暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第37話

 

 

 

 

空中投下による補給が功を奏して、前線の兵站状況が幾らか改善された。

水食糧、弾薬、医薬品を信濃から飛び立った流星が投下していく。

 

「提督、補給に関しては空中投下もあってかなり改善されて来ております」

 

「それぞれの連隊本部などからの部隊による補給は行えているか?」

 

「いえ、それに関しましては殆ど成功していません」

 

「やはりか……」

 

「はい。それぞれの連隊、大隊本部規模の本部も敵の攻撃を受けており戦闘を行うだけで精一杯でとても補給部隊を編制して、応援に向かわせる事は出来ないそうです。全ての部隊が、と言う訳では無いのですがほぼ全ての部隊がそのような状況です。手あたり次第に物資を投下している為に補給要請がされる事は少なくなりましたが、応援要請が激化しております。このままでは前線の各部隊が全滅するのは時間の問題かと」

 

敵は、地下坑道を通ってあちこちから湧いて出て来るものだからその都度その都度対応せねばならず、しかもその坑道の入り口を塞ぐだけの資材は用意しておらず、爆薬を使って吹き飛ばすぐらいの対応しか出来ていなかった。

 

しかも爆破して塞いだとしても、何処からともなく現れてくるのだ。

恐らく、こちらが確認していない坑道の入り口が無数にあるのだろう。

流石に全ての入り口を塞ぐことは出来ない。

 

戦艦や重砲による準備砲撃や支援砲撃があるとはいえ、丘陵地帯なのだから間に上手く着弾すれば防御陣地ごと吹き飛ばせるんだがそんな上手く行く事は殆ど無い。

だからこそ、一つ一つの防御陣地と入り口を潰して回らなければならない。

 

だが防御陣地の数は無数、坑道の入り口はそれ以上。

 

防御陣地を突破するだけでも一苦労なのに、更に坑道を爆破して、何処から現れるか分からない敵部隊に警戒しなければならない。

 

これだけでも疲労は凄まじいのに、更に複数回の敵部隊との交戦が入ってくるのだから異常だ。

 

 

砲爆撃でも敵の地下坑道や地下陣地、地上陣地は全くと行っていい程に無傷なのだ。

そんなのと戦わなければならないのだから、現状の兵力では到底足りる訳がない。

 

「本土から第51、55、62歩兵師団があと2日で順次到着予定だ。3個陸戦隊も既に到着して戦線参加しているが……」

 

「恐らく、それでも足りないでしょう。最低でもあと3個歩兵師団は必要です」

 

「……軍令部に電文を送る」

 

「はっ、内容は?」

 

「『最低3個歩兵師団ノ更ナル増援ノ要有リト認ム』。『セメントヲ含ム大量の建築資材及ビ火炎放射器ヲ大至急送リ込マレタシ』と打電してくれ」

 

「了解しました」

 

通信参謀に増援及び建築資材と火炎放射器を送る様に打電させる。

 

セメントは敵の坑道入り口に流し込んで塞いでしまう為の物であり、最悪爆薬で事足りるのならばこのセメントはこちらの防御陣地構築に使えば良い。

土嚢で作る陣地よりもセメントで作る防御陣地の方が、誰が考えても強固だ。

もし大隊本部などがそれらのセメントで構築されたとなれば、今よりもずっと戦いやすいだろう。

 

火炎放射器、百式火炎発射機は元々陸海軍、特に海軍陸戦隊に配備されていた。

何故陸軍部隊に大規模に配備されていなかったのか。

 

理由としては燃料タンクに被弾すると周りの兵士も巻き込んで吹き飛び、火の海にするという事から、殆ど使用されていなかったのだ。

 

南西諸島奪還作戦の時に、少数の火炎放射器が投入されたのだがその時は市街地戦と敵防御陣地、地下坑道の入り口に対する攻撃では高威力を発揮した。

 

だが山岳部などでの戦いの時はあまりの激戦故に火炎放射器を使用するタイミングも無く、援護射撃を行えるだけの十分な兵力が存在しなかった事から使用されていなかった。

 

だが今回は、敵の防御陣地などに対してかなり有効的に使用出来るのではないか?と考えた。

 

どうにかして、敵の坑道の出入り口だけでも潰さなければ幾ら兵力をつぎ込んでもただの消耗にしかならない。

 

しかし、現状の兵力で前進、飛行場の奪還は困難だろう。

 

「参謀長、全部隊に通達。現時刻を以て増援部隊が本土より到着するまでの間、前進を中止、防御陣地を構築して防衛に務めよ。もし単一の部隊での防衛が戦力的、立地的に困難な場合は後方の部隊と合流、もしくは連隊本部等までの後退を許可するものとする。以上を知らせてくれ」

 

「了解しました」

 

一度、攻撃を中止させて本土からの師団が到着するまでは防戦に努めた方が良い。

何よりもこの現状のままで攻撃を続行するのは、兵力を無意味に擦り減らすだけだしこれ以上の損害がでれば、橋頭保の確保すら危うい。

 

なので現時刻から各部隊の再編などを行うべきだ。

 

あと2日待てば第51歩兵師団が到着する予定だし、その5日後には第55歩兵師団が、その1週間後に第62歩兵師団が続々と硫黄島に到着する。

 

そうなれば8万近い兵力を揃えることが出来るので、敵との戦力差は以前としてある事には変わりなく厳しいだろうが少なくとも今よりはマシで楽な戦いをする事が出来る筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

俺の命令を受けて各部隊は前進を中止。

防御陣地を構築してその場での防戦に専念する事となる。

防戦と言っても敵の数はこちらの遥か上を行くのだから厳しい事に変わりないが、それでもコンクリートを運び込んだ事により、土嚢での土壁越しで戦うよりはずっと良い。

何よりも敵は航空戦力を持っていないし、もし保有していたとしても飛行場は戦艦による艦砲射撃と連山による絨毯爆撃で碌に使えない。

滑走路だった場所は掘り返されて滑走路の面影は全く無く、爆弾孔と砲弾孔しかない。

恐らく、完全に復旧するのに最低でも2か月は掛かるだろう。

本来ならばこちらが奪取した時に備えてここまで徹底的にやる予定では無かったのだがそもそもの話、飛行場を奪取する事が出来なくなったのでそれならば敵に使用されるかもしれない可能性を完全に潰してしまおう、という事になった。

 

それぞれの飛行場には丸々1日間に渡る戦艦15隻全てからの艦砲射撃は熾烈を極め、その砲撃音や炸裂音が聞こえてくるほどだ。

しかもトドメとばかりに連山による爆撃が行われた。

 

それによって飛行場修理のために持ち込んだコンクリートなどの資材が行き場を無くした。

先ず、その資材は最前線の各部隊に送られてコンクリート製の防御陣地を構築するに至った。

まぁ、コンクリートが固まるまでの2日程度はその辺に掩体を掘って隠れなければならなかったのだがそれが過ぎれば少なくとも航空機を除いた火器に対してかなりの防御力を有する陣地が前線やその後方に位置するほぼ全ての部隊で使用されるに至った。

 

続いてその上位部隊である大隊本部や連隊本部の陣地をコンクリートによって構築。

流石にトーチカなどを作る暇は無いので高さ1.3m程度のコンクリート製の壁や掩体が作られている。

 

これだけの資材を持ち込めた、もしくは送り込む事が出来る理由としては沖縄本島や南西諸島の島々の要塞化が完了しているからに他ならない。

 

地下陣地やそれらを結ぶ地下通路には鉱山など使われるような軽便鉄道の線路が張り巡らされている。

それによって物資や兵員の移動が迅速に必要な箇所に送り込める。

 

地下陣地及び地下通路は全て鉄筋コンクリート製、空調設備を完備しておりそれぞれの物資の備蓄状況は全力を出して戦っても3か月、徹底して持久戦に徹すれば最低でも半年は持ち堪えられる程の備蓄状況だ。

 

今でも物資を備蓄するための倉庫を増設中だがほぼ完成状態なので、万が一敵の上陸があったとしても戦える。

 

 

兎に角、今現在の硫黄島で戦っている部隊はコンクリート製の陣地に守られているという事だ。

 

お陰で、移動が激しくなくなったので部隊の位置が殆ど固定されているから空中投下による補給が幾らかやり易くなった。

 

流星は超低空飛行によって100kg単位の物資を投下する。

以前にも言った事があるかもしれないが、艦船に対する攻撃で100kgと言う重量は正直に言って、攻撃力は低い。

我々の戦時緊急増産型の防御力が低い輸送船でも無ければ1発でやられる事は早々無い。

煙突に直撃して爆炎が機関部を、とかでもない限りは駆逐艦ですら耐えられる。

 

だが考えてみて欲しい。

それが食料100kg分、弾薬100kg分、水100kg分、医薬品100kg分とするとだ。

 

水食料は言わずもがな、医薬品だって100kgもあればどれだけの将兵の命が助かる事か。

 

弾薬だって相当数になる。

Stg44に使用されている6.5mm弾で考えてみよう。

 

これの重量は21gなので、1kg辺り凡そ47~48発。

これが100kgになると4700~4800発程にも膨れ上がるのだ。

 

Stg44を装備している歩兵1人当たり180発を携行するので、4800発分を投下したとすると26人分以上の弾薬数になる。

だが、100kgなんて数量で投下する訳では無い。流星は爆弾であれば最大800kg、魚雷であれば1t以上の重量があるが搭載可能。

 

爆弾の重量である800kgで考えてみよう。

単純に計算したとしても1機当たり3万8400発。

1人当たり180発携行で計算しても、213人分+αとなる。

 

今の損耗した中隊規模ならば十分に行き渡らせる事が出来る弾数だ。

小隊に送り込むにしてははっきり言って過剰過ぎる弾数ですらある。

 

ただここで問題となるのは、最大積載量が幾ら多くとも最大積載量を積むだけのスペースが流星には存在していないという事だ。

 

爆弾を吊架する爆弾倉のスペースにはどうやっても限りがあるし、800kg分の弾薬と言うのは、積み重ねたとすると相当の面積になる。どうやっても搭載不可能だ。

 

ヘリコプターの様に垂直離着陸が可能な機体ならば輸送は可能だろうが、少なくとも今現在は配備されていない。

陸軍にはカ号なる垂直離着陸機が少数あるのだが、砲兵隊の着弾観測のために開発されたのであって、到底800kgを吊るして飛ぶことなど出来る筈も無い。

 

 

流星で送り込める重量は精々が200kgが良い所だろう。

だが先程も言った通り、100kgで最大4800発なので、200kgともなると10600発。

 

52人に行き渡らせられるし、なんなら余る。

だが小隊の最大満数は50人なので、確実に2人分以上が余る数だ。

 

 

たかが50人分ちょっと、などと馬鹿にできない。

何しろ今の各部隊は兵員を消耗していて50人の満数なんぞ何処の部隊も存在していないからだ。

 

どれだけ兵員が生き残っている部隊でも30人か35人ほど。

しかもこれはあくまでも生き残っているというだけであって実際に戦える兵員としての実数は小隊の半分程度、25人以下が殆どだ。

それ以上の兵員数を保持している部隊は、どこにも居なかった。

 

連隊は基本満数2500名で構成される。

純粋な歩兵連隊ならば歩兵のみでそこに幾らかの工兵や砲兵が混じる。

だが今現在の各連隊は、特に最前線を構築している連隊に言える事だが小隊単位の被害が大きく、先程も述べた通りに戦闘可能な兵員数は半数以下。

 

それらを全て合わせても2500人の半分1250人以下。

酷い連隊だと全部隊の戦闘可能兵員数を全て合わせても僅か800名程度にまで減っている連隊もある。

 

たったの3割しか、生き残って戦える状況でないという事だ。

沖縄本島全てを奪還し終えるのに投入した陸上兵力約10万の内、9割を失う戦いだったが、今回はそれ以上を覚悟しなければならないかもしれない。

 

ともかく、補給面に関しては嬉しくない事だが消耗しているお陰で幾らか改善していると言える。

 

 

 

 

 

 

 

輸送船団によって運ばれてきた陸上部隊用の物資は信濃に次々と積み込まれ、流星によってピストン式に送り込まれている。

 

南西諸島、南方方面への輸送に関しては細々とだが続けられており、その輸送航路は護衛艦隊を付けられないので出来るだけ安全を期すために南西諸島までの航路は今までと変わらず、島嶼帯の近くを航空支援の元に航行して、バリクパパンへ向かう航路を修正、カリマンタン島とスラウェシ島間のマカッサル海峡、見た感じから言えば奪還した地域の外側付近を進むのではなく南沙諸島、リアウ諸島方面の内側を通るのだ。

 

こうすれば、もし敵が攻撃隊を送り出したとしても陸上にある各部隊の駐屯施設に発見されて迎撃隊が大挙して押し寄せるだろうし、潜水艦の脅威も外側よりは随分と低い。

 

硫黄島に対する物資輸送を最優先としている為なのだが、やはり護衛艦隊を付けられないというのは不安だ。

それでも輸送船団に対する被害は最小限に抑えられているので各将兵は良くやってくれている。

 

 

 

 

 

硫黄島や艦体に対する補給の為の輸送船団は規模こそ未だ展開している兵力が今までと比べると少ないが半面、各種物資の消費量は尋常じゃない。

南西諸島以上である。

 

それでも維持出来ている理由は、単純に展開している陸上戦力が少ないという事だからだ。

合わせても4万程度しかおらず、先程から何度も述べている通り兵員を消耗している

ので実際の所は戦える兵員数は2万か2万5000程度が良い所だろう。

 

1個師団規模の兵員を賄う事は大変な事だが、今までの戦力に比べるとずっと楽だ。

南方方面に関しては12万人以上が作戦に従事したのだから、その6分の1と言えば分かるだろうか。

 

 

だがそれでも弾薬の消費量は沖縄での戦いに匹敵、もしくはそれ以上となっている。

敵は常に波状攻撃を仕掛けてきてこちらの物資を消費させてくるし、それによって少なくない死傷者が出ている。

水食糧はまだ良いとしても、砲弾薬と医薬品は改善されたとは言っても足りていない。

 

兎に角、増援が到着するまではどうにかして持ち堪える、持ち堪えてもらうしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、どうにかこうにか第51、55、62歩兵師団が順次到着。

陸上総戦力は6万程度になった。

 

それにより、前線を構築していた第46歩兵師団と第11陸戦隊と第23陸戦隊は第51歩兵師団と交代。

予定ではそのまま作戦に参加させる筈だったが、想像以上に被害が大きかったので本土に後退、再編する事となった。

 

第46歩兵師団は当初2万名の兵力を有していたが、交代した時には戦える者は2300名にまで減っていた。

凡そ9割の約1万7700名が死傷した事になる。

 

第11陸戦隊2500名は600名程までに、第23陸戦隊も同様に550名程度しか戦える者はいなかった。

 

 

 

この事態を受けて中代大将以下軍令部及び陸軍参謀本部は更なる増援を繰りこむことを決定。

投入兵力は、

 

第79歩兵師団

第83歩兵師団

 

以上の様になった。

到着するのは2週間後の予定となっているので十分に作戦には間に合う。

2個師団が到着すれば10万名の兵員を揃えることが出来るので、敵も物資的にも兵員数的にも疲弊している筈だからそれなりに戦える筈だ。

 

そうなると、我々は総勢14万名程の陸上戦力を注ぎ込んだことになる。

南方方面奪還作戦と同規模の戦力がこの太平洋にある小島に投入された事になるというのだから驚きだ。

 

 

 

 

そして、増援の3個師団が到着したことによって、こちらは再び北飛行場奪還に向けて進軍を開始。

 

既に我々が硫黄島上陸から2か月も過ぎた頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

「提督、敵部隊は今までの戦いによって疲労しているようで抵抗が今までと比べると弱くなってきています。防御陣地にぶつかっても今までの場合は死に物狂いで敵も死守して猛攻を加えてきましたが今では以前ほど敵から銃弾が放たれる量は少ないようです」

 

「幾ら深海棲艦とは言え、1カ月もこちらの防御陣地に波状攻撃を仕掛けて来ていたのだから戦力的にも物資的にも追い詰められるのは、当然だろう。守りに徹されれば敵兵の消耗も物資の消耗も少なくこちらの勝利はかなり危ういものとなっていただろうが、ここで敵は愚策を踏んでくれたな」

 

深海棲艦の陸上部隊はこちらが構築したあちこちの防御陣地に対して毎日毎日波状攻撃を仕掛けて来ていた。

実際、前線が幾らか後退した場所もある程にその攻撃は苛烈であったし、兵員と物資の消耗も大きかったと思われる。

 

だがこちらはひたすら守りに徹してこちら側から攻撃を仕掛ける事は一切しなかった。

お陰で弾薬の消耗こそ激しかったが兵員の損耗はかなり最小限に抑えられていたし、前進をしていた時の死傷者の数と比べると天と地ほどの差がある。

 

各部隊は飛行場奪還に向けて物資の備蓄を進めてきていたので、それなりに余裕がある。

 

だが敵も余力は未だある様でこちらの後方に現れて奇襲、強襲はまだまだ続いている。

一応、陸路での補給部隊も頑張ってくれて入るのだが今でも補給は流星からの空中投下頼みだ。

 

飛行場周辺では、かなりの抵抗を予想しておいた方が良いだろう。

 

兎にも角にもどうにかこうにか、漸く我々は攻勢を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、北飛行場周辺に到達したって」

 

「漸く、第一歩と言う所か……前線将兵達は良くやってくれたな……」

 

飛龍がそう、報告してくる。

報告によれば、最前線に展開していた部隊が1時間前に最初に到達したそうだ。

飛行場周囲500mほどの地点で各部隊はそれぞれの連隊や大隊ごとに集結、準備完了次第奪還を始める予定になっている。

 

 

飛行場に到達するまでに結局丸々1週間を費やした。

これほどまでに早く到達出来た理由としては常に前線で戦う部隊を入れ替え続けて昼夜問わずの攻撃を仕掛けたのだ。

 

それによって深海棲艦部隊は昼夜問わずの攻撃によって疲弊、物資的にも補給が間に合わず後退を余儀無くされた。

 

飛行場周辺にどれほどの戦力を配備しているのか偵察中なので不明だが撤退していった部隊の針路を予測して見ると、どうやら摺鉢山方面に撤退しているらしいのだ。

 

どうやら敵は航空機も無く、畑よりも深々としっかり耕されているどうやっても使用が出来ない飛行場を守るよりも、守り易い摺鉢山とその周辺に戦力を引き抜いた様なのだ。

 

それでも全ての部隊を引き抜いたと言う訳では無く最低でも連隊以上の規模を配備しているらしいのでそう簡単には行かなさそうではある。

 

 

 

 

「2日後に飛行場に対する総攻撃を開始します。偵察の結果では多数の陣地が確認されていますが、数時間の監視を行っても一切の動きが無かった事からその陣地の殆どは無人であり、言ってしまえばハリボテであると予想されます」

 

「やはり摺鉢山とその周辺に戦力を集中させているか」

 

「はい。敵兵力の移動などは地下坑道を使用しているので把握しきれませんが、上陸地点である東浜の摺鉢山側付近ではここ最近、敵からの物資集積所や部隊への奇襲、夜襲、強襲などの攻撃がかなりの増加傾向にあり、2週間前と比較すると半日に1程度だったのが今ではいえ1時間に1度にまで増えています。恐らくは集結させた部隊を使ってのものだと思われます。でなければ今までの戦力や摺鉢山に対する砲爆撃を考えると到底出来る事ではありません」

 

「……摺鉢山が、天王山か」

 

「恐らくは。北飛行場と南飛行場の奪還は恐らくそこまで時間を掛けずに成し遂げられるでしょう。ですが摺鉢山の攻略は、現有戦力だけで事足りるかどうか分かりません。足りたとしてもかなりの苦戦を強いられる事は間違いありません」

 

「飛行場奪還の被害をどれだけ抑えられるかが鍵だろうな。それに、飛行場を奪還したとしても使用出来るまでにするには最低でも2か月掛かるのだから陸軍の航空支援は望めないな」

 

「飛行場は私達が徹底的に破壊しつくしたからね。あそこまで徹底的にやらなかったらもっと早く修復可能だったんだけど」

 

「まぁ、それで無駄な被害を被るよりはずっと良い」

 

元々、飛行場に対する攻撃は徹底的にやるか、それともある程度で留めて置き奪還後に修理を短期間で終わらせて陸軍飛行戦隊を前進させる、と言う2つの案があった。

 

前者は我々が実際に実施したものだ。

後者の利点としては、述べている通り飛行場の修理に掛かる期間が短くなり陸軍飛行戦隊を進駐させて支援に当たらせることが出来るという事だ。

 

そしてもう一つ。

これには少しばかり説明などを入れなければならないのだが、深海棲艦の心理を分析した時に驚いたことに我々人類とそう変わらないのではないか?と言う研究結果が出されたのだ。

 

何故そのような事をしたのか?

と言うのも戦争を行う上で戦っている相手の心理状況を読む事はかなり重要となってくる。

兎に角簡単な例えをするとすれば戦意旺盛か、そうでないか。

 

これは戦い、特に防衛側に言える事だが戦う意思が無ければ最後の最後まで戦う事は出来ない。

我々にでさえそれは言える事であるし、それはもしかすると深海棲艦もそれに当て嵌まるのではないか?という事だった。

何しろ深海棲艦に関する情報は全く持って存在していないのだから、持ち得る情報を兎に角、ありとあらゆる角度で分析する事は無駄なんて事は無い。

寧ろ有益な情報がある可能性すらあるのだから。

 

そこで実施されたのが、深海棲艦の行動パターンや戦闘時や長期戦下での心理状況を分析するという事だった。

 

 

そこで得られたのが深海棲艦の精神構造などは人類や艦娘、妖精とかなり類似していると思われる、との事だった。

 

 

直接捕虜等を尋問したわけでは無いので確かな事は言えないが少なくとも、我々人類と同じ視点から見た限りではあるが殆ど同じらしいのだ。

 

 

要は、奴らも我々と変わらない生物である可能性が高いという事だ。

 

ただし、決定的に違う事もあるにはある。

まず、それを話すならば深海棲艦の現段階で予想しうる目的を説明しなければならない。

深海棲艦の目的は未だ謎が多く、確かな事は言えないが一貫して人類に対する攻撃だ。

 

これを唱えるには理由がある。

 

まず、深海棲艦は捕虜を取らない。

戦争勃発時にハワイ諸島で戦闘を行ったアメリカ軍のいくつかの部隊が降伏する旨を伝えて来たのだが深海棲艦は白旗を無視、最後の1人を殺すまで銃を撃ち続けたのだそうだ。

 

これには我々日本陸海軍も同様の事態が各地で報告されている。

事実、ラバウル防衛戦において守備隊からの電文の中に、

 

 

『我、降伏ス。食糧弾薬ハ底ヲ突キ将兵達ハ戦ワズシテ飢エ死ヌヲ待ツバカリ。食糧無ク最早立チ上ガル事モ満足ニ出来ズ。餓死スルナラバ戦イ死スルヲ望ムナリ。ナレド祖国ノ為ニ無駄死ヲスル訳ニモ行カズ。サスレバ敵情ヲ探ルベク降伏スルナリ』

 

 

と、届いた後に降伏先遣隊として20名が深海棲艦に降ろうとした。しかしながら深海棲艦は白旗を上げ、武装も無く上半身裸の完全な丸腰状態の降伏先遣隊に対して銃弾の雨を降らせたのだ。

当然、戦う術を持たない彼らは瞬く間に全滅。

 

この事は後方から見守っていた複数の部隊から証言があるので確かだ。

 

『我降伏シヨウトスルモ先遣隊、白旗ヲ上ゲテイルニモ関ワラズ敵発砲。我ラヲ受ケ入レル気ハ無シト認ム。斯クナル上ハ死スルマデ戦イ抜ク覚悟也。祖国ト友軍ノ武運長久ヲ祈ル』

 

 

この電文が届いた6日後、敵の総攻撃を受けた旨の電文を発してから連絡が途絶えた。

 

防空戦で撃墜した敵機のパイロットを捕虜として捕らえようとしても、携帯している拳銃を乱射、弾切れになっても死ぬまでこちらを攻撃し続けるのだ。

 

これらを鑑みるに、敵はこちらを殺す事しか考えていないのではないか?と推論出来る。

 

 

 

しかしながらこちらは少しでも情報を得る為に機会があれば捕虜を取るように、と前線各部隊に通達している。

しかしながら戦闘中にそんな余裕は全く無く、敵は降伏すらしないのだからどうやっても捕虜を今の今まで捕らえられないままだ。

 

 

しかし、心理的に類似する部分も確かにある。

長期戦、特に深海棲艦が防衛側として戦っている場合によく見られるのが戦意の低下だ。

 

2つ目の作戦はそれの結果を元に敵の戦意を挫けるのでは?と考えた作戦だ。戦意を挫く事ができさえすれば戦いにおいても抵抗の弱体化は必然であるし戦いは幾らか楽に進むだろう。

 

そう考えたのだが、大前提と言うか根本的な問題としてどうすれば奴らの戦意を挫けるか、と言う大問題にぶち当たった。

 

確かに長期戦になれば戦意の低下はするだろうが、それはあくまでも戦闘を行なっていなければならない、と言う前提がある。

誰だって連日連夜戦闘が続けば戦意は低くなるに決まってる。

 

反対に戦わなければ戦意は低くならないと言う事だ。

まぁ、戦わなさ過ぎると戦意が低くなる事もあるのだがまず戦闘が起こらないなんて有り得ない話だ。

特に深海棲艦相手なら尚更に言える事だ。

 

こちらが攻撃を仕掛けるにしろ、防衛側にしろ奴らは確かに戦術戦略を練ってくるが姿を見れば確実に殺しに来る。

それが、拠点防衛などに

 

例えるならば、知性ある獣、とでも言い表せるだろうか?

 

いや、野生動物の方がまだ本能とは言え旨味の無い戦いで怪我をするぐらいなら戦わなければ越した事は無い、と理解しているだけ利口かもしれない。

 

 

兎に角だ。

我々には戦わずして深海棲艦の戦意を挫く方法は全く思い付かなかったのだ。

 

兵糧攻めなども考えられるが、それこそ何ヶ月待てば良いのか分からないし、人類にそんな時間は残されていない。

だからこそこの作戦案は没になった。

 

 

そうなると、正攻法として戦闘を交えて戦うしかないのだ。

だがそうなると必然的に犠牲が大きくなる。

 

特に摺鉢山での攻防戦は、今現在の戦闘よりもずっと過酷で凄惨なものとなる事は間違いない。

 

 

それでも我々だって黙ってやられている訳では無く、今までの戦いで敵戦力を少なくとも2個師団規模の敵兵力を撃破している。

 

最初の侵攻中はこちらの被害が極めて大きかったが防衛に転じてからは深海棲艦の被害の方が圧倒的に多かった。

なにせコンクリート製の防御陣地に馬鹿の一つ覚えとでも表せられるぐらいに波状攻撃を仕掛けて来ていたのだから、それは当然と言えば当然と言える。

 

まぁ、それは攻勢側であった時の我々にも言える事なのだが、そもそもの立ち位置が違うのだ。

先ず我々は攻撃側だから当然常に攻撃を仕掛けて一刻も早く奪還地域を増やさなければならないのだが、防衛側である深海棲艦が態々俺達に戦いを挑むことなどしなくていいのだ。寧ろ、ひたすら自軍の防御陣地や地下坑道に引き籠って、我々が再び攻撃を開始するまで待っていれば良いだけなのだ。

それをせずに態々攻撃を仕掛けて来ていたのだ。

 

まぁそれが意味が無かったと言う訳では無い。

少なくない数の死傷者が出ているし、補給も圧迫されていた。

 

それによってこちらの将兵達は精神的にも体力的にも追い込まれては居たしかなり激しく前線部隊が交代していた。

 

だが、深海棲艦が被った被害と我々が被った被害を比べると割に合わない。

それを考えると、どちらかと言えばまだ我々がかなりギリギリではあるが一応の戦術的勝利を収めた事になる。

まぁ、ただ一度の戦術的勝利を得たとしても硫黄島奪還の全体からすれば微々たるものになる。

それでも特になんの戦果も得られていない事を考えてみれば戦術的敗北をしていたのは我々だ。

だがまぁ、12万と言う大軍の内の4万にも上る敵戦力を削る事が出来た、と考えればまだ幾らかはマシだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北飛行場に対する総攻撃が開始された。

未だに1時間ほどしかたっていないが飛行場のほぼ半分程度の奪還に成功している。

 

やはり敵は摺鉢山とその周辺に分散していた戦力を集中させているらしい。

 

それでも全くの無戦力と言う訳では無く、最低でも1~2個連隊を北飛行場周辺に配備しているらしい。

だがこれだけの戦力では丸々2個師団の全面攻勢には到底耐えられるものではない。

 

残りの1個師団は飛行場を攻撃している間に敵に挟撃されないように支援を行う。

 

飛行場の奪還が完了すれば、この3個師団は南飛行場から摺鉢山、と攻略をして行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「今までの戦いが馬鹿らしく感じる程に静かですね……」

 

「あぁ、ここまで進んできているというのに敵は1発も撃って来ていないし俺達も撃っていない。敵さん、何処に行ったんだ?」

 

先頭を進む部隊はどの部隊も一度として戦っていなかった。

今までの戦いが嘘であったかのような、夢でも見ていたかと言うほどに辺りは静かだった。

 

「もう飛行場200m手前だぞ……?戦いたいというわけじゃぁないが余りにも不気味過ぎるな……」

 

「隊長、左翼と右翼の部隊が敵と交戦状態との連絡が入りました」

 

「とすると、こちらもそろそろ敵部隊と当たるかもしれんな。各員、警戒して進め」

 

「了解」

 

「敵部隊の規模は?」

 

「それぞれ大隊程度の規模だそうです」

 

「そうなると、こちらがぶつかるのも1個大隊規模が妥当な所か。合わせて1個連隊ほどか」

 

「はい。事前の偵察では摺鉢山と周辺に戦力の殆どを集めているそうですから、南飛行場の奪還までは今の様な感じかもしれません」

 

どこの部隊も敵と戦う事が無く、あったとしても今の戦闘がお遊びに感じられる程だった。

事実、この時北飛行場を守っていた深海棲艦部隊の数は僅か1個連隊のみ。

砲爆撃で徹底的に破壊された飛行場周辺には隠れられる場所も限られており、到底2個師団を押し留める事など出来る筈も無かった。

 

 

今までの戦いが嘘の様に、飛行場をたったの2日で奪還し終えるとそのまま続いて南飛行場に向かって側面支援を担当していた師団と共に前進開始。

こちらには2個連隊が配備されていたが2日程であっさりと殲滅、奪還をするに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何と言えばいいのか……」

 

「あまり言いたくはありませんが、敵はやはり残存戦力の殆どを摺鉢山と周辺に搔き集めたようですな……」

 

「やはり、摺鉢山での攻防戦が天王山になるな」

 

「はい。飛行場奪還に置いてこちらの損害は128名と少ないですが……」

 

「残存戦力全てを以てしても、やはり摺鉢山を落とすには足りないか」

 

「はい、今までの砲爆撃によって敵重砲などは殆ど沈黙しておりますのでそちらの脅威はほぼ無いと言い切って問題無いでしょう。ですが地下坑道などは恐らく健在と思われます」

 

「それらを一つ一つ潰して、更に戦闘も行うとなると現状の3個師団では、地の利も敵に在り、戦力でも負けております。制空権と制海権はこちらが握っていますがそれでも壊滅的打撃を被り失敗する可能性があります」

 

2つの飛行場を奪還するのに、我々は128名の死傷者を出した。

今までの被害と比べると、驚くほどに低い数ではある。

 

だがあまり喜んでも居られない、と言うのが実際の所だ。

と言うのも、たったの1個連隊や2個連隊程の敵戦力を2個師団や3個師団と言う圧倒的大差がある戦力で引き潰して行ったのだから。

 

勝ったという事と飛行場を奪還したという事は確固たる事実ではあるが、圧倒的戦力差であった事もまた変わらない事実だ。

 

本当の事を言ってしまえば、この2つの飛行場奪還で合計1個師団ほどの敵戦力を削っておきたかったのだ。

 

そうすれば敵戦力は6万程にまで減っていただろうし8万を相手するよりもずっと楽だっただろう。

だが敵はそう、何度も愚策を繰り返してくれる訳も無かった。

 

「現有戦力での摺鉢山攻略は、現実的では無いな。そうなると本土から新たに師団を呼び寄せないといけなくなる訳だが……」

 

「第79、83歩兵師団は未だに準備段階ですのでどれだけ急いでも出航まであと2週間は必要です。到着してしまえば10万を数える事になるので数的有利は我々のものとなりますが……」

 

「以前、厳しい事には変わりない、か」

 

「はい」

 

それでも推定1個師団ほどの戦力差はあるのだから硫黄島上陸時と比べると随分とマシになったのだ。

 

ただ、この5個師団だけで摺鉢山に潜む8万の敵兵を殲滅しえるか、と聞かれると恐らくはかなり厳しい。

なにせ、攻城戦に置いて通常ならば3倍の兵力を用意しなければならない。

 

それを考えるとこちらは最低でも24万の陸上戦力、師団数にして12個師団と言う数を用意しなければならないのだ。

 

そんなもの、用意出来る出来ないの問題以前にこんな太平洋の小島に全て上陸させられる訳がない。

よしんば上陸出来たとしても戦えなどしない。

 

そうなると増援を含めた5個師団かもう1個師団程度が恐らく限界だろう。

 

 

 

 

「兎に角、増援が到着するまでは攻撃準備を進めるしかないな」

 

「はい。今攻撃をしても無駄な損耗を増やすだけですので艦砲射撃と爆撃を行うほかありません」

 

「戦艦組の残砲弾数は?」

 

「昨日の夜のうちに補給を済ませておりますので問題ありません。ただ、連日連夜に及ぶ艦砲射撃によって砲塔内の乗組員達が熱中症などを発症しております」

 

「戦艦組には休憩無しの艦砲射撃だからな……重巡組と艦砲射撃を交代させる。重巡組は今の今まで参加していなかったから思う存分にやらせてやれ」

 

「了解しました」

 

実の所、重巡組は砲撃に参加していなかった。

というのも、戦艦15隻の艦砲射撃だけでも明らかに過剰なのにそこに重巡までもが参加してしまうと、明らかにやりすぎなのだ。

 

そんなわけで今の今まで戦艦に変わり空母の護衛と周辺海域警戒に就かせていたのだが……

 

以前からの問題として、砲塔内は完全な密閉空間だ。

砲撃を行うとそりゃ砲炎などで砲身は熱されるし砲塔内は当然、灼熱地獄となる訳だ。

 

俺の元生きていた世界の熊谷市でだって精々40度かそこらなのに、連続して砲撃を行っている砲塔内は驚きの50度を超える。

 

下手をすると60度に達する。

しかも現代の高性能なイージス艦などの様に冷却装置も冷房設備なんて搭載されていないものだから、そんな中での重労働だ。

当然熱中症にもなる。

 

まぁ、大和と武蔵の2隻は冷房完備なので幾らかマシだろうがそれでも灼熱である事に変わりはない。

 

熱中症になると、最低でも数日間は休まねばならない。

これでも交代で休息を取らせていたのだが疲労が溜っている事に変わりは無く、熱中症患者が出ている。

 

そうなれば、艦砲射撃に加われなくて鬱憤の溜っている重巡組の出番という事だ。

 

少なくとも1~2週間は重巡組が砲撃をする事になる。

そうすれば、その頃には戦艦組も戦線復帰が可能だろう。

 

しかも丁度その頃になれば増援が到着、最低でも出航する事になっているから丁度良いタイミングだろう。

 

ともかく、それまでは艦砲射撃で敵に圧力を掛けて置くしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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