暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第43話

 

 

 

 

硫黄島の視察をする為に、隼鷹の内火挺に乗り移る。

既に三種軍装の陸戦隊指揮官用の軍服に着替えて、腰に軍刀を指している。

本当は軍刀は置いて来てもいいかな、とは思っていたのだが隼鷹始め全員から却下された。

 

普段作戦の時に俺と共に行動している参謀長達も、今回は本土で留守番中だが居たら間違いなく却下される、と言われたら納得するしかない。

 

「それでは行ってくるから戻るまで頼むぞ」

 

「あいよ。しっかり見てきなー」

 

隼鷹に後の事を任せ、内火挺に乗り移る。

 

「お待ちしておりました。それでは、少々揺れる事もあるかもしれませんので何処かにしっかりとお掴まり下さい」

 

内火挺の操縦員に案内されながら硫黄島の南浜(以前の作戦の時に我々が上陸した地点)に作られた仮設の桟橋に内火挺を近付けていく。

桟橋には、10人ほどが待っている。

 

桟橋に足を掛けて上陸すると、待っていた10人が一斉に敬礼をしてくる。

それに答礼すると、自己紹介を始めた。

 

「硫黄島守備隊総司令の片浜陸軍少将であります」

 

「態々出迎え、ありがとう」

 

「いえ、それでは守備隊司令部にご案内します」

 

「あぁ、司令部に荷物を置いたらすぐに視察を始めよう。じっくりとも見て回りたいが生憎と時間が押していてな」

 

「了解しました。お荷物を持たせましょう。山下、閣下の荷物をお預かりしなさい」

 

「はっ、閣下、お荷物失礼します」

 

山下と呼ばれた少尉が俺の荷物を受け取って運んでくれる。

因みにだが片浜少将も山下少尉も妖精だ。

 

陸軍では中将ぐらいの階級までであれば妖精が務めている。

残念ながら、陸軍の上級将校はたったの2人だけしかおらず、その二人も第1憲兵師団とそれ以外の憲兵隊の指揮を執る為に前線の指揮は一切取っていない。

その代わりに俺が指揮を執っていると言う訳だ。

 

と言うのも、警察組織などは機能しなくなって久しいからだ。

それに伴って各地の治安維持は軍の憲兵隊が警察の代理という事で受け持っている。

 

深海棲艦との戦いによって、警察組織は瓦解し、艦娘と艦体、妖精が現れるまでは戦力不足を補うべく時の内閣は憲法を強行改正、それによって徴兵を行えない筈であったものを行えるようにした。

優先的に徴兵されたのは、所謂公務員、それも治安維持等に関わる警察、消防などの人間からだった。

警察署、消防署内の約半数、署長から始まり年齢問わずに徴兵されて行き、挙句の果てには市役所職員から各省庁の人間までもが徴兵対象として前線に送られて行った。

 

年齢問わず、それこそ60歳を超える老人達までもを送り込んだと言うのだから正気の沙汰では無い。

 

 

 

 

それによって、国内の人口は深海棲艦の攻撃と合わせて低下の一途を辿り、それに伴いありとあらゆる生産能力が低下。

因みにだが現時点での日本の人口は未だに減少の一途を辿っており俺がこの世界に来た時は3000万人ほどいたのが2500万人ほどにまで減っている。

食料問題、衛生状況の悪化など幾つもの理由が挙げられるが様々な理由による。

 

出生率は高いものの、生まれてきた赤ん坊が成長する前に死んでしまうと言う、俺の居た世界でのアフリカなどと似たような状況になっている。

これを解決するためには早急に南方との輸送航路の安全を確保して、国民にも行き渡らせることが出来るだけの資源を運ばなければならない。

 

 

 

 

話を戻そう。

当然、警察官や消防士なども徴兵されて行ってしまう訳だから国内での治安状況は悪くなる一方。

警察消防から優先的に徴兵されたものだから、治安を取り締まる人手が足りず、深海棲艦の砲爆撃によって沿岸部は軒並み廃墟。

内陸部ですら爆撃によって官民問わずありとあらゆる施設が吹き飛ばされたのだ。

 

当然、警察消防署なども消えた。

 

治安低下と言うのは、想像よりもずっと全ての物事に影響を与える。

で、足りない人手を補うために軍が動員された、と言う訳である。

 

その当時、既に日本本土近海の制空権、制海権すら奪われており各地での守備に就いていた軍の師団は軒並み深海棲艦との戦闘で消滅。

それでも徴兵は続けられ、軍の師団は沿岸部防衛に引き抜かれて毎日の戦闘で消耗、若しくは大打撃を負って解体されていた。

 

軍には憲兵隊、と呼ばれる民間での警察と同じ役割を担う部隊があるが、憲兵隊を各師団に配備していたところを全て引き抜いて役割を果たせなくなった警察の代わりに充てた、という事だ。

刑法などは、軍のものでは無く警察のものを取っているのだがな。

 

現在の憲兵隊は妖精では無く人間で構成され総員数は27000人ほど。

ただし、入隊するには軍の法律と警察の法律、それに民法なども学び、守らねばならない為に学力面だけでなく体力面においても相当優秀でなければ入る事は出来ない。

よしんば入れたとしても、体力無しでは直ぐに値を上げて止める事になるだろう。

まぁ、現状の日本ではまともな収入を得られる仕事と言うのは軍の憲兵隊に入るぐらいしか方法は無いので意地でも食らいつくのだろうが……。

 

 

徴兵されなかった者達も本土に対する爆撃は苛烈で、戦争、しかも本土が直接戦火に晒されるとは思っていなかったから避難するための施設なんてある訳も無く、逃げまどいながら機銃掃射に撃たれない様に祈るぐらいしか出来なかったのだが。

平和主義を掲げる奴らも軒並み深海棲艦の攻撃によって死んだのだから、ザマァ見ろ、と言うよりもいっそ哀れに感じるほどだ。

お陰で平和主義、なんてのを掲げる奴は殆ど居なくなった。

 

共産主義に迎合しようとする事や、他国に国を売り渡す事のどこが平和主義なのか全くの疑問なのだが。

 

 

 

 

 

 

指揮権について話をしよう。

 

 

基本的に各地の、陸戦においての守備隊の指揮権に関しては、俺と言う例外を除いて陸軍優先となっている。

そりゃ陸で戦うための軍隊だからな、「餅は餅屋」という事だ。

 

海に関しては海軍優先となっているので指揮権のバランスは保たれているだろう。

 

「守備隊の司令部は、ご存じかと思いますが地下にあります。未だに工事中なので快適とは言えませんが最低限の空調は整っておりますので視察中の間はどうか我慢して頂けると幸いです」

 

「なに、前線で本土と同じような環境を望む方が酷と言うものだ。なんなら外で寝袋に包まって、と言うのもアリかもしれんな」

 

「ははは、御冗談が上手ですね」

 

「そうだ、土産として日本酒を幾らか持って来ているからあとで渡そう」

 

「はっ、ありがとうございます」

 

「それでは早速行こうか。さっきも言ったがあまり時間は無いからな」

 

片浜少将と、司令部で幾らかの話し合いをした後、片浜少将と共に俺の護衛として山下少尉以下1個小隊が付いて来てくれることになっている。

硫黄島には3日滞在する。

 

今日は朝9時頃に予定通り到着したから、3日後の昼までは硫黄島に滞在する。

それまでの間に硫黄島全域の視察と問題点を洗い出さなければならない。書類を書いて俺が居る本土まで送ると言うのが普段の正規手段なのだが、それだと物資輸送でやってくる定期輸送船団がくるまでそれらの書類を本土にいる俺の元までやって来ない。

まぁ、こちらからの書類なども同じような事なのだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんな、俺に付いてくるから車に乗って楽が出来ると思っていただろう?」

 

「正直な事を言ってしまえば多少は期待しておりました」

 

「歩いて見て回る方が、しっかりと見れるからな。それにこの人数だとトラック一台じゃ足りんだろう?燃料は一滴でも惜しい状況だからな、節約できるところで節約せねばならん」

 

「勿論分かっております」

 

片浜少将と会話しながら、島内を巡る。

各地の防御陣地から、海岸線の地雷敷設地域、上陸までの機雷原なども見た。

 

「飛行場は2箇所、ただし、北飛行場の修理を優先しているために南飛行場は手付かずです」

 

「……やはり、人員不足と資材不足か」

 

「はい。それに島内のあちらこちらに艦砲射撃の穴が空いていて、最低限それを塞いで道を確保しない限りは資材の運搬もままならない状況です」

 

「徹底的にやり過ぎた、という事か。島内の道路修理状況は?」

 

「先程の説明の通り、全く進んでいません。浜からの道路を順次修復していますが地下陣地地上陣地構築などにも人手を回さなければならない為に人手不足と資材不足の両面からありとあらゆるものが足りていません」

 

「……弾薬等の備蓄状況は?」

 

「そちらも、到底足りているとは言い難いかと。現状の備蓄では地下陣地の構築が間に合っていない為に野外に掘っ立て小屋を建てての備蓄ですが、もし敵の来襲と上陸があった場合、地上防御陣地もまだ未完成ですので敵の上陸があった場合は2週間持つかどうか、と言ったところでしょう」

 

「せめて、飛行場だけでも何とかなっていれば航空機でのピストン輸送が可能なのだが、難しいか」

 

やはり、島内の状況は数週間前とほとんど変わっていない。

片浜少将が無能、と言う訳では無い。全ての修理を満遍なく行えるほどの余裕が無いという事だ。

 

しかも、硫黄島への資材輸送は未だに行われておらず、資材だけ送り込んだとしても人手不足だから資材が余ると言う状況になる。

送るのならば、人手も送り込まねばならない。

 

「……よし、出来るだけ早い内に工兵隊を幾つか送り込もう。それまでは、道路修理と陣地構築を7:3の割合で進めるように。道路さえあれば資材の搬入も今よりは迅速に行えるだろう。そうすれば、島内全域に資材と人手を行き渡らせられる」

 

「はっ、了解しました」

 

ともかく、道路だけでも修理をしなければ資材があっても運べないし、人手があっても迅速な移動が困難だろう。

インフラ整備を優先しないとならない。

 

恐らく、先の硫黄島で失った艦艇の補充もまだだろうし戦力を揃えるにはどこからかの方面から相当数の戦力を引き抜かない限りはまだ暫くは時間が掛かるだろう。

 

詳しい事はまだ分析中だから分からないが、最低でもあと1年は掛かると思われる。

それまでは深海棲艦連中も攻勢を掛けられないだろうし、防御陣地を構築する余裕はあると思われる。

ならば、その前に島内の道路などを優先的に修理しても問題は無いだろう。

 

 

 

本当の事を言えば、この1年の間に出来るだけ攻勢を掛けたい。

 

出来るならば、敵艦隊が出てこられない内にフィリピン攻略、奪還を成功させたいところだがそう上手くはいかないだろう。

 

こちらだって艦隊こそ無傷ではある。

ただ、陸軍師団はそうもいかない。

硫黄島奪還作戦で大打撃を被ったし、フィリピン攻略に投入予定の師団も半数が訓練中だ。

この状態で攻略作戦を強行しても碌な事にならない。

 

フィリピンだって島の殆どを密林に覆われた熱帯雨林のジャングルだ。

ちゃんとジャングル内でも戦えるように訓練を行わなければならないし、そのジャングル内での物資輸送を円滑に進める為に工兵隊も数を揃えて準備をしなければならない。

 

必要数の師団や各部隊を揃えるのにどうやっても時間が掛かるし、輸送するための輸送船を揃えるのだって簡単じゃない。

10個以上の師団を輸送して、尚且つその師団を飢えさせず、そして尚且つ戦わせられるだけの物資を送り込む兵站の維持だって楽ではない。

ただ食料や弾薬を運べばいいだけじゃない。

あの地域はそれ相応に伝染病、感染症などの危険もある。

 

赤痢、アメーバ赤痢、マラリア、結核、チフス、ジフテリア、破傷風、コレラ、などなど。

薬など医薬品としっかりとした治療さえあれば助かる伝染病や感染症だが、その医薬品を運ぶのだって大変だし20万を軽く超える将兵全員に行き渡らせるのだって並大抵の事じゃぁない。

 

フィリピン攻略には予備師団を含めて、16個師団程の規模になる。

中には工兵とその護衛のみで構成された工兵師団や砲兵師団もあるが

歩兵師団10個、砲兵師団3個、工兵師団3個の内訳になるだろうと試算されているが、陸軍師団だけで32万に上る。

 

そこに陸海軍の航空隊、飛行戦隊に第一機動艦隊や第一護衛艦隊などを含めると総兵力は陸海空合わせて35万を超えるだろう。

 

それらの将兵全員に健康を維持させ食わせ戦わせなければならないし備蓄も行わなければならないのだから、一か月で必要になる物資の量は輸送船100隻分を軽く超える。

 

しかもただ送り込めばいいと言う訳じゃない。

必要な時に必要な量を送り込めないのならば、数があっても無用の長物になる。

 

 

既に南西諸島、南方方面、硫黄島までの小笠原諸島への兵站維持だけでも輸送船の数だって足りていない。

それぞれに大規模輸送船団単位で送り込んで漸くなのだ。

何よりも輸送船の数以上に、護衛の数が足りていない。

 

輸送船は本土で大増産されているから、来月になれば月10隻単位で竣工、就役されるだろう。

乗組員の問題は付いてくるがまだ良い。

 

だが輸送船団に就けるための護衛の問題は解決出来そうにない。

こちらはただでさえ追い込まれているのに、常に護衛を行う艦の数が少ないと言うハンデまで背負って戦わなければならないのだ。他の問題を解決しなければ、到底フィリピンを始めとしてミッドウェー諸島、果てはハワイ諸島の奪還維持など不可能だ。

 

ともかく、今は硫黄島を前線基地として使えるようにしなければ。

 

 

 

 

 

初日の視察を終えて司令部の俺に充てられた部屋に戻ってくる。

一息ついて、軍刀を置き、鞄の中にあるペンと紙、それに書類を取り出して早速硫黄島に必要な物資と工兵隊、それ以外の部隊を送って貰えるように申請書類を書く。

 

「閣下、山下少尉であります」

 

「入れ」

 

「お仕事中失礼します。食事の時間でございますのでお迎えに参りました」

 

「ん、ありがとう。これを終わらせたら向かうとしよう」

 

仕事に区切りをつけて、迎えに来てくれた山下少尉と共に片浜少将の待つ食堂、とは言い難い食堂に足を運ぶ。

その際に土産として持って来た日本酒を一本持って行く。

地下陣地の食堂は未だ完成していないから、地上に出て食事を摂る。

 

「すまない、待たせた」

 

「いえ、そんなことはありません」

 

「それじゃぁ、早速食べよう」

 

「はい」

 

前線という事もあって食事は質素だ。

保存の利く干物が一匹に、麦飯、それとみそ汁。

 

この干物は硫黄島守備に就いている兵士の1人が休暇中に釣った物を態々俺の為に、と言って干物にして寄こしてくれたそうだ。

あとでその兵士には礼を言って、酒の一杯でも振る舞ってやらねばならんな。

 

 

「申し訳ありません、士官用の食事を用意する事も現状ではままならず……」

 

「いや、気にするな。こちらが満足に補給をしてやれないのが悪い。それに本土や艦隊に居る時の俺が恵まれているのだ。これが普通という事だろう。俺はこういう食事の方が好きなのでな、気にする必要は無い。それに、今回は少しばかり華を添えられる」

 

そう言って、持って来た日本酒を机の上に置く。

 

「おぉ、久方ぶりの酒ですな」

 

「あぁ、遠慮せずに飲んでくれ」

 

日本酒を見た片浜少将は目を輝かせて喜ぶ。

そんな少将を見て少しばかり笑みが零れた俺は、一升瓶の栓を開けて少将のコップに注ぐ。

 

「ありがとうございます。っと。それでは私も注がせて頂きます」

 

「あぁ、ありがとう」

 

それぞれ、互いのコップに日本酒を注いで、音頭を取った。

 

「それでは、乾杯」

 

「乾杯」

 

談笑しながら食事を進めた。

 

片浜少将は、固っ苦しいと言うよりも結構朗らかで人に好かれるタイプらしい。

部下達からもよく慕われているし、末端の兵卒達からも好かれているようだ。

 

それに軍略の面においても優秀だ、と言える。

彼ならば、硫黄島の守りを任せられる。

 

 

 

食事が終わった後、自室に戻り先程の干物を作って寄こしてくれた兵士を呼び出す。

 

「岩田一等兵、入ります!」

 

「入れ」

 

「失礼します!私をお呼びとの事ですが、どうかしたのでしょうか?」

 

岩田一等兵、と名乗った彼はいきなり上級士官に呼び出されて大きな声を出して入って来たりはしているがビクビクしている。

俺だって同じ状況に立たされたら、何かやらかしたのかと怯える。

 

「そう怯えるな。今日の夕食に出された魚の干物、岩田が釣り上げた魚を使ったんだそうだな?」

 

「はっ、そうであります。お気に召しませんでしたか?」

 

「いやいや、寧ろ嬉しかった。ありがとう。お陰で旨い飯が食えた」

 

「は、はっ!ありがとうございます!」

 

「それで、何か礼をしなくては、と思ってな」

 

「い、いえ、そんな……」

 

「いや、気にするな。それで、礼をすると言っても手持ちには酒ぐらいしかないものでな。これをやる」

 

そう言って俺は持って来た日本酒を一本彼に渡す。

それを受け取ると、嬉しそうに抱えて頭を下げてくる。

 

「あ、あ、ありがとうございます!一生大事にします!」

 

「いやいや、飲んでくれよ?」

 

「はい、勿論であります!」

 

「すまんな、態々呼び出してしまって。用件はこれで終わりだ。重ね重ね言うが干物、ありがとう。美味しかったぞ」

 

「はっ、自分も喜んでもらえて光栄です!それでは、失礼します!」

 

「あぁ」

 

そう言って、岩田は部屋を出て行った。

本当は一緒に飲んでも良かったのだが、そうすると流石に彼が気を使い過ぎる事になるだろうしそうなっては申し訳ない。

だから渡すだけにしたのだ。

 

ともかく喜んでくれたようで何よりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日間の視察を終えた。

 

「少将、三日間世話になった」

 

「いえ、こちらこそご足労頂き、感謝しております」

 

「要請のあった物資と約束した物資、部隊は今すぐに、とは行かないが必ず送り込む。それまでは現状のままで頑張って欲しい」

 

「はっ、勿論であります」

 

「それではな」

 

「はっ、閣下の視察道中の安全をお祈りしています」

 

「ありがとう」

 

片浜少将と最後に握手を交わし、硫黄島を離れる。

迎えの内火挺に乗り込んで隼鷹に戻る。

 

 

 

「お帰り」

 

「あぁ、ただいま。すぐに次の視察に向かわなければならん。出航だ」

 

「あいよ。つっても遊弋してたから針路を向けるだけなんだけどねー」

 

隼鷹艦橋に登り、指揮を執っている隼鷹と会話して次の視察地である南西諸島に針路を取る。

 

硫黄島近海から沖縄本島までは大体3日から4日程度で到着出来る。

南西諸島は、正確には九州南端の島々から始まるのだが、今回は徳之島を含めて徳之島以南の視察を行う予定だ。

 

徳之島2日。

沖永良部島1日。

与論島1日。

伊平屋島と伊是名島はそれぞれ1日。

沖縄本島及び伊江島などを5日。

慶良間諸島3日

久米島1日。

宮古島1日。

石垣島1日。

西表島1日。

与那国島1日。

 

全ての島を18日の日程で全て視察しきる予定で、これ以上の日程を組むことは出来ない。

そうすると、燃料の問題などが出てきてしまうからだ。

もし、これで足りないとなったら後日、また視察をするしかない。

 

ただ、自分で言うのもあれだが俺はかなり忙しい。

海軍実働部隊全ての指揮に加えて陸軍の指揮も執らねばならないし、それに付随して一切の書類が一度俺の所に上がってくるからそれを全て、秘書艦の誰かの手助けがるとはいえ捌かねばならないし、他にも幾つもの仕事がある。

だからこそ視察に割ける時間と言うのは、早々取れるものではない。

 

いやもう、何で俺はこんな馬鹿みたいな量の仕事を殆ど一人でやってんだ?と一時期考えたりしたが、今じゃ仕事をやらせて貰えないと手持無沙汰だし、滞ることがあるのは事実だからどこか不安な気持ちが出てきてしまう。

だから寧ろ仕事をさせて欲しいと言う、なんともまぁ見事な社畜根性が養われてしまった。

 

うーむ、今更だが末期なのでは?

 

とは思うがもう手の施し様が無いから俺自身は諦めているのだがどうにも皆は違うようだ。

事あるごとに休め休めと大合唱するもんだから、俺は肩身が狭い。

 

 

話を戻そう。

視察を行い、時間的な余裕が足りないと判断した場合は一応書き込んで後日何処か時間を見つけて、という事になる。

 

しかし、先程も言った通り時間的余裕が仕事の都合上あまりないのでこの視察期間中に強行軍とはなるだろうが無理矢理にでも、それこそ睡眠時間を削ってでもやるしかない。

 

 

さて、南西諸島までの道中はこれと言ってやることが無い。

硫黄島への物資や人員の手配に必要な書類は向こうで全部終わらせてきたし、後はこれを軍令部の中代大将や広野中将達に上げて許可を貰うだけだ。

実質的な陸軍の指揮権も持っている俺は、陸軍の方で必要な書類は全て許可を出したし、海軍の方で必要な俺の許可である判は押してあるので、後はそれぞれの必要な部署の長の判だけとなる。

 

うーむ、こう考えると俺にだけ矢鱈と権力と言うか、そう言うのが集中しすぎている気がする。

どうにかしたいが、任せられる人間がいないからどうしようもないと言うのが実情なのだ。

艦娘と艦体、妖精を指揮下に置けなければならないと言う前提条件がある以上仕方が無いのかもしれないが、仕方が無いで片付けていい問題じゃないだろう。

 

まぁ、今すぐに解決出来ない問題に頭を悩ませてもしょうがない。

 

 

 

 

そう言えば、陸海軍の飛行機乗り達などは空を飛んでいる時に食事などはどうしているのか、と言う疑問を一度ぐらいは持ったことがあるだろう。

実際、俺もどうしているのか気になってはいた。

 

そこで、どうしているのか聞いてみたところ、結構驚きの答えが返って来た。

 

そもそも、軍隊やそれに類する組織と言うのは総じて肉体労働、それも戦場を命懸けで駆け巡り戦わなければならないと言う、全職業中屈指の過酷さを誇る。

それゆえに栄養価の高い食事が常に求められる。

しかも、軍隊、陸海空全ての兵士達を上から下まで数えるととんでもない大所帯になる。

少なくとも国内単位で考えれば他に肩を並べることが出来ないぐらいの社員を抱えた超大企業、とも言い表せる。

 

我々日本陸海軍で考えれば、各方面に展開している陸軍の42個師団84万人に加えて日本本土で防衛や訓練を行っている師団が38個師団76万人。合わせて160万人。

そこにあれやこれやの職種を加えていくと陸軍だけで220万人を数え、更に海軍全体でも陸戦隊や艦隊勤務、陸上で働いている各部署、工廠などの作業員などを含めて20万人を数える。

 

合わせて180万人。

ただ、多いと感じるかもしれないが俺がこの世界に来る前のハワイ諸島奪還作戦前時点が全盛期だったのだが、その時は2~3倍ほどの人数が軍務に就いていた。

人類が深海棲艦を押し返し、ハワイ諸島奪還作戦失敗の後から各地の部隊は軒並み消滅していったのだからこの数にまで減ってしまった。

 

ともかく、これだけの数を食わせなければならないのだから国内の食糧事情が良くなるはずも到底有り得ない。

それでも軍への食料供給を圧倒的に優先しているのは前線が崩壊すれば、食料事情の改善、などと言える状況では無くなるからだ。

 

と、言う訳で軍隊と言うのは今でも優先してありとあらゆる物資が送り込まれている訳だ。

 

 

軍隊に必要な食事と言うのは、特に前線に進出した部隊があればあるほど栄養価が高く、量があり、そして指揮を保つ為に旨いものでなければならない。

更に付け加えて輸送に手間が掛からず保存が利くものでなければならない。

 

これを満たせる食事、と言うのはかなり難しい。

ただ、戦闘ともなるとそんな食事を作っている暇もないので、その時はまた別の物を食べるのだ。

 

例えば、(ほしいい)と言うものがある。

これは、聞いたことがある人もいるかもしれないが具体的にはどんなものなのか知らない人も多いだろう。

簡単に言えば、蒸した米をカラッカラに乾燥させたものだ。

そのまま齧る事も出来るが、お湯に入れて戻せば湯漬けの飯として食べる事も出来る。

 

大昔の、戦国時代の物であるがこれが意外と馬鹿に出来ないぐらいの保存食なのだ。

 

しかも米と言うのは小麦に対して高カロリー、エネルギー源として優れている。

基本的に今の日本で小麦を使った食事、と言うのはうどんぐらいしかない。理由としては先程の説明通り米の方がエネルギー源として優れている事。そして小麦よりも米の方が日本は生産されているし、調達するのも容易、余程料理をしたことが無い奴ぐらいでなければ米を炊けない、なんてことは無いからだ。

軍ではそもそも飯盒炊爨(はんごうすいさん)が必修科目なのだから、下手糞な奴は居たとしても出来ない奴と言うのは居ない。

これが出来ないと言う事は前線で飯が食えないという事に他ならないからだ。

米は洗って適切な量の水を入れて、あとは火にかけるだけ、と言うざっくり行ってしまえばこの程度の作業工程しかない。

ただ前線では真水は貴重だから洗わないとか、洗っても1度だけと言うのが普通だ。

実際は飯盒炊爨と言うのは意外と難しいのだが、その辺の話は割愛しよう。

 

それに比べて小麦、と言うのはまず砕いて粉末状にしなければならないし、それに水などを加えて捏ねて形を整えてうどんならば切って茹でるで済むがパンともなるとそうはいかない。

前線では常に、敵に脅かされている状況なのにそんな悠長な事をしていられるか、と言う訳である。

軍隊における、特に前線の部隊にとっての食事と言うのは、

 

 

栄養価が高い事。

量の確保が容易である事。

輸送に手間を掛けなくてもよい事。

 

 

の3つの条件に付け加えて、野営で無い場合は以下の条件が加わる。

 

 

美味しい食事である事。

調理に時間を掛けずともよい事。

長期保存が可能である事。

 

 

など大まかな感じで言えばこの2つも併せて考えなければならない。

パン、と言うのはこれの調理に時間を掛けずともよい、と言うのに思いっ切り引っ掛かる。

 

長期保存、と言う面から見れば炊いてしまった米もパンも腐り易い事には変わりないが小麦は米よりも保存が難しい。

正直言って、米は常温でも炊く前であれば割と保存が出来るのだ。

だが小麦はどういう訳か常温で保存しようとすると(カビ)が生えたりしてしまう。

そうなると冷蔵庫に入れなければならないのだが、スペースを取るから余り好まれない。

本土であれば問題無いのだが前線の限られた冷蔵庫だと大問題になる。

前線に送られても直ぐに、その日の内か次の日ぐらいまでに使われてしまうのが実際だ。

他にも肉や野菜など絶対に保存しておかなければならないものが多く、主食は二つも要らん、と言う訳である。

 

 

 

 

 

他には、インスタント味噌汁に当たる、粉味噌と言うものもある。あとは乾燥醤油などだ。この二つは簡単に言えば、乾燥させて粉状にしたものだ。

味噌汁にする事も出来るし糒を湯で戻し、振り掛けて食う事も出来る。

乾燥醤油は水を少し加えて戻して使ったりも出来る。

この二つはタンパク質と塩分の補給が出来る。

 

ただ、この2つの食品はあくまでも野営や戦闘中に食べるものであって常日頃から食べている訳では無い。

糒と粉味噌、乾燥醤油などは保存性と輸送に掛かる労力、そして運べる量を求める為に味に関してはあまり美味しくないと言うのが実際の所だ。

俺も食べたことが何度かあるが、お世辞にも美味しいとは言えない。ただ、これでも戦闘中、それこそ長期の戦闘になればごちそうだ。食えるんだったら何でも食わなければ戦闘なんてやってられないからな。

 

 

 

と、軍隊と言っても常日頃から前線で野営をしている訳では無い。

後方や、前線と言っても陸上戦が行われていない場所であれば炊いた米におかずと汁で一食を摂っている。

メニューとしては、主食であるご飯のほかに、

 

魚のフライ。

ただし、現地で釣り上げるか補給があった近日に出る事が殆ど。

 

 

肉うどん。

肉は現地調達が出来ないので、もっぱら補給で送られてきたものが無くなれば次の補給が来るまで出ない。

 

味噌汁。

冷蔵庫が機能している間は誰もが思い浮かべる味噌を使っての味噌汁が出る。

ただし、南方方面など高温多湿な地域だと、冷蔵庫が故障などして使えなくなると、すぐに腐るのでその際には大量の味噌を毎日毎食、食べる事になる。

 

たくあん。

まぁ、これと言って説明する事は無い。

強いて言えば味噌と同じで冷蔵庫が使えなくなるとたくあんフルコースになる。

一番最悪なのは味噌と沢庵が同時にフルコースになる事らしい。

それでも食材と組み合わせているからマシだが。

 

 

 

 

これ以外にも様々なメニューが出るので、砂糖などがあれば味は薄いものの月に1、2度程度は甘味が提供される事もあるから想像しているよりもずっとメニューは豊富だ。

 

だが、野営を行うとなるとそうもいかない。

野営中に食事を用意するには、米を飯盒炊爨で炊くのだがやはり「米を炊く」と言う作業は手間がかかる。

しかも何度も言う通り、炊いた米と言うのは一気に保存性が悪くなって暑い地方、南西諸島や南方方面だと炊いた米は1日も持たずに腐るし、冬の北海道など寒い地方では凍ってしまって食えない。

 

だから後方で一気に炊いて前線に運ぶと言う手段が使えないのだ。

 

だが、これらの問題を解決する方法が2通りある。

 

一つは飯盒炊爨で米を現地で分隊ごとに食べる直前に炊く方法。

二つ目は飯以外の保存の利く糧食を携帯しておくことだ。

 

 

前者については、確かにこれもあるのだが米を自力で運ばねばならず重量のある装備もあるのだから兵士達からするとあまり嬉しい事では無い。

しかも火をおこしたりしなければならず、そうなると煙などで敵に位置を悟られる可能性も大きい。

 

などと理由が幾つかあるが前線ではあまり飯盒炊爨というのは思いの外行われていないのだ。

 

では2つ目はどうなのか、と言うとだ。

 

先程説明した、粉味噌や乾燥醤油なども、保存が利いてあまり嵩張らない糧食を持ち運ぶのだ。

戦闘中であると糧食で食事を済ませるのが殆どだ。

 

具体的な物で言うと、乾パンだ。

乾パンと言うのは、ビスケットを元に開発されたもので、言ってしまえば日本版の軍用ビスケット、と言う訳である。

味が薄く、飽きにくい反面、味気なくて食べにくいと言う点も存在するが金平糖を付属させて味に変化を付ける工夫もされている。

他にも、圧縮口糧と呼ばれるポン菓子に似たシリアルや、各種缶詰、マリモ羊羹と同じようにゴムで封入されたゴム玉羊羹もあるし先程から出てきている粉味噌、乾燥醤油など意外と種類がある。

あとは、飲み物としてインスタント甘酒もあるから意外と種類がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは漸く、飛行機の搭乗員達の食事について話そう。

そもそもの前提として、陸軍や海軍陸戦隊の歩兵などの陸で戦う彼らなどと違って進出した先で野営をするという事は殆ど無い。

出撃しても、空母や飛行場に戻ってくるのだから当然と言えば当然だ。

基本的に飛行場や空母で出される食事を食べるだけである。

現地で野営をするとなったらそれは、撃墜されたときぐらいな物だろう。

 

戦闘時に配給されるメニューは握り飯とおかずの組み合わせが殆どで、艦隊直掩任務に就いて敵機と戦う迎撃機であればこれが適用される。

勿論だが俺もこのメニューを食べる。

 

もっぱら握り飯にたくあんと味噌汁の組み合わせが殆どなのであまりレパートリーがあるわけでは無いが、戦闘中の飯、と言えばこれである。

 

だが迎撃などでは無く、敵艦隊への攻撃に向かう搭乗員や、陸上の敵飛行場攻撃を行うために出撃した陸軍飛行戦隊の搭乗員達はどうしているのか。

 

飛行時間が長時間に渡る場合には機内で食べる事の出来る弁当が支給される。

メニューは巻き寿司や稲荷寿司、サンドイッチなどだ。

 

これらの共通点は、操縦桿を握りながらも片手で食べられるもの、という事だ。

サンドイッチも皆が思い浮かべる様な三角形などでは無く、巻き寿司の様にパンで具を巻いた状態になっていて乾燥を防ぐ為にパラフィン紙の包装紙に包んで支給される。

パラフィン、と言うのは何と言えば良いのか、簡単に言ってしまえば石蝋の事だ。

 

それをグラシン紙と言う、紙風船に使われる紙に塗布、浸透させたものがパラフィン紙だ。

見た目は透けて見えるほど薄く、そして茶色のような感じで多分見た事は一度ぐらいならばある筈だ。

弄ってみた感触などは、トレーシングペーパーなどに似ているかもしれない。

 

因みにだがパラフィン紙を作るのにはグラシン紙だけでは無く模造紙やクラフト紙なども使われるのでどちらかと言うと総称、と言った方が正しいかもしれない。

 

 

 

巻き寿司は通常の切り分けたものを弁当に詰めたほか、細巻きを切らずにそのまま携行して喫食時にはそのままかぶりつくのだ。

稲荷寿司はシャリのみだけでなく、多少の具材を入れた五目御飯の様なものもある。

 

あとは寒い上空でも暖かい飲み物を飲めるように魔法瓶などを携行している。

 

南方では、サイダーが人気の様で瓶をそのまま積んでラッパ飲みしているらしい。

ただ、味は元いた世界のサイダーよりもずっと薄いが。

 

 

 

これらを考えるに、飛行機の搭乗員と言うのは他兵科と比べると随分と優遇されているように見えるが、それだけ存在が重要であり、任務が過酷という事だ。

なにしろ肉体労働と頭脳労働を同時に行わなければならず、加えていつ死んでもおかしくはない。

陸上であれば、まだ即死でも無い限り現代医学によって治療は可能だ。

だが航空機に乗っているとなると、病院からは遥か数百km先を飛んでいるし被弾したときに無事である保証なんてどこにも無い。

 

職務もどの兵科よりも最前線を飛ばねばならないし戦闘機隊は制空権が取れなければ艦隊全滅、陸上部隊は皆殺しになってもおかしくはないからだ。

流星は敵艦を沈めると言う、対空機銃をぶっ放してくる奴らに突っ込まねばならない。

 

それらの過酷さを考えればこの待遇は当然と言える。

 

不時着したときはどうするのか、と言うとそれもちゃんと対策されている。

機内にアルミで作られた非常食を詰め合わせた「不時着用非常食箱」なる携帯食料があり、その隣に最低限必要となるであろうサバイバルキットも載せられている。

不時着用非常食箱の中身は基本的に数食分の缶詰が入れられている。他にも飲料水が幾らか。

 

サバイバルキットには、

 

ナイフ

釣り糸と短めの折り畳み釣り竿

コンパス

飲料水を確保する為の簡易な脱塩装置

発煙筒(昼間に使う煙が出るものと夜間に使う光を発するもの)

マッチ1箱(防水袋に入れられている)

 

 

などが入っている。

南方方面では不時着した場所ば海である可能性も高いが救命ボートを積載するほどの余裕は無いので省かれている。

ただし、島が群島状になっているか、スラウェシ島の様に広大な島である事が殆どなので特段問題は無い。

海軍では着衣状態での遠泳が必修科目なので、搭乗員でもそれは変わらず、搭乗員用の服装でひたすら泳がされるのだ。

正直言って地獄であるが、命が懸っているとなれば誰だってやるだろう。

 

まぁ、敵奥地にでも不時着すればこれらを使うが、基本的に作戦などを行う場合には潜水艦隊を墜落した搭乗員達の収容の為に近海に配備しているので早々起こりえないことだ。

太平洋のど真ん中で撃墜されたら最寄りの島まで1000kmなどあるのだ、泳げと言う方が無理である。

 

 

 

まぁ食糧事情に関してはこんなものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本軍と言えば、『飢餓と餓死』と言うイメージが付いてくるが糧食などん研究はよく行っていた。

問題なのは、そのせっかくの糧食を兵士達の元に届けるための『兵站』に極めて欠陥があったことだ。

海上輸送路はアメリカ軍に容易に断たれてしまったし、中国大陸はそもそも広大過ぎて現地まで運べなくなった。

 

日中戦争、太平洋戦争は日本と言う国の国力を大きく逸脱した戦争であったために物資の準備、輸送が物理的に不可能になったことも大きく関係しているだろう。

 

 

 

 

兵站と言っても食料弾薬だけでなく、現地の気候に合わせた服装や医薬品(例えば南方方面で言えばマラリアやアメーバ赤痢などに対する医薬品)、雑多な生活用品、スコップからツルハシ、ブルドーザーなど建設機械、燃料、それらを輸送するためのトラックや輸送船が必要だ。

更に言えばそのトラックや輸送船を動かすための燃料と人員もいるのだ。

物資を入れる箱も必要だ。

 

それを考えると、数万人規模の戦闘や生活に必要な物資を送り出すとなると相当な大仕事だ。

 

 

品目の書かれた書類と睨めっこをしながら適切な場所に適切なタイミングで適切な物資を送り込まねばならない。

これに失敗すると、欲しい物資は弾薬なのに食料が届いた、と言う事態ならばまだ良い。

最悪なのは前線では物資が欠乏しているのに港には物資が山積みと言う悪夢になる事だ。

 

これらを行うには高度で専門的な知識と専門の将校が指揮を執らねばならない。

大元の指揮は俺が執っているが、基本は補給将校に任せている。俺が口出しをしても碌な事にならないからだ。

我々も補給将校と言う専門将校が補給に関して担当しているぐらいなのだから素人が手を出せばどうなるかは目に見えて明らかだろう。

 

旧日本軍でも少なくともエリート将校は兵站の重要性をしっかりと理解していたし補給を行うための手立てや、輸送航路を維持するための努力をしていた。

ただ、理解を示さない人間の殆どが兵站の重要性を理解している人間よりも階級が高かった、からこそ意見を聞き入れられるという事は早々無かったし、上級将校に理解を示している人間がいたとてそれら兵站の重要性を説いたところで多数決で必要が無いと言われてしまえばどうしようもなかったのが実情だ。

これはやはりどの軍隊でも言えることだから一概に日本軍が酷いとは言えないが、それでも兵站に関する欠陥の大きさは他国軍と比べると致命的だろう。

 

これらの兵站を無視して行われた作戦の代表的なものはインパール作戦だろう。

現実的な輸送力の無さを精神力と言う言葉で誤魔化して強行、破滅していくこともあった。

 

兵站を断たれた南方の部隊の多くは餓死者が出る程の飢餓状態に置かれ弾薬も無く、当たり前と言えば当たり前だが戦闘どころの話では無い。

餓島、なんて当て字をされるぐらい酷い状況だったのだから、少なくとも俺の様に艦隊を指揮して前線の陸戦に参加しない俺には到底分かりえない辛さである。

余談ではあるがアメリカ軍はそんな日本兵の上に豪華な寿司の画像が印刷されたチラシをばら撒いて降伏勧告をしたそうだ。

 

 

今の我々陸海軍は、それらを省みて教訓として生かすことが出来る。

陸海軍は兵站の重要性を理解しているが故に満足とは行かないが護衛も就けている。

深海棲艦による通商破壊がよほど苛烈にならない限りは「現状の維持」だけならば可能だ。

 

ただ、やはり輸送船団に就けられる護衛艦隊の数は少ないだろう。

深海棲艦の奴らが本腰を入れて通商破壊作戦を実行してきたら、とてもではないが現在の輸送量を保つことは出来ないだろう。

その前に、どうにかして輸送航路の安全を確保しておかないといけないのだが、それは後々の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と相も変わらず隼鷹艦橋の椅子に腰掛け、指揮を執る隼鷹の横顔やら駆けていく乗組員達を眺めながら南西諸島近海に到着した。

徳之島から伊平屋島、伊是名島の視察はこれと言って問題は無かった。

 

南方方面や硫黄島と違い本土から近く、物資輸送も余り手間が掛からない事も要因だろう。

地下陣地は既に予定されていた分は建設が完了し、今は強度などの面から見て許される限りの拡張などを行っている状況だ。

 

そして、沖縄本島の視察が本日から開始される。

よし、気合を入れなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






パラフィン

和名では、「石蝋」と呼ばれる。
石蝋という名前ではあるが、実際は石油に含まれており分留によって得る事が出来る。





試験的にルビを振ってみました。













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