暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第2話

今俺は何処かの軍事施設の一室にいる。

と言うのも瓦礫となった街中で迷彩服の男達に連れられてここに来たのだが、明らか軍事施設としか言えないのだ。

入り口は鉄条網とフェンスで囲まれて、完全武装の兵士が何人も立って巡回していた。これでただの民間施設だ、というのには明らかに無理がある。いや、無理だと断言しよう。

詳しい場所も分からないしどうしようも無いのだが。

俺は今この施設で職務質問と言うか、いや尋問と言った方が正しいだろう。

俺と相対しているこの人は、話し方は柔らかいが発せられる雰囲気はかなりピリピリしている。いや、ピリピリなんてものじゃないな。

それにこの施設全体がそんな雰囲気を纏っているから、正直なところ居心地が悪くてしょうがない。それどころか今すぐにでも逃げ出してしまいたいぐらいだがそれは叶わない夢だろうな。

 

 

 

 

「それで、何度も聞くが君は何故あんな場所に居たんだ?」

 

「本当に全く記憶が無いんですよ。なぜあそこに一人で立っていたのかも、あそこにいたのかも。気が付いたらあの辺りに立っていて。少し歩き回ってみましたが結局のところは分からずじまいでしたが」

 

「それで、もしその話が本当だ、としてもその話を私が信じるとでも?そもそもその話の信憑性なぞ皆無じゃないか。本当の事を言った方が身の為だぞ」

 

「本当の事なんですが……」

 

そうやって何度も同じやりとりを繰り返す事1時間。

だんだんと相手側の話し方も最初と比べると随分と堅苦しくなってきている。本当のことを言っているつもりなんだが……

そもそも記憶が定かじゃないから確証をもってこれだ、そうだ、と言えないし頷けない。

 

ちらりと時計を見るとかなり時間が過ぎていた。

時計が掛かっているから時間は分かる。今の時間は3時半だが流石に同じやり取りを2時間も続けていると疲れて来る。さて、どうしたものか……

 

すると部屋のドアを開けて1人の男が入って来た。

その手には何かの書類が握られており、挨拶と共にそれを差し出して何か話始めた。

 

「失礼します。少佐、調査の結果です」

 

「ご苦労」

 

大尉と呼ばれた彼は、書類を受け取ると読み始めた。

しかし、大尉と言う階級がどれほど高いのかは分からないが、随分と若い気がするな。見たところ20代前半だろうか?恐らく30代では無いだろう。

しかしそう思えば、今の今までにすれ違ったりしてきた人達も全員、かなり若いと感じた様に思う。

普通なら40代50代がそれなりにいてもおかしくは無いのだが……

 

しかしながら全員の顔には疲労が色濃く浮き出ていて、ある種の絶望に近い顔をしている人もいた。本当に今、何が起こっているんだろうか。

 

「それと、彼にお会いしたいと言う方が」

 

「会いたい?誰だ?」

 

「第343海軍航空隊の隊長殿と副隊長殿です」

 

「何?何故彼らが……」

 

「分かりません。それと調書をご覧頂きたいのですが」

 

「……なんだこれは。何の情報も書いてないじゃないか。まるっきりただの白紙だぞ。」

 

「どうやら戸籍などの情報が一切存在していない様なのです。一切の痕跡がありません。出生記録も、修学記録も、職業履歴も何も。最初から存在して居なかったかの様だと調べた連中も困惑していました。今現在各省庁に確認中ですが望みは薄いです」

 

「……分かった」

 

「それで、面会要請に付いてはどうしますか?」

 

「……取り敢えず保留にしたい」

 

「ですがお二人共、既に居らっしゃっています。どうやら今すぐにでも、可及的速やかにお会いしたいと」

 

「そんなに重要なのか……?まぁ分かった。4時に面会出来るようにしておいてくれ。それまでは待っていて欲しいと伝えてくれ」

 

「分かりました」

 

「それでは下がってくれ」

 

「はい。失礼します」

 

俺の事を尋問していた、階級の高そうな男と今入って来た男は何か話すとまた出て行った。

よく聞こえなかったが何か問題でも起きたのだろうか。

 

「さて、君の調書が届いたが……」

 

「はぁ」

 

と言われても生返事しか返せない。

そんなものが届いたと言われても俺にはどうしようもない。少なくとも人に見られて困る様な生き方はしていない筈だが。

 

「どうやら君は、存在していないらしい」

 

「は?」

 

「戸籍から何から何まで一切痕跡が無い。と言う事はだ。君の言っていた事がにわかに現実味を帯びて来る事になるが……」

 

「す、すいません、本当に一切記録が無いんですか?」

 

「あぁ。我々は追い詰められているとは言えかなりの情報収集能力があると自負しているのだが、それらを持ってしても君の情報が得られなかった」

 

彼は俺に調書を差し出す。

俺はそれを受け取り、端から端まで見るが俺が通い、卒業した筈の小学校や中学校、高校の名前は一切載っておらず、代わりに不明の判子の2文字だけが押されていた。

それどころか、家族構成欄には両親やばあちゃん、姉さん、弟の名前も本籍地の住所も家のある住所、郵便番号も電話番号も書いていなかった。

 

本当に何も書いていないただの紙切れだった。

 

「……なんだこれ」

 

「君から聞いた御両親の名前も姉弟の名前も探したが無い。住所などはあったが君が住んでいた、登録されていた記録は一度も無かった」

 

「……ここは、ここはどこなんですか?」

 

「ここか?ここは埼玉県秩父市山中に作られた陸軍第1師団本部の一室だが」

 

「は?そ、それじゃ俺が拾われた辺りは?」

 

「あそこは板橋区の辺りだな。それがどうかしたのか?」

 

「……今は、今は何年ですか?」

 

「今は、2020年6月5日だ」

 

俺は、混乱しながらも幾つかの質問をしてみた。

すると、更に混乱を加速させる情報ばかりが返ってくる。

 

まず、陸上自衛隊はあったが陸軍なんて存在していない。

それに秩父市?山中?しかも地下?そんな場所にそんなものが存在していたなんて聞いた事も無い。

 

俺が拾われた辺りは板橋区だが、板橋区はあんな瓦礫の山じゃない。いや、通って来た道の建物も全て瓦礫になっていたが日本はそんな事になっていたなんて聞いた事もない。

そもそもそんなことになっていたのなら絶対にニュースや新聞で大きく報道されるはずなのにそうではない。

 

さらに、俺がいた日本は2016年だったはずだ。

それなのに4年も先の日本?俺はタイムスリップでもしたのか。

 

どういう事だ本当に……どうなっているんだ?

 

「……少佐、さん」

 

「なんだ?」

 

「俺は……今いる日本の事を知りません」

 

思い切って、言ってみることにした。

確証は持てないが、今いる日本は、この世界は俺の知っているものではない。

 

「はぁ……?何を言っているんだ一体。そんなわけないだろう。いくら戸籍などが存在しないからと言って自分の生まれ育った国の事を知らない訳が無い」

 

「……俺がいた日本は、まだ西暦2016年でした」

 

「……話を聞こう」

 

俺の声音が、本気の物だと分かったのか先ほどまでは頭がおかしくなった奴を見るような感じだったが今はしっかりと椅子に座り対面して座っている。

俺だったら信じないし話を聞くこともしないだろうに、戸籍も何もない、本来なら信用出来る訳が無い人間の話を聞いてくれようとするなんてこの人はとてもいい人なのかもしれない。

 

 

「俺がいた日本はまだ西暦2016年でした」

 

「それこそ信じられない話だが……その顔を見る限り本当の事の様だ」

 

他にも陸軍が存在していない事などすべてをぶちまけた。

 

 

 

 

 

「……話は分かった。だが今すぐに信じろと言われても無理がある。っと、時間か。すまないが君に会いたいと言っている人、いや妖精が居てね。まずは彼らに会ってほしい。それと今の話は面会中に考えさせてほしい。さっきも言ったがすぐに信じられる話じゃないからな」

 

「分かりました」

 

「それじゃ、ここで待っていてくれ」

 

そういうと少佐さんはどこかに行ってしまった。

数分すると代わりに入ってきたのは、体格の良い男性が2人。

身長は160cmくらいだが少佐さんよりも遥かにがっしりとした身体だ。

 

「初めまして、海軍第343航空隊隊長の原田です」

 

「初めまして、同じく343空の山岸です」

 

「あ、どうも初めまして、湯野です」

 

それぞれ挨拶と握手をする。

原田、と名乗った彼の手は俺の手に比べるとはるかにごつごつとしていて、頼もしい。

しかし陸軍の次は海軍が出てきたか……もう本当にどうなっているんだ。

 

「さて、私達がここにきた理由ですが……あることを確かめたかった」

 

「はぁ……」

 

「まぁいきなり言われても困惑するでしょう。ただ、あなたと直接対面して分かりました。貴方はある力を持っている」

 

「ある力、ですか」

 

「はい。貴方は艦娘や妖精を指揮し、本来の力を十全に発揮させる事の出来る提督となる素質があります」

 

いやいやいやいや、そんなことを急に言われても困る。

何よりも艦娘?妖精?なんだそれは。聞いたことも無い。

 

「いや待ってください。その、艦娘?妖精?って何なんですか?」

 

「艦娘と妖精を知らない?」

 

「はい……何と言いますか、恐らく俺は今いる日本ではない別の世界の日本から来た、というんでしょうか」

 

「別の世界から来た?」

 

「気が付いたら、瓦礫の山の中に立っていたんです」

 

「ふぅむ……それは災難でしたね」

 

「え?信じるんですか?」

 

「えぇまぁ我々自身も妖精という説明のつかない存在ですからね。世界を渡ってきたと言われても失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、こう何と言いますか。同類なんですね、という感想しか」

 

「まさか、さっきまで話していた陸軍の人も……?」

 

「いえ、彼らは普通の人間ですよ」

 

「そうなんですか……」

 

「しかし艦娘、妖精の存在が無い世界から来た、ですか。そうなると色々と説明しなければなりませんね」

 

それから原田さんと山岸さんから色々と説明を聞いた。

 

どうやらこの世界の日本は、というよりは世界中が深海棲艦という存在と全面戦争中らしい。しかもかなり追い詰められている状況で。

最初は深海棲艦に押されていたが、原田さん達妖精と艦娘という存在のおかげで一時期はかなり持ち直したのだが今じゃ最初よりもずっと追い込まれている、とのこと。

 

まぁ正直詳しく聞いて、なんだその世紀末な世界は、と思った。

だがどうやら事実らしい。

 

そして俺はそんな世界に来てしまった。

しかも原田さん達が言うには俺は、提督?になるための素質があるらしいのだ。

 

 

「湯野さんには、是非提督になっていただきたい。そうでなければこの国は、いえ、この世界は本当に終わりを迎えます。どうか手を貸してほしい」

 

そういうと2人は頭を下げてくるが、そんなこと今すぐに決められるわけがない。

 

「そ、そんな頭を上げてください。そういわれても今すぐに決められませんし、そもそも説明はしてはいますが別の世界に来たということですら混乱しているんです」

 

「それもそうですか……申し訳ありません」

 

「それに、今の俺には戸籍も何も無いんです。原田さん達は、海軍と言いましたよね?戸籍も何も無い人間が属せる筈が無いでしょう」

 

「いえ、その辺は上に報告すれば何とかなると思いますが……分かりました。出来るだけ早めにお返事を下さると有難いです。今現在もどんどん追い詰められているのです。どうにかして打開しないと」

 

「分かりました」

 

それから何度か言葉を交わし、2人は出て行った。

まぁあまりの急展開に頭が追い付いていないし、考えさせてほしいと言ったが多分、俺は提督とやらになるしかないんだろう。

 

 

 

 

 

それから、少佐さんが部屋に入ってきて、別室に移された。

しかも明らかに高待遇だと言える部屋だ。

 

「言って下されば多少の便宜を図ります。立ち入り禁止区画以外ならば誰かを連れて出歩いても構いません」

 

そういうと頭を下げてどこかに行ってしまった。

いや、そんな事言われても困る。

 

ベットに腰を掛けて、息を吐く。

本当に、どうしたものか。

 

 

 

 

 

どうすればいいのか分からず頭を抱えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 原田 ----

 

 

 

飛行場に戻ってから暫くすると、陸軍が先程立ち入り禁止区域で見かけた人間を保護、いや連行したと言っていた。

 

まぁ確かにそうなるのが普通というか、当たり前なのだろう。

元々立ち入り禁止区域に1人で立っていたのだから捕まってその目的を問い質されるのが普通だ。

しかも立ち入り禁止の理由があの辺りは深海棲艦の攻撃によって瓦礫の山と化してしまい、形を保っている建物もあるがそのどれもが崩れ落ちる危険性がある。

地下鉄の路線も多くが整備されずに爆撃や砲撃に晒されて陥没の危険だってあるし、深海棲艦の落とした爆弾や砲弾の不発弾がどこかに眠っているかもしれない。

それを考えれば立ち入り禁止区域になってもおかしくはない。

 

なのにあそこで1人立っていたら、まぁ捕まる。

 

 

しかし、俺はそうも言っていられない。

あの時の、不思議な感覚の正体を突き止めなければならないのだから。これが俺1人だけが感じた事ならば勘違いや気のせいで片付けられるだろう。

 

だが出撃してあの時、あの場所を通った私以下、すべての妖精が同じ事を感じたのならそれは勘違いや気のせいなんかでは片付けられない。片付けてはならない気がするのだ。

 

しかも明確に、1人の人間から感じたのだ。

確実に何かある。

 

これが一時的な物なのか、それとも近づくたびにそうなるのか。

どちらかは分からないが確かめておいた方が良いのは確かだ。あの時、明らかにエンジンの調子や俺自身の調子もポテンシャルも上がっていた。それがもし数百キロという範囲で可能になるのならば少なくとも現状は遥かに良い方に転がっていく。

被撃墜率も大きく下がるだろうし何よりも、もしかしたら人類側にもう一度深海棲艦に対しての反抗の機会が巡ってくるかもしれない。

それを考えると、

 

 

 

 

本当に、本当に極小の可能性で。無いかもしれないが、唯一残された最後の希望かもしれない。

 

 

 

 

あり得ないかもしれない、無いかもしれない。でも今の日本は、世界はそんなちっぽけなものに縋るしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸軍第1師団本部。

秩父山中の地下に構築された、今現在日本に唯一存在する人間のみで構成されている師団だ。と言っても戦闘能力は殆ど無く憲兵隊のような役割を担っている。

 

それもそうだ、深海棲艦に対しては人間の武器は一切効果が無いのだから。

今では陸軍の保有する戦力の殆どが我々妖精で構成された師団に置き換わり日本本土各地で、深海棲艦の上陸を許した場合に備えて配備されている。

 

元々、軍にいた人間はハワイ諸島攻略作戦の後、押され始めた頃から攻撃は通じないと分かっていても戦線に投入され、死んでいったか今は各地の民需工場で働いている。

軍役につかせたとしても遊兵にすらならない、というのが下された決断だ。

 

しかし前者の方が圧倒的多数で、戦線に投入されなくとも本土への爆撃や艦砲射撃により反撃もままならずに消えていった師団も数多い。

搔き集めればそれこそ、4個師団くらいならば集まるだろうが充足率の全く足りていない人間の部隊なんて深海棲艦からすれば道端の石ころほどの価値すらない。足止めにすらならない。

 

我々妖精が使用する砲弾薬、燃料、各種資材は妖精でなければ生産できない。

正確には深海棲艦に対して効果のある武器弾薬、航空機は妖精にしか生産出来ない。だから妖精が使用する武器弾薬、航空機などは山岳地帯の地下に生産拠点を移し生産している。まぁ航空機を作るのに必須なアルミやクロム、ニッケルと言った戦略資源はそもそも材料となるボーキサイトなどの原石を輸送出来ないため備蓄してあるものを切り崩し細々としか生産出来ていない。

 

それ以外にも鉄鋼石、銅、錫といった物もすべて輸入に頼ってきていたからどれもこれも無い。

日本近海の海底には様々な鉱物資源が眠っているらしいがそんなものを採掘出来る訳が無い。呑気にそんなことをすれば深海棲艦からしたら良い的だ。

 

どこからか聞いた話では、備蓄していた各種資源、資材はもう殆ど残っていないらしい。備蓄していた倉庫は爆撃などで焼き払われてしまったし、山岳地下に大急ぎで建設した備蓄倉庫にも残っていなく、すっからかん。

 

本当かどうかは分からないが恐らく本当の事なのだろう。

でなければ我が343空に限った話ではないが毎月、たったの数機しか補充の機体が寄こされないなんてある訳が無い。

しかも修理用の部品や予備のエンジン、敵の弾丸で空いた穴を塞ぐための修理用資材と言ったものも月に2機分届くかどうか。

 

全体で見れば航空機の月産数十機程度の生産はあるかもしれない。

エンジンや修理用部品、修理用資材の生産もあるだろう。

だがそれら全てを1つの部隊にのみ渡すわけにはいかず、結局の所全国に分散してしまう。

343空は全国的に見ても練度は高くそういった物は創立初期の時点で出来るだけ備蓄に回していたから、多少ならばある。だが今やそれすらも心許無く、明日までに12機まで稼働機を回復するのがやっと。

使用に耐えられなくなった機体から部品を取り外してこれだ。それ以降は、共食い整備となる。

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺は今現在、入間飛行場から秩父山中の陸軍第1師団本部に来ている。

付き添いには副隊長を。本来ならば副隊長は残してくるべきなのだろうが出来るだけ詳細に確かめたいので連れてきた。

 

「すまない、343空の原田中佐だ。先ほど連行されて来た人間に面会を申し込みたいのだが」

 

「!?は、原田中佐!お疲れ様です!面会希望ですね、ただいま確認してまいります!」

 

声を掛けて用件を伝えると、驚いて慌ただしく走って行ってしまった。

何と言うか、あれほど慌てさせてしまうと申し訳なくなってしまうな……

 

 

 

 

少しすると、先ほど声を掛けた者が走って戻ってきた。

 

「4時までは取り調べを行いたい、とのことですのでそれまでお待ち頂けるのでしたら面会は可能です」

 

「分かった。待たせてもらおう。あぁ、気遣いはしなくていい、取り調べをしている部屋の近くで適当に待たせてもらうから案内して貰えないだろうか?」

 

「了解しました」

 

彼の案内で取調室の近くの椅子に腰を掛けて待つ。

さて、4時まで30分30もある。

 

「副隊長、損傷機の修理度合はどれほどだ?明日までに修理出来るのは本当に12機しか無いのか」

 

「整備班の話では、現状12機が精一杯だそうです。というのも修理用資材が足りていないのだとか。穴を塞ぐのも12機でギリギリ。これ以上機数を増やすとなると、何機分かの機体から外板を取り外すなりして共食い整備がやはり必要になってしまいます」

 

「共食い整備か……修理不可能な機体からならば問題無いが飛ばせる機体からは駄目だな。となるとやはり明日は12機か……戦う前に失う機体が無いことが幸いか」

 

「予定では明後日に修理用資材が2機分と新しい機体が3機届くそうですが……」

 

「意味は無いか……それに明日、明後日と出撃して被害を被ったら±で言えば-だな」

 

「他の部隊も軒並みここにきて状況的に追い詰められ始めてしまって各地から補充要請が届いているそうです」

 

「無理だろうな」

 

「えぇ、聞いた話では潜水艦隊が近々資源を持って帰ってくるそうですが……」

 

「微々たるもので、解決には至らない、か……」

 

2人で話す。

確認のような会話だが改めて絶望的な状況だということを思い知らされる。

 

近くにいた陸軍の人間に話を聞いたが我々とさして変わらない状況だそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「原田中佐、取り調べが終わったので面会が可能です。こちらへどうぞ」

 

どうやら取り調べが終わったようだ。

 

「さて、行くとしようか」

 

「はい」

 

案内され、取調室に2人で入る。

すると、目に入ったのは現代人と比べても比較的大柄な部類に入るであろう身長を持つ男だ。180cmはあるだろう。

見た目もかなり若く、下手をすると10代の可能性すらあり得る。

 

「初めまして、海軍第343航空隊隊長の原田です」

 

「初めまして、同じく343空の山岸です」

 

「あ、どうも初めまして、湯野です」

 

互いに挨拶をするために立ち上がる。やはり高身長だ。

だが鍛えているわけでは無いらしく線が細い。

握手を交わしたが私からすると、どうも頼りないと感じてしまう手をしている。

俺とは違いごつごつとした手ではなく、随分と柔らかいというか。

 

彼は俺と逆の感想を抱いたのか俺の手を少しばかりじっと見ると、すぐさま視線を外した。

そして俺はここに来た理由を切り出す。

 

「さて、私達がここにきた理由ですが……あることを確かめたかった」

 

「はぁ……」

 

「まぁいきなり言われても困惑するでしょう。ただ、あなたと直接対面して分かりました。貴方はある力を持っている」

 

「ある力、ですか」

 

「はい。貴方は艦娘や妖精を指揮し、本来の力を十全に発揮させる事の出来る提督となる素質があります」

 

彼と対面して確信した。

彼には、提督という存在になるための素質がある。それもかなり高いレベルでだ。

 

提督についてまず説明しなければならない。

提督というのは文字通りだ。正確に言えば我々妖精や艦娘を指揮することに特化した、が付く。

 

この素質は希少なんてレベルではなく、過去にその素質を持っていたのはイタリア人の女性が1人だけ。しかしながらその女性も地中海方面での深海棲艦の大攻勢によって戦死しているから、今現在その素質を持っているのは湯野さんただ1人ということになる。

全世界で提督となりえる人間を探したが結果は1人も見つからず。

 

提督という存在は、我々妖精、艦娘のありとあらゆる性能を大きく引き上げる。

それこそ俺のような戦闘機妖精で言えば操縦能力や判断能力が軒並み上がるし機体のエンジンの調子も良くなるし良いことずくめだ。

 

各種の戦闘能力も向上するし我々からすれば無くてはならない存在なのだが。

 

「いや待ってください。その、艦娘?妖精?って何なんですか?」

 

「艦娘と妖精を知らない?」

 

ふむ、どういう事だろうか。

今のご時世、老若男女問わずそれこそ小さな子供ですら知っている事なのに知らない?

 

「はい……何と言いますか、恐らく俺は今いる日本ではない別の世界の日本から来た、というんでしょうか」

 

「別の世界から来た?」

 

「気が付いたら、瓦礫の山の中に立っていたんです」

 

「ふぅむ……それは災難でしたね」

 

別の世界から来た、か。

まぁ信じるほかないな。今ここでそんな意味の無い嘘を付いても利益は無い。

それどころかただの精神異常者と取られかねない。まぁこんなご時世だから精神が病んでしまったという可能性もあるにはあるが話した限りではそんな感じはしない。

 

「え?信じるんですか?」

 

「えぇまぁ我々自身も妖精という説明のつかない存在ですからね。世界を渡ってきたと言われても失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、こう何と言いますか。同類なんですね、という感想しか」

 

本人は信じた我々に対してかなり驚いているな。

自分でも滅茶苦茶なことを言っているという自覚はあるのだろう。だがこれでより一層信じるに値する。

 

「まさか、さっきまで話していた陸軍の人も……?」

 

「いえ、彼らは普通の人間ですよ」

 

「そうなんですか……」

 

「しかし艦娘、妖精の存在が無い世界から来た、ですか。そうなると色々と説明しなければなりませんね」

 

艦娘や妖精の存在を知らない湯野さんに説明をする。

まぁ正直な話、我々妖精自身もその正体や何処から来たのかなんてことは分からないので説明出来る事も大したことはないのだが。

 

 

 

 

 

そして最後に、湯野さんに提督になって欲しい旨を念を押して伝える。

 

「湯野さんには、是非提督になっていただきたい。そうでなければこの国は、いえ、この世界は本当に終わりを迎えます。どうか手を貸してほしい」

 

そう言って頭を下げるが、そんなこと今すぐに決められるわけがない。

 

「そ、そんな頭を上げてください。そういわれても今すぐに決められませんし、そもそも説明はしてはいますが別の世界に来たということですら混乱しているんです」

 

「それもそうですか……申し訳ありません」

 

「それに、今の俺には戸籍も何も無いんです。原田さん達は、海軍と言いましたよね?戸籍も何も無い人間が属せる筈が無いでしょう」

 

「いえ、その辺は上に報告すれば何とかなると思いますが……分かりました。出来るだけ早めにお返事を下さると有難いです。今現在もどんどん追い詰められているのです。どうにかして打開しないと」

 

「分かりました」

 

最後に何度か言葉を軽く交わして部屋を出た。

部屋を出て、私は彼に幾らかの便宜を図るように伝えておく。

 

流石にこれから我々の上官になるかもしれない人を粗末な部屋に押し込めておくのも気が引ける。

 

 

 

 

彼には、恐らく提督となるしか道は残されていない。

道を塞ぐ様な感じになってしまって本当に申し訳無いが我々にはもうこれしか道は残されていないのだ。

 

本当にすまない。

 

 

 

 

心の中で謝罪をしながら飛行場に戻った。

 

 

 

ーーーー side out ーーーー

 

 

 




主人公
湯野 勝則 (ゆの かつのり)

年齢 20歳
身長 179cm
体重 76kg


転移する前は、平和な日本で学生だった。
特に何か体を鍛えると言うことはなく普通に生活して普通に生きていた。
家族構成は両親、祖母、姉、弟。
友人関係も良好だが、あまり目立ちはしないが色々な人間と程よく付き合うという感じだった。特に親しい友人は数人程度だが本人も親しい友人は数人で構わないと考えているからか気にしている節は全く無い。





原田

日本海軍所属の戦闘機妖精。
階級は中佐。
海軍第343航空隊隊長を務める。

一言で表すならば歴戦の猛者。ラバウル戦時から妖精として深海棲艦との戦争に参加し今の今まで生き残っている。
所謂、エースパイロット。
一個人としての技量も軒並み卓越しているが、部隊指揮能力もかなり高い。
指揮官はどちらかと言えば部下に出来るだけ多くの手柄を出させることが重要であるが、原田はそれを行いながら自身も十分以上の戦果を叩き出している。
操縦技術や戦闘技術は全国の生き残っている戦闘機妖精の中でもトップクラスで、関東圏の防空の最重要となっている入間飛行場を任される。

厚木などの飛行場は度重なる爆撃で使用が出来ず既にその近辺からは人間、妖精共に撤退済み。内陸部にある入間飛行場は爆撃に毎日晒されながらも今現在も使用可能。

そんな入間飛行場で、関東の防空を一任されている。
指揮下には設立当初、80機もの紫電改二戦闘機が存在していたが度重なる戦闘と追い付かない補給により今話時点で稼働出来る機体はたったの12機。

それでも他の航空隊よりは優先的に戦闘機妖精、機体や修理用部品、修理用資材を送られているがそれでも間に合っていない。

二度目になるがそんな中、被害を最小限に留めて毎回それで出しうる最大の戦果を出している。

戦闘機、爆撃機と言った機種を問わなければ全体の撃墜、撃破は169機を数える。




ーーーーーーーーー

山岸

日本海軍所属の戦闘機妖精。
階級は少佐。
海軍第343航空隊副隊長を務める。

原田の右腕で、戦線に参加し始めたのはマリアナ諸島防衛戦から。
原田よりも参戦は遅かったものの、今現在まで生き残り数多くの戦果を叩き出しているエース・パイロット。

部隊長を務められるほどの実力を持っているが、精鋭を集めた343空設立時に進んで手を挙げた。
元々空母戦闘機隊に所属していた。

個人の力量は部隊の中では3、4番目程だが所謂副官向きの能力が他よりも頭一つ抜けて優秀。
実際に副官を決める時に力量で決めるか、それとも補佐能力で決めるかで上層部は揉めに揉める程だった。

撃墜、撃破総数は不確実を含めなければ103機になる。











有名な343空の名前が出てきていますが、隊長、副隊長の名前にこれと言って関係性はありません。




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