セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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エリア51

 

いきなり鳴り響いた金属音の甲高くけたたましい騒音で目が覚めた。どうやらかなめがフライパンをフライ返しでカンカン叩き、俺達をその音で叩き起したようだ。

 

だがまぁ、携帯電話の時計を見ればこの時点で今は朝の10時。寝坊と言われても仕方ない時間ではあった。どうやらジーサードはもう起きているようで、部屋の端で逆立ちしながら指立て伏せをしていた。

 

「俺達はもう行ったが、兄貴達は教会に行かなくていいのか?」

 

と、パンイチで指立て伏せをやってたジーサードが地に足着けながら俺達に尋ねる。

 

「教会?」

 

と、キンジが聞き返せば、どうにもジーサードリーグの奴らは皆ミサに行ってきたらしい。皆それぞれ別の宗教らしいが。かなめ曰く、ユエとシアも無宗教と言っていたらしくさっきも部屋にいたそうだ。まぁアイツらは神様とか嫌いなタイプだしな。トータスじゃ盛大に嫌がらせを受けたわけだし。

 

「俺は神道と仏教のチャンポンだが、まぁ無宗教みたいなもんだな」

 

と、キンジ。

 

「そこが日本人の不思議なとこだよなぁ。神代は?」

 

すると、今度はジーサードが俺に話を振ってきた。

 

「俺ぁここんところ"神"と呼ばれてきた奴らにゃ酷い目に合わされてきたからなぁ……。神って奴ぁゼッテー信じねぇ」

 

世界を食い貪るのとか粘着変態クソ野郎とか、俺の目の前に現れる神様はそんなんばっかりだったからな。今まで会った神様で1番まともなのが緋緋神なのが悲しい限りだ。

 

「お、おう……」

 

「兄貴もクレイジーだがコイツもかなりクレイジーだな……」

 

在りし日のあれこれを思い出して思わず遠くを見つめてしまった。そしてそれを見たキンジとジーサードが憐れむような目を俺に向けてくる。かなめも無言で「あーあ……」みたいな顔をしていた。

 

「まぁいい。とにかく兄貴達よぉ、これから仕事だ。用意しろ」

 

と、ジーサードが言い出した。色金を取りに行くのは今日ではないのでは?と思ったがどうやらそれとは別件らしい。

 

そして用意されたのは目に眩しい純白のスーツ。これを着ろと……?と目線でジーサードに訴えるがそうらしい。こんなド派手なの嫌だなぁ……ていうか、いつの間にやらかなめにパンタロンスーツを着せられたキンジもほぼお揃じゃん。ジーサードも似たようなトンチキスーツ着てるし……。

 

だがまぁクライアントの(めい)とあらば是非も無し。俺は仕方なく渡された、何故か怖いくらいにサイズが俺の身体にピッタリのスーツを着込む。

 

男3人で似たような格好をして部屋を出ると、ユエとシアも含めた女子連中も何やら派手な柄のジャンパーやらを着ている。

 

「……天人、よく似合ってる」

 

「格好良いですよ、天人さん」

 

と、2人とも俺の格好を褒めるが、その顔はこちらを向いていないし、肩が震えているのを隠せていない。かなめに至ってはキンジの格好を見て最終的には「ププッ」と軽く吹き出してるし。ていうか、笑うならもっと堂々と笑ってほしい。そうやって誤魔化そうとしているのを見ると余計に悲しくなるから。

 

という俺の心の声は届かず、終始笑いを堪えているコイツらと一緒にジーサードの車に乗る。アトラス達も一緒に来たが、コイツらもなんかやたらと派手な格好をしていた。……仮装パーティーにでも行くのだろうか。

 

かと思えばやって来たのはジーサードビルから車で5分の公園。いや、歩けたでしょ、と思ったがこんなトンチキな格好でマンハッタンのド真ん中を歩きたくはないし、いいのかな?……いや、そもそもこんなトンチキスーツを着なきゃ歩けたわけだからやっぱ駄目だわ。

 

んで、何しにこんなとこに来たのかと思えば、ジーサードが車から降りるとそこにいたのは子供達。どうやら野球をして遊んでいるらしいその子達はジーサードの姿を認めると皆で駆け寄ってきた。その子供達の顔は喜色満面。サードサード、と、ジーサードがその厳つい見た目とは裏腹に随分と子供達に好かれているのが手に取るように分かった。どうにもこの子達、近くの学校の生徒のようなのだが、その学校は国の予算の都合で支援が無くなり、潰れそうだったのだとか。それをジーサードが多額の寄付をすることで存続させ、恩を感じた学校側も学校名にジーサードの名前を入れているらしい。

 

そして始まったのがジーサードによる自慢話……と言うと聞こえが悪いけど、要はジーサードがここ最近解決してきた事件とその中でジーサードが果たした活躍を子供達に聞かせてやっているのだ。それも、ただの自慢ではなく、環境問題や麻薬の危険性などについても話の中に上手く折り混ぜられていた。

 

そしてそれを聞く子供達も瞳を輝かせ、オーバーリアクション気味ではあるが楽しそうに聞き入っていた。なるほど、ジーサードはこうやって子供達を導いているんだな。

 

そして、ようやくその子供達がキンジや俺に気付く。ジーサードと同じような格好をしているけど新しい部下なの?みたいな質問に、キンジの方は自分の兄貴で俺は今度の事件(ヤマ)の助っ人だと紹介される。

 

キンジが日本でアリアに虐げられているのをさも強敵と戦っている風に話し、俺も最近解決したいくつかの事件の話をしてやると、子供達は大喜びだった。そして、そのまま何故か俺達もこの子達に混ざって野球をやることに。

 

子供チームに入りシアとバッテリーを組んだユエが、キャッチャーの位置から重力魔法を使ってシアの時速200キロの豪速球に変化を加えたりアトラスがわざとらしい大振りで子供に三振を取らせてあげたり、キンジが子供チームの4番をやらされたりレキが外野でボケっとしていたり……日中はそんな風に慌ただしくも楽しい時間を過ごした。

 

そうしてひとしきり遊んだ後、一旦俺達はジーサードビルへと戻り、そしてまた今度はベスト付きの黒いスーツに、ちょっと格好付け過ぎじゃない?と思うような黒い中折帽子も被らされてジーサード達に連れ出された。

 

その時は女子連中も皆、前にロカの部屋で着ていたイブニングドレスを身に纏っており、あの時はそれだけだったものの、今はロカにやってもらったのか、皆髪型もセットしてあり化粧までしていた。

 

トータスにも多少は化粧用品があったものの、それは簡単な(べに)を除けばあまり市井には出回っていなかった。だからか帝国の城でもユエとシアの化粧した姿を見ることはなく、今回が初めてとなるのだが───

 

「……天人?」

 

「天人さん?」

 

今の2人が着ているようなドレス姿も、いつもとは違う髪型も、あれだけ長い間一緒に旅をしていれば見ることもあった。けれど、化粧でより美しく彩られた彼女達を見るのは俺にとっても初めてのことで───

 

「あ、あぁ……悪い」

 

俺のことを下から覗き込む2人の声で俺はようやく我に返る。

 

「……ちょっと見蕩れてた。2人がその……あんまり綺麗だったから」

 

俺は、自分の思いの丈をそのまま口にする。

 

「……んっ、ありがと、天人。嬉しい」

 

「ありがとうございます。ロカさんにやってもらった甲斐がありました」

 

と、スルりと2人が俺の両手をそれぞれを取る。

 

「いつまでイチャイチャしてんの?置いてくよ!」

 

だがそんな至福の時間も直ぐに時間切れのようだ。俺達は仕方なしにジーサード達の運転する車に乗り込む。それでもなお、2人の身体は俺に押し当てられていた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

肩出し胸元まで開いた前面と、背中はお尻の少し上くらいまでバッサリと露出したイブニングドレスに、キンジが文句を付けたのだが、ロカ曰く、夕方6時以降のパーティーでの女性の正装はこれなのだと言われ、俺に助け舟を求めたものの、俺としてもそれが正装なのであれば特に文句を付ける気はなかった。それに、他の奴らも皆同じ格好だしな。俺にそう言われたキンジは肩を落としていたが。

 

そうしてやって来た、ホテルを貸し切ったパーティー会場の入り口は下から空気が吹き出す仕掛けになっていた。それは恐らくマリリン・モンローの映画「7年目の浮気」のオマージュだと思われ、かなめ達はスカートを抑え赤面しつつも拍手で迎えられていた。ちなみにレキは完全な無表情でめくれ上がるスカートを抑える気もなし。ユエとシアは1歩後ろにいたため、仕掛けを即座に看破、ユエは風属性の魔法で、自分とシアのめくれるスカートを抑えた。とは言え、多少はめくれないと不自然なので前は手で押えた振りをしつつ膝くらいまで、後ろは膝上くらいまではめくれるような調整をしたようだった。

 

ただ、この場にいる奴らは見渡して直ぐに分かるくらいには強い奴らばかりだ。その身に纏う雰囲気が違う。だからもしかしたらユエが何かしたことは見抜かれたかもな。まぁ、一応かなめ達と同じように拍手で迎えてくれたから睨まれる程のことではないようだけど。

 

で、この集まり、何かと思えばヒーロー組合(ユニオン)とか言うらしい。どうにも世界中でドンパチ活躍している超人達が集まっての立食パーティーのようだ。多分、ジーサードは自分の部下達がコネクションを作れるようにこの場に呼んだんだろうな。俺達は多分おまけ。

 

まぁ俺も下手したら日本でお尋ね者になりかねないのでここいらで知り合いを増やしておくのも良いだろうとジーサードに乗っかることにした。

 

ユエも流石は元王族。こういう場での身の振り方は身体が覚えているらしい。先に念話でユエとシアには"一旦解散"とだけ伝えてあったが随分と自然にこの場に馴染んでいた。

 

俺は、手始めにたまたまいたヒノ・バット──火野ライカの父親だ──に声を掛けに行く。その前にチラリと見たが、シアは勝手がよく分からないようでユエの後ろにちょこちょこと着いて行って、話しかけられたら対応する、みたいな雰囲気だった。ユエもそんなシアを気に掛けながら周りに寄ってくる奴らの対応をしていた。

 

で、俺も自分の戦兄妹の父親に挨拶を済ませ、ついでに武偵手帳にサインも貰ってフラフラと会場内を彷徨く。手に持った皿にトングでサラダを取り、食べてみるがこれが美味いのなんの。ユエとシアは目に付いた物を適当に食べているが、他のヒーローさん達はあまり食べ物に手を付けていない。これは別に毒を警戒しているのではない。彼らはこういう場であっても食う物に気を付け栄養バランスを考えているからなのだ。

 

まぁ肉体がほぼ人間のそれとはかけ離れてしまった俺にはあまり関係の無いことだが、実は最近あまり肉々しい物を食べてはいないのだ。

 

何せトータスじゃ一生分以上肉を食ったからな。それもマジで"肉"って感じのやつばっかり。要は食べ飽きたのだ。なので帰ってきてからこっち、リサに頼んで献立は比較的和食系を多く出してもらっていた。

 

それでも最近ようやく肉も食べてみようかな、みたいな心持ちになってきたので時々肉をリクエストすることも増えてきた。ここには随分と肉々しいメニューも置いてあるしちょっと食べてみようかな。

 

と、俺が肉に手を出している間に、ユエとシアの方には少しずつ人が集まってきている。そしてそれがまた人を呼ぶ。とは言え2人の顔を見れば何か変な言い寄られ方をしているわけでもなさそうで安心だ。というか、ここはそういう奴らは来ないのだろう。能力や実績だけじゃなくて、ある程度人格的にも評価されている人達しか呼ばれないだろうし。

 

俺もヒノ・バットのサインを貰うだけじゃ料理を合わせてもまだ勿体ないなと感じるのでそこら辺にいた奴に適当に話しかける。向こうも、俺のことを極東のガキんちょ扱いすることはなく、フランクに接してくれたのだった。

 

そのうち何やらキンジが荒れ狂ってかなめやツクモをボコボコにし始め、それを余興と思ったか周りの奴らは笑いながらそれを眺めていたりと、愉快な時間を過ごしていた。

 

しかし、そのうちキンジがフラッとどこかへ消えていた。ジーサードもいないし。ま、兄弟水入らずにしてやろうと俺も放っておくことにした。何かあれば連絡が入るだろうし。

 

と、俺は残り少なくなってきた料理へと再び意識を移すのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

サジタリウスの整備が終わった。俺達も休養をたっぷり取って体力満点。唯一ジーサードの負傷だけが治りきらずにいたのだが、それを補って余りあるくらいの戦力をコイツはかき集めたのだ。

 

キンジにレキ、俺とユエとシア。それに元々ジーサードリーグの奴らだって米軍の特殊部隊出身だったりと精鋭揃いだ。アメリカ空軍とやり合うのは俺も初めてだが、目的は戦争に勝つことじゃあないから問題無い。

 

キンジ曰く、今回の大きな障害となりうるであろう男、マッシュが俺達が昼間に遊んでた野球を見ていて、シアの馬鹿みたいな豪速球も確認していたらしいが、あれだってまだまだ本気じゃないからな。問題無いさ。

 

「───今からネバダ州グレーム・レイク空軍基地───通称エリア51、その第89A管理区を再び強襲する。目的は瑠瑠色金の奪取、理由は俺の私利私欲。あとはまぁ、オマケに神崎・H・アリアの緋緋神化を潰して世界戦争を未然に防ぐ」

 

とまぁ何とも唯我独尊的だが、コイツもまた分かりやすいツンデレだな。こういう所はアリアによく似ている。

 

「空路は新俺派の州と地域を辿るがどうしてもユタ州とネバダ州では反俺派の勢力圏を飛ばざるを得ない。そこには前回同様にNSAのマッシュ=ルーズヴェルトの妨害があると予測される。マッシュは与党には可愛がられちゃいるが他国の自由をも冒涜する者。それがどこの国であろうと人民の自由を冒涜する奴ぁアメリカの国賊だ。心置きなく、んで腹ぁ括ってかかれっ!───以上!質問はあるか?」

 

と、ジーサードがあまりにも簡単な作戦の説明(ブリーフィング)を始めた。しかしジーサードはまだ怪我が癒えていない。しかもユエの再生魔法も意地とか何とか言って拒否しているのだ。当然、部下達からは不安の声が上がる。だが、そんな部下達に、キンジや俺達がいるから大丈夫だと、普通には無理だがこれだけのオカルトがいれば大丈夫だと強い言葉で奴らを鼓舞していた。そんなジーサードの命により、サジタリウスは空へ飛び立つ。

 

ジーサードが連れて来たということで俺達も戦闘力に関しては一応の信頼を得ているようで、それに対しては疑いの目を向けてくる奴もおらず、サジタリウスは静かに夜を迎え、いくつもの州を越えて飛行を続ける。

 

そして夜明け前、工程の9割を越えたあたりで日の出を迎えた。だがその瞬間───

 

「……後ろから何か来ます」

 

シアがウサミミをヒクつかせて警告を出した。まだレーダーには映っていないが、どうやらサジタリウスのローター音に混じって別の音が耳に入ったらしい。

 

シアの声色に何かを感じたのか、ジーサードも直ぐに俺達に警戒態勢を取らせる。

 

「……2機、だと思います。後ろと、上から近付いてくるですぅ」

 

更にウサミミを澄ませたシアがサジタリウスに接近してくる奴らの数と場所を察知した。

 

「……レーダーは!?」

 

と、ジーサードがコクピットに向けて叫ぶ。

 

「いえ、まだ何も……」

 

「───っ!?今一瞬ノイズが!6時方向にノイズ・レベルの捕捉反応が明滅(ブリンク)……っ!」

 

と、アンガスとアトラスから声が上がる。ジーサードも真上と後ろから来る敵の音に気付いたようだ。

 

「ジーサード、俺を出せ!!」

 

ミサイルでも撃ち込まれたら面倒だと俺が出撃を提案する。コイツは俺が聖痕持ちだと知っている。白焔の聖痕についてジーサードがどこまで知っているのかは知らないが、この場で俺を出す判断を躊躇う必要は無いはずだ。だが───

 

「いつミサイル撃たれるか分からん!この状況じゃハッチは開けらんねぇ!」

 

「あぁ!?」

 

だがジーサードの言う通りでもある。ハッチを開けた瞬間にスティンガーでも撃たれたらサジタリウスが沈む。それも、爆炎を機内に持ち込んだ上で、だ。俺の氷の元素魔法の存在を知らないのならこの判断も致し方ない。

 

「天人、前にお前氷の槍?みたいなの出してただろ、あれでミサイル防げないのか?」

 

と、キンジが、ランバージャックの時に見せた俺のそれを思い出したのか確認してくる。

 

「余裕だ。……おいジーサード、俺ならミサイルを防ぐ手立てがある。開けた瞬間の隙なら問だ───」

 

だがそこまで言いかけた瞬間───

 

「来ます!スティンガー!!」

 

「全員、対ショック体勢!!」

 

直ぐさま敵さんから砲火が放たれた。ユエとシアが「対ショック体勢とは何!?」という顔をしたので俺は何かに掴まれと伝える。そして機内の手摺に掴まった俺に、ユエとシアがしがみつく。それは対ショック体勢じゃない!!と叫ぼうとした瞬間に甚大な衝撃がサジタリウスを襲う。ロカやツクモ、引っ掴み方が甘かったユエも機内をゴロゴロと転がっていた。

 

後ろと真上からミサイルを喰らったのだ。右の翼から火の手が上がり、外は地獄絵図だ。だが直ぐに墜落する感じではない。どうにか片肺飛行は出来ている。もっとも、機体の傾きを抑えられていないからそう長くは飛べないだろうが。

 

「ジーサード、サジタリウスを一旦落とせ!足なら俺が確保する!」

 

「チッ……任せたぞ。アンガス!」

 

「承知!」

 

俺の提案にジーサードが乗る。それに合わせてアンガス達の超人的な運転でサジタリウスは追撃と墜落は免れたものの、半分不時着みたいな感じで砂漠のド真ん中へと降りた。しかし、真上から右翼への攻撃はレーダーにも一切掛からなかった。俺の義眼に何も反応が無かったということは魔法の類ではないはずだから科学技術なんだろうが……。

 

「で、どうすんだ?」

 

と、一旦外に出て確認すればほぼ全員軽傷。さらに俺とシアは完全無傷な上に、擦りむいたりちょっとぶつけた程度とは言え、ユエも自動再生で直ぐに怪我を治癒。そんな中サジタリウスから色々荷物を引っ張り出しながら出てきたジーサードが俺を睨む。

 

「さっきお前、オカルトに頼るって言ってたろ。だからオカルトの出番だ」

 

と、俺は宝物庫から魔力駆動の二輪と四輪をそれぞれ取り出した。虚空からいきなり大質量の物質が現れたことで、唯一レキだけは無表情のままだったが、キンジやジーサードリーグの奴らが全員目を見開いていた。

 

「コイツらには砂漠の柔らかい砂でも整地して進める機能がある。陸路にはなるが、これで行くぞ」

 

今の魔力駆動二輪はシートも改造してあり、ちゃんと3人まで乗れるだけのシートサイズにしてある。また、四輪車の方はハマーではなくマイクロバスのような風体になっており、運転席の後ろの席は中央のテーブルを囲む様な座席の作りになっているのだ。

 

これから先、また襲われた時のためにユエとシアには二輪で先導と護衛をしてもらう。俺達は車の方で後から着いていく形にするつもりだ。

 

かなめとツクモがGPSで現在地を確認し、アトラス達がサジタリウスから無事な物資を運び出している間にこちらも準備を整えてしまおう。

 

「シア、バイクの運転頼む。ユエもシアと一緒に乗ってくれ」

 

ユエもシアも車の中にいては持ち味を発揮し辛い。ならば2人は外に出しておき迎撃に出やすくしてもらいたいのだ。

 

「砂漠地帯だからな。ゴーグル渡しておくよ」

 

と、俺はまた宝物庫からゴーグルを取り出した。大して特別な機能は付いていないが、砂の舞い上がる中ではこういうのが無いとバイクになんて乗っていられないだろうからな。

 

「……んっ、でもここじゃ髪にも砂が着く」

 

と、何やら言いたげな風にユエが俺を見上げてくる。

 

「んー?あぁ……悪いな。けど───」

 

「……だから、天人が洗って?」

 

ユエが両手を胸の前で組んで小首を傾げる。キュルン、なんて音が聞こえてきそうなくらいにあざといユエ様がそこにはいた。

 

「あ、私も洗ってほしいですぅ!」

 

と、シアもそれに便乗してくる。しかし周りの目線が非常に痛い。しかもユエは多分この場でこう言えば俺が絶対に逃げられないことを分かってこう言っているのだからタチが悪い。

 

「あぁ、分かったよ」

 

で、そこまで分かっててやはりノーと言えない俺も、やっぱりどうしようもないんだろうな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

バイクと車に仕込まれた錬成の魔法陣は例え錬成の魔法に適正の無い奴でも魔力さえ注げば整地してくれる仕組みになっている。元々ユエと2人で始めた大迷宮攻略の旅だったから、ユエが乗っても大丈夫なように作っていたのだ。だから同じく魔力の直接操作が出来るシアであれば、砂地の上でバイクを乗り回すことが可能なのだ。

 

かなめ達がGPSで現在地を特定。それでようやく目的地の方角が分かった。そして、サジタリウスに積まれていた物資の中でまだ使えそうなものや水と食料の残りを、そちらは彼らの判断で直ぐに使えるようにと宝物庫には仕舞わずにアトラスの持っていたバックパックの中にアンガスが仕舞い込んだ。

 

「……で、神代のそれは何なんだ?」

 

と、ジーサードが宝物庫を見て詰め寄る。まぁそうなるよな。傍から見たら質量保存の法則とか消え去ってるし。

 

「企業秘密だ。ただ言えるのは、俺達には兵站の概念がほぼ無い。こん中にゃ武器も弾薬も食い物も水もある」

 

とは言え、宝物庫の中に入っているのはレーションみたいな日持ちするやつばかりだけど。だから実際のところ、食事の楽しみは期待できない。

 

「かなめから多少は聞いていたがここまでクレイジーな野郎だったとはな」

 

と、ジーサードがチラリとかなめを見る。かなめもまだ驚きが抜けていない様子だった。

 

「そういう意味じゃ、多分俺はかなめの予想よりもだいぶクレイジーだぞ。ユエとシアもな」

 

身体強化をまだ全力では発揮していないシアと、まだあまり魔法を使っていないユエの全力が、この任務で見られるかどうかは分からないけどな。

 

「そりゃあ楽しみだ」

 

そう言いながらジーサードは素早く四輪の後部座席へと乗り込んだ。それにジーサードリーグの面々が続き、最後にレキとキンジが乗り込む。

 

「レキ、お前は後ろの監視頼む」

 

「はい」

 

相変わらずの無表情で後ろの窓を見つめるレキ。あとの奴らはそれぞれが適当にシートに腰掛けた。このシートはトータスにいる時にハイリヒで集めたもので、誰かが要らなくなったソファーとかをこれに使うために探していたのだが、世界を救った魔王様のお願いとあらば!!みたいな感じであれよあれよと高級そうなのがバカスカ集まってしまったのだ。なのでその中からあんまり派手すぎないのを選んで取り付けたんだが、どうやら異世界製ソファーと言えど座り心地は抜群らしく皆気持ちよさそうに座っている。

 

『ユエ、シア、行くぞ』

 

と、俺が念話で2人に声を掛け、まずシアが柔らかい砂地を錬成で舗装しながら走り出す。俺もそれに合わせて四輪に魔力を流し、車軸を回し錬成の魔法陣を働かせて地面をならしていく。

 

「本当に整地できてんだな」

 

と、再出発からしばらくしてジーサードが後ろ覗き込みながら呟く。

 

「言ったろ?」

 

とだけ俺は返す。今は時速で言えば120キロくらいは出ている。外の景色は流れるように後ろへ消えていく。エリア51まではあと1時間と掛からずに到着する。

 

俺達が不時着したのを見て攻撃を止めたのかと思ったその時、レキが何かの接近を知らせてきた。今はネバダ州のリンカーン郡西部、ジーサード曰く、"反俺派(アンチ・ジーサード)"の地域とのことだ。

 

「蛇行しながら加速してこちらへ向かって来ます」

 

「天人、クジラとエイの間みたいなやつだ。空から来る」

 

と、双眼鏡で覗いたらしいキンジも接敵?を伝えてくる。クジラとエイの間ってのは皆目検討が付かないけどな。

 

「分かった。俺が出るよ。一応、俺ん足がコイツに触れてる間は動くから安心しろ」

 

と、俺は砂から目を守るためのゴーグルを掛けてから魔力操作で天井を開き、そこから外へと這い出でる。前は錬成で無理矢理こじ開けたが、実際この方が楽でいいな。

 

「この速度だ。俺のアクセルが無くても惰性でしばらく走るが整地機能は無くなる。誰かハンドルだけ握っとけ」

 

相も変わらずアクセルもブレーキも魔力の直接操作頼みのこれは、ただし操作の簡便性のためにハンドルだけは付いているのだ。

 

「では私めが」

 

と、どうやらアンガスがハンドルを握るらしい。まぁ、この人はサジタリウスも操縦してたし任せられるだろう。

 

俺は四輪の上に立ち、遠見の固有魔法で接近してくるそれを見やる。

 

そいつは、白いスクール水着に武偵校女子の特徴的な赤い襟とネクタイを身に纏った小柄な女だった。髪は水色で何やら機械の翼や頭にはウサミミっぽいのまで付いていて、まるでIS操縦者のようだった。

 

苦い思い出が蘇り、思わず顔を顰めるが、直ぐに俺の義眼に映るはずのそれが見当たらないことに気付いた。

 

「おいジーサード、あの女ぁ知ってるか?」

 

「あぁ?LOO(ルウ)だろ、ガイノノイドだ!」

 

「ガイ……何だそれ!?」

 

聞いたのは俺なのだが訳の分からん横文字が飛び出してきた。もっと共通言語を使ってほしい。言語理解はこういう専門用語だけは範囲外なのだ。

 

「知らねぇのかよ、要はそいつはラジコン女で、遠隔操作のロボットってことだ!」

 

「つまり、人間じゃねぇんだな?」

 

俺がLOOなる奴は人間なのかどうかを聞き返している間に、向こうは何やら青い光弾を乱射してこちらに攻撃を仕掛けている。だがまだ射程圏外なのかただの牽制のつもりなのか、集弾性は低く、四輪の周りにバスバス着弾して砂煙を巻き上げているだけに終始する。かなめが車内から上げた声によれば「重イオン弩発銃(バリスタ)」とかいう武器らしい。かなめも似たような武器を持っているらしいが何それ?

 

「あぁ、少なくとも9条破りにはならねぇぜ」

 

「それだけ聞ければ充分!」

 

もう遠見の固有魔法を使わなくてもよく見えるくらいに近付いてきたそいつは、今からぶっ壊すのが惜しいくらいには可愛らしい面をしていた。まぁ、そうやってこっちの攻撃が僅かでも躊躇えばって作戦なんだろうけどな。だがそんなもん、人じゃねぇって分かれば効かねぇんだよ。

 

俺は宝物庫から電磁加速式の対物ライフルを取り出す。そしてユエとシアに念話を繋ぐ。

 

『こっちに1匹敵が現れた。そっちも見え次第()()()()()()()()()

 

『了解ですぅ!』

 

『……んっ』

 

それぞれの反応を聞き、俺はライフルのスコープからLOOを覗く。そしてスコープが見せる奴の未来位置に超音速の弾丸を置くように放つ。

 

──ドパァッ!!──

 

と、トータス製の拳銃と同じように何かを吐き出すかのような発砲音を出し、しかし放たれた弾丸はそんな空気の振動なんてものは後ろに捨ておいて自身は空気の壁を突き破った。そして真紅の軌跡を残しながら飛翔する弾丸はLOOの、やたらリアルに作られた柔らかそうな腹をぶち破り、その背中を突き抜けて彼方へと消えた。

 

エンジン音のしない車の上において、チリン……と空の薬莢が落ちる音だけがこの場に残された唯一の音だった。

 

しかし静寂は一瞬。ロボットらしくオイルで動いていたらしいそいつは俺の異世界製対物ライフルの生み出した熱量により爆発、炎上。砂漠の中に陽炎を発生させ地面へと墜落して果てた。

 

『シア、そっちはどうだ?』

 

と、念話でシアに前方の状況を確認する。シアは今、俺達より100メートル程先へ進んでいる。

 

『相変わらず何の音かは分かりませんが、何かが来ます』

 

まだこっちのことには少し疎いシアが、しかし何者かの接近だけは把握し伝えてくる。そして、シアがそう言うということは歩兵ではない。まず間違いなく米軍の何らかの機械的な兵器だ。それに人が乗っているかどうかは分からないけどな。

 

と、そこまで思考を回したところで俺にも敵の姿が見えてきた。あれは、MQ-1───プレデターか。昔っから中東やなんかで偵察やピンポイント爆撃を繰り返し暗殺をしまくっている無人航空機(UAV)、それが空に20機以上……いや、これ30くらいいないか?

 

しかし、俺の義眼に仕込まれた魂魄魔法には人の魂が映らない。つまり、ここにはマジでプレデターしか来ていないことになる。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

確かに無人航空機は破壊されても人的損失が一切無い。それがあれらの利点だ。だが、俺達を相手にするならむしろそれこそが欠点。人命を一切気にすることなく振るわれる異世界の力、見せてやるよ。

 

「ジーサード、向こうからプレデターが30以上来る。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あぁ!?」

 

俺の言い回しにジーサードがガラの悪い声を上げる。しかも、それに合わせてジーサードリーグの奴らも自分らも迎撃に出るだのなんだのと言い出した。だが───

 

「ジーサード、お前は俺達を、キンジと同じくらいには戦える奴らだと思ってるんだろうがそれは違ぇ」

 

そこまで口にした俺の身体に異変が起こる。どうやらこの辺りには聖痕を塞ぐ仕掛けが施してあるらしい。プツリと繋がりの切れる感覚があった。

 

……最近はいつもこれだ。どいつもこいつもこれを塞げばどうにかなると思っていやがるな。けどなぁ、そんなもんでどうにかなるほど俺ぁ楽な世界には行けなかったんでな。

 

「……確かにここにゃ聖痕封じの仕掛けもあるし、お前は自分の負傷分とプラスアルファ程度に俺達3人を考えてたんだろうけどな、悪いが俺達を雇った時点でほぼお前の勝ちだよ」

 

別に、米軍全てと喧嘩するわけじゃあない。米軍の基地の1つ、それも親ジーサード派の敷地に入れればそれで勝ちだと言うなら俺とユエとシアがいれば戦力としては十二分なのだ。

 

今からそれを証明してやる(ユエ、シア、見せつけてやれ)

 

『……んっ』

 

『はいですぅ』

 

その念話と共にユエとシアがバイクと共にフワリと空へ浮く。ユエの重力魔法だろう。そして、シアから淡い青色の魔力光が噴き上がり、俺を目掛けて乗っていたバイクを放り投げた。凄まじい勢いでこっちへかっ飛んでくるそれを宝物庫へと仕舞い込み、俺は電磁加速式の対物ライフルを構える。

 

 

───そして戦い(蹂躙)が始まる。

 

 

俺達の後ろからもプレデターが現れた。どうやらLOOを乗せていた親機から放たれたらしい。数は12。だが俺の対物ライフルの弾数は昔と違い6発なんてケチ臭いことは言わない。弾倉(マガジン)の内部を空間魔法で広げてあるから100発程連発できるのだ。拳銃とアサルトライフルも同じ大きさに広げてあり、マシンガンとガトリング砲はさらに大きくどちらも12000発ほど1つの弾倉に弾が込められている。だからこの程度、物の数ではないのだ。

 

それを証明するように俺は未来位置に弾丸を置くようにして12機のプレデターを即座に撃墜。必要ならばユエ達の援護射撃に回れるようにすぐに前を振り向いた。そこでは───

 

 

───蒼炎の龍がいた

 

───轟雷の龍がいた

 

───氷鱗の龍がいた

 

───鎌鼬の龍がいた

 

───灰煙の龍がいた

 

 

ユエの指のタクトに合わせて空を駆け巡る5色の龍がプレデターを喰らい滅ぼさんと蹂躙の限りを尽くしていた。

 

所詮は遠隔操作の無人航空機(UAV)。ユエの魔法のように完全に未知の攻撃にはろくに対応も出来ず、龍の顎門から発生する重力の網に捕らえられ抵抗もまともに許されずに破壊されていく。今の数瞬で消えたプレデターは10。

 

抵抗するように、まだ五天龍に喰われていない奴らはAGM-114(ヘルファイア)らしき空対地ミサイルを放つ。とは言え、今のユエの魔法の技術は文字通り神の領域に達しつつある。ユエは五天龍を生み出したまま絶禍を2つ起こし、そこに40発のミサイルが全て吸収され、爆発すらも重力の渦の中に押し込められた。

 

そして俺達にはまだコイツがいる。淡い薄青色の魔力光が迸るウサミミ美少女ことシア・ハウリア。

 

シアが、そのスニーカーに仕込まれた空力で空を踏み締める。そこから淡い青色の波紋が広がりシアが砲弾のように飛び出した。そして両手で構えた黒く無骨で巨大な戦鎚───ドリュッケンを振り抜く。

 

───ゴガンッッッ!!───

 

という金属同士がぶつかり合う音と共にプレデターが真横へと冗談みたいに吹き飛ぶ。それは他のプレデターをも巻き込み、戦鎚の1振りで3機のプレデターを撃墜。他のプレデターから機銃が放たれるがマズルフラッシュが瞬く数瞬前にはシアはその場を跳び退っており、空振った弾丸が俺達の車の横にビスビスと砂を巻き上げつつ着弾した。

 

今俺の四輪は停車していて、ただ彼女達の蹂躙劇を後ろから見ているだけだ。もっとも、もう既にプレデターの数は1桁に突入しており、そして今、5機のプレデターをユエの五天龍が喰らい潰し、4機がシアのドリュッケンにより叩き潰された。

 

それを見た俺は四輪を再び動かして彼女達の方へ向かう。

 

「おす、派手にやったな」

 

と、運転席に戻り魔力操作で反対側のドアをタクシーよろしく開いた俺に───

 

「……んっ、久々に思いっ切り魔法使えて楽しかった」

 

「機械相手っていうのは、思ったより味気なかったですぅ」

 

と、ユエもシアも当然のように助手席に乗り込み、そしてそれぞれの感想が飛んでくる。

 

「まぁ取り敢えずお疲れさん。あともうちょいで着くみたいだぞ」

 

「……んっ、それより、約束」

 

「帰ったら一緒にお風呂ですぅ。綺麗にしてくださいね?」

 

「はいはい、分かってますよ」

 

リサに投げるのは通じなさそうな雰囲気の2人だが、まぁユエとシアであれば俺も何も文句は無い。喜んでお受けさせてもらいますよ、その約束。武偵憲章2条、依頼人との約束は絶対守れ、だからな。

 

と、俺はユエと、そして差し出されたシアの頭を撫でてやりながら、見えてきたエリア51へと四輪のタイヤを回すのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

あの後、後ろからLOOとプレデターを乗せていたらしいX-48E・グローバルシャトルが特攻してきたが、それはそれで対物ライフルでぶち抜いて沈めておいた。

 

そうして砂漠を渡り、ようやく着いたエリア51では、向こうからジープが沢山やってきては中からアメリカ軍の人達がわらわら降りてきた。それに対してジーサードもガッツポーズで応えている。

 

それに対して向こうからは──USA!!──USA!!──USA!!との大合唱が返ってくる。俺JPNだけど。もしくはNLD(オランダ)

 

それだけでない、迷彩服を着た体格の良い男2人が何やらマッシュルームカットの小男を1人抱えて持ってきたのだ。恐らくこれがマッシュ=ルーズヴェルト。ここから先は俺達には関係の無いことだ。俺はこいつとは何の因縁も無い。あるのはジーサードとその仲間達、どうやらキンジも面識があるようだが、俺はユエとシアと共に数歩下がり、彼らのやり取りをただ眺める。

 

しかしいくら俺が無関係を決め込もうとしても向こうにはそのつもりが無いようで、何やら俺の名前まで聞こえてきた。ジーサードがこちらを見て指先でクイクイと俺を呼ぶので仕方なく俺もそちらへ向かう。

 

「……何だよ」

 

「ボクの計算は完璧だった。聖痕持ちに対する対策だって用意していた」

 

と、呟くようにマッシュが言葉を吐き出す。

 

「そうだな。あれは確かに俺ん聖痕を塞いだ」

 

だが、それだけだ。今の俺の力は聖痕だけじゃない。あれがなくとも俺は既に人の領域から外れた化け物なのだから。

 

「あの戦いは米軍の監視衛星にもしっかり記録されているだろう。例えボクを蹴落としたとしても君はアメリカから狙われるだろうね」

 

「……敵は潰す。それだけだ」

 

あの戦いで俺達は誰も全力を出しちゃいない。そしてあれが俺達の全力……とまでは言わなくとも、自分らの兵力を過信した結果、俺達がそれなりに真面目にやった成果だと思い喧嘩を売るならきっとアメリカは後悔する……いや、させてやるさ。

 

短く終わった俺の返事に、マッシュはフンと目を逸らす。俺も、もう言うことはないと再びユエ達の元へ戻る。

 

 

 

───────────────

 

 

 

あの後アイツらがどんな会話をしたのか、俺は敢えて耳に入れないようにしていたから知らない。ただ確かなのは、マッシュが俺達を色金の元へと案内する気になったということだけだ。

 

そして、何やら厳重に厳重を重ねたようなやたらと厳格に閉じられた扉の向こうに、それはあった。

 

──T型フォード──

 

100年くらい前にフォード・モーター社が発売した世界初の量産車で、販売台数は1500万台越え。特に珍しくとなんともない大衆車。それが約20台、綺麗に並べられていて、他には何も無かった。だが俺の持つ羅針盤──マッシュが嘘を付いてもすぐに分かるようにこっそり使っていた──が伝える。これが、この並べられたただの車達が全て瑠瑠色金だと。ここにあるこれらこそが俺達が探していたお宝であると。

 

「……瑠瑠色金はどこだ?……ここに、大質量の瑠瑠色金がある筈なのに……」

 

「やられたぜマッシュ。……お前も担がれてたんだ。……瑠瑠色金は……誰かがどっかに逃がしてやがったんだ……チクショウ……」

 

だが、羅針盤の針の行先を知らないマッシュとジーサードは奥歯を噛み締めていた。しかし超能力者であるロカとツクモは直ぐに分かったようだ。これが、T型フォードの塗装の下は全て色金であるということが。

 

「2人の言うことは本当だぜ。……これは全部色金だ。総質量は……お前らで計算しろ。だがまぁトン単位であるのは間違いないな」

 

俺がそう言うとキンジはハッと気付いた。欧州で見せた俺の羅針盤。解放者から受け継いだそれの効果をキンジは知っているからな。

 

そしてその直後、いきなりレキがキンジにキスをした。それも深いやつを。レキとキンジが舌と舌を絡め合う。あまりに脈絡の無いそれに俺もボケっとその情事を眺めてしまう。そして、レキとキンジの唇が離れ、その間の空間に銀糸の橋が架かる。それがプツリと切れると───

 

「ルル、そこにいるのですね」

 

日本語で話し出したのはレキ……ではない。義眼に付与された魂魄魔法の見せるその魂は今やレキのそれではない。きっとそれは色金の魂───

 

「───リリ」

 

その声に導かれるように現れた蒼い光。淡く、蒼い、光が空中を漂い人の形を作る。手を組み現れたそいつは人間の女の姿を象った。そして組んでいた手を解き、レキ(リリ)と指先を触れ合わせ、数秒の静寂の後───

 

「……お許しください」

 

声を発した。日本語で。

 

「貴方方の愛するこの姿をお借りしたことを。貴方方はとても好戦的な命なので……貴方方の脳にあったこの姿をお借りしました……。私たちには定まった姿がありませんので……」

 

「……ルル、私は、この璃巫女の感覚を借りて物語のあらましを見てきました。……もう()()ましょう。人間たちの命と心のために止めなければなりません。ヒヒを……」

 

「……私は、争う時を、殺める時を、止める時を恐れていました。たった3つしかない私たちが、また孤独に1歩近付く時を。ですが、もうリリの言う通りなのでしょう……」

 

2人の(意志)が、何やら決意を固めたかのような雰囲気で語り出していた。

 

「……どうか、止めてください。ヒヒを……ヒヒイロカネを、私たちの姉を───」

 

 

 

───────────────

 

 

 

ルルとか呼ばれていた色金から語られたのは、自分達がどういう存在でこれまで何をしてきてこれから何を望むのかと、そういう話だった。まぁ、自分らは意識を持つ金属で人とは関わりたくないけど自分達の姉であるヒヒロイカネが人の恋心とか闘争心みたいなのに魅せられて人間に強く干渉するようになったから止めたいということ、それと自分らがヒヒロイカネに近寄れば"殺す"ことができるということ。あとこれはオマケみたいな情報だったが、どうやらジーサードは誰か特定の人物を生き返らせたくて色金を欲しがったらしい。まぁ、それも無理って断られてたけど。

 

そして、ヒヒロイカネを殺す依頼を俺とキンジに頼んできた。キンジであればヒヒロイカネに近寄ること、俺であれば力ずくで殺せる力を持っていそう、という理由でだ。だが俺達はどちらもそれを断る。キンジも俺も、家族殺しの片棒なんて担ぎたくないんだよ。

 

で、キンジには何やら作戦があるのか無いのかよく分からんがとにかくヒヒロイカネは逮捕するとか言い出したのでもうこの件はある程度は任せようと思う。

 

そして、ルルもそれを受けてまた後で相談しますとか言い出したので俺達はここにある大質量の瑠瑠色金(フォード)を持ち帰ることになった。

 

「で、どうすんだ?これ全部持って帰るか?」

 

俺がジーサードとキンジに問い掛ける。ジーサードであればたかだか20台の普通車を保管するだけなら問題は無い。持ち運びも、俺が宝物庫を使えば解決だ。だから俺はここにある20台の車全部持って帰るのかと聞いてみる。

 

「……持って帰れるのか?」

 

ジーサードも一応俺が四輪と二輪を出し入れしているところを見ているから端から否定したりはしていない。

 

「あぁ、問題無い。お前なら車の20台やそこらなら保管にも困らねぇだろ?」

 

「本当クレイジーな野郎だぜ。……2,3台あれば研究含めて充分だろ」

 

と、ジーサードが言うので俺は適当に手前から3台を宝物庫に仕舞う。いつの間にやらルルちゃんはどっかに消えており、レキに乗り移っていたリリちゃんも雲散霧消して今はただのボケっとしているレキに戻っていた。

 

で、米軍を実質クビになったマッシュがジーサードの仲間内に加わったり米軍が機密扱いで俺達をヘリに乗せて送り出してくれ、キンジがイギリスへ行くつもりであると話し、その目的がアリアの妹のメヌエットであるということを俺達に伝えて、翌日。

 

ジーサードビルに戻ったジーサードは、部下達に休暇を与えた。んで、その日の夜、ジーサードから俺はとある相談を受けた。

 

曰く、キンジはイギリス当局から危険武偵リストのB上位等級(ビープラスランク)に格付けされており、入国が難しいらしい。

 

で、まだイギリスからは()()()マークされていない俺がキンジの密入国を手伝ってやれないかということだった。具体的には俺の宝物庫の中にキンジを突っ込んでそのまま俺は普通にイギリスへ入り、ホテルの部屋とか人目に付かない所ででキンジを放出するという作戦だ。

 

「……いや、人はまだ入れたことないからなぁ。中がどうなってるのかは俺もよく分からねぇんだよな」

 

自分で作っておいて情けない話なのだが、空間魔法で鉱石の内部にどデカい空間を作って魔力操作で物を出し入れしているシステムの宝物庫、その中が実際どんな感じなのかは俺もよく知らない。明るいのか暗いのかもだし、何よりこの中にはトータスの可燃性タールとかも入っているから人が入って大丈夫なのかはよく分からない。基本的に取り出した物がタール塗れ、なんてことは起きたことがないからそれは大丈夫なんだろうけど……。

 

ていうかジーサードに言ったら「それあればもっと楽に色金取れただろ」と言われそうなので言わないでおくが、それこそ俺か誰かがイギリスで寝床を確保して、そこに越境鍵でキンジを取り寄せた方が早いし確実なのだ。なので───

 

「具体的なやり方は企業秘密で明かせないけど、 取り敢えずキンジを不法入国させる手段はある」

 

と伝える。そして当然これは当初の契約の範囲外なのでジーサードからはまた正式な依頼ということでキンジがイギリスにいる間に泊まる宿泊施設等の必要経費と武偵としての俺の使用料が支払われることになった。

 

まぁ、今回の戦闘行為と違って秒で終わる仕事なので俺を使う部分の依頼料より必要経費の方が高そうだけど。

 

そんなわけで俺はワトソンに連絡を取り、キンジがメヌエットに会えるように取り計らう手続きと、あとキンジがイギリスで泊まる部屋の確保を頼む。面倒だし部屋のグレードはそう高くなくていいか。ただこれは念の為、俺も泊まれるようにダブルの部屋にしてもらう。

 

もしキンジがイギリス当局から追われて、寝床がバレた場合、そこに俺がいればどうにかなるし、手早くどっかにキンジだけ越境鍵で逃がしてそこにリサか誰かを呼んでおけば、ワトソンが連れて来て部屋を取ってやったのは日本で交流のある俺とリサ、ということになりワトソンが上から怒られる可能性も少しは減らせる、という理屈だ。

 

で、俺は早速用意されたホテルにキンジを放り込んだ。キンジもヨーロッパでの生活は初めてじゃないし、多少はワトソンも力を貸してくれるだろうから取り敢えずは放っておいても大丈夫だろう。俺も、一旦日本に帰って色々やらなきゃいけないことがあるんでな。

 

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