セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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色金騒乱編
USAにて


 

元イ・ウーのパトラから俺に連絡が入った。アリアが緋緋神とかいうのに身体を乗っ取られたのだとか。そして、それを俺に助けに来いということらしい。イ・ウーじゃ俺やリサを散々ぱらこき使ってくれやがったパトラの言うことを聞くのは癪に障るのだが、アリアを助けろと言うのなら仕方がない。あれは俺の数少ない友人だし、武偵憲章1条、仲間を信じ、仲間を助けよってな。

 

そして、俺が現着したその瞬間、アリアの身体なのにアリアとは違う雰囲気を纏った、恐らく緋緋神とかいう奴がキンジとカナに向けて、その緋色の瞳から何やら攻撃を放とうという気配があり───

 

「───天人!?」

 

俺が緋緋神とキンジの間に割って入った瞬間、それは放たれた。

 

──パァッ!!──

 

夜の闇を引き裂くような緋色の光線が、俺の知覚を遥かに上回る速度──文字通りの光速──で俺が割り込む時に翳していた右手にぶつかる。それはなんと驚くことに、昇華魔法で強度を高められている氷焔之皇を貫き、しかし熱変動無効が働いてそれを受け止めた。

 

「……神代天人か」

 

ボソリとアリアのアニメ声で緋緋神が俺の名前を呟く。苦々しそうに零れた言葉と嫌なものを見たかのようにクシャりと歪められた小ぶりで可愛らしい顔が、奴にとっての俺という存在の意味を示しているようだった。

 

「緋緋神よぉ、その身体は俺んダチのもんなんだよ。だからお前にやるわけにゃあいかねぇんだ」

 

いかに超能力(ステルス)的な能力が高かろうがその身体はアリアのものだ。脳震盪で一旦意識を奪ってしまおうと、俺は両手にトンファーを構える。当然これもトータス製のアーティファクト。俺が昇華魔法を使って強度を上げた生成魔法で1つの鉱石に付与できる魔法の数は通常の鉱石で4つ。神結晶ならもっと多くの魔法が付与できる。

 

そんな俺が作り直したこのトンファーに付与された魔法は纏雷に金剛と魔力の衝撃変換、それから中には空間魔法で鎖を収納してあるし、それにも──この場では使わないだろうが──空間魔法が付与されており、刃のように振るうこともできる。さらに、鎖には纏雷も仕込まれているから殺傷能力だけで言えばかなりのものだ。まぁ、これもアリアの身体相手にゃ使えないけどな。

 

だがこれだけあれば向こうの超能力にも対応できるだろう。光速のビームは、避けられそうにはないけれど効きもしないことは今分かったしな。

 

「気を付けろ天人、あの浮いてるブロックは───」

 

「───触れちゃヤバいもんだってのは見りゃ分かる」

 

俺はキンジよりこういう手合いは慣れてるんでね。俺の右目はティオとユエの変成魔法に俺の生成魔法を組み合わせて普通の視界にプラスアルファでトータスでの義眼に仕込んでいた先読と魔力感知に魂魄魔法まで併せた特別製だからな。

 

それでいて見た目は普通の眼球だから、もう光ったりはしないし眼帯も必要ないのだ。そして、その義眼は、アリアの中に他にもう1つの魂があることを映し出していた。それは、ユエの身体を簒奪しようとしたエヒトのように、蜘蛛の巣の如く巣食う薄汚い魂ではなく、むしろ燃えるように赫く、鮮血のように赤い、紅に輝く美しい魂だった。だが、それは明確にアリアのものとは違っていた。

 

「私はお前らが嫌いだ」

 

と、緋緋神が吐き捨てるように呟く。それだけで、コイツらがどんな存在なのかはともかく、その力は聖痕のそれには及ばないのだろうと分かる。だがそれでも緋緋神は俺から逃げる気はないようで、小さな身体から感じる闘気が萎える様子は見られない。そして、周りに緋色の粒子を身に纏い……

 

──パッ!!──

 

と、緋緋神の姿が消えた。そして気配感知の固有魔法が、そいつが俺の背後に現れたことを知らせる。俺は反射的に頭を下げながら前方に転がるようにして緋緋神と距離をとる。その瞬間に俺の頭上をアリアの細い脚が凄まじい速度で通過した。風を切る音が俺の耳に伝わる。そして振り返った俺の視界では、両手に持ったガバメントの銃口を俺に向けた緋緋神がいた。

 

───そしてマズルフラッシュが瞬く。

 

音を置き去りにして放たれた.45ACP弾が俺の頭を撃ち砕かんと迫る。それを俺は両手のトンファーで弾き飛ばす。瞬光は既に発動させている。この程度なら反応できない速度じゃあない。マッハ3~4の、ガバメントではありえない速度を叩き出した鉛玉は──バシュウウウウウ!!──という音を、俺に弾き飛ばされてからようやく俺の耳に届けてきた。

 

俺が人の身に余る脚力で目の前に踏み込むと、緋緋神も人知を超えた反応速度でそれに呼応するようにバックステップで距離を置こうとする。だがその瞬間、緋緋神は躓くように後ろにバランスを崩した。その辺りには俺が錬成で床を少しだけ隆起させているからな。アイツはそれに引っ掛かったのだ。

 

さらに俺がそこへ魔力の衝撃変換の固有魔法で緋緋神の身体を反転させ、今の俺達の攻防の間に奴の後ろに回り込んだカナの方へ向ける。カナは両手で構えた大鎌──スコルピオ──を振るい、それが緋緋神の顎を掠める。

 

「おっ……?おぉ……?」

 

と、思いの外緩い攻撃だと思ったのか、バランスを立て直そうとしながら疑問符を浮かべる緋緋神。だがその身体は本人の意思とは裏腹に、カクンと膝から崩れ落ちた。今のはカナが緋緋神……というかアリアの脳みそを揺らして脳震盪を起こさせたのだ。そして人間の身体の脆弱性を突かれた緋緋神はその場で意識を失う。

 

「おっと……」

 

と、俺が受け止める前にキンジが素早くアリアの身体を抱き留めていた。すると、ガサガサと草木を掻き分ける音を立てながらパトラが草陰から姿を現した。どうやら自分は隠れて様子を伺っていたらしい。

 

「念の為、呼んでおいて正解ぢゃったな」

 

「……後で請求するからな」

 

俺が半眼で睨むがパトラはどこ吹く風。いつの間にやらカナに寄り添っている。

 

「じゃあ、俺ぁ帰る。後はそっちでできるだろ?」

 

義眼で見れば、緋緋神の魂は今はアリアの中の、俺に見える範囲にはいないようだった。だがこれで消えたわけでもあるまい。今は身体のコントロールが効かなくなったから引っ込んだだけだろうから、また何かあればアレは出てくると、俺の直感がそう告げていた。

 

「えぇ。お疲れ様、ありがとうね」

 

と、カナはその綺麗すぎる顔でにこやかにお礼の言葉を告げた。

 

「気にすんな。これも仕事だ。……キンジ、殻金の残り1枚、取り返すなら手ぇ貸すぜ。あれをあそこで取り逃したのは俺ん責任でもあるしな」

 

「……あぁ、何かあれば頼む」

 

キンジは他にも色々聞きたそうな顔をしていたが、きっとそれを堪えてそう言った。俺もただ「おう」とだけ返して、戦場となった神社を後にした。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「何でお前らまでいるんだ……」

 

と、羽田空港の出国ゲートでキンジがボヤいている。キンジが来る前からレキもいたが、コイツはコイツで無表情のまま俺達を見渡して、そのまま視線をどっかにやっている。あまり興味がなさそうだ。

 

「俺達もジーサードに呼ばれたんだ。ちゃんとした仕事だよ」

 

と、俺も正直に答える。

 

「おう、こっちだ兄貴」

 

すると、ジーサードが手を挙げてキンジを呼ぶ。やたらと細かい金糸の刺繍の入ったパンタロンスーツとかいうイカれた服装のジーサードだったが、他の連中もまぁ目立つ目立つ。白い学ランみたいな服を着た背の高い白人のアトラス、虹色のスーツっていうそれどこで売ってんの?と疑問になる格好の黒人のコリンズ、ケモ耳のツクモ等々、ただ名前を紹介されただけでもキャラの濃さが際立つ奴らばかりだった。

 

そんな奴らと連れ立って歩けばそりゃあ周りの視線は独り占めだ。独り占めってか、俺達全員注目の的な訳だが……。

 

だがまぁ、そんなの気にするほどのものではない。実際、トータスじゃどこへ行っても皆こっちを見てきたからな。ユエもシアも慣れたもんで落ち着きがないのはキンジくらいだ。

 

そして、通学路じゃないだろうに何故か食パン咥えた平賀あやとすれ違い、自家用機でアメリカへ向かうと言うジーサードの後を着いて行くとそこにあったのは旅客機のような飛行機ではなく軍用のテイルローター機。それも、オスプレイの倍ぐらいデカいサジタリウスだった。

 

「前に乗ったのとはだいぶ形が違うんですね」

 

と、シアが頭に疑問符を浮かべながらユエの両肩に手を置いた。ユエも、そのシアの手に自分の手を重ねながら頷いている。

 

「あぁ。前に乗ったのは最初、地面走ってから飛んだろ?これはあの羽を回して、ほとんど真上に上昇してから飛び立つんだ」

 

と、俺も航空機には明るくないので大雑把に説明する。

 

「……向こうで天人が作ったような感じ?」

 

「まぁ、上がる感覚は近いかもな」

 

飛ぶ原理が全く違うので何とも言えないけど。トータスで使っていたあれは、中身の作りは旅客機に近い思想だしな。

 

ジーサードリーグとか言うらしいジーサードのお仲間達から「何の話だ?」というような視線を向けられながら俺達もサジタリウスの中に乗り込む。

 

……ジーサードの趣味なのだろうが、中は軍用機とは思えない程煌びやかな内装が施されていた。ローマの闘技場を描いた油彩画やワインレッドの地に金糸で施した刺繍が輝くソファー。足元はペルシャ絨毯が敷かれており、ふかふかだ。

 

「……凄い」

 

「……意味が分からん」

 

呟く俺とユエ。シアはボケっと周りを見渡している。これ本当にXプレーン(元は軍用)ですよね……?

 

 

 

───────────────

 

 

 

「……寝れないのか?」

 

ジーサードの命令でサジタリウスを運転する奴以外は寝ろとのご命令が下り、俺達はそれぞれ布団や簡易ベッドを出して床に入っていた。ユエとシアは一緒に寝たいとか言い出して2人で同じ布団に入っている。俺は仲睦まじく寝入っている2人の寝顔をこっそり携帯のカメラに収め隣で横になっていたのだが、何やら服を仕舞っていたコリンズと、あとキンジが寝れていないようだった。

 

「……悪い」

 

「……気になるのか?アリアのこと」

 

コリンズがチラリとこちらを見やるが、俺と目が合うとパチッとウインクを決めて自分の寝床へと移動していった。あの人も何か言いたかったのだろうが、どうやら俺に任せるということらしい。

 

「別に、そういうわけじゃ……」

 

キンジとアリアは、一旦別れて捜査することにしたらしい。アリアがイギリスへ、キンジがアメリカへ向かい色金に関して調べるのだとか。

 

だが、俺のいなかった合計でだいたい1ヶ月半と、俺の知らないところでのコイツらの活動。その辺はちょいちょいアリアから愚痴の形で聞いてはいたが、そのほとんどでコイツら2人は一緒にいた。ここまで大きく2手に分かれての戦いは初めてなのだろう。そりゃあ、不安にもなる。

 

「俺もそうだったからな」

 

「……何がだ?」

 

「こっちにリサを残したまま向こうに飛ばされて、辛かったし、寂しかった。不安でもあった。怖くもあった……」

 

思わず、俺は言葉を漏らした。きっとそれは、ユエとシアが寝ているからこその言葉。この2人には、なるべく見せたくはない、俺の中にあるもの。

 

「怖い……?お前がか?」

 

と、キンジはよく分からないという風に眉根を顰めた。失礼なヤツめ。俺をなんだと思ってんだ。

 

「訳の分からん世界に飛ばされて、これまで俺ん命を繋いできた力もほとんど失ったんだ、一時的にな。……でも、それでも俺ぁリサも元へと帰るんだって決めた。それで……」

 

「それで……?」

 

「俺ぁ帰ってきた。コイツらも連れてな」

 

俺は、ユエの絹のように指通り滑らかな金色の髪を撫でる。

 

「……だから、まぁ俺も、リサと離れ離れになったことがあるからさ。お前が不安に思うのも分かるよ」

 

「……」

 

しかし俺の言葉にキンジは何を言うでもなく押し黙った。まぁ、コイツもHSSのおかげで女や恋愛とは距離を置いていた奴だからまだよく分からないのかもしれない。

 

「キンジ、お前はHSSもあるからこういう話は苦手なんだろうけどな。それでも、自分の気持ちは伝えられるうちに伝えた方がいいと思ってる。……いつまでも、アリアがお前の近くにいるとは限らないぞ」

 

「……どういう、ことだよ」

 

キンジは絞り出すように言葉を発した。

 

「そのままの意味だよ。緋緋神からは取り返せても、アイツもお前も武偵なんだからその辺の奴より死ぬ確率は(たけ)ぇし、他に人生のパートナーを見つけるかもしれねぇ」

 

まぁ、生き死にはともかく、アイツが今更キンジ以外を好きになるとも思えないけどな。

 

「……そもそも、俺とアリアじゃ身分違いだろ」

 

吐き捨てるように、つまらなさそうにキンジは鼻を鳴らす。

 

「それがどうしたよ。そんなもん、惚れた相手を諦める理由になるのか?」

 

と、俺は敢えて煽るような言葉を使う。本当にキンジがアリアを好きなのかどうかは俺も知らない。どうせなら理子が結ばれてほしいという思いもある。だが、キンジが本当にアリアが好きなのなら、俺はこの2人がくっつくべきだとも思うのだ。

 

「だから、そんなんじゃねぇってば」

 

まぁ、この答えも予想通りだけどな。

 

「……そうかい」

 

「もう寝るぞ。時差ボケは辛いんだからな」

 

「……そうだな」

 

キンジはそう言って布団を被る。俺もその音を聞きながら瞼を下ろした。アメリカには、まだ着かない。

 

 

 

───────────────

 

 

 

明らかに見た目が日本人じゃないユエとシアは言語理解の技能がもたらす完璧な英語で、俺は逆にシャーロックに習ったやや古臭い英語で入国審査をパスした。

 

そして、空港から出た俺達はそれぞれジーサードリーグの奴らが運転する車──俺とユエ、シアはアンガスの車だ──に乗り込み、辿り着いたのはマンハッタン。ゴシック様式のエントランスの入口上部にはアルファベットのGとローマ数字のⅢを組み合わせた独特かつ分っかりやすい巨大なロゴマークのあるビルの前に俺達は止まった。

 

「ジーサードビル久しぶり〜」

 

と、やはりそんな名前だったらしいマンハッタンの摩天楼の中においても一際目立つこの建物へかなめは入っていく。俺達もゾロゾロと車から降りてこのド派手なビルを見上げていた。すると、中から銀髪で左右の瞳の色の違う、中高生くらいの女が出てきた。

 

「守衛役お疲れ様、ロカ」

 

と、キツネ耳のツクモに声をかけられたそいつはロカというらしい。するとそいつはキンジをふと見やり───

 

「ネクラなのはあんたでしょ」

 

と、不機嫌そうにキンジに吐き捨てる。何やらキンジは図星を喰らったような顔をしているが、考えが読まれたのだろうか。

 

「……あんたは……何?」

 

誰?ではなく何、ときたか。不思議なものを見るかのように下から俺のことを見上げるそいつは直ぐに警戒心剥き出しで俺と物理的に距離を置く。

 

俺に()()があったから直ぐに思い至ったが、恐らくこいつは自分の超能力で人の思考を読み取れるのだろう。キンジは多分、コイツを見て根暗そうだとか思ったんだろうな。そして、それを読まれて言い返された。だが今の俺にはその手の類は効かない。だから俺の思考が全く見えずにコイツは不思議がったんだ。

 

「俺に超能力は効かねぇぞ。大方思考を読み取るような能力なんだろうが……」

 

「……何それ」

 

俺の究極能力に関しては、誰かに話したとしても不都合になるようなものは無い。超常の力が効かないのなら物理的な手段に切り替えようとしても、多重結界はライフル弾でも弾く。オラクル細胞こそ失ったが、それでも今の俺を正攻法で殺すのは不可能に近いだろう。

 

「んなことより、中入ろうぜ。立ち話でするような話でもねぇだろ」

 

と、俺が促せばジーサードも「それもそうだな」とそそくさと中へ入ってく。俺達もそれを追いかけるようにビルへと立ち入り、閉じられたドアが外の寒気を遮断してくれた。まぁ、熱変動無効のおかげで寒さも感じられていないのだけれど。

 

そして、招かれたジーサードビルは、そのほとんどの階をどっかの企業やなんかに賃貸で貸し出していて、実際に俺達が使えるのは上の方の階だけらしい。確か113階から115階まで。まぁ、それでも52部屋とかいう馬鹿みたいな数の部屋数があり、それがどれもスイートルームみたいな豪奢さと広さを誇っているのだからコイツがどれだけ金持ちなのかを実感させられる。

 

そして3つあるうちのダイニングルームの1つへと通された俺たちを出迎えたのは大量のマクドナルド。ポテトやコーラやチーズバーガーやビックマックが並べられていて、ツクモやかなめは嬉しそうにそれに飛びついている。

 

俺も適当なハンバーガーを手に取り口に運ぶが……うん、味は日本のと変わらないな。当たり前っちゃ当たり前だけど。ただ、海外の飯は舌に合わないこともあるからこういう世界共通の味ってのは案外便利なものなのだ。

 

ただ、ユエは無表情かつ無言でパクついてるが、シアはこの大量のファストフードを見て一瞬嫌そうな顔をした。

 

どうやらシアはファストフードがあまり好みではないらしいのだ。理由は味がどことなく雑だから、とのこと。料理に関しては一過言あるシアにとっては極端に規格化されたこの味はお気に召さないらしい。とは言え、生来良い子なのと実際腹は減っていること、それから樹海暮らしと旅の中で食べ物の貴重さを知っているシアはジャンクフードの山に表情を変えたのも一瞬だけで、直ぐに手近にあったポテトとハンバーガーを口にしていた。

 

それに釣られるようにしてキンジやジーサード、他の面子もそれぞれこのファストフードの群れに飛び込み各々食事を摂っている。

 

「そういや、色金はいつ取りに行くんだ?」

 

と、行き先と目的しか聞いていなかったので俺はジーサードにその確認を取ろうとする。

 

「全員の武装の調整と休息、コンディション調整、それからサジタリウスの整備に3日だ。兄貴のプロテクターの調整も3日ありゃできるだろ。それが終わり次第エリア51に向かう」

 

ジーサードはポテトを口に運びながらそんな風に今後の予定を伝える。

 

「あぁそうだ、一応確認なんだけどさ。目的は色金の奪取とリベンジマッチってことでいいんだよな?」

 

サジタリウスに乗ってから思い出したのだが、色金を奪うだけなら最悪俺が羅針盤で座標を割り出してから越境鍵で乗り込んでしまえばいいのだ。この羅針盤と鍵、便利は便利なのだがこれまでこんな便利道具持ってなかったから時々存在を忘れる。

 

「あぁ?当たり前だろ。マッシュの野郎をぶっ飛ばして、色金も貰う。それだけだ」

 

「あいよ、じゃあ俺もそれに合わせる」

 

というわけで今回は羅針盤と越境鍵は温存だ。ユエとシア、それからキンジも俺の質問の本当の意味を理解しているようで、ユエシアコンビは「へぇ」というような顔を、キンジは「しょうがねぇなぁ」みたいな顔をしている。その3人の顔に、ジーサード達は逆に頭にはてなマークを浮かべていた。

 

「なんだよ兄貴」

 

「別に。まぁ俺も弟が手酷くやられてるからな。マッシュって奴はぶっ飛ばしてやりたいし」

 

「ケッ、こんなのカスリ傷だって言ったろうが」

 

と、兄弟仲睦まじい様子でしかしデンジャラスな会話をしている遠山兄弟なのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

今俺はロカの部屋の前で壁に背中を預けて座っている。部屋の中では何人もの気配がしていて、何やら楽しそうな雰囲気も伝わってくる。

 

飯を食い終わったと思ったらロカが「仕事の用意がある」とかでここの女子連中を、ユエとシアも含めて連れ込み、レキが「風が、キンジさんがこの部屋に来ると言っています」と俺を見張り番に立たせたのだ。まぁ突っ立っているのもダルかったから今は座ってるけど。

 

なんでキンジが態々女子が何人もいる部屋に1人で来るのか分からなかったので俺はあまりやる気も出ず、かと言ってユエとシアまで着替えているらしいこの部屋にキンジを入れるわけにもいかず、レキの妙な圧に気圧されて気配感知の固有魔法を使いながら退屈な時間を過ごしているのだった。

 

だが、しばらくすると気配感知に本当にキンジの気配が引っ掛かり、直ぐに俺の視界にキンジの姿が現れた。……マジか。レキの言う風様の言うことも当たるもんなんだなぁ。

 

「おう」

 

「天人、何してんだ?」

 

ロシア語でロカの部屋と示されている部屋の前で俺が座り込んでいるのを見てキンジは胡乱気な眼差しを向けてくる。

 

「見張り。レキが、お前がここに来るから見張れって」

 

と、俺がキンジを見上げながら答えると、キンジも自分の行動が読まれていたことに驚いたのか、眉根を顰めている。

 

「何も後ろめたいことはない。ただ命を預け合う奴らと交流しようと思っただけだ。さっきもコリンズやアトラス達の所へ行ってたんだ」

 

と、キンジはここに来た用向きを説明してくれた。俺もそれには納得できるので携帯を取り出すと、ロカの番号を呼び出してコール。3コール目で「何よ」とお出になられたロカ様に「キンジが来た。挨拶らしい」とだけ伝える。すると「待たせておけ」とのご命令が下された。

 

「ちょっと待ってろって。今女子達はお着替え中だ」

 

「げっ……入らなくてよかったぜ」

 

と、HSS(ヒス)持ちのキンジは胸を撫で下ろしている。

 

「今はユエとシアもいるからな。入ったら脳みそを抉り出していた」

 

「……洒落になってねぇ」

 

実際やるとしたら、部屋から叩き出して再生魔法で記憶を消す処理を施す程度にはするつもりだけど。ヒスって何かやらかしたら分からんが。

 

そんな風に部屋の前でこれまた頭の悪そうな会話をしていると急に俺の真横にあるロカの部屋へ続く扉が開いた。

 

「何?」

 

開いたドアから胡乱気な顔をしたロカが顔を覗かせた。どうやらキンジのことはあまり信用していないらしい。

 

「別に、ただ短い間とはいえ一緒に戦うんだ。もう少し皆のことを知っておこうと思ったんだ」

 

というキンジの言葉にロカは「ふうん」とだけ返し、そのまま部屋へと戻ってしまう。ただ、扉は半分開いたままだから、入っていいということなのだろう。キンジはそのまま部屋へと入り、俺も続いて中へとお邪魔させてもらった。

 

そこは所狭しとドレスや洋服が掛けられ並んでいる部屋だった。キンジもその様相に一瞬面食らった顔をしていたが、まぁ数が多いだけでただ単に服が並んでいるだけではあったからか、特に嫌がる素振りもなく奥へと足を運ぶ。

 

するとそこにはかなめ、レキ、ロカ、ツクモ、ユエ、シアとここにいる女子連中がそれぞれパーティーにでも参加するかのようなドレスを身に纏っていた。どいつもこいつも肩を出し胸元まで露出させており、背中側も大胆に開いている。スカートが長いのがキンジにとっては幸いか。

 

とは言えキンジはそれを見てかなり嫌そうな顔をしている。肌色面積大きいしな。するとかなめは「お兄ちゃんお兄ちゃん」とキンジに寄り付く。

 

俺の姿を認めたユエとシアも、トコトコと俺の方へ寄ってきた。

 

「……どう?」

 

「ロカさんに選んでいただいたんですけど、似合ってますか?」

 

スカートの端を摘んでその場でくるり。2人ともが揃って同じ動きをしている。

 

「2人とも最高に似合ってるよ」

 

と、俺は正直な気持ちを伝える。

 

ユエのドレスはその瞳の色と同じ真紅。薔薇のように紅く、ルビーのように赫く、精巧なビスクドールさながらに輝くユエの美貌を彩ってた。また、裾から腰辺りまでに施された金糸の刺繍がユエの輝くような金髪と合わさり、まだ幼さを残すはずのユエに、しかしそれを思わせない妖艶な雰囲気を上品に与えていた。

 

シアの着ているドレスは、ロカがそれを知るはずはないが確かに彼女の魔力光と同じ淡い青色。雲1つ無い晴天の青空のように蒼く、凪いだ南国の海のように碧く澄み渡ったそれは、胸元がVの字に割れていて彼女の持つ至宝の如き果実が作り出した渓谷を見せつけるように晒していた。また、足元から膝上まで入ったスリットが、まるで誘うかのようにシアの脚線美を魅せてくる。

 

「2人共、これ以上ないくらいに綺麗だ」

 

と、俺は2人の腰を抱き寄せる。それに合わせてユエとシアも俺に体を擦り寄せてくる。

 

「……ふふっ。ありがと、天人」

 

「天人さんに褒められるのが1番嬉しいですぅ」

 

が、俺達にとっては割といつもの光景なのだが、他の奴らにとっては衝撃的な光景らしく、常に無表情のレキを除けばその他キンジも含めて全員が唖然とした顔をしていた。ロカに至っては何か嫌なものを見たかのような顔をしている。

 

「どうした?」

 

「人の部屋で何見せつけてくれてんのよ」

 

と、ロカが舌打ちでもしそうな雰囲気で俺達に詰め寄る。仕方がないのでユエとシアには一旦離れてもらう。2人とも不満げな様子だから後で構ってやらないとな。

 

「はいはい。……じゃあ俺は戻るわ。後でな」

 

「……んっ」

 

「はいですぅ」

 

俺はユエとシアのイブニングドレス姿も拝めたことだし、ここいらで退散することにした。ドレス姿はトータスにいた時も、帝国でハウリアの革命を手伝った時に見たが、華やかで煌びやかなドレスってのは着る奴の魅力を極限まで引き出す効果があるんだよな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

キンジも直ぐに戻ってきて、ユエ達も一旦普通の服に着替えてリビングへと帰ってきた。どうやら明日また使うらしく、衣装合わせを行っていたのだとか。……明日、パーティーにでも行くのか?

 

詳しいことはユエとシアも知らないらしいが、まぁジーサードが引率らしいのでそう怪しいこともないだろうと俺も深くは聞かなかった。

 

そして、時差ボケで眠くなるのをダーツをやって堪える。キンジ達もかなめとレキと3人で投げているし、俺もユエとシアとやることにした。簡単なルールと投げ方だけ教えて始めたそれは、流石に最初は俺の圧勝だった。

 

だが次のゲームからはユエがこっそり風属性魔法とか重力魔法を使い出して最短の9投で501(ゼロワン)を終わらせやがり、挙句に「私はユエ。例え遊びでも手は抜かない女」とか言い出したのでこちらも手加減せず瞬光を使い最短で同着とした。

 

だがそれでつまらないのはシアだ。シアには魔法なんていう便利技が無いのでダーツの矢の軌道を操作することは出来ず、瞬光もないから自分の思った通りの投擲も勿論素人なので難しい。

 

そんな状況で魔法全開の俺達に勝てるはずもなく、しかも負けた理由がダーツで魔法を使うという大人気無さの極みみたいな方法だったので当然拗ねる。

 

ぶっすぅ……と音が聞こえてきそうなくらいの見事な拗ねっぷりを発揮したシアに、俺はもっとちゃんとした投げ方を教えてやる。とは言っても、俺もプロじゃあないし理子に付き合わされてちょっと齧った程度だが、まぁどっちかと言えばシアを構うのが主題だから別にいいだろう。

 

と、俺は敢えてシアの身体に触れるようにして綺麗な投擲フォームを指導してやる。

 

「そう、脇を締めて……肘から先を───」

 

と、シアを背中から抱くようにしてシアの右手を後ろから手に取り、二人羽織のようにして身体に動きを覚え込ませる。左手はこれもシアの左手に重ねてお腹の前に回す。こんな接触はシアもいい加減慣れているからこれだけで顔を朱に染めることはないけれど、俺達には見えるようにしているウサミミがピョコピョコと機嫌良さそうに揺れているのが分かる。

 

キンジやかなめ、ロカにツクモは顔に「うわぁ……」って書いてあるし、何なら声も出ている。

 

すると、チョイチョイと俺の裾が引かれ、そちらを見ればユエが「私も私も」というような顔をして待っていた。しかし───

 

「……ユエさんは魔法使えばいいじゃないですか」

 

と、シアにボソッと一言言われて返り討ち。どうやらまだこっそり魔法を使ったのを根に持っていたらしい。仕方がないのでユエにも一言かけてやる。

 

「あぁ……次は魔法無しでも投げられるように教えてやるからさ」

 

「……んっ」

 

と、いつも通りの言葉数だが、少ししょんぼりと落ち込んだ様子で返ってきた。それを見たシアも少し冷たかったかと思ったのか「一緒に教えてもらいましょう、ユエさん」と優しく微笑んでいた。ユエもコクコクとそれに頷き、この件はこれで解決となったらしい。

 

で、ニューヨーク時間で21時になった瞬間、レキが窓際でドラグノフを抱えて体育座りで寝始めた。それを合図に俺達も何となくダーツは終わり、寝ている奴がすぐそこにいるから騒ぐのもはばかられ、キンジはベレッタの整備に、俺も自分のシグと、ユエ達のベレッタの整備をして時間を潰すことにした。

 

そうして時間を潰していると、フェイスペイントを洗い流したジーサードがやってきて、俺たちの寝床を告げる。部屋数の割にはゲストルームが無いようで、ユエとシアは女子連中の部屋、俺とキンジはジーサードの部屋らしい。

 

で、そのジーサードの部屋にあるベッドは、マジで象でも寝られそうな程に大きく、ジーサードにキンジ、俺までが寝ても多少の余裕があるほどの巨大なベッドだった。

 

寝心地もよく、時差ボケもあった俺は直ぐに瞼が落ちて───

 

 

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