あれから、南飛行場の奪還も完了した。
こちらもこれと言って大きな被害は無く死傷者は100名以下だった。
それに伴い、漸く摺鉢山への攻勢準備を進めるに至ったのだがここで問題となってくるのはやはり以前から問題となっていた摺鉢山周辺にほぼ全て集結した敵部隊と徹底的に防御を固めた敵陣地だった。
「航空偵察では確認出来ませんが、相当の防御陣地と火力が集中しているものと思われます。こちらの戦艦や重巡の艦砲射撃に耐えうる防御陣地ですから頑強とただ一言で言い表せられるものではないでしょう」
「もし攻略に取り掛かったとして、どれほどの時間が掛かると予想される?」
「正確な事は申し上げられませんが、確実に陣地や坑道入り口を一つ一つ潰して回るしか方法は無いので最低でも2~3カ月は掛かるかと。損害を無視すれば1か月ほどで攻略出来るかと思われます」
「いや、損害を無視して強行突破は無理だ。それはあくまでも予備の部隊や師団が潤沢にある場合にしか通用しない」
損害を無視して強行突破する、と言う戦術は確かに有効となり得るだろう。
なにしろ敵には補給も無いし増援も無い。
こちらは潤沢とは言えないが補給があるし、時間が掛かるとはいえ増援も見込める。
ただこの戦術は、戦線崩壊を起こさない程の潤沢な補給と圧倒的な増援があってこそなのだ。
圧倒的な増援が無い我々がもしこの戦術を実行すれば、間違い無く補給が行き届かなくなり前線でありとあらゆる物資が枯渇するだろう。
しかも増援の準備と到着にも時間が掛かるのだから、兵力不足による戦線崩壊も起こすだろう。
そうなったら橋頭保の維持すらままならなくなり、海に追い落とされると言う結果に成り兼ねない。
ここまでくると我々は再び上陸して橋頭保を築いて2つの飛行場を奪還しなければならない。
今までと同等、若しくはそれ以上の損害を被る事は確実だし、そんなことをしてしまえば今までこの硫黄島で戦死した将兵はただの無駄死にしかならない。
それだけは避けねばならない。
戦術、戦略面のどちらから見ても強引に押し進めると言う戦術はどうやっても取る事は出来ない。
となれば、取れる戦術はただ一つ。
「確実に一つづつ敵陣地や坑道入り口を潰して、進んで行くしかないだろう。摺鉢山とその周辺は標高こそ高くないが斜面はそれなりに急だし我々の砲撃で地形も大きく変わっている。無暗に突っ込めば結果は火を見るより明らかだ」
「となれば、どのような方法で進むか、という事ですが、今まで通り消耗しきるまで前線に師団を張り付けるという事は避けた方が宜しいでしょう。今までは致し方ない状況だったとはいえ、これは用兵の観点から見ても褒められたものではありません」
「常に攻撃を掛け続けるが2日ごとに前線を担当する師団を交代させ続ける。こうすれば十分な休息も取れるし、後続の師団が入念に敵陣地を破壊したり坑道入り口を潰して回る事も出来る。それに万が一に備えての防御陣地構築も十分出来るだろう」
「分かりました」
そう言って攻略の詳細を詰めていく。
今回の攻略の手順は至極簡単だ。
兎に角、2日交代で攻撃を繰り返す事。
そして後方配置になった場合、休息を取る師団ともし敵の反撃を受けた場合に備えて防御陣地の構築を行わせる師団に分かれる。
戦闘を行った師団は最後尾まで後退して休息を取る。
2日と言う期間の意味もしっかりとある。
防御陣地に使うのは今回も同じくコンクリートだ。
このコンクリート、基本的に一般的な物であれば厚さによって変わるが人が乗って歩ける程度の物であれば凡そ24時間で硬化するのだ。
高強度などになると専門外なので分からないが、少なくとも今現在軍で使用されているのは通常のコンクリートだ。
となれば、2日もあれば少なくとも歩兵が携行している銃弾ぐらいならば十分に防ぐ事の出来る厚さの防御陣地を構築出来る筈だ。
しかも単純にその防御陣地はそれで構築を終わりとするわけでは無い。
続いてその防御陣地に入った部隊が増強を行うのだ。
ともすれば、3回それを行えば砲弾でも小口径であれば十分に防ぐ事が出来る厚さにまでなる。
これほどの防御陣地となれば単純に小規模な部隊だけで攻略するのは困難を極める。
大規模な敵の攻勢であったとしても十分に押し留める事が可能だろう。
そして最前線に立つ師団は敵の防御陣地と坑道入り口を徹底的に潰しながら前線を押し上げるのだ。
ただ、無茶はさせない。
戦場に置いて行き過ぎた慎重と言うのは、時として愚となり得るが今はどれだけ慎重になっても足りないぐらいには油断が出来ない状況だと言える。
攻略の詳細を詰めてから4日後の朝早く。
「提督、準備完了しました」
「よし、それでは現時刻を以て摺鉢山攻略を開始する」
俺のその声に続いて各部隊に作戦開始が伝えられた。
命令が下された後、戦艦からの砲撃が行われた。
各戦艦の主砲からは1門に付き5発ずつ、戦艦15隻が存在する。
金剛 霧島 80発
ビスマルク ティルピッツ 80発
ヴァンガード 40発
リシュリュー 40発
リットリオ ローマ 90発
長門 40発
日向 60発
クイーン・エリザベス ウォースパイト 80発
ラミリーズ 40発
ネルソン 45発
デューク・オブ・ヨーク 50発
以上の様になるので、合計すると645発にもなる。
これほどの砲弾数が摺鉢山とその周辺に叩き込まれるのだ。
普通ならば、敵に同情するのだが敵の地下要塞はこれぐらいではビクともしない頑強さを誇る。恐らくだが砲撃は殆ど意味を成さないだろう。
各部隊が前進を開始した5分後。
一番最初の戦闘開始の報告が上がって来た。
敵はどうやら摺鉢山周辺の防御を完全に固めているらしく、敵防御陣地は相当に堅固らしい。
各部隊が携行している迫撃砲程度では崩すのに相当時間が掛かるだろう。
「敵の防御陣地を1つ突破するのに1日掛かるとは、敵も最後の総力戦という事か……」
「凄まじいまでの抵抗を受けているようです。あちらこちらで白兵戦まで発生しているらしく……」
前進を開始してからとっくに1週間が過ぎていると言うのに、前進出来たのはたったの200mそこらだった。
なにしろ防御陣地を無数に構築してあるし、全戦力を集めているものだから深海棲艦部隊からの抵抗と言うのは、筆舌に尽くしがたいほどの猛烈な抵抗らしい。
しかも白兵戦を仕掛けてすら来るのだ。
通常ならば弾切れを起こしたり人員の消耗が激しい場合は後退して他の部隊と交代する。
しかも敵はまだまだ兵力的には余裕がある筈なのだ。
そうなれば、こちらと同じように部隊を交代させながら戦えば恐らくだがもっと長期間戦い続けられる筈なのだ。
だがそれをしないという事は何かしらの理由がある筈。
「どうして敵は、後退して補給を受けない……?どうして態々白兵戦を仕掛けてまで戦う……?」
「何が理由で、こんな戦い方をするのでしょうか?敵の戦力的に考えて普通ならば、消耗したら交代するなりすればいいのに……」
あまりにも無茶苦茶な戦い方を仕掛けてくるものだから、異常なのでは?という事で陸軍の指揮官達も集めての会議を開く。
だがどうやったって結論は出ることは無くただただ平行線を辿るだけだった。
会議から更に1週間後が過ぎたが、未だに前進出来たのはたったの500mほどだった。
それでも前線将兵達が命を懸けて、自身の命と引き換えに進んだ500mだ。
決して馬鹿には出来ない。
「やはり、相当の抵抗が続いていますね。このままでは摺鉢山に到達するまでどれほどの時間が掛かるか……」
「まだまだ余力はある様だな。寧ろこっちの部隊が疲弊している。流石に2週間もぶっ続けで戦闘と陣地構築を続けていてはしょうがないとも言えるが……」
既に、こちらは余りの抵抗によってかなりの損害を負っていた。
なにせ各師団は最低でも連隊規模の死傷者を出しているほどなのだ。
それでも慎重に進んでいるお陰で今までよりはずっと被害は小さい。
今までは師団の殆どが死傷する戦いだったのだから比べるまでも無い。
それから更に1週間が経った。
前進と後退を繰り返しては進む。
3週間で凡そ650mほど前進したがそれでもまだ摺鉢山の麓に到達するには至っていない。
麓まであと300mはある。
しかしここで、思わぬ敵の総攻撃が開始された。
「提督ッ!前線部隊から急報です!」
「どうした?」
「敵の主力部隊と思われる大部隊が総攻撃を開始した模様です!」
「なっ!?ここに来て総攻撃だと!?」
どういう事だ!?
何故このタイミングで総攻撃なんて掛けて来るんだ!?
普通なら最後の最後まで徹底して防御に務めた方が絶対こちらの戦力を削る事が出来るしあちらも無駄な兵力消耗をせずに済むのにどうしてなんだ!?
「攻勢中止だ!一時防御陣地に後退!防御に務めろ!何としてもその陣地を守れ!押され始めたらそのままそこを突破口に総崩れになるぞ!」
「兎に角情報を寄こせ!前線に後方の師団を回せ!」
指示を飛ばす。
後方で陣地構築を行っていた師団を大急ぎで最前線に回す。
だが全部隊が移動を完了するのに最低でも数時間は掛かる。
それまでは最前線の師団だけで踏ん張って貰うしかない。
「各空母に無線を送れ!大急ぎで流星に6番を括り付けて支援に当たらせろ!烈風もだ!」
「は、はっ!」
そう指示を飛ばすと信濃を除いたそれぞれの空母の格納庫内で流星を優先し6番(60kg爆弾)の装着作業を大急ぎで進めていく。
「飛龍!発艦は何時になる!?」
「一番機は10分あれば発艦出来るよ!」
「急がせろ!後方の師団が前線に到着するまでは航空隊の支援で何とか持たせるのだ!」
飛龍に母艦航空隊の指揮を任せ、出来るだけ出撃を急がせる。
俺はと言うと兎に角対策と総攻撃を行った理由を考える。
「どうして、ここに来て総攻撃なんかを仕掛けてきたのでしょうか?」
「分からん……。前線から情報が回ってこない限りはどんな判断も下せん。兎に角前線崩壊を防ぐ為に補給と増援を送り込まねばならん。艦砲射撃は……無理か」
「はい。前線の部隊と敵部隊の距離が近すぎます。戦艦にしろ巡洋艦にしろこれでは友軍を巻き込んでしまいます」
艦砲射撃と言うのは、陸軍部隊や海軍特別陸戦隊が装備する野戦砲であるラ式15cm榴弾砲と比べると威力は段違いだ。
この15cm砲と言うのは通常ならば艦挺に搭載される中口径砲だ。
しかも海の上ならば艦艇に搭載されているから移動に苦労はしない。
だが陸上ともなるとそうはいかない。
だからこそ歩兵師団はそれよりもずっと小口径の砲を装備しているのだ。
艦艇に置いて、駆逐艦の装備している12.7cm砲と言うのは大したことは無い。
駆逐艦同士の砲撃戦ならばそんなことは無いのだが、駆逐艦と戦艦で戦った時、12.7cm砲では艦上構造物を破壊することは出来ても弾薬庫にある砲弾全てを使っても沈める事は叶わない。
だが、12.7cmと言う大きさの砲は陸戦において絶大な威力を発揮する。
何しろ戦車に搭載されている砲ですら6号戦車の8.8cm砲が精々だ。
12.7cm砲を戦車に積もうなんてしたら自重で地面に沈みかねない、機動力もへったくれも無い超重戦車になる。
だが海の上では、浮力と言う概念が存在する限りはデカい主砲を積むことが出来る。
最たるものは大和型戦艦の46cm砲や、どうして研究しているのか分からない51cm砲なんてものまである。
凄まじい物だとドイツが80cm砲搭載戦艦を計画していたらしいなんてものすらある。
これらの砲は対艦攻撃と言う観点に置いては最低でも複数発の命中弾を得ないと敵艦を撃沈させるには至らない。
だが、陸戦では全く違う。
陸地を沈めるなんてことは出来ないが、戦艦の様に分厚い装甲で覆われているデカい艦に向かって撃つのではなく、精々が個人で携帯できる小口径弾を防ぐ程度の鉄板しか装備することが出来ない。
そんなもので最大46cm砲の砲弾片や爆発の威力を防ぐことなんて到底出来ない。
12.7cm砲弾だって無理だ。
そんな、陸戦では通常使用されることが無い大口径砲をポンポン撃ち込めるのは敵しかいないからだ。
砲弾の殺傷有効範囲内に味方が存在する場所なんかに威力が高く、殺傷範囲が広い砲弾を叩き込めばどうなるかは火を見るより明らかだ。
そうなる可能性が確実な以上、戦艦に砲撃支援を頼むことは出来ない。
唯一の頼りになるのは、前線部隊が装備している迫撃砲などだがそれでは広範囲を一気に吹き飛ばして敵を一網打尽にすることは出来ない。
だが、航空機ならばそれが違ってくる。
砲撃よりもずっと正確に狙った場所に爆弾を落とせるし、機銃掃射を加えられる。
爆弾にも種類があるから適切な威力の爆弾を選ぶことが出来る。
しかも今回使用する6番だとしても対艦攻撃を行う上では不足だが対人攻撃と言う観点から見れば侮り難い威力がある。
その気になれば密集した小隊程度ならばたった1機の烈風か流星で殲滅する事だって十分に可能だ。
使わない手は無いだろう。
「提督、一番機が発艦準備完了したよ!」
「艦首風上に向け!」
「艦首風上に向け!宜候!」
飛龍から報告が上がって来た瞬間に艦種を風上に立てさせる。
それが終わるとすぐさま次の命令を下令する。
「発艦始め!」
発艦始めの旗が振られると、飛行甲板に上げられた流星が1機飛び立って行く。
「そのまま準備が完了した機から発艦させろ!空中集合は無し!爆弾を落としたらそのまますぐに母艦へ帰投!次に備えさせろ!」
矢継ぎ早に指示を飛ばして行く。
これで、なんとか凌ぐことが出来れば良いんだがな……
今回はかなり短めです。