暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

62 / 85




短めです。









第61話

 

 

 

 

 

収容施設へやってくる。

とは言えプレハブ執務室は目と鼻の先なので、やってきた、なんて程ではない。

 

「ご苦労、捕虜の尋問を行う予定だ。通してくれるか」

 

「お疲れ様です。それでは此方に名前と識別番号、階級を記入して下さい」

 

「手帳は?」

 

「お預かりします」

 

衛兵に軍隊手帳を渡し、クリップボードに挟まれた用紙に言われたものを書く。

俺以外の鳳翔、護衛4人もそれぞれ手帳を預け同じように書いていく。

 

「本人確認が完了しました。何か危険物をお持ちでしたら此処でお預け下さい」

 

「何も無いな。護衛もか?」

 

「万が一がありますので、拳銃ならば持ち込んで構いません。小銃は不可です」

 

「そうか。聞いたな、預けてやれ」

 

「「「「はっ」」」」

 

小銃を預け、皆を連れて収容施設内に入っていく。

建物自体はプレハブ平屋で、敷地面積もそこそこ広い。

 

施設内には厨房も用意されており、食材が手に入れば自分で食事を作ることも可能だ。

内装はプレハブではあるが、ある程度は過ごしやすいよう装飾されている。

 

プレハブの中に入ると、戦艦棲姫が椅子に腰掛け支給された服を着て何やら本を読んでいる。

しかも軍事関係のものではなく、個人の趣向が色濃く反映される雑誌だ。

他にも料理に関するものやら多岐に渡っているらしい、本棚には様々な書籍が並んでいる。

 

此方に気が付いたらしい、ちらちらと警戒しながら本を読み進めている。

それを確認し、プレハブをぐるりと見て回る。

 

生活空間とは、基本的に他者から与えられたものだと与えられている者に対する待遇などが現れる。

 

パッと見るに、不当な扱いをされている訳では無さそうだ。

部屋の中をぐるりと見回り、鳳翔に聞いてみる。

 

「何か違和感はあるか?」

 

「特にはありませんね。汚れも毎日掃除をしている程度のものですし、プレハブですから何かあっても隠せる場所はありません」

 

「ならば、大丈夫か。それじゃぁ、行こうか」

 

「はい。提督、捕虜とは言え女性ですから気を使うのはお忘れにならないで下さいね」

 

「分かっている。捕虜に対するセクハラ、セクハラになるかは分からんが、それで憲兵にしょっ引かれるのは勘弁だ」

 

深海棲姫が座るテーブルへ近付く。

既に顔は知っている鳳翔が従っている事から、上位者である事は察しているらしい、立ち上がり敬礼をする。

 

答礼をして、座るように促して俺と鳳翔も椅子に腰掛ける。

 

しかし驚いた。

深海棲艦にも敬礼などがあるとは。

深海棲艦に付いて分かっている事は少ない。

 

しかし我々の常識である彼女らとは意思の疎通が全く出来ないものだと言う認識は、今ので丸っ切り覆るわけだ。

 

戦艦棲姫の見た目は、何というか随分と人間に近しい。

違う部分もある。

 

顔立ちは、艦娘達同様端正なもので、もし街中に紛れたら紛れることなど目立って出来ない。

もし居たならば騒ぎになるだろう。

 

黒髪で、身体付きなどは凡そ人間の、スタイルの良い女性と大差ない。

まず違うところと言えばパッと見てすぐに視線が寄るであろう額から生えている角だ。

何なのかは分からないが、取り敢えず角だ。

 

他には瞳の色が人間とは違う。

真紅とも言えるような色で、まず人間ではあり得ない。

 

人間の瞳の色が赤になるには先天性白皮症、所謂アルビノと呼ばれる人々でなければ赤の瞳を持つことは出来ない。

カラーコンタクトを挿れれば、まぁ可能だがどう見てもカラーコンタクトでは無いのは確かだ。

 

他には肌の色だろう。

何と言うべきか、色白なんてレベルではない。

生気が無い、と言うのだろうか、白のような、とても薄い灰色の様な肌色をしている。

身体の中に盗聴器などが仕込まれていないかを確認する意味合いも持っていた身体検査で異常無し、と言う結果を知っていなければ尋問とかよりも即座に軍医を呼んで、必要ならば軍病院に担ぎ込ませていたところである。

 

不躾にならないようパッと見るだけに留め、彼女の顔を見る。

 

「初めまして、私は日本陸海軍大将、湯野だ。貴官の名前や階級は、あるか?」

 

「戦艦第1137号、ト呼バレテイタ。捕虜番号、モ言ウカ?」

 

名前と言うより、識別番号のようなものか。

どうやら個々の名前などは無いらしい。

彼女の捕虜番号は1番である。

 

1人目の捕虜であるのだから当然である。

 

「いや、それは良い。では私と会話する意思はあるか?」

 

「……」

 

小さく頷いた。

 

「では、単刀直入に聞こう。君達は、一体何者だ?」

 

「何者、トハ?」

 

不思議そうに首を傾げ、聞いてくる。

まぁ確かに俺でも何者か、と聞かれたらすぐには答えられない。

 

「どのような存在であるか、どこから来た、とかそう言う事だ」

 

「ワカラナイ。気ガ付イタラ私ハ居タ」

 

「君は、自分のことについてどれだけ知っている?」

 

「私ハ、戦艦第1137号。ソレ以上デモ以下デモナイ」

 

「なるほど……」

 

本当に、それぐらいしか知らないらしい。

 

「では、何故君は我々に投降した?話に聞くと、臨検をした際に君は一切の抵抗も無く、此方に投降したと聞く」

 

「貴方達ト、一緒。私達ハ戦ウ為ニ生マレタ。ダケド一枚岩ジャナイ」

 

「なるほど、そう言う事か」

 

要は、深海棲艦にも戦いが好きな奴と、戦いが嫌いな奴に別れている、そう言う訳だ。

 

「君は、戦いたくない、そう言うことだな?」

 

「ソウ」

 

「では、何故君達は我々の北の地に攻め込んで来た?」

 

「北ニハ戦イガ嫌イナ者ガ集メラレテイル。ダガ南デ大キナ損害ヲ食ラッタカラ補充ノ為に引キ抜カレタ。後カラ送ラレテ来タノハ戦イガ好キデ人間ヲ凄ク憎ンデイル者バカリダッタ」

 

「中枢カラノ命令デ、攻撃ヲ仕掛ケル事ニナッタ。最初ハ艦隊デ空襲スルダケダッタノニ、皆ハドンドン計画ヲ大キクシ始メタ」

 

「結果、北海道への上陸と言うことか」

 

「ソウ。私以外ハ皆戦イヲ好ンデ、人類ガ嫌イダッタ。命令ダカラ戦ッタケド、モウ戦イタクナイ。戦イハ凄ク怖クテ、嫌イ。私ハ、出来損ナイナノ……」

 

どうやら、我々が南方方面で実施した作戦で敵の艦隊を沈め続けた結果、双方の主戦場である南方の戦力を穴埋めする為に北方から戦力を引き抜いたらしい。

それによって、北方に新しく送られた戦力はその殆どが交戦的な者ばかりで、最終的に北方の戦力は彼女以外は俺達が想像する深海棲艦そのものになったらしい。

 

恐らくだが、深海棲艦の中枢とやらには北方を戦うのを嫌がる連中を軒並み戦いで死なせ、自分の人類への攻撃と言う命令に忠実に従う部隊へと変える意図があったのではないだろうか。

 

それから話を聞き続けていると、色々と話してくれた。

 

部隊の入れ替えによって交戦的な部隊になった北方軍は、中枢からの命令で攻撃計画を練ったそうだ。

しかしその計画はどんどん膨れ上がり、当初はゲリラ的に空襲を行って打撃を与える程度のものだったのが、最終的に北海道全域の占領、本州侵攻の足掛かりとする橋頭堡の設置を行うと言うものにまで膨れ上がった。

戦力的な理由と、これまでの南方での負け続きに嫌な予感を感じていた彼女は反対したらしいが、全く聞き入れられるどころか艦隊旗艦すらも降ろされることに。

 

北海道侵攻が開始され、我々の反撃が始まると南方に行った仲間達と同じ運命になると悟ったらしい。

 

しかし海戦では彼女だけは残ってしまい、生き残って戦い続けるよりも死を選んだ。

自ら機関の火を落とし、動けなくして攻撃で沈むのを待っていたそうだが、攻撃を喰らっても何故か沈まず、そこに臨検隊が乗り込んできたと言うことらしい。

 

そして抵抗もせず捕虜となり、何の因果か彼女だけ生き残った。

 

そう言う事だそうだ。

 

 

 

 

「……なるほど」

 

「私ヲ、ドウスル?貴方達カラスレバ、私ハ味方ヲ殺シタ怨敵」

 

「いや、どうもしないが」

 

「ヘ?」

 

「君は、我が軍の捕虜である事は間違いない。申し訳ないが、君が捕虜を装った内通者を疑って電波の発信等の監視を今までやらせて貰っていたが、それもない。君は、正当な手段と手続きを踏んだ上で我々の捕虜になっている」

 

「ドウイウコト……?」

 

「捕虜ではあるが、君を殺したりだとか、不当な扱いをするつもりはない、と言うことだ。話して分かったが、嘘をついているようでも無さそうだしな」

 

「私ハ、生キテイラレル?イイノ?」

 

「あぁ、勿論だとも。日本陸海軍大将、湯野勝則の名に置いて君の生命、権利、捕虜と言う制限されたものではあるがその中に限り自由を保障しよう」

 

「……アリガトウ」

 

「良い。この敷地内であれば自由にして構わん。何か欲しい物があれば俺か、この鳳翔に言うといい。可能な限り用意させよう」

 

彼女は頷く。

理解して貰えたらしい。

 

よほど生きていられる、戦わなくて良いことが嬉しいのか泣き出してすらいる。

これで全て演技だったならば、大役者に間違いない。

 

「鳳翔、浜谷曹長」

 

「はっ」

 

「はい」

 

「俺の名で彼女の生命、権利、自由が保障されていることを通知したまえ。もしそれらが侵害された場合、厳罰を以て対処する」

 

「「了解しました」」

 

「それでは、話はこれで終わりだ。何か質問などはあるか?」

 

「ア……」

 

「どうした」

 

「ソノ、一人ダト、ソノ、寂シイ……。ダカラ、偶ニデイイ、話シ相手、欲シイ」

 

「成る程……。分かった」

 

確かに捕虜仲間が居るならば別だが、一人で暮らすには広いプレハブにたった一人だ。

人恋しくなるぐらいには寂しいのも分かる。

 

メンタル的な問題であるから頷く。

 

すると鳳翔がとんでもないことを言い出した。

 

「提督がやられては?」

 

「はっ?」

 

「終業した後に彼女の元を訪れて、話し相手になってあげるんです。そうすれば、提督が隠れて残業したり、徹夜したりとかありませんし」

 

「絶対に後半が目的だろう、それは」

 

「あら、話し相手を欲しがっている彼女の為です」

 

「まぁ、別に俺は良いが、問題は向こうだろう。良いのか?」

 

「別ニイイ」

 

「ほら、そう言っていますし」

 

「……分かった分かった。身から出た錆ということか」

 

今までの徹夜やらが巡り巡ってこんなことになるとは……。

嫌なわけではないが、まさかである。

 

「私や隼鷹ちゃん達も訪ねますから、宜しくお願いしますね」

 

鳳翔が言うと、頷いた。

それから俺達は収容施設を出て、プレハブ執務室に戻る。

 

彼女の報告書を作成し、敵意等無く協力的であること、俺の庇護下に置くことで最悪の事態を避けることなどを書き連ねた。

そして彼女の事は機密条項であり、全兵士が口外を厳禁とすることとした。

 

もし存在が外部に知られれば、どうなるか分からない。

国民感情が爆発して襲撃されたりしたら、生命の保障は無い。

 

 

 

 

 

 

 

翌日から、持ち回りで彼女の元を訪れることになった。

しかし名前が無く呼び辛いとのことで、名前が考えられた。

 

形式上、鹵獲艦ということなので戦艦の艦名である旧国名から引っ張ってくることになった。

 

結果、安芸(あき)となった。

これならば呼びやすく、そして普通の名前っぽいとのことで決定された。

 

 

 

 

 

 

対話から3ヶ月。

安芸は問題を起こすでもなく、ごく普通にして過ごしている。

生活としては、労働が無いので差し入れられたりした本を読んだり、料理をしたりと一日を収容施設の中で過ごし、夕方5時になると俺や皆が話をしに行く、と言うルーティーンになっているらしい。

 

俺達が行くと嬉しそうにする。

一日誰とも口を聞かずにいるというのは中々に辛いものらしく、話すのが何よりも楽しみだと言っていた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。