暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第65話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦隊との距離は?」

 

「凡そ350海里、十分に攻撃範囲内です」

 

距離は縮まっているが、まだ遠い。

搭乗員の負担を考えたらやはり300海里以内に敵艦隊を収めたい。

それに今は夜だ、攻撃隊を放つのは難しいし、敵艦隊と付かず離れずの距離を保たないとならない。

 

「夜明けと同時に敵艦隊に対して攻撃を行いたい。編成は第一次第一波は爆装を多くして周りを囲む戦艦や巡洋艦の対空砲を沈黙させてから魚雷を叩きこもうと思う。どうだろうか」

 

「それが被害を減らせる確実な方法でしょう。そのように準備を進めます」

 

「頼む。それと引き続き対潜、対空警戒を厳にするように」

 

「了解しました」

 

参謀長達と話を付けていると、航空参謀の石丸中佐が手を上げる。

 

「どうした?」

 

「提督、この際ですので敵艦隊に対する夜間攻撃を実施しては?」

 

「それは、出来るのか?」

 

「訓練では既に夜間の敵艦に対する攻撃も実施しております」

 

「だがそれはまだ一度しか行っていないと聞いているが」

 

「その通りです。ですが、実戦以上に得られる経験や戦訓は無いと考えます。それに、今ならば確実に敵艦隊に対して先制を取れますし、敵艦を沈めることは出来なくても提督が仰ったように対空砲や電探などは破壊、沈黙させることが可能です」

 

「……原田少将と西嶌中佐を呼んでくれ。彼らに聞いて可能かどうかを聞いてから決める」

 

「了解しました」

 

五分もしない内に二人が艦橋に上がってくる。

 

原田少将は前線部隊の指揮官としては有り得ない階級であるが、その実力故に余裕の無い我々母艦航空隊戦闘機隊の総隊長を務めている。

西嶌中佐は戦爆全体の攻撃隊を直接率いて指揮する人物で、先の北海道沖海戦が指揮官としての初陣だった。

階級的には原田の方が上だが、指揮の序列としては西嶌のが高い。

 

「提督、何用でしょうか?我々を呼んだということは、攻撃に関することだとは分かりますが」

 

「二人とも、今俺達は敵艦隊に対して夜間攻撃を仕掛けるか否かを議論している。率直に、自分の意見だけを言ってくれ。可能か?」

 

俺が聞くと、二人は難しい顔をする。

 

「どうでしょう……。やること自体は可能ですが、なにぶん夜間対艦攻撃は、夜間対地攻撃と全くの別物です。対地は事前情報と照明弾の明かりで十分撃破は可能ですが、動く目標に対してとなると……」

 

夜間の海上は、本当に真っ暗だ。

 

明かりがあっても海面がどこなのかすら分からないし、距離感覚や時間感覚など、昼行生物の我々はあらゆる感覚が昼間に比べて鈍くなる。

 

「私は、西嶌中佐の意見を尊重します。戦闘機隊は攻撃隊を守るのみですので」

 

「西嶌中佐、雷撃無しで降爆だけならどうだ?敵艦は沈めなくてもいい、対空砲と電探さえ潰せればいいんだが」

 

「なるほど……。それなら、可能かもしれません。敵の対空砲を薙ぎ払うなら25番2発で十分ですし、機体にも余裕があります」

 

「であるならば、実行してくれるか」

 

「勿論であります。やれと言われたからには見事目的を達成してみせましょう」

 

「頼む。ただ、かなり冒険的なものだ、もし西嶌中佐が実行不可能と判断したら攻撃を行わずに爆弾を投棄して帰投しても構わない。良いな?」

 

「はっ」

 

「であれば、攻撃隊の準備を進めてくれ。発艦は……、敵艦隊との距離も縮めることなどを考えて、余裕を持って一時間後の2100からでどうか?」

 

「ぶら下げるのは爆弾だけですが初めてのことなので、それで問題無いでしょう」

 

「ではそれで進めてくれ。出来る限りの万全は尽くすようにな」

 

「了解しました」

 

「では、二人とも、頼んだぞ」

 

「「はっ」」

 

解散後、攻撃隊の準備は着々と進められた。

流星には、今回は25番を2発積むに留めておく。

敵艦を沈めるのが目的ではなく、対空砲を破壊、もしくは沈黙させる程度の損害を与えられればいいからだ。

目標は空母ではなく周りの戦艦や巡洋艦といった空母を守る護衛艦艇である。

空母に爆弾をねじ込んでもいいが、25番の損害だとすぐに修復されてしまうのは目に見えているので一次攻撃と二次攻撃の二回どちらとも護衛艦艇に狙いを絞る。

 

2100きっかり、甲板に並べられた夜間攻撃隊は順次発艦を開始した。

攻撃兵力は烈風71機、流星63機と以前の夜間対地攻撃と全く同じだ。

 

 

 

 

飛龍 

烈風5機 流星6機

 

蒼龍

烈風5機 流星6機

 

瑞鶴 

烈風5機 流星6機

 

隼鷹

烈風5機 流星6機

 

飛鷹 

烈風5機 流星6機

 

天城 

烈風5機 流星6機

 

阿蘇 

烈風5機 流星6機

 

大鳳 

烈風5機 流星6機

 

グラーフ・ツェッペリン 

烈風5機 流星6機

 

アークロイヤル

烈風5機 流星6機

 

信濃 

烈風5機 流星6機

 

加賀 

烈風11機 流星3機

 

 

 

烈風71機

流星63機

 

 

 

計134機

 

 

 

 

 

以上が各艦の出撃機数だ。

攻撃兵力としては全く不十分に違いないが、今は仕方がない。

発艦する数が少ないから、ほんの5分で発艦を終えると、攻撃隊は編隊を組んで敵艦隊へと飛び去って行った。

 

「2時間もあれば、攻撃の結果は分かるでしょう。戻ってくるのにもう2時間と見て整備と爆装にもう1時間。余裕を持って考えても0300までには再攻撃が可能になるかと」

 

「それは攻撃隊の被害状況と相談だな。軽微なら再度攻撃を加えて確実に敵艦隊の防空網に穴を開けておきたい」

 

「了解しました。準備を進めるだけ進めても宜しいでしょうか」

 

「あぁ、進めてくれ。それと帰って来た時のために飯を用意しておいてやれ。気を使って腹が減っているだろうからな」

 

「はっ」

 

攻撃隊の無事と安全を祈りつつ、艦橋で待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2326、攻撃隊から敵艦隊発見の報告がされた後すぐにト連送が打電された。

 

2402、戦果と損害を報告する電文が送られてきた。

 

「読み上げます。『我、敵戦艦4ニ攻撃ス。命中ソレゾレ20発以上。艦上構造物ノ損害大ナレド沈没ノ見込ミ無シ。健在ナル敵戦艦5。我ガ方ノ損害無シニツキ再攻撃ノ要アリト認ム』以上です」

 

「大戦果だな……」

 

「まさかここまで上手く成功するとは思っていませんでした……」

 

「どういうことかは、攻撃隊を収容してから聞こう。収容準備だ」

 

「了解しました」

 

思わぬ大戦果に、逆に困惑してしまう。

 

帰ってきた攻撃隊に話を聞いてみると、どうやら完全に奇襲となったらしい。

迎撃機も無ければ、対空砲もまばらに撃ち上げてくるだけで、巡航速度で動くばかりだったのだとか。

寧ろ対空砲や機銃を撃ってきたことで敵艦の位置が分かり易かったということらしい。

 

なるほど、敵はどうやらこちらの夜間攻撃を予想していなかったらしい。

こちらの機が電探を積んでいるとは思っていないのかもしれない。

本土上空の防空戦では、銀河が積んでいるだけで震電は積んでいないということもあって、単発機に積んでいないと余計に思わせたのかもしれない。

俺だったら単発機に搭載されておらず、どこかに大型機が居てそいつが電探を積んでいると考えているだろう。

 

「提督、第二次攻撃隊を出しましょう。この調子であれば敵戦艦全ての対空砲を沈黙させることも可能です」

 

「勿論だ、流星には再度爆装を行い、烈風にも爆装させよう」

 

「それは危険では?」

 

「なに、もし敵が機上電探を装備していたら同じように攻撃をしてくるか、そもそも迎撃を受けていたはずだ。それがないということは敵に機上電探を装備している戦闘機は無いと考えていいだろう」

 

「なるほど……。ですが、用心するに越したことはありません、我が飛龍隊と蒼龍隊は爆装無しで出撃させましょう」

 

「それで行こう」

 

0240、第二次攻撃隊が発艦。

0353にト連送が発せられ、0412に戦果電文が発せられた。

 

『我敵戦艦4ニ降爆、敵戦艦1ニ烈風15機ガ攻撃ス。敵戦艦ノ対空砲ハ沈黙、炎上中。他、巡洋艦7ニ攻撃。対空機銃等破壊確認。敵機ノ迎撃受ケズ損害無シ』

 

どうやら予想は的中したらしい、敵艦隊に機上電探を装備している敵機はいないようだ。

薄暮に合わせて攻撃隊の準備も終えており、0400きっかりに飛び立っている。

入れ変わりで敵艦隊に攻撃を加えることになる。

 

 

 

 

 

第一次攻撃隊 第一波

 

 

 

飛龍

烈風20機 流星12機

 

蒼龍

烈風20機 流星12機

 

瑞鶴

烈風20機 流星20機

 

隼鷹

烈風20機 流星12機

 

飛鷹

烈風20機 流星12機

 

天城

烈風16機 流星12機

 

阿蘇

烈風16機 流星12機

 

大鳳

烈風16機 流星12機

 

グラーフ・ツェッペリン

烈風16機 流星無し

 

アークロイヤル

烈風16機 流星無し

 

信濃

烈風36機 流星16機

 

加賀

烈風32機 流星16機

 

鳳翔

烈風12機 流星4機

 

大鷹

烈風12機 流星4機

 

神鷹

烈風12機 流星4機

 

千代田

烈風12機 流星4機

 

 

 

烈風296機

流星152機

 

計448機

 

 

 

 

 

 

ー------------

 

 

 

 

 

第一次攻撃隊 第二波

 

飛龍

烈風12機 流星14機

 

蒼龍

烈風12機 流星14機

 

瑞鶴

烈風12機 流星26機

 

隼鷹

烈風12機 流星14機

 

飛鷹

烈風12機 流星14機

 

天城

烈風12機 流星16機

 

阿蘇

烈風12機 流星16機

 

大鳳

烈風12機 流星14機

 

グラーフ・ツェッペリン

烈風12機 流星14機

 

アークロイヤル

烈風12機 流星18機

 

信濃

烈風25機 流星26機

 

加賀

烈風25機 流星29機

 

鳳翔

烈風8機 流星8機

 

大鷹

烈風8機 流星8機

 

神鷹

烈風8機 流星8機

 

千代田

烈風8機 流星8機

 

 

烈風202機

流星247機

 

計449機

 

攻撃隊は以上のようになった。

夜間攻撃を行った流星は整備と再武装の時間がないので外されている。

各空母から4機ずつの烈風と夜間攻撃を行った烈風を全て直掩に残して、あとは全て攻撃隊に随伴させている。

135機の烈風と、流星63機の計198機が艦隊の上空を守る。

 

合計機数に差は無いが、第一波攻撃隊には烈風を多く随伴させ、確実に制空権を奪取するために流星の数を減らしている。

300機も烈風が居れば確実に敵戦闘機の迎撃は抑え込める。

逆に第二波には流星を多くして敵艦隊に対する攻撃能力を上げている。

 

その気になれば全機を一つの攻撃隊にすることも可能で、カタパルトのおかげで発艦も短時間に終わるが、準備の時間が足りないこと、収容作業が煩雑になること、二の矢をつがえることが難しいことなどから二つに分けている。

 

発艦には第一波が30分、第二波も同じく30分程度で終了させ、敵艦隊に飛び立っていく。

 

流石にこれだけの大編隊を組むとあって空中集合にたっぷり20分を要したが、順調に敵艦隊へ攻撃隊は飛んで行った。

 

 

 

 

 

ー--- side 西嶌 ー--ー

 

 

「壮観だな……」

 

「えぇ、世界中どこを探しても艦載機だけで、これだけの大編隊は後にも先にも無いでしょうなぁ……」

 

後ろに乗る矢田と、攻撃隊の大編隊を見て呟く。

 

右を見ても左を見ても、我が海軍の特徴的な濃緑色と濃紺の迷彩が施された機体が、4機編隊を組んで発動機の爆音を猛々しく響かせながら飛んでいる。

 

矢田が言った通り、空母艦載機でこれだけの大編隊は先ず無いことだろう。

 

しかしだからと言って油断はできない。

今回は原田少将以下の歴戦中の歴戦、超が付くほどのエースパイロット達が軒並み夜間攻撃を行ったことで戦闘機隊にしろ流星隊にしろ、攻撃隊に居ない。

 

他の者達も十分に腕が立つが、それでも実戦が初めてという搭乗員も少なくない。

沖縄奪還が俺の初陣だったが、まさかここまで長生き出来るとは思っていなかった。

 

それも提督のお陰だろう。

着任当初は自軍の状況から損害が拡大することもままあったが、今では損害を徹底的に少なくしつつ敵に大損害を与えるという人だからこちらの損害は戦いを経ていく度に少なくなっていく。

 

撃墜されて海面に胴体着陸をしても機体後部に小型ゴムボートや非常食などが載せられていて、潜水艦や水上機、陸地への不時着ならば陸軍特殊部隊が救助に来るまで持ち堪えられるようになっている。

それが意味するのは、ベテランや熟練搭乗員が数多く生き残って質が低下することを防いで尚且つ全体の攻撃能力の向上が図られる。

長い目で見ればそれがどれほど重要なことか分かるだろう。

 

特に深海棲艦との戦いは消耗戦である。

こちらの消耗を徹底的に抑えつつ、敵に出血を強要するのは当たり前の戦略だ。

 

 

 

提督を慕う者は陸海軍問わず多い。

なんせ性格が軍人に全く向いていないんじゃないか、というぐらい優しく、それ故に俺達が死ぬのを兎に角嫌がる。

軍隊の指揮官は、部下に作戦で死ねというのが本質であるが、それとは相反するように損耗を前提とした用兵は嫌われる。

 

その点、提督は一人でも多くの将兵が無事に生き残れるようにあらゆる手段を尽くしてくれる。

 

海戦が起こると分かっていたら付近には敵艦隊を追跡する潜水艦隊の他に搭乗員を救助するためだけにもう一個潜水艦隊を配備して、尚且つ飛行艇や水上機を待機させる。

攻撃隊に随伴する戦闘機の数は普通なら考えられないぐらい多いし、戦力分散を極力避けて一つ一つの攻撃隊を分厚くしてくれる。

その分、戦闘機隊が敵機を追い払ってくれるから、攻撃隊が敵機に追い掛けられずに済む。

 

ということは敵艦の対空砲や機銃にやられる以外での生存確率は飛躍的に上がる。

対空砲に撃墜されるか否かはかなり運の要素が強めだ。

 

ドイツからの技術には爆弾や魚雷を誘導するための技術があると、何処かの噂で聞いたことがあるがそれは運の要素を可能な限り低くする、もしくは排除するための装置とも解釈出来る。

 

そんなものが搭載されない機銃弾や対空砲弾は、命中するとかはやはり運による。

運が悪ければ対空砲弾が思いっ切り直撃することもあるし、運が良ければ当たらない、至近距離で爆発しても破片が飛んで機体にぶつかって音を立てる程度に留まる場合もある。

爆弾を落としたり魚雷を敵艦に叩き込むためには、今の段階では機体の進路を急激に変えることが出来ない。

極論を言ってしまえば直進することしか出来ない。

だからその直線状に対空砲や機銃を撃ち込めば、まぁどれかは当たるだろう、というのが今のやり方だ。

そりゃ当然運頼りになる。

 

そういった全てが絡んで戦場というのは構成されるが、提督はそれ以外の、我々の手で排除出来る損害の要素を出来る限り少なくしたりしてくれる。

兵士とて誰だって死にたくはない。

提督自身がどう思われているのかは推し量ることは出来ないが、それでも損害を減らす努力をして実際にその効果が表れているとなれば、誰だって慕いたくもなる。

 

しかも作戦上とか関係無く、気に掛けてくれる。

停泊中は許される限り妻帯者を優先して家に帰らせてくれるし半舷上陸なんかも多い。

そのくせして提督自身は、所謂ワーカーホリックだから困りものだ。

 

 

俺が結婚した時は提督から一升瓶が差し入れられ、短いながらも祝いの言葉を掛けられたのは記憶に強く残っている。

流石に下士官達にまで、とはいかないが普通に話し掛けたしているし、距離感は近い。

ただ、話し掛けられたりしても下士官や兵卒達は畏れ多くて固まる事が殆どだが。

 

食事も生来の気質故か、豪奢なものは好まない。

合戦飯は食べ易いし美味いしで大好物だ、と笑いながら語っていた。

確かに合戦飯で出される握り飯に味噌汁、沢庵の組み合わせは最強と言ってもいいだろう。

 

だが流石に三食レトルトや軍用缶詰はどうかと思う。

ちなみに俺の好きな合戦飯は、機上で食べる為に配給される巻き寿司である。

 

 

 

 

 

提督は威厳で引っ張る指揮官ではなく、人情や人望で引っ張るタイプの指揮官だろう。

 

威厳と言われても、艦娘の皆さんによく怒られているのを見るし、話しもやってくる。

今回は誰それに、これこれこう言う理由で怒られたらしい、だとか。

 

艦の上の娯楽は多くないから、噂話なんかは恰好の娯楽だ。

艦艇勤務をしていると分かるが、噂なんてのはすぐに広まる。

もっぱらの話題は次の作戦だとか、嫌いな上官や先輩の悪口、艦内酒保、そして提督のやらかしである。

以前提督が霧島さんに叱られているのを見たことがあるが、艦上で時に戦艦同士の砲撃戦を指揮するような勇ましい姿は何処へやら、小さくなっていた。

 

申し訳ないと思うが、すぐに我々の話のタネである。

 

 

 

 

 

 

空の上は、発動機の爆音以外は静かであり、これが爆弾を抱えた攻撃ではなく遊覧飛行であったならと思うばかりである。

断続的に敵艦隊へ接触して位置を知らせている偵察機の情報によれば、そろそろ敵艦隊へ到達する頃合いである。

 

「隊長、敵戦闘機を護衛戦闘機隊が見つけたと。数は約100機」

 

「すぐに迎撃に迎え。烈風の半分もいれば十分だろう」

 

「了解」

 

案の定、迎撃に上がってきた敵戦闘機が、と報告が入ってくる。

機数は100機ほどと少なく、すぐに戦闘機隊を向かわせて抑えにかかる。

 

150機の烈風で囲い込んで入れ替わり立ち代わり抑え、我々に手出しが出来ないようにしてやる。

攻撃隊は、全くの妨害を受けぬまま敵艦隊の上空へ到達。

 

雷撃組は高度を落とし、俺達降爆組は高度4500のまま進む。

まずは俺達降爆隊が敵艦に突っ込んで対空砲や機銃を沈黙させる。

そのあとに雷撃隊が一気に突っ込んで魚雷を叩きこむ算段だ。

 

 

所謂雷爆同時攻撃と言うやつだ。

周りで対空砲が炸裂し、黒煙を上げるが、流石にこの距離では捕まらない。

 

しかし、撃ち上げられる対空砲があまり濃密ではない。

何時もなら空一面が黒煙で覆われるぐらいなのに、今日は天と地の差がある。全くと言っていいほどだ。

敵戦艦や巡洋艦が撃ってくる対空射撃は、山が火を噴いているが如くの激しさだが今日は殆ど撃ち上げていない。

 

これは、夜間攻撃が余程上手いこと成功したに違いない。

初めて実戦で初めて取られた戦術と言うのもあって多分、連中も対策なんかは無かったのだろう。

銃座や砲座だけでなく、これはもしかすると電気系統なども破損している可能性があるな。

下手したら電探がぶっ壊れていてもおかしくはない。

 

よしんば対空射撃をしたところで、闇夜で対空砲や機銃を撃つだなんて寧ろ目立ってしょうがないから、的になるだけだろうし、そもそも夜の真っ暗で何も見えない海上の、しかもより暗い上空を飛ぶ飛行機を捉える方法なんて早々思い付きもしない。

電探があったところで、反応があった辺りに撃つしか無い訳だから、初めてやられた方としては全く驚き以外の何物でもなかったに違いない。

 

しかしこれで、随分とやり易くなったな。

大した妨害も無いなら、あとは俺達がしっかり仕事をして爆弾と魚雷を叩きこむだけだ。

 

機数は十分。

それぞれ、

 

飛龍隊、蒼龍隊

 

瑞鶴隊、隼鷹隊

 

飛鷹隊、天城隊

 

阿蘇隊、大鳳隊

 

信濃隊、鳳翔隊、大鷹隊

 

加賀隊、神鷹隊、千代田隊

 

に分けて1隻づつを狙う。

これで、上手くいけば7隻の撃沈波を望める。

こんな采配が出来るのも、機数が多いから可能なことだ。

 

「矢田、司令部に打電は終えたな?」

 

「とっくに」

 

「ト連送!」

 

「了ッ!」

 

それを合図に、すべての流星が敵空母に目掛けて次々と突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

攻撃を終えた後には、甲板から黒煙と炎を噴き上げ洋上を漂うばかりの敵空母の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー--- side out ー---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一波攻撃隊から電文が飛んでくる。

 

『我敵空母7隻ヲ攻撃ス。4隻撃沈確実、3隻撃破。航空機ノ発艦不可能ナリ。0530』

 

『敵戦艦、敵巡ノ対空射撃脆弱、脅威ナラズ。敵駆逐艦ノ対空射撃ハ未ダ脅威ニツキ警戒サレタシ。0535』

 

『被弾撃墜機、敵機ニヨルモノ無シ。敵戦闘機ハ壊滅ナレド、未ダ敵艦隊上空ニアリ。敵対空射撃ニヨリ28機撃墜破。内11機ハ不時着水、地点敵艦隊ヨリ40~80kmニ分散、至急救助求ム。0551』

 

たっぷり30分以上に渡っての攻撃で、見事空母を7隻やってくれたらしい。

戦果には誇張拡大が含まれることもあるから、全てを信じることは出来ないが、それを差っ引いたとしても大戦果には間違いない。

 

 

しかし敵もタダではやられない。

次は此方が攻撃を受ける番である。

 

「秋月より入電!『対空電探ニ感アリ。敵機大編隊接近中、約300〜350機!方位北東060、距離250km!』以上です!」

 

艦内無線により、敵機接近の報告が次々と上がって来る。

時間的に、我々の攻撃隊が発艦した少し後に敵攻撃隊が発艦したのだろう。

規模はかなりのもので、無傷で切り抜けるのはまず無理だろう。

 

「直掩隊を全て上げる、発艦急げ」

 

命令を下すと、ものの10分で烈風、流星が発艦を終えた。

 

「直掩隊には敵機の状況によっては流星隊は迎撃に加わらず退避せよ、と伝えろ。無駄死はさせるな」

 

「はっ」

 

「鳳翔、大鷹、神鷹、千代田を艦隊から分離、後方へ下げる。我々に損害が出たら着艦はそちらに、いざとなったら機体は捨てて構わん。搭乗員さえ収容出来ればよい」

 

「はっ」

 

鳳翔達に駆逐艦12隻を付けて後方へ。

恐らくは二波に渡って全力で攻撃を仕掛けてくるだろう。

 

敵の第一波が到達するまでは30〜40分はある、迎撃をして、艦隊が準備を整えるのには十分な時間だ。

 

「全艦対空戦闘用意。訓練を思い出せ、全機を叩き落とす勢いでやるんだ」

 

下令されると、弾薬を運んだり機銃の動作を確認したりと艦上は慌ただしくなる。

 

「全艦対空戦闘用意終わり!」

 

「宜しい」

 

すると、艦全体が戦闘を前にして静かになる。

誰だって、死ぬかもしれない戦闘を前にしたら緊張するのは当たり前だ。

艦橋にはこの戦いが初陣の新兵が十数人いるが、皆緊張しすぎて顔が引き攣っている。

落ち着きがなく、キョロキョロと首を回しているが仕方が無い。

 

「大丈夫、格納庫は空っぽだよ。爆弾の1発や2発食らってもへっちゃらへっちゃら」

 

それを見かねた飛龍が明るく言う。

艦そのものである飛龍が言って、幾らか緊張が解れたらしい。

 

「直掩隊、敵機と戦闘開始。敵戦闘機約120機」

 

「機数では若干負けているか……」

 

「電探によると、流星隊は回り込んで烈風が引き付けている間に敵攻撃隊を叩く算段のようです」

 

「直掩隊からしたら、並の連中じゃ敵わない。上手いこといけば敵戦闘機は全て引き付けられるか」

 

烈風隊に遅れること10分、流星隊が迎撃戦闘を開始した。

やはり戦闘機隊に引き付けられ丸腰だったらしい、敵戦闘機の妨害も何も無く敵機を攻撃しているようだ。

 

上方から攻撃すると、自衛用の旋回機銃に捕まってしまうから下方からの攻撃に専念している。

翼内20mm機銃と後部の13mm機銃で次々と攻撃されては、防御力が高い深海棲艦機と言えど撃墜は免れない。

しかしだからと言って、全機を落とすことは叶わない。

 

『敵降爆約70、雷撃機90機が迎撃を抜けた!』

 

流星隊からの報告で、160機が迎撃を潜り抜けたことが知らされる。

 

「全戦艦、三式弾射撃用意。距離300(30000m)で別命無しで各艦一斉射。重巡は距離200(20000m)で一斉射。軽巡、駆逐艦は射程に入り次第射撃開始。訓練を思い出せ。敵機に狙われた艦は個艦での回避を許可する」

 

敵編隊との距離が300になった時、一斉に戦艦の主砲が咆える。

艦隊中に大音量の砲声が響き渡り、そして大気が震える。

 

「流石に18隻の戦艦が一斉に撃つと、凄まじいな……」

 

砲撃を行った爆圧で、海が凹む。

艦が海上を進む白波とは違う波が立ち、彼方此方へ波及していくのが分かる。

 

双眼鏡などで戦艦の砲撃を覗くなとよく言われるが、その通りだろう。

あんなもの覗いていたら目が潰れる。

 

それに続いて重巡達が一斉射を行う。

重巡は装填速度が速いから、二度の斉射を行う予定だ。

 

「戦艦主砲弾、弾着5秒前。4、3、2、1、今っ」

 

弾着を知らせる声を前に、双眼鏡を覗くと敵編隊の少し前方で派手な爆炎が幾つも炸裂する。

パッと見た感じ、先頭集団の敵機が十数機ほど落ちるか、速度を落として落伍していくのが分かる。

 

「報告、撃墜破19!以上です!」

 

「炸裂するのが少し手前でしたな」

 

「次、弾着5秒前。4、3、2、1、今」

 

双眼鏡を再び覗くと、今度は丁度敵編隊の中で炸裂する。

 

「報告、敵機撃墜破約20!以上です!」

 

どうやら合計で約40機程度の敵機を撃墜破出来たらしい。

それでも依然として約120機ほどの敵機が艦隊に向けて直進してくる。

 

「艦隊外縁、駆逐艦の主砲の射程に入りました、射撃開始しています!」

 

駆逐艦が主砲として搭載しているのは長10cm高角砲を対地対艦対空の汎用化した長10cm砲二型である。

これは防盾付きとして各戦艦から空母、巡洋艦に至るまで対空砲として搭載されている。

 

次々と撃ち出される砲弾は、敵機の侵入方向に対して黒煙で出迎える。

照準装置や測距装置を新型のに換装して色々と銃架を改造したりとかなりの改造を施されているから命中率も向上している。

 

艦隊に近づくにつれて、駆逐艦だけでなく巡洋艦や戦艦、空母の対空砲までもが火を噴く。

 

絶え間無い砲声が次々と聞こえる。

砲弾が直撃して爆散する敵機、破片を食らってフラフラと海面に突っ込む機もあれば爆弾を途中で投棄して引き返す敵機もいる。

 

それでも敵機の数は多く、100機は突っ込んできている。

 

「機銃、射撃開始!」

 

艦隊により近づくと次は機銃の濃密な弾幕が敵機編隊を出迎える。

40mm、37mm、25mm、20mmの4種類の機銃弾が恐ろしい投射速度でもって撃たれ、空一面を赤い火箭が覆う。

撃墜報告が上がってくるが、空母目掛けて突っ込んでくる敵機は80機を超える。

 

「敵雷撃機40、右舷より急速接近!」

 

「敵降爆30が右舷前方より接近!」

 

敵機に対する報告が次々と上がってくる。

 

「空母の直上に対して射撃!撃墜でなくとも言い、降爆を妨害しろ」

 

「敵機、信濃と大鳳に突っ込む!」

 

「狙いはやはりあの2隻か」

 

「はい、どうしても巨艦であり、甲板の色が別物なので目立ちますから集中されるのでしょう」

 

「それに、兵力不足なので集中攻撃を加える算段なのでしょう」

 

信濃と大鳳はその巨大さと、飛行甲板の色が他の空母とは装甲を施しているとあって違うために目立つ。

だから敵機の攻撃を受けるとなると、どうしてもあの2隻が最初に集中攻撃を受けることになる。

だがそれは大きな誤りだ。

 

あの2隻は空母の中でもずば抜けた防御力を誇る。

飛行甲板は50番徹甲爆弾でも貫通出来ないし、水中防御も魚雷を1本や2本食らったからと言って簡単には沈まない。

 

信濃はより堅牢だ。

大和型戦艦の艦体を流用したから水中防御は大和型戦艦譲りのもので、普通の大型艦でも5本も食らえば確実に撃沈されるであろう、魚雷もその倍は持ち堪える。

流石に速度低下や戦闘続行不可能には陥るだろうが、沈みはしない。

飛行甲板も80番徹甲爆弾を持ってこなければ貫通は出来ない。

 

元々、信濃と大鳳は艦隊の盾としての役割も担っているから当然と言えば当然だが、心苦しいものがある。

次に狙われるのは、加賀や瑞鶴、そして艦隊旗艦である飛龍だ。

 

「信濃、大鳳に対して援護射撃。撃墜は出来なくとも進路の妨害で投弾をしくじらせれればいい」

 

2隻を狙う降爆機や雷撃機に対して、物凄い勢いの弾幕が張られる。

それに絡め取られて更に20機ほどの敵機が撃墜されるか、攻撃を諦める。

しかしそれでも60機が2隻に向かって突っ込んでいく。

 

「敵降爆急降下!」

 

「敵雷撃機、射点に付いた!」

 

信濃が取り舵、大鳳が面舵を取ってそれぞれ回避にをすると無線が入る。

とは言え、あれだけの巨艦が進路を変えるのにはそれなりに時間が掛かる。

 

「大鳳被弾!」

 

ゆっくりと舵が聞き始め、艦首がぶれ始めたとき、敵の爆弾が2発、大鳳の飛行甲板に突き刺さる。

しかし装甲で弾いたらしく、全くの無傷であると報告が帰ってくる。

 

徐々に舵が利き始めると、右へ左へと2隻は避けていく。

あの2隻にはこうなることを予想して、手練れの操舵員を配置している。

そう簡単に食らったりはしまい。

 

「敵雷撃機投弾!」

 

ついに敵雷撃機が魚雷を投下する。

 

しかし30ノットを超える高速で疾走する空母を捉えるのは至難の業だ。

 

見守っていると、最初に大鳳の左舷に1本、遅れて信濃の左舷に1本の大きな水柱が聳え立つ。

 

「大鳳、信濃被雷!」

 

それでも速力を僅かに落とした程度で2隻は疾走する。

 

しかし敵機の攻撃は続く。

 

逆落としで敵機は急降下を仕掛け、大鳳に4回、信濃に5回続けざまに飛行甲板に爆弾が直撃して炸裂する。

 

それでも飛行甲板に穴が開くことは無く、多少火の手が上がった程度で留まる。

 

「流石ですな、全て弾き返している」

 

「あぁ、あの装甲が空母全部にあったら、と思うが無理な話だ」

 

「ですな」

 

何時もならば真っ先に狙われるであろう、飛龍が全く狙われておらず緊張感はあるが、それでも心に余裕がある。

 

「他艦に向かう敵機はあるか?」

 

「今のところ認められません。大鳳と信濃だけがお祭り騒ぎです」

 

「分かった。くれぐれも警戒を怠らぬようにな。奇襲を食らって大損害、だなんてことは絶対にあってはならないぞ」

 

「了解です」

 

2隻を見てみると、再び爆弾を数発食らっているようだが、依然として健在だ。

 

「敵機全機投弾終わり、帰投していきます」

 

「対空対潜警戒厳、被害集計急げ」

 

「対空対潜警戒厳、被害集計急ぎます」

 

10分もすると、攻撃を受けた2隻から報告が来る。

 

「大鳳より入電。『我大鳳、爆弾10、魚雷2ヲ食ラウモ損害軽微。空中線、制動柵切レルモ復旧ノ見込ミアリ。浸水軽微、速力29ノット発揮可能』以上です」

 

「信濃より入電。『我信濃、爆弾13、魚雷1直撃ナレド戦闘行動支障無シ。速力30ノット発揮可能。ナレド速力上ゲレバ装甲捲レル可能性アリニ付キ25ノットニ制限ス』以上です」

 

「かなり損害が少ないな」

 

「流石に無傷とはいきませんが、どうやら爆弾は装甲甲板で弾き返すので食らって元々、魚雷の回避だけに専念したようです」

 

「現状なら敵急降下爆撃の爆弾ぐらいなら余裕で弾き返せる。それよりも遥かに脅威度が高い魚雷を避けるに専念するのは賢明な判断だろう」

 

信濃と大鳳が被害を受けただけで、それ以外の艦は一切の無傷であった。

 

「提督、報告宜しいでしょうか」

 

「どうした?」

 

「第二波攻撃隊からの戦果報告です」

 

「報告してくれ」

 

「はっ。『我敵空母4、軽母2ヲ攻撃ス。空母3撃沈確実、軽母2撃沈確実。未ダ敵空母2撃沈ナラズ。ナレド戦闘不能確実。残ルハ敵戦艦ノミ也。再攻撃ノ要ヲ認ム』以上です」

 

「よし、時間の余裕も十分にある。攻撃隊を収容したならば、即座に再出撃を行い敵戦艦を徹底的に叩く。上陸部隊や船団に手出しされては敵わんからな」

 

「了解しました」

 

3時間後、全攻撃隊機を収容し終え、再武装と修理整備を行った後に第二次攻撃隊が1時間後に再出撃。

敵戦闘機の迎撃も無く、対空砲の妨害も大したものでは無かった攻撃隊は、雷撃機中心の編成により、敵戦艦9隻を徹底的に叩き潰した。

 

第一次攻撃隊で損傷したり、撃墜された流星は40機程度であり、350機にもなる流星の波状攻撃からは、直掩機も対空砲火も無い敵艦隊への攻撃は簡単なものだった。

全ての戦艦に魚雷を4本叩き込み、撃沈確実6隻、残る3隻もまともな戦闘能力は無く、それどころか、周囲の敵巡洋艦や駆逐艦にも甚大な被害を被った敵艦隊は早々に撤退を始めた。

 

敵艦隊の完全な撤退を潜水艦隊の追跡により確認した我々は、機動艦隊と護衛艦隊に分かれて陸軍部隊を迎えに向かうことになった。

 

既に上陸している師団は内陸部20kmほどにまで敵を押し込み、目的である橋頭保を確保していた。

あとは増援を待って内陸部へ更に進撃し、飛行場を奪って陸軍飛行戦隊を進められれば初期の目標を達成出来る。

 

 

第一段階が完了すれば、取り合えず一息つくことが出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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