もうすぐで50話に届きますね。
硫黄島奪還から早いもので既に一週間が過ぎていた。
その間、俺は何をしているのかと言うと相変わらずと言って良い程に書類仕事に延々と追われ続けている。
そして、その書類の中でひときわ厄介と言えるものが一つ。
新たな泊地を構築するもの、と言う書類だった。
これには理由がある。
寧ろ何の理由も無く泊地を新たに作るなどある訳が無いのだが。
と言うのも、現在軍艦やタンカーなどの全長が250mを超す大型船舶が停泊、使用可能な大規模港湾施設は残念ながら呉鎮守府辺港と、パレンバン、バリクパパンだけだ。
それ以外の港は、資源や物資の積み込み荷下ろしこそ出来るが恒久的に停泊が出来る場所かどうかと聞かれると頷けるものではない。
神戸港や大阪港は空襲によって打撃を受けており、復旧こそ進めてはいるが実際は石油や資源を運ぶためのパイプラインや道路程度だ。
護岸工事の方は最低限、積み込み荷下ろしが出来る程度にしか復旧が進められていない。
そして、泊地として軍のみが使用出来るものは柱島泊地のたった一か所だけしかない。
この、泊地がたった一つしかないと言うのは大問題だった。
言ってしまえば、泊地と言うものは陸軍で言う所の駐屯地や、前線基地の様な意味合いがある。
そして、太平洋と言う複数の戦線がどうやっても発生してしまう戦場を主としている我々日本海軍にとってそれは余りにも大問題過ぎるのだ。
柱島泊地しか艦艇の停泊場所がない、という事は出撃の都度、毎度毎度日本から2000kmも離れた場所に行って戻って来なければしっかりと腰を落ち着けて休憩を取ることが出来ない、という事だ。
今現在、日本陸海軍が主戦場として戦力を集中しているのは南方方面、インドネシアやフィリピン方面などだ。
北方は殆ど脅威らしい脅威と言うのが棲巣程度しか無く、こちらの深海棲艦の積極的攻勢と言うのは全くと行って良い程行われない。
理由として推測できるのは、冬の北太平洋やアリューシャン列島に面するベーリング海などはそれはもうとんでもないぐらいに荒れる。
ベーリング海でのカニ漁と言うものを知っている人ならば分かるだろうが、台風並みに荒れる海がほぼ毎日続くのだ。
駆逐艦ならば最悪、高波に横から押されて転覆する可能性すらあるし、何よりも恐ろしいのは極寒の暴風によって波や巻き上げられた海水が凍り付いて船の重心を簡単に崩してしまう事だ。
氷と言うものは恐ろしく重量があるもので、柵などに凍り付いてくっ付いてしまうと、大型艦ならばまだいいが駆逐艦などともなると簡単に重心が崩れる。
想像しやすいのは魚雷攻撃だろう。
あれは喫水線下に穴を開けて海水の流入によってバランスを崩す事によって沈める戦法だ。
それの喫水線上と考えてくれればいい。
魚雷攻撃を食らって艦の水平を保つ事は、解決するのは注排水によってバランスを保つ事が出来る。
ただ、喫水線上の、それも氷となるとどうすれば良いのかなんて聞かれると人力によって砕く、と言う方法しかない。
これが漁船程度の大きさならば十分に可能だろう。
だが、軍艦、それも日本海軍の特型駆逐艦ほどにもなるとはっきり言ってしまえば乗組員全員を動員したとしても満足に出来るものではない。
全員が全員参加出来る訳でも無い。
機関、艦橋、砲術などは少なくとも戦闘にすぐさま直結する部署であるから氷砕きなんて事はさせられないし、それ以外にも通信なども無理だ。そうなると動員できるのは艦の3分の1の人数居るかどうか。
これで、特型駆逐艦や秋月型ほどの大きさを誇る駆逐艦であったとしても、不眠不休で続けるのは無理だ。
しかもその後に戦闘が控えていると来れば、到底出来る訳が無い。
よしんばそれらが無い、アリューシャン列島以南の海域だったとしても荒海を渡る事になる。
大型艦はまだ良い。だが小型、中型艦になると荒波にさらわれて引っ繰り返ってしまう危険性が余りにも大きい。
電探はそもそも大嵐で碌に機能しないし、なんなら故障の危険性がある。
通信だって気象があれていては困難を極めるだろう。
更に言ってしまえば流氷、と言う問題もある。
タイタニック号、と言えばその危険性がどれほど大きなものか分かってもらえるだろうか。
向こうは客船で、こちらは軍艦。
防御力に雲泥の差があると言っても、総重量数千トンほどの流氷とまともに衝突をしては戦艦と言えどもただでは済まない。
駆逐艦や巡洋艦であれば逆に潰されてしまうかもしれない。
大嵐のせいで禄な視界も確保出来ないし、そんな状況下で敵艦隊と戦闘、となったら最悪の一言に尽きる。
それを考えると北太平洋戦線からの侵攻、と言うのは幾ら深海棲艦と言えども出来るものではないのだ。
だから海軍も陸軍も南方方面を主戦線と考えていてそちらへの攻撃や攻勢を行っている。
そして泊地の話に戻るとすると、確かに我々が奪還した領域内の南方方面には泊地が一つだけ存在する。
それが、リンガ泊地だ。
だが、現状このリンガ泊地は使用出来ない。
理由は以前にも説明したことがあると思うが、リンガ泊地に隣接するマレー半島やインドシナ半島を含む東南アジア全域を、我々は一切奪還出来ていない。
これが意味するのは、深海棲艦の支配地域である事。
当然、艦艇が停泊するような場所は無いが飛行場などは数多く存在する。
そんな目と鼻の先にあるリンガ泊地に艦隊を停泊させようものなら連日連夜、時間を問わずの空襲に晒される事は必然だ。
そうなっては作戦もクソも何もない。
だから使用出来ないのだ。
バリクパパンやパレンバンの港湾施設だって、スラウェシ島などから出撃してくる敵機の空襲を連日受けている。
震電や疾風による迎撃でその殆どを防げているとはいえ被害は0ではないし、艦隊を停泊させた場合に被害が無い、とは言い切れない。
それらを考えると作戦前に無駄に精神を摩耗させる事になるから南方方面にある港湾施設やリンガ泊地は現段階では使えない。
だからこそ、それ以外で何処かに泊地を作らなければならなくなった。
問題なのは、制約として南方方面には作れない事。
となると、南西諸島しかない訳なのだが、場所が問題だった。
今現在、候補として挙がっているのは慶良間諸島だ。
ただ、これまた問題がある。
この慶良間諸島は今現在二式大艇を主力とする水上機を装備した部隊が配備されておりその数は二式大挺だけで52機を数える。
それ以外の水上機も居れれば150機以上。
しかもこの慶良間諸島は条件が良く水上機の搭乗員などの訓練地にもなっている。
そんなところに艦隊を停泊させられるスペースがあるか、と聞かれると恐らくない。
となると、他に何処があるのか。
泊地として使用するには条件が幾つかある。
・海象条件が良く、静穏である事(波や海流が穏やかであること)。
・十分な面積と大型艦の停泊も出来得る程度の水深が確保されている事。
・海底の地質は錨が掛かり易いこと。
凡そこれら三つが要求される。
これら三つを概ね満たす事は相当厳しいものだ。
例を挙げるとすれば、コンスタンティノープル(イスタンブール)に面している金角湾やビクトリア・ハーバー。
日本であれば東京湾や大阪湾が条件を満たしている。
そして、南西諸島にこれらを求めるとなると相当限られてくる。
と言うのも珊瑚礁の存在があるからだ。
基本的に沖縄近海は遠浅である事が殆どで、そうでなかったとしても突出した大きな珊瑚礁がいきなり現れていたりする場合もある。
そうなると座礁の危険性がかなり高い。
と考えると沖縄本島近海にも適した場所は無い。
そして、別の候補地を探すべく会議を行っているのだが……。
「最低でも3個航空戦隊が停泊できるだけの面積を有していて、尚且つ水深もあって波や潮流が穏やかな場所か」
「そんな場所があるとは、到底思えませんが……」
「俺だってそうだ。だが探さなければならん。誰か、候補地を上げられる者は居るか?」
そう、聞いてみるが流石に今回ばかりは戦いの事では無いから誰も手を挙げられなかった。
調べているとはいえ、流石にそう直ぐに見つかる物ではない。
南西諸島の拡大地図を卓上に大きく広げて見ているが、どこか良さそうな場所はないものか。
探していると、ふと目が留まった。
「……ここなんてどうだろうか」
「大島海峡、ですか」
俺が目を留めて指刺したのは奄美大島と加計呂麻島の間にある大島海峡。
この大島海峡は、典型的なリアス式海岸だ。
リアス式海岸という事は、それなりに水深がある筈なのだ。
恐らく、40m以上の水深は最低でもあると思われる。
戦艦や信濃ほどの大型艦でも停泊は可能だろうと思われる。
「あぁ、ここならリアス式海岸でそれなりの水深もありそうだ。潮流は後で調べる必要があるだろうがそれは海上保安庁の過去の記録にある筈だ。それと比べれば容易だろう」
「調べてみる価値はありそうですね」
「となれば、早速調査を行いましょう。測量船などの手配をしてしまっても宜しいですか?」
「あぁ、頼む」
その後、すぐさま大島海峡の測量を行う事となった。
担当するのは海軍測量部。
本来であれば海上保安庁に依頼してもいいのだが、海上保安庁の所有する船は最低限沿岸警備が行えるだけの小型船しか存在しない。
過去、艦娘とその艦体、妖精が現れる前に圧倒的な兵力不足故に海上保安庁の巡視船を徴用、かなり無理な改造を施して戦闘艦艇として戦線投入を行った過去がある。
当然、無理矢理な改造に戦闘訓練をまともに受けた事が無いから無残な結果、となったのだが。
それ以降、海軍の艦の修理や資源を運ぶための戦時緊急増産型輸送船やタンカーを最優先で建造していたため今日まで大型の巡視船クラスは1隻も建造されておらず、海上保安庁は完全に沿岸警備を主眼としている組織に変わっている。
今更だが沿岸警備隊と言われた方が納得出来るほどだ。
当然、外洋航行が出来るわけがない。
しかも海上保安庁に勤務しているのは妖精では無く人間であるために深海棲艦に襲われた場合、一切の対抗手段がない。
となると海軍が護衛を出さなければならない訳だがそんな面倒な事をするぐらいなら元々測量部も持っているし自前で護衛を用意出来る海軍が測量をやればいいだけの話だ。
測量部の担当である広野中将に連絡をして、測量部を出してもらう。
護衛に就くのは南方方面に輸送船団護衛を行うために丁度出航予定の第一護衛艦隊だ。
測量を行う測量船は出来るだけ早く測量を終わらせ、可能うならば泊地としてすぐに使用出来るようにしたいので27隻ある内の20隻を測量船を投入する。
何しろ、大島海峡は長さ20km、幅2~6kmもあるから1隻でチマチマ進めていたらいつ終わるか分かったもんじゃない。
20隻で1kmごとの長さを担当するのだ。
そうすれば、早ければ数日で測量が完了するだろう。
一週間後。移動に3日ほど掛かったが測量自体は4日ほどで終了している。
結論から言ってしまえば泊地として使用する事になんら問題無い、との事だ。
水深は50~70mほどと十分な深さが確保されているし、潮流も海上保安庁の資料と照らし合わせても相当穏やかだ。
深海棲艦が現れる前は台風の際に避難海域としても用いられていたほど波や潮流が穏やか、と言えば分かってもらえるだろうか。
しかも長さ20km、幅2~6kmと十分な面積もある。
そして資料を幾らか漁ったときに判明したのだが、1920年から1945年までの25年の間、旧日本海軍の軍港として大島海峡内に存在する薩川湾が用いられていた、との事らしい。
しかも、戦艦大和や武蔵の停泊記録もあった。
とすると、かなり好都合な場所である、と言える。
この大島海峡が使用出来るとなると、相当好都合だ。
呉からの距離は凡そ900km。
この距離を何らかの作戦時に南方方面までを短縮出来る、とすると往復で1800kmもの短縮が可能だ。
となれば大体速力にもよるが数日の航海短縮となる。
作戦行動時に洋上生活を送らざるを得ない我々としてはその数日の短縮はかなり大きい。
その分、消費する燃料も抑えられる。
早速、資材を運び込んで護岸工事と燃料タンクなどの設備を建設する事となった。
流石に全てを、とは行かないから薩川湾と奄美大島にある瀬戸内町の港を使用する事に決定。
楽だったのは、戦時という事もあって島民が一人も居ない事だ。
居たとしたら島民を納得させるところから始めなければならないし、自称平和主義者の反戦団体と言う面倒な連中の事もある。そうするとどれだけの時間が掛かる事やら。
今はそれぞれの島に守備隊として陸軍妖精が駐屯しているぐらい。
本土に近い島ならばまだしも、南西諸島を含む日本領土全域の島からは守備隊などの軍の妖精を除いて誰も居ない。
後々、とやかく言われそうではあるが戦時中なのだ、しかも同じ人間を相手にしている戦争ではなく深海棲艦と言う全くの未知の存在を相手にしている戦争だ。何よりも優先すべきはまず、勝って人類が生き残る事だ。
戦争が終わってからでも自然は幾らでも取り戻すことが出来る。
完璧なまでに破壊されない限りは自然と言うものは人間の手を借りずとも再生するものだ。
もし、破壊の原因が人間にある、と言うのならば再生の手伝いを少しばかりすればいい。
全てを手伝う、と言うのはそれは違う。
それはビオトープや植物園、動物園と何ら変わりない。
あくまでも俺の個人的意見だが。
さて、件の泊地だが名称としては特に変わった名前を付けられる事は無かった。
泊地の名前は、『大島海峡泊地』と名付けられた。
既に南西諸島と南方方面に対する即応性を高めるべく、そして輸送船団護衛任務に就いている第一護衛艦隊が進出している。
基本的な母港はどの艦隊も呉軍港、及び呉鎮守府と柱島泊地だが。
燃料タンクなどが建設されるまではタンカーや輸送船を前進させて燃料補給や食料、水等の補給を行う。
第一護衛艦隊
第4航空戦隊
大鷹 神鷹 海鷹 龍驤 千代田
第四戦隊
戦艦
長門 日向 クイーン・エリザベス ウォースパイト ラミリーズ ネルソン デューク・オブ・ヨーク
重巡洋艦
那智 羽黒 愛宕 摩耶 最上 キャンベラ ゴトランド デ・ロイヤル
軽巡洋艦
名取 鬼怒 天龍 龍田 神通
駆逐艦
花月 涼月 グレカーレ リベッチオ ジャーヴィス マエストラーレ
東雲 白雲 浦波 狭霧 子日 有明 海風 江風 峯雲 霞 藤波 沖波 清霜 白雲 有明 長月 荒潮 親潮 黒潮 竹 桃 椿 楓 樺 楠
前進したのは以上の艦隊だ。
基本、護衛艦隊は大島海峡泊地で輸送船団と分離する。
それ以降は奄美大島や喜界島、それ以北にある航空隊が護衛を担当する。
ただ、輸送船団の規模によっては護衛艦隊の数が上下するし、豊後水道付近まで護衛を行う事もある。
理由としては、たった数隻の輸送船の為に戦艦を4隻も出してしまうと採算が合わないからだ。
例えば5隻の輸送船団だとしよう。
これでは、護衛中に被った被害と、消費した重油や航空燃料の採算が合わなくなってしまうのだ。
ここまで少ない数の輸送船団ともなると、護衛に就けるのは空母1隻と軽巡を1隻、駆逐艦を8隻。
空母の護衛の3隻と軽巡を旗艦として駆逐艦5隻を擁する水雷戦隊が1個。
これで十分なのだ。
ただ、我々が送り出す輸送船団は襲われたときに出来るだけ被害を少なく、分散させるために30隻以上の輸送船やタンカーとなる訳だ。最大で50隻を超える大規模輸送船団になる事も、極稀にだがあるのだ。
それを、たったの十数隻の護衛艦隊だけで守るのは困難だと言えるだろう。
硫黄島を奪還したことによって、南方方面とそちらに向かう航路に対する深海棲艦の圧力が大きく減少している。
理由は、潜水艦隊による偵察で得られた情報を基に推測しただけなので確証はないが、どうやら深海棲艦はマリアナ諸島と我々が奪還していない南方方面の島々の防備を固めているようなのだ。
事実、定期偵察任務で出撃した二式大挺や連山が、撃墜されて未帰還となる事もここ最近数多くなってきている。
偵察で得られた情報によると、陸上戦力の増強や飛行場の増設、部隊の増援がかなり目立って来ている。
マリアナ諸島は連日のB‐29の損害+防空用の戦闘機などの増援だ。
よくもまぁ、毎日300機を超えるB‐29を送り込んでこられるものだ。
しかも損害は護衛戦闘機が居ないから200機を毎回超える。震電による迎撃はほぼほぼ一方的な戦果を挙げている。
ただ、こちらも無傷とは行かない。
防御火器によって十数機程度の撃墜機と、それに伴う戦死者が出ている。
しかも、ここ最近になって来て大陸方面から九州や中国地方、四国地方にB‐29が襲来し始めたのだ。
それを意味する事は、深海棲艦がB‐29が日本本土を射程に収めつつこちらが手を出せない場所まで占領したという事。中国政府や軍が更に奥地に撤退したという事だ。
正直当てにしていなかったとはいえ、これは何でも予想外過ぎる。
しかもどちらからも毎日送り込まれていて、日に2度の迎撃を行わなければならない。
搭乗員は勿論、整備兵や関連する将兵全体に疲労が広がっており早急に震電装備の部隊を増設しなければならない。
出撃部隊を交代制にしようものなら、幾らターボジェットエンジン装備の震電と言えども今の様に大戦果を挙げ続ける事は出来なくなるだろう。
マリアナ諸島に対する連山からの爆撃も、増援として送り込まれた敵戦闘機の数が余りにも多すぎる為に見送られている。
200機の連山を用意しても、迎撃に上がってくる敵戦闘機は同数かそれ以上に上るのだ。
どうやったって全滅は免れない。
我々は深海棲艦の様に無尽蔵に戦力を生み出せる訳では無いから1機の機体、1人の兵士を大切にしなければならない。
勿論、無尽蔵に生み出せるからと言って大切にしないと言う訳では無いが。
もし作戦として実行すると言うのであれば、空母をマリアナ諸島近海まで前進させて護衛戦闘機を就ける必要がある。
ただ、そうなるともう空母機動部隊でマリアナを叩けばいいではないか、と言う話にもなって来てしまう。
マリアナ諸島を占領する作戦ならばまだしも、ただ一度の作戦の為に空母どころか艦隊そのものを轟沈の危険に晒す訳には行かない。
我々の最終目標は、深海棲艦に勝つ事。
提督と言う立場になれる人間が今後現れる確証も無く、寧ろほぼ0と言って良い程の低確率だ。それを考えると、少なくとも俺が生きている間に勝たねばならない。
100歳まで生きる事が出来ると考えても、あと72年ほど。
実際に前線に出て戦えるかどうかを考えると、あと50年ほどだ。
お世辞にも長いとは言えない。
ただ、俺達にも何も手立てが無い、と言う訳では無い。
と言うのも、深海棲艦の太平洋戦線における戦力の立て直しや補充戦力、補給物資を生み出していると考えられるのが、ハワイ諸島だからだ。
これもただの憶測では無く俺がこの世界に来る前の偵察や、来た後の潜水艦隊による長距離偵察から得られた情報だ。
このハワイ諸島を落としてしまえば、戦力の補充が利かなくなった深海棲艦は大西洋方面に撤退するか、我々と決戦を挑まなければならない。
ただ、問題なのはそのハワイ諸島をどのようにして陥落させるか、と言う問題だ。
太平洋の棲巣を一つ一つ潰して回ってもいいのだが、流石にそれでは時間が掛かり過ぎる。
一つの棲巣を落とすのに兵糧攻めから初めて、艦隊戦、上陸してからの陸上戦を考えれば硫黄島程とは言わずとも数カ月は掛かる。
そして艦隊の再建などを含めば、大規模作戦を行えるのは1年に1度が限界だろう。
それに、ハワイ諸島を攻略する前に最低限、戦争を安定して継続させるためにフィリピンを攻略しなければならない。
と言うのも、現状は問題が無いのだがフィリピンを深海棲艦の支配下に置かれていると日本本土と南方方面の資源地帯を結ぶ輸送航路が脅かされるからだ。
現在はスラウェシ島などからの敵機が殆どなのだがフィリピンからも少なからず襲来してきているし、本格的にフィリピンを拠点として通商破壊をされてしまうとスラウェシ島などからの敵よりもずっと甚大な被害を負う事になってしまう。
フィリピンには艦隊の停泊地として使える湾が数多くあるから航空機を使わずに夜間の水上打撃艦隊にやられてしまう事も想定される。
しかもフィリピンは過去に有人であった島や元々無人であった島を問わずに数えると凡そ7107と言うとんでもない数の島が存在する。
流石に部隊が展開できない程小さな島などもあるので全ての島に敵の守備隊が展開している訳では無いが、主要な島だけでも43島も存在する。
それに加えて部隊の展開が行える島などを入れると、到底100などでは事足りない。
しかも推定される展開している陸上部隊の敵師団は5~7個師団、最大14万人にも上る。
それらすべてを攻略するのに要する期間は軽く見積もっても2~3か月。
こちらが投入しなければならない師団数は、それぞれの島を一つ一つ攻略して回る事を考えてもこちらも最大で同数の7個師団は必要だ。
望めるならば10個師団20万人を投入したい所なのだが、流石にそこまでの戦力を用意出来ない。
南方方面や南西諸島に駐留している師団を引っ張って来ても、そちらの防備が薄くなるし、その間に深海棲艦が攻めてこないとは限らない。
更に言えば、この投入戦力の想定はあくまでもこちらがそれまでに艦隊や陸上部隊の損失が無かったと想定した場合だ。
もし、空母1隻でも失おうものなら攻略の難易度は跳ね上がる。
空母は第一護衛艦隊を入れても18隻しかいないし、そのうちの6隻は搭載機数が30~40機の軽空母だ。
鳳翔に至っては零戦を搭載していて、深海棲艦の機体性能差と考えると船団護衛任務は行えても、積極的な戦闘は行えない。
しかもこの4航戦は上陸船団の護衛を行わなければならず実際には第1、2、3航空戦隊の3個航空戦隊で戦わなければならない。
フィリピン防衛に出て来るであろう敵艦隊と敵飛行場の戦力を考えると、2000機なんて馬鹿げた数が冗談抜きで現実として立ち塞がってくるのだ。
こちらはパラワン島の基地航空隊の動員できると考えても1300~400機を投入出来るかどうか。
フィリピンを攻略しなければならない理由は、艦隊が全て作戦で出払ってしまうと輸送船団に就ける事の出来る護衛艦隊が無くなってしまうからだ。
そんな丸裸の輸送船団を昼間の航空援護のみだけで日本から送り出せばどうなるか目に見えて明らかだろう。
更に言ってしまえばフィリピンを奪還したとして、ハワイ諸島攻略に取り掛かれるわけでは無い。
まず、北回り航路を取るとすればミッドウェー諸島は確実に攻略しておかなければならず、南周り航路だとしたらマリアナ諸島、ジョンストン島を攻略しなければならない。
この2つの島、諸島はハワイ攻略を行う上で絶対的に必要となる。
ミッドウェー諸島もジョンストン島も野放しで進めば途中でハワイに通報されるから奇襲も何も計画できなくなってしまうし、輸送船団が攻撃される。
そして確保しておく利点として、ハワイ攻略の後方支援基地、中継拠点としてどちらとも活用出来るからだ。
日本から、ハワイまでの長大な距離を中継拠点も無しに行えない。
最低でも、ジョンストン島は放って置いても良いとして、ミッドウェー諸島だけは確保しておかなければならないのだ。
ミッドウェー諸島からハワイ諸島までの距離ならば連山で偵察、爆撃が可能だし事前に情報を集めやすいのだ。
解決する手段こそあれど、その手段を取るには最低でも2カ所の攻略を行い奪還を成功しなければならない。
ともかく、今は南方方面と南西諸島の視察を行わなければならないからそちらに注力しよう。
足りないものが無ければ送り込まねばならないし、地下陣地の構築が足りないとなれば増設しなければならない。
どちらとも、最低でもそれぞれの島で6カ月は持久戦を行えるようにしておかなければならない。
この6カ月さえあれば、一度艦隊戦に負けたとしてももう一度だけならば戦いを挑むことが出来る。
はぁ、また帰ってきたら大量の書類仕事をこなさなければならないのか……。
溜めさえしなければ楽なんだが数週間分ともなると尋常じゃ無い量だからな。
また、怒られないようにしないとな。