死ぬような体験と引き換えに得た敵地があるという地点に斥候を送るとそこにはもう一つのローマがあった。あの女神が言ったことは正しかった。これで誤情報だったらもう一回あの島に行って今度こそゲイボルクをぶち込むところだった。
俺はまたマスターと別行動をとってローマ兵士たちとともに敵の本拠地から少し離れたところで陣地を構えていた。カリスマスキルはないものの生前に兵士たちを率いていたためある程度指揮を執ってこの地の防衛を任されていたのだが、敵の指揮官が変わったのか少しずつだが戦況が変化している。
「皇帝陛下より伝令!客将のブーディカ様が敵に虜囚としてとらわれた模様。これより奪還作戦を行うため至急来るように、とのことです」
どうやら動く時がやってきたようだ
ネロたちと合流するもこちらの兵士たちは敵に押されているようだ。ネロも皇帝としてかなりの指揮を執ってはいるがそれよりも一枚も二枚も相手の指揮官は上手のようだ。
状況が芳しくないためネロ自らが動くことになった。
「どうするんだ、このまま正面突破か?」
「ああ、むしろそれしかないだろう。前方から熱い視線を向けてくるものもいることだしな」
「ならこのまm「イスカンダルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」」
突如戦場に現れた黒い巨人。その召喚と同時に現れる死人の群れ、それらは手に武器を持っている。
冬木での竜牙兵とさして大差はないようなのだが、問題はその数だ。今もまだ増え続けている.その姿を 目にしたローマ兵たちが動揺し攻撃を仕掛けるも全く効果がなく返り討ちにあっていく。
戦場が混乱に包まれていく。このままでは敵サーヴァントを倒すどころの話ではない。あの軍団を操っているだろうサーヴァントの撃破を行わなければいけない。
「ネロ、こっちに兵をよこせ。あの黒いやつはこっちで何とかする。そのすきにマスターたちとともにあそこでふんぞり返ってる野郎どもをどうにかしてこい」
「わかった。ローマ兵よ、これよりこの場の指揮権はウルガルに移す、各自指示を仰げ!では行くぞ、藤丸」
「わかった。ウルガルここは任せたよ」
「あぁ。あとこいつ使うから魔力の方任せたぜ」
手に持っているそれを見せる。その意図を理解したのか頷いてネロとともに前へと進んでいくマスターたち。この呪いの朱槍を用いればよほどのことがない限り相手を必ず殺すことができる。まさに必殺と呼ぶにふさわしいもの逸品である。
だが相手のサーヴァントを守るように骸骨兵たちが囲んでいるため近づくことが容易ではない。この槍のもう一つの真価を発揮すれば突破できないことではないが、こちらで宝具をに連続で使えばマスターの負担にもなってしまう。
ならば
「兵士たちは最低でも二人一組になって敵の対処に当たれ。負傷しているものは下がり後方支援を、奴らはここで始末する!!」
「オオオオオオォォォォォォォ!!!!」
鬨の声を上げ戦線へと向かう兵士たち、それにつられて骸骨兵たちもこちらへと進撃を開始する。どうやらあの骸骨兵たちはあまり複雑な動きはできないようだ。力は強いものの対処できないというわけではない。
俺は敵軍に突っ込んで骸骨兵たちを一蹴しながら掻い潜りサーヴァントのもとへと向かう。数の多さ、倒れても立ち上がってくるその姿は恐ろしいものだがそれだけだ。これならいける、と思った俺を影が覆いつくす。
咄嗟に右へと回避しそれを見ると黒い何かが俺がいた場所を攻撃していた。
そして目に映るのは黒い壁。いや、正確には敵のサーヴァントとそれを乗せている巨大な戦象。
巨大な見た目は見掛け倒しではなく、繰り出される一撃は地面に大穴を開けるほどの威力を持っている。
「弓隊、放てェェェ!!」
兵士たちが放つ矢の雨が降り注ぐが手に持っている斧を振る、それによって生じる風圧だけで雨を払いのける。象の攻撃だけでなく、本体の攻撃も高威力を持っている。骸骨兵の群れを潜り抜け、象の攻撃を避けて本体へ槍を入れるのは至難の業だ。
「だがやりようはある」
まずは周囲の骸骨兵たちを薙ぎ払う、それと同時にそれらが持っていた槍を本体へ投げることによって象の意識をそちらへと誘導する。狙い通り本体を守るようにその鼻で槍を叩き落す、その一瞬で象の後ろへと回る。
象と本体、それらの力は個々のものでも絶大なものだがスピードはあまり良くない。後ろへと回りこめることに成功した俺は後ろ足を持ってきていた礼装で切りつける。おそらくダメージを与えることはできないだろう。しかし、その目的はダメージを与えることではなくその体勢を崩すこと。
いきなり視点が変わったため次の一手が遅れる。そこでさらに追い打ちをかけるように両前足と鼻を切り落とす。本体が現界し続ける限り再生するのだろうが、ひとまず象の無力化には成功した。再生し終わる前に本体を仕留める。
「ウオオォォォオオオオオ!!!」
咄嗟にしゃがむ、その上を斧が通り過ぎていく。一度距離をとって状況の確認を行う。敵サーヴァントは体から暗い緑にきらめく炎を噴き上げている。それは自分の相棒がやられたことへの怒りか、それとも
「同じ地に落とされたことへの怒りか?ペルシャの王」
ダレイオス三世、古代ペルシャの王でイスカンダルと幾度と刃を交えてきた英霊。不死の軍隊、そしてなによりイスカンダルへ見せるその執着から間違いないだろう。
「オオオオオオオオオォォォォォォォオオオオ!!!!!!」
先ほどよりも強く炎が吹き上げる。両手に持つ斧を振り回しながらこちらへと突進してくる。一見するとやけを起こしているように見えるが恵まれた体、そこから生じる膂力、それを覆うようにしている炎がそう思わせない。斧に触れた骸骨兵は砕け散り空中には骨が舞い踊っておりその姿はまさに嵐そのもの。
真っすぐにこちらへと突進してくる人の形を持った破壊の嵐。周囲の骸骨兵は彼によって蹴散らされるためこちらもなんの気兼ねなく用意を進めることができる。
「真名解放」
片足を少し後ろに下げ両手に持つ槍はその刃先が地面に向くように斜めに構えて腰を落とし敵を見据える。
槍から真紅に彩られた魔力があふれ出る。準備は整った、あとはタイミングを見据えて敵の心の臓をえぐり取るだけだ。
因果逆転の槍。槍を放ってから心臓をえぐるのではなく、心臓をえぐってから槍を放つ。逃れることはできいない不可避の一撃。
こちらへと迫ってくるダレイオス、対面すればその巨躯がさらに大きなものとして目に映る。
槍の有効範囲に入るのを待つ。10メートル、7メートル、5メートル、今だ
「その心臓、貰い受ける ―――
「―――――――――――――――――」
真紅の光が炎の中を突き進み槍がダレイオスの霊核を砕いた。光となって消えていく。本体が消えたため宝具である不死の軍団も後尾に続くように消えていく。ダレイオスを倒すことには成功したが決死の一撃か、消える寸前に気が緩んだその一瞬を狙うように一撃が俺の体に入り数メートル飛ばされたがこれにて戦闘は終了だ。
マスターたちの方はどうなったのだろうか
『藤丸君たちの方も作戦は成功、敵性サーヴァントの撃破とブーディカの救出を確認したよ。だがいまは撤退している。一度ローマにもどってもう一度侵攻する、その時がこの特異点での最後の戦いになるだろう』
『やはりというか魔槍まで使えるなんてねぇ、もしかしてマシュの宝具まで使えるのかい?』
「使うことはできるが、あれはそういった類のものじゃないからな」
『やっぱり知ってるんだね、マシュに力を貸した英霊のこと』
「知ってる上でそう言ってきたんだろう?」
『まあね、君のことを聞いた時からそうなのかなって思ってたのさ』
「一応言っておくが言わんぞ」
『それは大丈夫、マシュが自分で見つけることさ』
本当のことを告げるのは簡単だが重要なのはそこに至るまでの過程だ。だからこそ彼も何も言わずに去っていったのだろう。
俺もローマへと撤退していく、この特異点も終わりが近い。