ビスマルクとヴァンガードと面会してから2週間が経った。
今日は南西諸島攻略作戦の実施日だ。
今は昼間の午後1530だ。
出撃予定時刻は1600で既に前路哨戒の為に第3水雷戦隊が豊後水道、更にはそこを抜けて日向灘方面まで前に出ている。今回取る航路は太平洋に出ず、最初は九州沿岸を航行する。
都井岬に到達後、針路を若干太平洋方面よりに取りながら種子島、喜界島を通過して沖縄に向かう。
恐らく喜界島近海かそれを過ぎた辺りで敵艦隊の迎撃を受けるだろうと思われる。
喜界島には1200m級の滑走路を持つ飛行場が存在し、敵航空機の存在も確認されている。しかも規模が150機以上の敵機が存在すると考えられる。
さらに奄美大島にも飛行場が存在する。こちらも150機を超える航空戦力が存在していると考えられる。
もし敵艦隊の迎撃を受ければ敵基地航空隊と同時に相手取らなければならないために苦戦は必須だ。
さて、これをどう突破すべきか?
これは出航時刻に関係する。
呉から奄美大島と喜界島までの距離は凡そ980km。
1600の出撃だと18ノットで航行する予定だから夜中の0200時頃に到達すると思われる。この時間帯ならば辺りは真っ暗で航空機を飛ばす事は叶わない。
と言う訳で戦艦の出番だ。
第1機動艦隊には4隻の高速戦艦を組み込んだのはこの為だ。4隻の戦艦の艦砲射撃をもってすれば最低1週間は使用が出来なくなる。しかもどちらの飛行場も海側に面していて狙い易い。
ただ1つ問題なのが喜界島と奄美大島の距離が20kmある事だ。
太平洋側から喜界島、奄美大島と狙っていくと幾ら固定目標とは言っても長射程になればなるほど精度が落ちる。
出来るだけ接近しなければならないのだがそうなると両島間を通過するのが一番手っ取り早い。
だがそうなると敵のPTボート(高速魚雷挺)に襲われる事になる可能性が高くなり厄介だ。駆逐艦ならばPTボート相手は楽なのだがこれが戦艦や巡洋艦となると良いカモにしかならない。
解決策は各個撃破、太平洋側の喜界島から先に叩き次に奄美大島、と言う事になる。
まぁ正直これぐらいしか解決策が無いと言うのもあるんだが、敵艦隊との戦闘前に戦力が削がれる事は避けたい。
そして出撃時刻を迎え、艦隊は一斉に錨を巻き上げる。
旗艦である飛龍には俺の将旗と共にZ旗が掲げられている。
Z旗には本来、国際信号旗として単独で航行している時に「私は引き船が欲しい」と言う意思と漁場で「私は投網中である」の意を示す信号旗として用いられることが通常だ。
だがスポーツでの応援、選挙・受験など負けられない戦いに挑む時などに「勝利」を祈願して用いられる場合があるが、意味としては国際信号旗の意味しか有していない。
だが海軍の、特に海戦においてZ旗は特別な意味を持つ。
我々としてはかの有名な「皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ」と言う意味がある。今回の戦いは文字通り負ければあとが無い戦いだ。俺達には相応しいだろう。
「提督、艦隊が豊後水道を抜けました」
「全艦に輪形陣形成を命じろ。同時に対潜対水上警戒を厳と成せ。無電封止も徹底させろ。ただし敵機、敵潜、敵艦発見等の報告は即座に知らせるように」
「了解しました」
秋月
能代 矢矧
照月 鈴谷 若月
涼月 熊野 古鷹 霜月
初月 春月
飛龍 隼鷹
陽炎 金剛 ビス 村雨
蒼龍 飛鷹
雪風 霧島 ヴァ 時雨
瑞鶴 天城
浦風 響
青葉 プリ
萩風 多摩 朧
宵月 花月 満月
花月 初雪
浦波 菊月
望月
輪形陣は以上の様になった。
基本はこれまでと変わらず空母6隻を中心にその周りを戦艦、重巡と囲んでいく。
今は艦隊は各艦の縦横距離を300mで取っている。全長約5kmにもなるだろうかと言う陣形だ。
だがこれでもかなり密集している方なのだ。
何故距離を近く保っているのか、と言うと、これは対空戦闘の際に効率よく弾幕を形成出来るようにするためだ。
輪形陣と言っても菱形に近い形をしていて各艦からの対空射撃で十字砲火の形成も容易だ。
この陣形のまま、艦隊は進む。
艦隊は種子島沖30海里に到達。
種子島とその隣にある馬毛島には海軍航空隊の飛行場が存在していたが度重なる敵重爆や敵空母艦載機の空襲により同飛行場の航空隊は壊滅、撤退した。
幸いなのは敵に未だ占領されていない事だ。もしここまで占領されていれば日本本土までの上陸ルートが確保されて九州方面への上陸が有り得ただろう。
同地を未だ我々が保持しているのはこの2つの島を陸軍が死守しているからに他ならない。この島には計3個師団が配備されている。が、武器の充足率は30%にまで低下しており、敵の大部隊が上陸してきたら負ける。
今回の南西諸島攻略作戦は、資源輸送ルートの確保、防衛線の前進等、ありとあらゆる意味で重要だ。
この作戦が失敗すれば、日本は二度と深海棲艦に対して反抗することは出来なくなる。
何があっても成功させなければならない作戦なのだ。
「提督、能代が敵潜を捉えました」
「距離と位置は?」
「南南東7海里前方です」
「数は?」
「1隻のみです。恐らく哨戒かと」
「通報されたか?」
「いいえ、まだ通報はされていません。新月ですからこちらを視認していないか、それとも詳細な戦力を確認するまでは通報しないつもりでしょう」
「仕留められるか?」
「可能ですが、どちらにせよ敵主力艦隊に我々の動きは察知されます」
「後々、付け狙われるよりかはマシだろう。やってくれ」
「了解しました。向かわせる艦はどういたしますか?」
「任せる」
その後、浦波、菊月、望月の3隻が潜水艦狩りを始めた。
「提督、浮遊物を確認したとの事です。撃沈です」
「良くやった、と3隻に伝えて置いてくれ」
「了解しました」
どうやら敵潜水艦を仕留めたようだ。これで暫くは安心出来るだろう。
「どうだ、何か異常はあるか?」
「今現在各艦、各種電探、ソナー、逆探に反応ありません。目視でも異常無しです」
「これがどこまで続くかな……いっそのこと敵には撤退して貰いたいものだがな」
「そうはいかないでしょう。敵も死に物狂いで抵抗してくるはずですから」
「だろうな……なら俺達も死に物狂いで奴らに抗うしかない」
艦橋に残っているのは俺と副艦長、それに飛龍と艦橋要員の下士官だけだ。
副艦長と話ながら前を見据える。
「夕食をお持ちしました」
「ん、ありがとう」
席に座っていると艦橋に夕食の握り飯と沢庵、それに味噌汁を持って来てくれた。
艦に乗ると基本これだがこれがまた旨い。握り飯は少しばかりしょっぱいが汗をかいて動き回る事を考えたらこれぐらいが丁度良いのだろう。
食べ終えると、空になった皿と椀、それが乗っている盆を下げていく。
「提督、そろそろ艦隊分離地点です」
「……よし、無電封止解除。戦艦4隻と3水戦は分離。順次艦砲射撃始め」
「了解。打電します」
「深海棲艦の奴らに戦艦の砲弾をお見舞いしてやれ」
その後、金剛、霧島、ビスマルク、ヴァンガードは3水戦を引き連れて増速、喜界島の飛行場に向けて砲弾を叩き込むべく向かって行く。
その30分後、金剛から艦砲射撃開始の電文が届いた。
更に30分後、喜界島の飛行場の艦砲射撃終了、続いて奄美大島の飛行場の艦砲射撃に移ると言う電文が届いた。
「提督、艦砲射撃終了しました。金剛以下これより合流します」
「あぁ。それで、戦果は十分か?」
「報告によれば最低2週間は使い物にならないだろう、との事です」
「確かにあの様子じゃぁ、使い物にならんだろうな」
遠目に見える喜界島と奄美大島の飛行場がある場所は盛大に燃えている。爆弾や魚雷の倉庫か燃料タンクか何かに引火したのだろう、断続的に爆発が起きて火柱が上がる。
それから暫くすると金剛達が合流し再び輪形陣に加わった。
「提督、第2潜水艦隊より入電。敵艦隊が動き出したそうです」
どうやら沖縄本島近海で遊弋していた敵艦隊はこの艦砲射撃と、先の潜水艦の撃沈も相まってか俺たちの存在に気が付いたらしい。
大急ぎでこっちに向かって来ているらしく、第2潜水艦隊が通報してきた。
「了解した。日の出と共に偵察機と攻撃隊を出す。準備を始めてくれ」
「了解しました」
「それと第2潜水艦隊に可能であれば雷撃、敵戦力を削る様に送ってくれ」
「了解しました。優先目標は空母と戦艦ですか?」
「出来ればそれが一番だが戦力を削いでくれるのであればなんでも構わん」
「了解しました。直ぐに伝達します」
今更だが潜水艦隊に敵艦隊を雷撃するように命じる。
運が良ければ空母や戦艦を雷撃する地点や機会が来るだろう。
さて、どうするか。ここから敵艦隊までの距離は凡そ130海里(約237km)と言ったところか。
この距離ならば十分に攻撃隊の攻撃範囲内だ。
しかしもう少し手前で敵艦隊の迎撃を受けると予想していたんだがな。
そして日の出になった。
そしてすぐさま偵察機の発艦が始まる。各艦から彩雲を4機ずつ24機。8方位に3段構えの索敵だ。
万が一敵艦隊の索敵取りこぼしがあれば先手を譲る事になる。
そして続いて攻撃隊の発艦が急がれる。
今回は敵艦隊との距離が近く、彩雲が敵艦隊を発見したらその誘導に従って敵艦隊に向かう事になっている。
各空母の攻撃参加機は以下の通り。
第一次攻撃隊
第一波攻撃隊
飛龍
烈風16機 流星20機(爆装8機 雷装12機)
蒼龍
烈風16機 流星20機(爆装8機 雷装12機)
瑞鶴
烈風16機 流星20機(爆装8機 雷装12機)
隼鷹
烈風16機 流星20機(爆装8機 雷装12機)
飛鷹
烈風16機 流星20機(爆装8機 雷装12機)
天城
烈風16機 流星無し
烈風96機 流星100機(爆装40機 雷装60機)
第二波攻撃隊
烈風12機 流星12機(爆装6機 雷装6機)
蒼龍
烈風12機 流星12機(爆装6機 雷装6機)
瑞鶴
烈風12機 流星12機(爆装6機 雷装6機)
隼鷹
烈風12機 流星12機(爆装6機 雷装6機)
飛鷹
烈風12機 流星12機(爆装6機 雷装6機)
天城
烈風12機 流星無し
烈風72機 流星60機(爆装30 雷装30機)
計烈風168機 流星160機(爆装70機 雷装90機)
流星は全機残らず攻撃に向かわせ、防空用に烈風を65機残しておく。
正直言ってしまえば65機でもかなり不安が残るのだが、かと言って攻撃隊を手薄にする訳には行かない。
寧ろ攻撃隊には何が何でも第1次攻撃で敵空母を叩いてもらわなければならない。
敵空母をこの攻撃で3隻、とは言わずとも2隻は仕留めて貰わなければならない。
3隻、仕留めて貰えれば後々の戦いが有利になる。
まぁそれはこちらが空母に一切の損害を負わなかったら、と言う前提の下で話しているのでこれは有り得ない。
敵の攻撃でこちらはどれだけ軽く見積もっても、2隻の空母が戦闘能力を損失するか、もしくは沈められるだろう。
500機以上の敵機が大挙して襲ってくる。1回の攻撃隊で来襲するのは150機以上を超えると予想される。65機の烈風では守り切れないだろう。
攻撃隊の皆は敵戦闘機の迎撃を考えるとかなり厳しい戦いになるだろうが、そこは貰わねばどうにかして敵に損害を与えるべく頑張って貰わねばなるまい。
攻撃隊が飛び立って行った。
敵艦隊との距離を考えれば1時間半ほどで到達出来るだろう。
「……参謀長、二航戦に三水戦を連れて退避するように命じろ」
「はっ!?退避ですか?」
「そうだ。我々一航戦で敵攻撃隊を吸収、受け止める。その間に二航戦には直掩戦闘機隊の収容と燃料弾薬の補給を受けさせるんだ。これだけで深海棲艦の攻撃が終わる筈がない。第二波、第三波に備えなければならん」
「了解しました。即座に退避命令を出します」
「あぁ、戦艦と重巡はこちらに残して置け。その方が目立つ」
「はっ、分かりました」
最初は驚きと困惑の色を浮かべていた参謀長だが俺の考えを理解してくれたのか頷いてくれた。
確かにこの命令は今現在構築している輪形陣を崩す恐れもあるし飛龍以下3隻に攻撃が集中してリスクが高まる。だが、敵の第二波攻撃隊に備えて早急に直掩戦闘機隊を立て直さなければならない。
それを考えると6隻纏まって回避運動をして空母6隻に攻撃が集中するよりかはこちらの方が遥かにマシだ。
それに隼鷹と飛鷹は25ノットまでしか出せない。
これに合わせていたら回避出来るものも回避出来なくなる。
「提督、攻撃隊が敵艦隊への攻撃を開始しました」
「そうか……敵の攻撃隊はどうなっている?」
「電探に捉えてからすぐさま迎撃の烈風を上げ、戦闘中です」
この40分程前には、既に我々の電探は敵攻撃隊を捉えていた。
その数、なんと150機にも及ぶ。
烈風は空母から全機が飛び立ち、迎撃に向かって戦闘を始めていた。
同時に俺は艦隊に対空戦闘用意を下令し、何時でも戦艦の主砲は三式弾を放てる用意が出来ていた。だが金剛と霧島しか三式弾を装備しておらず、ビスマルクとヴァンガードは主砲の準備をしていない。
さて、どうにかして切り抜けなければなるまい。
ーーーーーーーーーーー
一方その頃、敵攻撃隊迎撃に向かった烈風65機は敵戦闘機との戦闘に忙殺されていた。
この時に深海棲艦側の攻撃隊に随伴していたF6Fは40機程だった。
(戦闘機の数ならばこちらが勝っている。これならば十分に敵攻撃隊を撃退する事は可能か……)
迎撃隊の隊長は同数の40機を敵戦闘機との制空戦闘に差し向け、抑え込んでいた。
事実、戦闘機隊の腕もあり戦闘機同士の戦いに限っては烈風が勝っていた。だが雷撃機や爆撃機への攻撃は隊長の思いとは真逆で遅々として進まなかった。
と言うのも数が多すぎたのだ。
この時深海棲艦側の攻撃隊の数は146機に上り戦闘機の数は44機。それ以外の101機は雷撃機56機、急降下爆撃機45機。
それに対して25機の烈風は5機ずつ分かれて波状攻撃を仕掛けているが数が多い事と雷撃機と爆撃機の防御火器がこれだけ数が揃っているとかなりの高威力を発揮する。
当初、25機の烈風は上下に分かれて挟み撃ちにしていたのだが防御火器によってそのやり方は直ぐに意味をなさなくなった。
「おい!下手に敵編隊の上に出るな!狙い撃ちにされるぞ!」
隊長が通信機に向かって怒鳴りながら注意を促す。
下方からの攻撃ならば防御火器は背面飛行でもしない限り向けられることは無いがその下方からの攻撃後に敵編隊の上に離脱しようと飛び出ると一斉に防御火器を食らうのだ。
それによって6機の烈風がたちまち落とされた。
出来るだけ下方からの攻撃を心掛けるがどうしても速度が乗っていたりすると機体を翻せずに上に出てしまう。
敵戦闘機との戦いに身を投じていた烈風の何機かが手隙になって敵攻撃隊の方に応援にやってくるがやはりどうにもならない。
それでも雷撃機を26機、爆撃機を27機撃墜していた。
更に何機かずつの深海棲艦機が爆弾や魚雷を投棄して逃げ帰っていた。
戦闘機隊の方は敵戦闘機を半数ほど撃墜して圧倒していた。
20mm機銃と13.2mm機銃の銃弾は命中すれば防御力が高い深海棲艦機とは言え致命傷になりえる。
が、それもここまで。
そろそろ艦隊の対空砲撃が始まる地点だった。
だから烈風はその場を退避した。後ろ髪を引かれる様ではあったが同士討ちなんてしてしまってはそれこそ堪らない。
この時、烈風の数は53機にまで減っており更に燃料タンクに被弾している機体が何機か存在し、燃料に不安の残る機体が幾らか存在していた。
銃弾はまだ半分程度残している機が多く問題は無かった事とエンジンへの被弾をしている機体が居ないことが幸いだろう。
だが彼らは空襲を受けている空母に戻る訳には行かない。かと言って敵機に攻撃を加える事も出来ない。今はただ見守るしか出来ないのだ。
そこへ二航戦を退避させたから即時そちらに着艦、次の敵攻撃隊に備えよ、と言う命令が入る。
戦闘機隊はその命令に従って二航戦を目指した。
ーーーーーーーーーーー
烈風に迎撃をすり抜けて26機の雷撃機と16機の急降下爆撃機、合わせて42機が艦隊に迫って来る。
「敵機2群に分かれます!左舷より16機!左舷後方から26機!」
「敵機はどうやら雷爆同時攻撃を仕掛けてくる模様です。雷撃機は左舷後方から回り込んで急降下爆撃機の投弾で回避に移った我々を狙おう、と言う意図でしょう」
艦長がそう言う。今回は飛龍が舵を取る。
着物を白帯で襷掛けにし、じっと空を睨む。
「回避は出来そうか?」
「可能な限り努力はする。だけど雷撃機の位置が絶妙で取舵、面舵どちらに切っても命中弾の可能性が高いね。提督の将旗を掲げている私は間違い無く狙われるだろうから気を付けて。全弾回避を目指すけど、被弾するもの、として覚悟しておいて」
「あぁ、頼んだぞ飛龍」
そう飛龍は言うが彼女の操艦の腕は確かだ。信じるしかあるまい。
艦隊は空母を中心に距離を取って空母が回避出来る様にしている。
元々舵を取っていた妖精は見張り員として立つ。
「見張り員!敵機の位置と投弾のタイミング、全部正確に報告して!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
見張り員達は大声で飛龍に応えた。
金剛、霧島を始めとした各艦が主砲の射程に入り次第、三式弾を撃ち放つが撃墜出来たのは4機のみだ。
更に接近する敵機に対して対空砲が一斉に火を噴く。
空は瞬く間に対空砲弾が爆発した時に発生する黒煙で覆われる。
敵機の内の何機かが対空砲弾の破片か何かを受けて煙を吐く。だが撃墜には至らない。そのまま艦隊に向けて突っ込んでくる。
艦隊は30ノットで対空砲を撃ちながら海上を走る。
隼鷹と飛鷹、天城は攻撃隊発艦後に3水戦を引き連れて艦隊から離れ既に水平線の向こう側だ。空からは見えるかもしれないが空母3隻戦艦4隻と言う、目の前にぶら下がっている特大の餌に食いつかない訳にはいかんだろう。事実、敵機は全てこの艦隊に向けて突っ込んでくる。
「敵機、機銃の射程に入りました。撃ち方始めます」
艦長がそう告げると同時にあちこちから連続した射撃音が響いてくる。
「敵雷撃機1撃墜!」
その報告通り確かに敵雷撃機が1機海面に突っ込んで水飛沫を上げていた。
だがそれ以降敵機撃墜、と言う報告を見張り員がする事は出来なかった。
23機の雷撃機と14機の急降下爆撃機が飛龍、蒼龍、瑞鶴目掛けて突っ込んでくる。
狙われたのは飛龍と蒼龍の2隻だった。
飛龍
蒼龍 瑞鶴
この時、空母3隻は飛龍を先頭に三角形の形で進んでいた。
敵の雷撃機は左舷から突っ込んできていたので狙われやすい位置にいた。
「敵急降下爆撃機、我が飛龍に8、蒼龍に6!突っ込む!」
「方向と位置は!?」
「左舷10時方向からです!」
「敵機直上!急降下!」
急降下爆撃機が飛龍と蒼龍に向かって急降下を始めた。
投下されるであろう爆弾を避ける為に飛龍は思いっ切り右に舵を切った。だが舵が利き始めるのには時間が掛かる。
それから守るために周りの金剛達が機銃を撃つ。
この時、絶大な威力を発揮したのはビスマルクの装備する37mm機関砲と20mm機関砲、ヴァンガードが装備する40mm機関砲だった。
これらの機関砲は炸裂弾や榴弾多くを含んでおり命中せずとも被害を与えることが出来た。しかも発射速度がかなり速く飛龍と蒼龍の真上はあっ、という間に黒煙に包まれる。
どういう訳か我々日本海軍の使用している25mm機銃には炸裂弾などが含まれていない。確かに25mmと言う航空機にとっては命中すれば十分な脅威になるが、当てなければ意味が無い。
「敵機更に3機撃墜!」
見張り員の報告に一瞬、この様子だと無事切り抜けられるか!?と思った束の間だった。
「敵機投弾!」
「続けて2機が投弾!」
すると漸く舵が利き始めた飛龍の艦中央右舷に敵弾が落下、炸裂した。
「至近弾!」
「大丈夫だ!至近弾程度では飛龍は沈まん!」
一旦舵が利き始めると弧を描きながら急旋回をする飛龍。急旋回によって艦体は外側に傾いている。
次に見張り員の報告を頼りに飛龍は左に舵を切りなおしてそのまま左旋回に持ち込む。
そうやって左へ右へと避けていき2機目3機目の投弾も次々と避けていく。
その時、遂に雷撃機が突っ込んできた。
「雷撃機突っ込んできます!距離3000!」
「奴ら雷爆同時攻撃をしくじったな!この距離ならば別々の攻撃になる!」
「艦長!ビスマルクとヴァンガードには敵雷撃機を狙わせろ!」
「了解!」
俺の指示によってビスマルクとヴァンガードは一斉に雷撃機に向かって機関砲を撃ちまくる。
「敵機投弾!」
最後の2機が投弾する。
その敵機はかなりギリギリの高度で投弾して機体を引き起こしたのか海面すれすれで持ち直すとそのまま飛び去って行く。
「っ!!回避間に合わない!伏せて!」
飛龍が叫んだ。
次の瞬間、飛龍の飛行甲板に敵弾が続けて2発突き刺さり爆発を起こす。
爆風は艦橋のガラスを叩き、吹き飛ばされた飛行甲板の破片などが音を立てて当たる。
「ダメージコントロール!消火急げ!」
艦長が怒鳴り声を上げながら矢継ぎ早に指示を出す。
「雷撃機右舷より接近!我が飛龍に8機!蒼龍に8機!」
「もうひと踏ん張りだよ!」
「1機撃墜!更に1機撃墜!」
「敵機1500m!」
「このまま左舷を見せるまで旋回してから一気に取舵にするよ!」
その報告を受けて飛龍は右旋回を続けて敵機に対して左舷が丸見えになった時、先ほど言ったように今まで面舵で右に思いっ切り旋回していたのを飛龍は左に大きく取舵に取った。
「敵機距離900!2機投弾!」
「時間差をつけてか……!」
「敵魚雷2接近!」
「大丈夫!これは回避出来る!」
「敵機更に6機投弾!」
「直撃針路です!避けられません!」
「総員衝撃に備えろ!」
最初に2本の魚雷は次々と飛龍の艦尾を抜けていく。
だが時間差をつけて投弾された魚雷6本は角度が絶妙に違っている。
俺は大声で衝撃に備えるように叫んだ。
すると飛龍の艦体をたて続けに3回、大きな衝撃が包んだ。
ズドン!!ズドン!!ズドン!!
それと同時に巨大な水柱が3本そそり立つ。
爆弾の命中で燃える飛行甲板に大量の海水が落ちてくるが消火の助けにはならなさそうだ。
「被害報告とダメージコントロールを急げ!もたもたしてると飛龍が沈むぞ!」
艦長が怒鳴る。
確かにその通りだ。爆弾2発に魚雷を3本も食らっては幾ら飛龍と言えども沈む可能性がある。
しかも魚雷は左舷にのみ集中して命中しているから尚更その危険性が高まる。
蒼龍の方を見てみると蒼龍も魚雷の命中の有無は分からないが少なくとも飛行甲板に被弾したのは分かる。実際にもうもうと黒煙を上げている。
そして被害報告が上がる。
「提督、被害報告がまとまりました。飛龍は飛行甲板に爆弾2発が命中。火災は消し止めましたが内1発が中央昇降機に直撃しており飛行甲板の使用は絶望的です。入渠して本格的な修理を受けなければならない、との事です。幸いにも格納庫内、飛行甲板上には可燃物が存在しなかったので延焼することはありませんでした。そして左舷艦首から艦尾にかけて3本の魚雷が命中、かなりの浸水が起こり10度の傾斜が出ています」
艦橋から飛行甲板を覗くと確かに昇降機が滅茶苦茶に破壊されている。
「航空機の運用は不可能か……」
「はい。戦闘行動は取れません。更に魚雷の命中で最大速力は25ノットに低下しております」
「蒼龍は?」
「魚雷は全て回避しましたが爆弾が2発命中。ですが速力の低下も無く1時間もすれば飛行甲板の穴は塞ぎ終わり戦線復帰は可能、との事です」
「……どうするべきだと思う?」
正直、かなり迷っていた。
飛龍を退避させるか、それとも敵攻撃隊の全てを凌ぎきるまで凌ぎ飛龍を艦隊と共に行動させるか。
「私としては退避したくないかな。でも航空機の運用が出来ないから退避した方が良いのは正解だと思う。足手纏いだし」
「私も退避させるべきかと。我々には飛龍を含めては1級線の空母は6隻しかおりません。飛龍も大切な空母であることは間違いありません。これからのことを考えればここで失う訳には行きません」
「退避に一票です。幸いにも飛龍は未だ27ノットを発揮できます。ならば今のうちに退避させるべきです」
「他の皆も同じ意見か」
飛龍を始めとして艦長や参謀長、副艦長は口々に退避させるべきだと主張する。
「電探は敵編隊を捉えているか?」
「いいえ、未だ敵の第二波攻撃隊の反応は無しです」
電探には敵編隊は映っていない。
「提督、艦隊司令部を移し、移乗するならば今しかありません。これ以上待っていると手遅れに成り兼ねません」
参謀長のその一言で俺は今、移乗する事に決定した。
「よし、今より司令部を移乗させる。蒼龍と瑞鶴のどちらが良いか?」
「それならば未だ健在な瑞鶴がよろしいかと」
「分かった。瑞鶴に移乗する。飛龍は2水戦の駆逐艦3隻を伴って退避。本土を目指せ。それと艦隊に今の内に陣形を整えるように伝達しろ」
「了解しました。それでは準備に掛かります」
そう指示を出すと艦橋内は慌ただしく動き出す。
将旗が降ろされ移乗に備える。
「了解。ごめんね提督。途中で離脱することになっちゃって……私がもっと上手く操艦出来てたらこうはならなかったのに……」
「何、気にするな。飛龍の操艦があってこそこうして飛龍は生き残ったし俺も生きているのだ。そう気を落とすな」
飛龍は申し訳ないと謝ってくる。
まぁ気にしても仕方が無い。幾ら訓練しようとも当たる時は当たる物なのだ。寧ろ沈まなかった事を今は喜ぶべきだろう。
俺としても今まで作戦中は飛龍を旗艦にして乗っていたからこうして飛龍が傷つくと心苦しいしな。まぁ他の艦もそうだが艦娘が辛そうな顔をするのはあまり見たくない。
それから5分後、移乗の準備は整えられ飛龍に搭載されている内火挺で瑞鶴に向かう手筈が整った。
「提督、御武運を」
「あぁ。飛龍達も道中気を付けろ」
最後に飛龍と艦長に見送られながら内火挺に乗り込んだ。
そして瑞鶴に乗艦する。
「提督、お待ちしておりました」
「ご苦労。態々出迎えんでも構わないぞ?」
「いえ、そのようなわけには行きません。では艦橋にご案内します」
艦長が俺を出迎える。
こんな時だから形式的な物はやらなくても良いんだがそうもいかないのが面倒な所だ。
「提督、艦橋に入られます!」
俺が入ると同時に皆が一斉に敬礼をする。
「休め。これからは敬礼を省略するように」
「提督、ようこそ瑞鶴へ」
「あぁ瑞鶴、ご苦労。早速で悪いが攻撃隊の様子などを教えてくれ」
「分かってる。それじゃぁ報告するね」
「頼む」
瑞鶴によると我々が放った攻撃隊は俺が丁度瑞鶴に移乗した時に終了したそうだ。時間にして、ほんの3分程前の事だ。
二波に渡る攻撃によって見事に敵空母ヲ級を2隻撃沈確実、1隻を撃破したそうだ。
だが代償として攻撃隊として向かった流星は合計160機中50機もの流星を喪失。大打撃を被った。
烈風は比較的損害は軽かったらしく29機の損失で済んだそうだ。
敵戦闘機の迎撃もかなり熾烈でこの時点で40機ほど撃墜された。更に戦艦の撃ち上げる対空砲火もやはりと言うべきか、猛烈だったらしく10機近い機数が撃墜されたらしい。
「手痛い損害だな……」
「うん。烈風は2航戦で収容した機体を入れればいいけど……」
「次の攻撃にかなり支障が出る」
「うん。多分帰ってくる途中でも不時着水したりする機も居るだろうから90機戻ってくれば良い方かな……それに損傷機とかも入れると攻撃隊に入れられるのは70機いればいい方かも」
「……厳しいな」
70機しか流星が居ないとなると残り4隻の空母を確実に仕留められるか、と聞かれると無理だろう。攻撃を集中させて2隻撃沈か撃破出来れば良い方だろうか。
「……そう言えば深海棲艦の第ニ波攻撃隊はどうした?まだ来ないのか?来ないに越した事は無いが」
「分かんない。でも電探にも反応は無いし2航戦の方にも反応は無いって」
「どうなっているんだ全く……まさか送り狼か?」
「だとしたら不味いよ。攻撃隊の収容中なんか狙われたら一溜りも……」
「急いで隼鷹に烈風の即時発艦は可能かどうかを確認してくれ。攻撃隊は二航戦で収容させろ。数が減っているから3隻でも収容出来る筈だ。戦闘機には先行させて燃料弾薬を補充させた後にこちらに向かわせるように。迎撃機はなんとかして80機は確保しておきたい」
「分かった」
瑞鶴はそう頷いて通信参謀に電文を送るように命じた。
しかし送り狼だとすると……我々は攻撃隊を放った後も殆ど移動せずに同じ海域で留まっている。1時間半程で来るか。早ければ1時間。
迎撃戦闘機隊の方は間に合うだろうが、攻撃隊に随伴していた烈風はかなりギリギリだな。
「提督、隼鷹からです。即時発艦可能な烈風は46機との事です」
「それで構わん、大急ぎでこっちに出してくれ、と伝えてくれ。攻撃隊の烈風も出来れば即座に30機とは言わないから20機燃料弾薬を補給して寄こしてくれ、とも伝えてくれ」
「了解しました」
流石に46機だけでは不安が残る。
せめて60機あればなんとかなるだろう。最悪、瑞鶴と蒼龍が被弾しても二航戦が無事ならば作戦は遂行出来る。
「提督、電探に感あり」
「敵か!?」
「いえ、まだ分かりませんが規模的には我が攻撃隊の様です」
「ならいいが、気は抜くな。敵機かもしれん」
既に隼鷹達二航戦から発艦した烈風46機は艦隊上空を飛び去り、敵攻撃隊がやって来るであろう方向に向かって行った。
現在時刻は既に11時になろうかと言う頃合で、どうやらまだまだ戦いは終わりそうにも無いらしい。
「提督!電探に3つ目の編隊を捉えました!数凡そ150~170!恐らく敵攻撃隊です!」
「やはり居たか!至急迎撃戦闘機隊に正確な位置と方角を知らせろ!」
「了解!」
「全艦対空戦闘用意!」
「対空戦闘用意!」
遂に敵の第二波攻撃隊を電探が捉えた。
しかも先程と同じかそれ以上にも及ぶ数だ。流石に46機の烈風では雷撃機や爆撃機に手出しをすることは厳しい。
早く追加の20機が到着してくれることを願うばかりだ。
「迎撃戦闘機隊、敵攻撃隊と戦闘開始しました!」
そう報告が入る。
だが状況はあまり芳しくないようだ。
「敵戦闘機の数がどうやら50機程、護衛についているようでそれとの戦闘で精一杯だそうです」
「やはりか……追加で要請した烈風はまだ敵攻撃隊に到達しないのか?」
20分程前に艦隊の上を追加で要請した烈風22機が飛び去って行った。
だがまだ敵攻撃隊には到達していない。
「10分程で到達すると思われます」
「10分か……ギリギリだな」
「敵攻撃隊の我が艦隊への到達は30分程後になります」
迎撃に使える時間は長くても10分程度。いや、主砲の射撃が始まる事も考えると5分と見積もった方が良いか。
このままでは殆どの敵機が無傷で突っ込んでくることになるじゃないか。
凡そ100機の雷撃機と爆撃機から到底無傷で切り抜けられるとは思わない。
想定したくない最悪を想定すべき、だな……
「後続の烈風が敵攻撃隊と戦闘を開始しました」
「先に敵戦闘機と戦っていた迎撃戦闘機隊はどうなった?」
「未だ敵戦闘機との戦闘に忙殺されているようです。ですがその内の何機かが敵戦闘機を振り切って雷撃機や爆撃機に攻撃を仕掛けていたようですが……」
「たったの数機じゃ殆ど落とせないな……」
だが20機が応援に加わったことで幾分か戦いは楽になるだろう。
金剛、霧島の主砲による対空射撃が始まるまでに70機、いや80機までに減らしてくれないだろうか……
「敵機凡そ70機が迎撃を突破、突っ込んできます!」
「方向は!?」
「2群に分かれます!左舷前方と、同じく左舷後方から回り込んできます!」
「金剛、霧島対空射撃開始します!」
続けて報告が上がる。
「頼んだぞ……」
艦橋にいる誰かがそう小さく漏らした。
その次の瞬間、金剛と霧島の合計16門の主砲が轟音と共に一斉に火を噴いた。
「敵機7の撃墜を確認」
双眼鏡を覗く見張り員がそう報告する。
続けて2隻は第2斉射を始めた。
「敵機4の撃墜を確認」
「合計11機の撃墜か」
「これで凡そ60機まで減らしました」
「雷撃機40、急降下爆撃機20が急接近!雷撃機は低空から接近してきます!」
「雷撃機は左舷前方から!急降下爆撃機は左舷後方から一斉に来ます!」
見張り員の報告通り確かに敵雷撃機は海面付近まで降りてきている。
40機の雷撃機か……どう考えても全部を避け切る事は出来そうにないな。
「!!味方戦闘機隊が敵機へ襲い掛かっています!」
「何!?今すぐ退避させろ!同士討ちになるぞ!?」
「駄目です!退避する様子はありません!」
「何をしているんだあの馬鹿者どもは!?」
艦長や副艦長が怒鳴り即座に退避させるように言って戦闘機隊にそう伝えられるが一向に退避しない。それどころか雷撃機だけでなく急降下爆撃機の方にも襲い掛かり、護衛戦闘機がいない今こそ好機だ、と言わんばかりに機銃を乱射している。
「艦長、全艦に対空射撃開始」
「提督!?それじゃ戦闘機隊を一緒に撃つ事になるよ!?」
「構わん。彼らはそれを望んでいるんだ。彼らの覚悟を無駄にするな」
「ッ……!了解しました!」
すると一斉に対空射撃を始める。
対空砲が一斉に火を噴いて空を黒煙で覆っていく。
敵機だけでなく戦闘機隊の周りにも砲弾が飛んで行き、炸裂する。
「雷撃機3撃墜!」
戦闘機隊が急降下を加えるとたちまち3機の雷撃機が火を噴いて海面と激突する。
その瞬間に艦橋内で大きな歓声が上がる。
「急降下爆撃機4撃墜!」
「雷撃機距離5000!」
「機銃射撃開始!」
敵機が5000mを切ると一斉に対空機銃が雷撃機目掛けて弾を撃ちまくる。
敵機に向かって伸びる火箭は数は多くとも中々敵機を捉える事は出来ない。
「戦闘機隊はまだ退避しないのか!?」
「退避する様子は一向にありません!まだ敵機に攻撃を仕掛けています!」
既に戦闘機隊の奮戦によって雷撃機は既に25機程までに減っていた。急降下爆撃機は10機ほどにまでなっていて確かに戦闘機隊の働きが無ければ今頃は無傷の敵攻撃隊に一方的にやられていただろう。
「我が瑞鶴に5、蒼龍に5、急降下爆撃機向かう!」
「雷撃機我が瑞鶴に13、蒼龍に12機が向かう!」
「敵機直上!急降下!」
「取舵一杯!」
瑞鶴は飛龍よりも全長も全幅も大きい。
だから飛龍よりも舵が利くのがずっと遅かった。
「敵機1番機投弾!直撃します!」
敵急降下爆撃機の1番機が放った爆弾は、どう見ても避けられるものでは無かった。
見張り員がそう大声を上げて数瞬の後に瑞鶴の飛行甲板に爆弾が命中。
ズドン!!
続けて2発目が命中し、3発目は舵が利き始めて回頭を始めたからか右舷艦橋付近の海面に落下。水柱を上げた。
「4、5番機続けて投弾!」
ズドン!
4発目が命中。
5番機が投弾したものは艦首を掠めて至近弾となり命中はしなかった。
だがこれで終わりはしない。
「雷撃機来ます!」
次に攻撃を仕掛けてきたのは雷撃機だ。だがその数は戦闘機隊の働きによって数をさらに減らし9機にまで減っていた。
「距離1000!」
「先頭の5機が魚雷投弾!」
「距離700で後続の4機が魚雷投弾!」
「面舵一杯!最初の4本を回避したら一気に取舵に切るぞ!」
艦長はそう指示を出すが恐らく後から投下された4本の魚雷は避け様がない。
基本、魚雷に限らず砲撃も未来予測位置に向かって投弾する。それは速力などを全て合わせて計算した上で導き出す。
当然、投弾した後に魚雷の針路を変えられるわけがない。
今瑞鶴は32ノットで回避運動を取っている。ならばあの魚雷9本は32ノットで進む瑞鶴に目掛けて放たれたのだ。
ならばこの時速度を変えてしまえばどうなるか?
当然、狙いは外れるに決まっている。
これ以上速度を上げる事は出来ないがその逆、下げる事なら出来る。
俺はそう考えて艦長に指示を出した。
「艦長、全速後進!速度を落とせ!」
「全速後進!宜候!」
その指示の意図を瞬時に理解したのか艦長は一気に後進に入れるものだから艦全体がガクンと揺れた。
俺も座っている椅子からずり落ちそうになったが瑞鶴が支えてくれて尻を打ち付けることは無かったが。
だがそれのおかげで瑞鶴に向けて伸びる魚雷は明らかに外れる針路だ。
しかし慣性の法則と言うものはどれだけスクリューを逆回転させても存在する。
しかも瑞鶴は257.50mに基準排水量25,675トンもある巨艦だ。そんな艦がそう簡単に後ろに下がれるはずがない
「魚雷1、直撃針路!」
「総員衝撃に備えて!」
瑞鶴がそう大声で怒鳴った。
すると、丁度艦首付近に魚雷が命中した。
大きな音を立てて海水が降り注ぐ。
どうやらこれで敵の攻撃は最後の様だ。
上空には攻撃を終えて飛び去って行く敵機の姿と深追いはせずに艦隊の上空をどこか心配そうに飛ぶ烈風しか居ない。
「ダメコン急いで!何としても浸水を食い止めて!」
瑞鶴を始めとした面々が声を張り上げながら指示を出していく。
そして、30分後に漸く被害報告が纏まり俺に報告が上がってくる。
「提督、命中した爆弾は3発で至近弾2発。直撃した爆弾の内の2発が飛行甲板の先端部分を吹き飛ばしました。残りの1発は前部昇降機と中央昇降機の間に命中しました。どちらとも火災が発生しましたが既に消火完了。前部昇降機と中央昇降機の間に出来た爆弾孔は1時間ほどあれば塞げますので艦載機の運用は一部ですが可能です」
「一部?どういうことだ?」
「と言うのも先端部分に命中した2発が問題です。これにより先端部分が吹き飛ばされて
飛行甲板そのものの全長が短くなってしまい、烈風の発艦は可能ですが兵装を装備した流星の発艦は出来なくなりました」
「流星の発艦が出来ない、か」
「はい、軽い兵装、25番か6番(60kg爆弾)ならば機数によっては何とかなりそうですがほぼ絶望的と考えた方が宜しいかと」
「分かった。魚雷の方はどうなった?」
「幸いにも浸水はそれほどでもなく、機関部など重要区画への浸水は認められませんでした。ですが艦首先端すぐの場所に命中し、破孔が発生、爆圧により反対側が少し盛り上がってしまっています。更に艦首が曲がってしまい速力が26ノットまでしか出せません。出そうと思えば30ノットを発揮出来ますがそうなると破孔付近の水密扉が破損し浸水が拡大する恐れがあります」
「26ノットを発揮出来るのならば十分だろう」
瑞鶴の被害は思ったよりも軽い方だ。
だが蒼龍はどうだろうか?遠目から見ても明らかに傾斜しているように見える。
「蒼龍はどうなった?」
「それが、かなり問題です。爆弾の命中は2発と少なかったのですが先の物と合わせて4発になってしまい……しかも当たり所が悪く航空機用燃料タンクから燃料漏れが確認されています。今の所、誘爆などの危険性は無いようですが油断は出来ない出来ないそうです。更には魚雷が3本命中して右に20度近く傾斜しています」
「その内の2本は艦中央部に、もう1本が艦後部、推進軸付近に命中して歪んでしまい右側の推進器は完全に使い物にならなくなりました。機関部への浸水も認められており発揮出来る速力は16ノット以下となりました」
「随分と手酷くやられたな……間違い無く大破だな」
「今のうちに本土に向けて退避させた方が宜しいかと」
参謀長は蒼龍を退避させるように進言してくる。
確かにその通りだ。
「そうだな。通信参謀、蒼龍には駆逐艦3隻を伴って本土に向けて退避させるように言ってくれ。それと今更だが鹿児島にある陸軍、海軍問わず航空隊に上空援護の為に戦闘機を回してもらえるようにも言っておいてくれないか」
「了解しました」
「上空援護の件については必要であれば俺の名前を使って構わん。何としても飛龍と蒼龍を呉まで到着させなければならん」
「重々承知しております。それでは失礼します」
通信参謀はそういうと艦橋から出ていった。
しかし、戦闘能力を持つ空母は3隻にまで減ったか……
「迎撃の烈風は二航戦に向かわせろ。収容数にはまだ余裕があるはずだ」
「了解しました」
10分後、その連絡を受け取った二航戦から電文が届く。
『我隼鷹。戦闘機隊ノ収容、了解ス。既二攻撃隊ノ準備完了。即時発艦可能ナリ』
攻撃隊の準備が整っている、か。
そんな命令は出していないが……こりゃ隼鷹の仕業だな。
飛鷹と天城はどちらかと言えば命令が出てから動くタイプだが隼鷹はそうじゃない。かなり奔放と言うか、まぁ軍に属しているとは思えない感じだがあれで中々、かなり頭がキレる。
恐らく隼鷹が一航戦が敵を引き付けている間に、と言って準備を進めさせたのだろう。
「隼鷹へ攻撃隊即時発艦、敵艦隊を叩けと送れ」
「了解しました。我々はどう致しますか?」
「どう、と言われても今は何も出来んだろう。二航戦と合流する訳にもいかんしな」
「では、このまま敵の攻撃を吸収すると?」
「まぁそうなるな。……そう言えば潜水艦隊はどうした?攻撃許可は出してあるからもし攻撃したとすれば何かしらの報告があっても良い筈だが」
「潜水艦隊からは何の報告も上がって来ておりません」
「そうか。現状、敵艦隊の空母は未だ4隻残っている。その内の1隻は撃破しているが応急修理が完了していればこちらと空母の数だけで見れば同数……」
第二次攻撃隊は以下の通りになる。
烈風132機、流星75機(爆装32機 雷装44機)だ。
それを第一波、第二波で分ける。
第一波攻撃隊
烈風72機、流星38機(爆装12機 雷装26機)
第二波
烈風62機、流星37機(爆装11機 雷装26機)
正直なところ、烈風ならば問題無いだろう。
だが如何せん流星の数が少なすぎる。第一波の烈風が敵戦闘機を抑え込む為に留まれば確かに敵戦闘機は確実に抑え込めるだろう。
我が艦隊に来襲したのは凡そ300機だ。
約150機ずつでその内の50機程が戦闘機だったから敵戦闘機は全て合わせて敵艦載機中200~250機ほど。
雷撃機や急降下爆撃機はかなりの数を撃墜し、こちらの烈風の被害は軽微。
だが流星の被害が大きい。
隼鷹の報告では第二次攻撃隊の流星は全て合わせて76機。
二波に分けたとしても38機と37機ずつ。40機に満たない数だから敵空母を確実に叩くには狙いを絞る必要がある。
しかも敵艦載機は未だ300機は居ると予想出来るから敵の攻撃もまだまだ続くはず。烈風はまだ修理して戦線復帰が可能な機体を含めれば200機程はあるから艦隊の直掩用に60機前後残しておくとしても攻撃隊には140機付けられる。
事実、第二次攻撃隊には烈風が132機随伴して攻撃隊をがっちり守っているからそう簡単に落とされる心配は無い。
直掩用に残している烈風は69機だ。今までと同じくらいの敵機が来襲するとすれば何とかなるだろう。
そして攻撃隊が敵艦隊へ向けて飛び立った10分後、電探に反応があった。
「敵攻撃隊接近!距離80km!数凡そ150~170!」
「直掩戦闘機隊を即座に向けろ」
「了解しました」
敵の第二次攻撃隊が来襲したのだ。
150機以上となると戦闘機の数は今までとそう変わらないだろう。
だが問題は一波だけでは終わらないだろうと予想されることだ。第二波までならばなんとか凌げるだろう。
だが第三波まで来るとなると無理だ。残っている敵機の予想規模通りだとすれば第三波は無いと思われるが確実性は無い。
直掩戦闘機隊は既に敵攻撃隊に向かっている。
26ノットの速度でどれだけ回避出来るか……
それから20分以上に渡って決して瑞鶴までもやらせて溜るかと言わんばかりに直掩戦闘機隊の死に物狂いや執念とも取れる程の猛攻を受けて敵攻撃隊は大打撃を被った。
事実、深海棲艦の攻撃隊は雷撃機72機、急降下爆撃機40機にも上ったが雷撃機17機、急降下爆撃機21機までに減っていた。
撃墜された、と言うよりは爆弾や魚雷を投棄して引き返した機の方が多かった。
まぁ、それでも速度の低下した瑞鶴は全ての爆弾や魚雷を避け切る事は出来なかった。
急降下爆撃によって爆弾1発と魚雷が左右舷に1本ずつ命中した。
「提督、被害報告が纏まりましたので報告させて頂きます」
「頼む」
「まず、爆弾は1発が命中。前部昇降機がその時の衝撃によって歪んでしまい使用が出来なくなりました。火災も発生しましたが消火は完了しております。魚雷は右舷と左舷の中央部に1本づつが命中。ですが注水によって傾斜は復元済みです。最高速度は23ノットに低下してしまいましたが今回は当たり所が良かったのでこれだけの損害で済みました。我が瑞鶴はまだまだ戦えます」
「1隻だけ狙われて寧ろこれだけの損害で切り抜けられたのは、幸運だったな……瑞鶴の戦線離脱さえ覚悟していたのだが未だ戦闘力を保持しているとは、何とも驚きだ」
「戦闘機隊の奮戦あってこそ、ですな」
「あぁ。この戦いが終わったら戦況が戦況だからそこまでは礼をしてやれないが、出来得る限り最大限何かしてやらねばな」
本当にそう思う。
酒を全員に振る舞う、なんてことはしてやれないが何か考えておこう。
「それは流星隊も同じですぞ?戦闘機隊だけで騒げば血の気の多い連中ばかりですから間違い無く掴み合い殴り合いになるでしょうなぁ」
「違いない」
少しばかり艦橋内が明るくなる。
こんな絶望的な状況から三度も切り抜けた。多少は許されるだろう。だがまだまだ戦闘は続いている。油断は出来ない。
少し笑い、すぐさま気を引き締める。
すると30分程すると第二次攻撃隊第一波攻撃隊から敵艦隊発見、続けて攻撃開始と全軍突撃が発せられた。その15分後、更に第二波攻撃隊からの全軍突撃を受信。
20分に渡る攻撃の末に第二次攻撃隊は見事に空母1隻撃沈、1隻撃破を成し遂げた。
だが攻撃隊の被った被害は烈風11機喪失、流星隊が25機喪失と言うものだった。事実上、我が艦隊の流星は壊滅以上の打撃を受けた。
だがこの後、潜水艦隊が空襲直後の混乱している敵艦隊を雷撃、見事空母1隻を仕留めた。
更に外れた魚雷が敵戦艦に命中し撃沈とは行かないまでも打撃を与える事に成功する。
総合戦果は空母4隻撃沈1隻撃破、戦艦1隻撃破、駆逐艦3隻撃沈破となった。
こちらは空母2隻大破、1隻中破。
撃沈した空母の数と言う結果から見ればこちらの圧勝であるが失った搭乗員や機体の数を考えると実際はギリギリの所での辛勝。痛み分けとも取れるギリギリの戦いだった。
我々は全空母合わせて流星160機を保有していたが今現在、たったの41機にまで大きく減少。烈風も233機から183機に減っており、169機を損失。実に3.5割にも上る機体を失った。
搭乗員も損失した流星搭乗員238名中203名が戦死。潜水艦によって救助されたのはたったの36名に過ぎなかった。
烈風搭乗員も50名中23名戦死。
機体以上に搭乗員の喪失が大きすぎた。
これら全ての喪失機と搭乗員の補充と訓練は、最低でも半年以上は掛かる程の大打撃であり、その間は第一機動艦隊は作戦行動を取れないと言う事に他ならない。
今ここで撤退したとしても機動艦隊の再建には丸々1年を要するだろう。そうなれば深海棲艦は戦力を整えるどころか今回の倍以上の戦力を揃え、俺達はそれと戦わなければならなくなる。どう考えても不可能だ。ならばこそ、今ここで最終的な勝利を捥ぎ取らなければならない。
それに彼らの死を無駄にするわけには行かない。生かすも殺すも生き残った俺達次第、と言う事だ。
結局これ以降、敵艦隊が攻撃を仕掛けてくることは無く、敵空母の撤退を確認。
だが、さぁいざ上陸予定地点周辺の偵察を、と意気込んで二航戦と合流し彩雲を放ち情報収集に努めていた時、こちらとしては現段階で予想されるであろう、いや予想すらしていなかった最悪の事が起きた。
「提督、敵戦艦と巡洋艦、更に駆逐艦数隻が沖縄本島に意図的に乗り上げました」
「なんだと?……クソッ、そう言う事か!やられた……ッ!」
「えぇ、してやられました……まさか夜戦を捨てて地上砲台になるとは……しかも無傷の戦艦、巡洋艦を全てを座礁させるなんて思っていませんでした」
「我々としては上陸船団を阻止するために夜戦を仕掛けてくると踏んでいたのですが完全に予想外です。こうなっては夜戦以上に一筋縄では行きません」
そう、敵艦隊の戦艦や巡洋艦が沖縄本島の各地に意図的に座礁させて固定砲台としてきたのだ。これには完全にやられた。
俺達は、敵艦隊が間違い無く戦艦を主力として輸送船団撃滅を狙って夜戦を仕掛けてくるだろうと踏んでいた。
さて、ここで敵戦艦の意図
今回の作戦目標は南西諸島攻略の攻略にある。
となれば空母同士の戦いは我々からすると梅雨払い、前哨戦という意味合いが大きい。
ここで勝利を勝ち得たとしても輸送船団さえ沈めてしまえば攻略、奪還は出来なくなる。だからこそ間違い無く戦艦同士の砲撃戦に持ち込もうとしてくるものだと思っていたのだが……
「まさか座礁しての固定砲台化するとは」
「少々予想外に過ぎますな。洋上に浮いているのであれば沈めてしまえば良いだけの話ですが、これでは敵戦艦そのものを完全に破壊しつくすか砲弾が底を着くのを待つしかありません」
「長期的に見れば砲弾が続く限り、沖縄本島全域がいずれかの敵戦艦の射程範囲となり我が上陸部隊は出血を強いられる。砲弾が尽きても堅牢な要塞として使える。我々としては嫌な事ばかりだな」
敵戦艦の最大射程は35~38kmにも及ぶ。
だがあくまでも最大射程と言うだけで目標に命中すると言う訳ではない。寧ろ当たらないと断言できるだろう。
大和の主砲最大射程は41.4km。狙ってこの距離の目標に直撃させることが出来ると言うのであればそいつは大嘘つきだ。それか頭のおかしい、おめでたい奴と言う事になる。
それは敵にも同じ事が言える。
だがそれでも1トンを超える巨弾は十分以上の脅威だ。いや、最悪上陸したとしても作戦は失敗する恐れすらある。
たったの1発だけで先発隊の海軍特別陸戦隊2500名が壊滅する事だって有り得るのだ。
しかも先程も言ったが、砲弾が尽きてしまえばそれで終わりと言う訳ではない。
要塞としても十分に使える。地下要塞以上に厄介この上ない代物だ。
「提督、どういたしますか?ここで撤退すれば今までの犠牲が全て無駄になってしまいます」
「そんなことは分かっている。だがどうやってあれを完全に破壊する?」
「……空襲は?」
「まだ沖縄本島の敵飛行場は健在だ。下手に近づけばどうなるかは明白だろう」
艦橋内で色々と議論が交わされるが決定的な答えは出てこない。
しかし本当にどうしたものか。
このままのんびりしているわけにもいかない。
一応、幾つかの案はある。
先ず、1つ目艦載機での空襲だ。
流星は水平爆撃であれば80番(800kg爆弾)を搭載して爆撃することが出来る。陸用爆弾では無く、対艦攻撃用の徹甲爆弾であれば潰せるだろう。
だが沖縄本島の飛行場はまだ健在で航空機も残っている。今のこの艦載機数だと如何な烈風、如何なエース、熟練搭乗員とはいえ数で囲まれて一方的にやられる事になる。
この案は難しいと言わざるを得ない。
そして2つ目。
戦艦6隻による夜間の艦砲射撃を持って叩く。
昼間だと間違いなく飛行場から飛び立った敵機にやられてしまうが夜間ならばその心配は薄い。だがこれは上陸支援や沖縄本島、南西諸島各地の攻略を行う上で我々は戦艦が必要だ。ここでやられるのは宜しくない。
「提督、流星による夜間爆撃を具申します」
艦橋内で対応策が浮かばずどん詰まりしていた所に、今まで黙っていた作戦参謀がそう言った。
「夜間爆撃だと?流星は大型機ではないぞ。出来るのか」
「出来るか出来ないか、と聞かれると出来ると言えます」
「理由は?」
「まず目標が固定目標であることです。洋上ならば視界が利かず動き回り回避機動を取る艦目掛けて爆弾や魚雷を落とさねばなりませんが今回は一か所から動くことはありません。夜間であろうと命中させる事は出来る筈です」
確かに固定目標であるならば可能だろう。
だが夜間となると辺りは真っ暗で、視界が無い状況ではどうすると言うのだ。
「では夜間の暗闇の中でどうやって目標を発見する?出来るとしても目標が分からないのであれば無理だぞ?」
「そこは戦艦や巡洋艦から水上偵察機でも発艦させて照明弾や吊光弾を投下させます。もしくは戦艦の主砲から星弾(主砲から撃ち出す為の照明弾。迫撃砲などから撃つ照明弾の艦砲発射型と思えばよい)でも宜しいでしょう」
「うーむ……」
確かに話を聞けば実行可能そうではある。
だが実行可能と実行して戦果を挙げる、と言う事では丸っきり意味が違う。やるのならば当然それに見合うだけの戦果が必要だ。
だが本当に夜間爆撃で敵飛行場や座礁した戦艦は撃破可能なのか?
どうしてもその疑問が拭い去ることが出来ない。これで何も戦果を挙げることが出来なかったとすると矢鱈に出撃させて搭乗員達にいらぬ負担を強いる事になる。だが他に何か解決案がある、これならば確実に何とかなると言う策も無い。
さて、どうするか……
「提督、搭乗員達は皆技量抜群です、未だに気力も十分です。小数機しか残っていないとはいえ彼らならば必ずや、やってくれるでしょう」
「提督、どうかご決断を。今決めなければ敵の増援艦隊が到着してしまい手遅れになってしまいます」
決断を迫って来るが確かに参謀長や艦長達の言う通りだ。
今ここで決めるしかない。もたもたしている暇は無いのだ。
「……よし、夜間爆撃を許可する。急ぎ流星隊から人員を選抜し準備に取り掛かれ」
「「「「はっ!了解しました!」」」」
俺がそう言うと各々が自身の仕事に取り掛かる。
現在時刻はもう既に18時半を過ぎており、そろそろ日が沈もうか、と言う時刻だ。呉よりも随分と太陽が落ちる時刻が遅く感じる。
恐らく夜間爆撃隊が選抜され、攻撃準備が完了する頃には完全に太陽が落ち切って真っ暗になるだろう。
「提督、準備が整いました」
「あぁ」
「出撃するのは山田中佐機以下16機32名です。武装は80番対艦用徹甲爆弾を装備します。流星16機は二波に分け、8機ずつの攻撃を行います。彼らの誘導には金剛、霧島から零式水上観測機2機を第一陣に。鈴谷、熊野から零式水上観測機2機を第二陣として出します」
「まず一番最初に攻撃するのは最も上陸地点に近い米須海岸に座礁した敵戦艦です」
「うむ、頼んだ。万時抜かりなくな。彼らは昼間もあれだけ戦ったのに夜間まで戦おうとしてくれている。支援はしっかりと行うようにな」
我々は上陸地点より東に30kmの地点を航行している。
これだけ近ければ航法を誤ることは無いと思うが夜間爆撃を空母艦載機で行うなんて今の今までやった事の無い事だ。
入念に準備、とは行かないが可能な限りバックアップをする必要があるだろう。
「勿論、重々承知しております。現在発艦準備を整えており、発艦時刻は1920を予定しております。これで宜しいでしょうか?」
「あぁ、それで頼む」
「提督、今更ながらですが旗艦を変更し移乗されては如何でしょうか?」
「……どういう事だ?別にこのまま瑞鶴でも構わんだろう」
瑞鶴艦長が唐突にそんなことを言い出した。
余りにも唐突過ぎて返答するのが遅れてしまった。
しかし、移乗して欲しい、か。瑞鶴は烈風しか発艦出来ないとは出来ない言え戦闘力を未だ保持しているから問題は無いと思うのだがな。
「いえ、瑞鶴は今現在損傷して烈風20機を収容するに留まっております。これ以降は隼鷹以下3隻が主力となって攻撃をするのですから指揮官たる提督が瑞鶴に乗艦していると、正直通信等が一々面倒です。それに即応性に欠けます。それらを考えると無傷の隼鷹か金剛に移乗された方が良いのではないか、と」
その通りだろう。
事実、今現在の航空攻撃の主力となっているのは隼鷹以下二航戦だ。それを考えれば一々通信をこちらに送らなければ判断を仰げないと言うのは面倒だし手間だ。
それには同意出来る。
それにどうやら参謀長達も同意見らしく頷いている。
「確かにその通りだが、今すぐに移乗する訳にはいかんだろう」
「何故ですか?即座に移乗して頂いた方が宜しいかと思いますが」
「今は発艦準備を急いでいるし、俺がこのタイミングで移乗するとなると余計な事で手間取らせて発艦予定時刻を過ぎるかもしれん。発艦が終了してからでも問題無いだろうし構わんだろう」
「了解しました。では移乗して頂けると言う事で宜しいですね?」
「あぁ」
「では準備だけは進めさせて頂きます」
「うん、頼んだぞ」
そう言って艦長は指示を出し始めた。
それからきっかり1920に一番機である山田中佐機が発艦した。
最後の機が発艦してから20分後に俺は隼鷹に移乗した。
その30分後、16機の流星は敵戦艦へ攻撃を開始。見事に命中弾7を叩き出した。
80番はその破壊力は絶大だ。完全に破壊とは行かないまでも大打撃を与える事は可能だろう。
そして米須海岸の次に目標となったのはホワイトビーチに座礁した敵戦艦。
ここも上陸地点に近いので優先的に叩く必要がある。
他に敵戦艦が座礁しているのは旧宜野座漁港付近と安田ヶ島、宇佐浜に座礁している。
巡洋艦はそれと共に座礁していることが多く、駆逐艦も同様だ。
米須海岸とホワイトビーチの二カ所には敵戦艦の他に巡洋艦が計2隻確認されている。これも徹底的に破壊しておかなければならない。
更には敵飛行場の問題もある。こちらは全くの無傷だからこれも破壊しなければならない。
でなければ上陸は夢のまた夢だ。
最終的に、敵戦艦への攻撃は4回行われ敵戦艦と敵巡洋艦は破壊されたとの報告が上がった。
距離が近いから数十分間隔での発艦となり隼鷹だけでなく飛鷹甲板上はてんてこ舞いの大忙しとなり、各要員は必死に兵装搭載や燃料補給作業を進めた。
結局、選抜された16機以外にも8機が追加で選抜されて爆撃に参加した。
その後、敵飛行場は島内に那覇、西原、嘉手納、読谷の4カ所に確認されているからそちらにも爆撃を実施。
同飛行場らを複数回に渡る反復爆撃によって数日間は使用不可能、と判断。
それに伴い、後方で待機していた上陸部隊を乗せた輸送船団の内の先発隊に前進命令を出し、遂に上陸のその時がやってきた。
今回は攻撃隊より、防空戦闘を主眼に書きました。
途中第三者視点、所謂神の視点と言うやつを入れました。
ヴァンガードが装備している40mm機関砲は、ポンポン砲と言うやつですね。
前話よりもかなり長くなったのは、今回の話で上陸まで持って行きたかったからです。
最後に、読者の皆様へ。
今現在、日本に限らず世界中でコロナウイルスが猛威を振るっております。
後書きではありますが、この様な状況の中で懸命に各方面で尽力している方々へ心より敬意と感謝を申し上げます。
差し出がましいとは思いますが、どうか、読者の皆様も自分は大丈夫だと考えずにお身体やご家族の方々や友人知人、そうでない方々を守るためにご自身の行動をお考え下さると恐縮です。(私も外出をしないまま気が付けば2週間が過ぎました)
それではまた次話、もしくは別の投稿作品でお会いしましょう。