セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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欧州無双

 

 

「……こうなると思ってたですぅ」

 

シアがジト目で俺を睨む。朝は買ってきたパンを食べ、これからの作戦会議だと全員でジャンヌの部屋に集まったのだ。そして、俺の腕に自分のそれを絡めるジャンヌと、それを振り解こうとしない俺を見たユエとシア。2人の目線はこれ以上なく冷たいものになっていた。

 

「いいや、シア。俺は一切ジャンヌには手を出していない。嘘だと思うなら魂魄魔法を使って確認してもいいぞ」

 

俺がそう言えば、ユエが何の躊躇いもなく俺に魂魄魔法をかける。欠片も俺の言葉を信じていない辺りが悲しい限りだった。

 

「……んっ、天人は嘘ついてない。確かに2人には何も無かった」

 

だがまぁ、何も嘘はついていないし、真実を伝えていない訳でもない。俺は実際、誘惑に打ち勝ったのだ。

 

「いやいや、この変わり様は何かありましたよね!?」

 

「……俺は、ユエ達にもジャンヌのことを認めてほしいと思ってる。それだけだよ」

 

と、俺が告げれば2人は「やっぱり……」と頭を抱えていた。キンジは俺のことを化け物でも見るかのような目で見ている。病気(ヒス)持ちのキンジからしたら、確かに考えられないような状態だろうけれども。それは友人に向けていい目線ではないと思うぞ。

 

「ふむ……」

 

何を思い付いたのかジャンヌがボソッと呟き、そのままシュルりと俺から離れる。

 

「この欧州戦線では私が先鋒として戦おう。そして、ユエ達にも私のことを認めさせる」

 

と、そう宣言した。

 

「……んっ、見せて」

 

「お手並み拝見ですぅ」

 

それを聞いたユエとシアも何故かやたらと好戦的な目をしている。バチバチと、3人の間で火花が散っている幻覚が見えそうだ。

 

「まぁ、それはそれとして、実際どうすんだ?この辺は魔女連隊の奴らが押してるんだろ?」

 

「あぁ。ドイツとスペインは既に奴らの手中だ。バチカンもそう長くは保つまい」

 

うむ、とジャンヌは両手を組んで頷きながら今の状況を説明してくれる。実際、バチカンからも応援要請があったらしいからな。俺達はそれを受けてこっちに来ているというのもあるのだから。

 

「あぁそれとな、気合い入ってるとこ悪いが、ユエとシアにも出てもらいたいんだよ。……ジャンヌには前話したけど、俺がこの戦役に参加した理由だ」

 

「あぁ」

 

と、ジャンヌが頷く。キンジから何の話だと目線が飛ぶので、俺は言葉を続けた。

 

「俺がこの戦役に本格的に絡もうと思ったのは、この戦いの影響が色んな所に出るだろうと思ったからだ。師団が勝とうが眷属が勝とうが、な。今まではんなもん放っておいてもよかったんだが……今はそうも言ってられなくなった」

 

「……天人はこの戦いで私達を皆に認めさせるのが目的?」

 

と、ユエが質問を飛ばす。

 

「そうだな。つっても、表の奴らじゃなくて裏の奴らにだけどな。そして2人には大いに暴れてもらって、俺達に手ぇ出すなんて馬鹿らしいと思わせてもらいたいんだよ」

 

「……それは、どちらにですか?」

 

「どっちかと言えば師団側だな。ジャンヌやキンジ、バスカービルの奴らは良い奴らだよ。お前らとも仲良くやってくれる。けど俺ぁ他の奴らは信用してねぇ。眷属側は負かしゃあそれで終わりかもしれねぇけどな。一応は味方の師団はそうもいかない。だからここで俺達の力を見せつけて黙らせる、それが俺の目的だ」

 

それは、結局2つの世界で果たされなかった俺の計画。喧嘩売ろうなんて気になれないくらいの力の差を見せつけて安寧を得ようとするそれは、東の帝国やエヒトによって尽く邪魔をされ、その度に戦う羽目になっていた。それもいい加減終わりにしたい。力を手放すことができない以上、中途半端に見せびらかして敵を増やすのではなく、誰も逆らう気が起きないくらいのものを見せつけてやろう。俺はそう決めていた。

 

その上で師団側に付いたのは単にジャンヌやキンジ、バスカービルの奴らがいるからだ。眷属側に付いたってやること変わらないしな。だったら気心の知れた奴らのいる方に付くさ。

 

「……んっ、分かった」

 

「そこまで言われたら暴れないわけにはいかないですね。やったるですぅ」

 

俺の言葉で2人は随分と気合いを漲らせているようだが……

 

「……あ、一応この世界じゃ人殺しは無しな。特に武偵は」

 

今更俺が言ったところで説得力なんて無いけれど、それでも一応言わなきゃな。この2人、放っておいたらマジで魔女連隊皆殺しとかやりそうだし。

 

「……分かってる」

 

「了解ですぅ」

 

「ん、というわけでジャンヌ、眷属の魔女連隊を潰そう。まずは誰からだ?」

 

この戦いは総力戦ではない。その団体の中の強い奴だけが戦いの場に出られるというルールだ。だからまずは魔女連隊のエースを潰してしまおう。

 

「いや、バチカンからはどこかにある魔女連隊の武器庫を探してほしいと言われている。どうにもそれが───」

 

「───あったぞ」

 

「はぁ?」

 

と、俺は羅針盤で魔女連隊の武器庫を探し出した。だが数秒で行われたそれにジャンヌは理解が追い付いていないようだった。

 

「あぁこれ、探してる場所がどこにあるのか探る道具なんだよ。魔力を注げばコイツが教えてくれる。んで、探したら……こうだ」

 

俺は越境鍵で扉を開く。魔女連隊の武器庫の正面に繋がるそこからは、冷たい冷気が流れ込んできた。

 

「ユエ、シア、やっちまえ」

 

「……んっ」

 

「はいですぅ!」

 

開いた扉から外の世界へと飛び出していくユエとシア。じゃあちょいと行ってくると、軽い調子で俺もそこへ向かう。見れば、どうやらここは確かに兵器庫なのだが、どうや博物館としての機能もあるらしい。というか、博物館をカモフラージュに使っているんだろうな。お見えになってるティーガーⅠとか、本物だし。しかもこれ、多分動くぞ。他にも第二次世界大戦で使われた世界各国の戦車がゴロゴロ停められている。なるほどねぇ。これなら確かにバレ辛い上に堂々と武器弾薬を置いておけるってわけか。

 

シア達は、普通に正面から入ったようだ。入場料は8ユーロらしい。まぁシアの索敵能力なら隠し通路とかも簡単に見付けそうだから大丈夫かな。

 

こっちに来て、シアに新たに渡した戦闘用アーティファクトがある。それはタウル鉱石をシュタル鉱石で包んだトンファーだ。付与したのは重力魔法と衝撃変換。さらに空間魔法を用いて内部に鎖を仕込んである。最初は軽いだの小さいだのと文句ばかりだったが武偵活動中にドリュッケンなんて振り回すタイミングもそんなには訪れないだろうと無理矢理押し付けた。

 

シア……というかユエにも校則上仕方なく拳銃は持たせてあるが、それはベレッタM92F、キンジが使ってるのと同じものだ。理由は単純、ルガーなら流通量も多いし俺の拳銃とも兼用できるから。それに加え、銃自体も米軍が制式採用するくらいには信頼性もあるし、そこから払い下げられたりもするから性能の割にかなり安いのだ。聞けば、キンジもほぼ同じ理由で選んだらしいからまぁ問題無いだろう。

 

だがこの2人、トータスで判明したけどビックリするくらいに拳銃を扱うセンスが無い。撃つ弾撃つ弾、まぁ外れるのだ。ユエは魔法があるからいいけど、シアはドリュッケンや神域で使った大振りの打撃武器は基本的に使えない。あんなもの振り回したら犯人死ぬし。そんなわけで、シアが武偵活動中に扱える武器ということで打撃武器の1つであるトンファーを渡したのだ。あれは俺も使えるからレクチャーもやりやすかったし。

 

と、熱変動無効で寒さに強い俺はボケっと、流石にこの雪山はキツいジャンヌとキンジはそれぞれ防寒具を着込んでユエ達を待つ。10分くらいして、そろそろ誰かほうほうの体で逃げ出してくるかな、と思ったがしばらくしても誰も出てこない。音も聞こえてこないから、もしかして裏口みたいな所から何人か逃げ出しているのだろうか。

 

まぁ、そもそもここの目的は魔女連隊の殲滅ではなく彼女らの倉庫を破壊して戦力を削ぐことが目的なので深追いする必要も無い。そして、しばらくすると中からガチャガチャという金属の擦れる様な音と何やら口喧しい女の声が沢山聞こえてきた。どうやらシアに纏めて捕まったらしい。音が段々近付いてくる。そして───

 

「大漁ですぅ」

 

「……んっ、結構居た」

 

手錠での拘束に加え、トンファーから出された鎖でぐるぐる巻きにされた10代から20代くらいと思われる、カラフルな頭にタイスカートの女達がシアとユエに担がれて運ばれてきた。さっきからガチャガチャ五月蝿いのは手錠と鎖の当たる音か。

 

「……それで全員か?」

 

「んー、どうでしょう?もしかしたら何人か逃がしたかもしれないですぅ」

 

「……んっ、目的はここの破壊だから敢えて深追いはしなかったけど」

 

「あぁ、それでいいよ。殲滅戦じゃないからな。ソイツらだって殺しゃしないわけだし」

 

それを聞いたユエとシアは、抱え上げていた魔女連隊の奴らを雪原に放り投げた。「ぐえっ」と、カエルの潰れたような音を出してうら若き乙女達が雪にまみれている。何人かは大股おっ広げて雪の中に転がっている有様だ。ご開帳となった布の花園から、キンジは全力で目を逸らした。

 

「……天人」

 

俺が他にもこういう拠点があるのかと問い詰めようとしたその時、キンジが俺の肩を叩く。

 

「んー?」

 

「先に1つ、俺もコイツらに聞きたいことがある」

 

「ん、りょーかい」

 

俺はキンジに先を譲る。キンジは視線を上……タイスカートの内側から逸らしながら適当な奴に声を掛ける。

 

「お前らの持っている殻金はどこだ?」

 

 

 

───────────────

 

 

 

殻金なる物を持っているのはカツェという魔女だと判明した。だが、羅針盤で探る限りどうにも周りに人が多そうな所にいるみたいで、これが全員魔女連隊の奴らなら何も気にせずに飛ぶのだが、一般人までいるとなると話は変わる。いくらなんでも衆人環視の中転移するのは後々面倒臭い。

 

そのため俺達は一旦パリの街に戻り、改めて作戦会議を行うことにした。

 

とっ捕まえた魔女連隊と差し押さえた武器庫はバチカンとリバティ・メイソンに連絡して彼らに一任することにしてある。

 

「まさか数分で欧州での趨勢が傾くとはな……」

 

キンジがボヤくように呟いた。その目線の先には昼飯として市場で買ってきたパンや果物を頬張っているユエとシアの姿があった。

 

「聖痕持ち以外でこの2人に勝てる奴なんていねぇからな」

 

それはHSS持ちを含めての話だ。条件によっては逃げおおせる程度は出来るかもしれないが、正面から戦闘して勝つというのはユエとシアが相手ではまぁ難しいだろう。

 

「……天人、分かってると思うが───」

 

「油断大敵、だろ?分かってるよ。誰だって不死身じゃあない。向こうだって俺がいると分かれば聖痕持ちを拾ってくるかもだしな」

 

そして恐らく、俺の持つ氷焔之皇も多重結界も聖痕の力の前ではそれほど役に立たないだろう。まず樹里の切断の聖痕だけでも俺に通るだろうし、熱変動無効があっても爆弾や何かで周りの酸素を一気に奪われたら結界も何も関係無く普通に死ぬ。リムルや魔国連邦の上位陣ならどうかは知らないが俺は無理。そんなに色々できるようにはなっていないのだ。

 

「分かってるならいいけどな」

 

「そういや、武偵高はどうだ?まだそんなに通ってねぇだろうけどさ」

 

日本では、親戚のおじさんは久しぶりにあった甥っ子姪っ子に学校はどうだ?と聞く風習があるらしい。それに習って──いや別に2人とも親戚じゃねぇけど──コイツらが学校で楽しく過ごせているのか聞いてみる。俺はトータスから帰ってきてからこっち、ほとんど顔出せてないからな。

 

「思ったより普通で安心しました」

 

「……んっ、もっとヤバいところだと思ってた」

 

「嘘だろ!?あれで!?」

 

ユエとシアの感想にキンジが驚いている。それはもう大きく驚いている。目ん玉ひん剥くらいにはビックリしたらしい。

 

「帝国みたいって聞いていたのでもっとそこら中で喧嘩してるイメージがありました」

 

「……実際は一部だけだった」

 

あぁ、多分それ強襲科(死ね死ね団)の奴らです。俺も同じ穴のムジナだけど。

 

「あそこより治安の悪い場所があるのか……」

 

キンジはキンジで明後日の方向に慄いている。まぁ実際、治安の悪さで言えば強襲科程劣悪な所も異世界多しと言えどそうそう見当たらなかったけど。

 

「シアは強襲科だろ?変なのに絡まれてないか?」

 

「来るには来ますけど、天人さんの名前出すと直ぐ引っ込むのでそれ程でもないですぅ」

 

「……んっ。私もそう。天人の名前を出すと皆怖がって逃げてく。……天人、何したの?」

 

「あぁ……」

 

俺がどう答えたものかと言い淀んでいると、キンジはキンジで頭を抱えている。俺達の頭をよぎったのはきっと同じ文字列だ。

 

──ランバージャック100人抜き──

 

1年の2学期が終わる頃だったか中頃だったか。ともかくまだキンジがギリギリ強襲科にいた頃だった。男子から……いや女子も含めて学年で絶大な人気を誇るリサと日がなベタベタしている俺にブチ切れた男子生徒が学年も学科も問わず集まり、俺にランバージャックを挑んだのだ。

 

売られた喧嘩は買わなきゃならない強襲科の俺は当然それを受けたわけで。しかも一々相手にするのも面倒だったので壁役決めて後は全員1列に並んで掛かってこいやと挑発。100人程の男が順番にリングに入っては気ぃ失って蹴り出されるという2学期始業式の日や体育祭を凌ぐ、文字通りの喧嘩祭り(ラ・リッサ)と化したのだ。一応幇助者でキンジが俺のセコンドに着いてはいたけど全く介入する余地もなく、後ろでハラハラした顔で見ていたリサ目当てで俺に挑んだ男共は薙ぎ倒されたのだった。まぁ俺も途中からは強化の聖痕開いて戦ってたけど。当たり前だ、いくらなんでもランバージャックのルールで100人抜きは無理がある。あの時の俺は聖痕が無ければ人間の枠に収まっていたから普通にやって体力が保つわけがない。

 

ちなみに、途中からは蘭豹もリング脇から酒を煽りつつ俺達のことも煽っていたのだが、この決闘が特に問題になることも無かった。普通に学内の決闘は黙認されているしその方法でランバージャックを選ぶことも特に何も言われない。やはりあそこは最高にトチ狂っていると思うよ。

 

そしてそれ以来、流石のバカの巣窟強襲科も俺に喧嘩を吹っ掛けてくる奴は減った。減っただけであれを知らない上勝ち狙いの血気盛んな1年坊主を中心にそういう奴はまだいるし、挨拶は相変わらず死ねから始まるんだけれども。

 

と、俺がそんな在りし日の記憶に思いを馳せていると、情報科だけあって情報は掴んでいたらしいジャンヌが「あぁ、あれか」という顔をした。

 

「ランバージャック100人抜きとかいうやつだろう?」

 

「ランバ……なんです、それ?」

 

どうにかして誤魔化そうと思ったのにジャンヌの一言にシアが食いついてしまった。

 

「武偵にはランバージャックという決闘方法があってな。本当は1対1でやるものなのだが、天人はそれを100人連続でやったらしいのだ」

 

と、その頃はまだ武偵高にはいなかったジャンヌが伝聞系で話している。

 

「……ランバージャックってどうやるの?」

 

既に馬鹿を見るような目で俺を見ていたユエ様のご質問。その湿度高めの視線、一旦止めてもらっていいですか……?その、心がとても辛いんですよ……。

 

「……基本的には壁に囲まれてその中でタイマンだよ。ただし1度だけ戦闘に介入できる幇助者ってのがいるんだ。俺のそれはキンジにやってもらった」

 

あの時のランバージャックには理子もいたのだが、リング役でしかもバリバリ俺にワルサーを向けていた。あのお祭り大好き戦闘狂(ガンモンガー)女、あん時はすげぇ楽しそうだったな……。

 

「で、壁役をやる奴は、自分の目の前に決闘してる奴が転がってきたらそいつを中に押し戻すんだが……そん時ゃ攻撃してもいい、っていうルールだ」

 

そしてあいつら、金出してまで何人かの助っ人を呼んでいたのだ。壁役にレキ、中の決闘者に不知火がいた時はマジでイカれてると思ったね。不知火も断らないで笑顔で参加してるし。武藤も決闘者の中にいたけど、あいつは普通に無料(ロハ)で私怨半分ノリ半分って感じで参加してた。

 

「……攻撃?」

 

「あぁ。拳銃で背中撃とうが空間爆砕だろうが重力魔法で叩き潰そうがドリュッケンでぶっ飛ばそうが何してもOKの、実質集団リンチだよ」

 

「……しかもあの時、お前の味方役の壁いなかったよな」

 

「流れ弾の危険があるからなぁ……。リサは置けねぇよ」

 

そして理子が裏切ったために、ただでさえ友人の少ない俺に味方してくれる者は幇助者のキンジを除いて誰もおらず、完全に四面楚歌でやる羽目になったのだ。

 

「しかも本来のルールでは壁役は1桁までの筈だが、天人が人数無制限でいいと言ったらしく、20人くらい集まったと聞いたぞ」

 

「何してるんですか天人さん……」

 

「……というかなぜそこまで恨まれたの?」

 

「集まったのはほぼ男だったんだが、要はリサと俺が一緒にいるのが気に食わねぇんだと」

 

普通それでそこまでやるか?という顔をユエとシアはしていたが、あそこは普通じゃないからな。俺含めて馬鹿共の集まりだから、そういう時もあるのだ。

 

「んで、コイツは金で雇われた奴も含めて100人ぶっ飛ばしたんだよ」

 

「100人で終わった理由は集まった奴らがちょうどそんくらいだったからで、もっといたらもっとやる羽目になってたな」

 

流石に当時の3年はいなかったけど、当時の1年中心に2年まで集まったからな。おかげで今の強襲科の3年は結構な人数が下負けを経験していたりする。

 

「改めて思い出すと、やっぱ普通じゃねぇなあそこ……」

 

「武偵高で普通なところってどっかあるか?」

 

ボヤくキンジと諦めている俺。それを見てユエとシアは溜息しか出てこない様子だった。

 

「んんっ、昼からの予定だが……」

 

と、アホすぎる会話に空気の沈んだ俺達を引き揚げるようにジャンヌが話題を提供する。

 

「オペラ座で仮面舞踏会とのことだ」

 

 

 

───────────────

 

 

 

歌劇場はだいたいオペラ座というらしい。そんなフランス豆知識をジャンヌからご教示いただき、俺達は各々仮面を被ってとある歌劇場へと足を運んだ。

 

そこでは他の奴らも全員仮面を被って顔を隠し、何やら談笑していた。談笑と言えば聞こえは良いけれど、芸能人っぽい奴らのお忍びデートくらいならまだ可愛い方で、見るからにカタギじゃない奴や危ない薬やってる感じの奴も結構いるし、ここはそういう事情を抱えた奴らが外じゃ出来ないような話をするための場所らしい。

 

「メーヤだっけ?」

 

ここに俺達を呼び出したのはメーヤとかいうバチカンの修道女らしい。何でも師団の新戦力である俺達との顔合わせをしたいのだとか。……仮面被ってたら顔見えねぇじゃん、とは思うが要は信頼に足る人物なのかどうか見定めたいのだろうよ。仮面は被るけど。

 

「そうだにゃ」

 

目印らしいぬいぐるみを抱えたジャンヌは仮面だけでなく、日本の空港で理子に貰ったネコミミ集音器を頭に着けている。この場じゃただの飾りにしか見えないんだけどな。

 

ネコミミジャンヌことニャンヌさんを見たユエとシアからはあざといだの狙いすぎだの言われていたが、正直可愛いと思う。まぁ、あざといし狙いすぎなのは否定しないけれども。

 

ネコミミだけに語尾も猫っぽくしている辺りニャンヌさんは楽しそうだった。

 

「……会うならこんなとこじゃなくてバチカンでもどこでも、言ってくれりゃ飛ぶんだけどな」

 

「世界中どこでも瞬間移動ができるなんて向こうも把握していないにゃ」

 

「……気ぃ抜けるからその語尾どうにかなんねぇ?」

 

「今の私はニャンヌだにゃ。猫といえばにゃにゃんだにゃ」

 

にゃあにゃあうるせぇ……。最初は良かったけどここまで徹底されるとそれはそれで面倒臭いな……。

 

「……で、そのメーヤは?」

 

ユエがやや不機嫌そうにニャンヌを睨む。ユエさん的にもにゃあにゃあ煩いらしい。

 

「……あぁ、あっちだ」

 

俺も手早く見つけたかったのでジャケットの裏側で羅針盤に頼る。魔力を注げば、メーヤなる人物のいる先を指し示すそれに従い、俺達は仮面共の間を縫って歩いていく。

 

少し歩くと、前方でやたらと酒を煽っているドレスを着た女がいた。どうにもあれがメーヤらしいが……。

 

「……修道女って酒飲んでいいのか?」

 

「メーヤはアルコールで超能力のパワーを貯めるらしいから、あれは戦闘準備らしいぞ」

 

と、俺の疑問にはキンジが答えてくれた。……アルコールで超能力のパワーを貯めるとか、それ大丈夫なのか?戦闘準備終わる頃には酔い潰れてたりしない?

 

「しかもいくら飲んでも酔わないとか言ってたな」

 

「便利なこって……」

 

俺も毒耐性の力でアルコールに酔うことはない。が、それは俺の体質と言うより喰らった魔物の耐性を簒奪したものだ。あぁいう特異体質みたいなのはやっぱ見るとビックリするな。

 

「ぷはぁ!美味しい(ヴォーノ)!」

 

と、良い飲みっぷりでギャラリーを集めつつあったメーヤもコチラに気付いたみたいで、トコトコとその大きな胸を揺らしてコチラに歩いてくる。あれ……シアよりデカいぞ……。

 

「……アンタがメーヤか?」

 

仮面をしたままだが俺が誰だか分かったらしいメーヤが、さっきまでのポヤンとした雰囲気から少しだけ鋭い気配を放つ。俺を疑っている、と言うよりは端から味方だとカウントしていない感じだ。……久しぶりだな、これ。最近じゃ俺の素性なんかどうでも良い奴か別の世界の奴らとばかり交流があったから無かったんだよな、こういうの。星伽とかコイツみたいな神や仏に仕えてます系の奴らは大概俺のことをこういう風に見てくる。

 

「……ユエ、シア、いい」

 

そして、そういうのを1番敏感に感じ取るのがこの2人だ。特にシアなんて元々トータスで似たような扱いを受けていたからかユエ以上に感情を押えられていないみたいだな。

 

まぁ、ティオがいたらティオも似たような反応をするだろう。だがいちいちそんなのを相手していたらキリがないので俺は後ろで殺気を放った2人を抑える。ユエもシアも渋々俺の言葉に従って殺気を収めてくれた。

 

「別に、俺のことを信用する必要は無い。俺は俺で眷属を潰すからな」

 

「……どうやって兵器庫の場所を突き止めたのですか?」

 

こっちの方針を先に出すと、メーヤもそれに習って余計な御託は省き、核心だけを聞いてくる。

 

「俺の持ってる道具にゃ望んだ場所を指し示す羅針盤があり、望んだ場所への扉を開く鍵がある。兵器庫を潰したのは後ろの2人だ」

 

俺は敢えて、羅針盤と越境鍵の力を明かす。一応この戦いじゃ味方のコイツ相手にブラフ合戦なんてする気は無いのと、これがある以上は俺の敵に回ったところで即座に大将首を獲れるぞという脅しも兼ねて、だ。

 

「ジャンヌ様から貴方の力の一端は聞き及んでいます。そうですか……。ではそのように」

 

メーヤはそれだけ言って俺から目線を切り、ユエとシアの後ろに隠れていたキンジを見つけるとそっちに話しかけにいった。年上系おっとり美女の接近にキンジが一瞬嫌そうな顔をしたが間に入ればメーヤからも睨まれそうだったので放っておこう。キンジはすげぇ情けない目でこっちに救援を求めているけど。あぁもう……仕方ないなぁ。

 

「……カツェ・グラッセを捕まえに行く。キンジも来い」

 

ジャンヌに確認させたところ、ユエとシアで潰した兵器庫には魔女連隊の代表戦士であるカツェ・グラッセの姿はなかった。あそこから立て直されても面倒だし欧州にいる間に魔女連隊は完全に潰しておきたいのだ。それに、アイツはどうにも人気(ひとけ)のある所にいるらしく、越境鍵で強襲するには人目に付きすぎるから羅針盤で探しつつ足で尾行したい。そうして人気の無い所へ奴が移動した時にとっ捕まえるのが今回の作戦。あってないようなもんな作戦だがリカバリーはいくらでも効くからな。問題無し。

 

「あ、あぁ。そういうわけだ、メーヤ、俺は行くよ」

 

と、腕を絡められてそのたわわに実ったメロンを押し当てられて死にそうな顔をしていたキンジの表情が喜色に染まる。メーヤの腕を振り解いて俺の後ろに隠れるようにして地雷源(メロン畑)から脱出したキンジを、メーヤが残念そうに見ている。これでキンジも一端は安泰かと思いきや───

 

「……あ」

 

と、メーヤが何かを思いついたように手のひらに握り拳をポンと下ろした。

 

「なら私もキンジ様達に着いていきますね。あれはバチカンの宿敵でもありますから」

 

キンジ、一難去ってまた一難。せっかくメロンヶ丘から逃げられたのに、数秒でまた囚われてしまった。

 

「好きにしろ」

 

「はい」

 

と、メーヤは仮面さえ被っていなければきっと爽やかな笑顔が見えたであろう声色で返してきた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「……あれか」

 

俺が羅針盤でカツェを探し、それに皆が着いてくる。だが尾行に6人は多すぎるからユエとシアは一旦お留守番を任せてある。まぁ2人の力が必要になれば越境鍵で直ぐに呼んでこれるからな。そういう訳で今は俺とジャンヌ、キンジとメーヤペアで厄水の魔女を捜索、そして発見したところだ。

 

どうにも学校の授業で社会科見学をしているらしいそいつは、しかし広いルーブル美術館の中でクラスメイトの輪から離れ1人で佇んでいた。

 

羅針盤があるから迷うことなくカツェまで辿り着いたのだが、ここじゃあ流石に手が出し辛いな。

 

「……お前らの魔法か何かで手っ取り早く捕まえられないのか?カエルにするとか」

 

と、キンジが微妙に抜けたことを言い出した。

 

「足りない知識で物を言うな。聞き苦しいぞ。……今は璃璃が濃く、超能力を使うには適さないのだ」

 

「俺も、そんな便利な魔法は持ってねぇぜ。騒ぎになってもいいなら、どうとでもできるが」

 

「……いや、俺が悪かった」

 

そもそもカツェの周りには人目があり、そこで転移なんてしたら派手に目立つからこうやって足で追いかけたのだ。ここでド派手に魔法を使うのなら最初から転移している。

 

「取り敢えず、アイツが人目につかないとこに行くまでは俺達も距離開けて待機だな」

 

と、俺の方針に異を唱える奴は出なかった。俺達はそのまま二手に別れてカツェを監視しつつここを見て回ることにした。

 

そこで、羅針盤のある俺とジャンヌペアはフラりとカツェから離れ、展示されている美術品やら何やらを眺めることにした。

 

「……動きはあったか?」

 

「いや、まだそんなに。ていうかアイツ、兵器庫が潰されたこと知らねぇのかな」

 

何人もの魔女連隊の仲間がバチカンとリバティ・メイソンに捕らわれたのだから、アイツもあんな風に社会科見学してる場合ではない気がするんだけどな。

 

「もしくは、待機命令が出されているのかもしれない。何せ向こうからしたら急な襲撃だったはずだ。それも、実際に強襲したのは魔女連隊も把握していない相手だ。それが極東戦役における師団の戦力なのか、公安関係なのか、はたまたまったく関係の無い勢力からの攻撃なのか。上層部としてもまずはそこの把握から努めねばならないだろう」

 

「なるほどね……」

 

直接的に強襲をしたのがユエとシアだけだったから向こうもあの2人がどこのどいつなのか把握するところから始めているってわけか。じゃあカツェはそういう情報や頭脳担当じゃねぇってことかな。それはそれとして───

 

「ジャンヌ、お前香水付けてきたのか?」

 

ジャンヌはお洒落さんなので普段から香水だかトワレだかを付けたりしている。だが今回は尾行の任務なのに香水は如何なものかと思い指摘すると、俺の腕に自分の腕を絡ませていたジャンヌが俺を見上げながら膨れっ面をしていた。

 

「男はいつ女にチャンスをくれるか分からない。だから常に完璧な準備をするのがフランスの女なのだ」

 

「……今回の任務のこと分かってる?」

 

「当然だ。だがお前には()()があるだろう。それに、これはそこまで香りの強いものではない。距離を取って追うのだから問題無い」

 

「いやまぁ、そう言われるとそうかもなんだけどさ……」

 

ただこう、だからってなぁ……という思いは拭えないのだ。

 

「……それとも、天人はこの香りは嫌いか?」

 

「え……いや、そういうわけじゃないけど……」

 

横にいるジャンヌから漂う香りはとても良い香りだと思う。ジャンヌ本人の香りと相まって、俺の胸をくすぐるような香りだと感じる。

 

「では好きか?」

 

ズイ、と、ジャンヌがその端正な顔を近付けてくる。相変わらずジャンヌの美人顔に弱い俺は、それだけで耳が熱くなるのを自覚した。

 

「まぁ……好き、だよ……」

 

半分言わされた感があるけれど、実際好きな香りだとは思うのでそう答える。するとジャンヌは俺に顔を近付けたまま得意げな笑顔になる。それがまた綺麗で、そしてその中に可愛らしさもあり、それを直視できなかった俺は目を逸らした。

 

ていうか、今のでこの話題は終わった感があるというか、誤魔化されたなこれ。まぁもういいや、舌戦でジャンヌに勝てる気しないし。いや、そもそも俺が口で勝てる相手がいないって話は置いておいて。

 

 

 

───────────────

 

 

 

数時間後、カツェが美術館から出たため、俺達も外へ出た。どうやらカツェは学校の奴らの元へは戻らないらしい。1人で別の方向へと歩いていっていき、魔女連隊の仲間と思われる奴らに用意させたらしいバイク──ケッテンクラートだ──に乗った。そのため俺達もメーヤに用意させた車に乗り込み、その後ろを着いていく。

 

「……ありゃあ」

 

「あぁ」

 

メーヤが用意した車も、尾行だっつってんのにそれはそれは派手な車だったが、カツェの乗ってるケッテンクラートはそれ以上に目立つやつだったので追いかけるのには苦労しなかった。そして、カツェが次に乗り込んだのは飛行船。どうやら空路でどこかへ向かうようだ。

 

「なぁ天人」

 

「んー?」

 

「こっからは俺1人で行きたい」

 

「あぁ?」

 

「頼む」

 

カツェ、というか魔女連隊も殻金を所持しているらしい。どうやらそれはアリアに関わる物のようで、キンジはやけにそれに拘っている。

 

「……武偵憲章4条・武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用のこと、お前がそう言うなら好きにすればいいさ。死ななきゃ助けてやる」

 

「……ありがとう」

 

「おう」

 

俺個人としてはカツェにも殻金にもそれほど興味は無い。カツェ1人で戦局がそう大きく動くとも考えにくいしな。だから俺は素直にキンジを1人で送り出すことにした。最悪越境鍵で駆けつければ問題あるまい。

 

と、俺が飛行船にこっそり乗り込んだキンジを見送ると───

 

「遠山とは言え、今のアイツを1人で乗せて大丈夫なのか?」

 

HSSの存在を知っているジャンヌがそんなことを聞いてくる。

 

「こっそり()()も付けたし大丈夫だろ。アイツ、何だかんだでしぶといし」

 

「クモ?」

 

クモ、蜘蛛型で感応石で操れる遠隔操作式のアーティファクトだ。しかも、帝国で使ったやつと違って変成魔法を組み込んであるからある程度自律行動も起こせる。ちなみに今はキンジの見張りにのみ専念させている。

 

他にも色々機能はあるが小型で見つかり辛く、俺とも視界を共有できるからキンジに何かあれば直ぐに分かるしコイツを起点に越境鍵を使えば即座に助っ人に向かえる。そこら辺掻い摘んで、というか"小さい監視用ゴーレムを付けた"とだけ伝えればそれで何となく伝わったのかジャンヌも頷いた。

 

「俺達も帰ろうぜ。キンジが魔女連隊のアジトを見つけたら直ぐに乗り込むけど、まぁ今は待ちだからな」

 

 

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