セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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World:Infinite Stratos
ここはどこ?私は武偵


 

闇の中をただひたすらに落ちていく。それがどれだけ続いたのだろうか。長かった気もするし案外直ぐに終わりを迎えた気もする。

 

だがとにかく、今確かなことは俺の腕の中にリサがいることと、そして俺達がいるのは砂の舞うコロシアムのような場所だということだけだ。

空を見上げれば夜だ。だがここはそれなりに都会なのか、空に星は数える程しか見えない。まるで東京だ。それに、俺達がいた世界での季節はまだ早くても秋と言った感じだがここはやけに寒い。すぐに暖まらないと凍えて死ぬほどではないけれど、だからってセーラー服とブレザーでこのまま1日居れば風邪を引きそうなくらいには寒い。これもまるで東京の冬のようだった。

リサと2人、周りを見渡せば砂の地面と、それを囲うように観客席が置かれている。しかし妙なことに、ゴールやバーも無ければマウンドのようなものもなく、ただの砂地なのだ。スポーツをやる雰囲気ではない。そして、これが1番気になるのだが、何やら俺達の頭上5,6メートル程のところにこれまた長さで言えば10メートル程だろうか、何かの滑走路なのか分からないが板のようなものが張り出していた。それがこの円形のスタジアムのような空間の端に2箇所。しかしここからラジコンなんかを飛ばしとして、自分の足元の滑走路みたいな部分の裏に機体が入ったらかなりやり辛いのではなかろうか。いや、そもそもラジコンで何か競うにしてはここは大きすぎないか?半径にしたら200メートルはありそうだぞ。

 

「……ご主人様」

 

ギュッとリサが俺の腕を取る。不安なのだろう。それが痛いほど伝わってくる。だから俺は少しでもリサが安心できるようにその腰を抱く。

 

「大丈夫だ。リサは俺が絶対に守る。武偵校にも帰る。絶対にだ」

 

「はい。リサはご主人様を信じています」

 

取り敢えずここがどこなのか、調べる必要がある。恐らくは俺達がいた世界とは別の世界なのだろうが。だが、ここがこの世界でどんな立ち位置の建物なのか、この空間は何の目的で建てられたのか、それを知ればもしかしたら帰る方法が見つかるかもしれない。

 

 

──異世界──

 

 

聖痕を持つ俺はその存在を何となく把握していた。もっとも、どんな世界があってどうやって行けるのか、そんなことまでは分からなかったけれど。だが多分あの戦いの折に現れた虚空は聖痕に依るものだろう。きっと異世界への扉を開く聖痕があるのだ。そして、それをあの大鎌の男かはたまたまだ見ぬ伏兵か、誰かが使って、俺達を落としたのだ。

だから急に見知らぬ場所へ飛ばされても大きな混乱は無い。それは結構大きい。人間慌ててると注意力が落ちるからな。よく知らない場所で、誰が敵で誰が味方なのか、それどころか文化も何も分からない場所でそれは危険だ。

 

「あの上、行ってみるか」

 

「そうですね。あそこからどこかへ繋がっているかもしれません」

 

リサの同意に俺は1つ頷くと、リサを抱き抱えたまま強化の聖痕を開く。うん、ちゃんとこれは開くな。

グッと脚に力を込め、それを爆発させる。

一瞬、空いていそうなコロシアムの外から見て回ろうとも考えたが、よくよく空を見ればこのコロシアムを覆うように何かが揺らめいていたのだ。結界か何かの類だろうから、破れば外に出られるかもしれないが、それで余計な騒ぎを起こす段階でもないだろうと踏んだのだ。

 

そして、ダンッ!とリサを抱えながら飛び上がった俺はそのまま角度のある放物線を描いてその出張った板に着地する。

降り立った感触はほぼ鉄板と変わらない。そしてその板、と言うよりこれはもう滑走路か空母のカタパルトに近い。そしてやはり、ここから別の空間へと繋がっているようだった。

 

「……さてリサ。まずはお互い武装の確認かな」

 

俺はリサを床に降ろすとまずは持ち物の確認からすることにした。さっきの砂地と違ってここなら汚れなさそうだったからな。

 

「そうですね。リサはデリンジャーと折り畳みのナイフ、それからラツィオと武偵手帳くらいでしょうか」

 

「うん、俺もSIGが2挺と予備弾倉(マガジン)が4つ、それと雪月花だな」

 

ラツィオと武偵手帳は共通して持っているものだった。武装は校則で義務付けられていたから最低限はあるが……うーん、ルガーを補充出来れば良いんだけどな……。このままじゃ圧倒的に弾丸が足りないな。取り敢えず弾丸は温存で、本当なら雪月花もあまり見せたくはないのだけれど、こちらを躊躇してリサを危ない目に遭わせる方が下策である。躊躇うことはないな。

 

「で、ここはなんだ?カタパルトと……控え室みたいな雰囲気があるな」

 

「この床は、科学技術でしょうか……?」

 

「……ちょっと試すか」

 

俺は銀の腕を顕現、指先程度の白焔を床に落としてみる。だが落ちた白焔は何に反応するでもなく直ぐにその灯火を消してしまった。どうやらこれは何か超常的な力で作られたものではなく、ただの物質のようだった。

 

「……向こうにあるのは、扉か?」

 

この空間の奥には左右に開閉しそうな扉があった。俺達がゆっくりそれに近付くと───

 

──シュイン──

 

と、音を立てて扉が左右に開いた。

そして、暗がりに慣れてきた俺の目に映るのは何やら背の高いロッカー達だ。ここで高校の1クラス程の人間が一斉に着替えられてなお余裕のありそうなロッカーの数と部屋の広さ。この施設の規模はかなりものがありそうだぞ。

 

その部屋を奥へと歩いていくと、また扉が見えてきた。そのまま目の前に立てば、やはりシュインと音を立ててそれは開く。その奥にはやはり、夜の闇が広がっていた。

 

「……リサ、寒くないか?」

 

気温は2桁は無いだろう。長袖ロングスカートとは言え長時間はリサには堪えるかもしれない。

 

「正直に言えば、少し寒いです……」

 

「うん、これ着てろ。無いよりはマシだろ」

 

俺は着ていたブレザーをリサに掛けてやる。リサは素直にそれの袖に腕を通し、少し余った袖口から指を出してホウッとその白魚のような指先に息を吹き掛けた。

 

「暖かい……。ご主人様の温もりです……」

 

「あぁ……」

 

「ありがとうございます、ご主人様……」

 

「ん……」

 

俺の防弾ブレザーを羽織ったリサと共に廊下と思われる空間を歩き出す。

警戒しながらなのでペース的にはゆっくりだったからか、10分ほど歩いたところでようやく広い空間に出た。

 

「……あれ、下駄箱か?」

 

「そのように見えますね」

 

俺達の左手に見えたのは武偵校にもあったような、普通の下駄箱のような背の高い棚だった。

 

「っ!?」

 

その時、俺達の進行方向の先から光が現れた。あれは、懐中電灯の灯りのようだ。そして、コツ、コツ……と足音も聞こえてくる。この音はヒールで歩く時の音だ。向こうにいるのは女か……?

 

リサが1本下がり、俺は背中の雪月花に手を掛ける。そして、俺の目に映る影はその形を大きくする。向こうもこちらの影に気付いたみたいだ。

 

「……そこにいるのは誰だ?」

 

その声はやや低いが明らかに女の声だ。しかも、日本語を喋っている。歳も若い。だが声に込められた気迫は武偵校の先生達にも引けを取らない程だった。

 

懐中電灯の光が近付き、俺の足元から顔を下からゆっくりと照らしていく。

俺はその人工の光から目を少し逸らす。

そして、その光は今度はリサを照らした。

 

「……誰だお前達」

 

明らかに人工的な建物だったから理子のRPGゲームに出てくるようなモンスターが急に出現するとは考えていなかったが、まさか日本語がバリバリに通じるとは思わなんだ。だがこれはラッキーだぞ。言葉が通じるならこの世界のことも知りやすい。いきなり別の世界から来ました、なんて言って信じてくれるとも思えないから、たまたま迷いんだと言うのが正解だろうか。

 

「いやぁ、たまには違う道を散歩しようと思ったら迷い込んじゃいまして……」

 

「見え透いた嘘をつくな。ここはこの学園以外に施設の無い離島。散歩で迷い込めるはずがない」

 

……マジか、学園島みたいなもんだったのか。これは分が悪いな……。1回嘘を付いたもんだから次からの俺の言葉には完全に信用が無くなった。ここから本当のことを話してもこの世界の人間にとっちゃ今の嘘よりもさらに突拍子もないことの筈だ。どうする……、銀の腕でも見せればある程度は信じてもらえるか……?

 

「……こことは別の世界から来たって言ったら、信じてくれます?」

 

「お前は冗談が下手なようだ。ユーモアのある人間が偉いとは思わないが……下手なら下手なりに言葉を選べ」

 

さらにその女はこちらへ近付いてくる。そしてその姿はより鮮明に俺の目に映る。女にしては背が高い。ヒールを抜いてジャンヌと同じかもう少し高いだろうか。切れ長の目をした美人だ。肩まである黒髪で、顔の作りは日本人に見える。そして、俺達に1歩近付く毎に、分かりやすく殺気を漲らせていく。俺も腰を落とし、迎え撃つ体勢をとる。拳を構えた俺に、その女はやや意外そうな顔をした。

 

「……貴様、まさか私の顔を知らんわけではあるまい」

 

知るかよ、お前の顔なんて。こちとらこの世界に来てまだ30分も経ったかどうかだそ。俺からしたら第1異世界人発見なんだよ。

 

「……知らないね」

 

「なるほど、私も少々思い上がりがあったということか。……礼を言おう。この驕りのためにいつか恥をかくところだった」

 

何だか知らないがこの女はこの世界じゃ結構な有名人らしい。それも、構えや歩き方からしてかなりデキる奴だ。……いきなり面倒な奴とぶつかったもんだぜ。

リサが更に数歩下がったのを確認し、俺も1歩踏み出した。しかしその瞬間、目の前の女が一気に踏み込んで来た。

2歩で拳の殺傷圏内に入るとそのまま俺の顎へフックを見舞う。それを1歩下がることで躱し、こちらからも1歩踏み込んで奴の腕の上から肘を振るう。当然それは防がれるが俺はそのままもう1歩踏み込んで、逆の腕でフックのお返しをする───と見せかけてそのまま奴の足の甲を踏み抜きにかかる。

 

だがそれは読まれていたようで1歩足を引いてそれを避けた。だがその踏み込んだ足を起点にして俺はもう片方の脚を振り上げる。

俺は普段から柔軟や関節の可動域を広げるトレーニングは入念に行っている。俺の蹴りはほぼ密着した状態からでも相手の頭を蹴り抜けるんだぜ?

 

急角度で襲いかかる蹴り足をしかしそいつは腕を上げてガード。だがその衝撃で数歩下がった奴の空いた胴体に同じ足で蹴りを叩き込む。

腹に蹴りを叩き込まれたそいつと5メートル程の距離が空く。だが───

 

「……どうした」

 

俺はそこで攻める手を止めていた。別に、戦いに来たわけじゃない。散歩ってのは確かに嘘だが、迷い込んだのは本当のことだ。俺だってここにいたくているわけじゃあない。むしろ会話ができるならこの世界の情報を教えてほしいくらいだからな。

 

「……確かに散歩ってのは嘘です。けど、別の世界から来たってのは本当のことです。……証拠はまぁ、これで」

 

俺は銀の腕を発現させる。銀色に代わった俺の腕からは白い焔が吹き出し、背中からはパイプのようなスラスターが陽炎を生み出している。それを見た女の目は大きく見開かれる。

 

「……あながち嘘って訳でもないようだな。……良いだろう、事情聴取くらいはしてやる」

 

「そりゃどうも」

 

付いてこいと、黒いスーツに付いた埃を手で払った女が俺達に背を向けて歩き出す。だがその背中から発せられる強い殺気は、俺が何か不審な動きをすれば即座に戦闘行動に移ると無言の圧力を掛けてきていた。

 

「……ご主人様」

 

「大丈夫だ、行こうリサ」

 

「はい。リサはどこまでも付いて行きます」

 

「……何をしている。力ずくで引っ張られたいのか?」

 

「今行きまーす」

 

この邂逅が俺と、この世界に住む人間との、第一印象最悪の出会いだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

「改めて、私の名前は織斑千冬。このIS学園で教鞭を取っている」

 

織斑千冬、それがこの女の名前らしい。

俺達が連れてこられたのは本当に学校の教室だった。部屋のドアの上に1-Aと書いてあったからな。そして明るいところでキチンと見ればこの女、どうにも服の上からでも分かるくらいには鍛え上げられた肉体をしているみたいだ。だがさっきやり合った感覚ではまだ蘭豹の方が強い。あれが本気だったかどうかまでは分からんけどな。

 

ちなみにリサはさっき隣の教室へと連れていかれた。そっちの担当はポヤンとした雰囲気の背の低い、眼鏡をかけた女だった。まぁあれならリサに酷いことはしないだろう。

 

「……神代天人。なぁ、まず1つ聞きたいんだが」

 

「良いだろう。だがお前らは見る限り学生のようだ。教師に対する言葉遣いは教わらなかったのか?」

 

この野郎……。だが、俺達の格好を見ても"武偵"という言葉が出てこない辺り、本当に別の世界に来てしまったんだなぁ。

 

「……聞きたいことがあります」

 

「なんだ?」

 

……満足気な顔しやがって。

 

「貴女は武偵をご存じですか?武器の武に探偵の偵で武偵。正確には武装探偵」

 

「武偵……?いや、初耳だが。なるほど、その拳銃はお飾りではないようだな。提出───いや、無意味か」

 

なるほど、さっきの腕を見て腕力勝負じゃ敵わないと即気付いたわけだ。どうやらアホじゃあないらしい。

 

「助かります。俺はこれを向ける気は無いし、ならここはお互い信用し合いましょう」

 

「それで神代、お前はどうやってこのIS学園に侵入した?ここは孤島で、往き来するためのモノレールはあるが、入る際のセキュリティはそこいらの軍事施設をも凌ぐ。下手な嘘は通用しない」

 

さっきの散歩みたいな言い訳は無理ってわけか。しかしたかが学校にしてはやたらと厳重だ。VIPのご子息様達御用達のお嬢様学校って次元じゃねぇぞ。

 

「俺達は別の世界から来たって言いましたよね?俺達は元の世界で戦闘中だったんです。その時、これは推測ですが、目の前にいた敵とは別に潜んでいた伏兵が、別の世界の扉を開く力を持っていて、俺達はそこに落とされたんだと思っています。で、気付いたらコロシアムみたいな所にいて、取り敢えずどこだか探っていたら……っていう」

 

「……あの銀色の腕を見せられたらあながち嘘とも言い切れない。それに、ここのセキュリティを完全に無視して中に入ろうとすればそれくらい突拍子もない方法しかないか……」

 

何やら顎に手を当ててブツブツと独り言を漏らしながら考え込んでいる織斑千冬。俺はさっきから強化の聖痕で聴力を強化して隣の部屋の様子を探っているのだが、どうやらリサは聞かれたことに淡々と答えているらしい。しかし、リサ自身の普通さとその内容のぶっ飛び具合から中々信じられてはいないようだ。

すると、どちらかが席を立つ音がした。こちらに向かってくる足音は聞き慣れない音だった。リサではない。恐らく聴取を行っていた女の方だろう。

そして俺の予想は違わず、教室の横開きのドアを開けて入ってきたのは背の低い女だった。

 

「織斑先生、あの……」

 

そこでその人は織斑千冬の耳に口を寄せ、そしてその口元を手で隠しながら、しかしこちらをチラチラ見ているので聴力を強化しなくとも話の内容に察しは付きそうだ。

そして、強化して聞き取った内容は、やはり俺の予想と同じものだった。

つまり、リサが何言っているのか分からない、嘘っぽくて信用できない、というようなことだったわけだ。

 

そしてそれを聞いた織斑千冬は1つ頷くと、こちらも口元を隠しながら小声で返答していた。こちらもやはり、俺から聞いた内容と同じであること、裏付けになるものを見せられているから嘘とは言い切れないという内容だった。

 

それを聞いた眼鏡をかけた背の低いそいつはまた頷くと部屋を出ていった。

それを見て織斑千冬はまたこちらへ向かい合う。

 

「……向こうも同じようなことを言っていたそうだ。口裏を合わせるにしては突拍子もない内容だ。なるほど、一応信じてやろう。だが聞きたい。……武偵とは一体なんだ?それとさっきの銀色の腕、あれについても話してもらおうか」

 

「いいっすけど、それに答えたらこっちの聞きたいことも答えてくれますかね」

 

「いいだろう。約束する」

 

「どうも。それじゃあまずは武偵のことからですかね。まぁ、武偵っていうのは───」

 

 

 

───────────────

 

 

 

IS、正式名称ではインフィニット・ストラトス。

身に纏って扱うパワードスーツで、宇宙開発を主目的に作られた筈の機動兵器。製作者は篠ノ之束。今も存命。

兵器としての性能は折り紙付き。シールドエネルギーとかいうもので守られており、既存の兵器の攻撃がほぼ通用せず、その機動力は戦闘機以上。火力も当然それ以上。コイツの発明は世界の軍事を一変させた。

だがそれはそれとしてそんなISにも大きな欠点がいくつか。

1つは女性にしか扱えないこと。どうやら男にはこの兵器は反応しないらしい。理由は不明。だがそれでも世の中の潮流は男尊女卑から女尊男卑へと反転した。世界最強の兵器ISを扱える女性は優遇されるべき、ということらしい。別に女だからって全員が扱える訳でもないのにな。

2つ目に絶対数が少ないこと。ISにはコアなる物があるらしいがそれを作れるのは篠ノ之束だけ。今だその全貌はまともに分からず完全なブラックボックスと化している。しかも本人はこれ以上ISのコアを生産する気が無いのだとか。その上絶賛逃亡中で行方知れず。当然世界中が探しているが手掛かり無し。凄まじい逃走力。

 

っていう話を俺はISの実物を見せてもらいながら聞いていた。実物、そう、ここIS学園はそんなご立派な機動兵器ことインフィニット・ストラトスの操縦を学ぶための専門学校なのだとか。当然生徒は女子のみ。そしてここには訓練用の汎用ISが何機か置いてあるんだとか。お前はどうせ使えないから見せても問題ない、ということらしい。どうやらそれなりに信用もされているらしい。確かに、別の世界から来た俺はこれを盗んでも売り捌くこともできないだろうからな。

俺はその辺の話を聞いて、へぇと思いながら何の気なしに近くにあったIS──打鉄と言うらしい──に触れた。すると───

 

 

───カッ!!

 

 

と視界が光に包まれる。その上何やら情報が頭の中に潜り込んでくる。これはそう……このISの情報だ。そして俺はただ感覚的に理解した。これがどういうもので、どうやって扱うのか。理解させられたのだ。

 

「……あ?」

 

そして光が晴れると俺の目線は2メートルほど高くなっていた。急に身長が伸びた訳じゃあない。単にISの脚部が人間のそれよりも長いこと、そして少し宙に浮いているからそういう目線になっているのだ。

ていうかこれ、俺IS使えてるよね。男には使えないんじゃないの?そう思った俺は思わず自分の股間に意識を向けてしまった。

……大丈夫、ちゃんとあるぞ。指先で啄けばちゃんと感触が返ってきた。

ISを起動して1番最初にやることが自分の股間のチェックだったのが衝撃だったのか、織斑千冬はこめかみを押さえてしまっている。いやでもさ、女にしか動かせないって言われてたら、ねぇ?一応確認しとくでしょ。ちゃんと自分が生物的に男なのかどうかはさ。

 

しかし変化はそれだけでは終わらなかった。

カードキーや指紋認証等で厳重に管理されていた筈の扉が急に開くと、そこからドドドドドッ!と足音を響かせて頭にウサミミ付けた変な女が飛び込んできた。

 

「ちーーーぃちゃぁぁぁぁん!!」

 

ちーちゃん、千冬でちーちゃん、かな。

童話、不思議の国のアリスに出てきそうなファンシーな服を着た怪異・ウサミミ絶叫女はそのまま織斑千冬に飛び掛り───

 

「喧しいぞ束」

 

織斑千冬にアイアンクローで捕縛されていた。

 

メキョメキョと、人の頭蓋から鳴ってはいけない音を響かせつつも、それを振り払ったウサミミは地面に降り立つ。

 

「やぁやぁ久し振りでも相変わらず容赦の無いアイアンクローだねちーちゃん。そんな所も大好きだぜ」

 

取り敢えず頭蓋は変形していなさそうだった。背の低い眼鏡の女──山田真耶というらしい。これでも教師なんだとか──はギョッとしているが俺とリサ的にはこの程度は日常茶飯事だったために驚きはない。というか、異世界に来て数時間で既に懐かしいノリと出逢っている。類友、ではないことを願いたいものだ。

 

「……で、何しに来た、束」

 

束……篠ノ之束……か?思っていたより若い。というか、織斑千冬とほぼ変わらんだろコイツ。20代半ば、後半と言うにはやや若く思える織斑千冬と同じくらいなのだから、こちらも20代半ばと言ったところか。

 

「ちーちゃんの傍でとんでもない()()()が観測されたからね。急いで飛んできたんだよ」

 

それは恐らく俺達が世界を越えた時のものだろう。てか飛んできたって、世界中のお尋ね者、案外近くにいたんだな。

 

「……で、お前何だ?」

 

急に、さっきまでの朗らかと言えば聞こえは良い、悪く言えばガキっぽい雰囲気の篠ノ之束の雰囲気が急変。理子の本気モードみたいな冷たさだ。

 

「神代天人」

 

「名前なんて聞いていない。お前はどういう生物でどういう存在かって聞いている」

 

「……こことは別の世界から来たって言えば信じてくれるのか?」

 

「男が私のISを動かしている。信じるには充分な理由だね」

 

「あっそ。話が早くて助かるよ。他には何が聞きたい?特技?趣味?それとも前職?ちなみに俺が今1番聞きたいのは()()の脱ぎ方」

 

右腕をひょいと上げてアピール。

IS、触れたら勝手に装着されるしどうやって脱いだら良いのか分からんし。面倒極まりないな。そもそも、ISに1番肝心肝要なコアがブラックボックスでコイツにしか作れないって時点で兵器としては二流もいいとこだろうに。そんなに強いんかね、これ。

 

「……あぁそうだな。まずは───」

 

 

 

───────────────

 

 

 

"どうせ行くとこ無いでしょ?束さんの所においでよ、いや来い"

 

そんな反語あったっけ?なんて疑問符はどこかへ投げ捨てられ、俺とリサは篠ノ之束──やっぱりそうだった──のアジトへと着いていくことになった。

篠ノ之束的にはリサには興味無いらしいのだが、俺を連れて行くなら当然セットだと告げればまぁ仕方なしに同行が許された。

それから2ヶ月が経過していた。元の世界に帰る手段はまだ、目処も立っていなかった。

 

 

そして今は4月、やはり俺達が飛ばされたのは冬だったみたいだ。時間がズレているというか、多分この世界で暦が始まったタイミングからして俺達の世界とは違うのだろう。ほとんど同じ歴史を歩んできたらしいのは調べたが、所々違う部分もあったし。

ま、ここまで違う発展の仕方をしているのだからさもありなんって感じだけど。

 

そして俺は今、未曾有の危機に襲われていた。即ち───

 

 

──視線がキツい──

 

 

俺と、俺の前に座っている少年こと織斑一夏。あの織斑千冬の弟らしいのだが、今()()()()()()()全て俺達2人に注がれていると言っても良いだろう。唯一リサの視線だけは優しいが、他の視線はそのほぼ全てが好奇のそれである。武偵校じゃあってもやっかみの視線くらいだったからこういうのは慣れていないんだよな……。

 

ISは女にしか扱えないからIS学園は実質女子校。聞いてはいたが本当に女子ばっかだな。どうやら教員も全て女性らしい。キンジだったら秒で気が狂っているだろうな。

俺も、イ・ウーは結構な女所帯だったから男女比率の偏りくらいなら気にするまでもないけれど、こういうのはなぁ……という感じだ。見る限り前に座っている織斑一夏もそんな雰囲気を漂わせている。さっきチラッと顔を見たが、キンジとはまた違った、爽やか風イケメンという顔をしていた。だがそんなコイツでもこの空気は中々に耐え難いらしい。その織斑一夏がチラリと横を見る。その視線の先には篠ノ之箒──篠ノ之束の妹らしい。織斑一家とは昔からの仲なんだとか──がいたが、残念なことに救援のサインは弾き返されたようだ。

 

「「はぁ……」」

 

前後で溜息が揃ったところで───

 

「ではSHRを始めます。全員席に……着いてますね〜」

 

と、教室の前のドアを開けて入ってきたのは山田真耶。どうやら俺達の担任のようだった。

 

「えと、それではまずは自己紹介からですね。私の名前は山田真耶。このクラスの副担任を任されています。……担任の先生は用事があって遅れて来ます」

 

存外ハキハキした様子でさっぱりと挨拶を終える山田先生。しかし担任ではなかった。

 

「それでは……えぇと、じゃあ出席番号順に皆さんの自己紹介をお願いします。まずは1番の───」

 

 

 

 

「───くん、織斑くん。織斑一夏くん!」

 

「は、はい!!」

 

ガタリと、多分ろくに他の奴らの自己紹介を聞いていなかったのであろう織斑一夏が勢いよく立ち上がる。その様子にクスクスと、周りの女子から笑い声が聞こえてくる。

織斑一夏は何だか居心地悪そうにしているが、急に大きい声を出された山田先生もビックリしている。が、それはそれとして自己紹介を促された織斑一夏は名前と、それから宜しくお願いします程度の軽い挨拶をした。しかし───

 

「……それだけ、ですか?」

 

「え、はい」

 

どうやらコイツは自己紹介が苦手なようだった。まぁ俺も、いきなり趣味とか聞かれても困るかもな。あ、特技サッカーですって言えばいいか。イ・ウーで友達がボールしかいなかった時代もあったし。

しかし織斑一夏のその答えにガッカリだったのか、周りの女子生徒は雛壇芸人よろしく座席からずり落ちている。……どんだけ期待してたんだ。

 

「……お前は自己紹介もまともに出来んのか馬鹿者め」

 

「げぇ!関羽!?」

 

「誰が三国志の英雄か馬鹿者!」

 

スパァン!と織斑一夏の頭が叩かれた。そして凄まじく良い音が鳴り響いた。原因は織斑千冬。弟の様子でも見に来たのだろうか。

 

「諸君!私がこのクラスの担任の織斑千冬だ!私の仕事はお前らを1年で使い物になるようにすることだ!私の言うことには絶対に従え!返事ははいかイエスのみだ!いいな!」

 

お、このノリ懐かしいな。強襲科じゃ大概こんな感じだ。だが俺は忘れていた。コイツは俺との初対面で自分が有名人だと思っていたことを。そしてそれが通じなかったのは俺がこの世界の人間ではなかったからだということを……。

 

つまり───

 

 

 

───きゃああああああああ!!

 

 

 

織斑千冬は本来超有名人であり、こういう反応が有り得るのだ。確かに、これだけの黄色い声援を浴びせられるような奴なら、自分が有名人だと認識するのも致し方ないだろう。

というか、前に調べたら第1回目のISの世界選手権で優勝したのがこの織斑千冬らしい。

ISは宇宙開発という本来の用途を外れて軍事転用されているのだが、その悪いイメージを払拭して発展の為に予算を当てたいがためにそういう大会が開かれているっぽいのだ。ま、アドシアードみたいなものだろう。規模は段違いだけど。

 

「毎度毎度、この学園には馬鹿しかいないのか?それともわざと私のクラスに馬鹿を集めているのか?」

 

その台詞は武偵校じゃなきゃだいぶ不味い台詞だと思うが、どうやらここIS学園はそこいらの学校の常識なんて通用しないらしい。

 

IS学園の()()()にとって、織斑千冬とはアイドルか超有名スポーツ選手のようなものなのだろう。

 

そう、新入生だ。俺は今、齢17にして2度目の高校1年生を開始しようとしている。

なぜか、簡単だ。ISを動かし、篠ノ之束に目を付けられた時点で俺のIS学園入学はほぼ決定事項。元の世界に帰る手段を探すにしてもこういう後ろ盾はあった方が便利だろうと俺も同意。リサ共々ここに入学を決めたのだ。だが、織斑千冬に学校の勉強の程度を聞いたところ、リサはともかく俺は確実に付いていけないことが判明。どうせISに関しての知識もほぼ無いのだし、年齢も1つしか変わらんし勉強面ではそれでも遅れているしで1年からやれとなったのだ。あともう1人の男性操縦者である織斑一夏とも仲良くしろとのことだ。まぁお互い、男がもう1人くらいいた方が気が楽だからこれは助かったのだが。

 

 

そして、コントのようなやり取りで織斑千冬と織斑一夏が姉弟だと判明したりと賑やかを通り越して五月蝿すぎるSHRは終わりを迎えた。

 

なお俺から後ろの自己紹介は終わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

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