第13話
日本へ帰国後、市木大将からの命令を受けて南西諸島奪還作戦の準備に取り掛かっていた。具体的には艦隊の再編と母艦航空隊の再建及び錬成だ。
と言っても343空の戦闘機隊の方は補充機体と拡充の人員の訓練だけだったので問題無く終わった。整備班の妖精達も母艦航空隊が大きくなるにつれて人員は増やされて来て、問題無く全機を整備したりできるまでになっているし、新米と言われる妖精達も毎日毎日整備訓練用の機体を烈風、流星に限らず何機分か確保していたからどんどん腕が上がって行っている。
だが流星隊の方は全くと言っていい程に再建が進まなかった。そもそも先の海戦で甚大な被害を被りほぼ壊滅したと言っていい具合だった。
そこに輪をかけて工場で生産される流星の数が少なかった、と言う事も再建が進まない理由の1つだ。先ず流星の生産工場は愛知県と栃木県山中の大本営と併設された合計2か所しかない。
だがここ最近、関東や東海方面への空襲が激しくなってきているのか愛知工場が空襲に晒されたのだ。愛知工場の生産ラインは5つあり、それらをフル稼働させれば月産50機は数えるであろうと予想されていた。
栃木県山中の工場は生産ラインが1つしかなく、未だに工場施設の建設や移管が進められているが進んでいない状況だ。
そんな中愛知工場の5つの生産ラインの内、4つが空襲で破壊されたのだ。
幸いにも開設されたばかりで生産施設への被害のみで資材などの被害はなかった。だがお陰で月産10機にまで生産能力が低下し、母艦航空隊へ送られてくる流星は合わせて月に20機だけというかなり危機的状況だ。お陰で工場から送られてくる流星の数が少ない。人員は居るのに機体が無いと言う状況が続いた。漸く機体が揃っても搭乗員が未熟で空母どころか陸上の基地での離着陸すらままならないと言う者までいる始末。
これでは母艦航空隊の再建どころではない。
流星を全ての空母に完全に行き渡らせるにはこのままだと10か月は掛かる。だがそんなに長い時間は待っていられない。
大急ぎで工場の再建が進められている。
現在主力級の空母は全部で飛龍、蒼龍、瑞鶴、隼鷹、飛鷹の5隻だ。
鳳翔は練習空母として母艦航空隊の錬成を行っている。と言っても烈風や流星では無く零戦52型や天山と言った旧式機を使っての発着艦訓練だ。
更にその後、それぞれの空母へ配属された後に自身の操ることになる烈風や流星での地獄の訓練に身を置くことになる。
だがそれでも母艦航空隊の練度や充足率はまだまだ。もし今、敵の空母機動部隊なんかと正面からの航空戦となれば先の海戦と同じ結果になる。それだけは避けなければならない。機体は作れるが搭乗員の育成は簡単じゃないからどうにかして被害を抑えなければならないのだが、一番手っ取り早いのが搭乗員の練度向上、と言う訳だ。
艦の乗組員の訓練の方は問題無く進んでいる。
それと航空戦艦である日向は戦艦に戻されることとなった。と言うか航空戦艦にしておいても意味が無い。搭載予定であった晴嵐の生産は潜水艦隊と水上機基地分のみとなり日向へ回される分がなくなった。更に言ってしまえば潜水艦隊と水上機基地分だけを生産しておけばいいので生産機数が大幅に減少している。元々搭載していた瑞雲は既に生産が打ち切られ、残った瑞雲も解体されて他の航空機の生産に回されてしまっている。配備されているのは極少数の訓練用だけ。それも新たに訓練用に配備される晴嵐が完成し、練習航空隊に回されればお役御免となる。
ついでに言えば南西諸島奪還作戦において沖縄本島上陸に際し艦砲射撃を実施する予定だから長門1隻だけじゃ足りない。
一応、予定としては金剛、霧島の訓練は南西諸島奪還作戦には間に合うらしいが、実際の所どうなるか全く分からない。
と言うのも思いの外、艦内の損傷が酷くその修理の為に甲板を引っ張り剥がしたりかなりの大修理になってしまい、それが影響して修理に手間取り時間が掛かった。
修理自体は終わっているから後は訓練だけだが……
もし参加出来なくなるとすると艦砲射撃を担当する戦艦が1隻だけになってしまう。だが日向を戦艦に戻して運用すれば2隻、35.6cm連装砲を6基12門となってかなりの火力となる。これを使わないで搭載機の無い航空戦艦にしておくのは勿体無いだろう。
まぁ日向自身はかなり航空戦艦から戦艦に戻されると聞いてごねられたが、日向の艦長妖精達にも協力してもらって説得し、無理矢理納得してもらった。と言うかそもそも搭載するための航空機が無いのに飛行甲板と格納庫をくっつけていてもしょうが無いだろう。空母は別問題だが。
と言うか俺に対して瑞雲の素晴らしさを延々と話して来た時は本当にどうしようかと……俺の中で勝手にだが日向は変人、と言う印象が出来てしまった。
だが日向艦長から聞いた話だが、あれでも剣術や剣道の腕は途轍もないらしい。確かに日本刀を持っているから事実なのだろう。
戦艦に改装される日向の搭載砲は35.6cm連装砲になる。予備の主砲塔と砲身を引っ張り出してきて改装工事を実施。ここでも突貫工事になってしまうが1か月程で改装が終了した。
更に海軍だけじゃない。
陸軍も南西諸島奪還作戦に備えて各種の準備を進めている。
先ず南西諸島奪還作戦に投入されるのは第23歩兵師団と第39歩兵師団及び第3機甲師団になる。合計3個師団だ。
更に海軍からも海軍特別陸戦隊2500名を先発揚陸部隊として組み込み、橋頭保の確保を担当する。
選ばれた当初、一番装備の充足率が高い師団を選び、その師団に武器弾薬を優先的に送っている。
着々と上陸作戦準備を進めている。当然海軍の揚陸艦である神州丸も参加する。
陸戦隊は神州丸に乗り込む。
それだけでなく、陸軍籍の揚陸艦も数隻、参加予定だ。
今は呉のあちらこちらで損傷艦の修理やそれに使うための鉄鉱石の製錬、装甲の製造などで響いてくる機械音と、空を飛んでいる烈風や流星が陸軍32飛行戦隊の疾風と模擬空戦を繰り広げる。更に海は練習航海中の(と言っても瀬戸内海だけだが)鳳翔達が居る。
俺が着任した頃じゃ有り得ない光景だ。
そうして南栄諸島奪還作戦に向けて妖精や艦娘達は訓練をして、俺は書類仕事をこなす。
気が付けば最後の大規模輸送作戦が終わってからかなり時間が経っていた。年が明けてもう桜が咲き始め、葉桜に移り変わる時期だ。
そうして毎日を過ごしていた時だった。
唐突にプレハブ執務室のドアが叩かれる。
「入れ」
「失礼します」
入って来たのは本日の秘書艦である熊野だった。
彼女は手に幾つかの書類を持っている。追加の書類だろうか?そこまで量は多くないからげんなりすることも無いが。
「提督、大本営から緊急電ですわ」
「大本営から?どういう事だ」
「どうやら、欧州諸国が深海棲艦の手に落ちたようです」
用件は、大本営(と言うよりは市木大将からと言った方が良いだろう)からで、欧州方面に関する事だった。
恐らく深海棲艦の猛攻に晒されていて、救援艦隊の派遣は可能かとかだろうか。
だが市木大将は艦隊の現状を良く分かっているはずだ。面子や見栄なんかで派遣しようなんて言うような人じゃない。だとするともっと別に用件あるのか?
「……それで、大本営は何と?」
「かなり微弱な電波で、ですがどうにも脱出した合同艦隊が存在するらしく」
「その艦隊の救援は可能か、と」
「そういう事ですわ。救援要請のあった艦隊は北極海を渡ってくるらしく、時期的にも海に張った氷が溶けており航行は可能です。比較的深海棲艦の数が少ない北回り航路を取ったのでしょう」
北極方面からか……
確かに今の時期は氷も解けていて、大きな流氷ぐらいなら残っているかもしれないが十分に航行は可能だ。
更に言えば、深海棲艦は南半球よりも北半球の方が数が少ない傾向にある。まぁ南半球に比べれば、と言うだけで我々からするとずっと数は多い。
「だがなぁ……救援しろ、と言われてもそう簡単に出来るものではないぞ?」
「仰る通りです。ダッチハーバーは放置しておくとしても最低、アリューシャン列島沿いの棲巣を一時的に使用不能にしなければ困難です。ユーラシア大陸寄りに航行してくれていればまだ敵陸上機の航続距離の関係で相手取るのは敵艦隊のみなので多少は楽ですが……」
「敵艦隊の規模が問題だ。今の我々の母艦航空隊は流星の数が定数分揃っていない。これじゃぁ満足に敵艦隊を攻撃出来ないぞ」
「それに敵艦隊の正確な規模なども分かっていませんから……」
「せめてそれぐらいわかっていればやりようはあるんだがな」
熊野が言った通り、合同艦隊を追撃している敵艦隊の正確な編成や規模すら不明。そうすると作戦の立てようも無い。その場その場でどうこう解決出来るほど余裕は無い。
今までの海戦も事前の潜水艦隊の偵察ともたらされた情報によって紙一重で轟沈艦が出ていなかったに過ぎない。
戦いに置いて重要なのは彼我の戦力なども確かに重要だが、敵の情報と敵にこちらの情報をどれだけ与えないか、と言う事も重要だ。敵の情報が無ければどこにどれだけの戦力で攻めてくるのか、こちらはどれだけの戦力で迎え撃てばいいのか。
そういう事が一切決めることが出来ないのだ。
例えば今、合同艦隊を追撃している敵艦隊が空母や戦艦を主力とした艦隊ならばこちらもそれに対抗するために空母と戦艦を繰り出せばいいがこれが潜水艦隊だったらガラッと編成内容が変わってくる。
そんな情報も無いのに闇雲に、あれこれ詰め込むのは愚策であると言えるだろう。
「ですが見捨てる訳にも行きません。どうするのですか?」
「北海道の航空基地に連絡して一式陸攻を偵察に出すぐらいしかできんだろう。一式陸攻ならば航続距離が6000kmもあるからベーリング海の中程辺りまでなら行ける」
一式陸攻は偵察任務の際に航続距離が6060kmにまで達する。
これほどに偵察任務に向いている機体は無いだろう。
今現在、陸海軍合同で4発重爆撃機の開発が行われているが未だに試作段階で、飛行に成功してはいるが速度が遅い事、機体の安定性に欠ける事など問題が山積みでどれだけ早くても量産段階に扱ぎ付けるのは早くても1年以上は掛かる。
少しばかりこの4発重爆撃機の説明しておこう。
何故開発が進められているのか、と言う理由についてはまず、本土を爆撃してくる敵爆撃機は基本的にマリアナ諸島か硫黄島から飛んでくる。
これを直接爆撃するにはどうしても往復で4700kmの航続距離が必要なのだが一式陸攻だと爆撃するために爆弾を装備するとなると航続距離が2500kmしかなくなる。
東京~サイパン間は往復で約4700km。
これじゃ爆撃できたとしても片道切符の特攻と変わりない。だからこの敵の爆撃機が発進する敵飛行場を爆撃するために新型爆撃機が必要となってくるのだ。
二式大艇も8223kmと偵察ならば航続距離的には問題無いが爆弾を搭載するとやはり短くなり不可能だ。
奪還、占領、維持は今の我々には不可能だ。
無駄に戦線を広げるべきではない。資源地帯である南方方面は奪還、占領、維持をするに足りるが正直言って現段階で我々にとってマリアナ諸島や硫黄島などを奪還したとしても利点や旨味が無いのだ。
長い目でみればあるのかもしれないが、今の我々が必要としているのは即座に利点が無ければならない。更に言えば我々に今一番求められるのは早期戦力回復と言う初歩的な物で、海域などの奪還は二の次、三の次だ。
南方方面は、その戦力回復をする上で必要不可欠となる各種資源の産出があるから奪還するのだ。それが無かったら奪還作戦なんて行わない。
そんな何のところを無理に占領して維持できる余裕が無い。
だから一時的にでも使用不能に出来る方が良いのだ。
話を戻そう。
「潜水艦隊が居れば偵察に出せたのですが……」
「呼び戻すにも時間が掛かるし、出来たとしても簡単じゃないだろう。ベーリング海はまだしもチュクチ海の海図が無いからな……」
熊野の言う通り、潜水艦隊が居れば偵察などが出来ただろう。
だが北方方面なんぞ完全に盲点だったのだ、南方方面に潜水艦隊は全て回して偵察任務中。
呼び戻したとしても日本に帰ってくるのには10日は掛かるし、更に整備などの準備を含めると2週間はかかるし、偵察を実施する海域へ向かうのに更に10日以上かかる。
丸々1か月もあったらとっくに合同艦隊は全滅しているか日本にたどり着いている。
「やはり、困難ですね。どうされますか?」
「……今は人情論で動くべき時ではないのは確かだ。確実な情報も無いのに艦隊を動かせる気にはならない。せめて合同艦隊を発見さえできれば良いんだがな」
本当は助けてやりたい気持ちはある。
更にその合同艦隊を海軍の指揮下に置ければ戦力が増える。
だが南西諸島奪還作戦を控えている我々にそちらに回す事の出来る戦力は、はっきり言ってしまえば無い。
「ですが良い面を見れば、戦力が増えると言う面もありますよ?」
「そうは言っても、損傷していたのなら損傷艦の数が増えるだけだぞ?ドックの空きも無い。損傷状態で係留させてしまう羽目になる」
熊野も戦力が増えると言う点を指摘してくるが、もっと考えると指揮下にいれた合同艦隊が損傷を負っておらず直ぐに作戦投入が可能な状態であるのならば構わないがそうでないとなると、俺が言った通りに損傷していて入渠待ちとなって係留されるだけになる。
まぁ、浮いていればそちらを優先して修理するからどうかは分からないが。
ドックをフル稼働で、新規に増設したりもしているが係留されていた艦は大破が殆ど。
戦艦や空母は損傷が酷く大破着底している艦も少なくない。
それらを修理するのにはまず破孔を塞いで引き揚げて、排水処理を施して……これ以外にも多くの作業工程がある。
と言う訳でかなり作業工程が多く完全修理に至るまで軽く1年は掛かるなんてざらだ。
戦艦になると、大和を例に出すがどれだけ急いでも2年は掛かる。
そんな中、更に損傷艦が増えると本当にドックで働いてくれている工員妖精達が過労で死んでしまう。
「それはそうですが……」
熊野は納得がいかない、と言った顔をしているが現実を見ているからそれ以上は何も言わなかった。
「取り敢えず、市木大将には一式陸攻の偵察を具申しておいてくれ。もし発見出来たのなら救援に向かうと言う旨も伝えておいてくれ」
「了解しました。それと、こちらの書類に目を通してよろしければサインを下さいな」
取り急ぎの指示を出して追加の書類を受け取った。
本当は偵察機も余り飛ばしたくないんだがな……
そんなことをすればこれから何か仕掛けますよと言っているようなもんだ。特に今の今までそんな事をしてきていなかったのだから絶対に何かあると感づかれるに決まっている。寧ろそれで何も思わないんだったらそれはただの無能だ。
潜水艦ならば隠密性も高く偵察に始まり、色々な運用方法があるが航空機はステルス性なんて皆無だからレーダーには確実に引っ掛かるし目視だって双眼鏡を覗いていれば見つける事は容易だろう。
まぁ、それは置いておこう。
目の前の書類を片付けてしまわなければ。
書類の内容は、鳳翔達からの訓練の報告書に始まり各種の備品申請書などなど多岐に渡る。
その日の書類仕事は夜中の12時過ぎまで行われていた。
それから4日後。
まさかの報告が飛び込んできた。
今日の秘書艦は熊野だ。射撃訓練によって擦り減った砲身交換の為に艦体はドックには入っている。普段は礼儀正しくお嬢様然としている彼女だが……
その熊野が慌ててノックもせずにドアを開け放った。
「提督!先日の欧州を脱出した合同艦隊の件で偵察に出ていた一式陸攻から報告が!」
「慌てるな、落ち着け。それでどうしたと言うのだ?そこまで慌てる事か?」
俺に指摘されてコホン、と咳払いをする熊野は居住まいを正して頭を下げて報告してきた。
「申し訳ありません、少々取り乱してしまいました」
「構わん。それで、どんな報告だ?」
「合同艦隊が発見されました。位置はベーリング海シルチョフ海嶺です。シルチョフ海嶺の真ん中辺りを航行している、との事です」
「シルチョフ海嶺か……」
「速度は?」
「17ノットで日本に向けて航行しているそうです」
「艦隊を出せば、10日程の距離か。向こうもこっちに向かって来ているから来て上手くいけばベーリング島辺りで合流出来るが……大本営は何と言っている?」
「可能ならば艦隊を出して救援に向かって欲しい、と」
「そうか……敵艦隊は?」
「まだ発見されておりません。ですがほぼ確実に近海に存在するかと思われます」
「だろうな……」
難しいところだ。救援艦隊を出せなくもないがそうすると南西諸島奪還作戦の実施時期に大きく響いてくることになる。
空母だけなら戦艦が居るよりもずっと楽に戦えるのだが、戦艦も絶対にいるだろうな。
「どうされますか?」
熊野が聞いてくる。
今現在、母艦航空隊の方は飛龍、蒼龍搭載の343空に加えて瑞鶴と隼鷹、飛鷹搭載の353空と363空が新設されている。
343空 烈風74機 流星64機 18機(飛龍、蒼龍)
353空 烈風74機 流星64機 18機(瑞鶴、隼鷹)
363空 烈風36機 流星32機 9機(飛鷹搭載)
戦闘機の数は合計184機、流星は160機、彩雲45機、合計で389機に達した。その練度も今日までの訓練で十分だ。
363空はこれから稼働することのできる空母が増えた時に規模は大きくなる。もっと増えれば更に新設されるだろうがまぁそのことは置いておこう。
343空は353、363空の模擬空戦相手として基本は毎日訓練を行っている。
343空の原田大佐以下、エース・パイロットに扱かれまくって353、363空は熟練クラスの腕前を持っている。問題と言えば新米達の実戦経験が飛来する敵爆撃機の迎撃戦ぐらいしか無い事だろうか。
これだけの機数が揃っていれば問題無いように思えるが深海棲艦の正規空母は100機搭載できるなんて普通だ。それがこちらと同数の5隻も居れば500機になる。こちらより120機程度多い計算になる。まぁ軽空母だったりする可能性もあるので一概には言えないが今回は分かりやすいからと言う事で。
気合が、根性が、精神がなんてものじゃどうにもならない差だ。戦闘機隊に限れば練度はこちらが勝っているだろうが数で叩かれればどうにもならない。
敵艦隊の有無が一番の問題だ。
敵艦隊が居ないのであれば我々は艦隊を送る必要は無いだろう。まぁ損傷艦が居るのならばそれを曳航するぐらいの艦隊を派遣することも視野に入れるが……あとは先導するための軽巡洋艦と駆逐艦1、2隻の派遣ぐらいか?
「……どうにかして敵艦隊の有無だけは確認したい。合同艦隊との通信は可能か?」
「分かりません。と言うのも合同艦隊へ繰り返し電文や無線を送っていますが返信はありませんわ」
まぁ、そうだろうな。
深海棲艦の攻撃によって無線装置なんかが壊れていたりしていてもおかしくは無い。となれば合同艦隊から敵艦隊の情報を得るのは無理だろう。
「偵察の一式陸攻から情報を得られる事は?」
「今現在、追加の一式陸攻を放って情報を搔き集めていますがどれだけ早くても12時間は掛かりますわ」
「その情報を待っている時間は……」
「恐らく無いですわ」
「ならば今決めなければならない、と言う事か……」
今決めないといけないとは何とも面倒な事態になったものだ。
まぁそこまで大規模でなければ派遣出来るが、空母は3隻が限度だ。多くても4隻。戦艦である長門や伊勢は連れて行けないな。
……よし。
「熊野」
「はい」
「飛龍、蒼龍、瑞鶴、隼鷹に出撃準備」
艦隊を派遣することに決定した。
出来るだけ少数精鋭にしなければならない。
「はい。分かりました。随伴艦隊はどういたしますか?」
「重巡摩耶と愛宕、軽巡能代、矢矧。駆逐艦は秋月、照月、宵月、雪風、萩風、浦風を。それと補給用のタンカーを4隻加えてくれ」
合計で18隻の今までを考えるとかなり小規模な艦隊だ。
と言うよりも、動かせるのはこれぐらいなのだ。先のバンカ島沖海戦での損傷艦の修理は完了している。だが金剛と霧島、那智の3隻は最後の方に修理が完了しているが先程も述べた通りだが、未だに乗組員の訓練が完了していない。
と言ってももう2週間程で完了するので南西諸島奪還作戦には一応、間に合う予定だ。(なんらかの不具合があった場合は伸びてしまうが……)
だが俺が着任する前に既に損傷していた艦艇の修理は全く進んでいない。理由としては先ずサルベージが必要な艦が多い事。大型艦は大破着底、駆逐艦は沈没しない様に柱島泊地や四国、呉鎮守府の近くにある小さな島やその海岸に無理矢理座礁させていたりするし、何よりそう言った艦は海に浮かぶだけの浮力が無い艦が多かった。ドックに運び入れる為にも浮力を確保しなければならないのだがその作業が難航している。
と言うのも浮力を得る為には海面下に沈んでいる艦体の破孔を塞ぎ、流れ込んでいる海水を排水し……とかなりやらなければならないことが多く、その作業に必要な専門機材や専門妖精が少なく同時に複数の艦を、と言うことが出来ない。
今現在、この作業を行って入渠しているのは駆逐艦が2隻だけで、それ以外に作業に着手しているのは早急に航空戦力の拡充をしなければならないと言う事で航空母艦天城の1隻だけだ。
それ以外は未だに大破着底、座礁状態のままだ。
これらの作業を行うための妖精の育成も行ってはいるがまだまだ先になる。
話を戻すが艦隊が小規模になった理由は、南西諸島奪還作戦の準備もあるが何よりもそれに備えて順次、整備点検を実施していたりとかなり間が悪い。
それが無ければ重巡と駆逐艦をもう何隻かぐらいは付けられたのだがしょうがない。
「了解致しました。燃料の積み込みなどで明日の朝には出撃準備が整います」
「あぁ、ありがとう。準備が出来たら呼びに来てくれ」
「はい、それでは失礼します」
そう言って熊野は退室した。
さて、俺も準備を整えなければなるまい。明日までに出来るだけ書類の整理を終わらせておかなければならない。
翌日、出撃準備の整った艦隊は呉軍港や柱島泊地を抜錨、豊後水道を抜けて瀬戸内海を出た。
そのまま沿岸部沿いに北上していき、偵察に出ている一式陸攻からもたらされた情報を元に合同艦隊が存在すると思われる海域に向かう。
どうやら合同艦隊はベーリング海からまだ出ていないらしくシルチョフ海嶺を超えた辺りで留まっているらしい。
どういう事だ?
我が艦隊の現在位置はカムチャッカ半島にあった港町跡のペトロパブロフスク‐カムチャツキーから凡そ30海里の沖合を航行している。
彩雲を放って偵察を実行しているが、カムチャッカ半島には深海棲艦の根拠地となる棲巣のようなものは存在していない。
一番最後にこの辺りの偵察等を行ったのは何年も前の話だったから念の為に飛ばしたが寧ろ人間が居なくなったことによるインフラ整備が行われなくなり元々道路だったと思しきものは木や草に覆われていた。
合同艦隊に関しては彩雲によって発見、その規模や陣容、損傷程度を把握することが出来た。
先ず規模に関してだが主力艦は空母2隻、戦艦11隻の合計13隻に加えて重巡や軽巡、駆逐艦が含まれる。
だが主力艦の数は比較的多いのだが随伴艦となる軽巡や駆逐艦クラスが圧倒的に少ない。
理由は分からないが偵察によると損傷している艦も多く、空母2隻は飛行甲板に大穴が空いている状況らしく、戦艦も余り速度を出せそうにない、だそうだ。
それと気になるのがどうしてか輸送船を10隻程度、伴っている事だ。まぁ確かに日本までの距離を考えればタンカーの1隻や2隻居てもおかしくは無いだろう。だが輸送船と言うのはどう言う事だろうか?タンカーが存在しないから俺達がやった様にドラム缶に燃料を積んでいるのか?
「飛龍、彩雲を合同艦隊に向けて飛ばす事は出来るか?」
現在位置は捨子古丹島より東60海里だ。
ここから合同艦隊までの距離なら偵察は容易な筈。早ければ2時間で合同艦隊に到達出来るだろう。
「可能だよ。何機飛ばす?」
「合同艦隊に向けて2機、それ以外の8方位に向けて1機づつ頼む」
「分かった。何か偵察員に言っておく事はある?」
「合同艦隊を発見したら、一度艦隊上空を偵察高度のまま通過してから高度を下げて日の丸が見える様にしてくれ。機体をバンクもさせろ。そうすれば我々の存在を無線などが故障していたとしても察知出来る」
「分かった。準備は整っているから発艦させるだけだよ」
「良し、彩雲を飛行甲板に上げたら艦首風上」
「了解」
飛龍はそう言うと艦長達に指示を出して行く。
10分後、艦首を風上に向け、合図で彩雲が次々に飛び立って行く。
最後の彩雲の発艦が終了して艦隊は再び合同艦隊に向けて進路を取る。
「提督、最後の彩雲が発艦完了しました」
「あぁ。それと一応、敵艦隊とその攻撃隊に備えて置いてくれ」
「了解しました」
念の為に戦闘機隊の準備をしておく。
流石にまだ敵艦隊や敵攻撃隊と会敵したり来襲することは無いと思うが……まぁ念を入れておくに越したことは無い。
それから2時間後、合同艦隊に向けて放った彩雲2機から指示された事をやり、艦隊へ戻ると言う旨の電文が送られてきた。
それと同時に北東方向、合同艦隊より110海里ほど行った辺りに敵艦隊を発見したと言う報告が入った。
『我彩雲3号機。合同艦隊ヨリ北東110海里地点ニテ敵艦隊発見ス。空母ヌ級2、戦艦7、他随伴艦多数。速度25ノットデ急速二合同艦隊ヘ向ケテ航行、接近中。1039』
陣容は戦艦7隻の明らかな洋上打撃艦隊だ。
空母はヌ級が2隻だけ。恐らく直掩目的で随伴しているのだろう。ならば艦載機の数は全部合わせて100機前後か。
精々、対潜哨戒の雷撃機か艦爆を十数機ずつ搭載して残りは戦闘機だろう。
となれば戦闘機の数は70~80機程。だが合同艦隊との戦闘を考えれば幾らかは少ない筈。となると60~70機程の戦闘機を抱えているはずだ。
こちらは戦闘機の数だけで148機。
倍の数を誇っている。予想外だったのは空母の数が少ない事と正規空母が1隻も含まれていない事だ。最低正規空母は2隻は居ると思ったんだがな……
ただ戦艦が7隻と言う事が気がかりだ。これほどに戦艦が集まっていると当然対空砲火も厳しくなる。それを突破出来るか、突破出来たとしてもどれだけの数が生き残れるか……
攻撃隊を放つのも少々躊躇われるが、敵艦隊の速度と合同艦隊の速力を考えると追い付かれて戦艦同士の砲撃戦に発展するだろう。しかも合同艦隊の戦艦11隻も数こそ勝ってはいるが損傷などを考えれば間違いなく撃ち負ける。
「提督、攻撃隊を放ちますか?」
「いや、もう少し接近してからだ。出来るだけ距離を縮めて確実に仕留めたい。こちらには戦艦が存在しないからな、接近されれば合同艦隊諸共終わりだ」
「了解しました。ですが準備の方は進めても宜しいですか?」
「それは構わん。それと彩雲を追加で敵艦隊に向けて放ってくれ。確実に動向を探り掴んでおきたい」
「了解しました。それでは準備に取り掛からせます」
「頼んだ」
すると、格納庫で艦載機の発艦準備が進められる。
その1時間後、艦隊の速力を25ノットに増速し更に敵艦隊に接近した艦隊は追加で発艦させた彩雲から情報がもたらされる。
『我彩雲11番機。敵空母艦載機ノ迎撃ヲ受ク。機種ハF6Fヘルキャット、ト思ワレル。シカシ速度ガ遅ク我ニ追イ付ケズ。1103』
うん?ヘルキャットが彩雲に追いつけない?
それはおかしい。確か彩雲の最高速度よりもF6Fの方が最高速度は速い筈だ。それなのに追いつけない?エンジンの調子でも悪かったのだろうか?
「提督、そろそろ攻撃隊を発艦させても問題は無いでしょう。F6FであればF4Uよりも手強いですが問題無く対処出来ます。どうされますか?」
航空参謀がそう意見具申をしてくる。
山田参謀長も同様の意見なのか頷いて俺を見ている。
確かに攻撃隊を放っても問題無いだろう。
出来れば合同艦隊に接敵される前に可能な限り叩いておきたい。
「……よし、攻撃隊を出そう。だが雷装よりも爆装を多めで頼む。敵戦艦の艦上構造物を薙ぎ払っておけば後々楽になる」
「了解しました」
「第一次攻撃隊は何時出せる?」」
「1145には出せます。燃料の搭載は完了しているので爆弾を積み込むだけですから」
「よし、第一次攻撃隊第一波の発艦時刻は1145。第二波はその30分後に発艦させる。それで構わないか?」
「問題ありません。それでは準備に取り掛かります」
「頼んだ」
その後、先ほどとは比べ物にならない程に大忙しになる。
弾薬庫から爆弾や魚雷が運び出され流星に装着されていく。
1145になると予定通り第一次攻撃隊の第一波が発艦を始めた。
先陣を切るのは何時も通り原田大佐だ。
待避所や艦橋、機銃座から大きく帽子を振るって攻撃隊を見送る乗組員達は第一波攻撃隊が発艦し終わると第二波攻撃隊が飛行甲板に並べられ、完了後に飛び立っていく。
第一次攻撃隊
第一波
飛龍 烈風20機 流星16機(爆装12機 雷装4機)
蒼龍 烈風20機 流星16機(爆装12機 雷装4機)
瑞鶴 烈風20機 流星16機(爆装12機 雷装4機)
隼鷹 烈風20機 流星16機(爆装12機 雷装4機)
烈風80機 流星64機(爆装48機 雷装16機)
第二波
飛龍 烈風17機 流星16機(爆装12機 雷装4機)
蒼龍 烈風17機 流星16機(爆装12機 雷装4機)
瑞鶴 烈風17機 流星16機(爆装12機 雷装4機)
隼鷹 烈風17機 流星16機(爆装12機 雷装4機)
烈風66機 流星64機(爆装48機 雷装16機)
計272機になった。と言うか全力出撃だ。
第一波の烈風の数を多くしたのは敵戦闘機の迎撃を予想しての事だ。80機も居れば特に問題無いだろう。
艦隊の防空には烈風を1機も残していないが敵機の航続距離の関係上、空襲を受ける事は有り得ない。
だからこその全力出撃だ。
あとは、吉報を待つのみだ。