暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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時系列としては、現在本編の時よりもかなり前になっています。










閑話 提督の休日

 

 

 

 

 

 

 

今日から1週間の休みである。

元々休日を取る予定など欠片も無かったのだが、1週間の休暇になったのにはマリアナ海溝よりも深い訳がある。

 

あぁいや、訳などと言わないから頼むからせめて言い訳、だとちょっと格好が悪い、弁明させてほしい。

 

本来ならば、陸海両軍の最高指揮官である俺が休んでいる暇など無いのだが、つい4か月ほど執務に没頭していたら、見兼ねた皆が執務室に乗り込んできて仕事と言う仕事を全て取り上げられてしまった。

仕方ないじゃないか、俺が仕事をせねば前線での業務がそれだけ遅れるのだから、最前線の南方で戦っている皆を考えれば休む暇も無い。

 

燃料弾薬食料水、医薬品。

 

これら全ての補給やらの申請はどうしても俺を通さねばならない。

それらを受理して、送り届けるにはどうしても俺が書類に判を押さねばならない。

 

と幾ら言っても皆が頷く訳も無い。

それどころか、

 

「提督、貴方が身体を壊して入院でもしたらそれこそ業務が滞るではありませんか!確かに提督がいなければ、負けていたでしょう。ですがそれが理由で貴方が4か月も休み無しで働いてよいと言う理由にはなりません!」

 

とまぁ散々怒られた。

中代中将達にも話が行っているらしく、電話で休めと怒られてしまったわけだ。

 

「私達ですら週1程度、最低でも月に3日は休んでいると言うのに貴方と来たらば4か月も休み無しで働いているだなんて!」

 

とそれはもう、訓練期間を思い出すほどにしっかりとお叱りを受けたのだ。

中代中将からのお叱りもしっかり1時間ほど有難く頂戴したものだ。

 

しかもその前に食生活絡みで散々怒られたばかりだったから、まぁ怒られた。

全て正しい事だから、俺が頷くしかないのは必然だ。

 

 

いやなに、不快だとかなんて欠片も思っていない。

寧ろ感謝するべきだろう。

この年齢にもなって、それこそ陸海軍の実働部隊のトップに居るのにも関わらず、誰かが俺を想って叱ってくれるなんてことは、とても有難い事だ。

そう言ってくれなければ、俺は俺の犯した間違いに気が付くことも出来ない愚か者だからな、ああして泣き落としをしてでも叱ってくれるのだから、寧ろ感謝せねばなるまい。

 

とまぁ、そんなわけで突然与えられた休暇なわけだ。

 

 

 

 

 

「提督~、隠れてお仕事なんて絶対しないように~」

 

「わ、分かっているとも。うん、分かってる」

 

「それじゃぁ、クーラーボックスの中の書類、出しましょ~?」

 

「……はい」

 

「素直でよろしい」

 

龍田が微笑む。

何となくそこに、末恐ろしいものを感じて背筋を冷たくさせながら正直に頷いた。

 

俺が休暇であるにも関わらず、目を離すと何をするか分からないと罪人染みた扱いでもって、艦隊中でも屈指の実力者たる龍田が秘書艦として側にいる。

 

艦種毎に、そういう存在がいるのだが龍田は神通と並んでの双璧だ。

 

空母であれば、鳳翔の名を誰もが上げるだろう。

母艦航空隊や空母の母であるからだ。

 

戦艦だと、長門か霧島の名を上げる者が多い。

戦艦は総じて訓練が過酷であるが、長門はその自負故に、霧島は武闘派故により一層だ。

 

重巡だと、意外にも鈴谷だ。

 

軽巡は龍田と神通。

 

駆逐艦だと龍田、神通に率いられた水雷戦隊は全てになる。

と言うか必死について行っているだけなのだが、結果的にだ。

 

 

 

それ故に艦隊の中では神通が率いる水雷戦隊と、龍田が率いる水雷戦隊、どちらがより過酷か、恐ろしいかは議論が尽きない。

いや、別に体罰が云々と言うわけでは無い。

 

寧ろ陸海軍全軍において体罰、殴る蹴ると言った制裁を厳禁にしている。

あんなもの、やって意味は無い。

 

腕立てぐらいの罰則なら別に過度な回数や時間を与えないのであれば体力錬成の意味もあって問題無いが、殴ったり蹴ったりするのは全く違う。

全く意味が無い。

 

神通と龍田率いる水雷戦隊が恐ろしいと言われる由縁は、その訓練のレベルの高さなどによるものだ。

想定される状況の設定も恐ろしく細かく、そして自軍に不利な状況でやるのが常だ。

 

ついこの前なんぞ、制空権無し、友軍は旗艦軽巡以下駆逐艦のみ、昼戦。

敵状については航空攻撃に加えて、戦艦重巡による観測機によっての弾着観測砲撃下、随伴水雷戦隊有り、なんて言う狂気染みた想定下での演習をやっていた。

 

制空権の無い状況でそんな事させないから、流石にやり過ぎじゃないかと聞いてみたら、

 

「有り得ない、と言うのはそれこそ有り得ません。提督とて間違いを犯し、全空母全戦艦戦闘力喪失、なんて状況も考え得るわけです。そうなれば我々は殿を命じられることもあるでしょう。そうなれば、敵の航空機からの攻撃を受けつつ敵艦隊の足止めをもやってのけねばなりません」

 

「砲雷撃戦に持ち込まれたならば、我々が活路を見出せるとしたら雷撃だけです。私達に載せられている砲では重巡や戦艦は沈められませんから。もし1発でも敵に魚雷を捻じ込むことが出来れば、その混乱に乗して逃げおおせることも不可能ではありません」

 

「考え得る、あらゆる想定を訓練で実践して、それでも想定外の事が起きたならば動揺を抑えてそれに対処する能力を育てる。これこそが訓練の意味です」

 

神通にそう言われた時、なるほど、と頷くことしか出来なかった。

 

まぁ、流石に死者を出すようなことだけは無いように、と厳命してある。

訓練で怪我をしたり死んだりしては元も子もない。

 

安全対策は徹底した上での苛烈な訓練である。

 

そう言う意味で、恐ろしいだとか色々と言われている訳である。

 

勿論、神通と龍田両人も武道の達人である。

神通は徒手格闘が専らであるが、武器を使った戦いもお手の物だ。

龍田は槍術と徒手格闘が凄まじい。

正直戦国時代にでも生まれていたら、語り継がれること間違いなしであるのだ。

 

神通は普段は物静かで、比較的内気なところがあるのだが如何せん荒事になると性格が変わる。

龍田は普段とあまり変わらぬ態度だが、寧ろそれが恐ろしいところであるのだ。

 

そんな龍田が秘書艦である。

理由としては単純であり、龍田の艦体は長期間の訓練航海と戦闘訓練によって整備の必要がある為に現在入渠中であるからだ。

交代での入渠であるし、龍田も休暇中であったのだが秘書艦を買って出てくれた。

有難い限りである。

 

仮に俺一人で過ごすとなれば、また食生活が乱れ、隠れて仕事をして皆に怒られる。

言わばアルコール依存症の治療に近いかもしれない。

 

アルコールを絶って治療するのと同様に、俺は仕事中毒を絶つために仕事から隔離するわけである。

 

 

 

 

「それで、今日は何処に行くのかしら」

 

「一番近くの金剛に行こうかと思ってな。半休だと言っていたし休みの下士官達が釣り大会をやると言っていたから混ざろうかと」

 

「そうしたら、今日の晩御飯はお魚で決まりかしら~」

 

「坊主かもしれんぞ」

 

「そしたら今日は主菜無しのお野菜中心晩御飯ね~」

 

「それは困るな」

 

龍田の作る飯は美味い。

俺の舌が馬鹿なことを除いても、普通に店を出せる。

 

龍田は家庭的で優しいのだ。

 

長門とかは豪快な料理が多いな。

魚丸々一匹素揚げにしたとか。

 

あれはあれで良い。

 

「だったら釣ってこないとね~」

 

「精進しよう」

 

何時も通り、半袖短パンの軽装に着替えて壁に掛けてある麦わら帽子を被る。

釣り竿と餌、さっきまで書類が入っていたクーラーボックスの中に氷と昼飯を詰める。

 

どうやら龍田も付いてくるらしいので、釣り竿を選んでもらった。

流石に一日中見ているだけはつまらないだろう。

 

金剛とを往復する内火艇に便乗させてもらい、金剛へ。

どことなく金剛乗組員の面々の表情が強張っているが、理由は俺ではない。

隣に座る龍田が理由だ。

 

その恐ろしさは戦艦乗組員にも轟いているらしい。

噂には尾鰭が付き物だが、その内の一つにちょっかいを掛けた男の両手を槍捌きで切り落としただとか、笑顔のまま吊るして海に浸しただとかばかりである。

 

数多くの艦が停泊しているから、駆逐艦から空母まで様々な艦が見える。

大抵は戦隊事に纏まって停泊しており、今俺と龍田は一航戦以下の中を進んでいることになる。

 

遠目に飛龍や蒼龍も見える。

 

 

 

 

着くと、何時も通り金剛が熱烈な抱擁でもって出迎えてくれる。

彼女は距離感が近いのだ。

 

「テイトク、今日は私のところに来てくれてアリガトネー」

 

「いや、寧ろ休みなのに邪魔して済まないな」

 

「ンーン、何時でも歓迎するヨ。私ワ訓練指揮あるから一緒に居られないケド休日楽しんでネ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

金剛と別れて、艦尾の方に向かう。

休日中は敬礼をしなくて良いと言っているのだが、すれ違う皆は敬礼をしていってくれる。

 

答礼する俺は半袖短パンに麦わら帽子と言う、なんとも恰好が付かないのだが。

 

「敬礼ッ」

 

釣り大会を開いていた者達を監督していた士官が代表して号令を掛けて付近に居た全員が立ち上がって一斉に敬礼をしてくれる。

これまた格好の付かない答礼をして各々自由にさせる。

 

休日だ、態々誰が監督しているとかの報告までは流石にしない。

 

元々は士官が監督していなかったのだが、釣果の競い合いの中で血の気の多い連中が喧嘩をしたことがあった。

それを機に釣り大会に参加する者の中で階級が一番高い者が監督役も兼ねるように、となったわけだ。

 

「どうだ、今日は」

 

「良くも悪くも無い、と言った具合です。今日は運が良い奴が釣れる日ですね」

 

「そうかぁ……。もしかしたら今日は釣れんかもなぁ」

 

「提督は運が良いと存じておりますが」

 

「そんな事は無いと思うぞ。周りの運が良いからそう見えるだけだ。最後に釣りした時なんぞ憐れんで釣果を恵んでもらったほどだ」

 

「それは確かに運が無いですね。では、提督の釣果を祈っております」

 

「あぁ、君もな」

 

監督していた士官と軽く話してから龍田と二人分のスペースを見つけて、準備をする。

 

龍田も釣りの心得があるのか、手際は良い。

と言うより艦上での娯楽は限られているから、必然的に釣りは誰でも数度はやることになるのが理由だろう。

 

「それじゃぁ、頑張ろうか」

 

「釣りって頑張る場面なんて殆どないけれどね~。多分頑張ったら逆に釣れないんじゃないかしら~」

 

「大会だからなァ、頑張ると言う言葉以外になんといえば良いのか分からん」

 

「それもそうね~……。それじゃぁ、勝っちゃおうかしら」

 

「龍田が言うと、本当に優勝しそうだ」

 

龍田なら釣り竿使って、釣りをするよりも槍とか銛で突いた方が絶対に速いし圧倒的な釣果を得られそうなものだが、それは心の中に留めておこう。

 

釣り糸を海に垂らして、折り畳み式椅子に龍田と並んでぐっ、と深く腰掛ける。

後ろには金剛が搭載する35.6cm連装砲2基や、増設され手入れを終えた機銃群が横にある。

 

砲門には砲栓がされ、機銃には防水布製の袋が被されている。

休みの場合艦の半分、例えば真ん中から前側と後ろ側で分けて交代で休暇を取る。

 

今日の金剛の場合は前側が勤務で、後ろ側が休暇と言った塩梅なわけだ。

 

なので前側は慌ただしく主砲や機銃を操作したり、戦闘配置までのタイムを一秒でも短く出来るようにと訓練をしているが、後ろ側はなんとものんびりとした空気が流れている。

釣り竿を握ったまま舟を漕いでいる者や、そのまま寝落ちしている者もチラホラ見える。

 

艦の上とは言え、副砲を撤去して対空砲や機銃を所狭しと並べられ、水雷防御を高めるべく艦種から艦尾に至るまでバルジを追加し、と言う様々な改装を施されて34000tもの排水量を有する艦の上では穏やかな日である今日では揺れを感じることは無い。

金剛は信濃を始めとした250mを超える艦と並ぶと巡洋艦の様に見える、だなんて言われるが金剛は頼もしいのには違いない。

砲火力もさることながら、艦隊防空の要たる彼女がいなければ、我々は敵機に対抗する力が大きく削がれてしまう。

そしてなによりも最も戦場を駆け回っている戦艦は他には居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼時になると、ラッパが鳴り響き休暇中とは言えど皆艦内の食堂に足を運ぶ。

後部甲板に残されたのは、偶然であろうが俺と龍田だけだ。

 

「俺達も飯にしよう」

 

「そうね」

 

クーラーボックスの中から、朝に龍田が作っておいてくれた握り飯とおかず、それに水筒を取り出す。

因みに釣果はゼロなので生臭くなったりしていない。

龍田の方はバケツの中に数匹の釣果が入っているが、俺は全くだ。

半日海面を漂う浮をぼーっと眺めて偶に餌を付け替えたりしていただけである。

 

「「頂きます」」

 

「相変わらず美味い」

 

おにぎりには海苔が巻かれており、中に入っているのは鮭や梅干し、鱈子であったり昆布であったりと様々だ。

シンプルな塩掬びもあるので、そちらは弁当のおかずと共に食べる。

 

水筒の中には麦茶が入れられており、渇きを潤すのに最適だ。

 

弁当の中には卵焼き、それも俺の好きなしょっぱい味付けのものが入れられている。

他にも野菜炒めなど色彩にも富んでいて、勿論味も文句の付けようがない。

 

「そんなに掻き込まなくても誰も取らないわよ~」

 

「う、む」

 

早食いを窘められるが、軍隊生活が長いとどうしても早食いが習慣に染み付いてしまう。

戦闘配食なんて特に早食いになりやすい。

 

早食いは良くないと、しっかりと噛んで食べる様にと言われるが、どうにもならん。

とは言えちゃんと味わってはいるぞ。

 

「ご馳走様でした」

 

「お粗末様でした」

 

片付けて、再び釣りに戻る。

龍田はと言うと釣り上げた魚を〆て、クーラーボックスに突っ込んでいる。

手際も良く、俺よりも上手い。

 

 

 

結局その日1日、俺は全く釣果に恵まれなかった。

龍田は二十数匹の釣果を得て、文句無しの優勝に輝いた。

 

当の龍田はと言うとこれで暫くは提督の晩飯に困らないわ~、と言っていた。

頭が上がらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー-----------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休暇3日目。

今日は市街地に買い出しに出る。

 

先日の釣りで主食たる魚は干物などにして冷凍庫の中に入れられている。

 

本日買うのは調味料や日用品、野菜や米などだ。

大規模作戦の発動予定はまだまだ先であるし、それまでは陸の上で執務に明け暮れ、時折演習の指揮を執る日々だ。

だから必然的にここ、自宅兼執務室で食事を摂るのが殆どだ。

となれば冷蔵庫の中には食材が無ければならないのだが、無くなれば俺は飢えに苦しむことになる。

 

流石にそれは困る。

 

適当な服装に着替えて、出掛ける。

相変わらず装甲車と完全武装の兵士10名に守られての買い物だ。

 

とは言え流石に慣れたのか、奇異の目で見られることは少なくなってきた。

見られはするが、何時もの事だ、とさっさと日常に戻っていく。

 

一番近い雑貨店から寄って、石鹸や鉛筆などの日用品を買い込んでいく。

八百屋では各種龍田の書いたメモに書かれている野菜やら果物やらを何度も往復して買う。

 

他にも塩コショウなどの調味料に加えて、隼鷹達酒飲みが殴り込んできた時に備えて一升瓶を何本か買っておく。

それに米と小麦粉なども。

 

どれもこれも数週間分、それに俺と秘書艦の二人分だから量は多い。

装甲車とトラックに上手い事積み込む。

 

あとは何時もの店で珈琲豆と紅茶、それに緑茶を買っておく。

珈琲と紅茶は欧州出身勢が好んで飲むし、緑茶は日本勢が飲む。

同じ店で軍からの放出品である牛缶や豚缶、鳥缶を数個づつ買う。

 

どれもこれもトラックに積んでいく。

兵士達には、トラックで待機している者を除いて空弾倉を装着しておくように言ってある。

万が一暴発でもしようものなら、大事だ。

それに彼らは銃が無くてもナイフ一本銃剣一本あれば戦えるように鍛え上げられている、そんな強者達だ。

 

ここに居る面々は、海軍陸戦隊に属しているがその立ち位置は全く別の部隊の所属である。所謂特殊部隊だ。

所属は俺の直轄、部隊名は第413大隊。

 

海軍陸戦隊として存在する部隊は通常2桁番号で、3桁の部隊は特殊部隊だけである。

 

非正規戦や破壊工作、潜入工作、上陸前の機雷除去と言った特殊任務が主だ。

その任務の中には要人警護も含まれており、俺の護衛などお手の物である。

 

市街戦や対テロ戦も訓練されており、名目上は深海棲艦が相手であるが実のところ今現在彼らが投入された任務の9割が対人戦だ。

警察が、この大戦の初期に消防などと共に徴兵され壊滅してからというもの、その治安維持任務を軍が引き継いでいる為に、各地での反政府武装組織、特に多いのは大戦前に中国やロシア、北朝鮮と言った国の工作員やその支援を受けた現地協力者の摘発などだ。

これがまた厄介で、大陸への反抗作戦を実施するように求めている人間は大抵この繋がりか、もしくはただの馬鹿か。

 

戦前や戦中に向こうの国から流れて来た武器なんかも所持している場合が多く、通常の警察任務を担う憲兵では手に余る。

装備も拳銃程度の憲兵は太刀打ち出来ない。

警察業務をするだけなら戦前の警察同様、拳銃で十分だからだ。

 

そこで彼らにお鉢が回ってくると言うわけだ。

 

確かに深海棲艦と戦い、そして勝つことも重要だがその後の世界の事も考えねばならない。

その時に、このままの態勢でいれば日本は破滅する。

 

そうならないためにも、色々とやっておかねばならないのだ。

 

 

 

 

 

「皆、何時もご苦労」

 

護衛に就いてきてくれた兵士達に炭酸飲料と、煙草を1箱買って渡す。

 

「何時も態々ありがとうございます」

 

「いや、それは俺が言うべき言葉だ。ありがとう」

 

全ての買い物を終わらせ、昼頃に帰る。

護衛の皆と共に荷下ろしを済ませて、昼飯だ。

 

既に龍田が拵えてくれていた。

 

手早く済ませて、本屋で買って来た本を読む。

元々読書は好きだったし、この世界の娯楽なんてラジオか、読書なものだ。

 

ゲームもあるにはあるが、戦前からゲーム機本体とソフトを持っている家庭しか今はやれないし、なんなら慢性的な電力不足が原因で使用される電力も制限される中では出来ようも無い。

南方方面からの資源輸送が行われているとは言えど、深海棲艦による通商破壊戦や、陸海軍が作戦から輸送任務、訓練、戦闘で使用する膨大な燃料量を考えるとどうしても民間に回せる量は少なくなってしまう。

 

タンカー10隻もあれば、作戦中の大抵の艦には燃料を行き渡らせる事が出来るが、任務の性質上、奪還地域の飛行場は安全確保のために破壊してしまうことが多い。

故に母艦航空隊が作戦序盤の制空権を握る大切な鍵なのだが、そうなると艦隊は現地から離れるわけには行かない。

軍隊で使われる乗り物の殆どは経済性に難がある。

理由は軍事行動を取る上で経済性は二の次、三の次になってしまうからだ。

 

 

軍艦と言うのは、訓練や乗組員の食事を作ったりする為に、電力を落とすことが出来ない。

仮に完全に罐の火を落としてしまうと再び動き出すのに丸々1日以上の時間を必要とする。

 

俺が着任した頃は、燃料不足が深刻であったために基本的に訓練航海以外は罐の火を完全に落としていたが、今は奪還地域が増えて深海棲艦の本土爆撃や各地への圧力が増大した為に来襲したとなれば艦隊の総力を挙げてでも防がねばならない。

そんな時に丸々1日も呑気に罐の火を再び入れ始めていたら、間に合わない。

 

停泊時も常に燃料を消費するもので、戦艦や空母と言う大型艦にでもなれば一日30~60tを消費する、なんてのは当たり前だ。

唯一完全に罐の火を落とすのは入渠する時だけである。

停泊しているときの方が、燃費が悪いわけである。

なんせ1cmも進んでいないのだからな。

 

唯一今まで民間に大量に流れていた、一般家庭にあるストーブなんかに使われる暖房用の灯油も今では本土防空を一手に担う震電の燃料として使われているから民間に回せる量は極小だ。

石炭も燃料不足を解決するべく液化燃料に転用されて主に陸軍へ供給されている。

大規模作戦や、何時かの時の様に押し込まれたときの為に備蓄しておかねばならない。

 

まぁ、それでも石炭による火力発電は行われているのだが、必要電力量には到底及ばない。

 

原子力は、深海棲艦による本土空襲が連日連夜行われる中では余りにも危険過ぎて稼働させることは出来ない。

そもそもの話だが、今の日本には燃料となるウランが存在しない。

正確には、ウラン鉱床は存在はするが埋蔵量が少なさ過ぎて採算が取れなさ過ぎて使うことが出来ない、と言うのが正しい。

元々日本はオーストラリアやカナダと言った国からウランを輸入していたが、例に漏れず輸入出来なくなったし、本土空襲が始まった時に安全性を考慮して稼働を停止している。

 

現段階の軍の目標の一つである豪州が奪還されれば、ウランの安定供給が為されるかもしれないが、それでも空襲がある限りは使えない。

軍にはマリアナ諸島を奪還する予定は無く、精々泊地として利用可能なパラオ諸島を前哨基地目的で奪還しても良い、ぐらいだ。

 

あくまでも陸海軍は豪州奪還に伴う南方方面での作戦を主軸に考えている。

マリアナ諸島の奪還作戦が発動されるとしたら、恐らくは南方方面での奪還作戦が全て終わってからになるだろう。

結局のところ、どれだけ戦っても敵の本拠地であるハワイ諸島を叩いて奪還せねば、太平洋地域での未来は無い。

 

 

 

今日本の発電量の殆どを担っているのは石炭とガスによる火力発電であるが、軍での需要が高過ぎる為に、これから再生可能エネルギー、主に潮力発電や風力発電を主軸にしていく予定である。

太陽光発電は、敷地面積が少ないので大規模発電をするには随分と開けた土地が必要だ。

しかし山々には田畑が広がっているし、都市部でも普通に人が暮らしている。

 

新しく土地を開こうとしたら、どれだけの期間と労力、金が必要になるか分からない。

太陽光発電は、各家庭単位での運用になる。

今現在、政府は一般家庭などに太陽光パネルを設置し、自家発電を行おうとする場合は補助金を出すとしている。

そうでもしないと、今の状況では電力を賄えないからだ。

 

 

その点、早急に電力を必要とする今は風力や潮力は、日本は島国国家であるから太平洋やら日本海やらで幾らでも可能だ。

既に工事は始まっている。

あとは風力発電に必要な資機材を作る為の資源があればいいだけだ。

そちらには軍も協力して出来うる限りの資材を供給している。

 

船舶の航行などの理由で設置する場所には制限を設けなければならないが、それでもかなりの電力量を賄うことが出来る。

 

あとは深海域に広がる海上油田やガス田、各種金属資源の鉱床の開発をも平行して行われている。

埋蔵量は屈指のものであるし、活用しない手は無い。

これが大々的に使えるようになれば、南方方面からの資源輸送に頼り切り、と言う状況にはならずに済む。

 

 

 

 

 

 

自室では、龍田が部屋の本棚を物色して好きな本を持って行って読んでいる。

2時間ほどで、小説を1冊読み終える。

 

この仕事をしていると、より早く書類を呼んで考えて可否の判を押すために知らず知らずのうちに文章を読む速度がかなり早くなった。

だから普通の文庫本程度だと、2時間も掛からずに読み終えてしまう事も多い。

 

こうした、軍人として何時しんでもおかしくない身分の俺からすれば、何でもない特筆することの無い日常と言うのはなんとも得難く、とても貴重なものだ。

特に今も最前線で戦い、そして死んでいっている部下がいるという、戦争の中では。

 

時折こうして過ごすことがあると、ふと思うことがある。

もしこの世界に来ることが無かったとするのならば、俺は今頃何をしていたのであろうか、と。

 

俺も今年で30になる。

普通であれば、結婚するなりして、妻子がいたりするのだろうか。

会社勤めであれば、そこそこのキャリアを築いていたり、役職に就いていたりするものだろうか。

あの当時、これから先俺はどうするのだろうかと思う事もあったが、何となく考える事を避けていたように思う。

だから自分がどのような道を歩んでいたのか全く想像が付かないのだ。

 

凡そ、俺の才能からすれば他と変わりない、特に突出したような人生を送ると言う事は絶対に無かっただろう。

通っていた大学も、平凡なところだったし、成績も中ほど、兎に角落第さえせずにいればよいぐらいの心持ちであったのは疑いようも無い事実だった。

結果的に社会経験にはなったが、それと言うよりは、何となく周りがそうだったからと言うようにアルバイトをしていたし、勉学も特段励んだりはしなかった。

 

身体を動かすこと自体は好きであったから、毎日ランニングと筋力トレーニングはしていたが、自衛隊に進む訳でもないからそれが何の役に立つのかと言われると、すぐには答えられない。

まぁ、筋肉が無いと骨やら間接を支えられなくなるとか、やらないでいるよりはやった方が良いであろう、とは言える。

 

 

そう考えると、本当に俺が元居た世界でどんな人生を歩んだのか全く想像出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

何冊か読み進めていると、1700、終業を告げる喇叭が鳴り響く。

栞を挟んで、椅子から立ち上がり身体を伸ばす。

 

ポキポキと音が鳴る。

停泊している艦上からも、それぞれ喇叭が鳴り響き、喇叭手の上手下手が随分と分かり易い。

鎮守府での喇叭手も、上手い奴はとんでもなく上手いが下手な奴はとことん下手だからなぁ。

 

そこで音程がズレるのか、とか聞いていて飽きることは無い。

瀬戸内海が茜色に照らされ、多くの艦が浮かぶ光景は良いものだ。

 

恐らく、鎮守府や各艦上に居る戦史記録係達がカメラにこの光景を収めていることだろう。

戦史記録係は、いわば民間の従軍カメラマンと同じであり、その立場が軍人であることが違うだけだ。

 

今まで多くの写真を収めており、それらはデータや現像された写真として残されている。

作戦時ではない、平穏な時の日常や訓練から、砲弾銃弾飛び交う戦闘中や戦地での生活や行軍のものまで様々だ。

それらは軍の広報活動に使われたり、単純に機密情報が写ってしまった写真以外は公開される。

 

機密とされている写真も、後年に必要とする者達が現れるであろうから可能な限り残してある。

特に艦艇の記録写真は貴重で、太平洋戦争中に失われた情報を大きく補完するものである。

 

それらは全て残すべき遺産であり、将兵達がどのような思いで戦い、死んでいったのかを後世に残さねばならない。

 

 

 

 

1800になると、龍田が拵えてくれた晩飯を二人で食べる。

相変わらずの美味さであり、おかわりしてしまうほどだ。

 

食事を終え、少し休憩をした後にランニングに出掛ける。

1時間ほど走り、1時間ほど筋トレをした後に風呂に入って同時に歯を磨く。

 

時刻は2140であり、消灯時間まではまだ幾分か時間がある。

警衛業務や夜勤業務に指名されている者以外は、外泊を許可されていない者を除いて余程の理由が無い限りは基本的に2200には消灯となる。

 

艦橋などから漏れる灯りも随分と見慣れたものだ。

 

龍田と少しばかり雑談をして、消灯時刻になる少し前に龍田は帰っていく。

鎮守府敷地内には艦娘専用の寮があり、警備は下手をすれば俺よりも厳重だ。

 

許可無く近付くとそれだけで二日間の独房ないしは営倉行きである。

因みにそれは俺も同様で、もし彼女達の寮に俺が近付いたとなれば容赦無く独房か営倉にぶち込まれる。

 

 

 

龍田を見送った後、ベッドに潜り込む。

本当ならば少しでも仕事をしたいところであるが、これでバレたら俺が怒られるのは当然だが龍田も怒られてしまう。

 

だからさっさと寝てしまうのだ。

夜更かしをするほどの理由も無いのだからな。

 

 

 

翌日も大して変わりない休日を過ごし、そうして俺の休暇は終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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