北海道での反抗作戦が開始して一ヶ月。
実を言うと反抗作戦の進捗状況はあまりよろしくない。
と言うのも幾つか理由がある。
第一に予想されて居た兵力よりも敵が多かったこと。
これは単純に偵察の際敵兵力の見積もりを見誤ったことに加えてどうやら敵輸送船団は補給物資に加えて大規模攻勢に出る為の戦力の配備を着々と進めて居たらしい。
当初20万程度と見積もられて居た敵兵力はそれよりも7万以上も多く、各町などに師団規模での守備隊を置き重点防御戦術、そして7万ほどの機械化歩兵と装甲師団の遊撃部隊を以ってして機動防御戦術を取っている。
どこか1箇所へ攻勢を仕掛ければ機械化された歩兵とそれを守るための戦車部隊が大挙して押し寄せてくるのだ。
それによって既に二度、攻勢に失敗している。
第二に正面攻勢を仕掛けている我々の兵力が敵より同等、もしくは劣っていること。
こちらの全戦力はどれだけ掻き集めても26万。本土からの応援を加味しても30万が良いとこだ。
定石であれば守備隊に対し攻撃を仕掛けるならば3倍の兵力を以て挑むべし、と言うところだがそれだけの兵力は無い。
フィリピン攻略に投入する兵力を引っ張ってくれば何とかなるだろうが、冬季装備が未だ不足していること、それだけの大兵力を支える補給を行えないことなどが原因で投入出来ない。
これでは機動防御によって最大で10万に達しかねない敵軍守備隊相手では一点突破以外に取れる戦術が無い。
今現在、敵後方補給線に対して破壊活動を行なっているが効果が出始めるのはもう暫く後になる。
第三に敵が新型戦車を投入してきたこと。
その数は決して多くはなく、10両に1両程度のものであるが前線においてその威力は凄まじく、長らくティーガー戦車やパンター戦車の正面装甲で弾くことが出来ていた敵弾が、此処に来てティーガー戦車の正面装甲を易々と貫通してみせたのだ。
この時はパンター戦車の機動力に物を言わせ叩いたが、問題はそうではない。
この戦車に対抗し得る戦車が前線に殆ど存在しないことだ。
確かにティーガーやパンターであれば撃破はされるが十分に戦える。
しかし前線主力であるIV号戦車とIII号戦車はそうではない。
火力、装甲共に劣っており辛うじて機動力が互角ないしは幾らか優勢であるぐらいだ。
この両戦車を配備している部隊は当初相当な恐慌状態に陥った。
その時はティーガーとパンターが応援に間に合い大損害を被ることは無かったがどう考えてもティーガーとパンターの絶対数が足りない。
しかも鹵獲した敵新型戦車を調査したところ、火力、装甲共にティーガーと同等。
機動力に関してはパンターに分があるが火力ではパンターの傾斜装甲を貫く威力を持っていると判断された。
と言うことは現状新型戦車に対しての有効な対策は無いに等しい。
戦えはするが負ける可能性が十分にあり、そして前線において脅威であると言う判断が下された。
防御、火力をどうにかして底上げせねばならずこのままでは兵力的余裕のない我が軍には前線突破は難しい。
しかもここにきて敵が反転攻勢まで仕掛けてきたのだ。
このままでは前線突破どころかこちらの前線が突破されてしまう。
とは言え解決策が無いわけでも無かった。
現状、ティーガーとパンターは十分に対抗出来るのだが、IV号戦車III号戦車は側面ないしは背面を取らないと撃破は難しい。
そこでまず提案されたのはティーガーとパンターの増産及びIII号戦車から順次置き換えを進めることだった。
敵新型戦車は重量が42tに迫るほどでパンターと同程度の重さがある。
南方戦線の雨が降り、泥濘と化した戦場に投入するには些か無理がある。
投入しようと思えば出来るのだろうが、運用面からすれば現実的ではない。
そこで北海道に限ってだが戦車をティーガーとパンターに置き換えてしまえば良いのではないか、と提案されたのだ。
確かにそれならば十分に戦えるであろうが、コストや生産数の問題がある。
現状、ティーガー戦車の月産数は全力で稼働させたとしても僅か15両であり、どうやっても間に合わない。
第一、生産数を上げるならば生産工場そのものを拡張、もしくは増設せねばならず、工場の建設から始めた場合、どれだけ短くとも生産開始までに二ヶ月は掛かる。
更には生産に必要な資材や完成した戦士の輸送を行うのに鉄道まで建設しなければならない。
単純に今ある工場を拡大増設するにしても、輸送能力が無ければ港まで運ぶ事が出来ないから増設新設どちらにせよ鉄道の新規敷設はやらねばならない。
パンター戦車はまだマシで、全力稼働すれば50両は生産出来る。
とは言え、北海道に展開する戦車は1000輌を超えておりそれら全てを置き換えるには今のままでは15ヶ月以上を要する。
それだけ時間が掛かってしまったら敵に反抗の機会を与えてしまう。
しかしそれ以外に有用な手立ては無く、今現在工場の新設や増設をしているのだが、満足のいく数が揃うには四ヶ月は掛かる。
そして第二案が、こちらも新型戦車を投入する、と言うものだった。
陸海軍は欧州からもたらされた各種技術を放っておくのは勿体ない、ならば少しでもいいから研究を進めようと言うことで様々な研究を進めていた。
その中には当然戦車もある。
今現在、主力として研究している戦車が二種類ある。
ティーガーⅡとセンチュリオンである。
この二種は重量が現状運用している戦車よりも重い。
なんせティーガーⅡは70tとティーガーより13t、パンターより25tも重い。
こんな重量、本土ですら扱いに困るほどだ。
確かに砲威力や防御力はずば抜けて高いが運用出来ないのであれば意味が無い。
センチュリオンもティーガーより軽いとは言えパンターより7tも重く、密林の中で動かすにはパンター戦車の重量が限度であると実地試験で判明しているため南方方面への投入は難しい。
故に今までは主戦場が南方方面であり両戦車は試験目的に3輌ずつが生産されただけで試験が終われば倉庫へ送られシートを被され埃を被っていた。
一応モスボールはしてあるのでちゃんとした整備を行い必要であれば部品交換などを行なった上で戦線投入が可能ではある。
結局陸海軍合同会議において、両方の案を8:2の割合で採択することになった。
北海道や来るべきオーストラリア奪還、欧州奪還に備えて生産しておくべきであり、事実敵新型戦車は豪州や欧州に戦線が広がった場合遭遇する頻度は多くなり、そしてさらなる敵新型戦車の投入も予想されるからだ。
とはいえ今現在新しい戦車を大々的に生産する余裕は無く、既存のティーガーとパンター戦車を増産し戦線に送り込むことにした。
「提督、緊急電です!」
「どうした」
「十勝平野にて敵軍攻勢開始、帯広市街地防衛中の我が守備隊包囲さる、です!」
「連中、こちらよりも数が多く物資が多いうちに方を付けるつもりだな……」
恐らくはまだ余力のある内に勝負を決めようと言う腹積りなのだろう。
確か帯広市街地の守備には2個歩兵師団が当たって、その支援に2個戦車連隊がいたはずだ。
この戦力であれば通常なら守り切れるだろう。
それに北側と西側は十勝川と札礼川に接しているから防御がし易い。
それ以外の場所に多めに兵力を割いて防御が出来る。
「敵兵力は?」
「包囲している敵軍は3個師団6万を数え、更に側面支援に2個師団4万が確認されているとの事です。後詰めにもう1個師団ほど確認したと」
「……厳しいな」
「敵兵力の凡そ三分の一が集結しています。後方支援部隊を除いても敵は各戦線を十分に維持が可能です」
どうするべきか。
このまま帯広市街地の防衛に固執すれば間違い無く友軍は全滅するだろう。
「撤退は出来ないか?」
「既に全包囲されており困難かと。撤退するにしてもどれだけの増援を割けるか分かりません。下手に増援を送れば手薄になった場所を突破されてしまいます」
参謀が地図を棒で指し、説明する。
「このまま、見捨てるわけにもいかん」
「では、どうなされますか?」
「制空権は維持しているか?」
「戦線上空の制空権は今現在のところ拮抗状態です。掌握は出来ておりません」
「制空権が拮抗しているならいい。空中投下で補給を行う。それと空挺部隊も投入して増援としよう」
我が軍お得意の空中投下による補給を行いつつ、陸路での増援が難しいならば空路によって増援を送ればいい。
「分かりました。深山に出撃を命じますか?」
「いや、連山を使え。ただでさえ輸送船を引き抜いて輸送量が足らないのに今、深山を南方方面への輸送任務から外す訳にはいかん」
「分かりました」
「最初に物資を落としてから次に空挺部隊だ」
「了解しました」
ビスマルク艦上で指示を出す。
それに続いて出されたのは所謂合戦飯であった。
飛龍では合戦飯は塩味の効いた握り飯と味噌汁に沢庵であったがビスマルクでは握り飯の他にパンが出ることもあるし汁物も味噌汁でなくアイントプフと言う野菜スープが出る事もある。
それにソーセージが偶に出る事もあった。
艦、と言うより元の国によって合戦飯は違うらしい。
さて、空挺部隊に関する話をしよう。
空挺部隊は正式名称を挺進隊と呼び、各挺進隊は連隊規模で編成されている。
今現在、6個挺進隊が編成されており、更に4個挺進隊が訓練途上である。
実はフィリピン攻略に投入する予定だったのだが北海道侵攻によってその予定は延期されていた。
フィリピン攻略を考えるならば投入は避けるべきであろうが、そんなことは言っていられない。
連山は輸送用に改造すれば最大で五十人の兵員を乗せて運ぶことが出来る。
他にも4t分の物資を運ぶことも可能だ。
まぁ積載面積の関係でそれよりは少なくなるだろうが鉄道輸送を使えない事を考えると輸送量は馬鹿に出来ない。
最大積載量でも駐屯する飛行場がある近畿地方から北海道へ飛ぶことができる。
最悪、燃料不足に陥ったら千歳飛行場などに不時着してしまえばいい。
それを活かさない手は無い。
連山の初任務が輸送任務とは思っていなかったが、まぁ良いだろう。
1個挺進連隊の輸送に50機必要だが、今現在連山は生産を続けて400機にまで数が増えている。
帯広市街地の中に空挺降下が可能な面積があるのが帯広飛行場ぐらいしかない。
となると連隊ごとでしか送り込めないだろうな。
街中への降下は建物や瓦礫と言った障害物への衝突の危険があるからやるべきではない。
「帯広飛行場は確保しているな?」
「はい、帯広飛行場の周囲1kmは我が方のものです」
「着陸は出来そうか?」
「出来なくはないですが、敵部隊が間近にいることから離陸は困難、着陸後は機体の破棄が前提になります。それに第一陣以降は着陸不可となるでしょう」
「ならば予定通り空挺降下によって増援を行う。降下地点は帯広飛行場に設定、緊急時は帯広競馬場でも構わん」
ビスマルク艦上で様々な報告が上がってきては次々に指示を飛ばす。
休む暇など無く、朝から晩まで指示を出し続ける。
挺進隊は5個連隊を投入し、残り1個連隊を帯広包囲戦終了後の作戦に投入する予定だ。
それぞれの連隊毎に50機の連山に分かれて搭乗。
更にその支援を行うために16機と迫撃砲や野砲などの重装備を運ぶ為に4機の連山を投入する。
護衛には海軍から36機、陸軍から32機を出すことになった。
翌日、各空母から4機ずつの烈風が飛び立ち制空権を一時的に確保。
まず最初に連山による敵包囲部隊に対して爆撃を実施。
爆撃から二十分後、第一陣の降下が開始された。
5機編隊2列が先頭を務め、4機編隊8列がその後ろを進む。
編隊幅は最大で230mほど。
飛行場周辺は切り開かれているから降下からの着地は用意だ。
元々ここには陸軍第48飛行戦隊と第61飛行戦隊、それと第98歩兵師団司令部、98師団所属第355歩兵連隊と第54砲兵大隊、第63高射大隊が置かれていた。
周囲1km四方には柵と壁、鉄条網で囲われており更には市街地側の反対にある森は幾らか見渡しがし易いように切り開かれている。
しかしながら深海棲艦侵攻に伴い撤退しており、帯広奪還後は前線飛行場として活用するべく整備を進めていた。
飛行場周辺には防御陣地が構築されており今現在、防御陣地として十全に能力を発揮している重要な前線基地である。
この増援を送り込む作戦は、航空支援から爆撃、包囲網突破までを含めて「る号作戦」とされた。
先ず帯広飛行場全面部に展開する敵部隊への圧力を加え降下を少しでも楽にするべく第35特別戦車隊が展開する。
第2実験戦車大隊は引き続き十勝平野最前線にて敵機甲戦力に対する遊撃任務を行う。
第一陣から第四陣に渡る空挺降下により兵員を送り込み、その次に敵の電波妨害により断絶気味である通信網の確立を行う。
随時、空中投下により物資補給を行いつつ、帯広市街地で防御戦闘を行う。
輸送船団からの補給の無い敵は、今ある物資のみしか無く最終的には長い間包囲を出来ない筈だ。
それに加えて包囲への補給も航空攻撃などによって妨害する。
こちらの予想では厳しく見積もっても2ヶ月で敵は補給切れを起こし始めるであろう、としている。
その間、友軍に対して補給せねばならない物資量は武器、弾薬、燃料、水、食料を引っ括めて、戦車連隊含め一日辺り最低50tは必要になる。
それを維持するには2t分の物資を積んだ連山25機が連日補給を行わねばならない。
余裕を持って30機を充て、足りなくなった場合や撃墜機が出た時に備えて予備に20機を待機させておく。
これだけあれば、小火器の弾薬は勿論、戦車、重砲の砲弾も十分に運ぶ事ができる。
単純計算だが、2t分の重量換算をするとIV号戦車用砲弾を1400発は運ぶ事が可能だ。
とは言え積載面積の関係上、そこまでの発数を運ぶ事は出来ないだろうが、兎に角それだけ沢山運べると言う事だ。
「提督、時間です」
「これより、る号作戦を開始する」
その言葉を皮切りに、作戦が始まった。
紫電改とBf109が制空権を奪取する為に突っ込む。
次に爆撃機による爆撃が開始された。
砲兵隊や流星も攻撃に参加し、1時間たっぷりと砲爆弾の雨を降らせた。
それらの準備攻撃が終わると同時にBf109に守られた連山が編隊を組み侵入する。
先ず最初に各種物資や重機材を投下していく。
次に挺進隊の兵士達が搭乗している連山が降下地点である飛行場上空に差し掛かると、兵士達が次々と飛び降りる。
落下傘が次々と開き、速度を落として開けた飛行場敷地に降り立つ。
五点着地を行って衝撃を和らげると共に先ず最初に武器の点検を行う。
彼ら挺進隊が装備しているのは通常の歩兵連隊と同様でStg44を主装備としている。
落下傘は適当に丸めて回収し次に降下してくる挺進隊の邪魔にならぬようにしておくのだ。落下傘は通常敵地への降下を行なった場合破棄するのだが今回は回収し、恐らくもう1ヶ月ほどで降雪、積雪が始まるであろうことを考えて防寒素材として使用することになっている。
簡易的なテントなどをこれで作ることも出来る。
MP40は装備しておらず、殆どの兵士がStg44を装備している。
そして通常の歩兵連隊とは違って全員が拳銃を装備している。
分隊につき九九式軽機関銃1挺を装備しており、パンツァーシュレックも1門。
とは言え軽機関銃とパンツァーシュレックは重機材として纏めて最初に投下されている。
他には弾薬、手榴弾など。
装備に異常が無いことを確認し、次に身体に異常が無いかを確認する。
次に重機材が包まれた木箱を開封し先ず最初に通信機器を引っ張り出してそれぞれの小隊は通信機を使って中隊司令部、大隊司令部、連隊司令部へと順繰りに通信を確立させた。
それが終わると小隊毎にそれぞれ指示された防衛区画へ各種機材や予備の武器弾薬を持って移動を開始した。
軽機関銃、パンツァーシュレックを担当の兵士が担いでいく。
予備の武器弾薬は軽機やパンツァーシュレック担当の兵士以外が全員で分担して持ち、必要ならば往復して持っていく。
支持された区画へ到着すると、連日攻撃を受けておりすぐさま戦闘が開始された。
「提督、第一陣、無事損害無く降下完了しました」
「分かった。引き続きる号作戦を実施せよ」
どうやら第一陣は上手いこと行ったらしい。
作戦はまだまだ始まったばかりであり、気は抜けない。
「提督、食事よ」
「ん、あぁ」
「少しは休んだらどうなの?またホウショウに怒られるわよ」
「いや、挺進隊が全て降下し終えるまでは寝ていられない」
「仕方が無いわね、分かったわ。でもそれが終わったなら休んで貰うわよ」
「あぁ。心配してくれてありがとう」
「いいのよ」
どうやらビスマルク艦上でも俺は休め休めとせっつかれなければならないらしい。
その日の内に3個挺進隊が降下を完了した。
それぞれの連隊は無事降下を終え、指示された区画で防御戦闘を既に展開しているとのことだ。
翌日、早朝から残りの2個挺進隊が降下を初め、全挺進隊が降下を終えた。
その後、予定通り連山による補給物資の投下が連日行われ、防衛線の維持に成功。
1ヶ月後、雪が降り始め北海道と言う厳寒の大地が牙を剥き始めた。