第1次リアウ諸島沖海戦
資源の大規模輸送を企図する日本艦隊と、それを阻止し撃滅しようとした深海棲艦艦隊との間に起きた空母対空母の航空戦の総称。
この海戦は第2次バンカ島沖海戦(と言っても夜戦による戦艦を主力とする艦隊同士の砲撃戦だが)に繋がる。
出撃からバシー海峡通過までは特段、これと言って問題は無かった。
さて、今更だが艦隊の配置を記しておこう。
春月
秋月 照月
摩耶 那智
飛龍
宵月 金剛 霧島 花月
瑞鶴
満月 鈴谷 古鷹 涼月
蒼龍
能代 霜月 矢矧
神通
初月 若月
陽炎
タ タ タ タ タ
タ タ タ タ タ
雪風タ タ タ タ タ浦風
タ タ タ タ タ
タ タ タ タ タ
萩風 愛宕 村雨
隼鷹
時雨 輸 輸 輸 輸 初雪
輸 輸 輸 輸
輸 輸 輸 輸
響 輸 輸 輸 輸 朧
龍田
浦波
以上の様になった。
各艦の距離は輸送船は200m。戦闘艦艇は250m。
艦隊の速度は18ノットで進み戦闘行動時には輸送船団を第1機動艦隊と第1戦隊から分離する。
基本は空母と輸送船団を中心に輪形陣を組み、それらを防護する。
基本的に第1機動艦隊は対艦攻撃能力が空母3隻の艦載機と重巡2隻、軽巡2隻の砲撃能力しかない。
と言うのも第1機動艦隊護衛に就いている秋月以下10隻の駆逐艦は、主砲を対空対艦対地をこなせる陽炎や雪風達に装備されている50口径3年式12.7cm砲ではなく、65口径10cm連装高角砲を装備している。
この65口径10cm連装高角砲は、高角砲と名前が付いている通り対空戦闘を主目的とする対空砲だ。まぁ初速はこちらの方が早いので距離などによっては貫通力などは勝るかもしれない。
まぁその辺の問題は第1戦隊が十分な性能を持っているために特段問題は無い。
戦艦金剛、霧島、重巡古鷹の3隻は対水上電探を突貫作業で装備させた。対空電探は残念ながら間に合わなかった。
まぁそれは置いておいて。
バシー海峡通過後、敵艦隊を追尾していた伊403から通報が入った。
『敵艦隊、リンガ泊地ニテ合流後、リンガ泊地カラ東13海里ヲ航行中。貴艦隊方向ニ向カウ。警戒サレタシ。1047』
敵艦隊が遂に動き出したということだ。
「提督、今我々が居るのはルソン島バンギー湾から西に50海里の凡そこの辺りです。敵艦隊との距離は未だ2000kmはあります。彩雲を持って敵艦隊を偵察ならば可能です。ですが攻撃隊の発艦は無理でしょう」
「そうだな……ひとまずここは潜水艦隊にそのまま追尾させよう」
「了解しました。念の為に対空電探や対水上電探を稼働させますがよろしいですか?」
「あぁ、構わん。奇襲を受ける事だけは避けねばならん」
「ご最もです」
しかしまだ2000kmも離れているか。
先程も言ったがこの距離だと攻撃隊を向かわせる事は不可能だ。
敵機との戦闘も考えると300~400海里(1海里1825mとした場合約550km~730km)まで近づかないとならない。
烈風の航続距離は1960km(約1074海里)(増槽付き)+全力運転だ。これじゃどうやっても無理がある。
流星の航続距離約3000km(約1644海里)ならば行ってくるだけなら可能だが帰って来ることは不可能だ。
短い烈風に合わせるとなると単純に往復するならば440海里、800kmでも大丈夫だろう。だが被弾等を考えると400海里以下、350海里でどうか?と言うところだろう。
所謂アウトレンジ戦法というやつだ。敵戦闘機の航続距離はこちらよりも短い為に成せるが搭乗員への負担が大きい。だから可能な限り距離を詰めてからでないと攻撃隊は出せない。戦闘機隊の原田大佐達ならどうってことない、平然とやれるだろうが流星隊は駄目だ、と断言する。
先のバンカ島沖での攻撃隊に参加していた飛龍、蒼龍の連中でもここまで距離は遠くなかったからな。瑞鶴流星隊は無理だ。実戦経験が無い。隼鷹流星隊も実戦経験が無いからな、万が一参加するとなると無理がある。
そう言う訳で今、攻撃隊を出すことは見送られた。
「提督、輸送船団はどうする?このままこの海域で留まらせても問題無いと思うけど」
「……もう少し進んだら偵察機を出そう。流石に潜水艦からの情報だけだと不安が残る。その時に輸送船団と我々は分離する。」
「了解。1200で良い?」
「あぁ、構わん」
そう言う訳で1200に偵察機が放たれることになった。
偵察機を放って我々は敵艦隊方向に進む。既に偵察機を放った時に輸送船団とは分離し、分離した海域で輸送船団は遊弋している。
偵察機を放ってから1時間程経った頃。
「提督、伊403から報告が」
「読み上げてくれ」
『我伊403。敵空母カラ発艦スル機影アリ。針路ハ貴艦隊方向。対空警戒ヲ厳トサレタシ。1312』
「……敵の偵察機か」
「恐らくは」
「こちらの偵察機は?」
「片道で2時間半は掛かるので……敵艦隊を視認するまではあと1時間は掛かるかと」
「そろそろ直掩戦闘機を上げておいた方が良だろうか?」
「敵の偵察機は彩雲の様な専門の機体ではなく雷撃機が務めることが多いです。機種はTBFアヴェンジャーと思われますが、航続距離は彩雲の半分程度です。対空電探を使用するのには問題無いですが直掩戦闘機を今から上げるとなるとまだ早いかと」
「では、直掩戦闘機を上げるのは何時頃が良い?」
「早くても1時間後で問題無いでしょう」
「ならそうしよう。対潜警戒も忘れるな」
「問題ありません。ソナーは常時稼働していますが敵潜の反応はありません」
「それなら良いんだが」
その会話から1時間後、偵察に放った彩雲が敵艦隊発見の報告を発した。
『我彩雲2号機。敵艦隊発見ス。空母ヲ級2、ヌ級1、戦艦ル級2、重巡リ級3、他随伴艦多数ヲ含ム大艦隊。速力ハ20ノット、方角我ガ艦隊ニ向ケテ北東二航行中。1437』
それに続いて敵艦隊の詳細な位置情報を送ってきた。
その電文の20分後、偵察機からの連絡が途絶えた。恐らく撃墜されたのであろう。
彼らが命と引き換えに俺たちに与えてくれた情報によると、敵艦隊はリアウ諸島ラナイより北に100kmの地点まで進出してきているらしい。
そして俺達の現在位置は南沙諸島と西沙諸島の丁度中間地点をリンガ泊地方向に向かって南下している。
「敵艦隊との距離は350海里です。この距離ならば敵艦隊へ攻撃隊を放っても問題は無いと思われますが……」
「問題は、それじゃない。攻撃兵力をどうするか、と言う事だ。敵のヲ級は1隻で90機を超える艦載機数を誇る。下手をすると100機に届く。ヌ級も45機を超えるからな……」
「えぇ、3隻合わせて最低でも250機を数える事になります対してこちらは彩雲を入れて205機……厳しいですな」
「艦隊の直掩と、攻撃隊に随伴させる戦闘機隊の数のどちらを優先的に取るか、が一番の問題ですね」
戦闘機の数だけでもこちらは97機、向こうはこの1.5倍は居ると思っていい。これでは攻撃隊に向かわせられるのは多めに見積もっても50機程度なので敵戦闘機の数に押される。原田大佐以下、戦闘機隊搭乗員の技量が高いとは言っても数で囲まれてしまうと流星を守るのは難しいと言わざるを得ない。
攻撃機である流星は78機と、あまり多くない。
全力出撃を行うと仮定し、急降下爆撃機を多めに見積もって飛龍、蒼龍は魚雷を27本、瑞鶴は45本しか搭載出来ない。正直、半分に分けても魚雷は2回出撃すれば尽きてしまう。
敵戦闘機の迎撃、対空砲火、敵だって馬鹿じゃないんだから回避行動を行うはず。命中率は流星の搭乗員に賭けるしかないが、実戦経験のない新米の彼らの技量を考えると大損害を与えるのは難しい。
「山田参謀長、どう見る?」
「攻撃隊を出撃させる事は可能です。ですが確実に敵空母にそれ以降の航空機運用に支障をきたすレベルの被害を出させられるか、と聞かれると……」
「首を傾げてしまう、か」
「艦長はどう思う?飛龍は?」
「私も同じ意見です」
「私も同じ意見だね。今ここで艦載機と搭乗員を無駄に消費しちゃうのは後々の事を考えると薦められる事じゃないね」
念の為、皆にも聞いてみたが俺と同意見だった。
「しかし、攻撃しないと言う訳には行きません。潜水艦隊には存在を悟られずそのまま偵察任務を続行して貰わなければならないので雷撃を仕掛けろ、と命じる事も出来ません」
参謀長はそう言ってくるが確かにその通りだとは思う。
だが補給のめどが無い我々は無理をする事は出来ない。
全員で頭を捻る。
はてさて、どうしたものか……
そう考えていると、妙案を思い付いた。
「……敵艦隊を攻撃しなくても良いのではないか?」
「は、それはどういう事でしょうか?」
「まぁ待て、ちゃんと説明するから」
俺の発言によって艦橋内に居た全員が首を傾げた。
そりゃそうだ、俺だってそんなことを上官が言い出したら首を傾げる。
「簡単に言えばだな、迎撃に徹すればいいのではないか?と言う事だ」
「迎撃に徹する、ですか?」
「その通りだ。何も無理をして攻撃をせずとも敵の艦爆や艦攻を落としてしまえばこちらの艦隊には手出しできないし、何より敵戦闘機隊は艦爆、艦攻を守らなければならないと言う足枷を嵌められているからな、思うようには行動出来ん。ならばその隙をついてしまおうと言う訳だが……どうだ?」
参謀長と艦長、飛龍達は俺の話を聞いて互いに話し合う。そして代表して参謀長が口を開いた。
「……案としては今の我が艦隊の艦載機数を考えると最も効果的である、と考えます」
「なら、実行可能か?」
「搭乗員の負担を考えても攻撃隊を向かわせるよりは楽でしょう、端的に言えば実行可能です」
「……流星を迎撃機に使う事は出来るか?」
「流星を、ですか?」
「あぁ、流星には翼内に20mm機銃を2門装備しているだろう、それに烈風程ではないにせよそれなりに格闘戦もこなせる筈だ。それなら敵機を落とすこともできるんじゃないか?」
「撃墜は出来るでしょう。ですが、搭乗員達の練度が問題です」
「本来流星の搭乗員達は雷撃と急降下爆撃の2種類の訓練しかしていません。敵機を追いかけて銃弾を叩き込む、と言う訓練はしておりません。迎撃に上げても敵機を落とせるかどうかは個々人の才能に頼らざるを得なくなります」
「更に言えば、その次にすぐ様攻撃隊を送り出すことが出来なくなってしまってしまいます。銃弾はいいとして、再度燃料を積み込む時間と魚雷、爆弾を装備させる時間が余計に掛かってしまいます」
「だけど、取り敢えず数を揃えなきゃいけないって言うんなら何とかなるかも」
「……取り敢えずは、燃料の積み込みだけはして発艦準備だけさせておこう。全機空中退避させるんだ。1隻でも空母が生き残れば敵艦隊を攻撃する事は出来る」
「ミッドウェーの時の私みたいに?」
「まぁ、その通りだな」
「では、烈風、流星全機に出撃準備をさせます。雷装、爆装はさせずにと言う事でよろしいですね?」
「あぁ、それで進めてくれ」
そして、それから空母3隻の艦載機全てに燃料と銃弾が積み込まれて行き、発艦の時を今か今かと待ち侘びていた。
さて、今更だが輸送船団と分離した我々第1機動艦隊と第1戦隊の陣形は以下の通り。
春月
秋月 照月
摩耶 那智
宵月 飛龍 花月
金剛 霧島
満月 瑞鶴 涼月
鈴谷 古鷹
初月 蒼龍 若月
能代 矢矧
雪風 神通 浦風
萩風 霜月 村雨
陽炎
空母3隻を中心に輪形陣を組み、その外側には戦艦、重巡、軽巡を配置。
そして更にその外側を駆逐艦達で固めた。
各艦の距離は500mと結構離れているが、これは回避行動を取るとなった時に200mだと近すぎて衝突の危険性があるからだ。まぁこの距離でも危険はあるがこれ以上離れてしまうと対空砲火が分散してしまう可能性があると言う事で衝突ギリギリの距離になってしまった。まぁ、こうなっては戦闘機隊の活躍に期待するしかない。
それから1時間後。
彼我の距離は300海里(約550km)まで接近していた。
そこへ、対空電探に反応が出た。
「対空電探に感あり!南約70kmに敵機と思われる反応を確認!」
「直掩戦闘機を向かわせろ」
即座に直掩に就いていた烈風を4機向かわせる。
程なくして烈風から敵機撃墜の報告が入った。
「提督、これは敵機に我が艦隊の凡その位置を発信されたと見るべきです。攻撃隊が向かってくるのも時間の問題です。戦闘機隊をすぐさま上げましょう」
「分かった。全艦に対空戦闘用意を下令。蒼龍、瑞鶴に戦闘機隊を発艦させろ。余裕があったら流星も上げてくれ」
「了解しました」
その命令の10分後、昇降機によって飛行甲板に挙げられた烈風は既に燃料や銃弾を満載させ3隻の空母から続々と飛び立っていく。今回は飛行甲板に並べずに飛行甲板に上げた機体からどんどん発艦させていく。
その発艦作業が始まってすぐに伊403から報告が入った。
『我伊401。敵空母3隻カラ敵機ノ発艦ヲ確認。警戒サレタシ。1545』
「提督、敵攻撃隊の発艦を確認しました。早ければ2時間程で到達するはずです」
「今は、戦闘機隊に賭けるしかないさ。……流星はどうだ?」
「各空母で10機ずつ程が発艦準備を終えています。どういたしますか?」
「上げてくれ。艦に残して置いたら被弾した時に大惨事になる」
「了解しました。準備が終わっていない機体に関してはどういたしますか?」
今の格納庫内にある流星は、弾薬や燃料を少なからず搭載してしまっている。
万が一被弾した場合、それらに引火してしまうと地獄絵図の完成になってしまう。ならば大急ぎで準備を終えさせて発艦させなければならない。
「……出来るだけ急いで準備を進めて発艦させろ。銃弾は積まなくていいから敵機の攻撃開始約30分前までには完了させるように、手隙の整備員も全員回せ」
「了解しました。直ぐに通達します」
かなり早め早めの行動になっているがまぁ、問題無いだろう。
烈風の発艦が終わり、てんてこ舞いの大騒ぎになっていた格納庫内は、その騒ぎは収まることなく続く。先ずは出撃準備の終わっている10機の流星が飛行甲板に上げられていき発艦していく。
既に戦闘機隊は迎撃に向かう。艦隊より南に150kmの辺りで敵攻撃隊を待ち構える。
暫くすると、敵機との戦闘を開始したと言う電文が送られてきた。
ーーーー side 原田 ----
飛龍を飛び立って、提督から指示された地点(南に150km)で敵の攻撃隊を待ち構える。
「全機、異常無いか?」
『『『『『『『『無し』』』』』』』』
迎撃に上がっている烈風全機に異常の有無を確認すると、返事が返って来た。
それなら問題無い。
しかし、提督も思い切ったことをするものだ。
攻撃隊を出さずに迎撃に専念、しかも流星まで迎撃機として上げるとは。普通ならば敵よりも先に攻撃し、その戦力を削るのだが提督は攻撃隊を守る烈風と艦隊を守る烈風に分ける事を良し、としなかったのだ。
まぁ確かに敵艦隊に向かった時、敵戦闘機との戦いを考えれば半々の数である48機でも守り切ることは難しい。だが迎撃に専念するとなると97機全機で一方的に迎え撃つことが出来るし、足りない手数は流星で補う事が出来る。
流星は烈風程ではないにせよそれなりに機動能力を持ち合わせている。まぁ攻撃機にしては必要か?と思うようなレベルだし、更に言えば20mm機銃を2門と重武装だ。
頑丈な深海棲艦機と言えども20mm機銃2門は侮れない。
俺達が発艦して空中集合し、暫くすると流星が30機合流した。そのまま指示された地点に向かい待機する。
暫くすると、敵艦隊の方向から黒い点々が空を進んでくる。
「敵機だ!まずは烈風が突っ込んで敵戦闘機を抑える!流星は俺から指示が出るまで待機だ。指示が出たら敵の艦爆や艦攻を落としてくれ。いいか、絶対に深追いはするな、一撃離脱を心掛けろ!」
矢継ぎ早に指示を出して、俺は烈風を率いて敵編隊に突っ込む。
流星隊は敵編隊の直上から急降下一撃離脱を狙うのか少しばかり遠回りして高度を上げていく。
それを横目に見ながら一気に突っ込んでいく。
すると、やはりと言うか必然的に敵戦闘機が前に出て機銃を乱射してくる。所謂ヘッドオンと言うやつだが態々乗っていやることはしない。
そのまま全機は回避を行い敵が俺達の後ろを抜けていった瞬間に一斉に反転。俺達はこの程度で落とされるような訓練はしていない。何機かは被弾したのか多少煙を吐いてはいるが戦闘に支障は無さそうだ。
反転した俺達に狙いを付けられた哀れな深海棲艦機は炎を吐いて落ちて行ったり翼を叩き折られクルクルと周りながら、操縦席をぶち抜かれた奴は急激に高度を落としていったりする。
パッと見ると敵はF6FとF4Uが半々ずつ。その後ろに攻撃隊が70機ほど見える。
だが敵戦闘機の数は我々烈風隊と同数かそれよりも少しばかり少ない。これならば余裕で格闘戦に巻き込める。
「全機散開!格闘戦に移れ!相互援護を忘れるな!」
その指示が出た瞬間、一気に散開、それぞれ手頃な敵機に狙いをつけ追い掛け回し落としていく。
俺も目の前にいるF6Fに向かって20mm機銃と13mm機銃合計4門をぶっ放す。
するとしっかりと射弾は敵の翼を捉え圧し折った。
零戦じゃ20mm機銃の弾数に不安があった。しかも使い切ってしまうと7.7mm機銃となんともひ弱なものに頼らざるを得なくなってしまう。
これじゃ深海棲艦機には幾ら撃ち込んでも落とせない。が烈風はそんなことは無いから遠慮無く撃てる。
後ろを見るとF4Uが1機、俺に食いついてきたがその瞬間に俺を落とせなかった時点で負けだ。
ひらりと機体を翻して敵機の後ろに付く。そして難無く落とすことが出来た。
一度、離脱をして見渡してみると全体的に我々が有利に事を運んでいるようだ。するとその上空から流星が30機反転急降下、狙いをつけて撃ち始める。
だがやはり敵機を落とす訓練をしていないから10機程を度落とすに留まった。
だがそれに比べて烈風隊は敵戦闘機隊を敵の攻撃隊をあっちこっちから襲い掛かる流星に手出しさせまいと喰い付いて追い掛け回す。
俺もうかうかしていられない。
取り敢えずは、あの後ろを取られて逃げ回る部下の1人を助けに入ろう。
「全機戦闘終了!集まれ!」
そろそろ艦隊の対空射撃が始まる。
恐らくは金剛と霧島の主砲が火を噴く頃合いだからこれ以上敵機を追うと巻き込まれてしまう。同士討ちだけは避けねばならない。
号令を掛け、全機が集まる。
見てみると、烈風隊は97機だったのが85機ぐらいまで減っているな。
流星は……7、8機落とされたか。
だが脱出した奴も多いからな、戦闘終了後に回収してやらねばなるまい。
艦隊に向かったのは大体攻撃機は、急降下爆撃機が約10機、雷撃機が約20機に戦闘機が40~50機の合計70~80機ぐらいか。
その情報を艦隊に向けて発信する。それが終われば後は空母に帰還するだけだが戦闘が終わるまでは無理だな。
被弾した機も少なくは無い。
翼から燃料が漏れ出ている機体やエンジンから煙が出ている機体もある。なるべく早めに着艦させたいが……
おぉっと、対空戦が始まったようだ。
向こうの方にデカい花火が撃ち上がったぞ。
ありゃ金剛か霧島の三式弾だな。
今俺達に出来る事は全艦が無事に空襲を乗り切ってくれることを祈るばかりだ。
ーーーー side out ----
原田大佐から急降下爆撃機10、雷撃機20機、戦闘機40~50機が烈風と流星の迎撃をすり抜けてこちらに向かってきていると報告が入った。
この内完全に脅威となるのは急降下爆撃機と雷撃機の30機だけだ。戦闘機は直接的に船を沈める事は出来ないからな。それこそロケット弾や爆弾でもぶら下げていれば別だが報告には無い。もし戦闘機が爆弾なりロケット弾なりをぶら下げてきているのなら原田大佐が見逃す事も報告し忘れる事も無い。
「全艦、対空戦闘用意」
再度下令されたその命令に従い慌ただしく動く妖精達。
「金剛、霧島に主砲三式弾射撃を命じてくれ」
「既に準備は整っております」
「ありがとう。全艦、射程に入り次第撃ち方始め」
「了解」
すると、金剛と霧島それぞれの艦前部主砲45口径35.6cm連装砲2基4門づつが
空に向けてその大きな砲身を向けた。
それだけではない。重巡の4隻や軽巡、駆逐艦までもが主砲や対空砲、機銃を一斉に向ける
その十数秒後、とんでもなく大きな砲声と共に金剛と霧島の主砲から対空用の三式弾が8発飛んで行く。
「金剛、霧島、命中弾を得ず。続けて第2斉射を始めます」
放った三式弾は敵編隊を捉える事は出来なかったようだ。
その後にもう一度撃った三式弾も駄目だったようだ。艦橋で悔しがる金剛の姿が目に浮かぶようではあるがそんな事を気にしている場合じゃない。
金剛と霧島の主砲の照準から外れると続いて重巡組の主砲から三式弾が一斉に打ち出される。するとその内の何発かが敵機の内の何機かを捉えたようだ。
「……2機撃墜です」
山田参謀長が双眼鏡を覗いてそう報告してくる。
だが重巡の主砲の射程からも外れ更に進んでくる。
すると、駆逐艦の主砲と高角砲が一斉に火を噴いた。
軽く100門を超える数が一斉に射撃を始めた。その射撃速度は戦艦や重巡の主砲の比じゃない。遠くの空が瞬く間に黒い爆煙で覆われ始めた。
だがそれだけ撃っても落ちていく機体は無い。
飛龍も例に漏れず撃ちまくっているから砲声が近くで聞こえる。
「提督、しっかり何処かに掴まっててね。回避運動を取ったり、万が一被弾したら吹き飛ばされちゃうから」
「あぁ、分かってる」
初めてこんなにも恐ろしい経験であるのにも関わらず、どうにも、随分と落ち着いている。こういう時は緊張したりして暑くなるものだと思っていたんだがやけに冷えている。
視界も冴えていて飛んでくる敵機が良く分かる。
「敵機二手に分かれました!雷撃機12!急降下爆撃機21!」
見張り員が大声で叫ぶ。続いて別の見張り員が大声で叫んだ。
敵機が更に近づいてくる。
すると機銃の射程内に入ったのか一斉に火を噴いた。
連続した対空砲よりもずっと小さい射撃音があちらこちらから響いてくる。空に向かって射弾が伸びていき敵機を落とさんとシャカリキになって撃ちまくっているが残念ながら堕ちる機は無かった。
だがどの艦のものかさっぱり分からないが4機の急降下爆撃機と2機の雷撃機が火を噴いて海面に突っ込んだ。
だが全機を堕とす事は出来ない。
先ず雷撃機に狙われたのは蒼龍だった。俺の乗り込んでいる飛龍と瑞鶴は前後左右を重巡と戦艦にがっちりと囲まれて対空機銃や対空砲の弾幕も分厚い。
だが蒼龍は後ろ側を能代、矢矧と神通と軽巡に守られていて飛龍と瑞鶴よりは対空機銃や対空砲は薄い。だから敵機はあれならやれると思って狙ったのだろう。だがそれは大間違いだ。戦艦や重巡との対空砲火の差を埋める為に機銃がハリネズミの様に機銃を増設したのだ。寧ろ戦艦や重巡よりもずっと機銃の弾幕は分厚い。
そんな中に飛び込んで更に雷撃機は3機が海面に叩き付けられた。
残った7機の雷撃機はこれは狙えないと判断したのか狙いを金剛と鈴谷に変更した。
勿論そう簡単に魚雷を食らってやる理由も無い。
そもそも艦隊が既に30ノットの高速で疾走しているのだ、ただ命中だけでも難しい。
だが雷撃機だけじゃない。上空からは急降下爆撃機も迫りつつある。
その数を16機に減らしてもなお突っ込んでくる。
「敵機直上!急降下ァァ!!」
「艦長!回避行動を取れ!!!」
「取舵一杯!(左)」
「取舵一杯宜候!」
そして遂に急降下を始めた。敵急降下爆撃機が狙ったのは飛龍とその後ろを航行していた瑞鶴だった。それぞれに8機ずつ突っ込んでくる。
その血気迫る勢いは腹に抱えた爆弾を必ずぶち当てて堕とされた仲間達の無念を晴らそうと言わんばかりだ。
俺は艦長に回避するよう怒鳴る。
必死に操舵員が舵を回すがこれほどの巨体を持つ空母が30ノットと言う高速で航行しているのだ、舵は瑞鶴程ではないにせよ中々利かない。
急降下してくる敵機にこちらも空母をやらせはしない、空母を守らんと周りの駆逐艦や金剛達は必死に機銃を撃つが撃墜したのは4機に留まった。
それぞれ6機が突っ込んでくる。
そして漸く舵が聞き始めた時、敵機が投弾した。
1発目は舵が利いたからか予測針路がズレて艦首のすぐ近くに大きな水柱を上げるだけだった。
「1発目至近弾!」
続けて2機目、3機目と投弾するがそれらも外れた。
4機目も飛龍が取舵から面舵(右)へ変更したときに投弾したが外れ。
続けて5機目と6機目が連続して投弾した。
「!!敵弾1発直撃コース!」
「総員衝撃に備えろ!」
艦長が大声を上げて全員が衝撃に備えたその時だった。
「提督!危ない!」
飛龍が俺を艦橋の床に押し倒し庇う。
ドォォン!!
そのすぐあと、大きな爆発音を立てて敵の爆弾が前部甲板の艦首に近い場所のど真ん中に1発命中した。
ドォォン!!
続いて艦橋付近に1発命中。
顔を上げると飛行甲板の二か所から黒煙と炎を上げている。
合計2発の爆弾を食らった。
「艦長!ダメージコントロール急げ!」
俺がそう声を上げたときには消火用ホースを持った妖精が火の手を上げている甲板に向かって放水を始めていた。
瑞鶴の方を見ると、遅れて投弾したのか最後の1機が投弾した瞬間だった。
だがその爆弾は瑞鶴の艦橋を捉える事は叶わず水柱を立てただけだった。
ーーーー side 鈴谷 ----
敵機の空襲が始まった。
機銃弾をばら撒いて必死に敵機を落とそうとするけれど中々落ちない。
そして私達は雷撃機に狙われた。
左舷から突っ込んでくる雷撃機。
そして距離が800mを切った時、敵雷撃機が魚雷を投下した。
「敵雷撃機魚雷投下!距離800!」
2機の雷撃機が次々に投下。白い航跡を描きながらスルスルと私に向かって伸びてくる魚雷を巻き込んで回避するために、私は取り舵を命じた。
「取り舵一杯!」
「取舵一杯宜候!」
操舵員が舵を回す。
少しすると舵が利き始めたのかグググッ……っと左に曲がり始めた。
よーし、この分なら避けられる。
そんな事を思って提督が乗っている飛龍を見た時。爆弾が命中しているのが見えた。
黒い煙を飛行甲板から、もうもうと上げているのがはっきりと分かる。
あぁ!?提督は!?飛龍さんは!?無事なの!?
そう思った時だった。
見張り員の1人が大声を上げて叫んだ。
「敵雷撃機更に1機が魚雷投下!距離400!」
あの雷撃機、私達が取舵をするのに掛けたんだ。
だからタイミングをずらして投下したんだろう。
もう400mじゃ回避のしようが無い。
「総員衝撃に備えて!」
ズドン!!!
爆弾を食らうよりもずっと重い衝撃が艦全体と私を襲った。
大きな水柱が空に向かって聳え立ち、少しするとドドドドド!と言う音と一緒に海水が降り注ぐ。
命中したのは艦中央部。
「ダメコン急いで!浸水を何としても食い止めて!」
私は大声で叫ぶ。
敵機はもう飛び去った後だった。
被害は艦が浸水によって5度傾いた。
だけどこれは反対側に注水すればすぐに修復できる。
ーーーー side out ----
雷撃機に狙われた金剛と鈴谷は、回避を続けている。
だが敵の技量も高かったのだろう。投下された魚雷7本の魚雷の内の1本が鈴谷の艦中央部で爆弾とは比べ物にならない大きさの水柱を立てた。それが意味するのは命中した、と言う事だろう。
それを最後に敵機は飛び去って行った。
空襲終了後、艦長が被害を纏めて報告してくる。
「提督、我が飛龍に命中したのは250kg爆弾が2発です。飛行甲板艦首付近と艦橋付近に1発づつですが幸いにも格納庫に可燃物となる機体などが無かったため飛行甲板に穴が空いたのと火災が発生しましたが消火は完了。1時間後には飛行甲板も応急修理で穴を塞ぎ終わります。被雷した鈴谷ですが浸水の影響で左に5度傾斜したようですが注水によって復元。戦闘行動に支障無しとの事です」
「そうか……良かった。それで、飛龍は機体の収容は出来るか?攻撃隊の発艦は?」
「修理が完了すればどちらとも問題無く行えます」
「もし修理が終わってから攻撃隊を発艦させるとなるとどれくらい時間が掛かる?」
「……最短でも1時間半は掛かるかと思われます」
「そうか……」
1時間半か。
そうなると攻撃隊が帰投するころには真っ暗になってしまう可能性があるな……
飛龍、蒼龍の戦闘機隊の連中ならまだしも瑞鶴の戦闘機隊や流星隊は夜間の着艦は危険すぎる。
だがこのままだと再び攻撃を受ける事になる。
「艦長、何とかして30分に修理時間を縮めてくれ。修理完了次第迎撃隊を収容、攻撃隊を編成する」
「了解しました。すると、攻撃隊を出すのですね?」
「あぁ、勿論だ。やられっぱなしじゃ誰も納得出来んだろう」
俺がそう言うと艦長を始めとした艦橋の全員が歓声を上げた。
「飛龍」
「ん?どうしたの提督」
「さっきは庇ってくれてありがとう」
「んーん、どういたしまして。怪我とか無い?」
「あぁ、お陰でな。飛龍はどうだ?大丈夫か?」
「うん、大丈夫。まだまだ戦えるよ。だからそんな心配そうな顔しないでどっしり構えてて」
「……あぁ、分かった」
先程、俺を庇ってくれた飛龍に礼を言った。