暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第47話

 

千歳飛行場から敵艦隊偵察任務の為に出撃した一式陸攻から、新たな情報が入った。

 

『我偵察3号機。新知島東方約50海里ニテ新タナ敵艦隊ヲ発見ス。規模ハ戦艦7、大型空母5、軽空母5、巡洋艦11、他随伴艦大凡60隻。及び輸送船ヲ100隻以上ヲ伴ウ。1423』

 

と緊急電が送られてきた。

その数十秒後には、

 

『我敵迎撃機ノ迎撃ヲ受ク。コレ以上ノ偵察ハ困難也ーーーーーーーー』

 

との電文が発せられたが電文が途中で途切れているので恐らく撃墜されたものだと思われる。

ただ、これが本当だとすれば間違い無く敵空母は20隻にも膨らむと言うことだ。

北海道近海にいるであろう第一群の敵空母と艦載機数を合計したら1800機に達するものと思われる。

 

しかも敵艦載機だけで無く、更には千島列島や北海道に進出した敵の戦闘機や重爆を考えるとどう見積もっても2000機は下らない数になるのだ。

それを、北海道西部に退避させた北海道全航空隊と我々第一機動艦隊の機数を合わせてもその差は500〜600機以上。

しかも敵機は陸上に配備されるのは恐らく戦闘機の割合が大きいだろうから、どう考えたって現状では勝ち目は無い。

 

「……やられたな」

 

「ですが今ならばまだ機会はあるのでは?」

 

「いいや、無理だ。よしんばどちらかの敵艦隊かを撃破したとしても、戦闘で疲弊し消耗していては手も足も出まい。それに、我々は敵艦隊だけでなく敵の陸上機すらも相手取らねばならなくなったのだ。連中の建築能力は我々よりも圧倒的だからとっくに飛行場も戦闘機程度の運用ならば可能だろう」

 

「ですがそれでは……」

 

「分かっている、分かっているとも。このままでは、北海道陥落は時間の問題だとな」

 

「ではどうなさるおつもりですか?今のままでは、国民どころか将兵達にすら満足な食糧供給が行えませんぞ」

 

「北海道の食糧生産量を考えればその通りだろうな。だがやられているばかりは性に合わん」

 

「それでは……」

 

「作戦計画を練るぞ。艦隊司令部上級将校はすぐに飛龍会議室に集合。それと航海科にはアリューシャン列島とアラスカまでの地図を持ってくるよう伝えろ」

 

「はっ、了解しました」

 

確かに現状では敵艦隊を叩くのは、確かに正攻法どうやったって無理だろう。

ならば正攻法を使わなければいい、正面から戦わなければいいのだ。

 

 

 

 

 

「諸君、急だが集まってくれた事感謝する。早速だが、既に新たな敵艦隊が発見された事は聞き及んでいるだろう」

 

「勿論です。ですが、どうなさるのですか?恐れながら申し上げますが、正面からではどう考えても戦力差故に敗北は必須かと思われますが……」

 

「そんなもの、単純な計算が出来る子供だって分かっているに決まっている」

 

「では、敵の各個撃破か後方の破壊活動、と言う事でしょうか?」

 

「正解だ。敵艦隊の根拠地と思われるのは恐らく棲巣のアンカレッジと思われる。だがアンカレッジだと後方拠点として扱うには余りにも距離が遠い。そうなるともう一箇所、可能性がある場所がある」

 

「アリューシャン列島に確認されている、棲巣、ですか」

 

「その通り。恐らく、アンカレッジが後方の本拠点であることに間違いはないだろう。だがそこから態々物資を運んでくるには北海道は遠すぎる。だから一度物資を集積するか、輸送船団の護衛を交代する筈だ」

 

「ならば、狙い目はそこであるということですか」

 

「あぁ。だが敵艦隊を相手取る必要は無い」

 

「それは、どう言う事でしょうか?」

 

「今回の侵攻時期を考えてみてほしい」

 

「夏、ですがそれがどうかしたのですか?」

 

「考えてみろ、北太平洋は確かに夏ならば比較的穏やかだが冬になれば荒れに荒れる。ベーリング海は夏でも大型艦艇ですら転覆の危険性があるのだぞ?そんな海域を通ってくるのだ。だが冬と夏、どちらの方が航行に適していると思う?」

 

「当然夏ですな。物資を満載した輸送船が荒海をとてもではありませんが航行出来るとは思えません」

 

「だろう?そうなると、深海棲艦の奴らは今夏中に北海道を落とすつもりでいると言うことだ。それだけならば通常の輸送計画でも十分事足りる。だが作戦を考える上で長期化した場合の事も考えている筈だ。真冬での北海道への補給は困難を極める。とすると物資の備蓄を行う筈だ。そして、その物資が備蓄されているであろうと予想されるのが、アリューシャン列島の島のどれか、と言うことになる」

 

アンカレッジから北海道までは札幌で考えても4829kmもある。

今回の上陸地点で考えたとしても、大凡4600km程はあるのだ。

それほどの長大な距離を毎回毎回輸送船団と共に護衛艦隊が航行するわけが無い。

あまりにも効率が悪すぎる。

 

だとすれば、どこかアンカレッジよりも北海道に近い場所に前線拠点と物資集積所を置いて作戦に挑んだ方が兵站に与える負担も少なく出来る。

何より、北海道の攻略に手間取った場合、早ければ10月頃には初雪が観測される北海道はそれから5ヶ月以上は道全域が雪に閉ざされる事になる。

 

そんな場所に越冬装備も何も無い状態で過ごすには、余りにも無茶苦茶だ。

だとするならば、その越冬装備や冬の間戦い、食っていくためだけの物資をも備蓄している筈。

それを燃やしてしまえば、敵は補給に苦しむ事になり冬を越せる兵の数は極端に少なくなるだろう。

 

夏と同じ装備で生き残れると思ったらそれは北海道と言う地を舐めすぎだ。

シベリアやロシアの土地の方が生き抜くのに厳しい環境であると思われているが、確かにその通りだがそれを言えばそもそも、一年中とは言わずとも半年に及んで雪が降り積もる場所で生き残るのは、どこであろうと生き抜くのは厳しい。

 

現代においては、生活環境が整い暖房などが使用出来るからこそ冬を余裕で越せるのであって、現状の日本においては暖房こそ冬の間だけは民間に燃料が回されているからまだマシだが、食料に関しては相当厳しい。

冬という季節は実りが少ない。

 

春や夏の間に食料を備蓄していたとしてもそれは備蓄しているだけの分しか無くそれが尽きてしまえばどうにかして食料を調達しなければならない。

だが前述の通り冬に得られる食料というのは少なく、麦を育てはするがすぐに収穫出来るわけもなく殆どの農作物は軍に徴発されてしまい腹を満足に満たせるだけの量はほぼほぼ存在せず、魚介類や野生動物の鹿などに頼るしかない。

だが魚介類と言ってもそう毎日豊漁である訳でも無く、不漁である時の方が多いかもしれない。

 

そんな、現代日本においても生き残るのが厳しい環境で、しかも野外で寝泊まりし食事をとり、更には戦闘をしつつ生き残らなければならない事を考えても物資を焼かれては深海棲艦の陸上部隊に生き残る術はそう残されてはいない。

 

「棲巣ではないのでしょうか?」

 

「確かに可能性としては大いに有り得るだろうが、そんな誰だって予想が付けられる場所に備蓄するだろうか?確かに防衛力の観点から見れば一番なのだろうが襲われた時点で少なからず物資に被害は出る。ならばそれ以外の場所に隠したりするのではないか、と考えたのだ」

 

先程の説明から考えるに、北方方面の深海棲艦だって冬になれば北海道以上の極寒の地で生活していたのだからそれぐらい分かっている筈。

となれば簡単に予想が付く場所に物資を集積しているはずが無い。

俺だって、本拠地を囮にして別の場所に隠しておく。

 

「では、我々はその集積された物資を焼き払う、と言うことですな?」

 

「そうだ。だがその集積所として使われている島がどこなのか、と言う肝心な事が分かっていない。そこで先ず潜水艦隊による偵察を入念に行ってから、敵集積所を叩こうと思うのだが」

 

「……現状、それしか手段は無さそうです。提督が仰った通り敵艦隊との戦力差は明らかに劣勢です。ここで戦ってもなんら戦果を得られる事も無いでしょうし、既に敵に橋頭堡を築かれた後となっては敵艦隊を撃破したとしても既に上陸が確認されている15万を超える敵軍を殲滅するには相当時間が掛かるでしょう。それに、それほどの大軍を食わせ戦わせるのには兵站に相当の負担が掛かっている筈。一箇所でも突き崩してしまえば此方に有利が傾くかと」

 

参謀長がそう発言したのを皮切りに、活発に議論が交わされ始めた。

 

 

 

 

 

結果的に、予想が立てられたのはアンドリアノフ諸島の何処かだった。

 

理由としては、

 

・大量の物資を集積しておくに十分な面積を有している島が幾つかある事。

・北海道とアンカレッジの大凡中間地点に位置している事。

 

・更にはアダック島には2400mの滑走路が2本ある飛行場が存在している。

ここを活用すれば、運用する機体にもよるがB-29であれば物資満載状態であっても往復が可能だしB-17でも片道ではあるが空中投下による補給なども可能である事。

・万が一敵の攻撃に晒されても飛行場からの戦闘機や爆撃機による反撃や防衛が少なからず可能である事。

 

などが挙げられる。

ただしこのアンドリアノフ諸島周辺は一年の約半分の日数において霧に覆われることが多いということだ。

しかも風が強く荒れる事も多い。

 

だが、ここを補給拠点として運用出来るならば兵站に掛かる負担は相当軽減されるだろう。

 

と大凡の目標を決定したところで、先ず俺は第一潜水艦隊伊400以下にアンドリアノフ諸島を含めたアリューシャン列島の偵察を命じた。

アリューシャン列島全域を偵察する理由としては確かにアンドレアノフ諸島と定めたは良いがそれ以外の場所であるとも限らないからだ。

それならば他の潜水艦隊も、と思うかもしれないが多方面において同時多発的に侵攻が起こらないとも限らない。

それを警戒するために潜水艦隊がどうしても必要不可欠なのだ。

 

航空機よりも隠密性が高く航続距離があり活動限界も長い。

そうなれば確かに索敵範囲は航空機よりも小さいだろうが航空機よりも索敵に割くことの出来る時間が多く、結果的に航空機が偵察できない場所の偵察が可能ということだ。

 

 

 

 

そして、一式陸攻や二式大艇を使っていたのにどうして敵艦隊発見が遅れたのか、という理由を説明しよう。

この敵艦隊発見の報告が上がる丁度5日ほど前から千島列島の南端辺りから北海道の全域に掛けて天候が崩れていて哨戒のために航空機を飛ばすことが出来なかった。

 

その隙を突いて敵艦隊は接近してきたということだ。

 

幾ら訓練しようとも悪天候の中では航空機は飛ばせない。

現代のジェット戦闘機ならば全天候型と呼ばれるありとあらゆる天候に対応し飛行が可能な戦闘機もいるが、それとは違うしなにより全天候型と言っても、極端な話をしてしまえば台風やハリケーンの時には飛ばせないだろう、とそういう事だ。

 

確かに飛ばせば敵艦隊を発見出来たかもしれない。

だが視界が不明瞭であるならばそもそも発見は出来ないだろうし、何よりも事故によって搭乗員が失われる可能性が高い。それを考えると、哨戒機を飛ばさなかったと言うのは当たり前の措置なのだ。

 

戦時中であるが故にそんな事言ってないで行かせればいいと言う奴が居るならば、俺はそいつが共に行くと言うのならば喜んで出そう。

だがそうでは無いのならば絶対に行かせはしない。

何よりも戦時中だからといって無駄に損耗を重ねれば先に人的資源が底を付く。

 

そうなっては戦争もクソも無くなってしまうのだ。

人命を優先すると言うことは、長期的に見て大きく戦況などに影響を与えうる事なのだ。

それを軽んじて戦争をするなんぞ、そんな発言をするなんぞ部下の命を預かり戦わせ死ねと命令する指揮官の立場に値しない。確かに犠牲が必要である時もあるだろう。

 

だがそれを限りなく低くしてこそ、指揮官たるのだ。

それを考えれば、俺は間違い無く指揮官足り得ない人間だろう。何せ敵の侵攻を丸っ切り予想していなかった挙句、その責任のために脅かされる民間人と友軍を撤退させ防衛の準備を固める為に2万人もの将兵の命を捨て駒にしたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから五日後、艦隊は101型輸送艦や輸送船に乗せた増援第一陣を苫小牧港に送り届けた。

増援第一陣が無事揚陸完了するまで近海を遊弋。

 

その間に敵からの攻撃は一度も無く無事作業は完了。

その三日後に第一陣増援部隊の全てが前線に配備完了、との報告を俺は受け取った。

 

 

 

 

 




今回は区切り良くしたかった為に短めです。



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