暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第57話

 

 

 

 

一月半ば。

未だ雪が降り積り、寒さ衰えぬ北海道の大地では友軍が敵軍と命を懸けて戦っている。

海軍の方は陸軍の支援の為に艦載機を飛ばす程度であるが、陸軍は連日敵の猛攻を受け、そして防いでいる。

補給が切れてから暫く立つと言うのに未だ敵の勢いに翳りはない。

余程備蓄をしていたのだろうか。

しかし前線への補給は航空隊によって断絶気味の筈。

 

となると前線近くに後方からの補給が出来なくなったことを想定して別の場所に多数の集積所を設けてあるか、夜間に運んでいると見て間違いない。

何にせよ、まだ我々が把握出来ていない補給線があるのだろう。

 

夜間は航空機を飛ばすのが難しいから、どうしても見落としてしまう。

陸軍の搭乗員ならば戦闘機から爆撃機に至るまで夜間飛行に慣れているから問題無いのだが、海軍は陸上配備されている紫電改と飛行艇や水上機、あとは爆撃機しかやらない。

 

艦上機である烈風や流星は先ずやらない。

第一、母艦に夜間の着艦制動灯などの装備がないからな。

夜間の洋上は、本当に暗い。

月明かりがあれば別だが、新月ともなると艦の灯り以外に周りに光を発するものは何もないから真っ暗闇になる。

そんな中を、何処にいるか分からない敵艦隊に向けて暗視装置やGPSが無いのに飛ぶのは無理がある。

 

陸上機ならば、夜間爆撃を行う敵爆撃機は編隊を組んで爆音で飛んでくるし進行方向上にある各地の電探が捉えているから誘導出来る。

それに機上電探を装備した銀河がいる。

迎撃の網を張っておけば良い。

 

陸上機が夜間目標にするのも飛行場などの固定目標。

方向さえ合わせてあとは自機の速度でもって距離を割り出せば可能だ。

 

しかし艦上機はそれらが全く出来ない。

潜水艦に敵艦隊を後を付けさせて電波を発する手段もあるが、夜間は敵艦も此方と同じで潜水艦には厳戒態勢だし、見つかればタダでは済まない。

駆逐艦から爆雷の雨を降らされるに違いない。

 

陸上機である紫電改や一式陸攻、陸軍の百式司偵を使って夜間偵察を試みているが、やはり目視では限界がある。

高度2〜3000mからの夜間偵察だ、無理もない。

 

とは言え実を言うと一式陸攻はあまり夜間偵察などで失いたくない。

一式陸攻は1機に付き7〜8人の搭乗員がいる。

撃墜されると一気にそれだけの訓練された搭乗員を失うことになるのだ。

 

烈風や流星などの単発機は多くても二人だがそうも行かないのが陸上攻撃機だ。

だからあまり被害が拡大するのならば中止すら全く疑問無く行うだろう。

 

本当ならば一式陸攻を全て足の速い銀河、もしくは防御力が2機種に比べ高く生存性の高い連山に置き換えたいのだが、まずもってそれは叶わないだろう。

銀河はまだ良いが、連山はなんせ零戦10機分、烈風7〜8機分以上の資材を必要とする。

ただでさえ南方方面での連日の激戦で失われる機体を補充するのに単発機生産ラインはてんてこ舞い、そこに北海道侵攻で普段は少数生産の各国機体に加え紫電改の生産を増産しなければならないのだ。

どうやっても生産は増やさねばならない。

 

爆撃機生産ラインは連山、銀河を生産するのに手一杯。

工員の数の関係上、これ以上の生産ラインの増設は今すぐに、と言うのは無理だ。

だから激戦が続く南方方面への配備を優先せざるを得ない状況が続いている。

 

 

 

 

 

 

今日は北海道北部から南部それに洋上に掛けて、端的に言えば戦線全域で吹雪いているらしく最前線への航空支援は行えない。

物資は前以て送り込んであるので、最低四日は無補給でも戦える。

 

艦隊は悪天候を避けるべく岩手県久慈沖南西300kmの地点まで南下。

北海道近海に比べれば波は穏やかで風も余り吹いていない。

とは言え18ノット(時速約33km)で進む艦上では無風だろうと余り関係は無いのだが。

向かい風の時など台風か、見間違うぐらいの風が吹くからな。

お陰で、洗濯物をしたならば気候や地域にもよるがすぐに乾く。

 

 

 

 

 

 

中代大将達が大震災の対応をしてくれる事により、俺は北海道防衛に専念出来る。

 

「提督、大雪山で敵の攻勢が始まりました」

 

「規模は?」

 

「2個連隊程度ですが、質、装備はかなりのものです。それと新型戦車も中隊以上の規模がいると」

 

「守備に就いているのは?」

 

「1個連隊のみです。ですが諸兵科連合連隊として編成にナースホルン対戦車自走砲中隊、四号戦車が1個中隊、後方にフンメルを装備した1個砲兵中隊がおりますので、戦力的には互角かと」

 

「ならば、今まで通り防御に徹するように。航空機は出せないが、天候が回復次第向かわせる。防衛が困難ならば後退を許可する」

 

「了解しました」

 

恐らく、この吹雪に紛れて防衛線の一部を食い破ってそこから雪崩れ込もうと言う算段のつもりだろう。

しかし、我々は1個歩兵連隊に対して対戦車自走砲1個中隊、自走砲1個中隊、戦車中隊を付けた諸兵科連合として部隊を運用している。

 

上級単位である師団でもそれは変わらない。

 

実は北海道に展開している部隊はどこの方面よりも諸兵科連合化が進んでいる。

北海道侵攻に際して、色々と議論された。

その中には「本土防衛に割ける戦力はどの程度か」と言うものも勿論あった。

 

本土防衛を手薄にする訳ではないが、実際問題奪還地域は広大で本土の倍はある。

となるとやはり奪還地域を維持し敵の侵攻を阻むには相応の戦力が必要だ。

 

更には今後奪還作戦が行われ、成功したならばその地域にも防衛戦力を置かなくてはならない。

となると本土から戦力を引き抜く他無いのだ。

 

しかしそうなると本土、奪還地域どちらともがどうしても単純な数での戦力が手薄になる。

 

であればどうするか。

簡単な話、部隊の質を向上させるのだ。

質、と言うのは兵士の質も確かにそうだが所謂攻撃能力、単純に歩兵だけでなく砲兵などの様々な兵科を混ぜ合わせた諸兵科連合を基本編成として数的不利を同等、もしくはそれよりも少し劣る程度に底上げするのだ。

 

そうすれば今以上に奪還地域が広くなっても少ない戦力で応援が到着するまでの防衛が可能である、と言う訳だ。

実際、確かに運用上の問題は幾つかあったものの、それらの解決にはさほど時間は掛からずに済んだし、何より防衛、攻勢共に明らかに向上していた。

 

兵科ごとにバラバラに運用するより、一つに纏めて運用すれば指揮系統やらが混乱しにくい。

他にも諸兵科連合にする事で、攻防両方に置いて戦闘能力が遥かに上がる。

師団規模でなくとも単一の諸兵科連合連隊で行える作戦遂行能力が向上し、更には柔軟性も上がった。

 

挙げるとキリがないが、諸兵科連合に編成を変えた事でプラスに働いている。

とは言え補給が煩雑になったりしたが、それもじきに解決するだろう。

 

 

 

しかし、やはりナースホルンとフンメルはかなり強力だ。

元々IV号戦車の車体を流用しているから大量生産が可能だし、コンポーネント的にも余裕がある。

必要ならば砲口径を大きくする事も可能であり、しかも両車とも自走が可能だ。

他の対戦車砲や榴弾砲は移動や陣地転換をするには動力を持つ他の車両に牽引されなければならない。

しかし前述の2車種は必要になれば容易に陣地転換を素早く行えるし、何より輸送などをする際に単純計算ではあるが、牽引車を必要としないから自走が出来ない砲を輸送するよりも倍の数を輸送出来る。

砲弾や給弾車の兼ね合いもあるからそこまで差が大きくなったりはしないだろうが、やはり輸送に掛かるコストは此方の方が低い。

 

とは言え全てを置き換えられる訳ではない。

生産数の問題もあるが、単純な話、運用における違いがあるからだ。

 

基本的にフンメルやナースホルンは機械化部隊への追従を主としているから機動力がなければならない。

しかし牽引式の榴弾砲や対戦車砲は確かに自走こそ出来ないから機動戦には向いていないが、それ以外での場面でよく活用されるからだ。

 

牽引車の分の生産コストを加味すれば置き換えた方が良いのは間違いない。

流石にそれは生産数の問題もあって現実的では無いが、いずれは順次置き換えて行くつもりではある。

 

 

 

 

 

 

荒れる太平洋の波頭を割って艦隊が進む。

とは言え昨日よりは波風共に収まり、空に雲が広がっている程度だ。

しかし未だに艦載機を飛ばすのは困難だ。

 

航空機自体は飛ばせるのだが、荒波に揺られる母艦に、しかも強風に吹かれながらの発着艦は無理である。

それこそ原田大佐辺りの、海軍母艦航空隊の中でも特にトップクラスの操縦技量を持つ搭乗員でもなければ無理だろう。

 

現状何よりも、一番怖いのは敵潜水艦だ。

対潜戦闘は軽巡と駆逐艦頼りである。

今はまだ夜明け前、0214。

陸上機による支援は最低でも辺りが明るくなる5時間は無理だろう。

 

「菊月より入電。敵潜探知、距離26km。追跡します」

 

「浦波より入電。我菊月支援ス。以上です」

 

この天候ならば敵潜が狙ってくるのも当然だろう。

俺が潜水艦隊を直接率いていたならば同じ様に狙うからだ。

 

「航空支援は、やはり望めないか」

 

「夜間、それもこの時刻では望めぬでしょう。この様子だと、敵潜は集まって網を巡らせている筈」

 

「唯一の救いは第一護衛艦隊が合流している事か」

 

「この手数なら、多少の損害は覚悟せねばならないのは確かですが十分防ぎ切るのは可能でしょう」

 

参謀長はそう言って息を吐く。

ビスマルクは艦長と交代し今は休息中、寝ていることだろうか。

仮にも軍人とは言え女性、何か邪な考えを持つ者も出てくるだろう。

艦娘には護身用に拳銃の所持が認められており、自室の扉前には完全武装の兵士が2名、警備に当たっている。

 

「初雪より入電。我敵潜探知、距離24km。コレヨリ追跡ス。以上です」

 

「マエストラーレより入電。敵味方不明電波探知。距離36km」

 

「橘より入電。敵潜探知。距離19km。コレヨリ追跡ス。以上です」

 

艦隊外周を守る駆逐艦達から次々と敵潜発見の報告が上がってくる。

恐らくマエストラーレのも敵潜と見て間違いないだろう。

 

「長いこと、北海道沖で遊弋していたから敵潜が集まったんだな……」

 

「大西洋で何度も経験した連中の作戦、群狼作戦でしょう」

 

ビスマルク副艦長ゲッツ・トスパン中佐が言う。

艦長は休息中だから今はトスパン中佐が艦の指揮を取っている。

艦長より背が高く、細身の男だ。

艦長、と言うより参謀職の方が合っているタイプらしく、自らも艦長職は合わないと零していた。

 

暫くして、更に敵潜探知の報告が相次ぎその数なんと27。

恐らくまだまだいるだろう。

 

「第一種戦闘配置を下令。隔壁全閉鎖。対水雷防御を固めろ」

 

「了解」

 

「総員第一種戦闘配置。繰り返す、総員第一種戦闘配置」

 

戦闘配置を下令し、敵潜の攻撃に備える。

 

更に時間が経ち、徐々に敵潜の数や攻撃が激しくなるが水雷戦隊の活躍もあって10隻を撃沈破しているが、まだまだ数は多い。

 

「おかしいですな……」

 

「うむ、どうにも……」

 

「何か別の意図があるのかしら……?」

 

何やら艦長と副長、それにビスマルクまでが何か首を傾げている。

 

「どうかしたのか」

 

「あぁ、いえ……」

 

「構わん、言ってくれ」

 

「は、それでは申し上げます。どうにも我々が経験してきた群狼作戦とは

違うと言いますか、なんと言いますか……」

 

「と言うと?」

 

「どうにも連携が全く取れていないのよ。私達が大西洋で嫌と言うほど経験した群狼作戦は兎に角連携が凄まじかったわ。報告が上がって来てる隻数を考えれば、今頃多数被雷していてもおかしくないわ」

 

「だが、現状1隻の被害も無いぞ。まぁ、強いて困る事と言えば爆雷の減りが速い事ぐらいか」

 

「だからこそ、おかしいのよ」

 

「ふむ……」

 

「提督、宜しいですか?」

 

「参謀長」

 

「私が考えるに、敵は連携を取れる状況に無いのでは?」

 

「どう言う事か?」

 

「敵潜は取り敢えず数を集め一斉に攻撃しただけである可能性が高い、と考えます」

 

参謀長が発言し、ビスマルク達も頷いている。

 

「確かに通信機器の故障も有り得なくは無いでしょうが、30隻を超える敵潜が一斉に通信機器の故障を起こすとは考え難い。欧州軍の電子対抗戦なるものであれば可能ですが、我々はそんな事は一切やっておりません。故に数を集めただけ、と考えます。事実、攻撃タイミング等全てがバラバラ、回避運動を見越した発射もありません」

 

「なるほど……。で、あればそこに付け入る隙があると言う訳か」

 

「はい。現状、全方位に敵潜は存在しますが、距離も中々に離れておりますし、同時攻撃もされておりません。ならば十分に対処は可能。それどころか各個撃破を十分に狙えるでしょう」

 

「分かった。ならば十分に警戒した上でこのまま対処を続行する。水雷戦隊各艦は艦隊陣形20kmに侵入した場合に限り各個判断で遊撃を許可する。ただし魚雷を回避する際は全艦に通達せよ。この暗闇だ、衝突事故の危険が高い。それだけは避けたい」

 

「了解しました」

 

深海棲艦の魚雷射程は7〜10kmと過去の戦訓から見積もられている。

と言う事はそこに侵入されてしまうと敵魚雷の射程に収められてしまった事になる。

この荒波で、測距が難しいとは言え被雷は十分な可能性を持っている。

 

下手に遊撃の為に艦隊から離れてしまうと不味いが、かと言って近い場所で遊撃してしまうと振り切られて陣形内に侵入、十分な距離で雷撃されてしまう。

 

しかもこの暗闇に荒波では魚雷の発見は遅れるだろう。

小型艦ならば回避出来るだろうが、大型艦は舵の利きが遅い。

だから急に回避を命じられて舵を切っても艦体が動き始めるまでは、魚雷に対して全くの無防備なのだ。

 

しかし、今はまだ防げているが無音潜航をされたら探知が難しい。

 

 

 

 

 

 

夜明けがもうすぐの時。

 

『敵魚雷航走音探知!方位028、距離10(ヒト・マル)!(1000m)』

 

「副砲、照明弾用意!」

 

「二番副砲、五番副砲用意良し!」

 

「撃て!」

 

艦内無線から、その報告が上がった瞬間に艦橋の皆の顔が強張る。

すぐに照明弾を副砲に込めていち早く装填が完了した二番、五番副砲に射撃を命じる。

すると空に光源が出来る。

 

「見張り員!」

 

「魚雷見えない!」

 

波間に隠れているのか、魚雷を目視するのは出来ない。

太陽が海面を照らすのはまだ少し掛かる。

 

「射線上の全艦に警報!艦首を魚雷に向ける!艦隊進路030!」

 

艦隊全艦に警報を上げ、舵を切る。

 

「魚雷見えた!本艦真横、距離01(マル・ヒト)を航走!」

 

「周囲警戒厳!他の魚雷を見逃すな!」

 

「魚雷通り抜けます!」

 

本艦は運良く回避出来たが、更に後ろに続く艦が回避出来るかは分からない。

どうにかして位置を知らせなければならない。

無線では詳細な位置が分からない。

 

ならば。

 

「探照灯、魚雷照らせ!急げ!」

 

命令を飛ばし、探照灯に魚雷を照らさせる。

 

「後続全艦に急ぎ無線!探照灯照射位置に魚雷あり、避けられたし!」

 

「了解!」

 

するとその射線の真上にいた艦が次々と回避をする。

 

「艦隊最後尾より、魚雷回避成功。以上です」

 

「取り敢えず、被害無く回避出来たか……」

 

荒波と艦隊のスクリュー干渉音によって魚雷だけでなく敵潜の位置を掴む事すら難しい状況で、良く回避出来たものだ。

 

 

しかしこの回避をしたタイミングを敵潜は狙っていたのだろう。

この強い波風の中でも分かる、確かに炸裂音が聞こえた。

 

「何事か!?」

 

「長門より入電、魚雷1本、右舷艦後部に被雷!被害状況確認中!」

 

最悪の事態と言って間違いない。

 

「長門速力低下、落伍します!」

 

「機関に浸水したか……!」

 

「駆逐艦を6隻、長門の護衛に就かせろ。何としてでも呉に回航するんだ。太陽が登り次第烈風と対潜装備で流星上げる。準備急げ」

 

沿岸部を航行して、航空支援があれば辿り着けるだろう。

問題は長門を追う敵潜がいるかどうかだ。

 

被害状況によっては振り切るのが難しいかもしれない。

 

「長門より被害状況報告です」

 

「読み上げろ」

 

「田幡機関長以下戦死103名、重軽傷者47名。

艦被害は右舷艦最後部、1番2番推進機付近に被雷。傾斜12度、艦首が少し持ち上がっているようです。同推進機二つは大破。3、4番推進機は被害無し。

右舷罐室に大規模な浸水発生。すぐに運用を停止し水蒸気爆発等の危険性は無いようです。発揮可能な最高速力は11ノット。

隔壁閉鎖により被害は抑えられているようですが装甲が海中側に捲れ上がり速度を上げると更なる浸水に繋がると」

 

「大破か……」

 

「当たりどころが兎に角最悪でした。どてっ腹に被雷していれば被害は大した事は無かったのですが……」

 

罐室に被雷したから、機関兵達が浸水から逃げ遅れたのだろう。

機関兵は艦の一番奥で勤務する。

それは戦闘時も変わらず、艦が沈んだ際に一番生存率が低いのは機関兵なのだ。

機関兵は艦と運命を共にする、とはよく言われる。

 

「呉まで回航するのは可能か?」

 

「速力が遅いので、敵潜に追跡されれば振り切るのは困難でしょう。曳航しようにも、捲れた装甲が邪魔をしますし、八方塞がりとしか言えない状況です……」

 

「……海鷹と千代田、それと駆逐艦を更に6隻護衛に就けよう。今ここで長門を沈ませるわけには行かん。それと各地の航空隊に戦闘機と対潜哨戒機を出すように言ってくれ」

 

「了解しました」

 

長門を無事に呉まで送り届けるべく、手を尽くすしかない。

 

 

 

 

 

3週間後、長門はようやく呉へ帰港。

途中何度も危うくなったが、乗組員達の必死のダメージコントロールのお陰で沈む事は無かった。

 

すぐさま入渠し、修理が始められた。

その際に速力不足で計画され準備が整っていた機関を新しいものにする事が決まった。

どちらにせよ浸水で艦後部は丸々甲板や装甲を剥がさなければならないからついでに、と言うわけだ。

 

修理と機関改装に2ヶ月、新しく配属される乗組員の訓練に3ヶ月。

都合5ヶ月長門の前線離脱を所要せざるを得なくなった。

いや、寧ろ早い方だ。

 

本来なら長門の損傷は半年は修理に時間を必要としてもおかしくはない。

しかし今回は損傷艦が長門しかいない事から、他艦の点検整備を行う事を除いても工員妖精の大部分が比較的手隙であった。

だから交代で休み無く修理を行える状況にある。

 

恐らく、長門が訓練を終了した頃には北海道戦線に決着が付いているか、趨勢は決まっている事だろうと予測出来る。

そうなると、南方方面へ向かう輸送船団護衛任務が再開される。

 

やはり激戦が続いている南方方面は、輸送船団も狙われるから十分な護衛を就けなければならない。

長門は41cm砲を装備する数少ない強力かつ機動部隊に随伴は出来ないにしても比較的速力の速い戦艦だから船団護衛任務では重要だ。

 

それを見越し、更には来るべきフィリピン、スラウェシ島、ジャワ島以東の島嶼帯、そして豪州奪還作戦に備えなければならない。

 

フィリピンは日本本土と南方方面を結ぶ航路の安定化の為に奪還を企図している。

スラウェシ島は資源地帯であると同時に敵軍の最前線基地や飛行場が多数存在する。それを叩かない限りは確実な船団航路の安定化は望めない。

ジャワ島以東の島嶼帯も同じ様な理由である。

 

日本本土と南方方面とを結ぶ船団航路の問題点は、別航路が存在しない事にある。

なんせ台湾とフィリピン間のバシー海峡〜南シナ海もしくはセレベス海を通らなければパレンバンやバリクパパンの両主要港には辿り着けない。

そこに各種資源が集められ船積みされるから行かないわけにはならない。

新しく港を建設しては、と言う案もあるにはあったが何せ真反対側の南シナ海に建設しようとする訳だから大変だ。

 

候補地が絞れなかった事や奪還した島々に飛行場や防御陣地などを優先して整備しなければならなかった事、大船団を入港させられるほどの場所が無い事など課題が山積みで頓挫したのだ。

沖合に船団を停泊させるわけには行かないからな。

 

 

豪州は民間、軍共に内陸部へ後退したとの記録がある。

ならばもし豪州を奪還し、豪軍を整えたならば南方方面に対する我が軍の防衛の負担が多少は減るし、更には南太平洋での積極的攻勢が豪州と言う補給拠点を活用する事で可能になる。

遠隔地に守備隊を多数送り込まなくとも、豪州軍にある程度でも任せれば攻勢に際して我が軍が投入出来る戦力が増える。

 

それに豪州は世界有数の資源産出地だ。

鉄、銅、鉛、クロム、ニッケル、アルミニウムの原料であるボーキサイト、アンチモン、コバルト、グラファイト、ベントナイトetc……。

実に60種類を超える鉱物資源が産出される。

南方方面では産出量が少ない資源も数多い。

仮に南方方面の資源が枯渇し始めた場合、それらに頼らなければならない事は確かだ。

 

中露韓と言った敵性国家と違い、豪州とは戦前、戦中共に連携関係にあったから作戦等での連携なども円滑に進むだろう。

 

何故、3国を仮想敵国ではなく敵性、と断定して呼ぶのか。

理由も無く呼んだりはしない。

並々ならぬ確固たる理由があるから敵性国家と呼ぶのだ。

それは別の機会に話すとするが、少なくとも国を守る責任ある立場の者からすれば到底許し難い行い、信じ難い行いがあった、とだけ言っておこう。

 

 

何にせよ、豪州と作戦上の連携を取ることが出来れば、我が軍の負担は大なり小なり減ることを意味する。

だから大陸への攻勢では無く南方方面の防衛、攻勢を主張しているのだ。

何も利になる事がなければそもそも南方方面への更なる攻勢計画など練りはしない。

大陸に攻勢を仕掛けるぐらいなら、こちらはこちらで難しいが、さっさと敵の本丸であるハワイを叩いて一時的にでも使用不可能にしてから北太平洋方面で時期を限定した攻勢を仕掛けアラスカ、カナダと奪還して行った方がまだ良い。

確実に友軍、と言える存在があるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北海道で戦いが始まってから3ヶ月。

そろそろ北海道戦線が決着が着く。

 

 

 

 

 

 

 











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