セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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戦いの後

 

 

「眷属は師団に降伏します」

 

それが、魔女連隊のイヴェルタの下した決断だった。傭兵として雇った妖刕と魔剱は惨敗。覇美とかいう奴を中心にした鬼の一族の代表戦士2人もシア1人に手も足も出ず。

 

こうなれば降伏は妥当な判断だと思う。極東戦役は殺し合いをする戦争じゃない。欲しいものを手に入れ、次の世界に進むための戦いなのだから。本当に全滅するまでやる必要はどこにもないのだ。

 

「ただ、眷属側の意見を纏めたいから少し時間を下さる?」

 

「あぁ。けど担保代わりにお前と鬼共の持っている殼金を渡せ。今この場でだ」

 

俺が手を差し出しながらイヴェルタにそう要求すると、彼女はフンと不機嫌そうに鼻で笑った。

 

「魔女連隊とパトラの持つ殼金は既に遠山キンジに渡してあります」

 

つい、とイヴェルタが後ろのキンジを見やる。俺も視線を移すとキンジは無言で頷いた。となると後はあの鬼共の持っている殼金か。

 

「……で、後はお前らのボスの持ってる殼金だ」

 

「……我らの殼金を渡すことは出来ぬ」

 

背の高い鬼── (えん)と言うらしい。もう1人の髪の長い鬼は津羽鬼(つばき)と名乗っていた──がハスキーボイスでそう答える。ユエに氷漬けにされて生殺与奪を握られているのに強気な奴だ。

 

「……そういや、もう1つの殼金は───」

 

と、覇美とかいう鬼のボスが握っているらしい最後の殼金を羅針盤で探すと───

 

「……やりやがったな」

 

俺は覇美の気配をよく知らない。この船に転移してから顔を見ていないし、宣戦会議では顔は見たけれど、ぶっちゃけ体感時間で何年も前なのでうろ覚え……どころかなんかちんまい奴が居た程度の記憶しか残っていない。その上その時は気配感知の固有魔法も無かったからアイツの気配なんてものも当然覚えちゃいない。

 

滝で隠されたこの船から、他の魔女連隊の奴らに混じられたらどれが誰だかよく分からんのだ。そして、覇美はどうやら戦わずにこの場を離脱することを選んだらしい。既にそれなりに遠くへ行ってしまっていた。まさか一般人が見ている中で越境鍵を使うわけにもいかないから、追い掛けるにしてもしばらくは足で追うしかなくなる。

 

コイツらがそこまで考えて逃走しているとは思えないが……。いや、どうだろうな。イヴェルタはカツェが捕まったことを知っているはずだ。それも、キンジが態々飛行船に乗り込むという形で強襲したことも伝わっている可能性が高い。

 

なら、その理由を考えるはずだ。兵器庫は何の前触れも無く、かつユエとシアという魔剱や鬼すら圧倒する強者が戦ったのにも関わらず、飛行船はキンジが足で追跡の上乗り込むという普通の方法で行われた。そして今度はまた甲板の上に突如現れた俺達。その法則に、交互に方法が変わっているということはあまり連続では使えないのかも、もしくは他の条件があるのかも、と。

 

本当の理由に行き着いたかは知らないが、移動中や連続では使えないのなら兎に角今は移動すれば大丈夫だと分かればこの場で逃走という一手を打つことも考えられるだろう。

 

「覇美様はちょうどお昼寝のお時間であった故」

 

……え、そんな理由?思ったよりふざけた理由に俺は思わずズッコケそうになる。

 

「……まぁいい。今は殼金が2枚戻った。後はそっちで打ち合わせておけよ。ま、やっぱ止めました戦いますって言うならまた叩き潰すだけだ」

 

「……でしょうね」

 

と、イヴェルタは苦虫を噛み潰したような顔をしてこちらを睨む。

 

「打ち合わせはそっちで任せるよ」

 

と、別に殺戮が目的ではないし、仮に襲われたとしても俺達ならば問題無く排除できるということで鬼の拘束をユエが解く。

 

俺は越境鍵を空間に突き刺し、魔力を込めて捻ればジャンヌの部屋に繋がる扉が開いた。先にユエ達を通し、俺はさっきこの船のマストをぶっ壊したトータス製の拳銃を突き付けながら扉を最後に潜り、これを閉じた。そして俺達はフランスに帰ってきたのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「……暴れん坊の囮って作戦じゃなかったか?」

 

と、キンジが1人ボヤく。それもそうだろう。結局、俺が予想した通りに俺達だけで欧州戦線を押し戻す、どこか降伏の言葉まで引き出したのだから当初の囮作戦は完全に意味をなさなくなっていたのだった。

 

「あぁ言っとけばバスカービルも納得しやすいと思って暴れん坊の囮なんて作戦出したけどな、俺ぁ実際俺達だけで完結すると思ってたぜ」

 

部屋のソファにドカッと腰を掛けて俺はそう告げる。

 

「……まぁ殼金も2枚手に入ったからいいけどな」

 

「取り敢えず、俺とユエとシアは先に帰る。交渉はジャンヌと……後、玉藻ってのがやるらしい」

 

殼金と、ついでに俺達の帰りの旅費も魔女連隊には請求している。キンジも帰るそうだから4人分の、ビジネスクラスの金額だけは先に貰ったのだ。

 

「あぁ、後は覇美って奴が持ってる殼金か」

 

「まぁ羅針盤で居場所探して、転移しても大丈夫そうなら乗り込んで、最悪腹ぁかっ捌いてでも取り出せばいいさ」

 

アイツらがどこへ逃げようと、少しでも腰を落ち着けようものなら俺がそこまでの扉を開き、そして潰すだけだ。

 

「……あまり物騒なこと言うな。9条は守れよ?」

 

あれが人なのかは知らないけど、とキンジは付け足す。

 

「そこら辺は大丈夫だよ。死んでも生き返れば問題無し」

 

こっちには再生魔法と魂魄魔法があるのだから、多少無茶しても取り返しはつく。キンジはそれを聞いて何とも言えない顔をしている。何かが喉につっかえているみたいな、そんな顔。

 

「覇美って奴がどんだけ強いのかは知らないけどさ。お前もシアの強さは見たろ?……言っとくがシアにはまだ上がある。殼金を取り戻すくらいならワケないさ」

 

今、俺達はキンジの部屋で2人っきりだ。ジャンヌ達は3人で観光に出掛けた。何やら考えたいことがあるらしいキンジは俺と拠点に残っていたのだ。

 

「……ていうかさ、その殼金って何なんだ?なんかアリアに関係するやつらしいけど」

 

と、俺がずっと疑問に思っていたことを口にすると、キンジは"マジかコイツ……"って顔をした。

 

「お前、知らないで戦ってたのかよ……」

 

「俺の目的は殼金じゃねぇからな。何かお前が欲しいっつうからあぁやって集めたけど」

 

と、俺が正直なところを口にすると、やはりキンジは驚いた顔になる。

 

「……これが7枚ないとアリアが緋緋神になっちまうんだよ」

 

と、キンジが重たそうな口を開く。だが───

 

「緋緋神……?」

 

ヒヒガミ……緋緋?緋色?アリアの持つ自然に産まれる訳はない緋色の髪の毛と、シャーロックの行っていた()()の研究、それらと何か関係があるのだろうか。

 

「俺も詳しいことはよく分かってないんだけどな……。"恋"と"戦"を好み、世界中で戦争を起こすんだって。それに、アリアがなっちまうんだ……」

 

そりゃあ、穏やかじゃないな。けど、それを聞いて俺には1つ引っ掛かることがあった。

 

「……戦争って、どうやるんだよ」

 

「え……?」

 

恋が好きなのはまぁいい。戦……戦いが好きだってのもまぁいい。けど、世界中で戦争……世界大戦でもするつもりか?この現代で?ここはリムルのいた世界やトータスじゃあないんだ。そんな簡単に戦争なんて出来やしない。それも、世界中を巻き込むような、大きな戦争なんて。

 

「だから、緋緋神がアリアの身体使って、どうやって戦争なんて起こすんだろうなって」

 

「いや……それは俺にも……。なんか、超能力的な力で洗脳して……とか?」

 

どうやら、キンジにもよく分かっていないらしい。まぁ、独裁国家的な所のトップを操って、そっから少しずつ……なら可能性はなくはないのかもしれないけど、とは言っても起こせる規模なんてたかが知れている。キンジの言い方だともっと直ぐ様に世界中を巻き込んだ大きな戦争が起こりそうなのだが……。

 

「まぁ、そう言う難しい話は俺には分からん。緋色の研究も超能力も、俺が詳しいわけじゃないし」

 

と、俺が放り投げればキンジも───

 

「俺だってそうだよ」

 

と、溜息を1つ。

 

「……考えたいことってそれのことか?」

 

1つ、俺が気になっていたことをキンジに問う。

 

「それもある。……けどそれだけじゃない。……なぁ天人、お前はなんでいきなりこんな極東戦役なんてもんに加わろうって思ったんだよ。お前、最初は我関せずって雰囲気だっただろ」

 

まぁ、それは疑問に思われているとは思っていた。顔合わせの時にはバスカービルの奴らは詮索してこなかったけど、それは下手打って俺の戦力が無くなることを考慮したからだろう。アリアや理子なんかは俺と眷属の奴らの仲があまり良くないことを知っているから、少なくとも眷属の奴らをぶっ倒す時であれば協力できると踏んでいたのかもしれないけど。

 

「んー?」

 

俺は、少し答えに迷う。キンジに、どこまで俺の───俺達のことを話すか。けどキンジは俺の友人、だと思う。少なくとも俺はそう思っている。だから、話せる限りのことは話そうと、そう思った。

 

「……俺さ、あっちから……トータスから帰ってくるまでは、この世界にはリサだけがいればいいと思ってた。……いや、お前とか理子とか、なるべくならいてほしい人はいっぱいいるけど。……けど、最悪の最悪、全人類を皆殺しにすることがあっても、それでもリサが残ってくれればそれでいいって、本気で思ってた」

 

キンジは俺のことをチラリと横目で見やるだけで何も言わない。先を言えと、そう促されているようだった。俺は、それに甘えて言葉を続ける。

 

「けどさ、トータスから帰ってきて、もっと守りたい人が出来たんだよ。……実は、キンジ達には紹介してないけどあと2人、向こうから連れて来てる。彼女達はユエ達と違って戦闘力とか無いからこの戦役には関わらせないけど……。とにかく、俺には大切な人が増えたんだ。意味は色々あるけど、皆それぞれ大切で特別な奴らでさ。俺ぁこんなロクデナシだけど、それでもあの子達に不便な思いはさせたくない。きっと、皆は俺といられるだけで幸せだって言ってくれるんだろうけど、俺ぁそれだけじゃ足んねぇんだ」

 

フッと、俺は一旦言葉を切り、コップに水を汲みにいく。水道水じゃなくて、ペットボトルのミネラルウォーターだけど。俺はそれに口を付けて、喉を少し潤す。

 

「この戦いは確かに裏の世界の超人達が戦うもんだ。けどよ、その結果は絶対表にも出てくる。特に俺らみたいな表と裏を反復横跳びしてるような奴らの周りは、な。……そん時にさ、次の世界の結果に俺が関われねぇんじゃアイツらに不便な思いをさせるかもしれねぇ。もしかしたらもっと悪いことになるかもしれない。……そう思ったら俺ぁこの戦いで自分の要求を貫き通さなきゃってな」

 

俺が一旦言葉を切ると、キンジがこちらを見ていた。その目は、俺の言葉にどこか意外そうな色を含んでいた。

 

「天人、お前の要求って……?」

 

「別に大したことじゃないよ。ただ、俺達には手ぇ出すなってだけさ。だから俺達は見せつけるんだ。ちょっくら喧嘩売ろうなんて考える馬鹿も出さないくらいの圧倒的な力を、この戦いで。裏の世界にいる奴らにな」

 

2度あることは3度あるとは言うが、3度目の正直って言葉もあるんでな。

 

「それは……」

 

いつの間にか、武偵高を辞めるとは言わなくなったキンジ。いつ何があってそう心変わりしたのかは、その理由も含めて俺は何も知らないけど、今はどうやら普通の武偵になるのが目標らしい。そんなキンジからすればきっと俺の目標は馬鹿らしいのかもしれない。

 

「……寂しく、ないのか?」

 

と、キンジは俺の予想とは少し違う反応をした。寂しい……?俺が、か?

 

「……どうしてそう思うんだよ」

 

俺は、思わず唸るように声を絞り出す。まさか、これが寂しいと思われるなんて考えもしなかった。否定されるにしても、もっと違う形だと思っていたのだ。

 

「だってそうじゃないのか?……誰からも喧嘩売られないようにするなんて、全員から無視されてるみたいなもんじゃないのか?アイツはヤバいから近付かないでおこう、距離を置いておけば何もしないから触れないでおこうって、触る神に何とやら……みたいな」

 

「……力があれば、それを欲しがる奴だっているだろう」

 

武偵なんて傭兵や用心棒みたいなことをするのだ。実際、武偵にはRランク武偵なんてのがいて、そいつらはロイヤル(Royal)の名に相応しく王様やなんかの護衛をしていると聞くしな。

 

「天人は、そういう奴らが嫌なんじゃないのか?もっと普通の武偵になりたいからあぁ言ったんじゃないのか……?」

 

と、キンジはどこか呆れを含んだ声色で話す。

 

「……まぁ、そうだけど」

 

アングラな戦いはもうそろそろ終わりにしたい。そのための極東戦役、俺はそう願ったはずだ。それは、キンジの言う通りだ。けど───

 

「けど、じゃあどうすりゃ良かったんだよ……。力を持てば変なのが寄ってくる。力が無けりゃ大事な奴らを守れない。この世界だって、最後にゃ腕力がものを言うんだから……」

 

「それは……俺にも分かんねぇよ」

 

俺の吐き出した疑問に、キンジも答える言葉を持たない。ここに、それに答えてくれる奴はいなかった。ここには、今は俺とキンジしかいなかったから。

 

「……俺も、自分が武偵以外にはなれないって知ったばかりだからな」

 

キンジは3学期に入る前に長期で武偵高から離れていた。これはきっと、その時のことを言っているのだろう。行った先で何をしていたのかは、多分決まりで話してくれはしないだろうから、態々詳しく聞きはしないけど。

 

「けどさ、それを話し合うのが友達……ってやつじゃないのか?それに……お前の恋人……も、お前の話くらい聞いてくれるだろ?」

 

「あぁ……。けどさ、アイツらはきっと俺のことは何だって許してくれるんだよ……。皆、それぞれ色々あって、俺と居られるだけで幸せだって言ってくれるから……。それに、そもそも皆暴力がものを言う世界で生きてきた奴らばかりだ。……自分の欲しいもんは腕っ節で奪う……そう言う世界しか知らねぇんだ」

 

そして、それは俺もだ。欲しいもんは奪う。居場所は力づくで手に入れる。俺はそういう世界で生きてきた。喧嘩が強くなきゃどこの世界でも俺は生き残れなかった。リサと、ユエ達といることができなかったのだ。

 

「けどさ、そんなの……そのうち消えてなくなるだろ」

 

キンジが呟くように吐き出した言葉は、俺の胸の奥に棘のように突き刺さる。リムルのいた世界じゃ敵は全部叩き潰して魔国連邦を守った。トータスじゃエヒトを魂の1滴まで全て消し去ってようやく全部取り戻した。

 

その時俺の胸の内に、あの時の畑山さんの言葉が蘇る。"寂しい生き方はしないでください"

 

それは、自分と自分の周りの奴以外のことは全て放って先へ進もうとした俺への言葉だった。今は……?今俺はどうしようとしている?

 

俺が考えているのは誰のことだ?俺のこと?あぁそうだ。それと、リサやユエ達のこと。それ以外は……?それ以外の奴らことは……何も考えちゃいない。キンジやアリアのことだって、結局は身内みたいなもんだ。それ以外の……あの時畑山さんが考えてほしがったウルの町の人々のように……俺はもっと広い視野で誰かのことを考えていただろうか……。

 

まただ、また俺はあの時のように自分達のことだけを考えている。だから行き詰まる。

 

「けど……俺には腕力しかない。それで勝ち取るしかやり方を知らねぇんだよ……。俺は絶対に力を捨てられない……。だから───」

 

「───俺も、結局自分は戦いの中でしか生きられないって分かって、でもそれでいいって思った。……俺は、今後何があってもアリアの味方でいるつもりだ。……将来は、もっと普通の武偵になる予定だけどな。それに、俺はそういうことは分かんないけど、あの子達は、お前の喧嘩が強いから一緒にいてくれてるのか?」

 

「それは……」

 

それは、どうなのだろうか。ユエ達が俺を好きになってくれたきっかけは聞いてはいる。だが、それは俺の喧嘩の強さと無関係ではなかった。というか、俺の戦闘力の結果、彼女達を救うに至り、そしてあの子達から好意を寄せられているのだから。俺がもっと弱ければあんな怪しい状況のユエを助けてやろうとは思えなかっただろうし、そもそもあの橋から落ちた時点で死んでいた……いや、そもそもあのベヒモスとかいう魔物と戦うことすらしなかったかもしれない。そしたらそもそもユエとは出逢わなかっただろう。それに、シアもティオも、俺があの世界じゃそれなり以上に強かったから助けられたのだから。

 

だけど、それとこれまでずっと一緒にいてくれたことはまた別だろうと思いたい。それは単に俺の自己満足でしかないけれど、それでも、それ以外の理由があってほしい。これは、俺の希望だ。

 

「きっかけはそうでも……今はそうじゃないと、思いたいな……」

 

と、俺は吐き出すように呟いた。

 

「武偵憲章1条、仲間を信じ、仲間を助けよ。きっとあの子達はお前を助けてくれるよ。だから天人もあの子達に話してみろよ」

 

それに、とキンジは言葉を繋げる。

 

「確かに俺達の周りは暴力で解決できることが多いし、実際俺もそうしてきた。けどさ、別にそれだけが世界の全てじゃないんじゃないのか?俺は、人の繋がりも自分の居場所ってやつも、それ以外の方法でも手に入ると思うんだよ」

 

「……あぁ」

 

「天人が戦う力を捨てられないってのは分かる。それに、多分俺達は戦いの中じゃないと生きられないんだろうな。……けど、そうする理由ってのは、色々あるんじゃないか?」

 

キンジがこちらを見やる。俺も、その目を見据えた。

 

「……前に、トータスにいる時だ。ある人に言われたんだよ。"大切な人のことだけじゃなくて、もう少しだけでいいから他の人のことも考えてみろ"って」

 

俺は、畑山さんに言われた言葉を思い返す。結局、俺はまた同じところに戻ってきてしまっていたのだ。これまでずっと、別の世界に飛ぶ前から俺は自分とリサのことだけを考えて生きてきた。戦うしか能がないからずっとそれに縛られて、力で奪うしか知らないからそれしかできなくて。

 

「それで、少しはユエ達以外のことも考えるようになって……そのおかげで見ず知らずの人達から助けられることもあってさ……。でも少し不安になれば俺はまたこうやって暴力で全部黙らせる方法しか取れなくて……」

 

「……前に出来たんならまた出来るさ」

 

と、キンジはそれだけを口にした。

 

「出来るかな……?」

 

俺の疑問に、キンジはただ頷く。

 

「諦めるな、武偵は決して諦めるな。だろ?」

 

武偵憲章を引用したキンジはそう言って俺に笑いかける。俺も、キンジのその言葉を信じることにした。仲間を信じ、仲間を助けよ。だからな。

 

「あぁ。やってやるよ。そうだ、俺は誓ったんだ。ユエを世界で一番幸せな女の子にするって。リサも、シアもティオもジャンヌもいるけど、俺は全員幸せにする。全員、世界一幸せな奴にする。俺ぁ戦う力を捨てられない。けど、それでもって、俺ぁ言い続けてやる」

 

それが、俺の決意。絶対にリサとこの世界に戻ってくると誓ったあの海辺の旅館から始まった異世界の旅、そして奈落の底でユエと誓い始まったトータスでの旅。そして、これから始まる愛と恋と戦いの日々に向けて、俺は新たな決意を固めたのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

師団と眷属は条件付きではあるものの停戦状態になった。俺はその報告を日本でジャンヌから聞き及んでいた。

 

取り敢えず帰りの飛行機もビジネスクラスの座席に座ってゆったりと帰国。もちろん費用は眷属持ち。キンジと俺達はそれで落ち着いて帰国の徒に着いたのだった。

 

それから俺はリサに興してもらった宝石加工の会社での実務──と言ってもリサやティオ、レミアさんから送られてきた仕様書通りに錬成するだけだが──や武偵としての本業にしばらくかかりきりだった。

 

短納期にも対応出来て形状も正確ということで評判は中々。値切り交渉に強い上に商才もあるリサの売り込みもあってか、それなりの利益が出ているらしい。最近はオリジナルデザインの物もちょこちょこ注文が入っているようで、順調な滑り出しと言えそうだった。

 

そんな風にしてしばらく過ごしていたある日、キンジからとある連絡が入った。アリアが入院したというのだ。しかも、どうにも病室に軟禁されているに近い状況で、連絡すら取れないらしい。それも、アリアを見張ってるのはお上らしく、キンジでもそう簡単には手を出せないのだとか。そのため、俺の越境鍵を使って連れ出せないか、という旨の依頼だった。

 

だが、羅針盤とクモを使ってアリアの病室を何日か調べたが、どうにもアリアを出すだけなら可能だろうが、それも割と直ぐにバレてしまいそうだ。それに、連絡が取れないんじゃ鍵で扉を開けた時にアリアに声を上げられて即座にバレる可能性もある。アリアは俺のクモを知らないから目の前にいきなり金属のクモが現れても驚くだけだろうしな。

 

キンジも、潜入捜査とかでアリアの入れられている病院に出店しているコンビニでバイトをしながら隙を伺っていたが、やはり連れ出すのは簡単ではなさそう、とのことだ。

 

そうなるともう騒ぎになるのは諦めて強行突破をしてしまうかという話にもなったが、キンジが決断を下せないうちになんとアリアが自力で出てきてしまったらしい。どうにも、外への警戒は厳重だったらしいが内側から外へ出る部分への警戒は薄く、スルッと抜けられたとのこと。……俺達の苦労を返してほしいと言ったらグズグズしてる方が悪いとアリアは一刀両断。それに対しては俺達も返す言葉が無かった。

 

そして、そんな頃に俺にとある人物から連絡が入った。()()()()()()()()()()と、俺に送られてきたメールには書かれていた。差出人はジーサード。キンジの弟で実家じゃキンゾーって呼ばれてるらしい。

 

しかし、思い返せばジーサードは極東戦役の宣戦会議じゃ俺のことを半ば無視するような態度だった。それが今じゃ武偵として依頼を出してまで俺の力を借りようってんだから人間変わるもんだな。

 

俺としても、ジーサードからの申し出はありがたい。しかも俺以外にもユエとシアを戦力としての所望のようで、提示された金額も中々のものだ。入り用ではあるし、細かい内容は会って直接とのことだが俺としてはこの依頼、受けようと思っていた。

 

「ユエ、シア、アメリカへ行くぞ」

 

「……んっ」

 

「はいですぅ」

 

荷造りはリサに任せる。俺達はまず詳細を聞こうとジーサードに指定された品川にあるホテルへと向かった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「来たか」

 

俺達がホテルへと向かうとそこには既に遠山かなめがいて、俺達をジーサードの待つラウンジの一角へと案内された。

 

「……まさかお前から仕事の話があるとは思わなかったぞ」

 

俺の正直な感想にジーサードは苦笑いを浮かべるが、直ぐに真面目な顔に戻る。

 

「それくらい強ぇ相手だってことだ」

 

だろうな。だが俺には1つ解せないことがある。

 

「……お前、俺はともかくユエとシアのことはどこまで把握してる?」

 

コイツは態々ユエとシアまで指名してきた。それはつまり、()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを知っているということだ。まだ2人の実力は極東戦役でしか発揮していないはずだ。多少学内で目立ったところでジーサードが目を付けるようなことは起きないだろうに。

 

「兄貴は今アメリカからもマークされてっからな。その傍で暴れりゃ目にも着くぜ」

 

それは嘘だろう。確かにユエは魔剱を歯牙にもかけずに倒したし、シアも鬼共を圧倒した。だがそれはどれも人目に付かないところでの戦闘だ。ユエと魔剱の戦いの際にはキンジは傍にはいなかったし、シアに至っては滝の裏に隠された船の上での戦闘だったのだ。例え衛星軌道上から見ていたところでそこは死角なのだ。

 

「はっ、極東戦役に出てた奴らから聞いたんだろ?」

 

眷属の前でド派手に暴れたシアはともかく、ユエの力をどうやって把握したのかも何となく想像は付く。ユエと魔剱のアリスベルの戦いを見ていたのは俺とシア、ジャンヌに加えて魔剱と妖刕だけだし、その2人は傭兵で、極東戦役の決着が着いたらさっさとどっかに消えたと聞いている。大方ジャンヌが師団の誰かに聞かれ、ポロッと答えたのがそこからジーサードまで繋がったのだろうよ。

 

ジャンヌは最近ユエから指導を受けているみたいだし、それなら多少はユエの力を知っていても不思議じゃあないからな。

 

もしくは、魔剱と妖刕が言いふらしているのか、だな。まぁジャンヌのことを疑う気も無いから何でもいいか。

 

「当然秘密だ」

 

情報源は秘匿するのが鉄則だ。ジーサードのこの回答も分かりきっていることではある。

 

「まぁ別にいいけどな。で、態々俺達をご指名ってこたぁろくな……いや、9()()()()()()()()()()()ってことか?」

 

だがそんな俺達を使おうって言うのならそれは相当の相手なのだろう。

 

「……相手は……米軍だ」

 

ジーサードが1拍置いて答える。米軍……米軍ねぇ……っておい!

 

「……何させる気だお前」

 

俺はジーサードを睨むがコイツはコイツでケロッとした顔をしている。何を考えてんだコイツは……。それに、見ればそれなりに負傷も負っているようだ。傷自体は少し前に付けられたもののようで今はギプスやサージカルテープで加療中って感じだな。テーブルには酸素吸入器まで置いているし、随分と手酷くやられたもんだな。

 

「エリア51だ」

 

と、ジーサードが呟くように目的地を告げる。エリア51……アメリカはネバダ州南部にあるアメリカ空軍基地だ。コイツはそこに挑んだのだろうか。

 

「へぇ……お前、そこに挑んで逆にやられたのか?」

 

俺はジーサードの怪我の原因を探る。

 

「……あぁ。だからお前らの力を借りたい」

 

と、ジーサードは思いの外素直に白状した。どうやらエリア51には随分と大事なものがあるらしい。

 

「で、そこにゃ何があって、俺達に何をしてほしいんだ?」

 

さっきは微妙にはぐらかされたけど、そこはいい加減はっきりさせておかなきゃいけないところだからな。吐いてもらうぞ。と、俺が睨むとジーサードも観念したように口を開いた。そして、そこから吐き出された言葉は、俺を……俺達を再び戦いの渦へと巻き込んでいくのだった。

 

「……色金だ。色は瑠瑠。そいつをエリア51から獲りに行く」

 

 

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