各地の視察も順調に進み、残るは前線視察のみとなった。
ビスマルクからは艦隊は特に問題無し。
あるとすれば高波で駆逐艦達が苦労している事と補給に手間取るぐらい、と送られてきている。
移動は初日から変わらず物資輸送を行なっている鉄道に相乗りである。
今回は部隊輸送ではなく、補給用物資の車列なので機関車を動かす兵士と対空機関砲を扱う兵士以外には物品管理の輜重兵が数名だけである。
輜重兵が詰める車両に間借りし、12人で暖房ありとは言え寒い寒いと耐える。
身体を動かせれば話は変わるんだが走り回る訳にはいかない。
壁に備え付けてある折り畳み式の小さな机を出し、書類を何枚かづつ片していく。
今まで視察し得られた意見を纏めて後日検討しやすいようにしておく。
やはりどの鉄道連隊も人員不足に悩んでおり、早い段階で人員を配属せねばならないのが最優先課題であろう。
取り急ぎ、出向と言う形で九州と沖縄から若干名を引き抜いて送るしかない。
連隊毎に一人づつでも九州7個連隊、沖縄本島だけで5個連隊だから少なくとも十二人の派遣が可能だ。
南西諸島全体で考えると、奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島を統括する第41鉄道連隊もいるから十三人に増える。
他の島には鉄道連隊は無く、地下陣地はあるが島自体が小さく狭い為に鉄道は敷設されていない。
他には娯楽を増やして欲しいとかなどがある。
これも、真面目に検討しなければならない事案だ。
なんせ娯楽は士気に直結する。
誰だって英気を養いたいのは当然だ。
兵士達の娯楽と言えば、戦場であれば精々がタバコか酒ぐらいなもの。
他にはトランプや花札と言ったカードゲームぐらいしかない。
あとは毎日の食事。
者によっては本だとかがあるが、陸戦の場合、特に歩兵は持ち歩けない。
戦車などの車両であればまぁ、可能だろうがそれでも限られたスペースに最大限武装を詰め込んでいるからスペースは余りない。
持ち込めても二、三冊が関の山だ。
まさか弾薬や燃料を減らして乗せる訳にもいかないからな。
大抵スペースや重量的な負担の少ないカードゲームで暇を潰しているが、逆に言えばそれぐらいしか戦闘以外でやる事が無い。
3食の食事で出される献立だけで丸一日を語れる訳もない。
語れるとしたら余程の食い意地が張っている奴か、それとも変態ぐらいなもの。
歩兵は自分の持ち歩く装備の手入れを済ませてしまえば他にやらなければならない事がない。
念入りにやっても手慣れていれば1時間もあれば済んでしまう。
場合によっては陣地の修理や構築もあるだろうが毎日じゃないし、それも警戒を担当する兵を除いても全員でやるから数時間あれば終わる。
歩哨だって交代制だから自分の番が回ってこなければ立つ事はない。
一番忙しいのは整備兵だろう。
毎日整備をしないとならないから、休む間も無い。
それが終わってしまえば先に言ったことしか暇を潰せることが何もないのだ。
まさか戦場で女遊びなんて出来ようもない。
それは後方も同じで、確かに整備などはあるが休みの日ならばやる事が無く無駄に時間を浪費するかやり飽きたカードゲーム、何度読んだか分からない、下手すれば暗唱出来るレベルまで読んだ本を読むか。
流石にこれが続けば士気も下がる。
だから娯楽を増やして欲しいと懇願が来るのだ。
定期的に本や雑誌を入れ替えているが、それでは一度読んでしまえば終わりである。
しかしそう簡単に戦地で持ち運び出来る程度の新しい娯楽なんぞ思い付かない。
人員不足よりも頭を悩ませる問題だ。
がたごとと、揺られながら進む。
物資や補充用の武器などを満載しているから速度はゆっくりで片道四時間掛かる。
二時間ほど経った頃。
車列の警報機が鳴り響く。
何事か、と窓の外を見ると直掩のスピットファイアが踵を返すような、鋭い動きで翼を翻す。
高度を上げ、車列を直接守る2機以外の14機が一目散に同じ方に向け速度を上げて飛んで行く。
その光景は、艦隊防空戦で何度となく見たものだ。
「敵機だな」
「敵機ですか!?」
「あぁ、直掩のスピットファイアが高度を上げた。敵機が車列を襲いに来たんだろうな」
「では今すぐ安全な場所へ……」
「木製壁で出来た車両の中だぞ、ロケット弾どころか機銃ですら防げん。下手に動いて邪魔するより、大人しくここにいた方がいい」
馬場大佐と永少尉と話す。
装甲列車じゃないのだ、どこに逃げても安全な場所はない。
すると、機関車を動かしている兵士の一人が駆け込んで来た。
「閣下!敵機が来ます!」
「分かっている。俺が出来ることは無い。最善を尽くしてくれ」
「はっ、勿論であります。ですが、万が一の場合は車両から飛び降りる覚悟もなさって下さい。雪が深いので大怪我を負う可能性は少ないはずですから」
「あぁ」
今直掩に就いているのはアーサー・ヒル大佐が直接率いる16名だ。
腕を考えての選抜ではなく、如何に連携をとる事が出来るか、で直掩隊は選ばれている。
機数も普段とさして変わらない。
下手に機数を増やして何かを勘繰られるよりは、何時も通りの列車だと思わせた方が良い。
それに少なかろうと彼らなら、無事に直掩任務をやってくれる。
「……敵機はどうやら戦爆連合のようです。機数は、戦闘機を合わせて40機と言った所でしょうか。戦闘機の方が多いように見受けられますが……」
「大方列車を狙うからには戦闘機にもロケット弾を搭載しているだろう。あれを載せると機動力が低下する。アーサー大佐達なら問題無い」
双眼鏡を覗いた馬場大佐が言う。
今日の天候は気温は低いが快晴であり、雲量1と視界も良い。
かなり遠くまで見通せる。
万が一接近されてもこれならば対空機銃が威力を発揮出来る。
「直掩隊と無線が繋がっております。閣下、何か話されますか?」
「いや、いい。下手に話して緊張させたく無いからな。このまま見守る」
双眼鏡を受け取り、覗く。
既に戦闘中らしい、スピットファイアが敵機を追い回している。
敵戦闘機の翼下にはやはりロケット弾がぶら下がっている。
投棄したらしい機体が殆どでスピットファイアに応戦している。
急降下爆撃機が20機に、残りは全てF4Uのようだ。
半々と言ったところか。
にしても車列を狙うにしては随分と数が多い。
恐らくは、俺がいる事を察知しているな。
我々が発する電文の数から察知されたのだろう。
覚悟はしていたし、不思議なことじゃない。
「敵の艦載機だな」
「空母がいると?」
「いや、あれは海戦で沈んだ空母艦載機の生き残りだろう。もし空母がいるならとっくに艦隊が見付けて報告が上がってくる」
反攻作戦の一番最初に生起した海戦で沈めた空母の生き残りが陸上にある飛行場に降りそのまま戦い続けているのだろうな。
感服するが、よくもまぁ機体を戦える状態に維持出来たものだ。
ただ、練度差もあってか友軍が優勢なようだ。
落とされる機体は敵ばかりで、迎撃の手を逃れようと必死になっているが此方にはまだ直掩機が2機残っている。
「警戒するに越した事は無いが、あれでは突破は無理だな」
「閣下は、航空戦に精通なされているのですな」
「いや、俺は精々齧った程度だ。まだまだ」
話していると、無線から声が。
『此方アーサー機!誰か居ないか!?』
「此方馬場。どうした?」
『どうしたも何も無い!何機かが迂回して迎撃をすり抜けた!注意しろ!』
「了解。直掩機には伝えたか?」
『伝えたが2機で押さえられるかどうか分からん!Over!』
通信を切る。
40対14だ、仕方がない。
寧ろ数機を取り逃がしただけで、よくあれだけ粘っていられる。
だがこれからは2機だけで車列を守らねばならない。
恐らくは、機銃の出番だろう。
「永少尉、伝令を一人走らせ機銃要員に警戒厳を知らせ」
「了解」
すぐに一人に命じて走らせる。
数分すると、20mm4連装機銃と37mm機銃の独特な射撃音が聞こえて来る。
射撃間隔が短い20mm機銃と、射撃間隔の長い37mmが絶え間無く撃ち続けている。
20mmは上下で発射のタイミングをずらす事が出来ることを利用して上段が銃身交換や弾切れで撃てなくなると下段が撃ち始める。
それを繰り返す事で、絶え間無く射撃を行えるようにしている。
緊急時は全てを射撃することも出来るが余程のことが無い限りは早々やらない。
ベルト給弾方式にしたことで弾倉式の場合に比べ装填時間が長くなったからだ。
4門全て撃ち切ってしまうと5人で操作しているから、装填に30秒は掛かる。
そうなっては暫くの間は全くの無抵抗になってしまう。
「窓からは離れておけ。いると分かったらすぐに襲ってくるぞ」
幾つかの爆音が響く。
恐らく音からしてロケット弾と爆弾の着弾音であろう。
「列車に異常は?」
「ありません。戦闘機に襲われて狙いが狂ったのか見当違いの場所に落ちています」
『敵機1機突っ込んでくる!迎撃間に合わない!』
通信機からそう怒鳴り声が聞こえた。
スピットファイア2機と対空機銃だけではやはり回避行動を取らない列車を守り切ることは出来ないか。
それでも皆は良くやった。
「全員衝撃に備えっ」
ほんの少しして、列車に大きな衝撃が走る。
すると列車がバランスを崩して更に大きな衝撃が身体を襲う。
脱線したのだ、思いっ切り列車が横倒しになり始める。
「何かに掴まれ!横転するぞ!」
そう叫んですぐに列車が横転した。
列車の瓦礫から這い出し、全身に付いた泥と雪を払う。
「随分と派手にやられたな……」
「閣下!ご無事ですか!?」
「あぁ、俺は無事だ。馬場大佐は?」
「見ての通り無傷です」
馬場大佐がすぐに駆け寄ってきて心配してくれるが、馬場大佐は頭から血が出ている。
俺より余程重症だろう。
「永少尉!無事か!」
「問題ありません!全員集まれ!点呼を取るぞ!」
どうやら俺達一向は全員無事のようだ。
瓦礫を退かし、自分達の荷物を全て引っ張り出し武器などを点検する。
「閣下、申し訳ありません。見ての通り列車は敵の攻撃で横転してしまいました……」
「気にするな。それより、列車の状況は?」
「機関車の爆発などの心配はありません。ただ、脱線してしまっているので走らせるのは不可能です」
「分かった。列車に乗っていた全員を集めて、武器と弾薬を拾おう。それと使えそうな暖房器具と天幕、燃料食料水を急いで集めてくれ」
「はっ、了解しました」
顔を青ざめて必死に頭を下げる車掌を落ち着かせ、列車から武器弾薬、暖房器具と天幕を幾つか、それと燃料食料を掻き集める。
「永少尉、連絡は取れたか?」
「いいえ、無線機が故障したようでウンともスンとも言いません。孤立しました」
「直掩隊が知らせてくれているだろうから心配は無いだろう。あとは、攻撃を受けた際に救助が来るまで持ち堪えられるかどうかだな」
「敵機が大挙して押し寄せたら無理ですな。蛸壺を掘って耐えることぐらいしか出来ないでしょう」
「なら、全員で穴を掘るぞ。墓穴にならんように全力でな」
「了解です」
全員で近くの林の中に隠れ、そこで穴掘りと天幕を立てる。
俺もStg44と弾薬、弾倉を背負って円匙で穴を掘る。
今は人手が欲しい時だ、俺だけボケっとしている訳にはいかない。
銃の扱いは心得ている。
皆と比べると大した事は無いだろうが、教育の時に中代大将や射撃教官役から叩き込まれている。
これでも射撃は得意なんだ。
まぁ、あくまでも的に撃つことならば、だが。
戦車の交換用であるMG34や九九式軽機関銃も対空三脚と一緒に配置してある。
簡易的ではあるが陣地のようなものは出来た。
小隊規模の人員がいるから時間はあまり掛からずに済んだ。
久々だな、こんなに身体を動かしたのは。
「閣下は我々がお守りします。武器を持たれなくとも……」
「何、万が一の時の為にな。流石に拳銃だけじゃ心許無い」
「分かりました。ですが我々の後ろに居て下さい」
「あぁ」
骨折などの重症を負った者もいるが全員の命に別状は無いことが確認された。
応急的に全員を俺の直接指揮下に入れ、万が一の場合戦闘になったら永少尉に指揮を任せることに。
全員で隠れるための掩体を掘り、天幕を立て、暖房器具に火を入れる。
これで取り敢えず寒さは凌げる。
偽装用に他に幾つもの天幕を立てて暖房を焚く。
「閣下、直掩隊がまだ上空を飛んでいます」
「満載で来たからまだ燃料に余裕があるんだろう。これで敵機に一方的にやられることは無くなったな」
「しかし……、閣下は随分と楽観的ですな」
指摘されて頷く。
「艦内で焼け死ぬよりはマシだ。海の上は逃げ場が無いからな。それに比べてここは木に隠れられるしいざとなったら走って逃げられる」
「そういうものでしょうか」
「そういうものだ。俺がこんなことで怯えていられんしな」
馬場大佐と話ながら林の中で身を隠す。
他の皆は俺の護衛を除いて全員で弾薬や食料を出来るだけ運びつつ、敵に備えた。
翌日。
漸く救助が来た。
軌条の修理を行うクレーン車やブルドーザーを乗せた列車が5両、装甲列車に守られてやってきたのだ。
俺達はそれに乗って富良野へ戻りそこから一式陸攻と次こそはと燃えるアーサー大佐いか30機に守られ千歳飛行場へ。
すぐに病院に担ぎ込まれ検査を受ける事になり異常無しと軍医に判子を貰い、念の為入院してはというのを躱しつつ室蘭へ。
そこから水上機でビスマルクへ向かうこととなった。
艦隊に戻る。
ビスマルク艦上は相変わらずであり、寒風と荒波に揉まれている。
乗っている水上機をクレーンで回収され、甲板に降ろされてから機体を降りる。
あ、小銃を持ってきてしまった。
後で返さないとならないな。
「提督!」
「ビスマルク、どうした」
「どうしたもこうしたも無いわよ!貴方自分がどんな目に遭ったか分かっているの!?」
「勿論。遅かれ早かれ、ああ言う目に遭うのは重々承知の上だ」
「それでもよ!」
ビスマルクに心配したと怒られながら出迎えられる。
参謀長達も気が気でなかったと口を揃えて言うもんだから肩身が狭い。
心配掛けたとは言え、この様子なら入院を断らなければ良かったか……?
その方が絶対に大丈夫とお墨付きを貰って堂々と出来たんだがな。
天候は回復したが、未だ波が高く風は強い。
艦載機を飛ばすには、幾らか注意を払う必要があるな、この様子だと。
前線の問題と言えば、補給などぐらいなもので戦力的には現状問題無い。
やはり敵の有力な戦車の出現と言うのは如何ともし難く、IV号戦車やIII号戦車では敵新型戦車(パーシングと確認された)にはどうしても抵抗は難しい。
走攻守、全てにおいてまるで歯が立たない。
辛うじてIII号戦車が走の部分で拮抗出来るか、と言った程度で後方に回り込むなどの自分達の戦車砲弾が貫通可能箇所を狙える位置取りを行うのも難しい。
正面からの撃ち合いは、まず勝てない。
となると伏撃か、ナースホルンの眼前に誘導して対戦車砲による撃破ぐらいしか対抗戦術が、戦車対戦車戦において存在しない事になる。
とは言えナースホルン自走対戦車砲ならば撃破出来るが、やはり機動力と防御力の面では劣る。
ティーガーやパンターであればやられはするが戦える。
それでも貫通力、防御力共に完全ではない、との報告が相次いでいる。
そも、二車種は配備数自体がまだまだ少ない現状であちこちの戦線を駆け回っているのが現状だ。
擱座したパーシングを徹底的に解析したところ、やはり今のままでは敵の装甲が少しでも強化されたら主砲は威力不足になるであろうとされた。
そこで、ティーガーIIの車体と砲塔生産が間に合わず余剰になっていた71口径砲身に換装し、二車種の砲身長を長くし取り急ぎ攻撃力だけでもの強化を実施すると言う手段が取られた。
多少の改装は必要であるが、必要経費であろう。
決定が下された翌日から、前線にいるティーガー、パンターから直ぐ様改装が行われた。
これにより初速が上がり貫通力が増す事になり、余程加速度的に敵戦車の装甲が分厚くならない限りは、当面の間は問題無いようになった。
元々造兵廠では有力な戦車が敵に出現した場合に備えて、対抗する事が難しい、もしくは実力が拮抗するなどの事態になっても良いように予め設計などは進めさせておいたのが功を奏した。
これで攻撃力の面においては問題が無くなったが、防御力はどうにもならない。
ただでさえティーガーは戦闘重量57tと言う重量故に馬力不足であった二車種を度重なる改良でエンジン馬力を向上させたのに、これ以上装甲厚を増やすのには無理がある。
急激に装甲を厚くしてしまうと馬力不足に泣く羽目になる。
エンジンの大幅改善によって最高速度は51km/hを発揮出来るが、砲身を71口径にし、それに伴う改装で重量は増加しているのだ。
下手をしたら馬力不足を理由に保管倉庫に眠っている栄エンジンを引っ張り出して戦車用に改造して載せなくてはならなくなる。
流石にそれは現実的では無い。
少しぐらいの装甲厚を増やすぐらいなら話は別だが、0.5mm増えたからと言って敵戦車の砲弾は防げない。
しかしこれでも急場凌ぎでしかなく、早急にティーガーII、センチュリオンの数を揃え、部隊編成を完結しなくてはならない。
倉庫に入れられていた3両ずつは既に同一部隊として編成され、北海道の各地で戦っている。
ティーガーIIは機動戦に向かないから、所謂支援役でセンチュリオンが機動戦を担当する。
車両自体は大して変わらないが機銃だけはMG34に置き換えられている。
対歩兵の制圧力を上げる為に実施され、現状弾薬倉庫に積み上げられている古い7.92mm弾を使う意味もある。
流石に足りなくなると予想されたので生産数を増やさなければならないが、それでも使用しているのが車載機銃と少数の航空機なだけの為、簡単な話だ。
生産ラインの内の幾つかが生産過剰になる為に停止させ、定期的に稼働させるぐらいだったからその生産ラインを再稼働すれば良い。
2日ほど整備点検をした後に、問題があれば解決する。
それでも4日もあれば工場が吹き飛ぶぐらいの事が無い限りは全生産ラインをフル稼働させることが出来る。
戦車の生産ラインも順次パンターとティーガー、ティーガーII、センチュリオンに切り替えている。
南方方面に展開する部隊の戦車も全て豪州奪還までにはパンターに置き換える予定である。
豪州奪還には主力としてパンターとセンチュリオンの二種を、拠点防衛にティーガーとティーガーIIを用いる予定だ。
拠点防衛には二車種に加えて1〜2小隊程度のパンター、もしくはセンチュリオンを組み込む予定だ。
理由は単純に、前者は長距離の行軍に機械的信頼性があるからだ。
後者も度重なる改装により機械的信頼性は十分であり、運用する事になんら問題はない。
しかし、豪州は今までのどの戦場よりも広大であり敵新型戦車戦車の数も配備数も高いものと予想される。
となると、広大な戦場ならば鉄道を敷かねば移動は困難だ。
しかし進軍と敷設を同速度で行えないし、何より敵よりも単純な数字上の戦力が劣った我が軍が敵軍に対して打ち勝つには機動力や練度で補うしか無い。
となると鉄道敷設を待っていられないのだ。
ティーガーとティーガーIIは、その重量故に長距離の移動に向いていない。
重過ぎる余り、各部の部品の摩耗が激しいからだ。
機械的信頼性が高いから、よほど、それこそドリフトだとかそんなレベルの荒過ぎる運転でもしない限り故障は少ないが、部品の摩耗は動かす以上どうにもならない。
もし長距離行軍をしたとなったら頻繁に交換しなければならないし、そうなると各戦車部隊に就く整備大隊の負担は計り知れない。
しかしパンターとセンチュリオンはそう言う事は無く、長距離の移動が可能だ。
だからこの様な担当訳に決まった。
ティーガーはまだしもティーガーIIならば敵新型戦車に対しても機動力でこそ同格であるが、攻撃力防御力に関しては絶大な威力を発揮する。
しかし何よりも問題なのはやはりティーガーIIの問題は重量に見合ったエンジン馬力でない事だろう。
ティーガーは改善されたがティーガーIIともなると、それこそ本当に1000馬力級以上のエンジンが必要になる。
馬力不足はエンジンに所用出来る以上の負荷を与え、頻繁な整備や交換を必要とする。
戦前のレオパルド2戦車など欧米現代戦車が軒並み1500馬力級のパワーパックを搭載している事を考えても、どの戦車より10tは確実に重いのだから、当初700馬力から向上したとは言えその半分程度の830馬力で70tもの重量を動かしているのだ。
明らかに馬力不足である。
二車種は機動戦には全く向いていない。
だから防衛用にする事で十分な運用が出来るようにしたのだ。
置き換えられるIII号戦車とIV号戦車は初等操縦訓練用を除き全車両が退役、もしくは博物館行きである。
「提督、報告書よ」
「ありがとう。今日はもういい、休め」
「貴方がベッドに入って寝たのを確認したら私も寝るわ」
「……脅しか?」
「あら、提督の身体を思ってのことなのにそんな酷いことを言うのね」
にこりと笑いながらビスマルクは言う。
皆、俺の扱い方を理解しているからこう言われる。
そう言われると弱る。
バツが悪くなって頭を掻きながら降参するしかない。
「はぁ、分かった。重要なのと早めに片付けないとならないものを片付けたら寝る」
「本当は今すぐにでも寝て欲しいのだけど、まぁそれぐらいなら許すわ」
「すまんな」
「提督の仕事熱心で、部下思いなのは良いところだけどそれで自分を犠牲にして身体壊したら意味無いわよ」
「ご忠告、痛み入るな」
「他の皆からも散々言われているでしょうに、なんで直らないのかしら?」
「何年もこんな生活だ、今すぐ止めろと言われて止められたら皆からしこたま説教を食らったりはしない」
「ま、貴方が終わるまではここに居させてもらうから。何かあったら手伝うわ」
「ありがとう」
「Gern geschehen(どういたしまして)。それよりも、身体の調子は?大丈夫なの?」
「この通りピンピンしている。怪我や体調不良を隠したりはしない。流石に学んだよ」
「それならいいけれど、何か変化があったらすぐに言いなさい」
「あぁ、心配掛けてすまん」
再び仕事を片付けていく。
量は大したことない、すぐに片付けてしまおう。
「終わったかしら」
「あぁ、終わった。それじゃ寝るか」
「貴方が寝るのを見届けたら私も部屋に帰るわ」
「俺は子供か?」
「夜更かししようとする子供と大して変わらないでしょ」
多分、何を言ってもビスマルクは動かないであろうな……。
観念してさっさとベッドに潜る。
「Gute Nacht、提督」
「あぁ、おやすみ」
思っていたより疲れていたらしいのか、すぐに寝てしまった。