暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第3話

原田さんと山岸さんと初めて会ってから3か月が過ぎた。

その間に俺は何をやっていたかというと、提督になる為に必要な知識を学んでいた。

と言ってもかなり付け焼刃だ。本来なら部隊の指揮をするような、いわゆる大佐とかそういう階級の育成には最低でも数年単位、その階級まで上がるのに人にもよるが更に十数年は必要だ。

 

にもかかわらず今の俺の階級は少将。

本当に名ばかりの階級になってしまったがしょうがない、全力を尽くそう。

状況が状況な為に、学んだことは戦術などと言ったかなり限られた物に限定して本当に必要な物だけを教え込まれた。

 

 

最初、俺は原田さん達と別れて2日後に提督になる事を決意した。

と言うのも、元居た世界に、家族の元に帰れる保証が一切無いこと。

それを考えれば、海軍に入り提督としてやっていければ最低限どころか国がその身分を保証してくれると言う事に他ならない。

身寄りも無く、戸籍も何も無い俺からすれば飛び付いてでも確実に得るべき物だ。

 

そして何より決定的に提督となると決意した理由は、目の前で深海棲艦の空襲を受けて燃える工場や家を見て、原田さん達妖精が戦闘機を駆って必死に戦っているその姿を見たからだろう。

その時、もし俺に出来る事が、役に立てる事があるのならば手を貸したいと強く願った。

 

確かに俺には提督となる他に道は無かったのだろう。それしか選べなかったのかもしれない。

だが、それでも俺は構わない。

 

何故なら、今この戦争を戦い抜いて勝たなければ世界にも日本にも未来は無いし、必然的に俺にも未来は無いのだから。

人間、こんな状況になると意外と肝が据わるものでそれからは早かった。

 

原田さんに連絡を入れて、提督となる旨を伝えた。

次の日には海軍のお偉いさんが来て本当に提督となれるのかを確かめて事実だと分かると、びっくりするぐらいの警護の元、案内されたのは海軍のある施設。

 

栃木県の山中に構築された海軍の司令部だが、ここは航空機の生産なども担当しているらしくかなり大規模な施設だった。

 

しかしそこにいるのは右を見ても左を見ても妖精ばかりで、人間は海軍上層部の5人だけ。

俺の実質上官はこの5人だけだ。

と言うのも人間で未だに海軍に勤務しているのはこの5人だけになる。

それ以外の軍人達は民需工場や食糧生産の為に日々働いている。

 

階級は上から軍令部総長、及び連合艦隊司令長官を兼任である市木(いちき) 重尚(しげなお)大将。

次に海軍艦政本部長、西村(にしむら) 直義(なおよし)中将。

次に海軍航空本部長、黒川(くろかわ) 村治(むらじ)中将。

次に作戦本部長、中代(なかしろ) 美咲(みさき)中将。

次に所謂、補給、諜報や測量などを一纏めに受け持っている、広野(ひろの) 拓司(たくじ)中将。

 

 

上3人は既に70歳を超える、一番の高齢な西村中将は82歳になるお爺ちゃん、と言った感じだ。

 

しかし最後の2人、中代中将と広野中将は別物だ。

未だに2人とも未だに26歳と37歳と言う若さながら中将の階級まで登り詰めた、完全な実力者だ。

聞いた話では中代中将は太平洋戦線を提督でないながら指示を出し必死に保とうとして、艦娘が現れてからの人類側の反抗作戦や、追い込まれ始めた時期から今に至るまでその全てを取り仕切っている。

 

広野中将は37歳だが、こんな差し迫った補給状況ながらなんとかやりくりする為に四苦八苦している。

俺の指揮下に潜水艦隊が入るまでは、潜水艦隊を指揮下に持ち、輸送作戦で運ぶ物資の選定、出航時期を諜報部をフルで使いなんとかして来た人だ。

 

 

まぁ、5人とも普通では考えられない程に疲れ、市木大将ですら二徹は当たり前、広野、中代両中将は初めて会った日に余りにも隈が凄まじく聞いてみると既に四徹目に入り、少しばかり仮眠を取ろうと言う時に俺の話が舞い込んできて六徹になったと言った。

本当に申し訳ない。

 

市木大将を始めとした高齢組は平時であれば好々爺然とした感じだが今では纏う雰囲気は張り詰め、それでも俺に対する気遣いからか会う時ばかりは優しく笑う。

しかし疲労が凄まじいのか、立ち上がるとフラフラとして今にも死んでしまいそうな感じだが、新海棲艦に勝つまでは死ねぬ、と言う気概だけで生きていると感じた。

 

 

広野中将は、見た目はこれまでの苦労のせいか髪は無く、顔にもかなりの疲労の色が見て取れた。

 

中代中将は見た感じ疲労と相まってかなりキツそうなキャリアウーマンと言った感じだが、話して関わってみると何処か世話焼きの年上の近所のお姉さんと言った感じだ。

 

俺は彼女を筆頭に諸々を教え、叩き込まれた。

鬼教官と言った言葉がピッタリだったが幸いなのは運動関連の訓練は最低限、勉学にのみに絞って教えられていた事だろうか。

でなければ今頃、俺は干物になっていたかもしれない。

 

指揮下に入る部隊に関しても色々と便宜を図って出来るだけ精鋭を集めてくれたし、更に驚いたのは陸軍の1個飛行戦隊が追加で指揮下に入る事だろう。

 

後々に説明をするが、そう言う訳で5人の指導の下、3ヶ月間色々と知識を叩き込まれ俺は提督となった。

 

 

 

 

 

色々と教えられている、その間に本来ならあり得ないのだが潜水艦隊の指揮を執っていた。

と言っても広野中将の負担軽減の為と言う意味合いが強く命令は広野中将がしていた事と大差は無い。

それと資源輸送任務のみで指揮に慣れるというのが目的だった。

それでも潜水艦娘達は俺の指揮下に入った為に輸送できる資源量が大幅に増加した。動かせる潜水艦娘達をローテーションを組んでフルで資源輸送任務に従事させて出来る限り多くの資源を輸送することに成功した。

 

指揮下に入った潜水艦娘とその妖精は、

潜水艦娘が伊400、伊401、伊402、伊404、伊405、伊168、伊8、伊19、伊26、伊58、伊13、伊14の計12隻。

この12隻は全て海軍籍で船体もかなり大きかった。

それ以外にまるゆと呼ばれている陸軍の正式名称三式潜航輸送艇というらしいがその艦娘達も居るにはいたが航続距離の関係上、指揮下に入る事は見送られた。

 

 

彼女達はほぼすべてのスペースに資源を詰め込む為にどの潜水艦も武装は最低限の魚雷以外を全て外し、水上機を格納出来る格納筒には水上機は搭載せず。

もし攻撃されても反撃がままならないという状況の中、必死になって資源を運んできてくれた。

 

まぁ細かい指示なんて元一般人の俺には出せるはずも無く、大した指示は出せなかったのだが。

 

幾つか出した命令だが、毎回行き帰りの航路を変えて、感づかれたとしても待ち伏せされることの無いようにという事と、必ず生きて帰ってくることを厳命していた。最悪輸送中の資源を捨ててでも帰還する事を厳しく言い聞かせた。

 

長い目で見れば、ここで1隻でも失ってしまえば後々に大きく響いてくる。

一度くらい輸送に失敗したとしても全然取り返せるのだ。

 

 

 

さて、その指示を出したのが2か月前。

今日は勉強を終え、生き残った妖精や艦娘、艦体を指揮下に入れる日だ。

 

3か月の期間で教えて貰ったのだが、生き残っている艦娘や艦体もその多くが損傷しており出撃が出来ない。

 

潜水艦隊の資源輸送任務で得られた各種資源で修理を施したりとかなり努力をした。

しかしそれでも圧倒的にその数は少なく今現在健在で修理を必要としない艦艇は

 

正規空母3隻

飛龍、蒼龍、瑞鶴

 

軽空母3隻

隼鷹、飛鷹、鳳翔

 

戦艦3隻

金剛、霧島、長門

 

航空戦艦1隻

日向

 

重巡洋艦8隻

鈴谷、熊野、青葉、古鷹、那智、羽黒、愛宕、摩耶         

 

軽巡洋艦6隻

多摩、天龍、龍田、神通、能代、矢矧、

 

駆逐艦22隻

秋月、照月、涼月、初月、若月、霜月、春月、宵月、満月、花月、陽炎、雪風、浦風、萩風、村雨、時雨、響、朧、初雪、浦波、菊月、望月

 

潜水艦

伊400、伊401、伊402、伊404、伊405、伊168、伊8、伊19、伊26、伊58、伊13、伊14

 

揚陸艦1隻

神州丸

 

輸送船13隻

 

 

合計72隻

 

見た感じ多く感じるだろうが、存在している全ての艦艇と全盛期の海軍の戦力と比べると殆ど残っていない。

しかもこれらの内の殆どが燃料不足で動かすことが出来ない。

特に戦艦、航空戦艦は多量の燃料を消費するため当分の間は浮砲台になってしまう。

正規空母も動かせない。動かせたとしても搭載する航空機が揃っていないのでただの箱にしかならない。それでも格納庫内に燃料や資源を搭載することもできるだろうがもし被弾したら取り返しがつかない。

 

さらに言えば揚陸艦である神州丸は元々陸軍の船だったのだが紆余曲折の末、海軍籍に移され今では揚陸艦とは名ばかりで輸送船となっている。

 

しかも輸送船13隻は通常の人間が動かす船で武装など1つもつけておらず丸腰の状態。全国中から燃料タンクの底まで浚って搔き集めたとしても戦力として動かせるのは艦種にもよるだろうが、全部で半分動かせればいい方か。

 

 

 

 

 

 

入間飛行場から、一式陸上攻撃機に乗り護衛戦闘機に守られながら岩国飛行場に飛ぶ。そこから車で呉軍港に向かいそこで初めて艦娘、そして艦体に乗り込む妖精達と顔合わせだ。

 

一式陸攻は全部で3機。

護衛についているのは原田さん以下第343航空隊の28機の烈風戦闘機だ。

それに加えて陸軍第32飛行戦隊の四式戦闘機疾風が12機だ。

 

これらの陣容については、先ず一式陸攻に関してはダミーを含まれているのだが、入間飛行場に駐屯していた海軍第343航空隊と陸軍第32飛行戦隊が俺と共に岩国飛行場へ配置転換となったのだ。

だから俺の護衛をしながら一緒に乗機と共に移動している。

 

しかしながら第343航空隊はパイロットだけで73名いるのだが今飛んでいる28名の機体以外は補充待ちという状況だ。

これでも工場が必死に生産した28機であり馬鹿には出来ない。

岩国飛行場に到着後、定数73機と予備の15機を含めて88機が343空には配備される予定だ。

 

陸軍に関しても同様で疾風は新型戦闘機という事だ。

これにはいろいろと面倒なことが絡んでくるので説明を省くが、陸軍第32航空隊は俺の指揮下に入ることとなったのだ。もうこれだけで色々と複雑になりそうな指揮系統だがどういうわけか 市木大将を筆頭に多方面に掛け合ってくれたらしく、資源に関して多少融通するということで落ち着いたそうだ。

 

まぁ海軍と陸軍の両方から全く違う命令が下されないという点ではとてもありがたい。

 

32戦隊は2個中隊で一纏めを3つの計72機を数える筈だったのだが未だに12機、全体の6分の1の1個中隊分しか無い。

 

というのも3週間前、疾風の生産工場3つの内が2つが爆撃で吹き飛ばされてしまったのだ。それでも使える部品やらなにやらを搔き集めて残った1つの工場に運び込んで必死に生産しているらしいが受領出来るのは1週間後。

 

本来ならば今日までに30機までなるはずだったのだが……

これはかなり痛手だ。

 

それまでは12機だけだ。これでなんとかやりくりするしかない。

最大で定数72機、予備15機の計87機だ。

 

本来陸軍飛行戦隊は1個中隊12機を3個中隊集めた36機+予備機の編成だが大盤振る舞いで倍近い数になっている。

特例として24機で1個中隊とし、それを3個中隊の編成だが。

 

これら陸海合わせて175機の戦闘機だが今は40機だけ。4分の1以下しかない。

 

艦爆や艦攻は今現在は戦闘機の生産を最優先にしている為配備はされていない。近々新型機の生産が始まり配備される予定だがまずは戦闘機、と言う事らしい。

今現在の攻撃兵力は俺が乗って来た一式陸攻と編隊機の2、3番機だけ。

 

 

 

どちらの航空隊もパイロットは戦闘機を受領後に最低1個小隊が集まった後に岩国飛行場に飛んでくる予定だ。

1週間後は343空が13機、32戦隊が6機受領する予定だ。それから数日飛行訓練をして岩国飛行場へ飛んできてそこで習熟訓練となる予定だ。

それまでは今現在の40機で訓練を行う。

 

343空の発着艦訓練以外は合同となる。

 

パイロット達は各地の航空隊、飛行戦隊から出来るだけ多くのエースクラス、熟練と言った腕利きを集めて構成されている。

中には新米などもいるが彼ら腕利きに扱かれて2ヶ月もすれば1級線の腕を持つ様になるだろう。

 

 

 

因みにだが入間飛行場の343空、32戦隊の後任は既に元々使用していた紫電改二と飛燕を受け取って防空の任務に就いている。

 

母艦航空隊は全く再建が進んでいないので343空が唯一の母艦航空隊だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一式陸攻の窓から外を覗いてみると烈風と疾風がともに編隊を組んで飛んでいて定数には全然足りていないとは言っても中々に壮観な光景だ。

やはり男心を擽られるものがあるな。

 

しかしそれでもパイロット達は周りへの警戒を解かない。

きょろきょろと辺りを見回しながら敵機が襲って来ないか警戒している。

 

 

 

 

 

 

 

岩国飛行場に問題無く到着した。

途中で3番機がエンジン不調で近くの空港に着陸したがそれ以外は問題なかった。

 

一式陸攻に続いて、疾風、烈風の順に降りてくる。

全機が着陸を確認してから飛行場に降り立つと、多くの妖精達が勢揃い。タラップを降りると、

 

「湯野提督にー、敬礼!」

 

飛行場司令の号令で一斉に俺に敬礼をしてきた。

こんな事しなくても良かったのだが、最重要機密扱いの俺だがどうやら話は伝わっているようで。

 

まぁ確かにこのご時世少将なんて階級の人間が艦隊指揮のために着任することはないから噂や嘘なんかではなく本当の事だと通っているらしい。

しかし道中で深海棲艦の襲撃が無かったのは良かった。

 

 

敬礼に対して答礼を返す。

 

「湯野少将、いえ提督とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

 

「いえ、どちらでも構いませんよ」

 

「では湯野提督と。私は岩国飛行場司令の山下大佐であります。以下岩国飛行場はこれより湯野提督の指揮下に入ります」

 

「了解しました。ご存じの通り、湯野 勝則です。態々こんなにも盛大にお迎え頂きありがとうございます」

 

「いえいえ、当然の事です。なにせ我々からすれば長年待ち望んだ希望なのですからこれぐらいは当然の事。呉鎮守府へ向かう車は既に用意されております」

 

「ありがとうございます。しかし呉鎮守府への到着予定までは2時間程あるので、軽くここを見て回りたいのですがよろしいですか?」

 

「えぇ、構いませんよ。案内を付けましょう」

 

「ありがとうございます」

 

基地司令の山下大佐に呼ばれ駆け寄ってくる1人の妖精。

 

「中谷、湯野提督を案内して差し上げろ」

 

「了解しました」

 

「湯野提督、時間は1時間程で構いませんか?」

 

「えぇ、十分ですよ。それでは早速歩きましょうか」

 

「お車を回しますよ?」

 

「いや、今は俺が歩けばそれだけ節約になりますから」

 

「分かりました。中谷、頼んだぞ」

 

「はい」

 

中谷と呼ばれた妖精は、俺を連れて飛行場を案内してくれた。

俺は二種軍装、白い軍装から第三種軍装に着替えてから見回った。

本来なら第三種軍装は海軍陸戦隊の士官用なのだがまぁその辺の細かい声はよく分からない。何故か支給されているのでもしかすると南西諸島奪還の準備の為に陸戦隊か陸軍部隊が指揮下に入るのかもしれない。

 

案内されながら、格納庫やエプロン帯、対空機銃座、対空砲座を見て回る。一緒に飛んで来た疾風と烈風の整備が早々に行われていてそれらを見る事が出来たのは個人的に嬉しかった。

 

1時間飛行場をぐるっと見て周った感想だが、まぁやはりと言うか物資不足が目立つ。どこもそうだがこれから先、岩国飛行場は燃料で困るだろう。同じ飛行場に2つの航空隊が居るのだからしょうがないと言えばそうだが早めになんとかしないと。

 

 

 

山下大佐に挨拶をして案内をしてくれた中谷さんにお礼を言って車に乗って呉鎮守府に向かった。

 

さて、呉鎮守府だがまぁなんと言うか、他よりも被害は軽微だ。

と言っても鎮守府の敷地内には未だに埋められていない爆弾孔が幾つもあるし建物が崩れずに残っている程度。

しかしその建物も倒壊する危険があるのか立ち入り禁止の立て札が立っていて入る事は出来ない。

 

鎮守府の門に来ると門番に挨拶をして通してもらう。

 

「すみません、本日着任予定の湯野 勝則少将です」

 

「お話は伺っております。このまま車でこの地点までお進み下さい」

 

「分かりました」

 

車を言われた場所まで進めると、鎮守府の広い営庭に艦娘と思われる少女達や女性達が整列をして立ち、その後ろに乗組員の中でも幹部クラスと思われる妖精が並んで立っている。

 

ーーこれまた随分と豪華な歓迎だな。

 

車が止まり、運転手がドアを開けてくれる。

そして降りて案内されるまま、壇上の上に立たされると大きなよく通る綺麗な声で号令が響いた。

 

「湯野少将にー!!敬礼!!」

 

1000人は居るだろうか、という人数に一斉に敬礼を向けられ少したじろいでしまったが、答礼を返す。

そして俺が手を下ろすと、

 

「直れ!!」

 

号令が掛かり手が下される。

 

「戦艦長門以下、只今より湯野少将の指揮下に入ります!!」

 

声を上げて号令を出していたのは艦娘の長門だった。

光栄な事だな。

 

「湯野提督、挨拶を」

 

隣に立っている妖精に促され、挨拶をする。

しかし考えていなかったからな、何を話そうか。

 

「初めまして、湯野 勝則少将です。皆さんを指揮下に入れられる事を光栄に思います。あー……すいません、こんなに盛大に出迎えて貰えるとは思っていなかったので挨拶の文面を全く考えていませんでした」

 

頭をぽりぽりと掻きながら言うと少しばかり笑いが起きる。

綺麗な水色の髪をした艦娘は余程面白かったのか笑いを堪え、隣の艦娘に突かれ注意されている。

なんと言うか、一番に目につくぐらい目立つ髪色だ。

 

俺は一息吐くと、

 

「今、日本だけでなく世界中が危機に瀕して、滅亡寸前です。正直な事を言ってしまえば私は戦略や戦術とと言うものは多少齧った程度の素人です。そんな私が世界の命運を背負うなんて馬鹿らしいと思うかもしれない。ですがそれでも皆さんの力になりたい。だからどうか皆さんも私に力を貸して欲しい。締まらない感じになってしまいましたが、どうぞ宜しくお願いします」

 

挨拶を終えると、拍手が起こる。

俺はそれを聞きながら壇上のから降りる。

 

解散の号令が掛かると、さてどうしたものか。

俺はどうすれば良いか分からず立ち惚けてしまった。

 

自室にでも行ってみるか?

荷物は第一種軍装と二種軍装(冬服)、三種軍装がそれぞれ2着づつと軍刀ぐらいしかないものだ。軍刀は今身に付けているが一種軍装と二種軍装、もう1着の三種軍装は鞄に詰め込んである。しかも車の中に置いて来てしまっているから今頃は自室に運ばれているかもしれない。

他にあるとすれば、市木大将に餞別として頂いた日本酒が1本あるがそれも鞄の中だからな。

 

本当に手持ち無沙汰になってしまったな……

そうだ、鎮守府内を見て回ろうか。仕事もあるだろうが色々と見て回り、把握しなければならないのも事実だ。

 

よし、そうしよう。

さて、どこから見て回ろうか。

 

と考えていると、声を掛けられる。

 

「提督、宜しいですか?」

 

随分と綺麗で凛々しい声だな、と思いながら振り向くとそこに立っていたのは、女性にしては高身長で170cmはあるだろう黒髪の美人。

 

「あぁ、長門さん、であってます?」

 

「はっ、長門であります。執務室へご案内したいのですが宜しいでしょうか?」

 

「ありがとうございます。お願いしてもいいですか?」

 

「勿論です。此方にどうぞ」

 

長門に付いて歩き、執務室に案内される。

しかしながら執務室は二階建てのプレハブで作られた建物でいかにも急造と言った感じだ。

 

「申し訳ありません、深海棲艦の空襲などで本舎は倒壊の恐れがあり使用出来ません。なので暫くの間は此方のプレハブを執務室と自室にして頂きます」

 

「構いません。寧ろ屋内であればどこでも。最悪テントの可能性すら考えていましたからありがたい」

 

プレハブに案内され、執務室の中に入るとそこには少ない物資で必死に拵えてくれた努力が伝わる内装だ。

 

「この執務机は、手作りですか?」

 

「えぇまぁ……本当は調達しようと思ったのですがどうしても手に入らなくて。手先の器用な妖精と共に製作しました。テーブルは購入した物なので気に入らなかったらそちらを使ってください」

 

「いや、温かい感じで良いじゃないですか。このままでいいですよ」

 

壁は剥き出しだが手作りの執務机の上には各種の文房具や硯、筆などが置かれ、それとは別のテーブルの上には花瓶と共に何種類かの花が入れられて飾られている。

 

「この花は、誰が?」

 

「駆逐艦雪風と浦風、村雨、時雨、響の5人が寂しいからとそれぞれ摘んで来た物です。……気に入らなかったでしょうか?」

 

「いえ、寧ろその逆ですよ。彼女達には後でお礼を言わないといけないですね」

 

「そうでしたか。明日から視察の時間を設けていますからその時にでも言って下されば喜ぶ筈です」

 

「ありがとうございます。それじゃ早速仕事を始めましょう。時間は無駄に出来ないですから」

 

「分かりました。何か必要な物はありますか?」

 

「……鎮守府の各種備蓄資源量を記した書類と、損傷艦の一覧をお願いします」

 

「分かりました。ただ今持って来ます」

 

「それと、敬語は使わなくてもなくて構いませんよ。自然体で。他の皆さんにも伝えて置いて下さい」

 

「……分かった。それでは持ってくるから待っていてくれ。それと私が暫くの間、秘書艦を勤めるから宜しく頼む

 

「ありがとう。宜しくお願いします」

 

長門はそう言うと書類を取りに行った。

 

その間、彼女達が作ってくれた執務机と執務椅子に腰かけ、飾られた花を眺める。

今だけは本当は平和な世の中なのではないかと錯覚してしまった。

 

 

 

 

十数分後、戻ってきた長門から書類を受け取り、見ていく。

 

「やはり資源量が全く足りていないな……」

 

「これでもここ2ヶ月は潜水艦隊の資源輸送任務のおかげで多少はマシになって来ているんだ。潜水艦隊を指揮したのも提督だと聞いている。ありがとう」

 

「いや、大した事は無いですよ」

 

長門はそう言ってくれるが、やはり燃料や損傷艦の修理をする為の鋼材は絶対的に足りていない。

 

グラフを見てみるが燃料は凡そ22000、弾薬はまだマシで40000ほどあるが一度でも戦闘を行えば直ぐに底をつく。

潜水艦隊が俺の指揮下に入ってから急激に備蓄資源量は増えているが足りない。

 

どうしたものか、と考えていると唐突に長門が言った。

 

「……提督、その敬語はなんとかならないか?」

 

「え?」

 

「私達だけが敬語で話すのは納得出来ない。提督ももっと砕けた口調で話して欲しい」

 

確かに艦娘に砕けた口調で話せと言っているのに自分だけ敬語は変だ。出来るだけ中を深めたいので言う通りにしよう。

 

「……分かった。そうするよ」

 

損傷艦の一覧を見るとそこには数多くの艦名が書かれている。

中には俺ですら知っている戦艦大和の名前も。大和は大破の損傷を受け、今現在は修理が出来ずに浮いているだけ、か。

姉妹艦の武蔵も同様だ。

 

見てみれば、長いと2年以上も損傷したまま修理されていないと書いてある艦もいて、早急にどうにかしないとならない。

 

しかしながらそれらの問題よりも一番に解決すべきは資源問題だ。

幾ら修理をしたいと言っても鉄が無ければ無理だし、燃料が無ければ動かせない。

 

取り敢えず修理は後回しにして燃料を集める事に専念するしかない。

となれば方針は、航空機を作るのに必要なボーキサイトやクロム、ニッケル、コバルトと言った資源と燃料を集中して集める他無い。

 

損傷艦を修理して戦力を立て直したい気持ちも山々だが我慢だ。

 

「潜水艦隊が次に帰港するのは……明日か。今居るのは伊400達の第1潜水艦隊だな。これは燃料輸送に専念させて伊168の第2潜水艦隊はボーキサイトなどに専念させよう」

 

「なんだ、鋼材は輸送しないのか?」

 

「あぁ、まずは今健在な艦を動かせる様にする。それにはまず燃料が大量に必要だし、指揮下にある343空と32飛行戦隊の航空機を行き渡らせないとならない」

 

「そう言う事か。なら私達戦艦組は暫く出番は無いな」

 

「申し訳ないけどその通りだ。輸送船が13隻あるからこの13隻+護衛艦隊を動かせるだけの燃料を集める」

 

「……長い道のりだな」

 

「そうだな。でも出来る事を少しずつやっていくしか無い」

 

長門と一緒に色々と策を練りながら夕方を迎えた。

 

 

 

長門がふと声を出した。

 

「提督、ささやかながら歓迎会を開く用意をしてある。どうか参加して欲しい」

 

「歓迎会?それは嬉しいな。ありがとう、参加させてもらうよ」

 

「ならば行こう。もう準備は整っている筈だ」

 

「そうなのか。なら行こうか。片付けるから少し待ってくれ」

 

「手伝うぞ」

 

「ありがとう、長門」

 

散らかっていた書類を簡単に纏めて片付けてファイルに閉じて棚に突っ込んでいく。

 

それが終わったら長門と共に、会場である食堂に向かった。

すると艦娘だけだが勢揃い。

 

「提督、挨拶を頼む」

 

長門に言われて立つと視線が一斉に集まる。

 

「皆、歓迎会を開いてくれてありがとう。損傷艦の艦娘は居ないが必ず勢揃いで宴会を開ける様に努力する。今日はここに居る皆だけでも楽しんでくれ。以上」

 

「提督、ありがとう。それでは、提督の着任祝いとこれからの戦局打開を願って、乾杯!」

 

「「「「「「「乾杯!」」」」」」」

 

始まった歓迎会は、出された料理も豪華ではないし確かに、本当にささやかな物だったがとても暖かく、これから先の希望を持てた。

 

途中、何人かの艦娘が態々挨拶に来てくれた。

誰も彼もやはり今までの疲れがあるのか顔に現れていた。

しかしそれでも俺の前では気丈に振る舞い、弱いところを見せまいとしていた。

 

改めてなんとかしなければならないと心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 長門 ーーーー

 

 

 

 

世界は今、絶望に包まれている。

 

 

だが今日、私達の元に来る提督は、そんな絶望を希望に変えてくれるかもしれない存在なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日、世界でたった1人しかいない提督となれる人間の男性が着任する。

中代中将を中心に市木大将も忙しい合間を縫って彼に3か月と言う短い期間ながらも教え込んだと聞いている。

少なくともあの5人が、3ヶ月しか学んでいないにも関わらず優秀だと言うぐらいだから期待出来る。

 

 

 

 

 

13:00、提督が到着した。

私達艦娘と、艦の幹部要員を集めて鎮守府の営庭に整列して出迎えた。車から降りて来たのは鍛えている妖精や人間の兵士と比べると随分と線が細く頼りないと思ってしまう、高身長の男性だ。

 

私も170cmあるがそれよりも10cmは高い。

優しそうな、温和な顔をしていて余り戦いに向いてはいなさそうだ。

 

そもそも、提督適正とは簡単に言ってしまえば私達艦娘と艦体に乗り込む事が出来なければならないのだ。

前提条件としてまずそれをクリア出来る人間がいない。

居たとしてもそれが出来て、更に指揮下に入れられるかどうかが関わってくる。

さらに艦娘だけではなく妖精達も指揮下に入れられなければならないので提督適正を持っている人間はそれこそ天文学的数値だ。

 

 

しかし聞いた話では既に潜水艦娘達を指揮下に加え、輸送作戦を成功させている。

しかも指揮下に入ってから資源輸送量が大幅に増加して呉鎮守府に回される資源が増えた。

それだけでなく呉に着任するに当たり、海軍の中でも最精鋭と名高い第343航空隊と、陸軍第32飛行戦隊も指揮下に置いていると聞く。

 

これほどの規模を既に指揮下に置いているのだから、その辺の心配をする必要はないだろう。

 

 

 

しかし何故横須賀ではなく、ここ呉にまで態々来るのか。

それはここを拠点として反抗の機会を窺うのだ。

というのもここ、呉は他の都市や港に比べると損害は軽微だ。

それに敵艦隊がここの占領を目指してくるには瀬戸内海を通らなければならない。そこには多数の機雷を二重三重に設置している。

瀬戸内海に入るのはそれこそ自殺行為だ。まぁ深海棲艦がどのように考えているのかさっぱり分からないが。

近くにはいくつもの飛行場が存在しているし防空の面から見ても1番だと思う。

まぁ敷地内には幾つかの爆弾孔が空いているし稼働機の話をすれば切りが無いが。

 

守り易く、攻めずらい。

天然の要害と言うわけだ。

 

そして一番の理由だと思うのは私達だ。

戦艦である私達や正規空母は燃料が無いから動かせない。

重巡くらいまでなら何とかなるかもしれないが……

損傷艦も横須賀や佐世保、舞鶴に回航出来ないから浮いているだけの状態。

 

要は配置転換をしたくても出来ないというのが実際の所だ。

それに比べると戦闘機は遥かに少ない量の燃料で動かせるから配置転換をするにはこちらを動かした方が良い。

 

最初の内は潜水艦隊を中心に資源を集めていくしかない。

 

損傷艦の修理もあるし、航空機の生産も必要だ。それらを動かす為の燃料も。今は無い無い尽くしだがそれでもやって行くしかない。

 

 

 

 

 

 

 

提督は促されて壇上に登り挨拶をする。

途中、頭を掻きながらこんなにも盛大に迎えてくれるとは思っていなかったから挨拶を考えていなかったと、言って少し笑いが起こる。

 

挨拶を終え壇上から降りる。

それら一連の事が終わり、解散の号令を掛けた後にキョロキョロと周りを見ている提督の元へ駆け寄り声を掛けるとどうやら私の事を覚えてくれた様だ。

 

 

幾らか会話をした後に執務室に案内する。

と言っても庁舎は使用しないが。

 

本来なら鎮守府の建物に執務室が入る筈だが深海棲艦の空襲でボロボロ。いつ崩れてもおかしくは無い。

だからプレハブで急造した自室兼執務室を使ってもらう。

 

家具などは出来るだけ良い物を揃えて足りないものは自作だ。

テーブルとイス、棚は何とか揃えられたのだが執務机と執務椅子は無理だった。

 

だから手先の器用な妖精と協力して製作したのだ。

彫刻なんかは施せないが、何処から持って来たのかニスを塗って出来るだけ良い物にしようと努力をしたがやはり比べるとどうも素人が作ったという感じがしてしまう。

 

提督は気に入ってくれたのか嬉しそうに笑う。

テーブルの上に飾ってある花に目を向けると誰がやったのか聞いてくる。

 

それは雪風、浦風、村雨、時雨、響の5人がプレハブで作られた執務室が寂しいと感じて敷地内に咲いている花を摘んで来て飾ったのだ。

花瓶も何処からか持って来た。

 

提督はその花を見てまた嬉しそうに笑う。

恐らくこの人はとても優しい人なのだろう。

上辺だけでこの言葉を述べて笑っても、こんなにも嬉しそうに出来る筈が無い。

 

提督は、早速仕事をするという。

何か必要なものはあるかと尋ねるとこの呉鎮守府に備蓄されている資源、燃料と弾薬の了を確認したいからそれが書いてある書類と、損傷艦の一覧を持って来て欲しい、とのこと。

 

その指示に従って取りに行く。

それを持って戻ると、執務椅子に座って花瓶の花を眺めていた。

 

 

 

 

それから5時頃まで私と提督は色々と策を話し合い、丁度良い時間だったので提督を歓迎会に誘う。

こんな状況かだから派手には出来ないし、本当にささやかになってしまうがそれでも開きたいと、私達と共にた戦ってくれるのだからということで開くことにした。

 

提督を連れて食堂に向かうと既に準備は整い、皆が揃っていた。と言っても艦娘だけだがそれでも十分な数だ。

 

提督は終始にこにこと笑っていた。

挨拶に来る艦娘を相手に話をしては笑い、少ししか出せない食事を美味しそうに食べて。

 

歓迎会が終わると提督は私には早めに休むように言って執務室に戻った。

明日は確か第2潜水艦隊が輸送任務から帰還する予定だから、それの調整と次に出発する第1潜水艦隊の出撃の調整や持ち帰って欲しい資源を通達するのだろう。

 

私は言われた通りに休むために艦に戻った。

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 




市木 重尚
階級 大将
年齢 75歳

軍令部総長、及び連合艦隊司令長官を兼任している。
とっくの昔に退役し、余生を送っていたが度重なる戦闘や空襲などで人材枯渇により国から請われて現職に復帰した。
本人は深海棲艦の空襲で右足を失っている。

妻と息子、その嫁が居たが息子夫婦は空襲で死亡。
もし、息子夫婦に子供が居たら、成長していたらと思うと、若い主人公を可愛がってしまう。



西村 直義
階級 中将
年齢 82歳
海軍艦政本部長を務める。
同じく人材枯渇により現職に復帰。

息子が3人、孫も2人いたが深海棲艦との戦闘や空襲で全員失った。
主人公の事を孫に重ねている。



黒川 村治
階級 中将
年齢 79歳

海軍航空本部長を務める。
妻しかおらず、子供は居ない。
左目を負傷し視力を失って眼帯を付けている、見た目だけならかなり怖いが話してみると全然別人。
平時であれば近所にいる良く挨拶をしてくれる好々爺。



中代 美咲
階級 中将
年齢 26歳

作戦本部長を務める若き天才。
提督適正が無いながらも艦娘達に指示を出して今日までやってきた。

見た目は釣り目で美人だが性格がキツそうとの印象を受ける。
しかしながら接してみると優しくかなりの世話焼きで主人公を弟の様に思っている。

主人公の主任教育係。
鬼教官という言葉がそっくりそのまま当て嵌まるぐらい勉強中は恐ろしいがそれ以外はそんなことはない。

彼女曰く、主人公は3か月しか勉学の期間のみと考えると優秀。もっとしっかりと教育を施せれば……との事。

今現在の海軍には作戦を立てても動かせる艦が居ないので教育係になった。
それでも来るべき反抗作戦に備えいくつもの作戦案を練っている。

家族は両親が居るがここ数年忙しく会っていない。




広野 拓司
階級 中将
年齢 37歳

補給、諜報や測量などを一纏めに受け持っている為に一番仕事量が多い。

深海棲艦との戦いが始まる数か月前に結婚したばかりで、妻がいるが忙しくほとんど会えていない。

子供は居ないが、主人公が必死に中城中将の教育に噛り付いているのを陰で応援していた。年の離れた弟のような感覚で接している。







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