第29話
南方方面での作戦から半年が経過した。
その間に幾つか大きな変化があった。
まず一つ。
中代中将が大将となり、軍令部総長と作戦本部長の兼任となったこと。
同じくして俺も階級が大将に昇進し、連合艦隊司令長官の役職に就いたことだ。
これには幾つかの理由がある。
まず一つ目の理由は西村中将が90歳目前である高齢であり、長年の激務が祟ってか最近は歩くことも辛くとてもではないが軍務をこなせるような体調では無くなった事。
ここ最近は車椅子無しでは移動が困難なほどになってしまっており本人からもその旨と共に、
「万が一の時に判断を誤ることがあっては取り返しが付かない。そうなる前に職を辞させて頂きたい」
と直筆の文が添えられて俺を含めた市木大将以下に送られてきた。
確かにその通りであった。
事実、ここ最近はそれこそ視力すらも低下し始めていて見えているかどうかも怪しいらしい。本人は、まだ幾らか見えていると言っていたが、それも何時まで続くかどうか……
それだけでは無く、市木大将も寄る年波には敵わず最近体調をよく崩すようになった。
そこでその時、軍令部総長と連合艦隊司令長官と言う役職を兼任していた市木大将には海軍内での人事も担当していたので、これ以上それぞれの役職に座って致命的な判断ミスを起こす前に引く決断をされた。
しかしながら自分が完全に退役してしまうと支障を来たすだろうから、何処か別の席に着いて穴埋めを行い、その椅子に座っていた者に自身の席を譲るという事だった。
そして中代中将に軍令部総長の役職が回ってきたという事だ。
中代中将は作戦本部長も兼任しているので二つの役職を兼任する事となった。
市木大将は階級はそのままに海軍艦政本部長の職に就いた。
俺はと言うと、元々前線部隊を指揮していた俺では無く市木大将が連合艦隊司令長官職を兼任しているのはどうなのか、それならば俺に与えた方が良いのではないか、という意見もあったし市木大将も賛成はしていた。
だが状況がそれを許さずに、常に前線での指揮を執っておりそんなことをしている暇も時間も余裕も無かった。
だが南方方面での作戦が成功して、資源が運ばれて幾らかの余裕が出始めたのでそれならば、という事で人事発令書、通称人発と呼ばれるものが出され俺は連合艦隊司令長官職を拝命。
それぞれの職は以下の通り。
軍令部総長、作戦本部長兼任 中代美咲大将
連合艦隊司令長官 湯野勝則大将
海軍艦政本部長 市木重尚大将
海軍航空本部長 黒川村治中将
補給、諜報や測量等 広野拓司中将
黒川中将と広野中将の役職は変わらずそのまま。
ただし、二人の仕事量は当初よりも遥かに膨大になっている。
というのも、航空本部長である黒川中将はそれまで日本本土や沖縄までの航空隊を纏めるだけに留まっていたのだが南方方面への航空隊進出と共にそれらの穴埋めとして新設された航空隊を含めるとその数は数倍なんて数では利かない。
それらは全て直接的な指揮を執っているのは俺だが、更にその上となると黒川中将だ。
となれば各種書類は全て黒川中将に上げる必要がある。俺で止められる書類なんて無いのだ。
広野中将も各種補給計画の策定などに奔走しているし、被害が出た時などの補填を計画するのも広野中将だ。
護衛に関して担当しているのは連合艦隊だが実際の所、輸送船団の指揮は広野中将が執っている。
まぁ、そうなると色々と指揮やらなんやらが煩雑になるので、実質輸送船団も俺の指揮下にある。
その辺の話をすると、とんでもなく面倒になるので割愛させて貰うが。
そして以前持ち上がった、俺の存在を公表する、と言う話だが見送られた。
現状、深海棲艦からの攻勢を凌ぎ切れるほどの戦力は整っていない。
何よりも、敵は深海棲艦だけじゃないのだ。
こんな時でさえ、人類は人類同士でいがみ合い、牽制し合い、利権を奪い合うのだから手に負えない。
提督になったのは6年前だが俺がこの世界に来て、既に7年以上。
当初より戦局はマシになったとは言っても、良くない。いや、全体を見れば悪いとすら言える。
現状の説明となるが、南方方面での作戦に参加した損傷艦全艦は既に修理を完了しており残すは訓練のみとなっているのが現状だ。駆逐艦などは既に訓練を終えて前線復帰を果たし、圧倒的に手が足りていない輸送船団の護衛艦隊に臨時で駆り出されている艦も何隻も居る。
加賀と信濃は修理を優先していた為に予定よりも修理期間が短く、あと1か月で修理を終えて訓練に移ることが出来る。
訓練用の燃料に関しては輸送船団によって大量に運び込まれているので少なくとも直近半年は訓練などには支障は無い。
なんなら現在、訓練もすべて完了し戦う事の出来る艦を全力出撃1回か2回分ならあるかもしれない。
第1航空艦隊の空母全艦は既に戦線復帰、継続して訓練を行っている。
生駒、龍驤、千代田の3隻は訓練中ではあるが生駒は第1航空艦隊に、龍驤と千代田は護衛艦隊に組み込まれた。
龍驤と千代田を護衛艦隊に編成した理由はここ最近深海棲艦による通商破壊が激化の一途を辿っているからだ。
護衛艦隊からは再三に渡って戦力増強を、と言う打診が届いておりその戦力増強の一環として2隻に加えてそれぞれの随伴艦として4隻の駆逐艦と共に新しく編成した。
4隻づつの駆逐艦は臨時なので、第1航空艦隊が完全に整えば再びそちらに戻される。
今現在必要なのは前線で戦うための一級線の戦力では無く、補給面でそれを支えるための護衛戦力だ。
第1護衛艦隊
航空母艦
大鷹 神鷹 海鷹 龍驤 千代田
重巡洋艦
最上
軽巡洋艦
名取 鬼怒 天龍 龍田 神通
駆逐艦
東雲 白雲 浦波 狭霧 子日 有明 海風 江風 峯雲 霞 藤波 沖波 清霜 白雲 有明 長月 荒潮 親潮 黒潮 竹 桃 椿 楓 樺 楠 初梅 初雪 浦波 菊月 望月 Z3 村雨 霜月 春月
計42隻
以上となった。
全空母の艦載機数は空母5隻でそれぞれ36機、零戦52型丙20機、零戦62型12機、彩雲4機づつを搭載、計180機となっている。
鳳翔は搭乗員の訓練のために元の任務に戻した。
瀬戸内海を新兵と練習機である零戦を乗せて日夜訓練に励んでいる。
毎回の輸送船団の規模はタンカー25隻、輸送船30隻となっている。
だがその内の5~10隻は毎回行き帰りの航路で沈められるか、大きな損害を被って自沈処分か近くの我々が奪還した島に座礁させることになっている。
この半年で輸送船には既に60隻を超える被害が出ており、毎月10隻程度が沈められている計算になる。
ただしこれでも少ない被害で、毎回の輸送船団の被害は2~3隻に抑えられている。
だがはっきり言ってしまえば、補給面は常に全力運転状態で息切れ寸前だ。
本土の造船所では毎日戦時緊急増産型の輸送船が作られているが損傷艦の修理も行い、尚且つ浮揚作業が完了した艦の修理も舞い込んでくるし、戦艦5隻の浮揚作業も控えているとあって昼夜を問わず24時間、交代で造船所、工廠、ドックはフル稼働中。
妖精以外がこれらの作業に携われないというのが大きすぎる問題だ。
しかもこれだけ全力稼働状態なのにも関わらず、民間に回せる燃料や資源は少ない。
艦艇の修理、各種航空機生産、南方方面での防衛体制確立などなど様々な方面に使用しなければならない。
航空機燃料に関しては使用する航空機が無いから良いとしても各地の航空隊に母艦航空隊錬成、備蓄などを考えるとギリギリだ。
車両用の燃料も南方方面と沖縄へ最優先で送り込み、備えているから碌に回せないし漁船用のガソリンなども同様。
というよりも民間に回せる燃料は、最低限度の発電用のみ。
これでも海軍と陸軍はそれぞれ必死で何とかこの状況を打開しようと策を考えているのだが少しでも何か歯車が狂えば立ち直れなくなってしまう、という状況に追い詰められている。
〔補給計画の失敗は敗北への第一歩〕
護衛艦隊将兵にはこの事を再三言い聞かせて任務に当たって貰っている。
今現在、前線へ出たいなどと彼らから不満の声は無い。
というより不満の声を上げる暇すらない、というのが現状だ。
何故かというと深海棲艦の通商破壊が、先程も述べた通りに激化の一途を辿っており少なくない数の輸送船が沈められている。
航空攻撃が主で、戦闘機隊は迎撃を行うし、その迎撃も敵戦闘機はロケット弾を装備して機体性能が下がっているとはいえ零戦ではF6FやF4Uを相手取るとなると侮れない。
それに潜水艦の脅威もあるしそれらだけでなく、未だに被害と言うよりは攻撃を仕掛けてきていないがここ最近は夜間の洋上打撃艦隊の姿すら確認されている始末。
こんな状況で漏らす不満と言えば、手が足りないからもっと兵力を寄こせぐらいなものだ。
「輸送船団への被害が大きい……だがこれ以上護衛艦隊の数を増やせる訳でも無いし洋上打撃艦隊の姿すら確認されている」
「提督、洋上打撃艦隊にはどうやら戦艦とまでは行かないものの巡洋艦が多数確認されています。もし、夜戦を挑まれたら一溜りもありません」
「分かっている。だが解決策が無いのが現状ではないか」
「一番簡単な解決方法は護衛艦隊の数を増やす事ですが……」
「それが出来ていれば、こんな会議を開いて頭を悩ませる必要なんて無いだろうさ」
俺がそう言ったのを最後に、それからは誰一人として発言出来なくなった。
誰も彼も、必死に考えているのだ、今の物言いは良くなかったな。
「少々言い過ぎた。すまない。少し休憩を入れよう、15分間休憩を取る。解散」
「「「「「「はっ」」」」」」
そう言うと皆は思い思いの休憩を取る為に会議室を出ていく。
会議室と言っても新しく、執務室と俺の自室があるプレハブの隣に大急ぎで立てた掘っ立て小屋なのだが。
椅子に深く座り込んで、息を吐く。
すると、今の今まで艦隊を支え続けてきた山田参謀長が声を掛けると同時に緑茶を差し出して来た。
「提督、お気になさらず。一番尽くしているのは貴方だと誰もが分かっております」
「参謀長……いや、それは言い訳にしかならんよ」
「そう考えるのは自由ですが、少しは休んでください。最近はまた徹夜が増えていると噂になって艦娘の皆さんが怒っていましたから」
「そう言われると、弱るな……全く、連合艦隊司令長官と言えども体調を気遣ってくれて、食事も作ってくれる彼女達には頭が上がらんよ」
事実、艦娘の皆は秘書艦だけでなく毎日代わる代わる俺の食事当番をやってくれて体調やスケジュール管理なんかもしてくれている。
そんな彼女達に、どうやって強く出られようか。
「ならば、早々に休んで怒りを買わない事ですな」
「全くだ」
二人で笑いあう。
以前はそんな余裕すら無かったのだから、幾らかはマシと言えるのだろう。
その後、参謀長は一服してくると言って出て行った。
俺は未だに酒も煙草もやっておらず、毎日仕事仕事仕事の日々だ。だがそんな日常に生き甲斐を感じているのだから、そろそろ俺も末期かもしれない。
しかし、輸送船団の護衛をどうするか……
敵洋上打撃艦隊の件もあるし、無視出来るものではないのは確かだ。
……この際、形振り構っていられんか。
「諸君、それでは会議を始めよう。まず、輸送船団の護衛に関してだが……この際形振り構っていられない。そこで、戦艦を投入しようかと思う」
「戦艦ですか!?」
「それは流石にやりすぎなのでは……」
「だが実際、これ以上駆逐艦の数を増やせない。それに洋上打撃艦隊の件もあるのだから、それしか方法が……」
流石に、俺の意見には誰もが困惑して紛糾した。
そりゃそうだろう。
輸送船団護衛に、戦艦まで引っ張り出すとなれば誰だって困惑する。
通常ならば輸送船団の護衛には主に海防艦から始まり駆逐艦、軽巡洋艦、あとは精々が軽空母までが就く。
1隻だけとはいえ重巡洋艦が護衛に就いている時点で既に異例と言える。
しかも軽空母の数は5隻にまで上っているのだから異例中の異例だ。
そこに戦艦まで付けるとなれば確かに普通ではない。
だが、普通に留まっていては到底深海棲艦には勝てないのだ。
そも、普通では対処できないからこその現状であるのだ。
敵洋上打撃艦隊の規模がどれほどのものか、まだ正確には分からないが戦艦は確認されていない。とすればこちらは戦艦を護衛に入れて置けばもし襲われたとしても、無傷とは行かないが守れる筈だ。
「提督、仮に戦艦を護衛に出すとしてもどの戦艦を?」
「そうだな……金剛達巡洋戦艦で良かろう。彼女達は航続距離も9000海里を超すから単純な往復に一度の戦闘ぐらいならば問題無く行える筈だ」
「ですが、全巡洋戦艦を出す訳には行かないのでは?」
「そんなこと分かっているとも。だから、第1戦隊を戦艦4隻づつ交代で出す。ヴァンガードも加えて8隻居るから半々で十分だろう」
「4隻も、ですか……」
「いいや、4隻しか、だ。考えて欲しい。深海棲艦の物量はどれほどのものか貴官らも十分以上に分かってくれている筈だ。深海棲艦の通商破壊は日に日に激化して被害も無視出来るものではない。戦艦4隻しか組み込めないのだ、最悪戦艦は出張って来なくとも洋上打撃艦隊の重巡洋艦が10隻、20隻と出てきたら戦艦4隻でも不味い」
「流石に20隻と言うのは……」
「有り得ない、と言い切れるか?深海棲艦だぞ?」
「……いいえ、寧ろ20隻であれば少ない方ですな。下手をするとその倍は考えなければなりません」
「だろう。であれば戦艦4隻でも少ないぐらいだ」
結局輸送船団護衛に第1戦隊の戦艦8隻を4隻づつ就けることになった。
金剛、霧島、リシュリュー、ヴァンガードの4隻とビスマルク、ティルピッツ、リットリオ、ローマの4隻づつ。
リットリオやローマは航続距離が他と比べると短いが、輸送船団の被害が抑えられるのならば燃料は惜しくない。
輸送船団を守り切れればそれの十数倍の資源や燃料を持ち帰ることが出来るのだから。
ここで出し渋って輸送船団だけでなく、護衛艦隊にまで被害が拡大するとあってはそれこそ一大事だ。
取り返しが付かなくなる前に手を打たねばならない。
次に連山について話そう。
と言ってもこちらは大して話せることは無い。
機数が揃っていないのでマリアナ方面への爆撃任務に出る事は出来ない。
ただし、その機数は大きく数を増やしておりこの6か月で270機が製造されているが搭乗員配の数が揃わないので実戦に出せる機数は以前の32機に30機を加えた62機となっている。
搭乗員が今現在の270機分が完全に揃うのは半年は掛かる。
それまでは辛抱だ。
本土防空に関して。
こちらは震電が活躍しており、爆撃を許してはいるものの抑えられている。
だがやはり震電の絶対数は少なく完全に防ぎきるという事は出来ない。
そして遂に震電のターボジェットエンジン搭載型が実戦投入され始めた。
まず最初に配備されたのは西中中佐率いる本土防空第323局地戦闘機隊で現在は習熟訓練中だ。
続いて配備されたのは本土防空第324局地戦闘機隊でこちらも習熟訓練中。
どちらの部隊もあと2か月で実戦に出られるとの事だ。
もしこれらが実戦に出られるようになれば、防空に関してはもっと戦果が上がり完全に防ぐことも夢じゃないだろう。
本土上空では毎日の様にジェットエンジン特有のエンジン音が響いている。
323、324戦闘機隊にターボジェットエンジン搭載型、J7W2に置き換えられた通常エンジン搭載型の震電、J7W1はお払い箱になったと言う訳ではない。
南方方面での毎日スラウェシ島やフィリピンから飛んで来る敵爆撃機の迎撃任務に充てる為にその方面の航空隊を一度本土へ呼び戻して訓練を行っている。1か月もすれば南方方面へ配備可能となるだろう。
大体これで粗方の変わったことは終わりだろう。
「全く、また見合いの話か……そんなことをしている暇があるなら働けと言うのだ」
「おっ、また見合いの話かい?モテるね~」
「茶化すな隼鷹……本当に迷惑してるんだぞ」
「いや、ごめんごめん。でも今週に入って3件目だっけ?」
「14件目だ……」
「ありゃ、全然違った。毎日2件は来てんじゃん。暇なの?」
「俺に聞くな。他にやる事、やらなければならない事は幾らでもあるだろうに、こんな事をしているからイザという時に碌に動けないんだ」
今週の秘書艦は隼鷹で、仕事を手伝ってもらいながら見合いの話を断るべく適当に手紙を書く。と言うか、これすら手間なんだが。
最近は面倒だから同じ言葉と文面を用意しておいてそれを写し書きしてるだけになってきた。一応、コピーなどよりも幾らかは謝意が伝わるだろうと言う事で手書きにしている。
「そういやさ」
「なんだ」
「提督って結婚しねぇの?」
「なんだ、藪から棒に」
隼鷹は、ふと、と言った顔でそんなことを聞いて来た。
脈絡が無いのは何時も通りだが今回は随分と突発的だな。
「いやだって確か提督が着任したのが19だか20の時だったろ?そしたら提督もう26歳じゃん?そろそろ結婚とか考えても良い頃じゃねぇのかなぁ、って」
「ふん、そんな暇も相手も無い。それに結婚したとしてもこんな生活だからな、相手に迷惑掛けるだろうよ」
「でもさ、中代大将も結婚したんだろ?流石に不味くない?」
痛い所を付いてくるな……
確かについ先月、中代大将は幼馴染だったか、の男性と結婚した。
と言っても式を挙げたわけでは無く籍を入れただけで、嫁入りでは無く婿入りという事で苗字もそのままだ。
だが中代大将は既に30歳を過ぎて34歳だか35歳になっていたのだから寧ろ当然とも言える。
ただ、両人ともこんな情勢である事、中代大将が職務に追われて忙しい事など理由はいくつかあるが、子供を儲けるつもりは無いらしい。
確かに、中代大将が産休なりで抜けるとなると回らなくなる。
そこは俺達で支えれば良いのだが、支えられるような仕事量では無いから仕方が無いと言えばそうなのだ。
「……中代中将はもう30過ぎだからな、当然だろう。俺はまだ何年か猶予がある。もし結婚するとしても焦る必要は無い」
「いや、でも相手も居ないってのは不味くない?」
「外に出る機会が無いから仕方が無いだろう。出たとしても護衛として陸戦隊が付いてくるもんだから到底見つける事なんぞ出来やしない」
「それもそうか。でもこのままだと毎日毎日見合いの話が入ってくるよ?どうすんの?」
「見合いはしないと公言している筈なんだがなぁ……お構いなしという事だろうよ」
俺はこんな情勢であることなど色々と理由はあるが見合いも結婚もしないとはっきりと言って断っている筈なのにこうして毎日見合いの話が届くのだ。
しかも同じ家から来ることも多々あり、本当に迷惑しているのだ。
毎度毎度、断る文面を手書きで書くことも時間を取られるし、なんなら何度も送ってくる家もあるから腹が立ってくる。
確かに、秘書艦の皆を通して艦隊全体に見合いの話で色々と広まっているらしいがい概ね哀れみの目で見られているのとどうでもいい、というのが大方の意見らしい。
金剛辺りは、
「なら私と結婚しますカー?」
とか言ってきたが本気なのか冗談なのか分からん。
どうしたものか。
とはいえ、相手がいないのも事実。
そもそも鎮守府の外に出る事もそれ以外の飛行場や航空機製造工場などを視察したりするときに出るぐらい。
一応、休日には外出する事も出来なくはないんだがそうなると普段の視察と変わらず俺の護衛と鎮守府警備についている海軍特別陸戦隊第3連隊の中から1個大隊規模が護衛に付いてくるので、女性相手にどうこうとかとてもではないが出来ないのだ。
何度か外出した事があるが、周りの人間が凄い勢いで避けていくのだから、結婚相手を自分で見つけるなんて出来やしない。
まぁ、完全武装の兵士が俺を守る為に眼光鋭く周囲を警戒しているのだから当然と言えば当然だが。
だがこのままだと見合いの話が止まることは無く、寧ろもっと激化してくるだろう。
と言うか、何故俺は深海棲艦相手では無く見合いの話で頭を悩ませているんだ、馬鹿馬鹿しい。
もうやめだ、考えるのは止そう。
「この話はこれで終いだ。それよりも仕事を手伝ってくれ」
「へーい」
そう返事をした隼鷹は、テキパキと手を進めていく。
全く、これで酒癖の悪ささえなければ文句無しなんだがなぁ……
時折、俺の自室に殴り込んで来て酒盛りするのは止めて欲しい。
嫌と言う訳ではないんだが、酔っ払うと色々と見えそうになったり絡んできた時に当たったりとで気を使って疲れるのだ。
ただ、彼女達も気を使ってくれているのか俺に無理に飲ませようとはしないし、次の日が必ず休みの日に限ってだから良い意味でリフレッシュ出来ているのかもしれない。
最近の休日と言えば、自室で昼まで寝ているか誰かに付き合ってもらってのトレーニング、後は釣りぐらいだ。
この辺りは艦から出される残飯を狙って様々な魚がやって来ている。
それこそ停泊中の艦に乗り込んで釣り糸を垂らしてみればものの十数秒ぐらいでその日1匹目の釣果が上がるのだ。
当然、訓練が休みの艦を選んでいるし出来るだけ気にしない様に私服、と言っても無地の半袖短パン程度の物を着て行く。
最近は皆も休日はある程度の節度を持って、しかしながら砕けた態度で接してきてくれるから嬉しいものだ。
先週は那智の所で釣り大会を開催したな。
アジやらなんやらが大量に釣れて幾つかの艦にお裾分けに行ったぐらいだ。
勿論俺も釣れたからその日の食事当番だった羽黒に頼んで捌いてもらった。普段はおどおどしているが戦闘になれば頼りになるし以外と料理も出来るのだ。
まぁ、特に何も無ければそんな日常を過ごしてはいるが、深海棲艦と言う連中はこちらの都合なんぞ一切聞いてくれる訳は無く。
3か月後、深海棲艦の有力な艦隊が中部太平洋方面、マリアナ方面から北上を開始。
戦力は空母10、戦艦7、その他随伴艦多数と言うものだった。