「オエッ、ぎもぢわるい」
突如発生した特異点をサクッと攻略したその日の夜、カルデアでは壮大な宴が開かれた。今までになかったというわけではない、特に飲みたくなった日だったんだ。なんだよチェイテピラミッド姫路城って。城の上に墓が来てさらにその上に城を置くとか発想がぶっ飛びすぎてる。さらにメカエリちゃんなるものまで出てくるとか思考を放棄するレベルだわ。
まあ、なんやかんやあって攻略することができたので今日くらいはいいだろと全員で騒ぐことにした。迷惑をかけたということで歌ってあげるというドラ娘、そこに便乗してくる紅い皇帝。完全にこちらを殺しにかかってきている二人を何とか落ち着かせて一杯目にありつけたのだった。
しかしここであの男がやらかしたのだ。そう、黒ひげである。マスターに酒を飲ませたのだ、しかもかなり度数の高いものを。その結果マスターは眼を回して倒れたのだ。そうなるとマスター大好きなサーヴァントたちが黙っちゃいない。全員で黒ひげをタコ殴りにし彼は座へと帰っていった。
バーソロミューが爆笑していたのが印象的だった。
ナイチンゲール含む一団がマスターを連れて医務室へ行ったのを見て残された俺たちは思ったのだ。
――――ナイチンゲールいないんなら飲み放題なのでは
と。
いつもであればナイチンゲールの厳しい監視下であまり飲めないのだ。ただ反抗しようものなら鉄拳制裁からの医務室に監禁、そして今後このようなことが無いようにと体に教え込まれるという三連コンボが繰り出される。宝具まで使ってくる始末。
だがしかし、そんな彼女がいない今抑圧されてきた飲んだくれたちの飲みたいという欲望が解放されたのだ!
そこからはもう酷かった。飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ、野球拳をしようぜと相手を脱がせようとするやつや、そんなのは関係ないと言わんばかりに自分から脱ぎ始める奴もいた。そしてさらに酔いが回っていき飲ませ飲ませられで1人、また1人と脱落していった。本当に悲惨だった。
「あー、あの後どうなったんだっけか」
全く記憶にない、今いるところは自分の部屋のようだ。自力で戻ってきたのか、それとも誰かに運んでもらったかだ。後者であるならばそいつには後で謝っておこう。まじで王サマには困ったもんだ。蔵の中から酒をドバドバと浴びせるなんて考えられねえよ、美味かったが。いつもよりも3割、いや5割ましでテンションが高かったのが不思議だったが。
うし、とりあえず寝よう、二度寝だ。
「ウルガルおっはよーー!いつまで寝てるの?もうミーティング始まっちゃうよー!!」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ」
頭がぁぁ、頭に響くぅぅ。二日酔いに大声はやばいって。
「あれ、もしかして二日酔い?昨日飲んでたっけ?」
「アホみたいに全員で騒いでたじゃねえか。ああああ、マジでヤバイ」
「無理だったら休んでてもいいよ、ロマンには私から言っとくから」
「いや、大丈夫だ。後で行くから先に行って―――」
待て、今日ミーティングするなんて言ってたか?確か明日するように連絡があったはずなんだが。日付を確認するが丸一日以上寝てたというわけでもない。
「マスター、ミーティングは明日のはずじゃ………え?」
「もう、寝ぼけてるの?ならもう少し後に来てもいいから、先に行ってるね」
そうしてマスターが部屋を出ていく。俺は言葉をかけることができなかった。二日酔いが酷いからというわけではない、それ以上にとんでもない事態になっているからだ。どうしてだ?どうしてこんなことになっているんだ?一晩寝ているうちに何があったんだ。
まさか、
「うちのマスターが女の子になっているなんて」
あの後、少しだけ、ほんの少しだけ落ち着いて現状を整理してみた。マスターが女になっていた、わかってるのこれだけって。とにかくミーティングルームへ行ってみよう、そしたら何かわかるはずだ。
「む?」
「ん?」
部屋を出た先にいたのはスカサハだった、どうやら彼女は特に何の変化もないようだ。
「ようスカサハ、昨日はいろいろ大変だったな」
「昨日?」
「ああ、いくら酔ったからってクーフーリンたちに無茶ぶりするのはやめてやれよな。俺も被害者だからよくわかるんだよ」
「クーフーリンとな」
「やめろとは言わないがもう少し「ちょっといいか?」なんだ?」
「私は昨日彼とは会ってないぞ」
何言って………………なんだろこの違和感、目の前にいるのは本当にスカサハか?見た目は一緒、いや今気づいたけど服全然違うじゃん。
「私は昨日メイヴと共にいたぞ」
「………………名前何だっけ」
「?お主どこか具合でも悪いのか?私はスカサハ=スカディである」
いや本当に誰だああああああ!性別変わるくらいならまだわかる、結構中性的な顔と名前してるしまたPあたりが作った薬で性転換したとかならわかるがこれは無理だああああ。あ、頭が。
ミーティングへ向かう道すがら話していたのだが俺とこいつは結構仲がいいほうらしい、付き合いも長いほうなのだとか。なんでもコイツの好物のアイスを見様見真似で作ってやったのがきっかけらしい。餌付けじゃん、犬猫じゃねえんだから。
「ついたようだな、それでは例の件しっかりと頼んだぞ」
「アイスな、わかってる」
「ふふっ、楽しみだ♪」
見た目はスカサハと同じなのに中身が全然違う、その顔であんな笑い方されると調子狂うな。女神っていうか少女って感じがするし。
さて、扉の前にいるのだが開けるのがすごく怖い。なんだろう、開けたらいけないと俺の中の何かが囁いている。でも開けないと何もわからないのも事実、ここは意を決して開けるべきだ。
大丈夫、もう何も怖くない(フラグ)
「悪い、遅くなっ――――――――」
「鍛冶師か、契約者より具合が悪いと聞いていたがもう良いのか?」
「( ゚д゚)」
「なんだ、余の顔に何かついているのか」
付いてる、色々と付いてる。牙みたいなものに角みたいなものが二本ずつ。逆に目は一つしかないし全体的に刺々しい見た目になってる。なによりでかすぎだろおおおおおお!どうなってんだそれ、せめて人の見た目で出てきてくれよ、完全に怪物じゃん、コワッ。
「やあウルガル、昨日は飲みすぎたようだけど大丈夫k」
「ロマンーーーーーー!!」ガシッ
「ギャアアアアァァァァァ!!」ボキッ
「いろいろと変わってるし知らないやつばっかですごい不安だったけどお前はお前でいてくれてありがとうぉぉぉぉぉ!」
「――――――――」ピクッピクッ
「その辺にしてあげなよ、ロマ二が痙攣してるじゃないか」
はっ、この声は天才で万能のダヴィンチちゃんか!良かったほかの奴みたいに見た目や性別が変わってなくて。………………いや性別は元から変わってたな。
「ともかくだ、席についてミーティングを始めようじゃないか」
ごめんよロマン、嬉しくてついやっちゃったんだ。
「先日攻略した特異点でのことをここにいる皆で共有しておこうって話さ」
しかし良かった。元居た環境とは全く違うところに一人で放り出されたと思ったがロマンとダヴィンチちゃんにマスター(仮)の隣に座っているマシュは変わっていないようで安心した。人間一人になるとこうも不安になるものなんだなって思った。ここがどういった場所でどのような状況になっているか見当もつかないがひとまずは安心していいだろう。
「特異点に現れた足軽ノッブ、織田吉法師、カイザーノブナガ、ビッグノッブ、水着信長、本物信長、そして魔王信長の七人の信長のことだ」
「待って、お願い待って」
「どうしたんだいウルガル」
信長はあの信長で合ってるだろう、ぐだぐだする魔王だ、俺も面識はある。アーチャーと渚でロックンロールのバーサーカーの2つのパターンはわかるが後の5つは何だ。何だ本物って、他のは全部偽物なのか?
「彼女たちを見てない人もいるだろうから資料がある、これだ」
「おおう」
予想してたよりかなり本物だった。一人だけ住んでる世界が違う。
「やっぱり何回見ても魔王のノッブはかっこいいな~、吉法師もいいね」
ええ、これがあのノッブなのか?面影がねえよ。でもなんでだろう、こんな見た目してるのに結局はぐだぐだしそうな雰囲気を出しているのは。もうだめだ、なにも頭に入ってこねえ。こうしている場合じゃないのに。
おそらく、というか間違いなくここは俺がいたカルデアじゃない。通ってきた道も、作ってきた歴史も何もかもが違うカルデア。別の世界に入ってしまったということか。
「――――――――」
何かの拍子に入ってしまったのなら原因を解明して元の世界に帰るように模索するしかない。このことを誰かに言うべきなのだろうか。こんな突拍子もない話をされても向こうも困惑するだろう。
「ねえ、ウルガルってば!」
「!?どうかしたか」
「ミーティングおわったからみんなで食堂に行こうって」
「わかった、先に行っててくれ」
「…………本当に大丈夫?」
「何がだ?」
「朝から様子がおかしいから心配で」
つくづく思う、俺は良いマスターに巡り会えたのだと。資料で呼んだ聖杯戦争ではマスターとサーヴァント間でも衝突が起きていたようだ。
見た目や性別が違っていようとも藤丸立香は藤丸立香であることに変わりはないのだ。魔術を全く知らないし、だれよりも弱く、だれよりも戦いに慣れてないのにサーヴァントの横に立って一緒に戦う。そして気が付いたら誰よりもサーヴァントたちの近くにいる。
そんな人間だからサーヴァントはその声にこたえるんだ。
「もし悩みなんかがあるなら相談してよ。私なんかじゃ頼りないかもだけど」
たっくこいつは、自己評価が低いのも同じなのか。
「え、なんで頭なでるの?あ、そんなに強くしたら乱れちゃう!!」
「生意気なこと言ったからだ」
「なにそれ!?」
そろそろ手を離してやる。
「うー、毎朝大変なのに。変になってないよね!?」
「何もおかしくねえよ」
「本当に!?」
「本当だって」
「そういうなら、まあ」
渋々といった感じだが納得してくれたようだ。
今まで何を考えていたのだろうか、ここがカルデアではないと疑っていたなんて。さっきまでの俺はどうかしていたようだ。
多くのサーヴァントたちがいてスタッフも多くはないがいる。そしてなにより藤丸立香がいるここがどうしてカルデアではないと言えるのだろうか。
ここが俺がいたカルデアであり、俺のいるべ場所なのだ。
『―――■■■■』
「それじゃあ、行こっか」
差し伸べられた手を取る。
『―――■ル■■』
「今まで辛いことがたくさんあったけど、これからはもうそんなことはないよ」
優しく微笑む彼女の表情は慈愛に満ちていた。
『―――■ルガ■!』
「私だけじゃないよ。マシュやロマン、他のみんなもここにはいるよ」
毎日顔を見ていた、毎日声を聴いていたはずなのに。
どうしてだろう、今はただ何もかもが懐かしいと思ってしまう。
『―――■ルガル!』
「ここならあなたを傷つけるものはいない」
ああ、それなら安心だ。長くてつらい旅だった。
ここでなら十分に休めそうだ。
『―――ウルガル!』
「だってここは、この場所こそが、あなたのいるべき場所だから」
誰かが名前を呼んだ気がした。
それはまるで、遠雷のように。
まさかの続く