うちの精霊が病み属性だった件について 作:ダメダメのライトニング
レイちゃんはにこやかに笑いながら俺の肩をガッチリと掴んで離さない。メイデンの話によると、俺はどうやら閃刀姫達によって電脳世界に拉致監禁されているらしい。その話を信じるのなら、俺は今すぐ何とかしてこの世界から脱出を図らねばならないのだがどうやらそれは無理であるようだ。
今もレイちゃんは目を見開いて俺の一挙一足を見逃さないようにしている。しかも万力の如き力で俺の肩を掴むというサービス付きだ。こんな状況で逃げられる訳ないだろ、いい加減にしろ!
頼み綱の援軍は恐らく来ない。そもそも助けに来てくれた《ガーデン・ローズ・メイデン》がたった今、目の前で倒されたのだ。まだ《氷の魔妖ー雪女》がいるとはいえ、そちらはロゼちゃんが対応している。救援の望みは限りなく薄い。
『何を怯えているんですか? マスターを脅かす存在はたった今消し去ったばかりですよ? 雪女に関してもロゼちゃんが何とかしてくれるだろうし……。だから安心してください!』
ニッコリと、誰しもが心から安心出来るような温かい笑みを浮かべながら彼女は俺に言葉を掛ける。普段ならその表情に癒されていたかもしれない。けど、レイちゃんは誘拐犯(暫定)なのだ。
あえて言おう、何一つとして安心できる要素が無いんだよ!
だが、そんなことを真正面から言うのはいくらなんでも憚られる。だから俺はロックなドラマーのように首を振って肯定の意を示した。
『んー、ロゼちゃんが来るまで一緒にお喋りしませんか? 私、マスターに聞きたいことがあるんです』
「……まぁ、良いけど」
話をする程度なんの問題もない筈だ。立ちっぱなしというのも中々疲れるので2人で適当な場所に腰掛ける。俺の隣には密着する形でレイちゃんが座っている。しかも、手を握る体で俺が逃げ出せないように拘束してくるからタチが悪い。
『ねぇ、マスター。嘘偽り無くちゃんと答えてくださいね。マスターは今幸せですか?』
「え?」
予想外の質問を振られた事で思わず言葉が零れ落ちる。そんな俺をレイちゃんは真剣な表情と眼差しで見つめて答えを待っている。
しかし質問が今幸せを感じているか、か。そう言えば、全く同じ質問をロゼちゃんからも今日の朝にされた筈だ。そう思うと色々あったけど、今日という日はまだ一日経ってないんだよなぁ。
それは置いておいて、質問について考えよう。少なくとも物質的には何一つとして不自由はない。ならばこれは幸せといえるだろう。結局、ロゼちゃんにした返答と同じになってしまった訳だが、こういったことに変化がないのは別に悪いことではない。
「衣食住で苦労してないから幸せだと思うよ」
『なら、質問を変えます。不快な思いをさせてしまいますが答えて下さい。昔は幸せでしたか?』
「…………別にこの程度なんて事ないよ。そうだね、不幸せだったかな。多分、そう分類されるような過去だしね」
これくらいの事では一々気に病まないし、病んでたら生きてけない。全然許容範囲内だ。
『これが最後の質問です。マスターは幸せな世界と不幸せな世界、どちらが好きですか?』
「そりゃ、大抵の人は幸せな世界の方が好きだと思うよ。俺も被虐趣味はないし幸せな方が好きかな」
本気で質問の意図が読めない。こういう場合は本当にただの質問の場合が多い。だから、これは本当になんでもないただの質問なのだろう。
『そう! それは良かったです! やっぱりマスターは
「……? そう、良かったね」
何か含みのあるような言い方が気になるが気にしない事にする。俺は細かいことはあまり気にしない主義なんだ。
『ですので、この世界でずっと暮らす事に異論はないという事ですね!』
「何故そうなったし!」
透き通るような蒼い眼を煌めかせながら、彼女は自分の手を握った俺の腕ごとブンブンと上下に振り回す。滅茶苦茶な振り回し方をされたせいで腕が痛い。
『でも外の世界に居ても辛い事や苦しい事ばかりですよ? それはマスターが一番よく分かっている筈です』
「……」
そのことに関して俺は否定できない。事実、俺の過去はその象徴の様なものだ。レイちゃんは口を噤んだ俺に畳み掛けるように言葉を投げかける。
『過去の出来事だけではありません。外の世界でマスターはこれから先も決して幸せになる事は出来ないのです』
「何故そう言い切れる?」
『マスターは命を狙われています』
「はっ⁉︎」
いきなり陰謀論めいた物騒な話になったので驚き、飛び上がってしまう。ふざけているのかと思ったが彼女の目は真剣そのもの。どうやら本気で命を狙われていたらしい。
心当たりはなくはない。ロスト事件で被害者の俺が命を狙われているという事は十中八九6分の1のハズレを引いたということなのだろう。ガチャ運なさすぎてなんか泣けてきた。
『マスターの元には、感染すると植物状態に等しい状態にする電脳ウイルスが幾度となく送り込まれていました。ですがそれだけではありません。何度もAI制御の機械をハッキングしてマスターを物理的に排除しようともしてきた様です。マスターが今まで生きてこれたのは本当に天文学的な確率の奇跡と呼べるでしょう』
「えぇ、そんな状態で何で生きてるのさ、俺」
本当になんでさ状態過ぎる。ここまでやって死んでいないのは送り込んだ側も困惑不可避に違いない。
『私達精霊が直接攻撃に関しては全て守っていました。ですが電脳ウイルスに関しては私達では対処できません。にも関わらず奇跡的な確率でマスター自身が躱していた様なのです。もしかすると誰か私たちの知らない精霊が守っていたのかもしれませんが、私がマスターに張っている監視網を抜けられるとは思えないのでそちらの可能性は低いです』
「マジかよ、自力で避けてたとしたら俺の幸運全部そっちに吸い取られてるじゃん。あと、監視とか聞いてないんだけどなにそれ怖い」
『あはは、否定できませんね。そもそも電脳ウイルスに関しては私達も認識すら出来ていなかったのです。私が初めて認識出来たのは今から丁度1ヶ月前。マスターをこの世界に連れてくる少し前のことでした』
レイちゃんはゆったりとこの世界に俺を連れてきた経緯を話始める。監視の件についてはスルーするようだ。誤魔化されてるなぁ、俺。だが、話自体はメイデンとのデュエルでは丁度この部分を聞くことが出来なかっただけに興味が惹かれているのだ。
『私は偶然、幸運にもすごい力を手に入れてマスターを影から襲っていた電脳ウイルスの存在に気付くことが出来ました。このままではマスターがウイルスを捌き切れずに感染してしまうのも時間の問題だと考え、電脳世界の中の一部をその力で異界化して隔離してそこにマスターを意識データ化させて連れ込んで今に至るという訳です』
「あー、俺の為だったのか。礼を言うべきだね。ありがとう」
お礼の言葉を受け取った彼女は、頬を赤く染めた後に軽く微笑むと再び話を再開させる。
『愛する人を守るのは当然のことですよ。……現実世界ではマスターをひたすら害そうとする存在がいます。でも、この世界では違います。この世界はマスターを傷つけたりしません。苦しめたりしません。マスターが望むのであれば私は何でもやりますし、気に入らないものは何でも消してしまいます。それに、この世界は別に誰に対して迷惑をかけている訳でもありません。私は現実世界ごと塗り潰してしまっても良かったんですけど、そういう倫理観に反する事はマスターが気にするかと思って自重しておきました』
さらっとヤバめな事を言った彼女に恐れを抱く。いつもの事なのですぐに流したが。未だに煮えきらない態度の俺に対して、レイちゃんは更に言葉を重ねた。
『ねぇ、マスター。これが本当に最後の質問です。……マスターはこの世に生まれてきて一度でも楽しかった事、生きていて良かったと思えた事ってあったんですか?』
「俺は……」
即答出来ない。それは既に答えを出してしまっているのと同義だった。
言葉の続きを発する事が出来ずに震える俺を、レイちゃんは優しく全身で抱きかかえる様に包み込んだ。
『マスターがこれ以上辛い思いをする必要なんて何処にもありません。貴方はこれまでの人生で十分苦しんだ。だからこれから先は幸せになるべきなんです。……私達が貴方を最後まで護ります。だから安心して、私達にマスターの全てを預けて下さい』
互いの体温すらも感じる事ができる距離で、彼女は優しく耳に甘い言葉を流し込む。鼓膜を擽る熱い吐息に理性を溶かされる。
だが、俺は未だに彼女の誘いに肯けないでいた。確かに俺は辛い現実より幸せな夢の方が好きだ。本心では間違いなく現実を捨てて夢に逃げ込んでしまいたいと感じている。しかし、僅かに溶け残った理性がそれを肯定する事を押し留めていた。思考が上手く回らない。けど、何かが彼女の誘いに乗ることを否定している。
「俺は……」
『……残念、時間切れです。マスターにはちゃんとご自身で私達を選んで貰いたかったんですけど仕方ありませんね。元より何を選んでも此処から返す気なんてありませんでしたし』
「なっ⁉︎」
首筋に痛みが走る。目線を痛みの元へ向けると、そこには怪しげな液体が入った謎の注射器が突き刺さっていた。この注射器には見覚えがある。これは確か今日の朝にレイちゃんが持っていた謎道具だった筈だ。あの時はベエルゼが止めてくれたが、今回は止めてくれる存在は誰一人としていない。控えめに言ってピンチだった。と言うよりむしろ手遅れだ。
ピストンが押し込まれて中の液体が俺の体内に侵入する。それから間を置かずに全身に怖気が走った。
「う、ううう……。うがあぁぁ!!??」
全身の細胞が拒否反応を示すかの様に暴れだす。身体中が沸騰するかの様に熱い。熱い、痛い、苦しい、そんな生易しい言葉では言い表せない様な苦痛が絶え間なく全身を襲う。もはや自分の身体が制御出来ていない。本能的に痛みから逃れようと滅茶苦茶に身体が動きはじめるが、それでは何の解決にも至らなかった。だが何より恐ろしいのは痛みではなく、自分自身という存在が根底から書き換えられる様な嫌悪感だ。
レイちゃんは俺に何をした? 一体何を投与したんだ⁉︎混濁する意識をなんとか覚醒させてレイちゃんを睨み付ける。しかし、必死の抵抗もそれまでだった。地面に這いつくばる様に膝から崩れ落ちてしまう。俺の身体は遂に立っていることすらままならない状態へと移行してしまった。
『マスター、少し苦しいかもしれませんが頑張って耐えて下さい。今、マスターの体内に侵入させたのは可視化されたウイルスみたいなものです。これらデータを書き換えることに特化した存在で、データ上の存在になっている今のマスターに感染させることでマスターの意識データを改竄することが出来るんです』
「改……竄?」
『はい。私の思う様に、私に都合のいい様に、記憶も感情も人格も何もかも好きに染め上げてしまえるウイルスです。ロゼちゃんには出来る限り使うなって止められていたんですけど、マスターがどうしても私の物になってくれないなら仕方ありませんよね?』
この世に自分という存在を別物に書き換えられても許せるほどの、ネオニューアルティメットスーパーウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐菩薩メンタルは果たして存在するのだろうか。俺は生憎そこまで心は広くない。むしろそれが普通だと思う。多分ゼアルウラ先輩も許さないぞ、こんなの。いや、むしろバリアン七皇の真実を知っているゼアルウラ先輩こそ許さないかも。
だが、今の俺では苦痛が全身に回り否定の言葉を口にすることすらできないし、そんな事を考えている余裕すらなかった。
意識が朦朧とする。これから俺はどうなるのだろうか。今度目が覚めた時に俺は『俺』でいられるのか。今はひたすら自分自身の身に起こっている異常が怖かった。
「うぅ……ぐぅ……」
もはやロクに声も出せやしない。思えばこれがこの世界で初めて味わった苦痛かもしれない。ベエルゼに首を締められた時も全く苦しくなかったのはおそらくこの世界がそういう『設定』だったからに違いない。レイちゃん達の事だ。俺に苦痛を与えない様に間違いなくそういう事をするだろう。そう仮定するならこれは設定を超えて襲ってくる不快感ということになる。ヤベェな。
芋虫の様に地面でのたうち回る俺を強引に引き上げると、レイちゃんは暴れる俺の身体を軽い力で完璧に押さえつけてみせる。そして、押さえた頭を自身の膝に乗せて俗に言うところの膝枕を実行したのだ。
『どうですか? 男の人はこういうの好きだってネットに書いていたんですけど……』
ネットで仕入れた知識だからか先程までの嫌に自信の溢れた姿とは異なり、どこか不安げな様子を見せるレイちゃん。確かに平常時に膝枕されたのならそれはとても嬉しいのだろう。しかも相手が金髪美少女だというのなら尚更だ。
だが今は違うだろ! 何故、絶賛ウイルス投与に苦しんでいるこのタイミングで膝枕しようと思ったのさ! サイコパスかよ!
『それは、せめて元のマスターが完全に消えてしまう前に良い思いをしてもらおうと思って……。でも、これ、マスターが直に私に触れていて予想以上に恥ずかしいですね……』
そんな言葉なきツッコミを何故か読み取ったレイちゃんは顔を赤らめて恥ずかしげに目を逸らす。信じられるか? この娘、先程俺に人格破壊ウイルスを投与したところなんだぜ? まるで恋する乙女みたいだぁ! 同じ恋するレイ仲間としてどう思う? 早乙女の方のレイちゃん?
こんな茶々を入れていると、かなり余裕そうに見えるが実際そんな事は全くない。むしろ危険過ぎるレベルだ。今、俺の中のありとあらゆる思考が『レイちゃんとロゼちゃん大好き! 愛してる!』に塗り潰され始めているのを感じるからだ。俺が正気でいられるのはもって数分だろう。胸の奥から自分のものではない植え付けられた感情が湧いてきて、本物にとって変わるなどホラーでしかない。
本気でどうしようもないので諦めて目を閉じる事にした。しゃーない、切り替えて行くしかない。きっと次の俺が上手くやるでしょう。
思い返せば短い上に散々な人生だった。それでも、こんな悲惨な目に遭わされても、カードの精霊と出会えた事は俺の人生最大の幸福だと断言できる。
こうして『俺』の人生は今日をもってめでたく終了してしまったのでした。
俺たちの戦いはこれからだ! (投げっぱなしエンド)
閃刀姫ーレイ先生の次回作にご期待ください
HAPPY END☆
★★★★★★★★★★★★★★★
『いつもいつも、私だけ仲間ハズレなの本当に酷いと思う。折角《氷の魔妖ー雪女》とデュエルして勝ってきたのにこれはないんじゃないかな!』
ジトーっと金髪美少女を睨みつける銀髪軍服美少女ことロゼ。金髪美少女ことレイの膝には彼女達がマスターと呼ぶ存在が意識不明の状態で寝転がっていた。仕事を終えて帰ってきたら相方がなんか良い感じのポジションに居座っている。私もしたかった、と嫉妬と羨望の眼差しを隠さずにレイに向けるが、当の本人たる彼女は何処を吹く風だ。
帰ってきたロゼちゃんに視線を向けながらも、指でマスターの頬を引っ張ったり突っついたりして弄ぶことをやめないレイに溜息を吐くと、彼女目掛けて1枚のカードを手裏剣スタイルで投げつけた。
『いたぁっ!』
ドヤ顔を浮かべつつ華麗に片手でキャッチを試みたレイは見事にキャッチを失敗し、自身の額に投げられたカードを突き刺してしまった。投げつけられたカードは《氷の魔妖ー雪女》のカード。それは、つい先程までロゼとデュエルをしていたマスター奪還軍の一人の成れの果てである。
『何やってるの……。ドジにも程があるよ』
レイは額に刺さったカードをあうあう言いながら引き抜いて目に涙を浮かべている。そんな彼女の様子を見て毒気が抜かれた様子のロゼは呆れた様に戦果を報告した。
『見ての通り《雪女》は倒したよ。《コモン・メンタル・ワールド》と連続シンクロを組み合わせたバーン戦術は厄介だったけど、逆に言えば苦労したのはそれだけ。大したこと無かった』
『そうですか。ロゼちゃん、ありがとうございました。私は《ガーデン・オブ・メイデン》に少々手間取っちゃいまして……。ロゼちゃんが《雪女》を引き付けてくれていないと危なかったかもしれません』
そう言いつつも、仮に雪女とメイデンが二人掛かりでデュエルを仕掛けて来たとしてもそこで負けるとは欠片も思っていない。それはレイだけでなくロゼも同じ気持ちだった。
何故ならば、メイデン戦でまるで切り札の様に扱った《トポロジック・ボマー・ドラゴン》でさえレイにとっては数ある力の内の一つ、それも代えが効くような木っ端の力に過ぎないからだ。もっとも、トポロジック・ボマーはレイと彼女達の最愛のマスターを繋ぐカードである故に雑な扱いなど決してしないのだが。
『けど、そんな事はどうでも良い。……レイ、使ったの?』
『ええ、使いました』
剣呑な雰囲気になったロゼを前にしてもレイは平然として落ち着いている。その姿がより一層ロゼの感情を掻き乱した。
『っ! どうして!』
ロゼが注目していたのはレイの足元に転がる使用済み注射器。ロゼもその中身のウイルスの効果を知っている。だからこそ、越えちゃいけない一線があるはずだとレイに向ける怒りを隠さない。世間一般では、拉致監禁も一線をとうに越えていることを彼女は知らないらしい。
『どうしても、です。ロゼちゃんだって気づいていますよね。もう、マスターが違和感に気がつく度に記憶を消去するのは無理があることに。違和感を理解することができない様に、記憶を完全に書き換えてしまった方が毎回記憶を消去するよりマスターに掛かる負担も減らすことができますから』
『けどそれは!』
レイの言葉をロゼは正しいとちゃんと理解している。
彼女達はこの1ヶ月間、愛する人の意識データを何度も何度も書き換えていた。そうしなければ、彼はこの世界が本当の世界でないことに自力で気付いてしまうからだ。だが、当然過度なデータの改竄はマスター自身に大きな負荷をかけてしまう。それでも彼女たちは止めることはしなかった。純粋に自分たちを信じてくれていたマスターを裏切るのに等しい行為に手を染めていると頭で理解しているとしても、それ以上に彼を手元に置いておくことを止めることが出来なかったのだ。
だとしても、だ。その結果としてマスター本人の人格を捻じ曲げてできた物は最早彼女たちの愛する人の皮を被ったナニカだ。例え、それに愛を囁かれても嬉しくなんかない。そんなものを作り出すことを、死の際まで彼の側に寄り添いたいロゼが許す筈などない。
『ロゼちゃんの懸念している事は起こりませんし起こしません。私だってそんな紛いものが欲しい訳じゃありませんから。私が書き換えた事は主に2つだけです。一つはマスターが私達のことを好きで好きで堪らなくなる様にした事です。それこそ世界の違いなんてどうでも良いくらいに。もう一つは彼を縛り続ける過去の苦しみから解き放ってあげた、それだけです』
レイの言葉を聞いてもロゼは渋い顔を崩さない。明らかにそれだけの範疇を超えている。だが、彼女もレイと同じ穴のムジナだと自分自身で理解しているが故に強く出ることは決してない。
はぁ、と溜息を改めて吐くとロゼはおもむろに近づき、レイから彼女のマスターをサッと取り上げる。俗に言うお姫様抱っこの形で彼を奪還した。今、彼の意識が無いのは幸運だっただろう。もし目覚めていたのなら羞恥心で闇人格に目覚めていたに違いないからだ。
『ああっ!』
愛する人を奪われて悲痛の声をあげるレイ。字面だけなら悲惨なワンシーンにも見えなくはないが、実際は弄んでいた人を取り上げられただけなのでそこまで悲惨性はない。
『悲しそうな声をあげない! もう十分楽しんだでしょう? 私がマスターをベッドまで連れて行くからレイは1人で帰ってね』
『なんか冷たくないですか?』
『気のせいでしょ』
『びっくりするほど淡白!』
ふざけたやり取りが繰り返される中、唐突にロゼはレイに問いかけた。ビクリっとレイは反応する。彼女の顔は俯いていてどんな表情を浮かべているのか判別できない。
『……後悔してる?』
何を、とは言わない。それでも、レイは何を問われているのかを完全に理解していた。むしろこのタイミングで振られる話など一つしかない。
『後悔なんてしていない。……と、言えば嘘になります。ですがもう取り返しはつきません。後戻り出来ません。一度壊してしまった以上、奇跡でも起こらない限り完全にもと通りにするなんて神様でも不可能です。今更後悔するなんて遅すぎる上に虫が良すぎます』
『レイ……』
『私はいつだって失敗ばかり。昔から何一つ進歩していない。今度こそちゃんと守るんだって決めたって、結局は私の手でその守りたい物を壊してしまった。少し落ち着いて考えれば絶対やっちゃ駄目なことぐらい分かるのに、いっときの感情に身を任せて馬鹿なことをする。……おかしいですよね、自分からノリノリでやったのに後になってやらなきゃ良かったって思うなんて』
項垂れて顔を上げない彼女にロゼは掛けるべき言葉を持ち合わせていない。ロゼはレイの共犯者だ。レイの言葉はロゼにも刺さる部分がある。そんな彼女がレイを励ます資格など無いのだ。
『もう少しだけ、風に当たってますね。先に帰っておいてください』
どこかシュンとした雰囲気になったロゼは、レイに寒くならない様に上着を着せて未だ目覚めない彼を抱きかかえて家に帰還する。《イーグルブースター》を使用したのでかなり早く帰宅することができた。
そして彼を自室のベッドに寝かせると、隣に腰を下ろし目を覚さない様に気をつけながら彼の顔の輪郭をなぞる様に優しく撫で回す。
『確かにレイの取った手法は最悪だったよ。私もそれを責めたし、レイ自身だって良くないことだと思ってる。けどね、同時に私たち2人ともこれでマスターが私たちだけを見てくれる様になったことを喜んでいるんだ。酷いよね、本当に。……けどね、私はもう決めたんだ。どんなことになろうとも、どんな手段を使っても、もう二度と絶対に貴方を離さない……ってね』
スッと、目覚めない彼に口づけを交わす。当然、意識がないので彼がその愛に応えることは出来ない。延々と与え続けるだけの愛。それはまるで彼と彼女らとの関係性を表しているようだった。
俺の休日は終わらない。
永遠に
主人公くん
ほら、ヒロインの洗脳って遊戯王恒例だし是非もないよね。不可逆だけど。確か似たような感じで書き換えられてた子いましたね。風に関連するAIなんですけど。
レイちゃん
主人公くん洗脳しちゃった子。こんな事する精霊は多分世の中探してもそういない筈。……そういや普通にいたわ(ユベルを見ながら)二次創作には少ないから……(震え声)
ロゼちゃん
主人公くんを勝手に書き換えた事に起こりつつも、それはそうとして自分たちから離れなくなって喜んだ。漁夫の利取った子。
デュエルで使用したカード説明について
-
作中で全部書け
-
カード名、攻撃力、守備力、のみで良い
-
あえて何も書かなくて良い
-
原作リスペクト(勝手に生える効果説明)
-
我が書き換えたのだ