暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第20話

日本に帰って来てからの話だ。

先ず大なり小なりの損傷艦は全てドックに入れられ修理を行った。

と言うよりも全ての艦がドック入りしなければならない。

 

それ以外の妖精達は戦闘訓練が行えない状況であったりするためにその間は休暇と言う事になった。

 

 

 

瑞鶴は飛行甲板と被雷した箇所の修理等を行わなければならない。

その時に試作である空母艦載機用の艦発促進装置、所謂カタパルトと言う物を飛行甲板へ装備する事になったのだがこれがとんでもない曲者だった。

と言うのも驚いたことに通常、空母艦載機を発艦させるのに用いるカタパルトは蒸気式や油圧式が普通だ。

 

元々技研の連中は、水上機発艦用の火薬式カタパルトを空母用に改造したものを搭載しようとしていたらしい。

だが火薬式は搭乗員への負担が余りにも大きすぎるのと、機体強度が弱いと射出時に冗談抜きでバラバラに分解しかねないのだ。

その点、水上機の方が機体強度が高く、烈風や流星では少なくとも耐えられそうにないと言う結果になった。

 

当然、そんなものを搭載する事を上が許可を出す訳も無く。

その結果として開発されたのが蒸気式の物なのだが前述の通りとんでもなく面倒な代物なのだ。

 

と言うのも蒸気式と言う事は、専用の機関を追加で搭載するか、元々艦に搭載されている推進用の機関からの蒸気を使うか、の二択になる。

 

まぁそんな事を想定して艦が設計されている訳が無いので専用機関を搭載するスペースなぞある訳も無く。

そうなれば二択の内の後者になる訳だがそれに伴い瑞鶴は配管やらなんやらを機関から引っ張ってきて……と大工事になった。

 

が!ここで大きな問題が発生した。

このカタパルト、全くの使い物にならないのだ。

そもそも動作にすら不安が残り、誤作動を起こして作業中に発艦させてしまうなどの事故が多発。

 

お陰で3名の死者が出るほどの大騒ぎ。

そんなもん搭載していられるかと速攻で撤去が決まった。

 

当然である。

お陰で瑞鶴は1か月掛けての修理兼工事を終えてドックから出たと思ったら3日後には再び入渠することが決定。

また1か月かけて配管やカタパルト本体の撤去を行った。

 

平時であれば技術発展と言う事でそのまま搭載するだろうが今は戦時だ。

しかも貴重な空母をそのせいで前線から引かせる事なんて出来る訳も無い。

 

そのまま搭載して戦闘に参加したとしよう。

そんな最中に信頼性皆無の物で貴重な搭乗員と艦載機を発艦させられるか、と言う話である。事故でも起こったらそれこそ目も当てられない。

 

 

そんな結果を残した技研の妖精達は当然上からこっぴどく叱られて相応の罰が下った。

それでも優秀であることは変わらず即座に研究に戻された。

 

だがカタパルトの研究は重要だ。

発艦時間の短縮など様々な利点がある。やらない理由にはならない。

結果としてはカタパルトの研究はそのまま続行する事になった。

 

と一悶着あったが空母はこんな感じだ。

 

飛龍と蒼龍は既に修理を完了し配属された新兵の習熟訓練を行っている。

 

 

 

 

戦艦や巡洋艦クラスは半年間に渡る支援砲撃によって摩耗した砲身や砲塔そのものを交換したりしなければならず、それは駆逐艦や空母の対空砲なども同じだ。

 

更に全艦、機関部の点検やあちこちのオーバーホールで艦隊全ての修理が完了したのは日本に帰国してから4か月後の事であった。

 

 

 

 

次に航空隊だが、こちらは搭乗員と艦載機の数だけは揃えられた。

ただし、練度は最低限である。

 

当然、そんな状況が許されるわけも無く3か月に渡る猛訓練を実施。

原田大佐曰く、

 

「私の中では最低ラインですが、一応は実戦で通用するレベルにまでは仕上げました。ですがまだまだ訓練は必要です」

 

との事だ。当然、引き続き訓練である。

呉鎮守府付近の上空では毎日の様に熟練搭乗員相手に模擬戦を行い、3対1で数で勝る新兵が翻弄されながら操縦する機体が飛び回っていた。

 

それ以外、特に補給に関しては沖縄へ向けて引き続き鳳翔以下護衛艦隊が物資と共に各師団への補充人員を送り込んでいる。

 

機甲師団は送り込まずに歩兵師団のみとなっている。

例外的に、合同艦隊が持って来た戦車の島嶼帯での使用に耐えられるかと言う実験を行うために、

 

ケッテンクラート、ハノマーク兵員輸送車、Ⅲ号戦車、Ⅲ突、Ⅳ号戦車、フンメル自走榴弾砲、Ⅵ号ティーガー重戦車を4両ずつ送り込んで試験を実施。

 

結果は、フンメル自走榴弾砲までの比較的軽量な戦車などは十分使用出来る。

75mm対戦車砲も十分使用に耐えられる、との事だった。

 

だが問題はティーガーだった。

これは重量がⅣ号の2倍以上もあり、当然、雨が降ったりすれば泥濘と化す南洋の島々では使用出来ないと言う事だった。

 

舗装された市街地などであれば問題無いのだがそこから外れると酷い有様だった。

雨が降らず快晴、地面もしっかりと乾いている状態であればそこそこ使えるのだがひとたび雨が降れば一切使い物にならなくなる。

試験中、何度も泥に嵌り抜け出せずⅣ号戦車やⅢ号戦車に引っ張り出して救助される光景が当たり前。

 

南洋の島々はスコールであったりとよく雨が降る。

そういう状況下でも問題無く使えなければただの足手纏いにしかならない。

 

結果的にティーガーは太平洋戦線では使い物にならないと言う判断が下され、本土の倉庫行きとなった。

結果、南洋の島々での使用に耐えられるとしてⅢ号戦車とⅢ突、Ⅳ号戦車、フンメル自走砲が少数生産され沖縄へ送り込まれる事になった。

陸軍の戦車はどれも深海棲艦の戦車に対して無防備であり、撃破するには側面か背後へ回り込まなければならないが、こちらは何処を撃たれても撃破されてしまう事から、陸軍としては機甲師団全てとは行かないまでも前線へ送る戦車は最低限Ⅲ号戦車にしたいらしく、海軍へ資材の融通を求めてきている。

が、損傷艦の修理等も行わなければならないので現段階では出来ず、幾ばくかの資材を回したに過ぎなかった。

 

75mm対戦車砲は元々対戦車兵器の不足していた陸軍が大規模に生産を行う事が決定。初期生産としてまず15門が沖縄へ送られた。

 

ケッテンクラートは速度、搭載量が意外と多い事や密林の中での機動性の高さと言う、その利便性から偵察部隊と工兵隊へ配備が決定。

牽引用の荷台も大雑把ではあるが作成して同じく沖縄へ送り込んでいる。

 

 

 

陸軍の兵装に関してはこれぐらいだろうか。

あぁ、航空機だがBf109、Fw190などの戦闘機を高高度迎撃用戦闘機として生産してはどうかと言う意見が出たが、これ以上航空機製造ラインへの負担が掛かる事はあまり望ましくなく、更に言えば合同艦隊の戦闘機のエンジンは液冷式なのだ。

見分け方としては、空冷式、零戦などの機体は機首がずんぐりしているのに対して液冷式の機体は機首がどちらかと言うと尖がっている、と言う感じだ。

代表例を挙げればスピットファイア系列やBf109系列の戦闘機だ。

 

日本には飛燕以外に液冷エンジンの製造経験は無く、なんなら整備が空冷式の疾風などに比べると格段に難しい。

一応飛燕のエンジンはBf109のエンジンのライセンス生産なので作れない事も無いがドイツと同レベルのエンジンを作り上げられるとは言えない。

 

しかもその整備兵を養成しなければならず時間は相当掛かる。

 

新米整備兵がただでさえ神経を使う航空機エンジンの整備、しかも液冷式エンジンの整備を毎日の様に行うともなれば当然稼働率が下がるわけだ。

しかも取り扱った事の無い機体とエンジンだ、最悪事故による損失すらあり得る。それを考えると忍び腰にならざるを得ない。

と言う訳で整備性や生産性等を考慮した結果、Bf109の生産、実戦配備は見送られた。と言っても合同艦隊が日本に持ち込んだ分の機体の補修パーツと1個中隊分の機体を生産する事になっている。当然、実戦に参加させる。

4機では流石に厳しいからだ。元々の4機とそこに追加で12機の生産予定だ。このうちの4機は予備機となる。

 

これは遊ばせておく戦力など無いと言う事だ。

搭乗員については引き続き元々の搭乗員が引き続き行う。

 

戦闘機相手の戦闘となると烈風や疾風に軍配が上がるがそれ以外の低中高度の爆撃機迎撃ともなるとBf109やFw190などの戦闘機はその機関砲の威力もあって猛威を振るう。

 

単発機相手ならば当たり所によっては一撃で爆散、そうでなくとも撃墜は出来る。

これが爆撃機と言うデカい的に向かって射撃をすれば何十発も命中するのだからとんでもない。

 

 

 

配備されているそれぞれ12機の戦闘機は、対爆撃機戦闘にのみ投入されて戦闘機は相手にしない。制空に関しては疾風や紫電改が担当するのだ。

役割分担を行えば効率的に迎撃を行える。

 

 

 

あぁ、そうだ。

航空関連での話がもう一つ。

鳳翔での烈風や流星の運用に関してだ。

 

これは鳳翔自身からの意見であるのだが、どうにも鳳翔の飛行甲板だとこの2種類の機体はサイズが大きく発艦にかなり難易度が高いらしいのだ。

 

事実、今回の船団護衛中の対潜戦闘で流星を発艦させようとしたときに対潜爆弾を抱えていたり、爆弾などを抱えて飛び立とうとすると海面ギリギリ、搭乗員によっては主脚が海面についてしまうと言う事態が多発。

 

烈風ならばまだ何とかなるらしいがそれでも厳しい事には変わりない。

なので烈風や流星では無く、従来の零戦を搭載してはどうかとの意見を出してきたのだ。

 

確かにその意見には一理ある。

機種統一と言う事ばかり考えてその艦での運用面での障害等を考えていなかった。

この意見は寝耳に水、と言えるだろう。

 

まぁ零戦であれば予備機として倉庫に保管してあるのがあるからそれを引っ張りだしてくれば良いだけの話なので問題は無い。

 

当然、許可を出した。

搭載する零戦はどれにするかと言う話になったが、零戦62型と52型丙のどちらかとなった。

 

こちらとしては正直言ってどちらでも良いのだが、爆戦型である62型であれば制空と爆弾を搭載するための懸架を標準装備しているので対艦、対潜戦闘もこなせると言う利点がある。

 

52型は純粋な戦闘機なのでそれらは出来ないことも無いが戦闘機を相手する方が余程簡単だろう。

 

結果として、62型を12機、52型を20機搭載する事になった。

役割を出来るだけ分担しておこうと言う事だ。

62型には元艦爆隊の搭乗員が選抜され、万が一の時には戦闘機を相手に出来るという形に落ち着いた。

 

 

 

 

 

さて、凡その説明はこんなものだろうか。

あ、俺の近況報告になってしまうが少しだけ。

 

作戦終了後、日本に戻って俺を待ち受けていたのはありとあらゆる種類の仕事の山だった。その仕事を捌く為に毎日ではないが徹夜が続き、数日程前にぶっ倒れてしまった。しかも今後の作戦や方針を決める為に市木大将達との会議と、陸軍との会議が控えている中でだ。

 

一応、陸軍との会議までは終えたのだがそこで緊張の糸が途切れたのか何なのか、さて呉に帰ろう、と言う時の出来事。

護衛として付いて来ていた海軍特別陸戦隊第1連隊の20名はそりゃ大慌て大騒ぎとなったらしい。

先程までは元気とは行かないまでもしっかりと自分の足で立ち、色々とやっていた上官が倒れたのだから当然と言えば当然だ。俺でも慌てるだろう。

 

 

 

そして倒れた原因は言わずもがな、過労である。

 

当然、仕事なぞ出来る状態では無かったが仕事をしなければならないのでやろうとしたら無理矢理入院させられた。しかも2週間。

 

原田大佐達妖精陣や艦娘全員からとにかく休め、休んでくれと病院に押し込まれたのだ。

と言うか同時期に市木大将と西村中将が過労で倒れた。

 

この2人ならばまだ分かるが俺が倒れるとはどういう事なのか、と思ったが結局市木大将以下5人と俺は仕事を全て取り上げられ暫くぶりの休暇を部下である妖精達から強制的に取らされた。

彼らの言い分は、

 

「前線で戦っている我々ですら休みがあるのに指揮官たる提督達が休みが無いとは何事か。確かに貴方方が居なければ我々は戦う事が出来ないが倒れられて、それこそ死なれては困る」

 

だそうだ。

いや、確かにその通りだ。今回ばかりは納得せざるを得なかった。

そこで2週間の入院生活と2週間の休暇を取る事に。

結局、1か月以上の療養生活とは言うものの実質的な休暇を貰ってしまった。

仕事に関しては艦娘達が代理でやってくれる事になったが機密性の高い、例を挙げるとすれば開発中の高高度迎撃用戦闘機の件であったりと言う物に関しては、元々書類自体に機密だのなんだの赤文字でデカデカと書いてあるのでそれは流石に任せられない。

 

なので機密扱いや機密性の高い書類に関しては俺の所に持って来て貰う事になった。

そういう書類は基本的に早急な判断を必要とする場合が多い。

 

一応、長門、隼鷹に中身の確認程度はやってもらう事にした。

この権限を与えているのは2人だけだ。

 

本来ならばこれもやりたくなかったのだが重要書類と機密性の高い物、という定義はかなり曖昧なのだ。

封筒にそのように書かれている事も有れば無い時もある。

そんなのどうやったって見分けがつかないではないか、と言う事でこの2人にだけは権限を与えた。

 

2人は1日ごとに交代でその役割をこなす事になっている。

訓練もあるしその辺の兼ね合いを考えれば3人は欲しいが機密を知る人間は出来るだけ少ない方が良いと言う事だ。

 

本来ならば隼鷹の代わりに鳳翔を、と考えていたが彼女には航空隊の搭乗員育成と言う現時点で最も重要な任務に就いているのだ。

そんな時にこんな仕事を押し付けてしまっては負担になるだろう、と考えて鳳翔に代わりの人員は誰かいないか?と聞いてみた。

 

するとかなり意外な人選を行ったのだ。

鳳翔がこの時に推薦してきたのが他でもない隼鷹である。どうにも彼女は酒が入ると確かにダメ人間になるがそれ以外、酒気を帯びていなければ誰よりも優秀、との事だった。

確かに沖縄近海でも彼女の意見には大いに助けられたし、事実なのだろう。

 

そう言う訳で許可を出した。

 

 

一応、候補に挙がっていたりする艦娘もいたんだが……

金剛はポロッと漏らしてしまいそうだし、天龍は確かに能力的には優秀だが機密保持云々と言われると信用が無い。

 

重巡組も那智ならば、と思ったが青葉と言うおしゃべりマシーンが居るのだ。

流石に機密は話さないだろうが念の為。

 

駆逐艦達は論外だ。

別に人間性等に問題があると言う訳では無く、見た目もそうだが中身が幼い子もいる。そんな子に機密がどうこうなんて無茶だ。

まぁ、軍に所属しているのでその辺はしっかりしているだろうが。

 

 

 

休暇云々に関してだが、本来俺は休んでいられる立場でも無ければ状況も許されないものなのだ。特に俺は前線での指揮とに加えて南から南西諸島方面の陸海の航空隊に加えてさらに陸上部隊も指揮下に入っている。

海軍に関しては全国中の妖精とその部隊が直接的な指揮下にあり、更に陸軍の最前線である南西諸島方面に派遣される師団や部隊を丸々指揮下に入れているのだ。

一応、負担軽減のためにそれ以外は指揮下には無いがこれだけでもとんでもない数と量になる。

 

 

そう言う訳で南西諸島奪還作戦の前線指揮に加えて諸々の仕事もあったのだからと2か月丸々休暇を取れと言われたが流石にそんなわけには行かない。

 

そこまで休んでしまうとこれ以降の行動に支障が出かねない。

病院からはつい2日前に退院し、鎮守府にあるプレハブの自宅に今は居る。

 

と言っても入院するまでは毎日の様に暇無く仕事に追われていたので、休みと言われても何をすればいいのかさっぱり分からない。いや、分からなくなってしまったと言うべきか。

 

この世界に来る前は学生だったから、正直な話毎日が遊びの連続だったのだがなぁ……

 

娯楽なんて大してない。

そもそもインターネット回線は深海棲艦の攻撃によって使い物にならないし無線通信は今は軍でしか使用されていない。それも機上無線とかの短距離無線だ。一応艦隊から艦載機へは無線を送る事は出来る。だが距離が離れれば離れる程にその精度は低下する。

 

当然、スマートフォンやiPadなどの電子機器や、テレビゲームなんてものも存在しない。そんなものを生産する余裕なぞある訳も無くそんな資源があるぐらいならばそれらは全て軍に持って行かれる。

と言うか戦略資源を輸入に頼り続けていた日本がいきなりこんな状況に追い込まれたのだから当然と言えば当然である。

 

まぁ妖精と言う存在が作った武器しか深海棲艦に効果が無いという特性上、民間企業は軍需関連に参入出来ないので元来そういう方面に参入していた企業は全て撤退、リソースを別分野に向ける事を余儀なくされた。

 

深海棲艦との戦争で大中小に限らず企業は倒産、もしくは休業が殆どだ。

民間用の車の製造販売で有名な企業なども戦況悪化に伴い何社かが倒産。残った会社も大打撃を受けた。資源が無く生産が出来ないのだからしょうがないと言えばしょうがない。

 

今の日本は、と言うよりも国民はその殆どが食料生産の為に従事している。

軍は軍でその国民が生産した食料を徴発して戦争をしている状況だ。お陰で国全体で飢餓が広がり、1億2000万もいた国民は、年寄りや小さな子供と言った体力の無い者や持病を抱えている者から餓死や治療が受けられずに死んでいき、その国民総数は3000万人を切ったとの報告すらある。

 

一応、軍には優先的に食料が回されているが、第1憲兵師団ですら1日2食か1食が普通。

 

俺達には最優先、それも大部分を回してもらっている状況でなんとか南西諸島奪還作戦を成功させて維持しているのだ。

 

国民の数が減ったと言う事は必然的に生産能力が低下すると言う事だ。

縁の下の力持ち、とはよく言うが今の日本はその縁の下の力持ちである国民から様々な物を搾り取って漸く戦線維持が出来ている状況。

 

勿論、陸海軍の妖精や艦娘達がそれこそ命を捨ててでも国を守っているから深海棲艦による本土侵攻は防げているが、それを更に支えているのは国民であると断言できる。

 

 

 

何時の時代も国力を全て戦争に向けた総力戦と言う物は国民への負担が尋常ではないが第1世界大戦、第2次世界大戦の比ではない。

そもそも人間同士の戦争ならば幾らでもやりようはあるがそれが未知の生物となれば何もできない。しかも対抗手段が艦娘と妖精、そして彼らが操る航空機と艦だけと来た。

 

そんな中で、国民に負担を強いて、国民が一番苦しい思いをしているのに休んでなぞ居られるか、と言う話である。

 

そうは言っても鳳翔や長門、隼鷹達や原田大佐達が言った通り俺が倒れたらそれこそ国の未来が無くなると言う事なんだがどうにも、なぁ……

 

 

せめてもの救いは日本に限れば食料などを巡って暴動や内戦が起きていない事だろうか。

それでも不満は大きく溜っている事だろう。元々の文明レベルが高かったところに7,80年前の生活だ、大人であればあるほどその利便性を知っているから不満は大きい。

小さい子供などは知らないから、とは言っても意見を言える年齢ではないのであれだが。

 

 

他国では寧ろ食料を巡っての政府と国民や富裕層と貧困層での内戦が勃発する事が普通だ。

ビスマルクから聞いた話では欧州全域で大小の内戦状態であったらしい。

 

日本は配給制になって各家庭(子供や働き盛りの若者がいる家庭を優先してはいるが)に平等に分け与えられているからだろうか。あとは毎日の深海棲艦からの爆撃も要因だろう。

 

深海棲艦の爆撃などで国民の団結が高まっているとは、何とも皮肉なことだ。

 

 

 

 

そんな状況の中で俺はどうやって休暇を過ごそうか、と罪悪感と共に過ごしているのだ。

これが本職の軍人であれば割り切れたのであろうが、生憎と俺は最低限の座学以外まともな軍事訓練を受けていない元一般人、はっきり言ってしまえば守られる側だ。

 

まぁ戦うと決めた以上、その意思決定を曲げることは無いが、割り切れないものは割り切れないのだ。

 

 

 

 

『提督、隼鷹だけど入っていいかい?』

 

そう考えながら自室の椅子でどうやって休暇を過ごすか考えていると隼鷹が扉を叩いた。

恐らく重要書類と共に時間的に昼頃だから昼食を持って来てくれたのだろう。

 

「入ってくれ」

 

「失礼しまーす。昼飯と重要書類と機密書類を持って来た」

 

「ん、ありがとう。早速目を通すとするか」

 

「駄目。昼飯が先だ」

 

「いや、だがな」

 

「昼飯が先」

 

「……分かった。分かったからそう睨むな」

 

「睨むのも当たり前さ。その仕事優先の生活のせいで今回ぶっ倒れたんだよ?」

 

「すまん……」

 

「飯を食い終わるまでは書類は渡さないから。だけど早食いしたら許さないよ」

 

「分かった分かった、そうとやかく言ってくれるな全く」

 

「とやかく言われるだけの事が提督の身に起きたんだ、当然だよ」

 

隼鷹に睨まれながら、と言うよりも殆ど早食いしないように監視されながらの食事だ。とはいっても無言と言う訳では無く、艦隊の状況とか新兵の様子、合同艦隊との訓練状況を話す。

 

隼鷹はこの会話も仕事に入るだろ、と言いたげな顔だがこれぐらいは許してくれているようだ。

 

お陰で休暇が終わった後の予定が立てられる。

 

「提督、仕事の事、考えてる?」

 

「いや、そんな事は無いぞ」

 

「嘘付け。難しそうな顔してたからね、すぐに分かるよ」

 

「……そんなに顔に出てるか」

 

「少なくともトランプじゃ勝てないね」

 

「そんなにか……」

 

「今は休みなんだから仕事の事考えないで居りゃいいのに。つってもそれが出来れば倒れたりなんかしないか」

 

隼鷹にそう言われて、俺はバツが悪くなりどうするかと頭を掻く。

それから昼食を食べ終えるまで隼鷹と話ながら過ごした。

 

因みに昼食はご飯と味噌汁、そして焼き魚だった。

魚は艦隊の連中が訓練の休みの日に甲板から糸を垂らして釣ったものだそうだ。

海に流す残飯に魚が集まってくるらしく、それを狙って釣りをしているんだとか。上陸して休暇を過ごせない妖精達の少ない娯楽らしい。

 

 

 

 

「そんじゃ、書類をどうぞ提督」

 

「ありがとう」

 

「読み終わったら言ってくれよ、外で待ってるから」

 

「あぁいや、外はまだ暑いだろう、向こうの椅子に座っていてくれれば出なくても構わん。茶葉も幾らかあるから好きにするといい」

 

「そうかい?それじゃお言葉に甘えて」

 

そういうと、隼鷹は湯を沸かして茶を入れ始めた。

機密書類の数は2つと、重要書類が5つ。

さて、今日は重要書類から目を通すか。

 

「あちち……」

 

隼鷹が何か言っているがそれを聞きながらぺらぺらと捲る。

 

 

重要書類を読み終えて、機密書類へ移る。

その内の1つは、南方方面奪還作戦に備えて準備を進める事と、作戦の詳細を詰める為に後日軍令部へ出向せよとの事だ。

 

これに関しては前々から市木大将にそれとなく言われていたので問題無い。

既に海軍は訓練等、作戦に向けて動いているし陸軍にも戦力の抽出を依頼、現段階で作戦投入が決定しているのは、

 

第16歩兵師団

第18歩兵師団

第21歩兵師団

第26歩兵師団

第33歩兵師団

 

の計5個歩兵師団だ。

恐らくこれだけでは足りないので最低この2倍は作戦投入される事になるだろう。

 

沖縄に進出している師団は全てそのまま守備隊として置くことが決定されている。

あの激戦で土地勘を得ているのだからそこから別の戦地へ転用する事はあまり望ましくない。

 

すでに補充の人員が輸送船団と共に送り込まれ続けており、2個歩兵師団は戦力が回復、あとは訓練のみとなっている。

残りの2個歩兵師団も半分程度に回復しており、砲兵師団は損害が少なかった為に後回しにされている。

 

陸戦隊も元々の人数が最大2500人なのですぐに補充が完了。

と言うより陸軍とは違い1つの連隊をあちこちの島に分散して配置せざるを得ない状況のために一番最初に補充されたのは陸戦隊だったりする。

 

 

 

次のは……高高度迎撃用戦闘機に関することだ。

これは確かに機密事項だな。

 

どうやら開発は既に最終段階になっており、テスト飛行も終了し最終的に試作機では無く量産に向けて機体各所の最終調整中らしい。

 

試作機と量産機は、その量産性が違う。

試作機は一つ一つの部品や機体を丁寧に丁寧に作るが量産機はそうはいかない。

そこで試作機にどのような改造を施すのかと言うと、簡単に言えば量産性を向上させる為に多少の再設計を行う。

 

武装は30mm機関銃が4門で1門あたり60発の携行となり240発となる。

最高速度は8700mで750km/hを記録し巡航速度も425km/hと高速だ。更には実用上昇限度が12000mと高高度で飛来する深海棲艦爆撃機の上を取れる高さだ。

 

航続距離は最大2000kmとなっている。

上昇力も750m/minと十分だ。

 

通常であればこれは最初期の設計段階で行われるが今回は初の高高度迎撃用戦闘機の開発となり、さらにはターボジェットエンジンの搭載による後々の性能向上も視野に入れられているので特例として今回はこのような方法になった。

 

既にジェット機化する計画の物には略符号J7W2が与えられた。

既に設計改修により搭載されるターボジェットエンジン開発は同じく海軍九州航空廠の担当が決定しており、エンジン選定は幾つかの案がある。

 

先ず、「ネ20ターボジェットエンジン」を搭載すると言う第1案。

次に、「ネ130ターボジェットエンジン」を搭載すると言う第2案。

 

ただこれはどうやら後者の「ネ130」に決定が下されそう、と言うのが殆どの開発陣の意見である。

 

と言うのも前者の「ネ20」は、多数の致命的欠陥を持っているのだ。

その一つが稼働時間、耐久時間とも言うがたったの数十時間しかない。これでは数回の出撃すらままならない。

 

元々、耐久時間の問題はかなり前から指摘されていたことだ。

理由としては、エンジンの各部で使われる耐熱材料、これはニッケルやコバルトなどを主成分としている。

 

これが不足している事が原因だったのだ。

と言うのもその殆どを陸海の戦闘機と海軍の流星や一式陸攻の生産に完全に振り分けてしまっている為に、確かにそれが原因となっていた。

 

だがその原因が突き止められた時点で研究開発班には相当量の耐熱材料を回したのだがそれでも駄目だった。

それ以外の原因として日本の工作精度が低い事など様々な問題が挙げられる。

 

 

 

 

ニッケルやコバルトを主成分とする耐熱材料は豊富であるがそれでもあまり稼働時間は宜しくない。

更にはタービン(回転式の羽。思い浮かべて欲しいのはジェット旅客機のエンジンを正面から見た時に見えるもの)取り付け部に亀裂が生じるなど、他にもあちらこちらに問題が見つかり稼働時間以外の問題は解決出来そうではあるがそれに掛かる期間はまさかの年単位。

 

それに比べ、やはり稼働時間と言う壁はあれど「ネ130」は比較的安定した性能を発揮出来ているのでこちらが採用されるであろう、との事だ。

 

この「ネ130」は、「ネ20」の経験を元に1から設計され直された完全に別物だ。

普通ならば派生型として開発されるのであろうが、前述の通りネ20の各問題が解決するのには年単位の時間を要する事になっている。

 

そこで、本土防空に間に合わないのでは本末転倒と言う事でならば最初から別物のエンジンを再設計してしまえと言う事だ。そして開発されたのがネ130と言う事だ。

 

稼働時間は通常のエンジンとは比べ物にならない、たったの200時間程度ではあるがそれでも大きく前進したと言えるだろう。

元々、ネ20を搭載したジェット攻撃機なども開発すると言う予定があったがネ20の開発は頓挫、中止となり搭載エンジンが無い。

 

しかも元々ジェット攻撃機に振り分けられる予定であったリソースは全て高高度迎撃用戦闘機に回される事になった。

結局、このジェット攻撃機開発計画は中止、凍結に至った。

 

 

 

軍令部はジェット機化ではない方、レシプロエンジンを搭載した方であるJ7W1に対して正式名称「震電」と命名。

この震電は搭載エンジンが「ハ‐43‐42」を搭載する予定で既にエンジンに関しては量産に備えて体制が整えられており量産開始命令を待つのみとなっている。

 

現段階では未だ量産に至らないが細かい問題が解決すれば早ければ2か月後には量産が開始され、本土防空の任に就く予定だ。

 

やはり爆撃は日に日に激化の一途を辿っており、市木大将と黒川中将は無駄だと分かっていても急げ急げとせっついている。

まぁその気持ちは分からなくも無いがせっついても何ともならないものはしょうがない。

 

そしてその書類には、震電装備の本土防空戦闘機隊を組織するに当たり、それを俺の指揮下に入れる事、そして同時に搭乗員の選抜をせよ、と書かれている。

 

まぁ、指揮下に入れると言う事であれば問題無いが、搭乗員の選抜の方が問題だった。

 

これが空母が動かせるようになる前であれば原田大佐やそうでなくとも部下の誰かを推薦していたであろうが今は彼らは貴重な熟練母艦搭乗員だ。

そう易々と引き抜く訳には行かない。

 

かと言って新米を放り込めば目も当てられないだろう。

さて、どうしたものか。

 

取り敢えずこの問題に関しては搭乗員の皆に意見を聞かねばならない。最低でも原田大佐と各空母の戦闘機隊隊長に意見を聞かねば事は進められない。

俺の一存で決められる事では無いな。

 

しかしながら最低限のリストアップ程度は行っておくべきだろう。

 

 

と、考えていると隼鷹に書類を取り上げられた。

まぁ読み終えていたから良いんだがな。

 

「……まだ読んでいたんだが?」

 

「ほーん、書類を机に置いて腕組んで目を瞑って考え込んでいるのが?」

 

一応、そう言って見ると隼鷹にぐうの音も出ない程に論破されてしまった。

いや、確かにその通りなんだが。

 

「ほら、今日はもう終わり。休暇を存分に味わっておくんだね」

 

「分かった」

 

これ以上どうこう言っても仕方が無い。

隼鷹が出たら搭乗員のリストアップを行うとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

それから、隼鷹が2階の執務室に戻ったのを確認して机から用紙とペンを取り出し早速始めた。

 

流石に原田大佐を引き抜く訳には行かない。

震電の部隊長には蒼龍戦闘機隊隊長である西中中佐か瑞鶴戦闘機隊隊長の井原中佐のどちらかで良いか。

彼らも原田大佐程では無いにせよ、歴戦中の歴戦だ。そもそも原田大佐がぶっ飛んでいる訳でそれと比べるのも可笑しな話なんだが。

 

他の搭乗員に関しては、練度の高低を入り交ぜた感じで良かろう。

ただなぁ、人数の指定が無いのが困り物だ。本来ならこういう物には人数の指定などがあるのだが如何せん、量産段階寸前とはいえド不透明なことが多すぎるのがな……

 

取り敢えず、20人を選抜しよう。

これだけあれば1個攻撃中隊に加えて指揮小隊を1個持たせる事が出来る。

これ以上多いと流石に母艦航空隊の方に支障が出る。

 

だが少なければそれこそ部隊としての意味を成さない。

この人数であれば丁度良いだろう。

 

一応のリストアップは終了、あとは原田大佐達に意見を聞いて見なければな。

 

 

 

しかし、終わったら暇になってしまったな。

残りの休暇をどうやって過ごすかが俺としては一番の問題だな。

 

 

 

 

どうするか……

 

 

 

 

仕事が無くなった俺は個人的な目下一番の問題に頭を悩ませるしかなかった。

 

 

 

 

 








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