそこに俺達は武偵高の寮へと帰っていった。