セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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ラナ・ハウリアと中村恵里について

 

 

「ではボス。私達はここで。……シアも、幸せにね。また、いつか」

 

「おう」

 

「はい、ラナさんもお幸せにですぅ」

 

ラナ・ハウリア。遠藤から愛の告白を受けて、大迷宮をどこか1箇所、1人で攻略することと俺とのタイマン勝負で1発でも攻撃を当てることを交際の条件に出したトータスのかぐや姫。

 

そんなお姫様から出された無理難題を、しかし遠藤浩介という人間は見事成し遂げたのだ。そして、ラナはトータスから遠藤のいる地球に着いてくると言い出した。ま、俺がいなけりゃ遠距離恋愛なんてもんじゃなく、文字通り違う世界で暮らさなきゃならなくなるわけだから、そりゃあ理解できる選択だった。

 

「じゃあなラナ、遠藤」

 

「あぁ」

 

「はい、ボス」

 

ボスは止めろと何度も何度も言っているのだが、このハウリア共はろくに人の話を聞きゃしねぇのでもう諦めたのだった。

 

「こっちはトータスとは勝手が違う。ちゃんと遠藤の言うこと聞いとけよ?」

 

「えぇ。分かってますとも。……折角こうくんと暮らせるのですから」

 

一瞬、ラナが遠い目をした。その瞳の奥に映るのはトータスでの記憶だろうか。それとも俺が設けた地球の常識講座(特別講師は畑山さんと雫)遠藤がライセン大迷宮を攻略してから俺とのタイマン勝負。勝利条件を達成させてしまったって意味では俺の負けってことで、こっちとしてはあまり思い出したくない記憶でもあるんだよな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「……仕方ねぇな。やってやるよ」

 

最後の戦場の跡地で俺は遠藤と向かい合っていた。ラナが勝手に"自分と付き合いたければ大迷宮を1箇所、自力で攻略すること、そして俺との戦いで一撃を当てること"なんて条件を勝手に出しやがったもんだから、俺もこの戦いを受けてやらざるを得ない。

 

「恩に着るよ」

 

「気にすんな。……悪いのはラナだし。……それと、俺が使う魔法とアーティファクトはトータスで手に入れたものだけだ」

 

氷焔之皇とか氷の元素魔法とか使っていたら勝負にはならないからな。一応、遠藤と俺が同じ戦いの土俵に上がるにはその条件を付けなきゃならん。

 

「他の……まぁあとはここに来る前の世界の魔法しかねぇけど、それを使っても俺の反則負けだ。……ラナも、それでいいか?」

 

「え、えぇ……」

 

ちなみにこのラナさん、告白された時は普通に袖にしたのだが、遠藤が簡単に諦めずに、何度もアプローチを繰り返すウチにだんだん絆されていた。そこで照れ隠しに変な条件を付けてしまったようだ。ただ、自分から出した条件を今更撤回もできず、しかも遠藤がガチでライセン大迷宮を攻略してきたことでもう結構真面目に遠藤のことを好きになっている雰囲気なのだ。

 

「んじゃ……好きに来い」

 

戦いの用意は出来たと、俺が両手に仕込みトンファーを構えた瞬間───

 

「ふっ……」

 

何やら遠藤は不敵に笑いながらどこから拾ってきたのか黒いサングラスを掛けた。そしてクルッとターン、華麗なステップとやらを踏む。……その儀式要る?

 

この戦い、ユエとティオ、香織が再生魔法と魂魄魔法のために、シアは自分の一族の1人が人間族と一緒になるかどうかということで見に来ている。俺としても嫁達の前であまり無様な姿は見せられないのだ。

 

「では行かせてもらうぞ!」

 

と、遠藤がいきなり俺に真っ直ぐ突っ込んでくる。その手には光を吸収し夜に刀身を紛れさせる黒色の短刀が握られていた。

 

装束も真っ黒な遠藤はまるで人の形をした影だ。そして実際、俺に突っ込んできたのはアイツの固有技能か何かで現れた分身体に過ぎない。それに対して俺はその場を動くことなく纏雷を放った。

 

バチバチッ!と言う放電音と共に赤雷がその影を打ち消す。だがそれは所詮影。本体は───

 

「その首貰い受けるぞ、魔王よ!」

 

折角俺の真後ろを取ったのにそんな大声で喋んなや、と思うが俺はそれを口に出すことはなく、ただ魔力を衝撃波に変換して周囲に撒き散らす。そして、それで吹き飛ばされたのもまた影。どうやら本体はどこかに紛れているらしい。いつの間にやら分身の数は10を超え……20を超え……俺の視界が段々と遠藤で埋まってきた。

 

さて、と俺はトンファーを宝物庫に仕舞い込み、右手に片刃の直剣を構える。その間にも遠藤の分身は増える増える。元々遠藤は分身から分身は生み出せなかったのだが、どうにも痛々しい言動(中二病)を繰り出すことによってそれすら可能になるらしい。

 

「───限界突破ッ!!」

 

さらに、決戦の折に俺が渡した限界突破用のアーティファクトを起動。魔力の絶対量では俺に勝てないのなら瞬間火力での短期決戦───俺が前に神の使徒とやりあった時に使った手を遠藤も使うようだ。

 

俺は遠藤に囲まれる前にと空力も使って上空へと離脱。分身達から忍者刀が雨あられと投げつけられるがそれは左手に召喚したアサルトライフルをフルオートでぶっ放して弾いていく。

 

今の俺の銃火器のアーティファクト類は弾倉の中を空間魔法で広げているので1弾倉(マガジン)につき数十発なんていう制限は存在しない。アサルトライフルであっても数百発の弾丸を吐き出すことが可能なのだ。

 

だが俺のあげたアーティファクトはそもそもが多数の神の使徒と戦うために作ったもの。当然限界突破もその先の覇墜まで発動させられるわけで……。

 

そんなものを使われたら当然、分身の出る速度も、靴に仕込んでやった空力と縮地の性能も、それはそれなりのものになるわけであるからして……。

 

「魔王の首、獲ったり!!」

 

俺は大勢の遠藤に囲まれる。全員その手には忍者刀が握られていて、その光の反射を抑えた夜色の刃の切っ先は俺に向けられていた。

 

だがその刃が俺に突き立てられ肉を引き裂かれるその前に───

 

「グウッ───!?」

 

俺は全方位に纏雷と魔力の衝撃変換により生み出された空気の波をぶつける。そして吹き飛ばされる遠藤達。だがそいつらは皆分身体のようで、吹き飛ばされながらその姿を霞と消していく。だが流石にこの手はそう何度も何度も連発は出来ないぞ。これだって結構な魔力を喰うのだ。神代魔法のアーティファクトも使おうと思ったら魔力は節約しなけりゃならない。

 

遠藤は俺に一撃───正確には傷を付ければ勝ち。だが俺だって遠藤に1発入れられれば戦闘不能にするだけの火力はある。この場には再生魔法と魂魄魔法を扱える奴が何人もいるのだから。最悪首と身体が泣き別れたって平気なんだし銃火器の使用も問題無し。

 

なのに俺は今追い詰められている。確かに傷を受けるなという条件はキツい。だからってこちらの攻撃は氷の元素魔法以外は制限されていないのにも関わらずこのザマだ。確かに最近は氷の元素魔法に頼り過ぎていたからそのせいだろうか。

 

……いや違うな。これは遠藤の努力だ。物量で押し込め、火力と手数はあるがゼロ距離戦闘になれば取り回しの悪い銃火器の使用を封じ、自分の得意な距離での戦闘に持ち込んだのは(ひとえ)にアイツの実力だ。今の俺にそれを覆す力が無いだけのこと。

 

まったく、こんなんじゃ格好つかねぇよな。

 

───ダン!と、俺は空力と縮地、豪脚で一気に地面へと舞い戻る。そしてワラワラと寄ってくる遠藤の分身達は刃に付与した空間魔法による空間そのものへの切断でもって消しきる。そして再び両手にトンファーを構えながら遠藤本人の目の前へと縮地と豪脚でまた飛び出す。

 

そして、奴の顎を砕くどころか首を捥ぐ勢いでトンファーを打ち据える。それを上体を逸らし、紙一重で躱した遠藤が何やら難しい言葉でごちゃごちゃ言っているがそれは無視。纏雷を敢えて遠藤のすぐ真横に飛ばして動きを牽制しつつ、奴の忍者刀と俺のトンファーでの至近距離格闘戦に持ち込む。

 

トンファーと忍者刀のぶつかり合う金属音が鳴り響く。その間にも遠藤は分身を生み出しては俺の左右真後ろ真上から強襲させているのだが、それを俺は纏雷で打ち消していく。

 

いくら遠藤が1人でライセン大迷宮を攻略出来ようと、俺との体力差や戦闘技術の差は歴然だ。実際、遠藤は俺の攻撃をどうにか捌いてはいるものの、どんどんと押し込まれている。このまま押し切ろうとさらに1歩踏み込んだその瞬間───

 

「───ッ!?」

 

咄嗟に感じ取れた殺気に俺が右手を頭の横に掲げれば、ダンッ!という乾いた発砲音と共に重い衝撃。それと同時にトンファーから火花と金属音が発生した。これは……発砲されたのか!

 

俺が射線の方向へ意識を向ければそこには俺が渡した拳銃のアーティファクトを構えた分身体が1人。どうやら、さっきの物量戦の時か俺を忍者刀で襲う分身体に紛れさせてか、この不意打ちのために潜ませていたようだ。

 

両手にトンファーを構えている都合上俺は右手側の分身体を今すぐどうこうする手立ては無い。勿論、拳銃を召喚して消し飛ばせなくはないがそれだけ。目の前の遠藤本体をどうにかしなけりゃならないことに変わりはないのだ。

 

さらに俺の背後と左手側からも殺気が。どうやれさっきの分身体からさらに分身を生み出して俺を取り囲んでいたようだ。さっきみたいに大量の分身体で押し潰してこないのは恐らく俺に気取られないため。手数で押し切れればそれで良し、ただし銃火器を使う俺に手数勝負で勝てなければ暗殺者らしく俺の死角から一撃を入れる作戦に切り替えるっていう、2段構えの戦略らしいな。

 

遠藤がバッステップで俺から距離を取るのと同時に俺はその場でしゃがみこむように姿勢を低くする。そして、それと時を同じくして分身体から十字砲火(クロスファイア)の発砲音が鳴る。だが俺の身体を狙って放たれたそれは、姿勢を落とした俺の頭を越え弾丸は空を切る。そして俺はトンファーから鎖を射出。空間魔法が付与されたトンファー内部から重力魔法と纏雷の電磁加速で飛び出したそれが遠藤の脚に絡みつく。

 

そして今度は鎖を巻き取りながら俺も地面を蹴る。遠藤と俺の距離が一気に近付く。遠藤の分身体が泡を食ったように拳銃を撃ち放つが遠藤の銃撃精度じゃあこの速度で動く的を捉えることはできない。一息の間に遠藤に肉薄した俺は付与された纏雷によりバチバチと赤雷を発生させているトンファーを遠藤の腹に叩き込むために左手を振り上げ───

 

 

 

───そのまま身体を外に大きく捻った

 

 

 

「あーあ……」

 

思わず呟いた俺の頬からは赤い血が一筋流れる。遠藤の作戦は2段構えではなく3段構え。銃撃での不意打ちすらもブラフで本当の狙いは分身体による空中からの強襲。けれどその最後の一撃も、直前で察知した俺はギリギリ躱せるくらいには動いたハズだった。けれど、どうしてかその瞬間に身体が奴の忍者刀に引き付けられたのだ。そして、奴の刃が俺の頬を薄く斬った。

 

まぁそのカラクリも分かっている。

 

理由は遠藤の武装に付与された重力魔法。さらに遠藤本体もライセン大迷宮で手に入れた重力魔法で俺を拘束。二重に動きを縛られた俺は最後の一突きを躱しきれずに1発もらってしまった、というわけだ。

 

俺のトンファーから放たれた纏雷を受けた分身体が消える。だがそいつは刺し違えるように俺の頬に一筋の傷跡を残したのだ。つまりはこの勝負、遠藤の勝ちだ。

 

「なっさけねぇ……」

 

俺はそのままバタリと後ろに倒れ込む。ギャラリーからの歓声は無い。そもそも見に来てるのはユエ達くらいだ。まぁ他の奴らに来られても危なくて銃火器なんて振り回していられないからそれでいいのだけど。

 

「行ってこいよ」

 

俺は仰向けに倒れたまま遠藤にそう声を掛ける。それを掛けた意味があるのか俺にはよく分からないサングラスを外した遠藤は「あぁ」とだけ返して立ち上がる。その後遠藤がラナに何て言って、ラナがどう返したのかは聞いていない。人の告白を盗み聞きする趣味もないしな。

 

ただ結果として、遠藤はウサミミお姉さんの恋人が出来た、というのがこの戦いの結末なのであった。

 

「……天人」

 

仰向けにぶっ倒れている俺の視界に影が差す。フワリと、柔らかな香りと共に俺の視界を覆ったのは金色のカーテン。

 

「こんな情けない俺を見ないで……」

 

しかし俺はユエの視線から隠れるように顔を両手で覆って丸くなる。あぁ、穴があったら入りたい。

 

「錬成……」

 

──入る穴が無ければ作ればいいじゃない──

 

そう言わんばかりに俺は錬成で地面に穴を作り、そこに転がり込むようにして収まった。けれどそんなことで逃がしてくれるユエ様ではない。その場でしゃがみ込んだままユエは重力魔法を発動。俺を穴から引っ張り上げてしまう。

 

ダラりと、首の後ろを掴まれた猫のように伸びた俺はそれでも手で顔を覆って見えない素ぶり。

 

「……加減した?」

 

ユエ様の容赦ない追撃。冷たい声が心に痛い。しかも、俺はそれから逃げることを許されてはいない。

 

「してない……」

 

そう、俺は手加減なんてしていない。ただ、そこには確実に油断も慢心もあった。いくら1人でライセン大迷宮を攻略したとしても、所詮遠藤になら手札をそれほど使わなくても勝てるだろう。近接戦闘に持ち込めば、武偵である自分なら押し切れるだろう。重力魔法だって、仮に適性があってもそれほど習熟はしていないだろう、という幾つも空いた心の隙。

 

「少なくとも、俺があの時遠藤に出せる全力は出したよ……」

 

ただその全力が、限りなく程度の低いものであっただけ。

 

それでも遠藤は俺に対して作戦を練り、自分が警戒されていないことをキチンと把握した上でそれを利用したのだ。だからこの敗北は俺の実力であり、遠藤の勝利は彼の努力によるものだ。

 

「あの、もう離して……」

 

反省はします。だからこの、文字通りの宙ぶらりんの拘束は解いてくれると助かります。マジでティオと香織の視線が痛いの……。シアに至ってはラナの方に夢中でこっちを見てもいないし……。

 

 

 

───────────────

 

 

 

俺は神域で中村と谷口の間にどんな会話がなされて、どんな戦いの果てに、谷口がどういう意思をもって中村を連れて帰ってきたのかはよく知らない。と言うよりも、知る気が無いので敢えて知らないようにしているのだ。

 

だから魔法の使用を封じる枷でガチガチに固められた中村を担いで帰ってきたらしい谷口に掛ける言葉は何もなかった。

 

ただ、中村の、天之河に対する依存心はいくら何でも常軌を逸していたように思う。別にそれそのものを否定する気はないし、俺自身も人のことを言えたもんじゃあないからそれはいいのだ。

 

だから俺が気になったのはそれ程までに天之河に依存する理由。ただ初恋拗らせた程度の可愛らしい独占欲とは掛け離れた中村の行動の理由を掴まなければ、コイツはきっとトータスから帰らない方が長生きできたかも、なんて事態になりかねない。

 

「で、何か心当たりないの?」

 

という訳で俺は天之河を問い詰めることにした。香織と雫曰く、このイケメンはそれはまぁ人当たりが良いらしく、その顔の良さも相まってコロッといってしまう女の子が多いんだとか。ちなみに雫はそんな天之河の、悪く言えば八方美人なところが恋愛対象から外れる理由なんだとか。

 

「うーん……。そう言われてもな……」

 

「昔、困ってた中村に「助けてやるよ」とか「守ってやるよ」とか言った?」

 

中村は天之河の優しいところが好きっぽかったのでそういう方向性の声の掛け方をしたのだろうか。

 

「うーん……あ、あれかもしれない」

 

どうやら、思い当たる節があるようだ。

 

「小学生の頃だったかな。早朝にランニングをしてたら恵里が橋の上にいて……自殺しようとしていたんだ」

 

それは、相当に彼女のプライベートに踏み込んだ話なのだが、一応俺も中村に関して生きて帰れるのなら()()()の協力もしてやるという雰囲気を察して天之河も口にする気になってくれた。

 

「それで、俺が君を守ってやる、みたいなことを言った……と思う」

 

「お前……その台詞が曖昧ってこたぁ相当な数の奴に似たようなこと言ってんだろ……」

 

このイケメン王子様は女を引っ掛け続けなけりゃ呼吸が止まる病にでも罹ってるんじゃねぇのか?

 

「いや、でも男が女の子を守るのは当たり前だろ?」

 

「んー?……んー、どうだろ。俺ぁ男だからユエ達を守りたいんじゃないしなぁ」

 

きっと俺は自分が女でも、リサやユエ達に惚れていただろう。きっと俺のこれは男とか女とかそういう次元の話ではないからな。

 

「ま、それはそれとしてだな。……多分そこだろ、中村があぁなった発端は。んで、橋の上で自殺って……理由は聞いたのか?」

 

「あぁ。流石に橋の上から飛び降りようなんて普通じゃないからな。理由は確か……親との不仲って言ってたよ」

 

「不仲ぁ?……喧嘩したくらいで小学生が自殺とか考えるかぁ?」

 

「いや、不仲って言ってもそうだな……今思えば、虐待されてた……とか?」

 

天之河のその言葉に俺は思わず答えに詰まる。正確な部分はどうあれ、恐らく中村は両親から酷く扱われていて、そこに天之河がやって来て守ってやる発言。親から否定された子供心を思えばきっと、格好良くてスポーツも出来て皆の人気者の天之河くんが自分にそんな言葉をくれた、なんてのはそれなりに大きいことだったのだろう。

 

「んー、そうなると俺の手に負えるのかな……。しかし、アイツはこっちに来た直後も顔色は悪くなかったし、パッと見は変に痩せてるって訳でもない。……小学生の頃からそんななのに随分と健康的な身体してる気がするんだよな」

 

親から虐待……直接殴られたりしていなくともネグレクトのようになっていたのだとして、その割には食事はそれなりにキチンと摂れている雰囲気があった。何となく、俺のイメージする虐待被害に遭っている子供と中村の様子が上手く結びつかない。

 

「神代……お前どこを見てるんだ……」

 

と、何故か天之河が引いている。それはもうドン引き。変質者を見るような目をしているよ。

 

「その顔には1発拳骨をくれてやりたいが……まぁもういいよ。聞き出しといて悪いけど、そうなると俺ぁ手出しが難しそうだよ。……発端はお前の撒いた種っぽいし、お前が様子見てやれよ?……多分谷口も協力してくれんじゃねぇの?」

 

俺がたまたまそっちに行くことがあればその時に少し協力はしてやる、とも付け加えておいてやる。すると天之河はそれはそれは意外そうな顔を晒していた。

 

「あんだよ……?」

 

「いや、悪いけど、意外だなってさ。神代は、俺達のこと興味ないんじゃないのか?住む世界だって、物理的に違うんだし」

 

「あぁ?……実際、興味ねぇよ。中村だって香織を1度は殺した主犯だし。けど……似てんだよ、俺と中村は。色々とな」

 

惚れた相手と自分だけの世界が欲しい。それは俺も思ったことがないわけではない。それにあの依存心と独占欲。それはあまりに心当たりがあるもので、確かに中村のことは嫌いだけれど、どうにも心から憎むことができていないのだ。

 

「そうなのか……?」

 

頭に疑問符を浮かべた天之河の目には、「お前は一途を貫けていないのに?」という言葉がありありと見て取れた。

 

「……んなことはどうでもよくて。とにかく!……任せたぞ」

 

「あぁ。分かってる。……けどまずは───」

 

「───ま、それもお前らの仕事だろ?中村をどうするのかは、お前らが決めろ」

 

そして結局、中村は天之河達と一緒に彼らの地球へと帰還し、その後のことは天之河達に任せっきりとなる。どうやら生きているらしいことは、香織に強制的にあっちに引っ張り込まれた時に把握したけれど。

 

俺はきっと、アイツらからの声を貰わなければ中村に何か干渉することはないだろう。俺は暴力で解決出来ることは大概片付けられるが、そうじゃない問題にはとんと無力なのだから。

 

 

 

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